説明

熱可塑性樹脂発泡成形体及びその製造方法

【課題】簡便で経済的に製造可能な熱可塑性樹脂予備発泡粒子を用いて、高い空隙率を有し、かつ、形状保持性、機械的強度の優れた熱可塑性樹脂発泡成形体を提供する。
【解決手段】成形体内の空隙率が10%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下の部位が略区画状に存在し、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体であって、前記空隙率が10%未満の部位が、L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用し、前記空隙率10%以上60%以下の部位が、L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用して型内発泡成形されてなることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。
ここで、L/Dとは、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂予備発泡粒子を成形してなる連通した空隙を有する発泡成形体の製造方法として、球形状のポリスチレン発泡粒子を接着剤で固めて連続空隙を設けた構造の成形品が知られている(特許文献1)。しかし、この成形体は発泡粒子の接着が接着剤の接着性のみに依存し、十分な接着性が得られず破壊されやすい問題がある。
【0003】
ポリオレフィン系樹脂についても、L/Dが2〜10の柱状ポリオレフィン系樹脂発泡粒子を、金型内に充填率40〜55%で、且つ、粒子相互が不規則な方向を向くように充填させた後、蒸気で加熱する成形体(特許文献2)、中空円筒ないし中空異形状、あるいは断面形状が十字形のような凹凸を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を加熱成形する方法(特許文献3、特許文献4)が開示されている。さらには、鼓形状の予備発泡粒子を用い、10〜60%の空隙率を有する発泡成形体もある(特許文献5)。これらの方法は、何れも、透水性、通気性、吸音性を得るために、異形の予備発泡粒子あるいはL/Dを大きくした予備発泡粒子を使用することで、発泡成形体の内部に空隙を設けるものである。しかしながら、このような構成の発泡成形体は空隙を多く含むため、空隙のない成形体に比べ、圧縮強度等の機械的特性が低下する、あるいは予備発泡粒子同士の融着強度が低下するために、発泡成形品の端面部分で予備発泡粒子が剥離しやすい、即ち形状保持性に劣るという課題を有していた。融着強度は成形加熱温度を上げる等で改善されるが、その反面で空隙率が低下して透水性、吸音性等が低下する。即ち、通気性、透水性、吸音性能を維持しつつ、端面の剥離防止や成形体強度の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−153026号公報
【特許文献2】特開平3−224724号公報
【特許文献3】特開平7−138399号公報
【特許文献4】特開平7−138400号公報
【特許文献5】特開2000−302909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、簡便で経済的に製造可能な熱可塑性樹脂予備発泡粒子を用いて、高い空隙率を有し、かつ、形状保持性、或いは、機械的強度の優れた熱可塑性樹脂発泡成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、成形体全体を見た場合圧縮強度等の機械的強度、剥離・割れ等の特性を要求される成形体部分は限定され、係る成形体部分の透水性、通気性、吸音性等の特性を低下させても成形体全体の吸音性等の特性低下は軽微であり、成形体として強度等の特性と吸音性等の特性を両立させうることを見出した。すなわち、成形体内に異なった空隙率を不均一になるように型内発泡成形を行うことで適度な空隙率を保持しながら、形状保持性を有する成形体が得られ、かつ幅広い吸音域において吸音特性を発現することを見出し本発明の完成に至った。
【0007】
即ち、本発明の第1は、成形体内の空隙率が10%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下の部位が略区画状に存在し、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体であって、前記空隙率が10%未満の部位が、L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用し、前記空隙率10%以上60%以下の部位が、L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用して型内発泡成形されてなることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体に関する。
ここで、L/Dとは、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2
【0008】
また、本発明の第2は、成形体内の空隙率が10%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下の部位が略区画状に存在し、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体の製造方法であって、区画化された金型を使用し、前記成形体内の空隙率が10%未満の部位に対応する金型区画に、L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子を充填し、前記空隙率10%以上60%以下の部位に対応する金型区画に、L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子を充填し、加熱成形することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法に関する。
