説明

熱可塑性樹脂水性分散液

【課題】得られるアニオン性や両性の高分子乳化剤の放置安定性や造膜性を良好とすることを目的とする。
【解決手段】高分子乳化剤を用いて、熱可塑性樹脂を水中に分散させてなる熱可塑性樹脂分散液であって、その分散粒子径が0.01〜2μmであり、かつ、上記高分子乳化剤が、アニオン性基を有する高分子を沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質で中和して得られた水性分散液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、造膜性や放置安定性に優れた熱可塑性樹脂水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汎用性、強度、物性、成形のし易さ、耐溶剤性、外観等の観点から、熱可塑性樹脂、中でもポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が、日用品、自動車用部品、建材等に使用されている。
【0003】
それらのポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂自体の極性の低さから、接着が困難であった。そのため、これらのポリオレフィン系樹脂の接着には、塩素化ポリプロピレン等の接着付与成分を、有機溶剤に溶解させて用いる必要があった。
【0004】
しかし、近年、環境保全および安全衛生のため、塗料の無溶剤化が強く要望されており、従来の溶剤型塗料の水系化が行なわれつつある(特許文献1、特許文献2参照)。また、塩素化ポリオレフィン系樹脂は、焼却廃棄時に、毒性の高いダイオキシンが発生するおそれがあるという指摘もあった。
【0005】
熱可塑性樹脂を水系化させる一般的な方法として、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合は、先ず、エチレン・酢酸ビニル共重合体を加熱溶融し、次いで、アニオン系やノニオン系の乳化剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加して、ホモミキサー等の機械剪断力を用いて乳化することにより得られる方法があげられる(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、上記のアニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いた場合、得られた製品の使用時において、ブリードアウトするおそれがある。これに対し、乳化安定性などを改良した特定のアクリル系共重合体の中和物を、アニオン系高分子乳化剤として用いるポリマー水性分散液の製造方法が知られている(特許文献4参照)。
【0007】
また、アクリル系共重合体の中和物アニオン性単量体と、カチオン性単量体とを含有する単量体混合物を重合して得られる両性の高分子乳化剤を用いる方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−336568号公報
【特許文献2】特開平11−106600号公報
【特許文献3】特開昭57−61035号公報
【特許文献4】特開昭58−127752号公報
【特許文献5】特開2008−24755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のようなアニオン性高分子乳化剤や両性高分子乳化剤は、塩基性化合物によって中和される場合がある。このとき、上記塩基性化合物としては、トリエタノールアミンや2−アミノメチルイソプロパノールのような高沸点のアミン類や、アンモニア、トリメチルアミン等の低沸点のアミン類があげられる。しかし、前者を用いた場合、これらの高分子乳化剤を用いて得られた熱可塑性樹脂エマルジョンの粒径が大きくなる傾向があり、このエマルジョンを保存した際、膜が張ったり、凝集物が発生する場合がある。また、後者を用いた場合、これらの高分子乳化剤を用いて得られた熱可塑性樹脂水性分散液の造膜性が不十分となる場合がある。
【0010】
そこで、この発明は、かかる問題点を解決し、アニオン性や両性の高分子乳化剤を用いた熱可塑性樹脂水性分散液の放置安定性や造膜性が良好とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、熱可塑性樹脂を、高分子乳化剤を用いて水中に分散させてなる熱可塑性樹脂分散液であって、その分散粒子径が0.01〜2μmであり、かつ、上記高分子乳化剤が、酸性基を有する高分子を沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質で中和して得ることにより、上記課題を解決したのである。
【0012】
また、下記の(1)、(2)の工程を順次経ることにより、高分子乳化剤を用いて、熱可塑性樹脂を水中に分散させて熱可塑性樹脂水性分散液を製造することができる。
(1)高分子乳化剤中の酸性基をアンモニア又は沸点60℃未満のアミン類で中和した高分子乳化剤を用いて、上記熱可塑性樹脂を機械乳化し、水性分散液を得る工程、
