説明

熱可塑性樹脂成形品

【課題】
熱伝導率が高く、かつ成型性のよい樹脂成形品を提供する。
【解決手段】
分散相の熱可塑性樹脂が、最大径50μm〜300μmの島状ドメイン、最大径20μm以下の島状ドメインを有し、これらのドメインの比率が50μm〜300μmの島状ドメインが35体積%〜60体積%,20μm以下の島状ドメインが60体積%〜35体積%存在する熱可塑性樹脂成形品にある。特に、マトリクス相と分散相との比率は、マトリックス相の熱可塑性樹脂が40vol%〜70vol%、分散相の熱可塑性樹脂が60vol%〜30vol%であることがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂熱伝導率と機械特性を両立した熱可塑性樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種電気・電子機器の高性能化・小型軽量化に伴い、実装部品あるいは周囲部品の発熱により機器が高温状態にさらされる。熱による各種部材の劣化,実装部品の機能低下を抑制するため、樹脂成形品の耐熱性を高める検討がなされている。これまでに、耐熱性の優れた熱可塑性樹脂に高熱伝導無機物を高充填化させ、耐熱性の高い樹脂成形品を提供することが知られている。しかし、このような樹脂成形品は、脆く、機械特性が低下したり、流動性が極度に低下して成形が不可能になる問題があった。
【0003】
特開平8−170024号公報(特許文献1)では、熱可塑性樹脂(A)と液晶性樹脂(B)を、液晶性樹脂(B)が熱可塑性樹脂(A)のマトリックス相に特定状態で分散させた組成物を用いることで、機械的特性の優れた射出成形品が得られることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−170024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂成形品の放熱性を高めるため無機物を高充填すると、熱伝導性が向上するものの、溶融粘度が大きくなり成形性が悪くなったり、機械特性が低下するという問題がある。本願発明の目的は、上記相反する課題である高熱伝導率の達成と、高い機械特性とを両立した熱可塑性樹脂の成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、基質相(マトリックス相)を構成する熱可塑性樹脂、島状の分散相(ドメイン)を構成する熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂の成形品である。本願発明者らは、ドメインの大きさ,比率を調整することにより、熱伝導率と機械特性を両立しうる成形品が得られることを見出した。本発明の特徴点は、分散相の熱可塑性樹脂が、50μm〜300μmの島状ドメイン、20μm以下の島状ドメインの二種類の大きさのドメインを有し、50μm〜300μmの島状ドメインが35体積%〜60体積%、20μm以下の島状ドメインが60体積%〜35体積%存在する熱可塑性樹脂成形品にある。特に、マトリクス相と分散相との比率は、マトリックス相の熱可塑性樹脂が40vol%〜70vol%、分散相の熱可塑性樹脂が60vol%〜30vol%であることがよい。
【0007】
分散相に液晶性樹脂(LCP),ポリアミド樹脂(PA),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリカーボネート(PC)のいずれか又は二種類以上を用いると、さらに耐熱性が向上し好ましい。マトリックス相の熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイドが好ましい。
【0008】
また、上記課題を解決する他の本発明は、マトリックス相を構成する熱可塑性樹脂に、分散相を構成する熱可塑性樹脂を混合し、ポリマーアロイ化する工程を有する、熱可塑性樹脂成形品の製造方法にある。熱可塑性樹脂には、無機充填材を混合してもよく、ガラスファイバ,窒化ホウ素,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム等は、混練,成形時の加工性がよいので好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い熱伝導率と機械特性のよさとを両立した熱可塑性樹脂成形品を提供することができ、放熱性が必要な電気・電子関連機器に好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明者らは、大きいドメインと、小さいドメインとが共存する状態にすることにより、曲げ強度を維持したまま熱伝導率を向上させることができると考えた。そのためには、ドメインの分散を広くすることが簡便である。ドメインの大きさは、マトリクスとなる樹脂とドメインとなる樹脂の相性や、粘度の差によって異なる。そのため、分子量分布の大きい樹脂を混合したり、ドメインとなる樹脂として複数種類の樹脂を混合することにより、ドメインの大きさの分散を広くすることが可能となる。
【0011】
本発明は、少なくともマトリックス相を構成する熱可塑性樹脂(A)と分散相を構成する熱可塑性樹脂(B)の二種類の樹脂を含む熱可塑性樹脂成形品であり、分散相のうち、50μm〜300μmの島状ドメインが30体積%〜70体積%、20μm以下の島状ドメインが70体積%〜30体積%存在する。熱可塑性樹脂AとBとの比率は、A:B=40〜70vol%:60〜30vol%である。熱可塑性樹脂Aは、溶融温度(融点)280℃以上の高耐熱性を有する樹脂がよく、ポリフェニレンサルファイドが好適である。熱可塑性樹脂Bは、液晶性樹脂や、ポリアミド樹脂,ポリブチレンテレフタレート,ポリカーボネートがよい。なお、液晶性樹脂とは、溶融状態で樹脂化合物の少なくとも一部が規則的に配列する性質を有する樹脂の総称である。熱可塑性樹脂Bとして、溶融温度の異なる樹脂化合物を二種類以上用いると、大きさの異なるドメインを得ることが容易である。その場合、溶融温度は、20℃以上異なることが好ましい。
【0012】