ここで、L/Dとは、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2
【0009】
好ましい実施態様では、前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が200μm以上400μm以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が30μm以上150μm以下である。
【0010】
また、別の好ましい実施態様では、前記熱可塑性予備発泡粒子が、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたとき、前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が0.15以上0.35以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が、0.35以上0.75以下である。
【0011】
また、好ましい実施態様では、前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子が球状予備発泡粒子であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子が棒状予備発泡粒子である。
【0012】
また、好ましい実施態様では、成形体外周部を空隙率10%未満とし、それ以外を空隙率10%以上60%以下で構成してなる。
【0013】
また、好ましい実施態様では、前記発泡成形体が、自動車用の嵩上げ材、ティビアパッド、ラゲージボックス、側突材のいずれかである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、一つの成形体内の空隙率を不均一にすることで、透水性、通気性、吸音性等の空隙率に依存する特性を持ちながら、かつ、剥離・割れが起こりにくく、機械的強度を維持する成形体を安定的に、経済的に得ることが可能となる。また、空隙率が不均一であるため、幅広い吸音域において吸音特性を発現しうる。
【0015】
この発泡成形体は、自動車部材、土木・建築資材、産業用資材等において吸音材、通水材等に好適に使用し得る。特に、嵩上げ材、ティビアパッド、ラゲージボックス、側突材等の自動車部材に吸音性能を付与する場合に好適に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に使用する熱可塑性樹脂予備発泡粒子のL/Dについて示した図である。
【図2】示差走査熱量計を用い、本発明記載の熱可塑性樹脂予備発泡粒子を測定した際に得られるDSC曲線の一例である。横軸は温度、縦軸は吸熱量である。低温側がα、高温側がβである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に関し詳しく説明する。
【0018】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂とは、型内発泡成形に用いられる熱可塑性樹脂であれば使用でき、例えばポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いることができるポリスチレン系樹脂としては一般的な発泡性ポリスチレン樹脂だけでなく、例えば、スチレン、又はメチルスチレンを50%以上含有してなるポリスチレン系樹脂、ハイインパクトポリスチレン系樹脂、スチレンとブタジエン、スチレン−エチレン共重合体、メチルメタクリレート、無水マレイン酸等との共重合樹脂等が挙げられ、これらは、単独、又は2種以上の組み合わせとして用いられる。
【0020】
本発明に用いることができるポリオレフィン系樹脂としては、低・中・高密度ポリエチレン、線状低・超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体で代表されるポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体で代表されるポリプロピレン系樹脂が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が好適に用いられ、中でもポリプロピレン系樹脂がより好適に使用される。
【0022】
本発明おいて使用されうるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなる重合体であり、中でもチーグラー型塩化チタン系触媒またはメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。具体例としては、例えば、プロピレン単独共重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、無水マレイン酸−プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸−プロピレンブロック共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独あるいは混合して用いられる。特に、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体が好適に使用し得る。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。
【0023】