(2)得られた上記水性分散液に、沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質を添加混合する工程。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、まず、アンモニア又は60℃未満の沸点を有するアミン類で中和した高分子乳化剤を用いて熱可塑性樹脂水性分散液を得るので、その分散粒子径が0.01〜2nmの範囲内となる。このため、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の放置安定性を向上させることができる。
【0014】
さらに、所定温度以上の沸点を有する有機塩基性物質を添加混合しておくので、造膜時に、アンモニア又は60℃未満の沸点を有するアミン類を有機塩基性物質と置き換えることが可能となる。このため、造膜時の高分子乳化剤中の酸性基の遊離を防止し、その結果、水素結合の生成を少なくすることができ、乳化剤で保護された熱可塑性樹脂の溶融性が改良され、得られる皮膜の透明性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる熱可塑性樹脂水性分散液は、熱可塑性樹脂を、高分子乳化剤を用いて水中に分散させてなるエマルジョンである。
【0016】
[熱可塑性樹脂]
この発明にかかる熱可塑性樹脂は、水中に分散させる対象の高分子であり、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン類、及びポリプロピレン類等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体及びエステルあるいはその塩、エチレン・メタクリル酸共重合体あるいはその塩、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体あるいはその塩、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体等のいわゆるエチレンを主体としたエチレン系共重合体、プロピレン・ヘキセン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のプロピレンを主体としたプロピレン系共重合体、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、カルナバワックス、フィッシャートロプスワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス及びそれらの酸化物、低分子量ポリアミド、脂肪酸アミド等のアミド化合物、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン、ゴム物質等が挙げられる。
【0017】
[高分子乳化剤]
上記高分子乳化剤は、アニオン性基を有するアニオン性高分子、又はアニオン性基及びカチオン性基を有する両性高分子からなる乳化剤である。そして、このアニオン性高分子及び両性高分子は、少なくともアニオン性基含有単量体を有する単量体群を(共)重合することによって得られる高分子である。
【0018】
[アニオン性基含有単量体]
上記アニオン性基含有単量体のアニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、酸性リン酸エステル基等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種が用いられる。
【0019】
そして、このようなアニオン性基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」は、「アクリロイル又はメタクリロイル」、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0020】
[カチオン性基含有単量体]
また、両性高分子からなる乳化剤の場合、上記のアニオン性基に加え、カチオン性基を有する必要がある。このカチオン性基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル、N−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類等があげられる。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルの例としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノ−2−アミノエチル等が挙げられる。
【0022】
また、上記N−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類の例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
これらのカチオン性基を有する単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。
【0024】
[ノニオン性単量体]
