説明

熱可塑性重合体の製造方法

【課題】耐熱性、成形加工特性、無色透明性に優れた熱可塑性重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法であって、
(工程A)不飽和カルボン酸アルキルエステルと不飽和カルボン酸を含有する単量体混合物を常圧での沸点が250℃以上、かつ単量体および得られる原共重合体の溶解度が10g/100g以上である溶剤中で溶液重合し、原共重合体溶液を得る工程、
(工程B)工程Aで得られた原共重合体溶液を、前記溶剤が留去しない状態で、脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行い、熱可塑性重合体溶液を得る工程、および
(工程C)工程Bで得られた熱可塑性重合体溶液から前記溶剤を分離し、熱可塑性重合体を得る工程、
を含む熱可塑性重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、成形加工特性、無色透明性に優れ、とりわけ色調に優れるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと称する)やポリカーボネート(以下、PCと称する)といった非晶性樹脂は、その透明性や寸法安定性を活かし、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
近年、これらの樹脂は、特に光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイ用シート・フィルム、導光板などの、より高性能な光学材料にも幅広く使用されるようになっており、樹脂に要求される光学特性や成形加工性、耐熱性もより高度なものになっている。
【0003】
しかしながら、PMMA樹脂は優れた透明性と耐候性を有するものの、耐熱性が十分ではないといった問題があり、一方、PC樹脂は耐熱性と耐衝撃性に優れるものの、光学的歪みである複屈折率が大きく、成形物に光学的異方性が生じること、成形加工性、耐傷性、耐油性に著しく劣るといった問題があった。
【0004】
これらの問題点を解決する方法として、懸濁重合で得られた不飽和カルボン酸単量体単位を含有する原共重合体を、押出機を用いて加熱して環化反応させることにより得られるグルタル無水物単位を含有する熱可塑性重合体が開示されているが(特許文献1参照)、押出機を用いて加熱処理して得られる該熱可塑性重合体は著しく着色するという問題があった(非特許文献1)。
【0005】
また、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する原共重合体溶液を真空下で加熱することによりグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、この方法で用いられている溶剤の沸点は低く、環化反応の初期段階で溶剤の大部分が留去されてしまうために、環化反応を十分抑制できないといった問題点があった。
【特許文献1】特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】特開昭60−120707号公報(第1−2頁、実施例)
【非特許文献1】D. H. Grant and N. Grassie, Polymer, 1960, Vol.1, p.125 - 134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高度な耐熱性、無色透明性、熱安定性に優れた成形加工特性を有すると同時に、光学材料に要求されている高度な無色透明性を満足する熱可塑性重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造するに際し、特定の溶剤、および反応手順と条件を用いることにより、従来の知見では成し得ることができなかった、無色透明性を満足する熱可塑性重合体の製造が可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は
式(1)で示されるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法であって、
【0009】
【化1】

【0010】
(式中のRとR’は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素原子1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかである)
少なくとも、
(工程A)不飽和カルボン酸アルキルエステルと不飽和カルボン酸を含有する単量体混合物を常圧での沸点が250℃以上、かつ単量体および得られる原共重合体の溶解度が10g/100g以上である溶剤中で溶液重合し、原共重合体溶液を得る工程、
(工程B)工程Aで得られた原共重合体溶液を、前記溶剤が留去しない状態で、脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行い、熱可塑性重合体溶液を得る工程、および
(工程C)工程Bで得られた熱可塑性重合体溶液から前記溶剤を分離し、熱可塑性重合体を得る工程、
を含む熱可塑性重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高度な耐熱性、無色透明性、熱安定性に優れた成形加工特性を有すると同時に、光学材料に要求されている高度な無色透明性を満足する熱可塑性重合体を製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の熱可塑性重合体の製造方法について具体的に説明する。
【0013】
本発明の熱可塑性重合体とは、下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含む熱可塑性重合体であり、これらは一種または二種以上で用いることができる。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中のRとR’は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素原子1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかである)
【0016】
本発明の上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法は、少なくとも以下に示す3つの工程を含む方法により製造される。
(工程A)不飽和カルボン酸アルキルエステルと不飽和カルボン酸を含有する単量体混合物を常圧での沸点が250℃以上、かつ単量体および得られる原共重合体の溶解度が10g/100g以上である溶剤中で溶液重合し、原共重合体溶液を得る工程、
(工程B)工程Aで得られた原共重合体溶液を、前記溶剤が留去しない状態で、脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行い、熱可塑性重合体溶液を得る工程、および
(工程C)工程Bで得られた熱可塑性重合体溶液から前記溶剤を分離し、熱可塑性重合体を得る工程。
【0017】
工程Aに用いられる不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(2)
【0018】
【化3】

