説明

熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】耐熱性、溶融成形加工性および透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物および成形品を提供する。
【解決手段】
(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド1〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド99〜1重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であり、該熱可塑性樹脂組成物から作製した厚さ0.1mmのフィルムの全光線透過率が70%以上であり、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上の熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、このような熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリエーテルイミドと(B)芳香族ポリイミドが、構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1.0μmの分散構造を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、溶融成形加工性および透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。更に詳しくは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れた芳香族ポリイミド、耐熱性および溶融成形加工性に優れたポリエーテルイミドを混合してなる耐熱性、溶融成形加工性および透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルイミドは比較的、耐熱性が良好なエンジニアリングプラスチックとして良く知られている。ポリエーテルイミドは熱変形温度が200℃前後であり、さらに350℃以上の温度では流動性を有するために溶融成形が可能で、射出成形、押出成形が可能な優れた樹脂である。ここでポリエーテルイミドの熱変形温度を高めることができれば、耐熱性要求の厳しい、より多くの用途に展開が可能になる。
【0003】
特許文献1、2にはポリエーテルイミドが本来有する加工性に加え、耐熱性を改良する方法として、ポリエーテルイミドと特定の熱可塑性ポリイミドよりなるポリエーテルイミド樹脂組成物が示されている。しかしながら、これらの文献に記載された熱可塑性ポリイミドは結晶性が高く、当方で実験を行い検証した結果、耐熱性の向上は認められものの、透明性が失われるものであった。
【0004】
特許文献3には、熱可塑性樹脂の溶融成形加工性を改善する方法として、液晶性芳香族ポリイミドを、熱可塑性樹脂と混合してなる熱可塑性樹脂組成物が示されている。しかしながら、当方で実験を行い検証した結果、溶融成形加工性の向上は認められるものの、本発明の目的とする耐熱性の向上は見られておらず、また液晶性を有するため、透明性が失われるものであった。
【特許文献1】特開昭63−289067号公報
【特許文献2】特開平1−313561号公報
【特許文献3】特開平6−179816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリエーテルイミドが本来有する優れた加工性に加え、耐熱性、透明性が改良された熱可塑性樹脂組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記問題点を解決するために鋭意研究を行なった結果、ポリエーテルイミドに結晶化度が10%以下の芳香族ポリイミドを配合することで、加工性、耐熱性、透明性が改良された熱可塑性樹脂組成物が得られることを見いだした。このような熱可塑性樹脂組成物から作製した厚さ0.1mmのフィルムの全光線透過率は、70%以上のものを得ることができ、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上のものを得ることができる。さらに、芳香族ポリイミドとして結晶化度が10%以下のものを配合することで、ポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドからなる熱可塑性樹脂組成物において、特定の両相連続構造または分散構造を形成させることができ、このような構造の組成物とすることで、特に前記目的に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、1.(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド1〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド99〜1重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
2.熱可塑性樹脂組成物から作製した厚さ0.1mmのフィルムの全光線透過率が70%以上である1記載の熱可塑性樹脂組成物。
3.熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上である1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
4.熱可塑性樹脂組成物中で(A)ポリエーテルイミドと(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミドが、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
5.前記熱可塑性樹脂組成物における両相連続構造または分散構造が、スピノーダル分解により相分離させることによって形成されたものであることを特徴とする4記載の熱可塑性樹脂組成物。
6.前記熱可塑性樹脂組成物が、溶融混練を経て得られたものであることを特徴とする5記載の熱可塑性樹脂組成物。
7.前記熱可塑性樹脂組成物が、溶融混練時の剪断下で相溶化させた後、吐出後の非剪断下で相分離させることにより得られたものであることを特徴とする6記載の熱可塑性樹脂組成物。
8.(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド50〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド50〜1重量部からなることを特徴とする1〜7のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物。
9.(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド1〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド99〜1重量部とを、溶融混練時の剪断下で相溶化させた後、吐出後の非剪断下で相分離させることを特徴とする1〜8のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
