説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 生分解性樹脂を含む樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性の改良。
【解決手段】 生分解性樹脂(A)1〜86.49重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.49〜10重量%、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(C)3〜50重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)0.5〜40重量%および生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球的規模での環境問題として、石油化学製品の使用増加による石油資源の将来性が危ぶまれている。例えば、ポリ乳酸樹脂は植物であるとうもろこしや芋類を原料として得られる乳酸からなる樹脂であり、生分解性を有する一方で上記石油を原料としない環境対応型の樹脂として知られる。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、その生分解性から、特に高湿度環境下において長期使用に耐え得る耐久性が懸念され、またノッチ付き衝撃強度および、耐熱性に劣るといった欠点がある。
一方、ABS樹脂は、優れた物性バランスおよび成形加工性を有しており、広範な分野に利用されている。
このため、例えば特許文献1(特開2000−327847号公報)には、脂肪族ポリエステル構造を持つ重合体とABS樹脂を含むポリオレフィンを配合して、自然環境の中で崩壊する高分子の改良技術が提案されている。しかしながら、これら組成物は、耐衝撃性等の物性バランスが不十分で、高湿度環境下での成形品の成形及び使用において樹脂の崩壊や劣化が危惧されるほか、物性安定性について、特に生分解性樹脂の配合比が多い場合には、必ずしも満足できる材料とは言い難い。
また、特開2005−60637号公報(特許文献2)では、ポリ乳酸とABS樹脂のアロイに、カルボジイミド化合物等の耐湿熱剤の使用が提案されているが、耐衝撃性等の物性バランスにおいて不十分である。
さらに特開2004−269720号公報(特許文献3)、特開2005−171204号公報(特許文献4)には、ポリ乳酸とメタアクリル酸エステル系重合体からなる樹脂組成物が提案されているが、耐衝撃性が低いという問題がある。
さらには特開2006−28299号公報(特許文献5)には、ポリ乳酸とポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂からなる樹脂組成物が、また特開2006−8868号公報(特許文献6)には、ポリ乳酸とポリブチレンテレフタレート樹脂、さらにはポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂組成物が提案されているが、それぞれ耐衝撃性等の物性バランスに劣るという問題がある。
【特許文献1】特開2000−327847号公報
【特許文献2】特開2005−60637号公報
【特許文献3】特開2004−269720号公報
【特許文献4】特開2005−171204号公報
【特許文献5】特開2006−28299号公報
【特許文献6】特開2006−8868号公報
【特許文献7】特開2006−45486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、生分解性樹脂を含む樹脂組成物における上記の品質上の問題点の改良について鋭意検討した結果、生分解性樹脂に対し、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体と上記生分解性樹脂の末端基と反応する官能基を含有する重合体を配合してなる組成物が、耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性に優れた樹脂組成物であることを見い出し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、生分解性樹脂(A)1〜86.49重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.49〜10重量%、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(C)3〜50重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)0.5〜40重量%および生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する生分解性樹脂(A)としては、ポリエステル系の樹脂であり、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、およびポリブチレンサクシネート・カーボネート等のポリアルキレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート、ポリエチレンサクシネートが好ましい。市販されているこれら生分解性樹脂としては、例えば三井化学(株)製 商品名:レイシア、ユニチカ(株)製 商品名:テラマック、昭和高分子(株)製 商品名:ビオノーレ、BASF社製 商品名:エコフレックス、デュポン社製 商品名バイオマックス、(株)日本触媒製 商品名:ルナーレ、三菱瓦斯化学(株)製 商品名:ユーペック等が挙げられる。
【0007】
また、本発明に用いるゴム強化スチレン系樹脂(B)とは、ゴム状重合体の存在下にスチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体の1種または2種以上とを共重合してなる樹脂である。
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成することのできるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエンースチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、ポリクロロプレンなどのジエン系ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1−非共役ジエン共重合体、またポリブチルアクリレートなどのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム、さらにはこれらの2種以上のゴムからなる複合ゴム等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。これらのうち、特にジエン系ゴムが好ましい。
