説明

熱可塑性複合材料、その製造方法および成形品

【課題】 小さい線膨張係数を有する成形品を得ることができる熱可塑性複合材料およびそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】 親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子とポリメタクリル酸メチルを含み、前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下である熱可塑性複合材料。前記熱可塑性複合材料を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)である成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性複合材料、その製造方法および低い線膨張係数を有する成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に物質は加熱すると膨張するが、特に有機樹脂材料の線膨張係数は大きいことが知られている。例えば精密光学系などに代表されるデバイスにおいて有機樹脂材料から成る部材を使用する場合、温度変化による部材の寸法変化が大きいと、光学系の位置ずれを引き起こす原因となり得る。有機樹脂材料のみで精密光学系に使用する部材を作製する場合、その線膨張係数は20×10−6/℃以下であることが望まれている。
【0003】
有機樹脂材料の熱膨張による光学系の位置ずれを防ぐ方法のひとつとして、負の線膨張(以下、負膨張)性を有する材料を有機樹脂材料から成る部材の周辺に組み込み寸法変化を補償する方法がある。負膨張性を有する材料としてタングステン酸ジルコニウムやリチウム−アルミニウム−シリコン酸化物、マンガンの窒化物などの無機材料が知られている。
【0004】
また有機樹脂材料の熱膨張による光学系の位置ずれを防ぐ別の方法として、有機樹脂材料の熱膨張を低減させる方法がある。有機樹脂材料の熱膨張を低減する方法として、有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法がよく知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291197号公報
【特許文献2】特開2006−160779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述の負膨張性を有する材料はその線膨張係数の絶対値が最大でも25×10−6/℃と小さい。そのため有機樹脂材料の温度変化による膨張を補償するためには、相当の厚みまたは量の負膨張性を有する材料を用いた成形体が必要である。さらに負膨張性を有する材料は汎用の有機樹脂材料と比較してバルク成形が困難であるという問題がある。
【0007】
特許文献1に代表される有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法では、熱硬化性樹脂に無機微粒子を加えることで20×10−6/℃以下の線膨張係数を達成している。しかし熱硬化性樹脂を成形する場合、樹脂の硬化収縮が発生するため成形品が変形や位置ずれを起こす問題がある。また硬化に伴う成形コストも高くなる。
【0008】
特許文献2では熱可塑性樹脂に無機微粒子を加えて線膨張係数の低減に成功しているが、20×10−6/℃以下の線膨張係数は得られていない。熱可塑性樹脂の線膨張係数を20×10−6/℃以下まで低減する場合、体積分率から単純計算すると、比重の軽いシリカを用いても80重量パーセント(約70体積パーセント)近くの量を添加する必要がある。しかし多量の無機微粒子を添加すると熱可塑性樹脂のバルク成形性を著しく損なうという問題が発生するため、実際に20×10−6/℃以下の線膨張係数を有する成形体を得ることは難しい。
【0009】
以上の問題から、これまでに行われてきた有機樹脂材料に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法では、有機樹脂材料を精密光学系などに使用することが困難であった。
【0010】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、小さい線膨張係数を有する成形品を得ることができる熱可塑性複合材料およびその製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、小さい線膨張係数を有する成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する熱可塑性複合材料は、親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子とポリメタクリル酸メチルを含み、前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下であることを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決する成形品は、上記の熱可塑性複合材料を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決する熱可塑性複合材料の製造方法は、親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子と、溶媒に溶解したポリメタクリル酸メチルとを、前記無機微粒子とポリメタクリル酸メチルの合計に対して前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下になる様に混合した後、前記溶媒を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小さい線膨張係数を有する成形品を得ることができる熱可塑性複合材料およびその製造方法を提供することができる。また、本発明は、小さい線膨張係数を有する成形品を提供することができる。
