説明

熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びその成形体

【課題】 熱可塑性樹脂、テルペン系化合物、カーボンナノ材料の均一な相構造で、層状剥離がなく、導電(帯電防止)性、流動性、難燃性、耐衝撃性、耐曲げ性及び成形外観等に優れた、熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)熱可塑性樹脂80〜99質量%及び(B)テルペン系化合物20〜1質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(C)カーボンナノ材料0.1〜30質量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びその成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関し、更に詳しくは、導電性、耐衝撃性、剛性、流動性、難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発展により、情報処理装置及び電子事務機器が急速に普及している。これに伴い、電子部品から発生するノイズが周辺機器に影響を与える電磁波障害、静電気による誤作動等のトラブルが増加し、大きな問題となりつつある。
これらの問題の解決のため、導電(帯電防止)性や制電性に優れた材料が要求されている。
高分子材料は導電性が低いため、これに導電性フィラー等を配合して、導電性を高めた高分子材料が広く利用されている。
導電性フィラーとしては、金属繊維、金属粉末、カーボンブラック、炭素繊維等が一般に用いられているが、金属繊維や金属粉末を導電性フィラーとして用いると、優れた導電性付与効果はあるが、耐蝕性に劣り、機械的強度が得難いという欠点がある。
一方、カーボンブラックを導電性フィラーとして用いる場合、少量の添加で高い導電性が得られるケッチェンブラック、バルカンXC72及びアセチレンブラック等の導電性カーボンブラックが用いられているが、これらは、樹脂への分散性が不良である。また、カーボンブラックの分散性が樹脂組成物の導電性に影響するため、安定した導電性を得るには独特の配合処方及び混合技術が必要とされる。
【0003】
また、炭素繊維を導電性フィラーとして使用すると、所望の強度、弾性率を得ることができるが、導電性を付与するには高充填を必要とし、樹脂本来の物性が低下する。さらに、複雑な形状の成形品を得ようとする場合、導電性フィラーとしての炭素繊維の片寄りが生じるため、導電性にバラツキが発生し、満足できる物性が得られない。
炭素繊維を配合する場合、炭素繊維が同量であれば、繊維径の細い方が樹脂と繊維間の接触面積が大きくなるため導電性付与に優れることが期待される。しかし、炭素繊維を樹脂と混合した場合、樹脂への分散性に劣り、成形品の表面外観が損なわれるという問題がある。
【0004】
一方、カーボンナノ材料は、低密度で強度、安定性、電気特性等に優れるため注目を受け、その応用が期待されている。熱可塑性樹脂、特にポリカーボネート樹脂とカーボンナノ材料との組合せが提案されている。しかし、カーボンナノ材料は高価であるため、如何に少ない添加量で効率的に特性を発現させるかという現実的課題がある。
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂とリン系化合物、フェノール系化合物、エポキシ系化合物及びイオウ系化合物から選ばれる一種以上の化合物とカーボンナノ材料を配合してなる樹脂組成物が記載されている。しかし、ポリカーボネート樹脂とテルペン系化合物との組合せについての記載はない。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性樹脂とカーボンナノチューブ、難燃剤及びポリフルオロオレフィン樹脂を配合してなる樹脂組成物が記載されている。しかし、この樹脂組成物は高度な難燃性を要求される組成物であって、難燃剤の添加に伴って、衝撃強度の低下が免れない。また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂97質量部とカーボンナノチューブ3質量部とを配合した場合が比較例1として記載されているが、溶融粘度の上昇とカーボンナノチューブの不均一分散による、成形外観の不良、導電性のばらつきの問題がある。
【0006】
特許文献3には、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのポリマーアロイに、テルペン系樹脂を配合した樹脂組成物が記載されている。この特許文献3には、テルペン系樹脂の含有がポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂との相溶化に寄与するとともに、難燃剤の分散性を向上させ、射出成形品におけるウェルド外観、ウェルド強度の向上に効果があることが開示されている。しかし、ポリカーボネート樹脂にカーボンナノ材料を配合することについては、何ら記載されていない。
また、導電性能を発現させるためにカーボンナノ材料を多量に配合すると、成形外観の不良、カーボンの脱落を招来し、耐衝撃強度の低下を引き起こすが、これらの問題を解消するための、カーボンナノ材料の分散性の改良については十分な検討がなされていない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−182842号公報
【特許文献2】特開2003−221510号公報