本発明において熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を使用する場合は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が0.1g/10分以上7g/10分以下であることが好ましく、更に好ましくは2g/10分以上6g/10分以下である。MIが0.1g/10分未満では、予備発泡粒子を製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の予備発泡粒子を得るのが難しくなる傾向がある。また、発泡成形体としたときの予備発泡粒子間の融着強度を確保することが難しくなる傾向にある。MIが7g/10分を超えると、発泡成形体としたときの空隙率を安定した値で制御することが難しくなる傾向がある。
【0024】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130℃以上168℃以下、更に好ましくは135℃以上160℃以下、特に好ましくは140℃以上155℃以下である。融点が当該範囲内である場合、成形性と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。ここで、前記融点とは、示差走査熱量計によって樹脂1〜10mgを40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱ピークのピーク温度をいう。
【0025】
本発明に用いる予備発泡粒子は、上記熱可塑性樹脂を基材樹脂とするものであり、その形状に特に限定はなく、任意の形状の予備発泡粒子を採用することができる。例えば、略球形やL/Dが2以上10以下の棒状粒子、円筒型の粒子等所謂異形予備発泡粒子を使用することができる。
【0026】
ここで、本発明にいうL/Dとは、図1に示すように、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2
【0027】
熱可塑性予備発泡粒子のL方向に垂直な断面形状は、円、楕円等の凹部のない閉じた曲線であり、DmaxおよびDminはL方向に沿って略一定の値をとる。予備発泡粒子の具体例としては、円柱形状、楕円柱形状が挙げられる。L/Dの調整は、原料樹脂を押出機で溶融し、多数の細孔を有するダイより押し出し、延伸・冷却してストランドとし、切断してペレット化する時の延伸比及び切断長さで容易に調整できる。しかし、これらペレットから予備発泡粒子を作製する場合、加熱により延伸歪みが緩和されて長さ方向が収縮する傾向にあるため、必要な長さの2〜3倍程度長く作成しておくことが好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂型内発泡成形体は、成形体内の空隙率が不均一であることを特徴とする。本発明において空隙率が不均一であるとは、表面スキン層を含まないように成形体から30mm×30mm×30mmの複数の立方体を切り出してそれぞれについて空隙率を測定した場合、5%以上の差がある部位を有することを言う。ここで空隙率とは、発泡体から所定の大きさ(例えば、30×30×30mm)の直方体試料を、表面スキン層を含まないように切り出し、外形寸法より見掛け体積を求め、更に、直方体試料を一定量のエタノールを入れたメスシリンダー中に浸漬し、その時の増加容積(真の体積)を測定し、見掛け体積と真の体積の差を、見掛け体積で除算した値をいう。
【0029】
不均一な部位は、どのような態様で配されていても良いが、好ましくは、異なる空隙率を有する部位が略区画状に存在しており、更には、成形体内の空隙率が10%未満、好ましくは7%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下、好ましくは15%以上55%以下の部位が略区画状に存在することが好ましい。もっとも好ましくは、成形体外周部を空隙率10%未満、とし、それ以外を空隙率10%以上60%以下で構成することである。このように成形体内の空隙率が不均一に存在することにより、吸音性能の場合、幅広い吸音域での吸音効果が得られる。また、異なる空隙率を有する部位が略区画状に存在することにより、強度や形状保持性を付与したい部位を低い空隙率とし、透水性や吸音性を付与したい部位を高い空隙率とする設計が容易となる。さらには成形体外周部を空隙率10%未満とし、それ以外を空隙率10%以上60%以下で構成することで、より透水や吸音のための空隙を有しながらも強度あるいは形状保持することが可能となる。
【0030】
本発明において、空隙率を不均一となすには、使用する熱可塑性樹脂予備発泡粒子において、異なる樹脂種を使用する、融点が異なる樹脂を使用する、β/(α+β)値が異なる予備発泡粒子を使用する、形状の異なる予備発泡粒子を使用する等の手法が挙げられ、これら手法を2種以上併用してもよい。
【0031】
ここで、β/(α+β)値とは、発泡粒子の示差走査熱量測定において発泡粒子1〜10mgを示差走査熱量計によって10℃/分の昇温速度で40℃から220℃まで昇温したときに得られるDSC曲線(図2)において、極大点Aを通る直線とDSC曲線との低温側の接点をB、高温側の接点をCとした場合、線分ABとDSC曲線で囲まれた面積から低温側ピークの融解熱量α(J/g)、線分ACとDSC曲線で囲まれた面積から高温側ピークの融解熱量β(J/g)として算出される値である。
【0032】
本発明においては、L/Dが2以上10以下の熱可塑性樹脂予備発泡粒子(以下、棒状予備発泡粒子と称す場合がある)とL/Dが0.8以上1.2の熱可塑性樹脂予備発泡粒子(以下、球状予備発泡粒子と称す場合がある)を使用することが好ましい。
【0033】
これらの予備発泡粒子を使用した場合の態様について以下に詳述する。
【0034】
L/Dが2以上10以下の棒状予備発泡粒子を採用することにより、発泡粒子同士の適度な接触面積を保って、高い空隙を形成しやすい。
【0035】
棒状予備発泡粒子は、セル径が好ましくは30μm以上150μm以下、更に好ましくは、50μm以上100μm以下である。セル径がこの範囲にあると、金型への充填の際に生じた空隙を保持して、発泡粒子間を強固に融着させ易い。セル径が30μm未満の場合には、発泡成形体とした時に、ヒケ、収縮が発生し易くなり、形状保持性が悪化する場合がある。セル径が150μmを超えると、発泡成形体とした時の空隙率が低くなる傾向となる。特に、金型面と接触した表面層において空隙率が低下し易い傾向にある。
