説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法および熱可塑性樹脂組成物

【課題】柔軟性、耐熱性、耐磨耗性のバランスに優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂とPTFE粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性樹脂と前記PTFE粒子とを含む混合物を熱加工した熱加工品を327℃以上の加熱最大温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記加熱最大温度から293℃まで、冷却速度が10℃/min以下となるように前記熱加工品を冷却する冷却工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物の製造方法および熱可塑性樹脂組成物に関する。特に、本発明は、耐熱性や耐磨耗性に優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、耐熱性、耐薬品性、高摺動性、低摩耗特性、化学的安定性などに優れた特性を有する熱可塑性樹脂である。PTFEは、医療分野、電気・電子部品分野、機構部品分野、自動車部品分野、OA機器部品分野など幅広い分野で使用されている。
PTFEは、上述の優れた特性を有する反面、成形加工性に劣るという欠点を有する。すなわち、一般的な熱可塑性樹脂に対する加熱する加熱加工手法をPTFEの成形加工に適用しようとすると、加熱されたPTFEは溶融せずに分解してしまう。
【0003】
このような欠点を改善する目的で、溶融性のフッ素樹脂をはじめとして、PTFEの代替となる熱可塑性樹脂組成物が開発されている。
例えば特許文献1には、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)にPTFE粒子を混合し、機械的特性および成形性を改善させた溶融成形用共重合体組成物が記載されている。
また、特許文献2、3、4にはPTFEよりも高融点の熱可塑性樹脂にPTFE粒子を混合し、PTFEのみからなる樹脂に比べて耐熱性を低下させることなく、PTFEのもつ摺動性などを付与させた組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−327770号公報
【特許文献2】特開平5−17652号公報
【特許文献3】特開平8−157678号公報
【特許文献4】特開平10−316842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の溶融成形用共重合体組成物は、基材であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)そのものの耐熱性がPTFEより低いので、PTFEと比較して耐熱性が劣る。
【0006】
また、特許文献2、3、4に記載の組成物は、熱可塑性樹脂とPTFE粒子とを混練する際にPTFE粒子がその融点以上に加熱され、PTFE粒子の結晶化度が著しく低下する。そのため、特許文献2、3、4に記載の組成物では、PTFEとしての上記特性そのものが低下している。また、熱可塑性樹脂とPTFE粒子とをPTFEの融点以下で混練した場合には、混練時のせん断によってPTFE粒子に大きな歪みが発生し、PTFE粒子の結晶性が低下し、PTFEとしての上記特性そのものが低下する。
このように、特許文献1〜4に記載の組成物は、PTFEの特性を十分に発揮させることができず、PTFEの代替としては不十分である。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、柔軟性、耐熱性、耐磨耗性のバランスに優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に添加されたPTFE粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、前記熱可塑性樹脂と前記PTFE粒子とを含む混合物を熱加工した熱加工品を327℃以上の加熱最大温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記加熱最大温度から293℃まで、冷却速度が10℃/min以下となるように前記熱加工品を冷却する冷却工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記冷却工程において、293〜297℃の範囲で5分以上前記熱加工品を保持することが好ましい。
【0010】
また、前記加熱工程の前に、前記混合物を金型内で成形して前記熱加工品を得る熱加工工程をさらに備え、前記加熱工程および前記冷却工程は、前記熱加工品を金型から取り出さずに金型内で行ってもよい。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂とPTFE粒子を含む熱可塑性樹脂組成物であり、前記PTFE粒子の結晶化度が55以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂100重量部に対して、PTFE粒子を20〜900重量部含むことが好ましい。
また、PTFE粒子の平均粒径が200μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、柔軟性、耐熱性、耐磨耗性のバランスに優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、耐熱性、耐磨耗性のバランスに優れ、かつ成形加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法および熱可塑性樹脂組成物について説明する。