上記単量体群のうち、アニオン性高分子や両性高分子を構成する、上記のアニオン性基含有単量体やカチオン性基含有単量体以外の単量体(以下、「ノニオン性単量体」と称する。)を用いることができる。
【0025】
上記ノニオン性単量体としては、上記アニオン性含有単量体及びカチオン性含有単量体以外の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アルキレングリコールエステル誘導体等があげられる。
【0026】
上記アニオン性含有単量体及びカチオン性含有単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等があげられる。
【0027】
また、上記(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル誘導体の例としては、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等があげられる。
【0028】
これらのノニオン性基含有単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。
【0029】
[各成分の含有割合]
上記のアニオン性高分子又は両性高分子に用いられる上記単量体群中の上記アニオン性基含有単量体の含有割合は、上記単量体群全量100モルに対して、5モル以上がよく、10モル以上が好ましい。5モルより少ないと、高分子乳化剤の乳化能力が低下する傾向がある。一方、含有割合の上限は、80モルがよく、40モルが好ましい。80モルより多いと、高分子乳化剤の乳化能力が低下する傾向、及び得られる水性分散液の造膜温度が高くなり、得られる皮膜の低温接着性や透明性を悪化させることがある。
【0030】
また、上記の両性高分子に用いられる上記単量体群中の上記カチオン性基含有単量体の含有割合は、上記単量体群全量100モルに対して、5モル以上がよく、10モル以上が好ましい。5モルより少ないと、造膜性及び基材の密着性を低下させる傾向がある。一方、含有割合の上限は、30モルがよく、15モルが好ましい。30モルより多いと、安定した乳化剤が得られ難い傾向がある。
【0031】
ところで、上記の両性高分子において、アニオン性基含有単量体とカチオン性基含有単量体の含有比率(アニオン性基含有単量体/カチオン性基含有単量体)は、モル比で、1.0以上がよく、1.1以上が好ましい。1.0より小さいと、カチオン性が強くなり、汎用的に用いられているアニオン性乳化剤を用いたエマルジョンとの併用が難しくなる傾向がある。一方、モル比の上限は、特に限定されないが、例えば2.0が好ましい。
【0032】
[高分子乳化剤の製造方法]
上記高分子乳化剤を構成する高分子は、例えば、下記の方法で製造することができる。
まず、上記の各単量体を所定の混合比率でそれぞれ秤量する。次に、重合器に各成分を別々に添加して重合するか、又は各単量体をあらかじめ混合した上で重合器に添加して重合する。これにより、高分子を製造することができる。
【0033】
上記の重合は、上記各単量体を重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間、好ましくは2〜10時間の条件下で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブ等の親水性溶媒や水の存在下で行うのが好ましい。
【0034】
上記重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩からなる開始剤、上記過硫酸塩に亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、あるいはこれらと鉄(II)塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。この重合開始剤の使用量は、使用される単量体全量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。
【0035】
ところで、上記の共重合体には、酸性基が含まれる。そこで、この酸性基の少なくとも一部が、所定の第1塩基性物質によって中和されることが好ましい。少なくとも一部を中和することにより、水への溶解性が改良されて、得られる高分子乳化剤を用いた樹脂水性分散液の粒子径が小さくなって、水中への分散状態が安定化されるという特徴を発揮することができる。
【0036】
上記の中和の程度、すなわち、中和度は、50モル%以上がよく、100モル%以上が好ましい。50モル%より小さいと、得られる共重合体の水への溶解性が不十分となりやすい。一方、中和度の上限は、200モル%がよく、150モル%が好ましい。200モル%より大きいと、耐水性が不足しやすい傾向がある。
【0037】
上記第1塩基性物質としては、アンモニア、又は沸点60℃未満のアミン類を用いるのが好ましい。この第1塩基性物質を用いると、後述するように、上記熱可塑性樹脂を、上記高分子乳化剤を用いて機械乳化したとき、得られる水性分散液の分散粒子径を後述する所定範囲内とすることができるので好ましい。
【0038】
上記アミン類の例としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン等が挙げられる。