【特許文献3】特開2000−63651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂にテルペン系化合物を配合することにより、カーボンナノ材料を脱落させることなく良好に分散させて、導電(帯電防止)性、流動性、難燃性、耐衝撃性及び成形外観等に優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法及びその成形体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行った結果、特定の割合の熱可塑性樹脂とテルペン系化合物に、所定量のカーボンナノ材料を配合することにより、テルペン系化合物がカーボンナノ材料の分散に寄与し、カーボンナノ材料 を0.1〜30重量部の範囲で添加した場合でも、カーボンの脱落、流動性、成形性の低下を抑えて、高い導電性能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)(A)熱可塑性樹脂80〜99質量%及び(B)テルペン系化合物20〜1質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(C)カーボンナノ材料0.1〜30質量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物、
(2)(A)成分が芳香族ポリカーボネート樹脂である上記(1)の熱可塑性樹脂組成物、
(3)(A)成分の粘度平均分子量が、10,000〜40,000である上記(2)の熱可塑性樹脂組成物、
(4)(C)成分が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン及びカルビン系材料から選ばれる一種又は二種以上のカーボンナノ材料である上記(1)〜(3)の熱可塑性樹脂組成物、
(5)カーボンナノチューブに含まれる非晶カーボン粒子の含有量が20質量%以下であり、カーボンナノチューブの外径が0.5〜120nm、及び長さが500nm以上である上記(4)の熱可塑性樹脂組成物、
(6)(B)成分に(C)成分を加えて混練した後、この混練物に(A)成分を添加し、更に溶融混練することを特徴とする上記(1)〜(5)の熱可塑性樹脂組成物の製造方法、
(7)上記(1)〜(6)の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、テルペン系化合物、及びカーボンナノ材料を特定割合で含むことによりカーボンナノ材料の分散性が向上するので、カーボンナノ材料の添加量が少なくてもカーボンナノ材料の脱落がなく、導電性、耐衝撃性、剛性、難燃性、流動性及び成形外観等に優れた成形体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、樹脂成分として、(A)熱可塑性樹脂80〜99質量%及び(B)テルペン系化合物20〜1質量%からなる組合せが用いられる。
樹脂成分において、(A)成分及び(B)成分の含有量が上記の範囲にあれば、得られる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の特性が充分に発揮されると共に、(C)成分のカーボンナノ材料の分散性が良好となる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対して、(C)カーボンナノ材料が0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜10質量部配合される。
カーボンナノ材料の配合量を、0.1質量部以上とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の導電(帯電防止)性及び難燃性が向上し、30質量部以下とすることにより、配合量に応じて性能が向上し、耐衝撃強度や成形性が上昇する。
【0013】
本発明の(A)熱可塑性樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリアミドエラストマー等、及びこれらと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては特に制限はない。通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。この芳香族ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法、即ち、2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換法により反応させて製造することができる。
【0015】
2価フェノールとしてはとくに制限はない。例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等、又はこれらのハロゲン置換体等が挙げられる。その他の2価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。
【0016】
特に、好ましい2価フェノールは、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAである。
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホーメート等が挙げられ、より具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
上記の2価フェノール及びカーボネート前駆体は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよい。分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α',α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等を用いることができる。