上記のような樹脂を用いると、成形後の耐熱性に比して、成形時に樹脂組成物が低融点であるので、形状の自由度が高く、また欠陥が少ない。従ってこのような樹脂成形品は高い熱伝導率と曲げ強度の両立ができ、高い放熱性と機械特性が両立できる。また、優れた成形性を有する。
【0013】
また、本発明の熱可塑性樹脂成形品には、樹脂中に無機充填材(C)を混合してもよい。無機充填材Cとしては、ガラスファイバ,窒化ホウ素,炭酸カルシウム,酸化マグネシウムが例示される。これらは目的に応じ複数種類を混合して用いることができる。本発明の樹脂組成物は、無機充填材Cの混練時に粘度が低いので、無機充填材が均一に分散され、熱伝導性,機械強度が全体的に均一な成形品が得られる。
【0014】
このような樹脂成形品は、放熱性と強靭性が必要な電気・電子関連機器,自動車部品等の筐体をはじめ、多くの分野に適する。特に金属製,セラミックス製等のものと比較して形状選択性があるので好ましい。また、成形性の目安である300℃(成形温度)での溶融粘度が低い。従って射出成形が可能であるため生産性に優れ、さらに用途を拡大できる。
【0015】
以下、本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。
【0016】
マトリックス相の熱可塑性樹脂(A),分散相の熱可塑性樹脂(B)としては、熱可塑性樹脂として特に制限されず公知のもの何れも使用が出来、例えば、ポリフェニレンサルファイド,ポリフェニレンサルファイドスルフォン,ポリフェニレンサルファイドケトン,ポリアリレーンサルファイド,ポリケトン系樹脂,ポリエーテルニトリル,ポリベンゾイミダゾール,ポリエーテルサルフォン,ポリサルフォン,熱可塑性ポリイミド,ポリエーテルイミド,ポリアリレート,ポリフェニレンエーテル,ポリアミドイミド,ポリアロマテック樹脂,液晶性樹脂等を挙げられる。これらの中でも、特にポリフェニレンサルファイドが好ましい。これらを二種類以上混ぜ合わせ使用することも可能である。
【0017】
無機充填材(C)としては、公知のものを適宜使用でき、例えば、ガラスビーズ,ガラス粉,ガラスファイバ,窒化ホウ素,珪酸カルシウム,カオリン,タルク,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム等を挙げられる。これらを二種類以上混ぜ合わせ使用することも可能である。
【0018】
これらの無機充填材の使用にあたっては必要ならば表面処理剤を使用することが可能である。表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物,イソシアネート系化合物,シラン系化合物,チタネート系化合物等の官能性化合物である。これらの化合物は予め表面処理を施して用いるのが好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂成形品には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤,熱安定剤,耐候剤,離型剤,滑剤,結晶核剤,流動化剤,染料等を使用することが出来る。また、機械特性,熱伝導率等を向上させるため、無機充填材以外に有機繊維を加えることも可能である。例えば、ポリベンザゾール繊維,ポリイミド繊維等が考えられる。
【0020】
また、分散相(B)において50μm〜300μmのドメインが30体積%〜70体積%,20μmの島状ドメインが70体積%〜30体積%含有すことにより優れた特性を有する熱可塑性成形品が得られる。更に、マトリックス相の熱可塑性樹脂(A)40vol%〜70vol%に対して分散相の熱可塑性樹脂(B)70vol%〜30vol%の範囲が可能であるが、好ましくはマトリックス相の熱可塑性樹脂(A)50vol%〜70vol%に対して分散相の熱可塑性樹脂(B)50vol%〜30vol%の範囲である。
【0021】
小さいドメインが多いと、曲げ強度が向上するものの、熱伝導率が高くなりにくい。一方、大きいドメインが多いと、熱伝導率が高いものの、曲げ強度が低下する問題がある。樹脂の組成と成分比率、成形条件を調整することにより、小さいドメイン,大きいドメインを並存させて樹脂中に分散させることができる。たとえば、マトリクスを形成する樹脂の粘度と、ドメインを形成する樹脂の粘度が近いと、細かいドメインが形成される。大きく異なる粘度を有する場合には、ドメインの大きさは大きくなる。従って、同じ構造を有する樹脂をドメインとする場合は、分子量の大きいものと小さいものが混合された樹脂を用いることにより容易に本発明の成形体を得ることが可能である。
【0022】
また、マトリクスを形成する樹脂と、ドメインを形成する樹脂の側鎖や官能基等の構造の相性によっても、ドメインの大きさは異なる。従って、複数種類のドメインとなる樹脂を混合すると、容易に大きさの異なるドメインの成形体を得ることが可能となる。
【0023】
本発明で得られた熱可塑性成形品は、例えば、熱交換機,熱放熱板,光ピックアップ等といった内部で発生した熱を外部に放熱する部品に適している。また、それ以外にもLED,センサー,コネクター,ソケット,端子台,モータ部品,ECUケース等の電気・電子部品,照明部品,プリンター関連部品,ファクシミリ関連部品,プロジェクター関連部品,ヒーター,エアコン用部品等の家庭・事務電気製品部品等に用いることが出来る。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
まず、各実施例,比較例の樹脂成形品の製造方法を説明する。
【0026】
(実施例1)
PPSに高熱伝導を有した無機フィラを充填させるためには、樹脂の粘度を下げる必要があった。低粘度化させるには、融点が低く、PPSに含まれる硫黄と相性のよいポリアミドを混合することとした。ポリアミドとPPSを混合することによりドメインを形成し、ポリアミドの分子量分布により大きさの異なるドメインが形成するものと予想した。
【0027】
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)とを7:3の体積比で混合し、樹脂組成物を得た。樹脂混合物を二軸押出機を用いて、樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機を用いて、成形温度290℃で射出成形し成形品を得た。成形条件は、射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0028】