10.1〜8のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐熱性、溶融成形加工性および透明性に優れた熱可塑性樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる(A)ポリエーテルイミドとしては、例えば米国特許第3803085号、同第3838097号、同第3843867号、同第3905942号及び同第4107147号に記載されているような当技術分野で周知のポリエーテルイミドが挙げられる。ポリエーテルイミド樹脂は、式(1)の構造単位を2以上含むものであり、10〜1000含むことが好ましく、さらに10〜500含むことがより好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、T及びRは置換及び非置換二価芳香族基から独立に選択される。一実施形態では、Tは−O−又は式−O−Z−O−基であり、−O−又はO−Z−O−基の二価結合は3,3’位、3,4’位、4,3’位又は4,4’位にあり、Zには以下の式(2)の二価基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、Qとしては、特に限定されないが、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数)及びそのハロゲン化誘導体(例えば特に限定されないがペルフルオロアルキレン基など)からなる群から選択される二価基、又は式−O−Z−O−の基が挙げられ、式中、−O−又は−O−Z−O−基の二価結合は3,3’位、3,4’位、4,3’位又は4,4’位にあり、Zとしては、特に限定されないが、式(2)の二価基がある。
【0015】
式(1)のRは、特に限定されないが、炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基及びそのハロゲン化誘導体、炭素原子数2〜20の直鎖又は枝分れアルキレン基、炭素原子数3〜20のシクロアルキレン基、又は次の一般式(3)の二価基のような置換又は非置換二価有機基がある。
【0016】
【化3】

【0017】
式中、Qとしては、特に限定されないが、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数)及びそのハロゲン化誘導体(例えば特に限定されないがペルフルオロアルキレン基など)からなる群から選択される二価基、又は式−O−Z−O−の基が挙げられ、式中、−O−又は−O−Z−O−基の二価結合は3,3’位、3,4’位、4,3’位又は4,4’位にあり、Zとしては、特に限定されないが、式(2)の二価基がある。
ポリエーテルイミドは、以下の式(4)の芳香族ビス(エーテル無水物)と式(5)の有機ジアミンとの反応を始めとする当業者に公知の様々な方法で製造できる。
【0018】
【化4】

【0019】
N−R−NH(5)
式中、T及びRはそれぞれ式(1)及び(2)で定義した通りである。また式(1)の構造単位を含むポリエーテルイミドは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、フルオロポリマーのような他のポリマーと共重合してもよい。
【0020】
(A)ポリエーテルイミドの原料となる、芳香族ビス(エーテル無水物)及び有機ジアミンの具体例は、例えば米国特許第3972902号及び同第4455410号に開示されている。式(4)の芳香族ビス(エーテル無水物)の具体例としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4’−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物及び4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4’−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、並びにこれらの2種以上を含む混合物が挙げられる。
【0021】
芳香族ビス(エーテル無水物)は、双極性非プロトン溶媒存在下でのニトロ置換フェニルジニトリルと二価フェノール化合物の金属塩との反応生成物の加水分解及びその後での脱水反応によって製造することができる。式(4)に属する好ましい芳香族ビス(エーテル無水物)としては、特に限定されないが、Tが次の式(6)のもので、エーテル結合が例えば3,3’位、3,4’位、4,3’位もしくは4,4’位にある化合物又はこれらの1種以上を含む混合物が挙げられる。
【0022】
【化5】

【0023】
ただし、Qは上記で定義した通りである。
【0024】
式(5)の有機ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、4−メチルノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、N−メチル−ビス(3−アミノプロピル)アミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、1,4−シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレン−ジアミン、5−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレン−ジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(2−クロロ−4−アミノ−3,5−ジエチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,4−ビス(b−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−b−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−b−メチル−o−アミノフェニル)ベンゼン、ビス(p−b−メチル−o−アミノペンチル)ベンゼン、1、3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン及びビス(4−アミノフェニル)エーテルである。これらの化合物の1種以上を含む混合物が存在してもよい。ジアミノ化合物は具体的には芳香族ジアミンとすることができる。さらに具体的にはジアミノ化合物は特にm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン及びこれらの混合物である。
【0025】
本発明で用いる(A)ポリエーテルイミドは、米国材料試験協会(ASTM)D1238に準拠して測定して0.1〜10グラム毎分(g/min)のメルトインデックスを有するものが好ましい。ポリエーテルイミドは、ポリスチレン標準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフで測定して、5000〜500000の重量平均分子量(Mw)、さらに具体的には10000〜80000のMwを有することが好ましい。かかるポリエーテルイミド樹脂は、25℃のm−クレゾール中で測定して、0.2デシリットル毎グラム(dl/g)を超える固有粘度、好ましくは0.35〜0.7dl/gの固有粘度を有する。かかるポリエーテルイミドの具体例を幾つか挙げると、ULTEM(登録商標)1000(数平均分子量(Mn)21000、Mw54000、多分散度2.5)、ULTEM(登録商標)1010(Mn19000、Mw47000、多分散度2.5)、ULTEM(登録商標)1040(Mn12000、Mw34000〜35000、多分散度2.9)、ULTEM(登録商標)XH6050(Mn23000〜26000、Mw52000〜58000、多分散度2.2)(すべてGE Plastics社から市販)又はこれらの1種以上を含む混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられるポリエーテルイミドは、特に制限されるものではないが、成形加工性と透明性の観点からULTEM(登録商標)1000、ULTEM(登録商標)1010が好ましく、中でもULTEM(登録商標)1010がより好ましい。
