説明

熱可塑性複合材料のテープ載置の方法

熱可塑性複合材を成形型(1)に積層状に載置する方法において、この方法は、成形面(3)を有する成形型を提供する工程であって、成形型の少なくとも一部が多孔質材料を含む工程と、成形面に負圧を生成するように多孔質材料(5)に負圧を印加する工程と、熱可塑性複合材料の最初の層(8)を成形面上に載置する工程であって、熱可塑性複合材料が成形面での負圧により成形面に対して保持される工程と、熱可塑性複合材料をコンソリデーションにより圧着する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
現在一般的に、複合材料は様々な努力傾注分野で構造材料として使用されている。一つの斯かる分野が航空宇宙産業であり、航空宇宙産業において、構造材用複合材料が航空機構造材の増加する比率を形成すべく使用される。本明細書において、複合材料は、繊維またはメッシュ(mesh)で強化されたポリマーマトリックス、最も典型的にはカーボンファイバーで強化されたポリマーマトリックスであると考えられるが、他の材料の繊維又は金属メッシュで強化されてもよい。複合材料は、二つの主要な材料群、すなわち熱可塑性のマトリックスを有する複合材および熱硬化性のマトリックスを有する複合材の一方に属す傾向にある。熱硬化性複合材は硬化される必要があり、硬化とは通常、熱および随意に圧力の印加によってポリマーマトリックスの化学構造が不可逆的に変化される処理をいう。一度硬化されると、熱硬化性複合材は、剛性、硬度、および強度といったその最終特性を有し且つそのしなやかな未硬化状態に戻されることができない。対照的に、熱可塑性複合材は、硬化する必要がなく、冷却時にはその所要の構造特性を有し且つ加熱時には柔らかくなる。熱可塑性複合材は、加熱時には実質的に化学的変化よりもむしろ物理的変化をするので、繰り返し、加熱によって柔らかく且つ冷却によって固くされうる。
【0002】
熱可塑性複合材および熱硬化性複合材は、両方ともテープと呼ばれる可撓性を有する薄いシートまたはストリップとして形成されうる。このことは成形型に複合材テープを敷設することによって複合材部品が形成されることを可能とし、このとき部品の厚さが、敷設された複合材テープの層数に従って局所的に変化せしめられ、且つテープの一以上の層の方向が、形成される複合材部品の最終的な構造特性を制御するように制御可能である。その後、積層状に載置(lay up)された部品は「コンソリデーション(consolidation)」され、「コンソリデーション」とは、熱可塑性複合材料および熱硬化性複合材料の両方の場合において、熱硬化性のマトリックスまたは熱可塑性のマトリックスが単一の統合されたマトリックスを形成するのに十分な程度に柔らかくなるように複合材構造を加熱すること、及び閉じ込められた空気をマトリックスから放出するために、柔らかくされたマトリックスに十分な圧力を印加することを含む処理をいう。
【0003】
最終的な構造特性に関して、熱可塑性複合材は、熱硬化性複合材の最終特性よりも優れた耐衝撃性および耐破壊性を有し、また一般的に靱性および化学的な腐食耐性が高く、これら全ての特性は航空宇宙の用途において好ましい特性である。更にその上、熱可塑性複合材は、繰り返し、再加熱および再成形されうるので元来リサイクル可能であり、このことはますます強まる重要な事項である。
【0004】
しかしながら、熱硬化性複合材テープは、現在のところ航空宇宙の複合材部品において使用される材料として熱硬化性複合材料を選択させる、積層状載置処理に関する一つの特性を有する。この特性とは、熱硬化性のテープが、元来粘着性であり、またはタックを有すると言われていることである。この粘着性は、熱硬化性のテープが航空宇宙産業における複合材部品について必要とされることが多い複雑に形成された成形面の両面に接着することを可能とし、且つ一度最初の層が成形面に貼り付けられると、熱硬化性のテープの別個の複数の層が互いに接着し合うことをも可能とし、その結果、積層状載置処理を物理的取扱いに関して容易且つ便利にする。
【0005】
対照的に、熱可塑性複合材テープは粘着性を有さない。結果的に、積層状載置処理の間、熱可塑性複合材テープを複雑な成形面に接着させることが問題となる。現在の積層状載置技術は、基層が成形型の表面に固く保持される場合に限り、最初の基層が積層されることができるようにすべく、熱可塑性複合材料の局所的なコンソリデーションと溶解とを組み合わせている。以前に提案された本問題に対する解決法は、別個の両面接着用テープを、熱可塑性複合材テープの第1層が後に接着する成形面に、最初の層として貼り付けることを含んでいた。同様に、接着剤を成形面にスプレーすることも提案されていた。提案された両解決法は、熱可塑性複合材テープの第1層が、複雑な形状の成形面にうまく貼り付けられることを可能とするが、これら解決法は、このとき部品が成形面に効果的に固着されているので、積層状載置処理が完了したとき、その後に、形成された複合材部品を成形型からいかに除去するかというこれら解決法特有の問題を発生させる。結果的に、熱可塑性複合材料によって提供される優れた物理的特性にもかかわらず、熱硬化性複合材料を使用することが現在もまだ好まれている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、熱可塑性複合材を成形型に積層状に載置する方法において、成形面を有する成形型を提供する工程であって、成形型の少なくとも一部が多孔質材料を含む工程と、成形面に負圧を生成するように多孔質材料に負圧を印加する工程と、熱可塑性複合材料の最初の層を成形面上に載置する工程であって、熱可塑性複合材料が成形面での負圧により成形面に対して保持される工程と、熱可塑性複合材料をコンソリデーションにより圧着(consolidate)する工程であって、熱可塑性複合材料を加熱することを含む工程とを含む、方法が提供される。