【0016】
本発明の成形品は、少なくとも温度20から60℃の範囲において最小で約−75×10−6/℃と非常に小さい線膨張係数を示ので、光ファイバーやレンズ、ミラーなどの精密光学系デバイスに使用される低膨張部材や温度補償部材として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例で得られた成形品の無機微粒子含有量と線膨張係数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る熱可塑性複合材料は、親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子とポリメタクリル酸メチルを含み、前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明は、ポリメタクリル酸メチル(以下PMMA)に表面処理のなされていない無機微粒子を溶媒中で高濃度に混合した後に溶媒除去、成形を行うことで非常に小さい線膨張係数を有する成形品を提供するものである。
【0021】
本発明における無機微粒子は、通常の無機微粒子で、人為的に表面処理のなされていない、親水性表面を有する無機微粒子を用いることを特徴とする。一般に無機材料の表面には水酸基が存在するため、人為的に表面処理を行わない限り、親水性を示す。従来、有機樹脂材料中に無機微粒子を混合する場合、その分散性を向上させるために無機微粒子の表面処理を行うことが一般的である。しかし線膨張係数を大きく低減させるために、本発明の無機微粒子は表面処理がなされておらず親水性表面を有することが特徴である。
【0022】
本発明に用いられる無機微粒子は、特に限定されないが、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化セリウム、インジウム錫酸化物等の金属酸化物粒子や、金、白金、銀等の金属粒子を使用することができる。
【0023】
本発明に用いられる無機微粒子の粒子径は特に限定されないが、粒子径が大きすぎると低線膨張性が失われる。これは微粒子の表面積が減少し表面相互作用の効果が小さくなることが原因と考えられる。また粒子径が大きくなると光学的な散乱が発生するため、本発明による熱可塑性複合材料を光学系デバイスに用いることができなくなる。粒子径が小さすぎると微粒子の剛直性が小さくなるため、低線膨張性が失われる可能性がある。そのため本発明に用いられる無機微粒子の平均一次粒子径は1nm以上15nm以下、好ましくは5nm以上14nm以下であることが望ましい。
【0024】
本発明に用いられる無機微粒子は、例えばアエロジル(日本アエロジル社商品名)、NanoTek(CIKナノテック社商品名)、TECNAN社ナノ粉末パウダー(TECNAN社製)等の市販品を用いることができる。
【0025】
本発明に係る熱可塑性複合材料の製造方法は、親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子と、溶媒に溶解したポリメタクリル酸メチルとを、前記無機微粒子とポリメタクリル酸メチルの合計に対して前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下になる様に混合した後、前記溶媒を除去することを特徴とする。
【0026】
PMMAと無機微粒子の混合は、溶媒中にPMMAを溶解させて無機微粒子と混合した後、前記溶媒を除去する方法で行う。まず溶媒中にPMMAを溶解させ、PMMA溶液を作製する。PMMAを溶解する溶媒は、例えばアセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。また、最終的に溶媒の除去を行うため、使用する溶媒には、沸点の低いアセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランが好適である。
【0027】
続いて無機微粒子とPMMA溶液を混合する。無機微粒子は直接PMMA溶液に混合してもよいし、予め溶媒と混合している無機微粒子含有液をPMMAの溶液に混合してもよい。溶媒の量は任意であるため、最終的に除去可能であれば適宜追加しても構わない。PMMA溶液と無機微粒子を混合した後、ホモジナイザーや超音波処理などの分散装置により混合溶液を均一化することが望ましい。
【0028】
次に、混合溶液中の溶媒を除去する。残留溶媒は線膨張係数を悪化させる要因となるため、加熱・真空などにより残留溶媒の量を可能な限り減らす必要がある。具体的には残留溶媒を全体の質量に対して2.5%以下、望ましくは1%以下まで取り除くことが望ましい。
【0029】
PMMAと無機微粒子の混合割合は、無機微粒子の含有量が、35vol%(体積パーセント)以上80vol%以下、好ましくは35vol%(体積パーセント)以上50vol%以下が望ましい。本発明では無機微粒子の含有量が35vol%以上になると成形品の線膨張係数が急激に低下する。線膨張係数を低減するためには無機微粒子の含有量を多くすることが有効であるが、含有量が増えるにつれて脆くなり成形性が悪化する。そのため、含有量は80vol%以下であることが好ましい。また同じ含有量においても無機微粒子の分散状態によっては異なる線膨張係数を有することがある。なお本発明における無機微粒子の含有量とは、熱重量分析(TGA)装置によって成形品を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、体積換算した数値を表す。
【0030】
本発明に係る成形品は、上記の熱可塑性複合材料を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする。
【0031】