【0027】
本発明に用いられる(B)成分の結晶化度が10%以下の芳香族ポリイミドとしては、式(7)の有機ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを構成成分として含む芳香族ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。すなわち、次式(7)のジアミンと次式(10)のテトラカルボン酸二無水物とを有有機溶媒の存在下または不存在下において反応させ、得られたポリアミド酸を化学的にまたは熱的にイミド化して製造することができる。反応温度は通常250℃以下であり、反応圧力は特に限定されず、常圧で充分実施できる。また反応時間は使用するテトラカルボン酸二無水物、溶剤の種類、反応温度により異なり、通常中間生成物であるポリアミド酸の生成が完了するのに充分な時間反応させる。反応時間は24時間、場合によっては1時間以内で充分である。
【0028】
このような反応によりポリアミド酸が得られ、ついでこのポリアミド酸を100〜400℃に加熱脱水するか、または通常用いられるイミド化剤を用いて化学イミド化することにより芳香族ポリイミドが得られる。また、ポリアミド酸の生成と熱イミド化反応を同時に行って芳香族ポリイミドを得ることもできる。
N−R−NH ・・・(7)
式中Rは、炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基及びそのハロゲン化誘導体、炭素原子数2〜20の直鎖又は枝分れアルキレン基、炭素原子数3〜20のシクロアルキレン基、又は次の一般式(8)の二価基のような置換又は非置換二価有機基がある。
【0029】
【化6】

【0030】
式中、Qとしては、特に限定されないが、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数)及びそのハロゲン化誘導体(例えば特に限定されないがペルフルオロアルキレン基など)からなる群から選択される二価基、又は式−O−Z−O−の基が挙げられ、式中、−O−又は−O−Z−O−基の二価結合は3,3’位、3,4’位、4,3’位又は4,4’位にあり、Zとしては、特に限定されないが、式(9)の二価基がある。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
式中、Rは炭素数4〜27であり、かつ脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基および/または芳香族基が直接又は架橋員より相互に連結された非縮合多環式芳香族基である4価の基を表わす。
【0034】
この方法で使用される式(7)のジアミンとしては、次式(11)のエーテルジアミン、式(11)のエーテルジアミン以外のジアミン、例えばm−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン等が挙げられる。
【0035】
【化9】

【0036】
式中、Xは、直接結合、炭素数1〜10の二価の炭化水素基、イオウ、カルボニル基、チオ基、スルホニル基、エーテル基から成る群より選ばれた少なくとも一種の基を表わし、Y1、Y2、Y3及びY4はそれぞれ水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、塩素および/または臭素原子を表す。
【0037】
式(11)のエーテルジアミンとしては、式中のXが直接結合のものとして、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3−メチルビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’−ジクロロビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジクロロビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’,5,5’−テトラクロロビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’−ジブロモビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジブロモビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3’,5,5’−テトラブロモビフェニル、式中のXが炭化水素基であるものとして、〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、1,1−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2−〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−2−〔4−(3−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル〕プロパン、2−〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−2−〔4−(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、式中のXがイオウのものとして、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)−3−メトキシフェニル〕スルフィド、〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕〔4−(3−アミノフェノキシ)3,5−ジメトキシフェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)−3,5−ジメトキシフェニル〕スルフィド、式中のXがカルボニル基のものとして、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル〕ケトン、式中のXがスルホニル基のものとして、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル〕スルホン、式中のXがエーテル基のものとして、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、式中のXがその他のものとして、1,4−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェノキシ〕ベンゼン、1,4−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ〕ベンゼン、1,4−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、1,3−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、ビス〔4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル〕スルホンなどが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0038】
