説明

熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、それにより得られる熱可塑性着色樹脂組成物及び着色樹脂成形物

【課題】ウェルド消去剤等を使用せず、成形物の外観不良を効率よく、明確に低減することができる熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、それにより得られる熱可塑性着色樹脂組成物及び着色樹脂成形物を提供する。
【解決手段】着色剤を含有した熱可塑性着色樹脂組成物を成形してなる着色樹脂成形物表面の外観状態を示す値に基づき、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤の配合量を調節する熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、その方法により得られる熱可塑性着色樹脂組成物、並びに、該熱可塑性着色樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、圧空成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、及び押し出し成形から選ばれる方法で成形加工してなる着色樹脂成形物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な方法で、成形物の外観不良を低減することができる、熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、それにより得られる熱可塑性着色樹脂組成物及び着色樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
成形加工性に優れる熱可塑性樹脂は多くの分野で利用され、着色剤との組み合わせにより、高品質な家電製品や自動車車体等、高品質性付与を目的とした様々な提案がなされている。
外観不良にかかる問題としては、(1)複雑な形状の成形体を作成するときに溶融樹脂の流れ模様が映し出されることで生じるウェルドラインやフローマーク発生による外観不良、(2)高濃度に設計された着色剤(マスターバッチなど)を樹脂と混練して使用する際に生じる問題、着色剤の濃い部分が線状となって現れる開膠不良、また着色剤が不均一でマダラ模様となる色ムラなど、総称して拡散不良とも呼ばれる問題が起きることがある。特に(1)のウェルドラインの発生は、光輝剤を含有することで著しい問題となっている。
従来より、高品質化を目的とした成形加工に関し、着色剤の中でも特に光輝剤の利用がある。例えば、光輝性等の意匠性を与える方法として、成形加工品に光輝性材料を塗装する方法(特許文献1)がある。かかる方法は、塗装する複雑な工程から、手間と時間がかかり、更に環境対応等による負荷が高い。また、傷つきによって塗装が剥がれ意匠性を損ない易い。
他方、樹脂と光輝性材料を混合し、成形加工品を得る方法(特許文献2)が開示され、特許文献2には、特許文献1における前記課題に関するデメリットの少ない技術である。しかしながら、樹脂の成形加工時に発生する外観不良における対策がなされていない。一般に外観不良の発生を伴う成形加工に関し、例えば、射出成形においては、特に樹脂注入口ゲートが複数ある場合に発生し、熱可塑性樹脂の流動体が接触する部分に発生する着色剤由来の外観不良が大きな課題となる。また、ゲートが単数であれば、外観不良は発生しにくいが、単数であっても、樹脂中の流露が分岐する部分の存在によって、かかる外観不良が発生する。更に、ゲート位置やゲート個数、或いは流路等の金型設計技術での試みは効果的であるが、かかる制限を加えた金型設計を行うと、成形物形状等への制限も加えられ、複雑な形状の成形物や意匠性の優れたデザインの成形物作成が困難となる。即ち、着色樹脂成分から外観不良への対応策を検討する方法は、例えば、成形物の金型設計等には制限を与えない。
【0003】
また、熱可塑性樹脂、光屈折率1.8以上のウェルド消去剤、着色剤、光輝剤からなる樹脂組成物が、ウェルドラインを目立たなく、且つ光輝性を持つとされた樹脂組成物(特許文献3)が開示されている。また拡散不良の対策としては、着色剤の溶融粘度の指標であるMFR(メルトフローレート)の調整を行う方法がある。これは、組成物の拡散不良の解消に効果があるが、成形体の物性が変化してしまう難点がある。
しかしながら、ウェルド消去剤の光屈折率1.8以上である条件は、実施例上不明確であり、且つ樹脂組成物となる着色剤の顔料又は染料における添加量に制限が無く、実験的事実によりかかる方法が普遍的ではないことを示唆している。また、ウェルドライン限定の外観と、光輝性に関する外観評価を顕微鏡と裸眼にて実施するため、明確な比較が困難である。例えば、シルバー調のパール顔料に、ウェルド消去剤の粒径0.3μmの酸化チタンを添加し、射出成形物を得る場合、酸化チタンのもつ着色力が高いために成形物のシルバー調が損なわれ、光輝性の低い白色調の成形物となってしまう。又、酸化チタンの添加量を極微量とした場合は、色調に対する影響が低減されるも、かかる外観不良が発生してしまう。さらに、ゴールド調パール顔料に酸化チタンを添加する場合も同様に、かかる外観不良を低減するには至らない。