PMMAと無機微粒子を混合した熱可塑性複合材料は、射出成形やヒートプレス成形など、加熱下において加圧することで任意の形状に成形される。成形時の温度は低すぎると目的の形状を作製できず、高すぎると線膨張係数が高くなる原因となることから、150から300℃の範囲が適当である。成形圧力は特に限定されないが、形状を転写させるために50MPa以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の成形品は、20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする。本発明の成形品の好ましい線膨張係数は、−20×10−6/℃以上、20×10−6/℃以下、さらに好ましくは−10×10−6/℃以上、10×10−6/℃以下である。−は負の線膨張係数を表す。線膨張係数が20×10−6/℃より大きいと、温度変化による成形品の寸法変化が大きくなり、部材の位置ずれを引き起こすので好ましくない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明をする。本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
<PMMAと無機微粒子の混合>
PMMA(デルペット70NH;旭化成ケミカルズ社製)をアセトン溶媒に対して5wt%になるように混合し、超音波処理により常温(25℃)にてPMMAを溶解させ、PMMA/アセトン溶液を作製した。
【0035】
PMMA/アセトン溶液10gに対し、表面処理のなされていないシリカ微粒子(アエロジル300、平均一次粒子径7nm、日本アエロジル社製)を1.0g添加し、アエロジル300が十分に浸漬するようにアセトンを任意量加え、超音波処理を行いよく混合した。
【0036】
アセトンをある程度自然乾燥させた後、真空加熱炉で約250℃にておよそ4時間の溶媒除去を行い、PMMA/微粒子混合材料を得た。
【0037】
<成形>
成形はヒートプレスにて行った。
【0038】
φ15mmのプレス成形用金型の面に離型剤としてノベック−1720(住友スリーエム社製)を滴下してよく拭き取る。PMMA/微粒子混合材料をプレス成形用金型に充填し、小型熱プレス機(アズワン社製)にセットしながら250℃まで加熱した。小型熱プレス機の上面と下面の温度が250℃に達した後に110MPaの荷重を付与し、100℃まで風冷しながら荷重を自然開放させた。100℃で完全に荷重を除き、金型からPMMA/微粒子混合材料を離型することでコイン状の成形品を得た。
【0039】
(実施例2)
<PMMAと無機微粒子の混合>
PMMA(デルペット70NH;旭化成ケミカルズ社製)をアセトン溶媒に対して5wt%になるように混合し、超音波処理により常温にてPMMAを溶解させ、PMMA/アセトン溶液を作製した。
【0040】
次にアエロジル300をアセトンに対して2.5wt%になるように混合し、微粒子/アセトン溶液を作製した。
【0041】
作製したPMMA/アセトン溶液10gに対し、微粒子/アセトン溶液を20g滴下し、超音波処理装置を用いてよく混合した。混合溶液中のアセトンをある程度自然乾燥させた後、真空加熱炉で250℃にて4時間の溶媒除去を行い、PMMA/微粒子混合材料を得た。
【0042】
<成形>
成形は実施例1と同様にして行い、成形品を得た。
【0043】
(比較例1)
実施例2において、無機微粒子を添加せずにPMMAのみをアセトンに溶解した後に溶媒除去を行い、その他は実施例2と同様にして成形品を得た。
【0044】
(比較例2)
実施例2において、PMMA/微粒子混合材料を作製する際に、2.5wt%微粒子/アセトン溶液の滴下量を20gから10gに変更し無機微粒子の含有量を減らした他は同様にして、成形品を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例1において、シリカ微粒子をアエロジル300から粒子径が大きいアエロジル200(平均一次粒子径12nm、日本アエロジル社製)に変更した。PMMA/アセトン5wt%溶液10gに対しアエロジル200を0.5g直接添加し、アセトンを十分に添加して混合した他は実施例1と同様にして、成形品を得た。
【0046】
(実施例4)
実施例3において、アエロジル200の添加量を0.5gから0.7gに変更し、無機微粒子含有量を増やした他は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0047】
(実施例5)
実施例3において、アエロジル200の添加量を0.5gから1.0gに変更し、無機微粒子含有量を増やした他は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0048】
(実施例6)
実施例3において、アエロジル200の添加量を0.5gから1.4gに変更し、無機微粒子含有量を増やした他は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0049】
(比較例3)
実施例3の材料混合において、PMMA/アセトン5wt%溶液7.4gに対し、平均一次粒子径が20nmであるシリカ微粒子90G(日本アエロジル社製)を直接0.63g加え、アセトンを十分に添加して混合した以外は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0050】
(比較例4)
実施例3の材料混合において、PMMA/アセトン5wt%溶液7.4gに対し、平均一次粒子径が30nmであるシリカ微粒子50(日本アエロジル社製)を直接0.63g加え、アセトンを十分に添加して混合した以外は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0051】
(比較例5)
実施例3において、PMMA/アセトン5wt%溶液10gに対し、平均一次粒子径が40nmであるシリカ微粒子OX50(日本アエロジル社製)を直接0.5g加え、アセトンを十分に添加して混合した以外は実施例3と同様にして、成形品を得た。
【0052】
(比較例6)