本発明において使用される式(7)のジアミンとしては、式(11)のエーテルジアミンが好ましく、得られる樹脂組成物の耐熱性および透明性の観点から、式(11)のエーテルジアミンにおいて、Xが直接結合、炭素数1〜10の二価の炭化水素基がより好ましく、直接結合であるものがさらに好ましい。
【0039】
また、上記芳香族ポリイミドの溶融流動性を損なわない範囲で上述のエーテルジアミン以外のジアミンを混合して用いることもできる。これらのジアミンは通常30重量%以下、好ましくは5重量%以下混合して用いられる。
【0040】
また、芳香族ポリイミドを製造するのに用いられる一方の原料であるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、式(10)において式中のRが、次の(a)〜(e)からなる群より選ばれた少なくとも1種のものと定義される。
(a)炭素数4〜9の脂肪族基
(b)炭素数4〜9の環式脂肪族基
(c)次式式(12)で表される単環式芳香族基
【0041】
【化10】

【0042】
(d)次式(13)で表される縮合多環式芳香族基
【0043】
【化11】

【0044】
(e)次式(14)で表される芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基
【0045】
【化12】

【0046】
具体的には式(10)中のRが脂肪族基であるエチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、式(10)中のRが環式脂肪族基であるものとしてはシクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、式中のRが単環式脂肪族基であるものとしてはピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、式(10)中のRが縮合多環式芳香族基である2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、式(10)中のRがその他のものとして、ビス(3,4ジカルボキシ)(p−フェニレンジオキシ)二無水物、式(14)中のX1 が−CO−基である3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、式(14)中のX1 が直接結合である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、式(14)中のX1 が脂肪族基である2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、式(14)中のX1 が−O−基であるビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、式(14)中のX1 が−SO −基であるビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などである。これらテトラカルボン酸二無水物は単独または2種以上混合して用いられる。
【0047】
上記テトラカルボン酸又はその二無水物の中でも、本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物の透明性と耐熱性の観点から、芳香族ポリイミドを構成するテトラカルボン酸又はその二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸又はその二無水物であることが好ましく、中でも、無水フタル酸、または下記化学式(15)で表される芳香族テトラカルボン酸又はその二無水物であることがより好ましく、無水フタル酸が40〜95モル%であり、式(15)で表される芳香族テトラカルボン酸又はその二無水物が5〜60モル%であることがさらに好ましい。
【0048】
【化13】

【0049】
式中、Rは式(14)で表される芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基である。
【0050】
また、本発明に用いられる芳香族ポリイミドは、この芳香族ポリイミドを製造する際に一般式(16)および/または一般式(17)で表される芳香族ジカルボン酸無水物および/または芳香族モノアミンを共存下に反応させて得られるポリマーの分子末端を封止した芳香族ポリイミドを含む。
【0051】
【化14】

【0052】
V−NH2(17)
式中ZおよびVはそれぞれ炭素数6〜15であり、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群から選ばれた少なくとも1種の2価及び1価の基を表す。
【0053】
一般式(16)で表されるカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、2,3−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4−ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、2,3−ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4−ビフェニルジカルボン酸無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、2,3−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、3,4−ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、1,2−ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物、1,2−アントラセンジカルボン酸無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、1,9−アントラセンジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物である。これらは単独、もしくは2種以上混合して用いても何等差し支えない。
【0054】
これらのカルボン酸無水物の中で、無水フタル酸が得られる芳香族ポリイミドの性能面及び実用面から最も好ましい。カルボン酸無水物を用いる場合、その量は、前記の一般式(7)で表される芳香族ジアミン1モルあたり0.001〜1.0モル比である。0.001モル未満では高温成形時に粘度の上昇がみられ、成形加工性低下の原因となる。また、1.0モルを越えると機械的特性が低下する。好ましい使用量は0.01〜0.5モルの割合である。
【0055】