【0004】
以上の他、優れた顔料分散性を有し、色ムラ、色分かれの無い、外観良好な着色樹脂成形品(特許文献4)が開示されている。また、成形品への色ムラの問題解消のために、着色剤が均一に配合された着色用マスターバッチの能率的な製造方法が開示されている。(特許文献5)
特許文献4では、物品表面の外観不良を改善するも、該表面評価、判断の方法を目視だけによる方法のため、比較が難しく低精度であり、不明確である。
特許文献5では、着色用マスターバッチの製造において、熱可塑性樹脂に対し、高濃度の着色剤を混合するため、均一な分散が困難であることに対する解決策である。しかし、着色剤における樹脂中の分散に関わる色ムラ解消が、直接、加熱成形時に引き起こすウェルド解消に繋がるとは限らず、更に色ムラ観察を目視評価で行っているため、正確性を欠く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−314813号公報
【特許文献2】特開2007−84721号公報
【特許文献3】特開平8−239505号公報
【特許文献4】特開2006−316178号公報
【特許文献5】特開2000−344897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウェルド消去剤等を使用せず、成形物の外観不良を効率よく、明確に低減することができる熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、それにより得られる熱可塑性着色樹脂組成物及び着色樹脂成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、着色樹脂成形物表面の外観状態を示す値に基づき、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤の配合量を調節することにより、前記の目的を達成することを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、着色剤を含有した熱可塑性着色樹脂組成物を成形してなる着色樹脂成形物表面の外観状態を示す表色値に基づき、CIE1976(L***)表色系による2度及び/又は10度視野等色関数である明度指数(L*)において、外観不良部最大値をL*1、外観良好部平均値をL*2とするとき、下記式(1)
0.01≦ΔL*=|(L*1)−(L*2)|≦3 (1)
の範囲内を満たすよう、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤配合量を調節することを特徴とする熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法、その方法により得られる熱可塑性着色樹脂組成物、並びに、該熱可塑性着色樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、圧空成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、及び押し出し成形から選ばれる方法で成形加工してなる着色樹脂成形物、を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウェルド消去剤等を使用せず、樹脂成形加工時に発生する外観不良を高精度に補正する着色樹脂成形物を提供することができる。また、それに用いる熱可塑性着色樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法は、着色剤を含有した熱可塑性着色樹脂組成物を成形してなる着色樹脂成形物表面の外観状態を示す値に基づき、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤の配合量を調節する。
前記外観状態を示す値が、分光計により成形物表面を連続した測定して得られた分光反射率、及び/又は該分光反射率に基づき算出した表色値であると好ましい。
さらに、前記表色値が、CIE1976(L***)表色系による2度及び/又は10度視野等色関数である明度指数(L*)において、外観不良部最大値をL*1、外観良好部平均値をL*2とするとき、下記式(1)
0.01≦ΔL*=|(L*1)−(L*2)|≦3 (1)
の範囲内であるように、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤の配合量を調節する。