【0019】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると下記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0020】
【化4】

【0021】
また不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0022】
【化5】

【0023】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0024】
これらのうち、水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると下記一般式(5)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0025】
【化6】

【0026】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などの単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0027】
また、工程Aにおいては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体などを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0028】
工程A開始時に用いられる単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸系単量体が5〜50重量%、より好ましくは10〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは50〜95重量%、より好ましくは55〜90重量%、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%である。
【0029】
不飽和カルボン酸系単量体量が15重量%未満の場合には、工程BおよびCでの重合体の加熱による上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸系単量体量が50重量%を超える場合には、工程BおよびCでの環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0030】
これらの単量体混合物は、溶剤中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、工程A後に生成する原共重合体を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0031】
工程Aでは、単量体混合物の仕込み濃度が8〜80重量%で行うのが好ましい。ここで、単量体混合物の仕込み濃度は上述のように分割添加あるいは逐次添加する場合にはすべての単量体混合物を添加し終わった状態での仕込み濃度をいい、単量体混合物、溶剤、その他の添加剤などを含む全体の重量に対する添加時の単量体混合物の重量で表す。仕込み濃度は、15〜60重量%がさらに好ましい。 仕込み濃度が80重量%以下であると、環化反応時の着色を抑制することができるので好ましく、8重量%以上とすることで、重合速度を適度に保つことができ、生産性の面から好ましい。
【0032】
本発明で使用される溶剤は常圧での沸点が250℃以上、かつ単量体および得られる原共重合体の溶解度が10g/100g以上であれば特に限定されないが、常圧での沸点は250〜300℃が好ましく、250〜280℃がより好ましい。好ましい例として炭化水素系化合物、カルボン酸エステル系化合物、エーテル系化合物、ケトン系化合物を挙げることができる。中でもエーテル系化合物が好ましく、例えばテトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテルが挙げられる。
【0033】
なお、ここでの「溶解度」とは20℃で24時間撹拌した時の溶剤100gに溶解する単量体または原共重合体の重量を意味する。
【0034】
本発明の製造方法において重合する際、その重合反応系に水を用いると共重合組成を精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極く少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが最も好ましい。
【0035】
工程Aにおける重合温度については、任意に設定することが可能であるが、使用する溶剤の沸点以下の温度が好ましく、中でも190℃以下が好ましい。また、重合温度の下限は重合が進行する温度であれば特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から30〜360分間の範囲が好ましく、60〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0036】
また、工程Aにおける、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、加熱処理後の熱可塑性重合体の優れた無色透明性、滞留安定性および熱安定性を達成することができるため、好ましい。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。溶存酸素濃度が5ppmを超える場合、工程C後の熱可塑性重合体が着色する傾向が見られ、また熱可塑性重合体の熱安定性が低下するため、本発明の目的を達することができない。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0037】
本発明に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0038】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物100重量部に対して、0.01〜20重量部が好ましく、中でも0.1〜10重量部が好ましい。
【0039】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0040】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0041】
本発明により得られる原共重合体の重量平均分子量(以下Mwとも言う)は2000〜1000000であることが好ましく、中でも5000〜500000であることが好ましい。尚、本発明でいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0042】
Mwが2000未満の場合には熱可塑性重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にあり、Mwが1000000を超える場合には、溶融粘度が高く、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない傾向にある。
【0043】
また、本発明では、特定の共重合組成、溶媒種を選択することにより、均質な分子量分布を有する原共重合体が得られる。好ましい態様においては原共重合体の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)で、1.5〜5.0であるものが得られ、より好ましい態様においては、1.5〜4.0であるものが得られ、とりわけ好ましい態様においては1.5〜3.5の範囲のものが得られる。分子量分布が上記範囲にある場合には、得られる熱可塑性重合体が成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。
【0044】
工程Bでは原共重合体溶液をの、溶剤が留去されない条件下で加熱処理することで、脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行う。この条件としては温度が200〜T℃(Tは溶剤の常圧での沸点[℃]から10を引いた値)、および圧力が70〜101.3kPaであることが好ましい。200℃未満または101.3kPaの常圧を超える圧力では分子内環化反応速度を考慮した生産性が低下する傾向にあり、T℃を超える温度または70kPa未満の圧力下では溶媒が留去され、熱可塑性樹脂重合体が着色するという傾向がある。