また、一般式(17)で示される芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2,3−キシリジン、2,6−キシリジン、3,4−キシリジン、3,5−キシリジン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−ブロモアニリン、m−ブロモアニリン、p−ブロモアニリン、o−ニトロアニリン、m−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−アニシジン、m−アニシジン、p−アニシジン、o−フェネジン、m−フェネジン、p−フェネジン、o−アミノベンズアルデヒド、m−アミノベンズアルデヒド、p−アミノベンズアルデヒド、o−アミノベンゾニトリル、m−アミノベンゾニトリル、p−アミノベンゾニトリル、2−アミノビフェニル、3−アミノビフェニル、4−アミノビフェニル、2−アミノフェニルフェニルエーテル、3−アミノフェニルフェニルエーテル、4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−アミノベンゾフェノン、3−アミノベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、2−アミノフェニルフェニルスルフィド、3−アミノフェニルフェニルスルフィド、4−アミノフェニルフェニルスルフィド、2−アミノフェニルフェニルスルホン、3−アミノフェニルフェニルスルホン、4−アミノフェニルフェニルスルホン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、1−アミノ−2−ナフトール、2−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−2−ナフトール、7−アミノ−2−ナフトール、8−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン、9−アミノアントラセン等が挙げられる。これらの芳香族モノアミンは、アミンまたはジカルボン酸無水物と反応性を有しない基で置換されても差し支えないし、単独もしくは2種以上混合して用いても何等差し支えない。
【0056】
芳香族モノアミンを用いる場合、その量は前記一般式(10)で表されるテトラカルボン酸二無水物1モル当り、0.001〜1.0モル比である。0.001モル未満では、高温成形時に粘度の上昇がみられ成形加工性低下の原因となる。また、1.0モル比を越えると機械的特性が低下する。好ましい使用量は、0.01〜0.5モルの割合である。
【0057】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる芳香族ポリイミドは、結晶化度が10%以下のものを使用する。結晶化度が5%以下の芳香族ポリイミドが好ましく、完全非晶であることがより好ましい。用いる芳香族ポリイミドの結晶化度が10%を超える場合、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の全光線透過率および200℃における貯蔵弾性率が低下する。
【0058】
本発明に用いられる(B)成分の結晶化度が10%以下の芳香族ポリイミドとして好ましいものは、下記一般式(18)、(19)で表される繰り返し構造単位を有する芳香族ポリイミドであり、式(18)で表される繰り返し構造単位が40モル%以上であり、式(19)で表される繰り返し構造単位が5〜60モル%である非晶性芳香族ポリイミドであることがより好ましい。この芳香族ポリイミドの具体例としては三井化学(株)製;商品名オーラムPD450Mが挙げられる。
【0059】
【化15】

【0060】
式中、Rは式(10)で定義したRである。
【0061】
ここで、芳香族ポリイミドの結晶化度は以下の方法で測定した値である。
【0062】
芳香族ポリイミドを350℃で10分間アニール処理した後、20℃/分の測定条件で25℃から425℃の範囲でDSC測定を行い、融解エネルギーΔHを求める。次にアニールしていない芳香族ポリイミドを用い、20℃/分の測定条件で25℃から425℃の範囲でDSC測定を行い、結晶化エネルギー(ΔHcc)と融解エネルギー(ΔH)を求める。
【0063】
芳香族ポリイミドの結晶化度Dc1は、下式(20)のように定義する。
c1=((ΔH−ΔHcc)/ΔH)×100(20)
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物における、熱可塑性樹脂組成物中の芳香族ポリイミドの結晶化度は10%以下である必要があり、1%以下がより好ましく、0%が最も好ましい。結晶化度が10%を超える場合、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の200℃における貯蔵弾性率が低下する。
【0064】
この熱可塑性樹脂組成物中の芳香族ポリイミドの結晶化度Dc2は、以下の方法で測定する。
【0065】
熱可塑性樹脂ペレットを所定温度で10分間加熱プレスした後、急冷し、厚さ0.1mmのフィルムを作製する。このフィルムを用い、20℃/分の測定条件で25℃から425℃の範囲でDSC測定を行い、結晶化エネルギー(ΔHcc)と融解エネルギー(ΔH)を求める。
【0066】
熱可塑性樹脂組成物中の芳香族ポリイミドの結晶化度Dc2は、熱可塑性樹脂組成物中の芳香族ポリイミドの重量分率をxとしたとき、下式(21)のように定義する。
c2=((ΔH−ΔHcc)/ΔH)/x×100(21)
尚、ΔHは上記(20)式中の芳香族ポリイミド単体の融解エネルギー(ΔH)を指す。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物はポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドの合計を100重量部として、ポリエーテルイミド1〜99重量部に対し、芳香族ポリイミド99〜1重量部の範囲にあるように調整される。ポリエーテルイミド85〜95重量部に対し、芳香族ポリイミド15〜5重量部が好ましく、ポリエーテルイミド92〜94重量部に対し、芳香族ポリイミド8〜6重量部がより好ましい。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、芳香族ポリイミドによる耐熱性向上効果は少量でも認められ、その芳香族ポリイミドの組成割合の下限は1重量部であるが、好ましくは5重量部以上、より好ましくは6重量部以上である。
【0069】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ポリエーテルイミドによる溶融加工性向上効果は少量でも認められ、その芳香族ポリイミドの組成割合の下限は1重量部であるが、好ましくは85重量部以上、さらに好ましくは92重量部以上である。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、該熱可塑性樹脂組成物から作製した厚さ0.1mmのフィルムの全光線透過率が70%以上であり、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。芳香族ポリイミドとして結晶化度10%以下のものを用いることで、熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムの全光線透過率が70%以上のものを得ることができ、すぐれた透明性を有しているといえる。
【0071】
本発明では、ペレットを加熱プレス(300℃×5分間)することにより厚さ0.1mmのフィルムを作製し、日本電色社製ヘーズ・メーター(商品名「NDH−200」)を用いて全光線透過率を測定する。
【0072】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上である。好ましくは2GPa以上、更に好ましくは2.5GPa以上、最も好ましくは3.0GPa以上である。芳香族ポリイミドとして結晶化度10%以下のものを用いることで、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上のものを得ることができ、優れた耐熱性を有していることがわかる。
【0073】