上記範囲ΔL*は、例えば、ある形成物表面位置の分光反射率測定により算出されるL*により調節される。測定は、定点或いは連続して行われ、測定数は特に限定されず、精度等に応じて選択される。例えば10点測定から得られた外観良好部平均値をL*2とし、L*2に基づき平均値から大きく外れた部位、即ちその差として得られる外観不良部最大値をL*1とするとき、着色剤添加量により、前記範囲内に調節される。
なお、本発明において、外観不良部とは、例えば、色ムラ、色分かれ、ウェルドライン、フローマーク等が目視で確認できる状態を言い、外観良好部とは、そのような不良部が目視で確認できない状態を言う。
【0010】
上記(1)式において、0.01に近づく程、高品質な外観良好性を得られるが、0.01未満では作業性が悪く、非効率である。また、3を超えると、外観不良となるため、好ましくない。
即ち、(1)式の範囲条件により、製品に応じた外観、品質制御を可能とし、着色剤配合量の変化に応じ、より効率的効果的な外観比較評価として、数値評価が可能である。
なお、CIE1976L***表色系とは、CIE(国際照明委員会:Commission International de l' Eclairage)が1976年に推奨した色空間で、L*が明度を、a*、b*が色度となる色相、彩度を表し、現在、多くの分野で利用されている。
【0011】
このように、例えば、色ムラ、色分かれ、ウェルドライン、フローマーク等による外観不良部とその周辺部の良好部におけるL*の測定を行い、同時に、分光計による、成形物表面の一定範囲における連続測定から測色値データを算出し、外観状態の位置特定と高精度な比較評価を可能とすることで、熱可塑性樹脂に対し、着色剤、その他の添加剤の配合量として、最適な条件を導き出すことができる。そして、調製した熱可塑性着色樹脂組成物を成形加工して得られた成形物は、高精度に外観不良部を補正することができる。
【0012】
本発明の熱可塑性着色樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、有機顔料、無機顔料、染料及び光輝剤から選ばれた少なくとも1種の着色剤を0.01〜7質量部含有すると好ましく、0.1〜2質量部であるとさらに好ましい。
着色剤が0.01質量部以上であれば、目標とする外観不良低減化の充分な効果が得られ、7質量部以下であれば、外観上、品質としての影響が無く、表色値による外観調整が容易で、コスト面でも効率的である。
【0013】
また、本発明の熱可塑性着色樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、滑性剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、光安定剤及び分散剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を0.001〜1質量部含有すると好ましい。
添加剤は、極微量添加により効果が得られ、0.001質量部以上であれば充分な効果が得られ、1質量部以下であれば、外観への影響がなく、コスト面で効率的である。
【0014】
本発明にて使用される着色剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用でき、有機顔料、無機顔料、染料、光輝剤等が挙げられる。
前記有機顔料としては、例えば、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系顔料等やカーボンブラック顔料等が挙げられ、前記無機顔料としては、例えば、体質顔料 、酸化チタン系顔料 、酸化鉄系顔料 、スピンネル顔料等が挙げられる。更に詳細には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系、チオインジゴ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の従来公知の顔料が使用できる。
【0015】
前記染料としては、例えば、直接染料、塩基性染料、カチオン染料、酸性染料、媒染染料、酸性媒染染料、硫化染料、ナフトール染料、分散染料、反応染料等の従来公知の染料が使用できる。
【0016】
上記顔料又は染料は、顔料分散液(着色剤)の用途に応じて、種類、粒子径、処理方法を選んで使用することが好ましく、用途として隠蔽力を必要とする場合や、着色物に透明性を望む場合等、種類や粒子径等を適宜選択すればよく、以上の光輝性材料以外に、着色のために通常用いられる有彩色顔料を含むのも好ましい。
【0017】