【0007】
好ましくは、多孔質材料は例えば機械加工が可能なマイクロポーラスアルミニウムのようなマイクロポーラスメタルを含む。
【0008】
加えてまたは代替的に、熱可塑性複合材料をコンソリデーションにより圧着する工程は熱可塑性複合材料を局所加熱することを含みうる。好ましくは、局所加熱工程は熱可塑性複合材料をレーザ融着させることを含む。
【0009】
加えてまたは代替的に、上記方法は、後に、熱可塑性複合材料の次の層を積層状に載置し且つコンソリデーションにより圧着する工程を更に含みうる。
【0010】
加えてまたは代替的に、上記方法は、コンソリデーション工程の後に、コンソリデーションにより圧着された熱可塑性複合材料を成形型から解放するように、多孔質材料を通して成形面に正圧を印加する工程を更に含みうる。
【0011】
熱可塑性複合材料は、テープ形状で提供され、それ故に自動テープ載置技術を使用して積層状に載置されうる。
【0012】
多孔質材料に負圧を印加する工程は、成形面以外の多孔質材料の一部を少なくとも不完全な真空にすることを含みうる。
【0013】
成形型は、非多孔質材料から形成される、成形面の一部を形成する少なくとも一領域を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るマイクロポーラスの成形型の使用を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、限定するものではない例示的な単なる例として本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る、熱可塑性複合材の改良されたテープ載置方法を概略的に示す。成形型1が、形成すべき複合材部品の所望の外面形状と配置とを画定する成形面3を有して設けられる。成形面3が形成される成形型の部分はそれ自体が多孔質材料から形成され、この多孔質材料の一例がマイクロポーラスアルミニウムである。成形型1の全体が多孔質材料から形成されてもよいし、或いは、成形面3の隣接域のみで多孔質材料5が使用されて成形型1の残りの部分が例えば軟鋼のような他の適切な非多孔質材料から形成されてもよい。多孔質材料5はそこに形成されるラビリンス状の通気路7を有し、この通気路7は固体障壁およびコントロールバルブを組み込むことによって区分されうる。
【0016】
本発明の実施形態に係る熱可塑性のテープ8の最初の層を載置するために、成形面3に負圧領域を形成すべく多孔質材料5を通して空気が順に引き込まれるように、負圧が成形型1内の通気路7に印加される。その後、熱可塑性複合材テープまたは表面の広いスクリム織物が、所望の配置で成形面上に載置され、且つ多孔質材料5中の孔と成形型1に形成される通気路7とを介して成形面に印加されている負圧により、熱可塑性複合材テープが成形面3に対して保持される。好ましい実施形態において、熱可塑性複合材テープ8の個々の部分はコンソリデーション処理で互いに熱融着される。融着作業は、テープ載置用ヘッド中に局所加熱装置を内蔵する公知の自動テープ載置機を使用するテープ載置処理と同時に実現されうる。例えば、テープ載置用ヘッドは局所加熱処理および融着処理を実現すべく赤外線レーザを含みうる。また、熱可塑性複合材テープ8に続く層が、予め載置された複合材テープに熱的にコンソリデーションにより圧着される。完成した複合材部品が成形型内に積層状に載置され且つ同時にコンソリデーションにより圧着されたとき、複合材部品は、成形型からの完成した複合材部品の単純な機械的除去、すなわち単純な持ち上げ作業によって成形型1から取り外されることができ、または成形面3でマイクロポーラス材料5内の孔を介して正圧を与えるように通気路7に正圧を印加して完成された複合材部品を成形型1から効果的に「吹き飛ばすこと」によって容易に成形型1から取り外されうる。
【0017】
本発明の実施形態に従った使用に適切な多孔質材料5は、典型的には10ミクロン単位で測定される平均孔直径を有する。例えば、マイクロポーラスアルミニウムは典型的には約15ミクロンの平均孔直径を有し、約15%の材料全体の多孔率を提供する。斯かる多孔質材料の比較的小さい孔径は、熱可塑性のマトリックスの特徴的に比較的高い粘性とともに、コンソリデーションを可能とするのに十分なほど加熱されたときでさえ、熱可塑性材料が孔に引き込まれることを防ぎ、その結果、形成される複合材部品に対する高品質な表面仕上げを確実なものとし且つテープ載置処理の間、孔の閉塞を防ぐ。
【0018】