貯蔵弾性率(E’)の測定は、長さ50mm、幅15mmの試験片を作製し、SII製DMS6100を用い、引張モードにて、周波数1Hz、チャック間距離20mm、昇温速度2℃/分、23℃〜300℃で行う。さらに温度−貯蔵弾性率(E’)曲線から、200℃における貯蔵弾性率(E’)を読みとる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリエーテルイミドと(B)結晶化度が10%以下の芳香族ポリイミドを配合することで、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造に構造制御された樹脂組成物を得ることができる。
【0075】
かかる構造物を得るためには、(A)ポリエーテルイミドと(B)芳香族ポリイミドとが、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることが好ましい。さらにこの構造形成の実現のためには、ポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドとが、後述の部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系であることが好ましい。
【0076】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、これらの組成に対して、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な全領域において相溶する相溶系や、逆に全領域で非相溶となる非相溶系や、ある領域で相溶し、別の領域で相分離状態となる、部分相溶系があり、さらにこの部分相溶系では、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離する場合と、核生成と成長によって相分離する場合がある。
【0077】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。本発明で好ましい3成分以上からなるポリマーアロイは、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系であり、この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる部分相溶系の構造で代替できることから、以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0078】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0079】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0080】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0081】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0082】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0083】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]-1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
ここで本発明でいうところの両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0084】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明で規定する構造を得るには、この最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0085】
また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0086】
ここで本発明にいうところの分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御されているが、スピノーダル分解の初期過程の構造周期を0.001〜0.1μmの範囲に制御することで、上述の中期過程以降で波長および濃度差が増大しても、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御することができる。より優れた耐熱性および透明性を得るためには、構造発展させた後、構造周期0.001〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜0.5μmの範囲の分散構造に制御することが好ましく、さらには、構造周期0.001〜0.1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜0.1μmの範囲の分散構造に制御することがより好ましい。かかる構造周期の範囲、および粒子間距離の範囲に制御することにより本発明効果が得られるが、さらに濃度差を十分発達せしめることで、より優れた透明性および耐熱性を有する構造物を効果的に得ることができる。
【0088】
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.01〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.01〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0089】
またこれらのスピノーダル分解による両相連続構造、もしくは分散構造を確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。これは例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることの確認が必要である。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造を持つ証明であり、その周期Λm は、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θm を用いて次式により計算することができる。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
上記スピノーダル分解を実現させるためには、ポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドとを相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
【0090】
まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
【0091】
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0092】
次に上記溶融混練により相溶状態とした樹脂組成物をスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。本発明においては前記の如く、初期過程の構造周期を特定の範囲に制御した後、中期過程以降でさらに構造発展させて本発明で規定する特定の両相連続構造もしくは、分散構造とすることが好ましい。
【0093】