上記顔料又は染料は、成形物外観における目的色、品質等用途に応じて、種類、粒子径、処理方法を選んで使用することが好ましく、例えば用途として隠蔽力を必要とする場合や、着色物に透明性を望む場合等、種類や粒子径等を適宜選択すればよく、中でも、品質向上により、光輝性付与を目的とした場合の光輝剤使用において、光輝剤以外に、着色のために通常用いられる有彩色顔料を含むのも好ましい。
使用される光輝剤は、前記着色剤同様、熱可塑性着色樹脂組成物の原料であり、その成形物表面に再帰反射特性や光散乱性を与え、見る角度で色調が変化する材料として有効な、光輝性を有する顔料である。例えば、パールマイカ顔料として、天然雲母(マイカ)や合成マイカに、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化すず、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト等の金属酸化物の群から複数又は単一を選んで被覆してなるものが使用できる。
特にマイカに酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化アルミニウムを被覆したシルバー調パール顔料、平均粒径1〜100μm、及びマイカに酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅を被覆したゴールド調パール顔料、平均粒径1〜100μmを使用するのが好ましい。また色調やメタリック感を与えるために異種光輝性材料を併用することも好ましい形態のひとつである。
【0018】
本発明にて使用される熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル/エチレン・ジエン・プロピレン/スチレン樹脂(AES)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS・PCアロイ、プロピレン−エチレン共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、アクリロニトリルースチレンーアクリレートゴム共重合体樹脂(ASA)、アクリル樹脂,ゴム変性アクリル樹脂,塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリアセタール樹脂(POM)等を使用することができる。さらに、これらのブレンド品やポリマーアロイ品などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、顔料や染料の特性、すなわち、ウェルドライン等外観不良が目立たない優れた色調を特に強調するには、これらの熱可塑性樹脂の中でも、強度と透明性に優れたものを用いるのが好ましい。具体的には、ポリスチレン樹脂,AS樹脂,透明ABS樹脂,アクリル樹脂,ゴム変性アクリル樹脂,PC樹脂などに本発明のパール調顔料を添加して用いるのが効果的である。使用される熱可塑性樹脂は、単独でも2種以上使用しても良い。この中でも、ポリオレフィン系樹脂、特に汎用性のある、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0019】
本発明において、熱可塑性樹脂に、前述した通り、着色剤以外の添加剤として、滑性剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、分散剤を配合でき、滑性剤としては、例えば、高級脂肪酸、エステルワックス類、ポリエチレンワックス類、金属石鹸類等が挙げられ、帯電防止剤としては、例えば、脂肪酸アミン、脂肪酸アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、スルホン酸化合物等が挙げられ、紫外線防止剤としては、例えば、サリチル酸誘導体化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール誘導体等のベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート化合物等が挙げられ、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、鱗系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオ尿素系酸化防止剤等が挙げられ、分散剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニュウム、ステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の金属石鹸、エチレンビスステアリルアマイド、ポリエチレンワックス、流動パラフィン、パラフィン合成ワックス、ポリプロピレンワックス、シリコーンオイル等が挙げられ、これらの少なくとも1種以上を組み合わせて配合することも好ましい。
また、光輝剤や該光輝剤とは異なる着色剤の配合による分散性を考慮し、例えば脂肪酸金属塩及び低分子量ワックスを添加するとより好ましい。