実施例1の熱可塑性成形品について、当初推定した断面イメージ図を図2−1に示す。一方、電子顕微鏡(SEM)で実際に観察した成形品の断面写真を図2−2に示す。
【0029】
(実施例2)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)樹脂と分散相の液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを7:3の体積比で混合し、樹脂混合物とした。樹脂組成物を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0030】
(実施例3)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)及び液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを、5:2:3の混合比で樹脂組成物とした。樹脂組成物を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0031】
(実施例4)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相の液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)と液晶性樹脂(住友化学製:E6008L)とを、5:3:2の体積比で混合し樹脂組成物とした。樹脂混合物を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0032】
(実施例5)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相のポリブチレンテレフタレート(東レ製:A60823)及び液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを、5:2:3の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0033】
(実施例6)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)樹脂と分散相の液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを7:3の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と樹脂量に対して40vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工:SGP)とを二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0034】
(実施例7)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)及び液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを5:2:3の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と、樹脂量に対して40vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製,HGPE)を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0035】
(実施例8)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相の液晶性樹脂(上野製薬:5540G)と液晶性樹脂(住友化学製:E6008L)とを5:3:2の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と樹脂量に対して40vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE)を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0036】
(実施例9)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相のポリブチレンテレフタレート(東レ製:A60823)及び液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを5:2:3の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と樹脂量に対して40vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:SGP)を二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0037】
(実施例10)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)及び液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを、5:2:3の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE)を樹脂量に対して30vol%,酸化マグネシウムを樹脂量に対して20vol%を、二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0038】
(実施例11)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相の液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)と液晶性樹脂(住友化学製:E6008L)とを、5:3:2の体積比で混合し、樹脂組成物とした。樹脂混合物と無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE) を樹脂量に対して30vol%,炭酸カルシウムを樹脂量に対して20vol%とを二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、実施例1と同様に成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:3.5(m/分)である。