また、分子量の調節のために、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノール等が用いることができる。
【0018】
また、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部を有する共重合体、又はこの共重合体を含有するポリカーボネート樹脂であってもよい。また、テレフタル酸等の2官能性カルボン酸、又はそのエステル形成誘導体等のエステル前駆体の存在下でポリカーボネートの重合を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂であってもよい。また、上記種々の芳香族ポリカーボネート樹脂の混合物を用いることもできる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、機械的強度及び成形性の点から、その粘度平均分子量は、通常、10,000〜40,000であり、好ましくは13,000〜30,000、更に好ましくは14,000〜27,000である。
【0019】
本発明の(B)テルペン系化合物とは、(C58nの組成を有する炭化水素及びそれから導かれる含酸素化合物並びに不飽和度を異にするものを意味する。
より具体的には、テルペン単量体(C1016)単独、またはテルペン単量体と芳香族ビニル単量体、テルペン単量体とフェノール類を共重合して得られたもの等が挙げられる。また、得られたテルペン系化合物を水素添加して得られる水添テルペン系化合物であってもよい。ここで、テルペン単量体としては、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン等、芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、ビスフェノールA等を例示することができる。これらのテルペン系化合物は、テルペン単量体単独あるいは芳香族ビニル単量体、フェノール類とともに有機溶媒中、フリーデルクラフト型触媒の存在下に反応することによって得ることができる。
すなわち、テルペン系化合物としては、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペン−フェノール樹脂、テルペン−ビスフェノールA樹脂等が含まれる。一般にテルペン−フェノール樹脂、テルペン−ビスフェノールA樹脂等のように、フェノール類が含まれるものの方が、流動性及びカーボンナノ材料の分散による導電性が高い。
(A)熱可塑性樹脂と(B)テルペン系化合物からなる樹脂成分において、(A)成分は80〜99質量%及び(B)成分は20〜1質量%である。(B)テルペン系化合物が1質量%未満では導電性、流動性が不十分であり、20質量%を超えると衝撃強度や耐熱性が低下し、表層剥離等が起こることがある。
【0020】
(C)カーボンナノ材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、カルビン系材料等が挙げられる。
カーボンナノチューブは、炭素6員環構造を主構造とする黒鉛(グラファイト)シートが円筒状に閉じた構造を有するチューブ状の炭素多面体である。一般に直径0.1〜300nm、アスペクト比10〜1000の中空繊維状のものであって、流動触媒化学気相成長法(CCVD法)、化学気相成長法(CVD法)、レーザーアブレーション法、炭素棒・炭素繊維等を用いたアーク放電法等によって製造することができる。
カーボンナノチューブには、1層の黒鉛シートが円筒状に閉じた構造を有する単層ナノチューブと、黒鉛シートが何層も同心筒状に閉じた多層構造を有する多層ナノチューブとがある。用いることのできるカーボンナノチューブに特に制限はないが、量産性と価格の点から、直径0.5〜120nm、特に直径1〜100nmの単層又は多層ナノチューブが好ましい。多層ナノチューブとしては、サンナノテック社製のマルチウォール、NTP社製の表面処理(カルボン酸、水酸基付与)マルチウォール、昭和電工株式会社製の商品名VGCF III、VGCF IV、ハイペリオン・カタリシス・インターナショナル社製の商品名 Graphite Fibrils Grades BN、日機装株式会社製の商品名MWCNT、GSIクレオス社製商品名カルベール、本荘ケミカル株式会社製のカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0021】
カーボンナノホーンは、カーボンナノチューブの先端が閉じている円錐状の形状を持つカーボンナノ材料である。カーボンナノホーンは、主に、固体状黒鉛単体物質のレーザ蒸発法により製造することができる。
フラーレンは、60個以上の炭素原子が強く結合して球状又はチューブ状に閉じたネットワーク構造を形成したもので、サッカーボールと同形状の球形分子であるC60が代表的であるが、C70、C80、C90のような高次フラーレンも用いることができる。
【0022】
カルビン系材料は、主鎖骨格の一部または全部にポリイン構造またはキュムレン構造を有する炭素材料である。カルビン系材料は、物理的方法、化学的方法により製造することができる。物理的方法としては、(a)グラファイトのイオンスパッタリング或いはアーク放電によってカルビンを含む炭素材料を製造する方法、(b)ポリ塩化ビニル膜に真空中でレーザーを照射し、カルビン状炭素材料を得る方法等が挙げられる。また、化学的方法としては、(c)アセチレンの脱水素反応を塩化銅溶液中で行う方法、(d)ポリアセチレンを塩素化し、立体規則性に優れたハロゲン化ポリアセチレンを作り、その脱ハロゲン化水素を行う方法、(e)アセチレンを酸素存在下で、第一銅塩と配位子としての第三級アミンからなる触媒を用いて合成する方法(特公平3−44582号公報)、(f)ジヨードアセチレンのニッケル触媒存在下での電極還元による方法等が挙げられる。