【0020】
本発明の熱可塑性着色樹脂組成物を製造する際、配合形態は、原料等使用目的に応じて選択され、例えば、ドライカラー(粉末状物)、ペースト(可塑剤等分散状物)、カラーコンパウンド(着色ペレット状物)、マスターバッチ(着色剤高濃度分散物)が挙げられる。以上の配合形態は、いずれも限定されることは無いが、本件のような、着色状態の緻密な調整を目的として要求される高分散性、さらにコスト面から、マスターバッチを用いるとより好ましい。該マスターバッチは、前記成形体組成物の着色成分、或いは添加剤成分を高濃度に含有するものであって、樹脂中に顔料や添加剤を分散処理させ、コストメリットやハンドリング性に優れた着色剤添加形態である。マスターバッチとしては、成形体組成物の顔料成分を任意の倍率、例えば100倍の濃度で分散加工したマスターバッチは、成形時において、熱可塑性樹脂100質量部に対して、マスターバッチ1質量部を添加し、希釈することで所定の色調の成形体が得られる。
【0021】
本発明において、ベースとなる前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記着色剤0.01〜7質量部と、前記その他の添加剤0.001〜1質量部である成形体の着色剤及び添加剤を高濃度の倍率で設計され、樹脂100質量部に対してマスターバッチ0.5〜100質量部、好ましくは、1〜100質量部添加し混練して希釈することで所定の組成物を得られるものである。マスターバッチが0.5質量部以上であれば、マスターバッチを均一に拡散させることができ、100質量部以下であればコストメリットが失われず好ましい形態である。
【0022】
マスターバッチにおけるベースとなる熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリブテン、ポリペンテン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、エチレン/プロピレンのランダム,ブロック,グラフト重合体、EPDM樹脂、αオレフィン/エチレン又はプロピレン共重合体を使用することができ、単独でも2種以上使用しても良い。またマスターバッチのベース樹脂と成形時に使用する樹脂は、同一構造であることが望ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性着色樹脂組成物は、一般にバンバリーミキサー,ナウターミキサー,混練ロール,又は一軸、二軸押し出し機などにより、溶融混合、分散処理されて着色樹脂組成物を得ることが出来る。また混連前に分散均一化する目的で、タンブラーミキサー、ブレンダー、高速混合機といった予備分散を行う。
得られた熱可塑性着色樹脂組成物の成形方法としては、限定されないが、射出成形、射出圧縮成形、圧空成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、押し出し成形等の公知の方法で、所定の形状に成形される。このとき、目的に応じて熱安定剤,耐候安定剤,滑剤,顔料分散剤,静電気防止剤などの添加剤を添加することができる。また、高意匠性等、成形物に必要な目的に応じて、光輝剤以外の他の顔料や染料を添加することができる。
【0024】
さらに具体的な、熱可塑性着色樹脂組成物の製造調節方法の例として、例えば、着色剤が添加された熱可塑性樹脂成形体を作製し、前述の外観評価を実施して、外観が良好となるように、着色剤配合量の調節を施す事である。かかる着色剤とは、顔料成分添加量が成形体の最終添加量に調製されたが着色コンパウンドであり、また顔料成分のみを抽出して分散されたドライカラーであり、また顔料成分を最終添加量の高倍率で添加されたマスターバッチ等が挙げられる。成形方法は、射出成形機を用いて作製される成形体であって、外観状態が一定であるように成形条件は一定とする。外観測定は前述の表色値を得ることで客観的な判定をする。このように得られた表色値は、低減化することで外観良好な目的の成形体が得られる。調節に使用する顔料は、目的の成形体の色調やデザインを損なわないようなものであって、また外観性向上に効果的なものを選択使用するものである。
【0025】
例えば、マイカ表面に酸化チタンと酸化鉄をコーティング処理されたパール顔料が0.8質量部と熱可塑性樹脂が100質量部添加された成形体のウェルド発生による外観不良を低減する手段としては、顔料の中でも、黄色酸化鉄、チタンエロー、黄色有機顔料が優れているが、特に成形体の色調やデザインを考慮して、添加する顔料を選択できる。
また、添加量についても外観性と色調、デザインを考慮しつつ、決定できる。
これは、調節の為に使用する顔料の添加量が増加する程、外観性に大きな効果が得られるものの、過剰の添加は成形体の色調、デザインに損傷を与える場合がある為である。