【0045】
さらに本発明では、工程Bで加熱する以前またはその開始時に、グルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、工程Aで得られた原共重合体に対して0.1〜1000ppmが好ましく、中でも0.1〜500ppmが好ましく、更に好ましくは0.1〜200ppmである。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。
【0046】
原共重合体の脱水及び/又は脱アルコール反応を十分に行うことにより、工程B後の熱可塑性重合体中に含有される不飽和カルボン酸単位量は15モル%以下、すなわち0〜15モル%とすることが好ましく、より好ましくは0〜10モル%である。不飽和カルボン酸単位が15モル%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0047】
工程Cでは工程Bよりも溶液温度または減圧度を上げて溶剤を留去するが、その処理温度として150〜300℃が好ましく、より好ましくは200〜250℃である。また、処理圧力は0.01〜13.3kPaが好ましく、中でも0.01〜2.0kPaが好ましい。処理時間は3〜90分間が好ましく、中でも30〜90分間が好ましい。150℃以下、13.3kPa、3分間以下では環化反応が十分に進行せず、300℃を超える、または90分間を超えると熱可塑性樹脂重合体が着色する傾向がある。
【0048】
本発明の熱可塑性重合体中の前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性重合体100モル%中に好ましくは5〜50モル%、より好ましくは10〜50モル%、更に好ましくは25〜50モル%、とりわけ30〜45モル%が好ましい。
【0049】
また、本発明の熱可塑性重合体における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm−1及び1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる熱可塑性重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0050】
本発明の重合体の脱水及び/又は脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性重合体中に含有される不飽和カルボン酸単位量は10モル%以下、すなわち0〜10モル%とすることが好ましく、より好ましくは0〜5モル%である。不飽和カルボン酸単位が10モル%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0051】
かくして得られる本発明の熱可塑性重合体は、ガラス転移温度が120℃以上と優れた耐熱性を有し、実用耐熱性の面で好ましい。また、好ましい態様においてはガラス転移温度が130℃以上の極めて優れた耐熱性を有する。また、上限としては、通常160℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量計(TAinstruments社製DSC2920型)を用いて昇温速度16℃/分で測定したガラス転移温度である。
【0052】
また、本発明の製造方法により製造される熱可塑性重合体は、好ましい態様において、黄色度(YellownessIndex)の値が2以下と着色が抑制され、さらに好ましい態様においては1.5以下と極めて高度な無色透明性を有する。上記において黄色度はペレットのYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常0.5程度である。
【0053】
さらに、本発明の熱可塑性重合体の製造時には、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が本発明の熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0054】
本発明により製造された熱可塑性重合体は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
本発明により製造された熱可塑性重合体からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品として、カメラ、VTR、プロジェクションTVなどの撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクターなど、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバーなど、自動車などの輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージングなど、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セルなど、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料などにも適用することができ、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0056】
(1)各成分組成
重ジメチルスルフォキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0057】
(2)重量平均分子量
得られた原共重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、示差屈折率検出器8020型(東ソー社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定した。
【0058】
(3)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性重合体をペレット化し、そのYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューターST−45(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0059】
実施例1
(工程A)
メタクリル酸メチル112g(関東化学(株)製、1.12モル)、メタクリル酸48g(関東化学(株)製、0.56モル)、あらかじめラウロイルパーオキサイド0.8g(ランカスター製、2.0ミリモル)とn−ドデシルメルカプタン1.2g(東京化成工業(株)製、5.9ミリモル)を溶解させたテトラエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製、沸点275℃)240gを密閉系の反応容器に入れ、さらにこの容器をシリコーンオイルバスに浸からせた後、常圧の窒素雰囲気下、攪拌しながら100℃で1時間、さらに180℃で0.5時間反応させた。さらにWingstay−Lを0.75g(エリオケム製)とトリス(2,4−ジーt−ブチルフェニル)ホスファイト0.375g(チバスペシャルティ製IRGAFOS168、0.58ミリモル)とを反応液に添加した。得られた原共重合体の重量平均分子量は42000であった。
【0060】
(工程B)
常圧の窒素雰囲気下、250℃で1.5時間分子内で環化反応させた。得られた熱可塑性重合体中の不飽和カルボン酸単位の含有量は10モル%であった。
【0061】
(工程C)
ロータリー式オイルポンプを用いて系内を徐々に減圧し、圧力1kPaで未反応単量体類およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルを留去した。減圧開始から0.5時間後に攪拌を停止した。続いて圧力を0.13kPaまで減圧した状態で250℃のまま保持し、ほぼ溶剤を含まず、薄黄色の熱可塑性重合体96gを得た。この熱可塑性重合体を分析した結果、組成はメタクリル酸メチル単位60モル%、メタクリル酸単位8モル%、グルタル酸無水物単位32モル%であり、黄色度は1.0であった。
【0062】
なお、Wingstay−Lは式(6)にて表される化合物である。
【0063】
【化7】