まず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の材料について説明する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるPTFE粒子と、を含有している。
【0016】
熱可塑性樹脂は、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミド(PA)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、およびポリアリレート(PAR)を単独で用いたり、これらの樹脂材料から2種類以上を混合したりして用いることができる。
【0017】
PTFE粒子は、用途に合わせて最適な粒径のものを選択して熱可塑性樹脂に混合することができる。たとえば、本実施形態では、PTFE粒子は、乾式レーザー法によって測定した平均粒径が200μm以下である。また、熱可塑性樹脂中のPTFE粒子の結晶化度は55以上である。
なお、複数の粒径のPTFE粒子を組み合わせて熱可塑性樹脂に混合しても良い。
【0018】
次に、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。
図1は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明するためのフローチャートである。
まず、上述の熱可塑性樹脂とPTFE粒子とを混合する(混合工程S1)。
混合工程S1においては、熱可塑性樹脂100重量部に対して20〜900重量部のPTFE粒子を添加する。
【0019】
次に、熱可塑性樹脂とPTFE粒子との混合物を溶融混練(熱加工)する(溶融混練(熱加工)工程S2)。
溶融混練工程S2においては、溶融混練を行うための装置には特に制限はなく、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等、公知の混練機等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、加圧ニーダー等を用いることにより、熱可塑性樹脂とPTFE粒子とを混練しながら混練済みの混合物(熱加工品)を連続的に排出させることもできる。
熱可塑性樹脂とPTFE粒子とが混練されたら、溶融混練工程S2は終了する。
なお、溶融混練された混合物(熱加工品)を、成形型内に充填したり押し出し成形したりして所定の形状に成形してもよい。
【0020】
次に、溶融混練された混合物(熱加工品)を加熱最大温度まで加熱する(加熱工程S3)。
加熱工程S3では、まず、雰囲気温度が330℃(本実施形態における加熱最大温度)に調整された加熱炉内に熱加工品を配置する。なお、加熱工程S3における加熱炉の雰囲気温度は330℃に限られず、熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率が10MPa以上であれば330℃以上とされてもよい。
加熱炉内に配置された熱加工品は、熱加工品中のPTFE粒子の融点である327℃を超える温度まで加熱される。これにより、熱加工品中のPTFE粒子は溶融する。また、熱可塑性樹脂は330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上であるので、熱加工品の形状は維持される。
【0021】
なお、熱可塑性樹脂組成物が330℃の雰囲気温度下に置かれたとき、周辺雰囲気との熱のやりとりによってまず熱加工品の表層の温度が上昇し、次いで熱加工品の内部の温度が上昇する。このため、熱加工品の表層と内部では数℃の温度勾配が生じている。
また、加熱炉の雰囲気温度を327℃として表層と内部の温度を均一に327℃としてもよいが、この場合には、熱加工品全体の内部温度が327℃に達するまでにより長い時間を要する。加熱炉の雰囲気温度をPTFEの融点より高い温度とすることにより、熱加工品の内部まで短時間で327℃を越える温度にすることができ、組成物の生産性を向上させることができる。
【0022】
なお、加熱温度が327℃未満であると、熱可塑性樹脂組成物の溶融混練および成形加工において熱加工品を冷却することによって付与された結晶化度が維持されてしまい、熱加工品の結晶化度を高めることが困難になる。
【0023】
次に、加熱された熱加工品を、10℃/min以下の速度で冷却する(冷却工程S4)。
冷却工程S4では、PTFEの融点以上に加熱されたPTFE粒子は、10℃/min以下の速度で冷却することによって結晶化する。PTFEの結晶化は、PTFEの融点である327℃から293℃まで冷却する間に進行し、特に、297〜293℃の間で特に進行する。293℃未満の領域ではPTFEの結晶化の進行は小さい。PTFEの結晶化度は、熱加工品の冷却速度に依存する。特に、PTFEの結晶化度は、PTFEの融点である327℃以上の温度から293℃を下回る温度までの冷却速度によって決定される。熱加工品の冷却速度が小さいほどPTFEの結晶化度は大きくなる。なお、冷却速度が10℃/minより速いと、熱可塑性樹脂中のPTFE粒子の結晶化度を十分に高めることができなくなり、結果として耐磨耗性が低下する。
【0024】
また、結晶化が特に進行する297〜293℃の温度範囲内で所定時間熱加工品を保持することによって、さらに結晶化度を向上させることができる。たとえば、加熱炉内の雰囲気温度が293℃以上297℃以下の温度条件で5分間熱加工品を保持することによって、熱加工品中のPTFEの結晶化を進行させ、さらに、PTFEを均一に結晶化させることができる。なお、加熱炉内の雰囲気温度が293℃以上297℃以下の温度条件で熱加工品を保持する時間は、5分より長くてもよい。