この選択すべき顔料の種類や添加量は、実際の成形体の組成から類推される場合もあるが、成形体の金型構造や成形条件による外観性差も無視でき得ない為に、顔料選択や添加量決定の為の、一連の調節行程を経ることで最も効果的な選択方法が得られる。
調節に使用する顔料は、顔料成分添加量が成形体の最終添加量に調製された着色コンパウンドであり、また顔料成分のみを抽出して分散されたドライカラーであり、また顔料成分を最終添加量の高倍率で添加されたマスターバッチ等であっても良い。
このような工程によって優れた外観性を有する成形体を作製することができる。
【0026】
具体的には、例えば、熱可塑性樹脂であるリニア低分子量ポリエチレンに対し、着色剤マスターバッチAを配合し、シリンダー温度が230℃に設定した射出成形機によって成形物を得る。該マスターバッチA内には、低分子量ポリエチレンをベース樹脂とし、着色剤A1としてパール顔料及び着色剤A2として黄色酸化物顔料が、同時に、添加剤として、脂肪酸エステルやフェノール系酸化防止剤等を配合するものである。以上から得られた該成形物表面を外観良好部から外観不良部を経由し、光度計にて連続した測定を行うことにより、分光反射率を測定し、各表色値である明度(L*)を算出する。これをグラフ化し、外観不良部の最大値をL*2と、外観良好部のL*値の平均値をL*1とした。これよりΔL*=|(L*2)−(L*1)|を算出し、外観状態の評価を行う。
次に行う着色樹脂組成の調節に関し、着色剤配合量の増減により外観状態の調整、即ちΔL*値の調整を行う方法である。調節用マスターバッチに含有する着色剤A1の配合量又は/及び着色剤A2の配合量を調製し、その他添加剤脂肪酸エステル又は/及びフェノール系酸化防止剤等添加剤等が含有するマスターバッチBを準備し、前記同様に組成物を調製後、成形物を得る。リニアポリエチレンに対し、マスターバッチA配合量で、又はマスターバッチA及びB配合量で調節が可能であり、いずれも好ましい調節方法である。
上記結果から、着色剤配合量にて調節した着色剤マスターバッチを含む組成物によって得られた成形物におけるΔL*値評価により、外観不良が低減した成形物が得られる。
【実施例】
【0027】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
表1には、各実施例にて使用した調節用組成の配合量及び成形物に含まれる組成配合量を記載する。尚、以下文中及び表1内の「%」は、特に断りの無い限り質量基準である。
【0028】
実施例1
リニア低密度ポリエチレン(日本ユニカ社製 G5391)100質量部に対して、10質量部の着色剤マスターバッチAをシリンダー温度が230℃に設定した射出成形機で成形し、成形物を得る。該マスターバッチA内には、リニア低密度ポリエチレン(90.1%)をベース樹脂とし、ゴールド調パール顔料(8.8%、メルク・ジャパン社製 イリオジン(IRIOZIN)302)、複合酸化物顔料(0.11%、大日精化工業(株)製 イエロー#9151)、分散剤としてステアリン酸マグネシウム(0.88%、日本油脂製 マグネシウムステアレート)、低密度ポリエチレン(0.11%、ハネウェル社製 ACポリエチレン6)を含有する。
前記リニア低分子量ポリエチレン及びマスターバッチAの配合に関し、混合機(日水化工社製 TM50)にて30rpm、3分間混合した。混合物を単軸押出機(マース精機社製 40mm押出機)に投入し混練造粒を行った。加工条件は、得られた着色樹脂組成物を射出成形機(JSW社製 J100ED)に投入して評価用成形品を作製した。成形条件は、シリンダー温度=230℃、金型温度=40℃、射出圧力=145kg/cm2、背圧15kg/cm2、射出速度=36mm/秒、金型冷却時間20秒であった。評価用成形品の形状は、テスト用成形物(成形物A:長さ205mm×幅10mm×厚さ8mmの試験片)とし、表面の評価を行った。
得られた該成形物表面を外観良好部から外観不良部を経由し、光度計にて連続した測定を行うことにより、分光反射率を測定し、各表色値である明度(L*)を算出する。これをグラフ化し、外観不良部の最大値をL*2と、外観良好部のL*値の平均値をL*1とした。これよりΔL*=|(L*2)−(L*1)|を算出し、外観の評価を行った。
【0029】
(ΔL*値の測定)
評価用成形品は、スキャン式分光光度計による連続測定を行い、良好部から外観不良部までを直線的に走査させて移動方向のL***値を得た。これをグラフ化し、外観不良部の最大値をL*2と、良好部のL*値の平均値をL*1とした。これよりΔL*=|(L*2)−(L*1)|を算出し、外観状態の評価を行った。結果を表1に示す。
【0030】
実施例2〜4
