説明

熱可塑性重合体組成物、熱可塑性樹脂組成物、それを用いた成形品および熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】本発明の目的は、柔軟で燃料バリア性に優れており、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性を兼ね備え、かつ溶融成形可能な熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物を提供することである。また、本発明の目的は、該熱可塑性重合体組成物または該熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品、燃料周辺部品、燃料ホース、燃料容器を提供することである。さらに、本発明の目的は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【解決手段】含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および少なくとも1種のフッ素ゴム(b)の少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物(D)であって、架橋フッ素ゴム(B)が、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである熱可塑性重合体組成物(D)である。また、前記熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)を溶融混練させてなる熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素熱可塑性エラストマーおよび少なくとも1種のフッ素ゴムの少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物、ならびに該熱可塑性重合体組成物と他の熱可塑性樹脂を複合させてなる熱可塑性樹脂組成物に関する。また、該熱可塑性重合体組成物または該熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品、燃料周辺部品、燃料ホース、燃料容器に関する。さらに、本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境意識の高まりから、燃料揮発を防止するための法整備が進み、特に自動車業界では米国を中心に燃料揮発抑制の傾向が著しく、燃料バリア性に優れた材料へのニーズが大きくなりつつある。燃料バリア性に優れた材料として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されているが、それに対して柔軟なゴム系材料、例えば架橋ゴムは一般的に燃料バリア性に劣っており、燃料ホース等の自動車部品に使用した場合には燃料の揮発・蒸散が大きく、この改善が求められている。架橋ゴムの中でも、架橋フッ素ゴムの燃料バリア性は良好なものではあるが、上記に掲げた熱可塑性樹脂と比較すると著しく燃料バリア性に劣っており、柔軟でかつ燃料バリア性に優れた材料開発が急務となっている。
【0003】
一方、架橋ゴムを使用して成形品を製造するには、例えば、(1)未架橋ゴムを架橋剤、受酸剤、充填剤等と共に混練する工程、(2)押出機または射出成形機を用いて成形する工程、(3)プレスまたはオーブンを用いて架橋を行なう工程などの複雑な過程を経るのが一般的であり、成形品を得るためには長時間を必要とする。また、架橋ゴムは、架橋後は溶融しないため、融着等の後加工ができず、リサイクルも不可能であるといった問題点を有している。
【0004】
上記の状況下、柔軟で燃料バリア性を有し、かつ溶融成形性やリサイクル性を有する樹脂として、『ダイネオンTHV』が開発されている(例えば、非特許文献1、特許文献1および2参照)。しかしながら、これらの文献に記載された樹脂の特性として、燃料バリア性を高めようとすると硬度や弾性率が大きくなり、また硬度や弾性率を低下させようとすると燃料バリア性が著しく悪化するという問題点があり、柔軟性と燃料バリア性との両立が不充分である。
【0005】
【非特許文献1】Modern Fluoropolymers: high performance polymers for diverse applications, John Wiley & Sons, Chichster,(1997) Chapter 13
【特許文献1】特開2000−2745562号公報
【特許文献2】特開2002−276862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、柔軟で燃料バリア性に優れており、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性を兼ね備え、かつ溶融成形可能な熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物を提供することである。また、本発明の目的は、該熱可塑性重合体組成物または該熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品、燃料周辺部品、燃料ホース、燃料容器を提供することである。さらに、本発明の目的は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および少なくとも1種のフッ素ゴム(b)の少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物(D)であって、架橋フッ素ゴム(B)が、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである熱可塑性重合体組成物(D)に関する。
【0008】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が、少なくとも1種のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、少なくとも1種の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)とを含み、かつエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のうち、少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであることが好ましい。
【0009】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が、1個のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、2個の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)を含み、かつエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のうちの少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであるトリブロックポリマーであることが好ましい。
【0010】
エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)が、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンの共重合体であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)が、テトラフルオロエチレン/エチレンの共重合体であることが好ましい。
【0011】
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムおよびテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましい。
【0012】
架橋剤(C)が、有機過酸化物、アミン化合物およびヒドロキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造であることが好ましい。
【0014】
架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径が、0.01〜20μmであることが好ましい。
【0015】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)との重量比が、80:20〜10:90であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)を溶融混練させてなる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0017】
熱可塑性樹脂(E)が、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および液晶樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0018】
フッ素系樹脂が、
(1)テトラフルオロエチレンおよびエチレンの共重合体、
(2)テトラフルオロエチレンと、下記一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体、
(3)テトラフルオロエチレン単位19〜90モル%、エチレン単位9〜80モル%、および下記一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜72モル%を含む共重合体、および
(4)ポリフッ化ビニリデン
からなる群から選ばれる一つ以上の樹脂であることが好ましい。
【0019】
熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)の重量比が、70:30〜10:90であることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、前記熱可塑性重合体組成物(D)または前記熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品、前記熱可塑性重合体組成物(D)または前記熱可塑性樹脂組成物を含む層と、他の材料を含む層を有する積層成形品、前記熱可塑性重合体組成物(D)または前記熱可塑性樹脂組成物を用いた燃料周辺部品、前記熱可塑性重合体組成物(D)または前記熱可塑性樹脂組成物を用いた単層燃料ホース、前記熱可塑性重合体組成物(D)または前記熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する多層燃料ホース、前記熱可塑性樹脂組成物を用いた燃料容器に関する。
【0021】
さらに、本発明は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、架橋フッ素ゴム(B)および架橋剤(C)を、溶融条件下にて動的に架橋処理する工程、続いて熱可塑性樹脂(E)を溶融混練する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、含フッ素熱可塑性エラストマーおよび少なくとも1種のフッ素ゴムの少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴムを含む熱可塑性重合体組成物からなることにより、また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性重合体組成物からなることにより、柔軟性、燃料バリア性が優れており、耐熱性・耐薬品性・耐油性等の特性を兼ね備え、かつ成形加工性に優れる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、第1に、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および少なくとも1種のフッ素ゴム(b)の少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物(D)であって、架橋フッ素ゴム(B)が、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである熱可塑性重合体組成物(D)に関する。