【0025】
PTFEの耐磨耗性は、PTFEの結晶化度の影響を大きく受ける。すなわち、PTFEの結晶化度が大きいほど良好な耐磨耗性を示す。本実施形態では、加熱された熱加工品の結晶化を297〜293℃の温度領域にて進行させるので、熱可塑性樹脂中のPTFE粒子の結晶化度を55以上とすることができる。PTFE粒子に用いられるPTFEの結晶化度は、PTFEの比重を計測することで確認することができる。PTFEの比重は2.17であるが、結晶化度の大小によって数%〜10%程度の比重の差が生じる。たとえば、PTFE粒子の結晶化度が55のときのPTFEの比重は2.08である。なお、比重の計測方法としては、一般的な手法を用いることができる。たとえば、混練された材料の比重計測結果とブレンド比から比重を算出してもよいし、樹脂分を溶解させてPTFE粒子を取り出して比重を計測してもよい。
【0026】
熱可塑性樹脂もPTFE粒子も炭素骨格を有する材料であり、それらの熱収縮量に大きな差はない。しかしながら、PTFE粒子は、熱加工品を冷却する過程で進行する結晶化に伴ってさらに収縮する。PTFEの比重の差は、結晶化に伴う熱収縮による体積変化によって主に生じる。PTFE粒子の体積変化によって、PTFE粒子の粒径は結晶化前と比較して5%以下の範囲で減少する。
PTFE粒子が熱収縮すると、PTFE粒子と熱可塑性樹脂との間に僅かに隙間が生じる。結晶化に伴う熱収縮で発生する隙間が10μm以下であれば、PTFE粒子が熱可塑性樹脂から脱落しにくい。また、PTFE粒子の粒径の減少が僅かであれば、PTFE粒子の熱収縮は、周囲の熱可塑性樹脂によっては阻害されにくい。本実施形態では、PTFE粒子の平均粒径が200μm以下であるので、結晶化によって5%以下の径の変化が生じてもその大きさは10μm以下である。このため、PTFEは十分に結晶化され、耐磨耗性が高まる。
【0027】
熱加工品の温度が293℃以下となった後は、熱加工品の冷却速度を10℃/min以下とする必要はなく、たとえば加熱炉から熱加工品を取り出して空冷してもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の熱可塑性樹脂の製造方法によれば、加熱工程S3においてPTFE粒子の融点以上に熱加工品の温度を上げ、冷却工程S4において10℃/min以下の冷却速度で熱加工品を冷却するので、PTFE粒子を結晶化を進行させることができる。これにより、PTFE粒子の結晶化度を十分に高め、結果として耐磨耗性に優れた熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。その結果、柔軟性、耐熱性、耐磨耗性のバランスに優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0029】
また、冷却工程S4において293〜297℃の温度範囲内で5分以上熱加工品を保持することにより、樹脂組成物中のPTFE粒子の結晶化度をさらに高め、また、PTFE粒子を均一に結晶化させることができる。その結果、PTFE粒子そのものの耐熱性や摩耗特性をさらに向上させることができる。
【0030】
(変形例)
次に、上述の実施形態の変形例1について説明する。
本変形例では、溶融混練工程S2が終了した熱加工品に対して、加熱工程S3および冷却工程S4を、熱加工品を成形するための金型内で行う点で上述の実施形態と方法が異なっている。
本変形例で用いる金型は、金型内に充填された熱加工品に対して加熱および冷却を行うことができるように構成されている。
金型と熱加工品とは接触しており、加熱工程S3および冷却工程S4では、熱加工品と金型との間で熱のやり取りが生じる。金型は空気よりも熱伝導性が高いので、本変形例の場合には、加熱炉の雰囲気温度を調整して熱加工品を加熱および冷却する場合と比較して、熱加工品の温度制御をより高精度に行える。また、金型によって成形された成形品全体でPTFE粒子を均一かつ高い結晶化度とすることができる。その結果、熱可塑性樹脂とPTFE粒子との熱加工品から、耐熱性や耐磨耗性に優れ、かつ成形加工性に優れる熱可塑性樹脂組成物の成形品を製造することができる。
【0031】
次に、以下に示す各実施例および比較例に基づいて、本発明の熱可塑性樹脂組成物についてより詳細に説明する。
下記表1は、実施例をまとめて示す表であり、下記表2は、比較例をまとめて示す表である。表1、表2に示す各熱処理条件は、成形品を加熱最大温度まで昇温し、降温速度制御温度まで降温速度にて温度を低下させ、必要であれば保持温度に達した際に保持時間で示した時間だけ保持することを示す。保持温度および保持時間における記号「−」は、成形品の温度を保持しない処理条件であることを示している。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
本発明の実施例、比較例に用いた原料は以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂
PES:スミカエクセルPES 4800G(住友化学株式会社製、330℃における貯蔵弾性率:120MPa、荷重たわみ温度:203℃(1.8MPa))
PSU:ユーデルP−3500(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製、330度における貯蔵弾性率:60MPa、荷重たわみ温度:174℃(1.8MPa))