【0039】
中和反応は、上記共重合体と塩基性化合物を、20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行われる。
【0040】
上記の方法で得られた高分子乳化剤には、そのままで、又はこの発明の効果を阻害しない範囲で、防カビ剤、酸化防止剤、UV吸収剤等の添加物を添加することができる。
【0041】
[熱可塑性樹脂の高分子乳化剤による分散]
【0042】
上記熱可塑性組成樹脂は、上記の高分子乳化剤を用いて機械乳化し、熱可塑性樹脂水性分散液を製造することができる。この製造方法としては、溶融した上記熱可塑性樹脂を、上記高分子乳化剤を含有する水中に添加し、ホモミキサーにより均一に撹拌する方法をあげることができる。
【0043】
また、その他の方法としては、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機を用い、この多軸押出機のホッパー、あるいは中途供給口より、上記熱可塑性樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、さらに、この多軸押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン、脱気ゾーンに設けられた少なくとも1個の供給口より、上記高分子乳化剤を含む水溶液を加圧供給し、これと上記溶融熱可塑性樹脂とをスクリューで混練することにより、ダイから、連続的に水性分散液を押出製造する方法があげられる。
【0044】
上記高分子乳化剤の上記熱可塑性樹脂に対する混合比(不揮発分換算)は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、2重量部以上がよく、3重量部以上が好ましい。2重量部より少ないと、安定した水性分散液を製造することが困難になることがある。一方、混合比の上限は、25重量部がよく、15重量部が好ましい。25重量部より多いと、得られる皮膜の機械的強度が実用上不十分となることがある。
【0045】
また、上記熱可塑性樹脂に対する水の使用量は、得られる水性分散液の固形分濃度が20〜65重量%となるように用いるのが好ましい。
【0046】
上記の方法で得た熱可塑性樹脂の水性分散液の分散粒子径(体積平均値)は、0.01μm以上がよく、0.5μm以上が好ましい。0.01μm未満だと、分散液の粘度が高くなり、取扱性が低下する傾向がある。一方、分散粒子径の上限は、2μmがよく、1μmが好ましい。2μmより大きいと、分散液の安定性が不足して、分離、沈降を起こすことがある。
【0047】
上記の方法で得た熱可塑性樹脂の25℃における粘度は、水性分散液は、その分散粒子径(平均値)が、上記の範囲内となる条件下で、5〜10,000mPa・sがよく、10〜5,000mPa・sが好ましい。さらに好ましい粘度は、20〜2,000mPa・sである。
【0048】
上記の方法で得た熱可塑性樹脂の水性分散液に、第2塩基性物質を添加混合する。これによって、造膜時に、例えば熱可塑性樹脂の流動温度以上、かつ、上記第2塩基性物質の沸点より10℃以上低い温度で加熱し、上記の第1塩基性物質を揮散させる。これらの操作により、上記高分子乳化剤の中和剤を第1塩基性物質から第2塩基性物質に交換することができ、得られる皮膜の透明性を向上させることができる。
【0049】
上記第2塩基性物質としては、沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質を用いることができる。この第2塩基性物質の例としては、2−アミノメチルイソプロパノール、トリエタノールアミン、トリエチルアミン等から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0050】
この第2塩基性物質の使用量は、上記熱可塑性樹脂水性分散液中のアニオン性基に対し、50モル%以上がよく、100モル%以上が好ましい。50モル%未満だと、添加による効果が不十分となりやすい。一方、使用量の上限は、300モル%がよく、150モル%が好ましい。300モル%より多いと、得られる皮膜の耐水性が不足することがある。
【0051】
上記造膜時の加熱温度は、用いる熱可塑性樹脂の流動温度以上が好ましい。なお、この流動温度は、フローテスター(例えば、(株)島津製作所製:CFT−500)を用いて、10kgの荷重下、毎分6℃の昇温速度で測定された、1/2法温度をいう。
【0052】
流動温度より低いと、上記第1塩基性物質を十分に揮散させることが困難となる場合がある。一方、上記加熱温度の上限は、上記第2塩基性物質の沸点より10℃以下がよく、上記第2塩基性物質の沸点より20℃以下が好ましい。上記第2塩基性物質の沸点より10℃低い温度より高い温度だと、上記第1塩基性物質に加え、上記第2塩基性物質の揮散も生じるからである。
【0053】
この方法で得られた熱可塑性樹脂水性分散液は、放置安定性や造膜性に優れ、また、これより得られる皮膜は、透明性が良好である。
【0054】