【0008】
スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、またスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体と共に用いることのできる他の共重合可能な単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル等の不飽和酸系単量体、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられ、それらはそれぞれ一種又は二種以上用いることができる。
【0009】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)を構成するゴム状重合体と単量体合計(スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体および他の共重合可能な単量体)との組成比率には制限はないが、組成物の加工性、物性のバランス面、特に耐衝撃性の面より、ゴム状重合体5〜70重量%、単量体合計95〜30重量%であることが好ましい。
本発明において、上記のゴム強化スチレン系樹脂(B)中に占めるアルカリ金属の含有量は、0.01重量%以下であることが好ましく、該含有量が0.01重量%を超えると、高湿度環境下での成形品の長時間使用において樹脂の劣化が起こるほか、特に生分解性樹脂の配合比が多い場合には寸法安定性や物性安定性が低下する傾向にあるため好ましくない。特に好ましくは0.005重量%以下である。
【0010】
本発明にて使用される上記のゴム強化スチレン系樹脂(B)の製造方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせの方法により得ることができる。
これらのうち、乳化重合法では、重合工程において乳化剤を相当量使用する必要があるが、これには高級脂肪酸のアルカリ金属塩やスルホン酸のアルカリ金属塩などが使用されることが多い。また、乳化重合法で使用する重合開始剤のうち、有機過酸化物を用いたレドックス系開始剤が使用されることもあり、この場合には鉄塩などが使用されることが多い。さらに乳化重合後に得られたグラフト共重合体粒子を凝固させる際に、高濃度のアルカリ金属やアルカリ土類金属を添加して塩析させる場合も多い。
従って、本発明で使用するゴム強化スチレン系樹脂(B)が乳化重合法により製造される場合には、最終製品中に残存するアルカリ金属含有量を低下させるために、乳化重合後の凝固工程において、酸を使用して凝固させることが望ましい。その際に使用できる酸としては、塩酸、硫酸等が例示される。これにより、凝固工程における金属塩の混入を避けることができる。また、凝固後の洗浄条件を強化するために、洗浄水の量を増加させたり、洗浄回数を増加させたりすることによってもアルカリ金属塩含有量を低下させることができる。特に洗浄水を、洗浄に供するゴム強化スチレン系樹粒子の見掛け体積に対して同体積以上、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上の体積使用し、また洗浄−脱水の工程を2回以上、好ましくは3回以上繰り返して行うことが好ましい。これにより、通常の乳化重合法により得られるゴム強化スチレン系樹脂粒子に比べ、最終製品中に残存するアルカリ金属塩の含有量を大幅に低減することができる。
【0011】
さらにより好ましい製造方法としては、塊状重合、または溶液重合であるが、より好ましいのは、以下に示す連続塊状重合である。すなわち、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との混合物(必要に応じて他の共重合可能な単量体を含む)に上記ゴム状重合体を溶解した原料溶液を、第一反応槽に連続的に供給し、ゴム状重合体が所定の重量平均粒子径の分散粒子に転換するのに必要な重合体濃度になるまで該単量体の重合を行わせた後、完全混合槽型の第二反応槽に連続的に供給して重合を行い、さらに必要に応じて第三反応槽以降の反応槽で重合を行うことにより製造する方法である。
なお、上記の原料溶液とは、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との混合物(必要に応じて他の共重合可能な単量体を含む)に、上記ゴム状重合体を溶解したもの及び必要に応じて溶剤を加えたものである。ここで溶剤としては、例えばトルエン、エチルベンゼン、キシレン、エチルトルエン、エチルキシレン、ジエチルベンゼン等を用いることができる。このような溶剤の使用量については特に制限はないが、重合反応槽に供給する単量体100重量部当り50重量部を越えないことが好ましい。
また、第一反応槽は、上記原料溶液を連続的に供給し、ゴム状重合体が分散粒子に転換するのに必要な重合体濃度になるまで該単量体の重合を行わせるための反応槽で、完全混合槽型の撹拌槽型反応槽、あるいはプラグフロータイプの塔式反応槽等のいずれの型の反応槽を用いてもよい。
さらに、第二反応槽としては、反応槽内の反応液の組成及び温度がほぼ均一になるような反応槽であり、完全混合槽型の反応槽を用いる必要があり、第一反応槽で生成したゴム粒子の凝集を攪拌によるせん断力で防止し、ゴム粒子を安定化するための反応槽である。このような完全混合槽型の反応槽としては、例えばドラフト付スクリュー型撹拌翼あるいはダブルヘリカル型撹拌翼を有する反応槽である。
本発明においては、第二反応槽の反応液をさらに必要に応じて第三反応槽以降の反応槽に供給し、重合を継続させた後180〜280℃の温度範囲で真空下で未反応単量体及び溶剤を蒸発させ、所定の平均粒子径のゴム状重合体を有するゴム強化スチレン系樹脂を得ることができる。
【0012】
さらに上記塊状重合で用いる原料のブタジエンゴムにおいては、その重合工程において使用したアルカリ金属及びアルカリ金属塩が少量残留しているが、その凝固工程において、炭酸、または有機酸等で中和処理をしていることが望ましく、さらには適当な除去工程により、アルカリ金属の含有量を低減することが好ましい。例えば有機酸としては、クエン酸、安息香酸等が挙げられ、水に可溶な塩として分離・除去させることより、アルカリ金属の含有量を低減することができる。
【0013】