【0039】
(実施例12)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66:A1030BRL)とを、7:3の体積比で混合し、混合物とポリブチレンテレフタレート(PBO)繊維(東洋紡)5vol%,樹脂量に対して30vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE)を二軸押出機にて樹脂温度290〜300℃で混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、成形温度290℃,射出圧力:1200(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。
【0040】
(比較例1)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)とを、9:1の体積比で混合し、混合物を二軸押出機にて樹脂温度290〜300℃で混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、成形温度290℃,射出圧力:300(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。
【0041】
比較例1には、ガラスファイバーが混合され、樹脂粘度を高くしたPPS樹脂をマトリクスに用いた。比較例1の熱可塑性成形品について、当初推定した複合樹脂の断面イメージ図を図3−1に示す。一方、電子顕微鏡(SEM)で実際に観察した成形品の断面写真を図3−2に示す。ドメインが非常に大きくなり(300μm以上)、20μm以下の小さいドメインが含まれていない。マトリクスの樹脂とドメインの樹脂の粘度が大きく異なるので、ドメインとなる樹脂は均一分散しにくく、層状に近い状態になった。その結果、樹脂の熱伝導率は低下すると考えられる。また、混合した樹脂が層状になると、複合樹脂の曲げ強度は極端に低下した。このようなドメインは、混合する樹脂の粘度に極端に差がある場合や、樹脂同士の親和性がない場合に生じた。
【0042】
(比較例2)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相の液晶性樹脂(上野製薬製:5540G)とを、9:1の体積比で混合し、樹脂混合物を二軸押出機にて樹脂温度300℃〜320℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、成形温度320℃,射出圧力:300(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。比較例2の複合樹脂は、小さいドメインが多くなり、熱伝導率が低下していた。
【0043】
(比較例3)
マトリックス相のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:A900)と分散相のポリアミド樹脂(ユニチカ製:ナイロン66,A1030BRL)とを、9:1の体積比で混合し、混合物と樹脂量に対して30vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:SGP)40vol%とを二軸押出機にて樹脂温度290〜300℃で混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は、成形温度290℃,射出圧力:700(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。比較例3の複合樹脂は、小さいドメインが少なく、熱伝導率,曲げ強度とも低下していた。
【0044】
(比較例4)
ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と、樹脂量に対して30vol%の無機充填材の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE)40vol%とを、二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は比較例3と同様に、成形温度290℃,射出圧力:700(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。
【0045】
(比較例5)
ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)(東レ製:503F)と、無機充填材として樹脂量に対して30vol%の窒化ホウ素(昭和電工製:HGPE),樹脂量に対して20vol%の炭酸カルシウムを、二軸押出機にて樹脂温度270〜290℃で溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを射出成形機にて射出成形し、成形品を得た。成形条件は比較例3と同様に、成形温度290℃,射出圧力:700(kg/cm2),射出速度:6.5(m/分)である。
【0046】
上記の実施例/比較例の熱可塑性成形品の評価方法などは以下の通りである。
【0047】
(1)樹脂の溶融粘度:島津製作所製フローテスタCFT−500A型を用いて、300℃で加熱溶融されたサンプル樹脂を20kgfの加重下で、内径:2mm,長さ:10mmのノズルから押した際の溶融粘度を測定した。
【0048】
(2)熱伝導率:熱可塑性成形品から約13mm×2mmの大きさを切り出したサンプルを用い、専用ラボラホルダに数個セットし熱拡散測定(Xeフラッシュ)法で熱拡散率を測定し、樹脂密度,樹脂比熱の関係から熱伝導率を求めた(熱伝導率=樹脂比熱×樹脂密度×熱拡散率)。
【0049】