PPSU:レーデルR−5000(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製、330度における貯蔵弾性率:85MPa、荷重たわみ温度:207℃(1.8MPa))
PFA:ネオフロンAP−210(ダイキン工業株式会社製、330度における貯蔵弾性率:1.2MPa、荷重たわみ温度:55℃(1.8MPa))
FEP:ネオフロンNP−20(ダイキン工業株式会社製、330度における貯蔵弾性率:0.7MPa、荷重たわみ温度:47℃(1.8MPa))
(2)PTFE粒子
モールディングパウダーM−18(ダイキン工業株式会社製、平均粒径40μm)
モールディングパウダーM−139(ダイキン工業株式会社製、平均粒径400μm)
【0035】
本発明の実施例、比較例の評価方法は以下の通りである。
(1)柔軟性
JIS K 7215に準拠し、デュロメータ硬さ・タイプDにて測定した。表面硬度が小さいほど良好な柔軟性を有していることを示す。試験片として厚さ6.3mmのものを加熱プレスによって作成した。試験片は、プレス温度が370℃であり、試験片の成形後に表1、表2に示す熱処理を施したものである。
【0036】
(2)耐熱性
JIS K 7191に準拠し、荷重たわみ温度を計測して耐熱性を評価した。測定荷重は1.8MPaである。荷重たわみ温度が高いほど良好な耐熱性を有していることを示す。試験片として厚さ4mm、80×10mmのものを加熱プレスによって作製した。試験片は、プレス温度が370℃であり、試験片の成形後に表1、表2に示す熱処理を施したものである。
【0037】
(3)耐磨耗性
JIS K 7218に準拠し、すべり摩耗試験による摩耗量で評価した。摩耗量が小さいほど良好な耐磨耗性を有していることを示す。試験片として厚さ1mm、30×30mmのものを加熱プレスによって作成した。試験片は、プレス温度が370℃であり、試験片の成形後に表1、表2に示す熱処理を施したものである。
相手材:S45Cリング(接触面積2cm
荷重:100N
速度:0.5m/s
温度:150℃雰囲気中
試験時間:60min
【0038】
(4)成形加工性
80t射出成形機で80mm×10mm×4mmの短冊を射出成形し、表1、表2に示した熱処理を施した後に、その外観(フローマークおよびヒケ発生の有無)を目視により観察した。成形加工性は、次の基準で評価した。
◎(良):フローマークおよびヒケの発生がない。
○(可):上記設定圧力ではフローマークおよびヒケの発生が見られるが、射出圧力、保持圧力を高めることで改善可能である。
×(不可):成形条件をいかに変えようともフローマークおよびヒケが発生する。
【0039】
(5)形状保持性
80t射出成形機で80mm×10mm×4mmの短冊を射出成形し、表1、表2に示した熱処理を成形後に施した後に、その形状保持性を目視により観察した。形状保持性は、次の基準で評価した。
◎(良):熱処理前後で成形品形状にほとんど変化がみられない。
○(可):熱処理前後でエッジ部の形状は若干丸みを帯びるものの、製品全体の形状にほとんど変化が見られない。
×(不可):熱処理後に明らかな形状変化が見られる。
【0040】
[実施例1]
実施例1では、まず、表1に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPESとPTFE M−18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に、得られたペレットから試験片を成形し、表1に示す熱処理条件下で熱処理を行い、夫々の試験に供した。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例1で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0041】
[実施例2]
実施例2は、上記実施例1とは別の樹脂成分を用いた例である。実施例2では、まず、表1に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPSU P−3500とPTFE M−18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に得られたペレットから試験片を作成し、表1に示す熱処理条件下で熱処理を行い、夫々の試験に供した。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例2で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0042】
[実施例3]
実施例3は、実施例1及び2とは別の樹脂成分を用いた例である。実施例3では、まず、表1に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPPSU R−5000とPTFE M18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に得られたペレットから試験片を作成し、表1に示す熱処理条件下で熱処理を施し、夫々の試験に供した。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例3で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0043】
[実施例4]