本発明における樹脂(C)成分として使用することのできるポリカーボネート樹脂とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、又はジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、;“ビスフェノールA”から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビスビス(4−ヒドロキシジフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第3ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3‘−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルファイド、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルファイドのようなジヒドロキシジアリールスルファイド類、4,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4‘−ジヒドロキシジフェニル類等を混合しても良い。
さらに、上記のジヒドロキシジアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用しても良い。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン及び2,2−ビス−(4,4’−(4,4’−ヒドロキシジフェニル)シクロヘキシル)−プロパン等が挙げられる。なお、これらポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することが出来る。
【0014】
本発明における樹脂(C)成分として使用することのできる熱可塑性ポリエステル樹脂とは、多価アルコールと多塩基性カルボン酸類の縮合物等が挙げられ、多価アルコールとしては例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等のグリコール単独あるいは混合物が挙げられる。多塩基性カルボン酸類としては、以下のカルボン酸とカルボン酸エステルであり、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の2塩基酸、または上記カルボン酸ジアルキルエステルが例示される。具体的にはポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0015】
本発明における樹脂(C)成分としては上記ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂を使用することができる。
【0016】
本発明において用いられる(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)とは、アクリル酸エステル単量体またはメタアクリル酸エステル単量体の重合体、または共重合体である。
アクリル酸エステル単量体、またはメタアクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0017】
本発明において用いられる上記生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)としては、例えばエポキシ基、イソシアナート基、カルボジイミド基から選ばれた官能基を含有する重合体であり、以下のようなものが挙げられる。
エポキシ基を含有する重合体としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、またはそれぞれの共重合体の置換基としてエポキシ基を有する重合体であり、スチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・アリルグリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられる。
また、イソシアナート基を有する重合体としては、以下の多価イソシアナート化合物を原料としたポリウレタン等が挙げられ、該ポリウレタンには、未反応イソシアナート基が残存しており、より多くの残存基を有するポリウレタンが好ましい。上記多価イソシアナート化合物としては、脂肪族ジイソシアナート、芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらのジイソシアネートの変性物をが挙げられる。このような多価イソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ピリジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネートおよびこれらの混合物が挙げられる。
さらにカルボジイミド基を有する重合体としては、上記ポリイソシアナート化合物の1種または二種以上用いた(共)重合体であるポリカルボジミドが挙げられる。
また生分解性樹脂(A)の末端基と反応するその他の官能基として、オキサゾリン基があり、このようなオキサゾリン基を含有する樹脂としては、スチレン重合体、スチレン・アクリルニトリル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体にオキサゾリン基を官能基として含有する樹脂が挙げられる。
【0018】
本発明にて使用される上記重合体(E)の製造方法には特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合またはこれらの組み合わせの方法により得ることができ、また1種または2種以上使用することができる。
【0019】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、上記の生分解性樹脂(A)1〜86.49重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.49〜10重量%、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(C)3〜50重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)0.5〜40重量%および生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量%からなるものであり、この組成の範囲外では、本発明の目的とする耐衝撃性と耐熱性および高温高湿度環境下での耐久性に優れた樹脂組成物が得られないため好ましくない。