上記の方法で熱可塑性樹脂水性分散液を得ることは、従来、水性分散液とするのが困難で、有機溶剤に溶解させて用いられた熱可塑性樹脂を水中に均一に分散させることを可能としたものであり、脱溶剤化が可能となり、環境負荷の小さい熱可塑性樹脂用の塗料、粘着剤、インクのバインダー、接着剤、エマルジョンの改質剤等として使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明する。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
【0056】
<評価方法>
[不揮発分]
各種水性分散液サンプル約1gを精秤し熱風循環乾燥機105℃×3時間乾燥させた後、デシケーターの中で放冷しその重量測定した。そして、下記の式にしたがい、不揮発分を算出した。
不揮発分[%]=(乾燥後の試料の重量/乾燥前の試料の重量)×100
【0057】
[粒子径]
実施例及び比較例で得られた各種水性分散液サンプルをレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100(島津製作所(株)製)にて下記条件にて、体積平均粒子径を測定した。
・屈折率1.50−0.20i
・体積分布(メディアン径)
【0058】
[造膜性]
実施例及び比較例で得られた各種水性分散液サンプルをOPPフィルム(グンゼ(株)製:膜厚50μm)のコロナ処理面にバーコーターにて10g/m(dry)となるように塗布し、80℃熱風循環乾燥機にて5分間乾燥した。乾燥後のフィルムの状態を下記の基準で、目視で判断した。
○:透明である、
△:半透明である(青みがかっている)、
×:不透明(白い)。
【0059】
[透過性]
上記で調製したフィルムの可視光線(600nm)透過率を、分光光度計((株)島津製作所製:UV−1700)にて測定した。
【0060】
[放置安定性]
実施例および比較例で得られた各種エマルジョンサンプル100gを250mlのポリ瓶に入れ、50℃の雰囲気下で7日間放置し、凝集物及び増粘性、分離状態を目視で確認した。その結果を、下記の基準で評価した。
○:7日経過しても変化なし、
×:増粘、凝集物発生、又は分離が生じた。
【0061】
<原材料>
[高分子乳化剤を構成する単量体群]
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)製、以下「MAA」と略する。
・2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸…共栄社化学(株)製、以下「HOMS」と略する。
・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)製:メタクリレートDMA、以下「DMA」と略する。
・メチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
・メトキシポリエチレングリコールメタクリレート…共栄社化学(株)製:ライトエステル130MA、以下「130MA」と略する。
【0062】
[第1塩基性物質及び第2塩基性物質]
・アンモニア…和光純薬(株)製:試薬一級、25重量%水溶液、以下「NH3」と略する。
・2−アミノメチルイソプロパノール…ダウ・ケミカル日本(株)製、沸点:165℃、以下「AMP」と略する。
・トリエタノールアミン…ダウ・ケミカル日本(株)製、沸点:360℃、以下「TEA」と略する。
【0063】
[熱可塑性樹脂]
・マレイン化ポリエチレン…エチレン・エチルアクリレート・無水マレイン酸共重合体、住友化学工業(株)製:ボンダインHX8210、無水マレイン酸含量:4重量%、MI:200g/10分、以下「MAH−PE」と略する。
・ポリエチレン…エチレン系共重合体、日本ポリエチレン(株)製:カーネルKS560T、MI=16.5g/10分、以下、「PE」と略する。
・ポリプロピレン…プロピレン系共重合体、三井化学(株)製:タフマーXM−7070、MI=7g/10分、以下、「PP」と略する。
【0064】
[その他]
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製、以下、「IPA」と略する。
【0065】
<高分子乳化剤の製造>
(製造例1〜2)
[単量体調整]
50LのステンレスバケツにIPAを添加(添加量は、単量体合計量に対して、5重量%)、攪拌しつつ、氷浴にて冷却を開始した。続いて表1記載の量のMMA、SLMAを添加した。更に、表1記載の量のAA、MAA、HOMSの混合液を添加した。さらに表1記載量のDMAを温度が25℃を超えないように徐々に滴下して、モノマー混合液を作成した。
【0066】
<重合反応>
冷却管、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロート及び加熱用ジャケットを装置した100L反応器に、IPA30Kgとイオン交換水20Kgを仕込み、攪拌しながら内温を80℃に調整した。反応容器を窒素置換後、上記モノマー混合溶液4Kgを一括投入した。さらに、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製、以下「AIBN」と略する。)を0.4Kg添加し、重合を開始した。更に残りのモノマー混合液16Kgを4時間かけて滴下して重合を行った。4時間モノマー混合液の滴下を継続する途中で1時間おきに上記重合開始剤を4回、0.12Kgずつ添加した。モノマー混合液滴下終了後、2時間熟成した。