上記のカーボンナノ材料の中では、特にカーボンナノチューブが好ましい。
これらのカーボンナノ材料は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明の(C)カーボンナノ材料としてカーボンナノチューブを用いる場合、外径は好ましくは0.5〜120nm、より好ましくは1〜100nmである。カーボンナノチューブの外径が0.5nm以上であると、分散が容易であり、導電(帯電防止)性が向上し、外径が120nm以下であると、成形品の外観が良好で、導電(帯電防止)性も向上する。カーボンナノ材料の外径が0.5〜120nmの範囲にあると、炭素繊維よりはるかに多くの本数(106倍程度)を配合することができるため、層状剥離の防止効果と少量での導電パスの形成効率が高く、コストパフォーマンスにも優れたものとなる。
カーボンナノチューブの長さは好ましくは500nm以上、より好ましくは800〜15,000nmである。カーボンナノチューブの長さが、500nm以上、特に800nm以上であると、導電(帯電防止)性が十分であり、長さが15,000nm以下であると、成形品の外観が良好で、分散が容易となる。
【0024】
カーボンナノチューブの末端形状は、必ずしも円筒状である必要はなく、例えば、円錐状等変形していても差し支えない。また、末端が閉じた構造、あるいは開いた構造のどちらでも用いることができるが、末端が開いた構造のものが好ましい。
カーボンナノチューブの末端が閉じた構造のものは、硝酸等化学処理をすることにより開口することができる。
【0025】
また、熱可塑性樹脂組成物の導電(帯電防止)性及び難燃性の観点から、カーボンナノチューブに不純物として含まれる非晶カーボン粒子の含有量は、20質量%以下が好ましい。非晶カーボン粒子を20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下にすることにより、導電(帯電防止)性能が向上するとともに、成形時の劣化防止に効果がある。
さらに、カーボンナノチューブの表面に酸処理、及び酸化処理等の表面処理を施して、その表面にカルボン酸や水酸基等の官能基を付与させると、導電性が向上する。官能基量は特に限定されないが、カーボンナノチューブの量に対して、0.5〜10質量%が好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その物性を損なわない限りにおいてその混合時、成形時に他の樹脂、添加剤、例えば、顔料、染料、強化剤、充填剤、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0027】
また、テルペン系化合物とカーボンナノ材料のマスターバッチを用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、従来から公知の方法で各成分を溶融混練する方法が挙げられる。
例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
製造方法として、各成分を一括投入して溶融混練してもよいが、予めテルペン系化合物とカーボンナノ材料を溶融混練後、熱可塑性樹脂等を溶融混練すると、導電(帯電防止)性が向上し、熱可塑性樹脂とテルペン系化合物の相構造が安定化される。
溶融混練の方法としては、テルペン系化合物とカーボンナノ材料を溶融した状態で、押出機の途中から熱可塑性樹脂等の他の成分を投入してもよいし、予め製造したテルペン系化合物とカーボンナノ材料のマスターバッチを用いてもよい。マスターバッチ中のカーボンナノ材料量としては、5〜40質量%が好ましい。
カーボンナノ材料を配合することにより、熱可塑性樹脂とテルペン系化合物の相構造が安定化され、溶融時のテルペン系化合物の再凝集や射出成形時のドメイン配向を低減することができる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の性状を有することから、例えば、OA機器、情報・通信機器、自動車部品又は家庭電化機用等で、UL−94の難燃規格で芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、ABS樹脂組成物、PET樹脂組成物でV−2クラス、PPS樹脂組成物,PPO樹脂組成物ではV−0クラスとして、好適に用いることができる。
本発明はまた、前記の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体をも提供する。成形方法には特に制限はなく、射出成形、射出圧縮成形、押出し成形、中空成形体等の成形法を適用することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1〜10及び比較例1〜7
表1及び表2に示す割合(質量部)で各成分を配合し、ベント式二軸押出成形機(機種名:TEM35、東芝機械株式会社製)に供給し、280℃で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを、120℃で10時間乾燥した後、成形温度280℃、(金型温度80℃)で射出成形して試験片を得た。
得られた試験片を用いて性能を下記方法によって評価し、その結果を表1に示した。
【0030】
用いた配合成分及び性能評価方法を次に示す。
〔配合成分〕
(A)熱可塑性樹脂
・芳香族ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)
商品名:A1900〔出光興産株式会社製〕、粘度平均分子量=19,500
・アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)
商品名:AT−05〔日本A&L社製〕