【0020】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と耐熱性のバランスを調整するために、ゴム強化スチレン系樹脂(B)中のゴム状重合体の含有濃度の調整を目的とし、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体の1種または2種以上とを共重合してなるスチレン系共重合体樹脂(F)を配合することができる。
スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体および必要に応じて他の共重合可能な単量体としては、上記ゴム強化スチレン系樹脂(B)の構成成分として挙げたものが挙げられる。さらに耐熱性付与を目的とした場合、スチレン系単量体としては、α−メチルスチレンが好ましく、またN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を用いることが好ましい。
【0021】
また本発明における熱可塑性樹脂組成物には、上記各成分の他に、その物性を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に安定剤、顔料、染料、補強剤(タルク、マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる。
但し、これらの添加剤を使用する際にも、アルカリ金属の含有量が少ないものを選択して使用することが望ましい。
【0022】
本発明における生分解性樹脂(A)、ゴム強化スチレン系樹脂(B)、ポリカーボネート樹脂(C)、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)および生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)の混合方法としては、バンバリーミキサー、押出機等公知の混練機を用いる方法が挙げられる。又混合順序にも何ら制限はなく、五成分の一括混練はもちろんのこと、予め任意の二成分〜四成分を混合した後に残りの成分を混合することも可能である。
【0023】
[実施例]
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0024】
生分解性樹脂(A)
A−1:ポリ乳酸(三井化学(株)社製 LACEA H−400)
【0025】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)
ゴム強化スチレン系樹脂:B−1〜B−5を、それぞれ以下の方法により調整した。
B−1:容積が15リットルのプラグフロー塔型反応槽(「新ポリマー製造プロセス」(工業調査会、佐伯康治/尾見信三著)185頁、図7.5(b)記載の三井東圧タイプと同種の反応槽で10段に仕切られたC1/C0=0.955を示すもの。)に10リットルの完全混合槽2基を直列に接続した連続的重合装置を用いてゴム強化スチレン系樹脂を製造した。プラグフロー塔型反応槽が粒子形成工程を、第2反応器である1基目の完全混合槽が粒子径調整工程を、第3反応器が後重合工程を構成する。
プラグフロー塔型反応槽にスチレン50.8重量部、アクリロニトリル16.9重量部、エチルベンゼン22.4重量部、ゼオン社製Nipol NS310Sを9.9重量部、t−ドデシルメルカプタン0.38重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.045重量部からなる原料を調整し、この原料を3段の攪拌式重合槽列反応器に10kg/hで連続的に供給して単量体の重合をおこなった。3段目の槽より重合液を予熱器と減圧室より成る分離回収工程に導いた。
回収工程から出た樹脂は押出工程を経て粒状のペレットとしてゴム強化スチレン系樹脂B−1を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂B−1中のアルカリ金属含有量は、0.0004重量%であった。
B−2:上記製法において、スチレン62.2重量部、アクリロニトリル10.3重量部、エチルベンゼン17.5重量部、ゼオン社製Nipol NS310Sを10.0重量部、t−ドデシルメルカプタン0.20重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.055重量部からなる原料を調整し、プラグフロー塔型反応槽に供給した以外は、上記製法と同様におこない、ゴム強化スチレン系樹脂B−2を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂B−1中のアルカリ金属含有量は、0.0005重量%であった。
B−3:上記製法において、スチレン84.3重量部、エチルベンゼン10.5重量部、旭化成社製ジエン55AEを5.2重量部、1、1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン0.04重量部からなる原料を調整し、プラグフロー塔型反応槽に供給した以外は、上記製法と同様におこない、ゴム強化スチレン系樹脂B−3を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂B−3中のアルカリ金属含有量は、0.0003重量%であった。
B−4:窒素置換した反応器にポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.25μ、ゲル含有量90%)50部(固形分)、水150部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第2鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を入れ、60℃に加熱後、アクリロニトリル12.5部、スチレン37.5部およびキュメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる混合物を3時間に亘り連続的に添加し、更に60℃で2時間重合した。その後、該ラテックス100重量部(固形分)に対し塩析剤として硫酸マグネシウム3.0重量部を使用して塩析した後、ゴム強化スチレン系樹脂粒子の1.5倍体積の水を加えて攪拌してから脱水して洗浄した後、乾燥し、ゴム強化スチレン系樹脂B−4を得た。得られたゴム強化スチレン系樹脂B−4中のアルカリ金属含有量は、0.07重量%であった。