この初期過程で特定の構造周期に制御する方法に関しては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で、かつ上述の熱力学的に規定される構造周期を小さくするような温度で熱処理することが好ましく用いられる。ここでガラス転移温度とは、示差走査熱量計(DSC)にて、室温から20℃/分の昇温速度で昇温時に生じる変曲点から求めることができる。
【0094】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。また該熱処理温度を結晶性樹脂の結晶融解温度以上とすることは、熱処理による構造発展を効果的に得られるため好ましく、また該熱処理温度を結晶融解温度±20℃以内とすることは上記構造発展の制御を容易にするために好ましく、さらには結晶融解温度±10℃以内とすることがより好ましい。
【0095】
またスピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間で相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
【0096】
本発明においてポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドとを上記スピノーダル分解により相分離させて本発明の熱可塑性樹脂組成物とするには、前述したようにポリエーテルイミドと部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系である樹脂を組み合わせることが好ましい。
【0097】
一般に部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critical solution temperature略してUCST)と呼ぶ。
【0098】
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
【0099】
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分解するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分解は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。かかる溶融混練時の剪断下により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。この場合における相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、種々の剪断条件下での相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。また上記射出成形機の可塑化工程での相溶化を確実に実現させる方法として、予め2軸押出機で溶融混練し相溶化させ、吐出後氷水中などで急冷し相溶化状態で構造を固定させたものを用いて射出成形する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0100】
さらに相溶系においても化学反応に伴う分子量変化等によって不安定状態となり相分解するいわゆる反応誘発型相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能である。例えばポリマーアロイを構成する樹脂成分の原料、オリゴマー或いは低分子量物など、最終的に含まれる樹脂成分の前駆体が残りの樹脂成分と相溶系であって、上記モノマー、オリゴマー或いは低分子量物を高重合度化し、アロイ化すべき樹脂とした場合に他の樹脂成分と相分離を生じるような場合、ポリマーアロイを構成する樹脂成分のうち少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で、化学反応せしめることによりスピノーダル分解を誘発せしめることが可能である。この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの反応誘発型相分解は、スピノーダル曲線が分子量変化により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。またこの場合、重合や架橋による分子量変化に伴い、ガラス転移温度や結晶性樹脂の場合結晶融解温度が変化し、さらには分子量変化による相溶解から相分解への変化は系によって各々異なるため、相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、一概にはいえないが、種々の分子量との組み合わせでの相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。
【0101】
また、本発明を構成するポリエーテルイミドおよび芳香族ポリイミドに、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどのコポリマーである第3成分を添加することは、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましく用いられる。この場合通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0102】
本発明による熱可塑性樹脂組成物を混合調製するにあたっては、次に示す方法などは好ましい方法である。
(1)ポリエーテルイミド粉末と芳香族ポリイミド粉末を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ドラムプレンダー、タンブラーブレンダー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混練し粉状とする。
(2)芳香族ポリイミド粉末をあらかじめ有機溶媒に溶解あるいは懸濁させ、この溶液あるいは懸濁液にポリエーテルイミドを添加し、均一に分散または溶解させた後、溶媒を除去し、粉状とする。
(3)本発明の芳香族ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液中に、ポリエーテルイミドを溶解または懸濁させた後、100〜400℃に加熱処理するか、または通常用いられるイミド化剤を用いて化学イミド化した後、溶剤を除去して粉状とする。
【0103】
このようにして得られた熱可塑性樹脂組成物は、そのまま各種成形用途、すなわち射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、押出成形などに用いられるが、溶融ブレンドしてから用いるのはさらに好ましい方法である。
【0104】
ことに前記組成物を混合調製するにあたり、粉末同士、ペレット同士、あるいは粉末とペレットを混合溶融するのも簡易で有効な方法である。
【0105】
溶融ブレンドには、通常のゴムまたはプラスチック類を熔融ブレンドするのに用いられる装置、例えば熱ロール、バンバリーミキサ−、プラベンダー、押出機などを利用することができる。溶融温度は配合系が溶融可能な温度以上で、かつ配合系が熱分解し始める温度以下に設定されるが、その温度は通常250〜400℃、好ましくは280〜350℃、より好ましくは300℃〜330℃である。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、均一溶融ブレンド体を形成し、かつ生産性の高い成形方法である押出成形または射出成形が好適であるが、その他のトランスファー成形、圧縮成形、焼結成形、押出しフィルム成形などを適用してもなんら差し支えない。
【0107】