実施例4は、成形品を295℃で5分間保持した実施例である。実施例4では、まず、表1に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPES4800GとPTFE M−18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に得られたペレットから試験片を作成し、表1に示す熱処理条件下で熱処理を施し、夫々の試験に供した。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例4で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0044】
[実施例5]
実施例5は、実施例4と同一の試験片に対して、熱処理条件を変えて行ったものである。実施例5は、成形品を290℃で保持する点で実施例4と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例5で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0045】
[実施例6]
実施例6は、実施例4と同一の試験片に対して、熱処理条件を変えて行ったものである。実施例6は、成形品を300℃で保持する点で実施例4と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例6で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0046】
[実施例7]
実施例7は、実施例4と同一の試験片に対して、熱処理条件を変えて行ったものである。実施例7は、成形品を3分間保持する点で実施例4と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例7で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
上記実施例4、5、6、7を比較すると、荷重たわみ温度、磨耗量、および形状保持性の点において実施例4に示す条件が特に優れている。
【0047】
[実施例8]
実施例8では、まず、表1に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPES 4800GとPTFE M−18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に得られたペレットから試験片を作成し、表1に示す熱処理条件下で熱処理を施し、夫々の試験に供した。なお、本実施例では、金型内で熱処理を行った。金型内で熱処理をすることで、熱伝導率の高い金属と成形品の間で熱のやり取りを行うことになり、より高精度な温度制御が可能となる。その結果として、材料中(例えば表層と内部など)の温度プロファイルのばらつきが小さくなり、結晶化度の均一性が高まる。本実施例の評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例8で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0048】
[実施例9]
実施例9は、PTFE粒子の添加量を20重量部とした点で実施例1と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例9で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0049】
[実施例10]
実施例10は、PTFE粒子の添加量を900重量部とした点で実施例1と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例10で示す樹脂組成物は良好な特性を示している。
【0050】
[実施例11]
実施例11は、PTFE粒子の粒径を400μmとした点で実施例1と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、本発明の実施例11で示す樹脂組成物は、良好な特性を示している。なお、成形加工性および耐磨耗性の観点では、実施例11で示す樹脂組成物よりも、実施例1で示す樹脂組成物の方が優れている。
【0051】
[実施例12]
実施例12は、PTFE粒子の配合量が10重量部である点で実施例1、実施例9と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、PTFE粒子の配合量を10重量部とした実施例12の組成物は、表面硬度が高く、柔軟性の点で実施例1、9の組成物に劣るが、磨耗量、成型加工性、及び形状保持性の点で実施例1、9の組成物より優れている。
【0052】
[実施例13]
実施例13は、PTFE粒子の配合量を1000重量部とした点で実施例1、10と異なる。評価結果を表1に示す。
表1より明らかなように、PTFE粒子の配合量を1000重量部とした実施例13の組成物は、磨耗量、成形加工性、形状保持性の点で実施例1、10の組成物に劣るが、表面硬度が低く、柔軟性が高い点で実施例1、10の組成物より優れている。
【0053】
[比較例1]
比較例1は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa未満であるPFA AP−210を用いた比較例である。比較例1では、まず、表2に示す成分比(重量部)となるように、スクリュー径20mmの二軸混練機にPFA AP−210とPTFE M−18とを投入し、360℃、60rpmの条件で溶融混練し、ペレット化した。次に得られたペレットから試験片を作成し、表2に示す熱処理条件下で熱処理を施し、夫々の試験に供した。評価結果を表2に示す。
表2より明らかなように、330℃における貯蔵弾性率が10MPa未満であるPFA AP−210を用いた比較例1の組成物は、荷重たわみ温度および形状保持性の点で実施例1の組成物に劣る。