【0036】
更に、棒状予備発泡粒子は、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)値が、0.35以上0.75以下であることが好ましく、更に好ましくは0.40以上0.70以下である。β/(α+β)値が0.35未満の場合、発泡成形体の空隙率を高くすることが困難となる場合がある。これは、発泡粒子の二次発泡力が高くなるため、成形の際に空隙率が低下するためと思われる。β/(α+β)が0.75を超えると発泡粒子間の融着が困難となる場合がある。融着を促進するために成形に用いる蒸気の温度を上げると、発泡成形体の空隙率が低下するため、空隙率の確保と融着の両立が困難となる恐れがある。
【0037】
上記要件を満たした棒状予備発泡粒子を用いることにより、好ましくは空隙率25%以上50%以下の空隙率を有する熱可塑性樹脂発泡成形部位を作製することが容易になる。発泡成形体の空隙率は吸音特性と強く関係しており、空隙率は、更に好ましくは30%以上45%以下である。空隙率が25%未満となると、ピーク周波数における吸音率が低下し、十分な吸音特性が得られない場合がある。空隙率が50%を超えると、発泡粒子間の接触面積が低下して発泡成形体の割れが生じ易く、機械強度が低下する恐れがある。
【0038】
L/Dが0.8以上1.2以下の略球状の予備発泡粒子は、セル径が200μm以上400μm以下、且つ示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたときのβ/(α+β)値が0.15以上0.35以下であることが好ましい。これらの要件を満たすことにより、倍率バラツキが小さく、高い強度を有し、且つ空隙率の低い熱可塑性樹脂発泡成形部位を安定的に製造出来る傾向にある。ここで、予備発泡粒子のL/Dは、金型内への該粒子の充填性並びに成形後の融着性、機械的強度保持の観点から、できる限り球状、好ましくはL/Dが0.9以上1.1以下、つまりL/Dが1に近いことが好ましい。
【0039】
本発明においては、例えばこのような棒状予備発泡粒子と球状予備発泡粒子を併用することにより、透水性、通気性或いは、吸音性が依存する空隙率と、成形体の形状維持、或いは、機械強度保持を可能とすることができる。吸音率は棒状予備発泡粒子の発泡倍率には大きく依存していないため、任意の発泡倍率を選択することが可能である。また、適用される用途により異なるが、予備発泡粒子の発泡倍率は、5倍以上60倍以下のものが好適に適用される。特に、自動車用途の嵩上げ材、ラゲージボックス、ティビアパッド等には、15倍以上45倍以下のものがより好ましい。
【0040】
適用の具体例としては、主に吸音性能が要求されフロアスペーサーで組立ラインでの原料剥離を防止したい場合には、外周を球状予備発泡粒子、それ以外の部位を、吸音性能を有する棒状予備発泡粒子で構成すればよい。また、吸音性能と曲げ剛性が要求されるツールボックスなどには、曲げ剛性を必要としない部位には吸音性能を有する棒状予備発泡粒子で構成し、曲げ剛性を必要とする部位には球状予備発泡粒子にて構成、あるいは海島状に棒状予備発泡粒子と球状予備発泡粒子を混在させるなどでの対応が可能である。また、主に吸音あるいは透水用途である成形体に支持部、あるいは他部品との組立上で融着強度が部分的に必要な場合にも、本発明が適用される。以上のように吸音性、透水性、通気性と製品で融着強度が必要とする部位での強度との両立が図れ、幅広い用途に適用可能である。
【0041】
異なる空隙率を有する部位を不均一に存在させるような成形方法は特に限定はなく、公知の方法が使用可能である。例えば、特開2001−96559号公報記載の方法が挙げられる。具体的には、金型内に予備発泡粒子を通さないが、異なる特性、例えば、樹脂種、融点、β/(α+β)、形状等の特性、をもつ熱可塑性樹脂予備発泡粒子同士が接触可能な間隔で櫛状の細棒を設置して金型を区画化し、その区画に対応する予備発泡粒子の充填フィダーを設置した金型を使用し、必要区画に必要な予備発泡粒子を充填して成形する事で達成される。
【0042】
異なる空隙率を有する部位を略区画状に配する場合、各区画の設定は特に限定しないが、強度、剥離性、融着性等を必要とする部位を空隙率が低くなるように設定し、その他の部位を空隙率が高くなるように設定することが好ましい。尚、予備発泡粒子を金型に充填して成形するにあたり、公知の予備発泡粒子をそのまま金型に充填して水蒸気で加熱成形する方法、及び、予備発泡粒子に無機ガスを加圧処理して発泡粒子内に含浸させて所定の発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱成形させる方法が適用できるが、無機ガスの加圧処理により予備発泡粒子に絶対圧力で0.12MPa以上0.27MPa以下の内圧を付与して加熱成形するのが好ましい。特に、高い空隙率を有する部位は絶対圧力で0.12MPa以上0.19MPa以下に、空隙率が低い部位は0.20MPa以上0.27MPa以下に設定することが好ましい。
【0043】
以上のようにして得られた成形体は、優れた吸音効果、透水効果を有するとともに、成形体としての要望される機械的強度、形状安定性を有する事が出来、吸音材、ドレン材等としての様々な目的で、例えば、フロアスペーサー、ティビアパッド、ピラー内部の衝撃吸収材、ドアリム内部の衝撃吸収材、等の車両用内装材、コンサートホール、一般住宅等の建築物の床材(床材を構成する芯材も含む)や壁材(壁材を構成する芯材も含む)に好適に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例にてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(予備発泡粒子Aの製造)