・ポリエステル樹脂(PET)
商品名:ダイヤナイトMA523(三菱レイヨン社製)
・ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)
商品名:LR2G(アイ・シー・イー・ピー社製)
・ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)
商品名:Blendex HP820(GEスペシャリティーケミカルズ社製)
(B)テルペン系化合物1:α-ピネン-フェノール共重合体
商品名:マイティエースG150(ヤスハラケミカル株式会社)
(B)テルペン系化合物2:α-ピネン共重合体
商品名:クリアロンP125(ヤスハラケミカル株式会社)
(C)カーボンナノ材料1:カーボンナノチューブ1
マルチウォール、直径10〜30nm、長さ1〜10μm、両端開口、非晶カーボン粒子量10%(サンナノテック社製)
(C)カーボンナノ材料2:カーボンナノチューブ2
表面処理(カルボン酸、水酸基付与)マルチウォール、直径10−30nm、長さ5〜15μm、両端開口、非晶カーボン粒子量3%(NTP社製、商品名:L−MWNT1030)
〔(B)+(C)〕:テルペン系化合物2(70質量%)とカーボンナノチューブ1(30質量%)を使用したマスターバッチ。前記二軸押出機(TEM−35)を使用し、設定温度220℃で製造した。
【0031】
〔性能評価方法〕
(1)MI(メルトインデックス)
ASTM D-1238に準拠し、芳香族ポリカーボネート樹脂は280℃、その他は表2のMI欄に記載の温度とし、荷重1.2kgにて測定した。
(2)IZOD衝撃強度:ASTM D256に準拠。23℃〔肉厚1/8インチ(0.32cm)〕
(3)曲げ弾性率:ASTM D790に準じ、島津オートグラフAGS−10KNDを用いて曲げ速度3mm/min、測定温度23℃、湿度50%の条件で測定した。
(4)体積固有抵抗値:JISK6911に準拠(試験平板:80×80×3mm)。
(5)成形外観:目視により評価した。
(6)難燃性:UL94燃焼試験に準拠(試験片厚み:1.5mm)。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1、2より、実施例では、耐衝撃性、導電(帯電防止)性、難燃性及び成形外観に優れ、マスターバッチを用いると、耐衝撃性、導電(帯電防止)性、曲げ弾性率が更に向上することが分かる。
これに対し、PC樹脂単独(比較例1)では、導電(帯電防止)性がなく、流動性、剛性も低いことが分かる。PC樹脂にカーボンナノチューブのみを添加した場合、導電(帯電防止)性、流動性、難燃性の向上はなく、耐衝撃性が低く、成形外観もシルバー状となる(比較例2)。
カーボンナノチューブのみを添加したABS、PETでは導電(帯電防止)性、流動性、難燃性の向上はなく、成形外観がシルバー状となる(比較例4、5)ことが分かる。
カーボンナノチューブのみを添加したPPS、PPOでは、導電(帯電防止)性、流動性の向上はなく、成形外観がシルバー状となる(比較例6、7)。
また、PC樹脂とテルペン系化合物との配合でカーボンナノチューブを添加しないと(比較例3)、導電(帯電防止)性、難燃性に劣るだけではなく、耐衝撃性が極端に低く、成形品に層状剥離が起ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とテルペン系化合物とカーボンナノ材料の均一な相構造が得られるので、層状剥離がなく、導電(帯電防止)性、流動性、難燃性、耐衝撃性、耐曲げ性及び成形外観等に優れた成形体とすることができる。
従って、OA機器、情報・通信機器、自動車部品又は家庭電化機器等の電気・電子機器のハウジング又は部品、更には自動車部品等であって、PC樹脂、ABS樹脂組成物、PET樹脂組成物では難燃性がV−2程度、PPS樹脂組成物、PPO樹脂組成物では難燃性がV−0を要求される分野での用途拡大が期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂80〜99質量%及び(B)テルペン系化合物20〜1質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、(C)カーボンナノ材料0.1〜30質量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分の粘度平均分子量が、10,000〜40,000である請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)成分が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン及びカルビン系材料から選ばれる一種又は二種以上のカーボンナノ材料である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
カーボンナノチューブに含まれる非晶カーボン粒子の含有量が20質量%以下であり、カーボンナノチューブの外径が0.5〜120nm、及び長さが500nm以上である請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
(B)成分に(C)成分を加えて混練した後、この混練物に(A)成分を添加し、更に溶融混練することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体。


【公開番号】特開2006−291081(P2006−291081A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115347(P2005−115347)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】