【0054】
[比較例2]
比較例2は、330℃における貯蔵弾性率が10MPa未満であるFEP NP−20を用いた点で比較例1と異なる。評価結果を表2に示す。
表2より明らかなように、330℃における貯蔵弾性率が10MPa未満であるFEP NP−20を用いた比較例2の組成物は、荷重たわみ温度および形状保持性の点で実施例1の組成物に劣る。
【0055】
[比較例3]
比較例3は、加熱最大温度が320℃である点で実施例1と異なる。評価結果を表2に示す。
表2より明らかなように、加熱最大温度が330℃より低い320℃である組成物は、組成物の荷重たわみ温度および磨耗量の点で実施例1の組成物に劣る。
【0056】
[比較例4]
比較例4は、降温速度を15℃/minとし、実施例1よりも急速に成形品を冷却した点が実施例1と異なる。評価結果を表2に示す。
表2より明らかなように、降温速度を上げて急速に冷却した組成物は、荷重たわみ温度および磨耗量の点で実施例1の組成物に劣る。
【0057】
[比較例5]
比較例5は、降温速度制御温度を300℃とした点で実施例1と異なる。すなわち、比較例5では、成形品の温度が300℃以下の温度範囲では冷却速度の制御が行われていない。評価結果を表2に示す。
表2より明らかなように、降温速度制御温度が300℃である比較例5の組成物は、荷重たわみ温度および磨耗量の点で実施例1の組成物に劣る。
【0058】
以上、本発明の実施形態について、実施例を踏まえて詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
たとえば、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の熱可塑性樹脂およびPTFE粒子に加えて、必要に応じてその他の成分が同時にあるいは任意の順に添加されていてもよい。
また、上述の実施形態で説明した加熱工程S3は、上述の溶融混練工程S2で用いた混練機の内部で行ってもよいし、溶融混練工程S2のあと混練機から熱加工品を取り出して別途上述の温度に調整された加熱炉内に熱加工品を配置して行ってもよい。
【0059】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、熱可塑性樹脂とPTFE粒子との混合物を成形する方法には特に制限はない。たとえば、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形など、熱可塑性樹脂の成形方法として通常公知の方法を使用し得る。必要に応じて、熱加工品の成形後に熱処理を施してもよく、その場合の加熱工程S3は、金型内部へ加熱流体を流し込むことによる手法でも、金型を加熱炉中へ配置し温度制御する手法でも、成形品を加熱炉中へ配置し温度制御する手法でも、いずれの手法でも行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の成形品としては、Oリング、カンシ栓、チューブ、容器など医療機器分野を初めとし、OA機器分野、電気電子機器分野、精密機器分野を初めとする工業用途、さらには自動車分野などが挙げられるが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
S1 添加工程
S2 溶融混練工程(熱加工工程)
S3 加熱工程
S4 冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に添加されたPTFE粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、
前記熱可塑性樹脂と前記PTFE粒子とを含む混合物を熱加工した熱加工品を327℃以上の加熱最大温度まで加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後、前記加熱最大温度から293℃まで、冷却速度が10℃/min以下となるように前記熱加工品を冷却する冷却工程と、
を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、293〜297℃の範囲で5分以上前記熱加工品を保持することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程の前に、前記混合物を金型内で成形して前記熱加工品を得る熱加工工程をさらに備え、
前記加熱工程および前記冷却工程は、前記熱加工品を金型から取り出さずに金型内で行うことを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂とPTFE粒子を含む熱可塑性樹脂組成物であり、前記PTFE粒子の結晶化度が55以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
330℃における貯蔵弾性率が10MPa以上である熱可塑性樹脂100重量部に対して、PTFE粒子を20〜900重量部含むことを特徴とする請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
PTFE粒子の平均粒径が200μm以下であることを特徴とする請求項4または5記載の熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−158682(P2012−158682A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18937(P2011−18937)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】