基材樹脂として、MI:4.5g/10分、融点:144℃、エチレン含量:2.8%、ブテン含量:1.3%を用い、セル造核剤としてタルク300ppmを添加して押出機内で溶融混練した後、円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断し、一粒の重量が1.8mg/粒、該円柱形状で、L/Dが6.3である樹脂粒子を得た。
【0046】
得られた樹脂粒子100重量部(65kg)、水200重量部、塩基性第三リン酸カルシウム0.5重量部、アルキルスルフォン酸ソーダ0.01重量部を容量0.35m3の耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを16部添加した後、オートクレーブ内容物を135℃の発泡温度まで加熱した。その後、イソブタンを追加圧入して2.2MPaの発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度、発泡圧力で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.4mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して予備発泡粒子Aを得た。得られた予備発泡粒子は、L/D:2.2、セル径:103μm、β/(α+β):0.60、嵩密度:0.019g/cm3であった。
【0047】
(予備発泡粒子Bの製造)
予備発泡粒子Aを製造したのと同じ樹脂粒子を使用し、オートクレーブ内容物を130℃の発泡温度まで加熱してイソブタンを追加圧入して2.4MPaの発泡圧力まで昇圧した以外は、予備発泡粒子Aと同様にして、L/D:2.2、β/(α+β):0.70、嵩密度:0.019g/cm3である、発泡粒子Bを得た。
【0048】
(予備発泡粒子C)
市販されている(株)カネカ製のDBS45(45倍品)(以下、発泡粒子C(L/D:1.05、β/(α+β):0.25)を使用した。
【0049】
(実施例1)
予備発泡粒子Aと予備発泡粒子Cを使用した。300×400×50mmのブロック形状の金型を使用し、予備発泡粒子に空気加圧処理により空気を含浸させ、予備発泡粒子Aを絶対圧力で0.13MPa、予備発泡粒子Cを0.21MPaの内圧を付与した。
【0050】
充填工程は金型を2mm開いた状態で発泡粒子C、発泡粒子Aの順に充填し、続いて金型を完全に閉じ、ゲージ圧で0.22MPaの蒸気にて予備発泡粒子の加熱融着を行う。その後、水冷を60秒間行い、発泡体を離型した。ここで得られた発泡成形体は多くの空隙を有し、蒸気・冷却水による含水を多量に含むため、常温で1時間放置し、その後75℃、24時間の乾燥、24時間の常温養生を行うことで、空隙率が不均一な発泡成形体を得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1において使用する金型を、300×400×50mmのブロック形状で、且つ略外周端部50mmと内部を櫛部材で区画化し、櫛部はステンレスバネ鋼を素材とし、櫛長さ49mm、櫛径φ2.5mm、櫛間隔2.5mmのものを用いた以外は実施例1と同様にして空隙率の確保と形状保持性を両立させた発泡成形体を得た。
【0052】
(実施例3)
実施例2において、予備発泡粒子Cを予備発泡粒子Bに代えた以外は実施例2と同様にして、空隙率の確保と形状保持性を両立させた発泡成形体を得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1で用いた発泡粒子Aに、空気加圧処理により空気を含浸させ、絶対圧力で0.13MPaの内圧を付与した予備発泡粒子を得た。これを300×400×50mmのブロック形状金型に充填し、ゲージ圧0.22MPaの蒸気で加熱、水冷60秒を行い、発泡粒子Aのみで形成された発泡体を得た。これを常温で1時間放置し、その後75℃、24時間の乾燥、24時間の常温養生を行った。
【0054】
得られた成形体評価の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
空隙率は前記したように、発泡体から30×30×30mmの立方体試料を、表面スキン層を含まないように切り出し、外形寸法より見掛け体積を求めた。更に、直方体試料を一定量のエタノールを入れたメスシリンダー中に浸漬し、その時の増加容積(真の体積)を測定し、見掛け体積と真の体積の差を、見掛け体積で除算した値を空隙率と定義した。
【0057】
吸音率測定は、垂直入射式測定と、残響室を用いた測定方法の2種の方法で行った。表中の数値は最高値を示す。垂直入射式測定はASTME1050に準拠し、試料厚み40mmで500〜6400Hzでの垂直入射吸音率を測定した。試料は得られた発泡成形体より、表面スキン層を有する面が音波入射面となるように、厚み40mmで切り出した。測定は、音波を反射する剛体壁と試料が密着した状態、つまり背後空気が無い状態でおこなった。測定には小野測器社製の垂直入射吸音率測定装置SR−4100を用いた。残響室による測定は、JIS A1409に従い、9m3の残響室(日東紡音響エンジニアリング製)、サンプルサイズ700×700mmを用いて500〜5000Hzでの測定を行った。ここで、残響室測定に用いたサンプルは、実施例あるいは比較例で示す金型にて成形した成形体を張り合わせたものを用いた。
【0058】
剥離評価は、高さ1mの位置から成形体を角部が床面に当たるように10回落下させ、成形体から予備発泡粒子が剥離するか否かで評価した。評価基準は剥離なし:○、2回以下の剥離:△、3回以上の剥離:×とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体内の空隙率が10%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下の部位が略区画状に存在し、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体であって、