実施例1による配合に対し、さらにマスターバッチBを表1に示す量で配合し、目的の成型物を作製後、外観評価を行った。配合、成形方法及び外観評価方法は実施例1と同様である。又、配合調製に使用するマスターバッチB内には、表1記載のように、低密度ポリエチレン(80%)をベース樹脂とし、分散剤として、低密度ポリエチレン(10%)、イエロー#9151(10%)を含有し、該マスターバッチBの配合量を調整し、実施例1の如く成型物組成により得られた成型物表面の外観評価を実施した。その結果を表1に示す。
【0031】
実施例5
リニア低分子量ポリエチレン100質量部に対し、マスターバッチC 10質量部を配合し、目的の成型物を作製後、外観評価を行った。配合、成形方法及び外観評価方法は実施例1と同様である。又、配合調製に使用する該マスターバッチC内には、表1記載のように、リニア低密度ポリエチレン(90.1%)をベース樹脂とし、ゴールド調パール顔料(8.8%、メルク・ジャパン社製 イリオジン(IRIOZIN)302)、複合酸化物顔料(0.55%、大日精化工業(株)製 イエロー#9151)、分散剤としてステアリン酸マグネシウム(0.88%、日本油脂製 マグネシウムステアレート)、低密度ポリエチレン(0.11%、ハネウェル社製 ACポリエチレン6)を含有する。即ち、該マスターバッチCは、実施例1〜4で使用したマスターバッチA配合の着色剤イエロー配合量を増量調製したものである。以上の成型物組成により得られた成型物表面の外観評価を実施例1〜4同様な方法にて実施した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法によれば、ウェルド消去剤等を使用せず、簡易な方法で、樹脂成形加工時に発生する外観不良を高精度に補正する着色樹脂成形物を提供することができる。また、それに用いる熱可塑性着色樹脂組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤を含有した熱可塑性着色樹脂組成物を成形してなる着色樹脂成形物表面の外観状態を示す表色値に基づき、CIE1976(L***)表色系による2度及び/又は10度視野等色関数である明度指数(L*)において、外観不良部最大値をL*1、外観良好部平均値をL*2とするとき、下記式(1)
0.01≦|(L*1)−(L*2)|≦3 (1)
の範囲内を満たすよう、熱可塑性着色樹脂組成物中の着色剤配合量を調節することを特徴とする熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記外観状態を示す表色値が、分光計により成形物表面を連続した測定して得られた分光反射率、及び/又は該分光反射率に基づき算出した表色値である請求項1に記載の熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂に、有機顔料、無機顔料、染料及び光輝剤から選ばれた少なくとも1種の着色剤と、滑性剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、光安定剤及び分散剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤とを加えたマスターバッチ0.5〜100質量部を、熱可塑性樹脂100質量部に添加し混練して得られる請求項1に記載の熱可塑性着色樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られる熱可塑性着色樹脂組成物。
【請求項5】
有機顔料、無機顔料、染料及び光輝剤から選ばれた少なくとも1種の着色剤を、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01〜7質量部含有する請求項4に記載の熱可塑性着色樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、滑性剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、光安定剤及び分散剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜1質量部含有する請求項5に記載の熱可塑性着色樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の熱可塑性着色樹脂組成物を、射出成形、射出圧縮成形、圧空成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、及び押し出し成形から選ばれる方法で成形加工してなる着色樹脂成形物。

【公開番号】特開2010−202849(P2010−202849A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53223(P2009−53223)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】