前述されたように、熱可塑性材料は、別個の部材の統合された熱可塑性のマトリックスへのコンソリデーションを可能とすべく加熱されなければならない。このコンソリデーションが起こり始める温度は一般的にガラス転移温度(Tg)として言及され、この温度は特定の熱可塑性のマトリックス材料に依存して変化する。例えば、PEEKのTgは143℃、PEKKは156℃、そしてPPSは89℃である。使用されるコンソリデーション処理次第で、選択された多孔質材料について定められた最大許容成形温度よりも高いTgを有する熱可塑性のマトリックス材料を使用することが可能であり、なぜなら例えばレーザ融着のコンソリデーションが使用されるのであれば、加熱は高度に局所化され且つ比較的短時間であるだろうから、多孔質材料に伝達される熱が、型材の温度を多孔質材料の許容される最大値を超えて上げるのに不十分であるためである。また、比較的高い熱伝導率を持つ多孔質材料が、局所熱源、すなわちテープ載置・融着ヘッドから離れるように過剰な熱を伝導する傾向にあるだろうから、その結果、多孔質材料内における熱の急速且つ局所的な蓄積を軽減するので、多孔質材料の熱伝導率も寄与因子であるだろう。同様に、多孔質の型材の最大許容温度が、選択された熱可塑性のマトリックス材料のガラス転移点よりも大きければ、熱可塑性材料のコンソリデーションを、積層状に載置された複数の層の一般加熱によって、例えば従来の加熱オーブンの内部で積層状載置作業をすることによって行うことが可能且つ好ましいが、ただしこのことは積層状に載置された積層体を同時に保持すべく、積み重なっている層の少なくとも局所的な融着をまだ必要とするであろう。
【0019】
負圧を多孔質材料5の成形面3に印加することによって、例えば通気路7を真空ポンプに連結することによって、熱可塑性のテープは、成形面が複雑な形状を有する場合、或いは負圧を印加しなければ熱可塑性のテープが重力によって成形面から外れるであろう場合に、多孔質材料の成形面に対して繋止されるように保持される。負圧が多孔質の型材に印加されないときでさえ熱可塑性のテープが動く可能性が低い成形型の領域において、例えば水平な成形面の領域において、これら領域は型材の非多孔性のものを使用して形成されてもよい。(異なる物質における、熱膨張および熱収縮の異なる比率に起因するいくつかの問題を回避すべく、同じ型材を使用することが好ましい。)加えて、本発明の特定の実施形態において、多孔質材料5が、他の非多孔質材料中に多数の個別孔を開けることによって形成されることがありうるであろう。しかしながら、孔開け処理自体に時間がかかるだろうし、且つその結果形成された孔が、熱可塑性のテープがコンソリデーションの間に加熱されるときに熱可塑性材料が孔に流れ込みかつ孔を塞ぐことを回避すべく、選択された熱可塑性のマトリックス材料の粘度と比較してまだ十分に小さくなければならないので、これは好ましい実施形態ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性複合材を成形型に積層状に載置する方法において、
成形面を有する成形型を提供する工程であって、該成形型の少なくとも一部が多孔質材料を含む工程と、
前記成形面に負圧を生成するように前記多孔質材料に負圧を印加する工程と、
熱可塑性複合材料の最初の層を前記成形面上に載置する工程であって、前記熱可塑性複合材料が前記成形面での前記負圧により前記成形面に対して保持される工程と、
前記熱可塑性複合材料をコンソリデーションにより圧着する工程であって、前記熱可塑性複合材料を加熱することを含む工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記多孔質材料がマイクロポーラスメタルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱可塑性複合材料をコンソリデーションにより圧着する工程が前記熱可塑性複合材料を局所加熱することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記局所加熱工程が前記熱可塑性複合材料をレーザ融着させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
後に、熱可塑性複合材料の次の層を積層状に載置し且つコンソリデーションにより圧着する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コンソリデーション工程の後に、コンソリデーションにより圧着された前記熱可塑性複合材料を前記成形型から解放するように、前記多孔質材料を通して前記成形面に正圧を印加する工程を更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱可塑性複合材料がテープ形状で提供され且つ自動テープ載置技術を使用して積層状に載置される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔質材料に負圧を印加する工程が、前記成形面以外の前記多孔質材料の一部を少なくとも不完全な真空にすることを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記成形型が、非多孔質材料から形成される、前記成形面の一部を形成する少なくとも一領域を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−518687(P2011−518687A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505596(P2011−505596)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050349
【国際公開番号】WO2009/130493
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(508305926)エアバス オペレーションズ リミティド (38)
【Fターム(参考)】