前記空隙率が10%未満の部位が、L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用し、前記空隙率10%以上60%以下の部位が、L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子を使用して型内発泡成形されてなることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体。
ここで、L/Dとは、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2
【請求項2】
前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が200μm以上400μm以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が30μm以上150μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性予備発泡粒子が、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたとき、前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が0.15以上0.35以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が、0.35以上0.75以下であるであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項4】
前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子が球状予備発泡粒子であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子が棒状予備発泡粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項5】
成形体外周部を空隙率10%未満とし、それ以外を空隙率10%以上60%以下で構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項6】
前記発泡成形体が、自動車用の嵩上げ材、ティビアパッド、ラゲージボックス、側突材のいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体。
【請求項7】
成形体内の空隙率が10%未満の部位と、空隙率10%以上60%以下の部位が略区画状に存在し、成形体内の空隙率が不均一である熱可塑性樹脂型内発泡成形体の製造方法であって、
区画化された金型を使用し、
前記成形体内の空隙率が10%未満の部位に対応する金型区画に、L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子を充填し、
前記空隙率10%以上60%以下の部位に対応する金型区画に、L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子を充填し、
加熱成形することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
ここで、L/Dとは、Lは発泡粒子の最長部の長さ、DはL方向と垂直な断面における最大径Dmaxと最小径Dminの平均値であり、下記式にて計算される。
D=(Dmax+Dmin)/2
【請求項8】
前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が200μm以上400μm以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のセル径が30μm以上150μm以下であることを特徴とする、請求項7記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性予備発泡粒子が、示差走査熱量測定によって得られるDSC曲線に2つの融解ピークを有し、該低温側ピークの融解熱量α(J/g)、該高温側ピークの融解熱量β(J/g)としたとき、前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が0.15以上0.35以下であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子のβ/(α+β)値が、0.35以上0.75以下であるであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項10】
前記L/Dが0.8以上1.2以下の熱可塑性予備発泡粒子が球状予備発泡粒子であり、前記L/Dが2以上10以下の熱可塑性予備発泡粒子が棒状予備発泡粒子である請求項7〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項11】
成形体外周部を空隙率10%未満とし、それ以外を空隙率10%以上60%以下で構成したことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項12】
前記発泡成形体が、自動車用の嵩上げ材、ティビアパッド、ラゲージボックス、側突材のいずれかである請求項7〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂発泡成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81765(P2012−81765A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279941(P2011−279941)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2005−292800(P2005−292800)の分割
【原出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】