比較例5において、OX50の添加量を1.0gに変更した以外は同様にして、成形品を得た。
【0053】
(比較例7)
比較例5において、OX50の添加量を1.4gに変更した以外は同様にして、成形品を得た。
【0054】
(比較例8)
実施例1において用いたシリカ微粒子を、表面がメタクリロキシプロピル基で修飾されたシリカ微粒子(R711、平均一次粒子径12nm、日本アエロジル社製)に変更した。PMMA/アセトン溶液50gに対してR711を1.8g添加した以外は実施例1と同様にして行い、成形品を得た。
【0055】
(比較例9)
実施例1において用いたシリカ微粒子を、表面がオクチル基で修飾されたシリカ微粒子(R805、平均一次粒子径12nm、日本アエロジル社製)に変更した。微粒子/アセトン溶液を10g滴下した以外は実施例1と同様にして行い、成形品を得た。
【0056】
(比較例10)
比較例9において、PMMA/微粒子混合材料を作製する際に、2.5wt%微粒子/アセトン溶液の滴下量を10gから20gに変更し無機微粒子の含有量を増やした他は比較例9と同様にして、成形品を得た。
【0057】
(実施例7)
実施例1においてアセトンのかわりに酢酸エチルを用い、5wt%PMMA/酢酸エチル溶液20gに対しアエロジル300を2.0g添加した以外は実施例1と同様に行い、成形品を得た。
【0058】
(実施例8)
実施例1においてアセトンのかわりにテトラヒドロフランを用い、5wt%PMMA/テトラヒドロフラン溶液10gに対しアエロジル200を1.0g添加した以外は実施例1と同様に行い、成形品を得た。
【0059】
(実施例9)
実施例3において、シリカ微粒子のかわりに酸化セリウム粒子(NanoTek,平均一次粒子径14nm、CIKナノテック社製)を3.5g添加した以外は同様にして、成成形品を得た。
【0060】
<線膨張係数の評価>
TMA(TMA Q400;TAインスツルメント社製)にて0から80℃で3サイクル温度負荷を与え、厚み方向に対する20から60℃の平均線膨張係数を算出し、本発明における線膨張係数として定義した。変位の測定には膨張プローブを使用した。
【0061】
<無機微粒子の含有量の評価>
無機微粒子の含有量は、熱重量分析(TGA)装置によって成形品を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを測定し、体積換算した数値を表す。
【0062】
無機微粒子の含有量の測定はTGA(TGA Q500;TAインスツルメント社製)を用いて行った。無機微粒子の含有量を重量パーセント(wt%)から体積パーセント(vol%)への換算に際し、PMMAの比重値には1.19、シリカ微粒子の比重値は2.00、酸化セリウム微粒子の比重値は7.00を使用した。なお評価に際して各成形品は適宜適当な大きさにカットした。
【0063】
表1に実施例および比較例の成形品の評価結果を示した。また、図1に実施例および比較例で得られた一部の成形品の無機微粒子含有量と線膨張係数の関係をプロットしたものを示した。
【0064】
【表1】

【0065】
(注1)粒子径は、平均一次粒子径(nm)を表す。
【0066】
表1によれば、平均一次粒子径が15nm以下で表面処理のなされていない無機微粒子の含有量が35vol%であるときに、成形品の線膨張係数が20×10−6/℃以下になることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の熱可塑性複合材料により得られた、小さい線膨張係数を有する成形品は、20から60℃の範囲において小さい線膨張係数を示すので、光ファイバーやレンズなどの精密光学系デバイスに使用される低膨張部材や温度補償部材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子とポリメタクリル酸メチルを含み、前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下であることを特徴とする熱可塑性複合材料。
【請求項2】
前記無機微粒子がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性複合材料を成形してなる成形品であり、前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が20×10−6/℃以下(但し、負の線膨張係数を含む。)であることを特徴とする成形品。
【請求項4】
前記成形品の20℃から60℃の範囲の線膨張係数が、負の線膨張係数であることを特徴とする請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
親水性を有する平均一次粒子径が1nm以上15nm以下の無機微粒子と、溶媒に溶解したポリメタクリル酸メチルとを、前記無機微粒子とポリメタクリル酸メチルの合計に対して前記無機微粒子の含有量が35vol%以上80vol%以下になる様に混合した後、前記溶媒を除去することを特徴とする熱可塑性複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記無機微粒子がシリカ微粒子、酸化セリウム微粒子から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、少なくともアセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランのいずれかを含むこと特徴とする請求項5または6に記載の熱可塑性複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−1783(P2013−1783A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133500(P2011−133500)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】