B−5:B−4において、重合後に水蒸気蒸留を施した点と、凝固及び洗浄工程を以下のように変更した以外は、B−4と同様にしてゴム強化スチレン系樹脂B−5を得た。すなわち、重合後に得られたゴム強化スチレン系樹脂ラテックスに水蒸気を吹き込んで1時間水蒸気蒸留した。この時のラテックスの温度は80℃であった。また水蒸気蒸留後、凝固剤として硫酸1.0重量部を使用して凝固させ、さらにム強化スチレン系樹脂粒子の2.5倍体積の水を加えて攪拌してから脱水する洗浄操作を3回繰り返した。得られたゴム強化スチレン系樹脂B−5中のアルカリ金属含有量は、0.008重量%であった。
【0026】
樹脂(C)
C−1:ポリカーボネート(住友ダウ(株)製 カリバー200−30)
C−2:ポリエチレンテレフタレート(三井化学(株)製 三井PET J125S)
C−3:ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製 ノバデュラン5010)
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)
D−1:ポリメタクリル酸メチル(住友化学(株)製 スミペックスMG−SS)
【0028】
エポキシ基含有重合体(E−1〜3)
E−1:スチレン70部、アクリロニトリル25部およびメタアクリル酸グリシジル5部を公知の乳化重合法により重合した。その後、得られた重合体ラテックスを塩析、脱水、乾燥処理し、エポキシ基含有スチレン・アクリロニトリル共重合体(E−1)を得た。
E−2:エポキシ含有スチレン系共重合体(カネカ(株)製 カネエースMP−40)
E−3:グリシジルエーテル変性エチレン系共重合体(住友化学(株)製 ボンドファースト7L)
カルボジイミド基含有重合体(E−4)
E−4:ポリカルボジイミド(日清紡績(株)製 カルボジライトLA−1)
イソシアナート基含有重合体(E−5)
E−5:ポリウレタン(ダウ社製 ペレセン2012−55A)
オキサゾリン基含有重合体(E−6)
E−6:オキサゾリン基含有ポリスチレン(日本触媒(株)製 エポクロスRPS−1005)
【0029】
スチレン系共重合体樹脂(F)
F−1:スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体(電気化学(株)製 デンカIP MS−NC)
F−2:スチレン75重量部およびアクリロニトリル25重量部を公知の塊状重合法により共重合を行い共重合体F−2を作製した。
【0030】
〔実施例1〜14、比較例1〜5〕
上記の生分解性樹脂(A−1)、ゴム強化スチレン系樹脂(B−1〜5)、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(C−1〜3)、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D−1)、生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E−1〜6)、およびスチレン系共重合体(F−1〜2)を表1に示す配合割合で混合し、30mmニ軸押出機を用いて220℃で溶融混合し、ペレット化した後、射出成形機にて各種試験片を作成し、物性を評価した結果を表1に示す。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0031】
○加工性:ISO 1133に基づきメルトインデックス(220℃、10Kg)を測定した。単位:g/10分。
○耐衝撃性:ISO 179に準拠し、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。
○耐熱性:ISO 75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。
○耐久性:70℃、95%RHにて湿熱テストを実施し、耐衝撃性の保持率が90%以下になる時間を耐久性能とした。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明は、生分解性樹脂に対し、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体および上記生分解性樹脂の末端基と反応する官能基を含有する重合体を配合することにより、耐衝撃性と耐熱性のバランスに優れ、かつ高温高湿度環境下での耐久性の改良された樹脂組成物が得られるものであり、家電分野、建材分野、サニタリー分野等に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)1〜86.49重量%、ゴム強化スチレン系樹脂(B)95.49〜10重量%、ポリカーボネート樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた1種以上の樹脂(C)3〜50重量%、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(D)0.5〜40重量%および生分解性樹脂(A)の末端基と反応する官能基を含有する重合体(E)0.01〜10重量%からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
重合体(E)が、エポキシ基、イソシアナート基、カルボジイミド基から選ばれた官能基を含有する重合体である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)中に占めるアルカリ金属の含有量が、0.01重量%以下である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ゴム強化スチレン系樹脂(B)として、スチレン系単量体またはスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との混合物にゴム状重合体を溶解した原料溶液を、反応槽に連続的に供給し、ゴム状重合体が分散粒子に転換するのに必要な重合体濃度以上になるまで該単量体の重合を連続的に行わせて製造したゴム変性スチレン系樹脂を使用してなる請求項3記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
生分解性樹脂(A)がポリ乳酸である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−291172(P2007−291172A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117864(P2006−117864)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】