本発明においては、強度及び寸法安定性等を向上させるため、必要に応じて充填材を用いてもよい。充填材の形状としては繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状の充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。かかる充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0108】
強度および寸法安定性等を向上させるため、かかる充填剤を用いる場合、その配合量は特に制限はないが、通常熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して1〜400重量部配合される。
【0109】
なお本発明の熱可塑性樹脂組成物に対して、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤、着色材などの通常の添加剤を一種以上添加することができる。
【0110】
これらの添加剤は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、少なくとも2成分の樹脂を配合する際に同時の添加する方法や、予め2成分の樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0111】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、従前利用可能であったポリエーテルイミドよりも高い使用温度が要求される製品に有効に用いることができる。かかる製品は、特に限定されないが、たとえば自動車、事務機器、電気・電子機器、自動省力化機器、航空、宇宙機器、一般産業機器のような用途が挙げられる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0113】
なお、以下の実施例及び比較例では、次の各樹脂を用いた。
ポリエーテルイミド:ULTEM(登録商標)1010(GEプラスチックス社製)
芳香族ポリイミド1:AURUM(登録商標) PD450(三井化学製)、軟化温度390℃、結晶化度12%
芳香族ポリイミド2:AURUM(登録商標) PD450M(三井化学製)、軟化温度380℃、結晶化度0%
【0114】
[全光線透過率]
ヘーズ・メーター:日本電色社製、NDH−200(商品名)
【0115】
[貯蔵弾性率(E’)]
0.1mm厚のフィルムから、長さ50mm、幅15mmの試験片を切り出し、SII製DMS6100を用い、曲げモードにて、周波数1Hz、チャック間距離20mm、昇温速度2℃/分、23℃〜300℃で測定した。さらに貯蔵弾性率(E’)−温度曲線から、200℃における貯蔵弾性率を読みとった。
【0116】
実施例1
ポリエーテルイミドと芳香族ポリイミドとを、表1に示した割合で配合し混合した後、押出温度320℃に設定した二軸押出機(日本製鋼所製TEX30α、L/D=45.5)に供給し、ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、ペレタイズした。
【0117】
作製したペレットを加圧プレス(320℃×3分間、プレス圧力:5MPa)でシート化し、得られたシート(厚み0.1mm)を用いて全光線透過率の測定を行った。
次に長さ×幅×厚み=50mm×15mm×0.1mmのサンプルを切り出し、粘弾性測定装置を行い、200℃における貯蔵弾性率(E’)を表1に記載した。
【0118】
さらに超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行い、構造周期、構造の状態を観察し、それぞれの結果を表1に記載した。
【0119】
実施例2〜5
配合およびシート作製条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により評価を行い、結果を表1に記載した。
【0120】
比較例1〜4
配合およびシート作製条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により評価を行い、結果を表1に記載した。
【0121】
比較例5
使用する芳香族ポリイミドを、特開平06−179816における合成例−1の液晶性ポリイミド(結晶化度40%)に変更した以外は、実施例3と同様の方法により評価を行い、結果を表1に記載した。
【0122】
実施例1〜5の熱可塑性樹脂組成物は透明性、耐熱性および加工性全てに優れるのに対し、比較例1〜5は透明性、耐熱性および加工性のいずれかが劣っていることは明らかである。
【0123】
【表1】

【0124】
これら実施例の樹脂組成物はポリエーテルイミドの特性を有するとともに、耐熱性を兼備していることから、たとえば自動車、事務機器用、電気・電子機器用、自動省力化機器用、航空、宇宙機器用、一般産業機器用などあらゆる産業分野における部品の素材として広く活用することができるので、この発明の意義はきわめて大きいと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド1〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド99〜1重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物から作製した厚さ0.1mmのフィルムの全光線透過率が70%以上である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の、200℃における貯蔵弾性率(E’)が1.5GPa以上である請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物中で(A)ポリエーテルイミドと(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミドが、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物における両相連続構造または分散構造が、スピノーダル分解により相分離させることによって形成されたものであることを特徴とする請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物が、溶融混練を経て得られたものであることを特徴とする請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物が、溶融混練時の剪断下で相溶化させた後、吐出後の非剪断下で相分離させることにより得られたものであることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド50〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド50〜1重量部からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
(A)と(B)の合計を100重量部として、(A)ポリエーテルイミド1〜99重量部と(B)結晶化度10%以下の芳香族ポリイミド99〜1重量部とを、溶融混練時の剪断下で相溶化させた後、吐出後の非剪断下で相分離させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2009−173847(P2009−173847A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34183(P2008−34183)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】