引き続き、IPAを留去しながら水を添加して置換し、表1に記載の第1塩基性物質を用いて、AA、MAA、HOMSの合計量に対する中和度が100%となるように中和した後、最終的に粘ちょうなアクリル共重合体の中和物の水溶液を得た。(収率97%)。以下得られた高分子乳化剤を、「高分子乳化剤A」、「高分子乳化剤B」と称する。
【0067】
(製造例3〜4)
冷却管、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロート及び加熱用ジャケットを装置した100L反応器に、IPA50Kg、表1に記載のモノマー(AA,MAA,130MA,MMA,SLMA)を仕込み、さらにAIBNを0.12Kg添加し、反応容器を窒素置換後、撹拌しながら内温を80℃になるように昇温した。内温が80℃になってから2時間後、AIBNを0.06Kg添加し、2時間熟成した。
IPAを留去しながら水を添加して置換し、表1に記載の第1塩基性物質を用いて、AA、MAAの合計量に対する中和度が120%となるように中和した後、最終的に粘ちょうなアクリル共重合体の中和物の水溶液を得た。(収率97%)。以下得られた高分子乳化剤を、「高分子乳化剤C」、「高分子乳化剤D」と称する。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例1〜7、比較例1〜4)
[ニーダーによるエマルジョンの製造]
MAH−PE110重量部を異方向回転非噛合型2軸ニーダー((株)入江商会製:PBV-03型)に100℃で溶融させ、上記の製造法で得られた表2に示す高分子乳化剤を不揮発分として10重量部投入して5分間混合し、さらにイオン交換水90重量部を投入して10分間混合し、乳白色の水性分散液を得た。そして、これに、必要に応じて、イオン交換水を添加して、不揮発分が45重量%となるように調整した。
【0070】
[第2塩基性物質の添加]
次いで、表2に示す第2塩基性物質を表2に示す割合だけ添加して混合し、熱可塑性樹脂分散液を得た。
得られた熱可塑性樹脂分散液について、上記の方法で評価を行った。その結果を表2に示す。
【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子乳化剤を用いて、熱可塑性樹脂を水中に分散させてなる熱可塑性樹脂分散液であって、
その分散粒子径が0.01〜2μmであり、かつ、上記高分子乳化剤が、アニオン性基を有する高分子を沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質で中和して得られたものである熱可塑性樹脂水性分散液。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
【請求項3】
上記高分子乳化剤の有するアニオン性基はカルボキシル基であり、かつ、これを中和する上記有機塩基性物質は、2−アミノメチルイソプロパノール、トリエタノールアミン、及びトリエチルアミンから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
【請求項4】
上記高分子乳化剤は、アニオン性高分子からなる乳化剤であり、
上記アニオン性高分子に用いられる単量体中のアニオン性基含有単量体の含有割合は、上記単量体全量100モルに対して、5モル以上80モル%以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
【請求項5】
上記高分子乳化剤は、両性高分子からなる乳化剤であり、
上記両性高分子に用いられる単量体中のアニオン性基含有単量体の含有割合は、上記単量体全量100モルに対して、5モル以上80モル%以下であり、
上記両性高分子に用いられる単量体中のカチオン性基含有単量体の含有割合は、上記単量体全量100モルに対して、5モル以上30モル%以下であり、
上記アニオン性基含有単量体と上記カチオン性基含有単量体の含有比率は、アニオン性基含有単量体/カチオン性基含有単量体(モル比)で、1.0以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂水性分散液。
【請求項6】
下記の(1)〜(2)の工程を順次経ることにより、高分子乳化剤を用いて、熱可塑性樹脂を水中に分散させて熱可塑性樹脂水性分散液を製造する方法。
(1)酸性基を有する高分子乳化剤中の高分子をアンモニア又は沸点60℃未満のアミン類で中和した乳化剤を用いて、上記熱可塑性樹脂を機械乳化し、水性分散液を得る工程、
(2)得られた上記水性分散液に、沸点60℃以上、370℃以下の有機塩基性物質を添加混合する工程。

【公開番号】特開2011−46776(P2011−46776A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194306(P2009−194306)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】