(3)曲げ強度:熱可塑性成形品から約100mm×10mm×2mmの大きさを切り出したサンプルを用いて、島津製作所製引張り試験機DSS−5000型でJIS−7171に準じて室温(22℃)での三点曲げ強度を測定した(曲げ強度=(3×破断荷重×スパン間距離)/(2×幅×(厚さ)2))。
【0050】
(4)体積抵抗率:熱可塑性成形品から約100mm×100mm×2mmの大きさを切り出したサンプルにJISK6911に従い表面及び裏面に電極を形成した後、(株)アドバンテスト社製デジタル超高抵抗/微小電流計R8340型で、500Vの電圧を1分間充電し体積抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。
【0051】
(5)島状ドメインの大きさ,比率:熱可塑性成形品の断面を電子顕微鏡により観察し、島状ドメインの大きさと面積を測定した。ドメインの大きさは、断面に現れた各ドメインの最大径を測定した。測定した各ドメインを、20μm以下,20〜50μm,50〜300μm,300μm以上に分けた。また、面積比率をドメインの体積比率として把握した。各成形品に対し、20μm以下の島状ドメインの体積と、50〜300μmのドメインの体積の合計のうち、20μm以下のドメインが占める割合を算出した。20μm以下のドメインの合計面積と、50〜300μmのドメインの合計面積を100%とし、20μm以下のドメインの面積比率をX、50〜300μmのドメインの面積比率をYとした。また、X,Yに含まれないドメイン量を測定した。全ドメインの合計面積のうち、20〜50μm,300μm以上のドメインの面積比率をZとした。
【0052】
(6)融点温度:示差熱量測定で熱天秤により昇温速度:10℃/分,雰囲気:200ml/分の条件で、吸熱量を測定し、吸熱ピーク温度を融点温度とした。
【0053】
各実施例,比較例で得た成形品の300℃での溶融粘度,熱伝導率,曲げ強度,体積抵抗率,島状ドメインの大きさと、大きさ毎の比率を測定した。また、上記ペレットの300℃での溶融粘度についても測定した。
【0054】
上記実施例1ないし12、比較例1ないし5の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
図1は、熱可塑性樹脂成形品のドメインの大きさの傾向と、熱伝導率の関係を示す図である。図1には、複合樹脂の熱伝導率,曲げ強度の関係を示した。各複合樹脂について、熱伝導率と小さいドメインの占める割合との関連を検討すると、30〜70体積%の場合が好ましく、大きいドメインが多い場合は、曲げ強度が低下し熱伝導率の向上が図れる。これに対して、小さいドメインが多い場合は、曲げ強度は高い値を示す半面、熱伝導率が低下している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】熱可塑性樹脂成形品のドメイン比率と曲げ強度及び熱伝導率の関係を示す図である。
【図2】実施例1の熱可塑性成形品について、当初推定した断面イメージ図(2−1)、及び電子顕微鏡(SEM)で観察した断面写真図(2−2)である。
【図3】比較例1の熱可塑性成形品について、当初推定したイメージ図(3−1)及びSEMで観察した断面写真図(3−2)である。
【符号の説明】
【0058】
1 ドメイン
2 マトリクス相の熱可塑性樹脂
3 ガラス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二種類の熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂がマトリクス相を形成する熱可塑性樹脂と、島状ドメインの分散相を形成する熱可塑性樹脂に分離している熱可塑性樹脂成形品であって、
前記分散相の熱可塑性樹脂は、20μm以下の島状ドメインと、50μm〜300μmの島状ドメインとを含み、20μm以下の島状ドメインと、50μm〜300μmの島状ドメインとの合計体積量のうち、50μm〜300μmの島状ドメインが30体積%〜70体積%であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記熱可塑性樹脂中の前記マトリクス相が40vol%〜70vol%、前記分散層が60vol%〜30vol%であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1または2に記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記マトリックス相を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度が280℃以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記マトリックス相を形成する熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記分散相を形成する熱可塑性樹脂は、液晶性樹脂,ポリアミド樹脂,ポリブチレンテレフタレート,ポリカーボネートのいずれか、または複数であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記分散相を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度と、前記マトリックス相を形成する熱可塑性樹脂の溶融温度が20℃以上異なることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
無機充填材が混合されていることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項8】
請求項7に記載された熱可塑性樹脂成形品であって、
前記無機充填材がガラスファイバ,窒化ホウ素,炭酸カルシウム,酸化マグネシウムのいずれかを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−155359(P2009−155359A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331318(P2007−331318)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】