【0064】
比較例1〜3
溶剤としてテトラエチレングリコールジメチルエーテルの代わりにエチルベンゼン(東京化成工業(株)製、沸点136℃)を用い、工程Bの有無または温度、圧力、時間が異なる、工程Cの温度、圧力、時間が異なる点以外は実施例1と同様に重合および分子内環化反応を行った。分子内環化反応が十分に進んでいない、黄味の強いなどの欠点のある熱可塑性重合体が得られた。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例2〜13
単量体の組成比、単量体の内容物総量に占める割合、工程Aの最後におけるアルカリ金属化合物の投入有無、工程Bまたは工程Cの条件が異なる点以外は実施例1と同様に重合および分子内環化反応を行った。黄味の少ない熱可塑性重合体が得られた。
【0067】
なお、実施例7では圧力制御装置(東京理化器械(株)製、NVC−2000)を用いて圧力を制御した。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の製造方法であって、
【化1】

(式中のRとR’は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素原子1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかである)
少なくとも、
(工程A)不飽和カルボン酸アルキルエステルと不飽和カルボン酸を含有する単量体混合物を常圧での沸点が250℃以上、かつ単量体および得られる原共重合体の溶解度が10g/100g以上である溶剤中で溶液重合し、原共重合体溶液を得る工程、
(工程B)工程Aで得られた原共重合体溶液を、前記溶剤が留去しない状態で、脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行い、熱可塑性重合体溶液を得る工程、および
(工程C)工程Bで得られた熱可塑性重合体溶液から前記溶剤を分離し、熱可塑性重合体を得る工程、
を含む熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項2】
工程Aにおいて、単量体混合物の仕込み濃度が8〜80重量%である請求項1記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤の沸点が250〜300℃である請求項1または2記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤が炭化水素系化合物、カルボン酸エステル系化合物、エーテル系化合物およびケトン系化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項5】
エーテル系化合物がテトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジベンジルエーテルおよびジフェニルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項4記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項6】
不飽和カルボン酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルである請求項1〜5いずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項7】
不飽和カルボン酸がメタクリル酸である請求項1〜6のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項8】
工程Bでの原共重合体溶液の処理温度が200〜(前記溶剤の常圧での沸点−10)℃、および圧力が70〜101.3kPaである請求項1〜7のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項9】
アルカリ金属化合物が原共重合体に対して0.1〜1000ppm存在する状態で脱アルコールおよび/または脱水反応による分子内環化反応を行う請求項1〜8のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項10】
工程B後の熱可塑性重合体中に含まれる不飽和カルボン酸単位が1〜15モル%である請求項1〜9のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項11】
工程Cでの熱可塑性重合体溶液の処理温度が150〜300℃、処理圧力が0.01〜13.3kPa、処理時間が3〜90分間である請求項1〜10のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。
【請求項12】
得られた熱可塑性重合体の黄色度が2以下である請求項1〜11のいずれか記載の熱可塑性重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−121000(P2008−121000A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268474(P2007−268474)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】