【0024】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)としては、特に限定されるものではないが、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)の相溶性が優れる点から、少なくとも1種のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、少なくとも1種の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)とからなり、かつエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のうち、少なくとも一方が含フッ素ポリマーセグメントであることが好ましい。
【0025】
エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)は、重合体に柔軟性を付与し、ガラス転移点が25℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以下である。その構成単位としては、たとえば、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとする)、クロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとする)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとする)、一般式(2):
CF2=CFO(CF2CFX1O)p−(CF2CF2CF2O)q−Rf3 (2)
(式中、X1は、フッ素原子または−CF3、Rf3は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、pは、0〜5の整数、qは、0〜5の整数である)
で表されるパーフルオロビニルエーテルなどのパーハロオレフィン;ビニリデンフルオライド(以下、VdFとする)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体などがあげられる。
【0026】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、一般式(3):
CX22=CX2−Rf4CHR13 (3)
(式中、X2は、水素原子、フッ素原子または−CH3、Rf4は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、R1は、水素原子または−CH3、X3は、ヨウ素原子または臭素原子である)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(4):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X4 (4)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、X4は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子である)で表される単量体で表されるような単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0027】
つぎに、非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)の構成単位としては、TFE、CTFE、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとする)、HFP、一般式(5):
CF2=CF(CF2r5 (5)
(式中、rは、1〜10の整数、X5は、フッ素原子または塩素原子である)で表される化合物、パーフルオロ−2−ブテンなどのパーハロオレフィン;VdF、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、一般式(6):
CH2=CX6−(CF2s−X6 (6)
(式中、X6は、水素原子またはフッ素原子、sは、1〜10の整数)で表される化合物、CH2=C(CF32などの部分フッ素化オレフィン;エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アクリル酸などの非フッ素単量体などをあげることができる。
【0028】
また、これらの中でも、エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)が、TFE/VdF/HFPの共重合体であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)が、TFE/エチレンの共重合体である含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が好ましく、エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)が、TFE/VdF/HFP=0〜35/40〜90/5〜50モル%であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)が、TFE/エチレン=20〜80/80〜20モル%である含フッ素熱可塑性エラストマー(A)がより好ましい。
【0029】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)は、1分子中にエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)がブロックやグラフトの形態で結合した含フッ素多元セグメント化ポリマーであることが好ましく、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が、1個のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、2個の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)からなり、かつそのうちの少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであるトリブロックポリマーからなることが好ましい。
【0030】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)としては、エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)とをブロックやグラフトなどの形態でつなぎ、含フッ素多元セグメント化ポリマーとするべく、公知の種々の方法が採用できるが、なかでも特公昭58−4728号公報などに示されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法や、特開昭62−34324号公報に示されたグラフト型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法などが好ましく採用できる。
【0031】
とりわけ、セグメント化率(ブロック化率)も高く、均質で規則的なセグメント化ポリマーが得られることから、特公昭58−4728号公報、高分子論文集(Vol.49、No.10、1992)記載のいわゆるヨウ素移動重合法で合成されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーが好ましい。
【0032】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)の好ましい製造方法としては、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法をあげることができる。たとえば、実質的に無酸素下で、水媒体中で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、前記パーハロオレフィンと、要すれば硬化部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、乳化重合を行なう方法があげられる。使用するジヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式(7)
2xBry (7)
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R2は炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物を存在させることによって得られる。このようにして導入されるヨウ素または臭素が架橋点として機能する。
【0033】
式(7)で表される化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合せて使用することもできる。
【0034】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタンなどを用いるのが好ましい。
【0035】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来から含フッ素エラストマーの重合に使用されているものと同じものであってよい。これらの開始剤には有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0036】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2重量%が好ましく、とくに0.2〜1.5重量%が好ましい。
【0037】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜5MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.8MPa以上であることが好ましい。
【0038】
前記ヨウ素移動重合法で含フッ素熱可塑性エラストマー(A)のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)を製造した場合、その数平均分子量は、得られる含フッ素多元セグメント化ポリマー全体へ柔軟性の付与、弾性の付与、機械的物性の付与の点から、3,000〜750,000であることが好ましく、5,000〜300,000であることがより好ましい。
【0039】
このようにして得られるエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)の末端部分はパーハロ型となっており、非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のブロック共重合の開始点となるヨウ素原子を有している。
【0040】
ついで、非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)へのブロック共重合は、エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)の乳化重合に引き続き、単量体を非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)用に変えることにより行なうことができる。
【0041】
得られる非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)の数平均分子量は、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)への耐熱性の付与、機械的物性の付与の点から、1,000〜1,200,000が好ましく、より好ましくは3,000〜600,000である。
【0042】
また、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)には、非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)が結合していないエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)のみのポリマー分子は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)中のセグメントとポリマー分子との合計量に対し20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以下である。
【0043】
本発明で用いる架橋フッ素ゴム(B)としては、少なくとも1種のフッ素ゴム(b)の少なくとも一部を架橋したものであればとくに制限されるものではない。
【0044】
フッ素ゴム(b)としては、たとえば、パーフルオロフッ素ゴム(b−1)、非パーフルオロフッ素ゴム(b−2)などがあげられる。
【0045】
パーフルオロフッ素ゴム(b−1)としてはTFE/PAVE系共重合体、TFE/HFP/PAVE系共重合体などがあげられる。
【0046】
非パーフルオロフッ素ゴム(b−2)としては、たとえば、VdF系重合体、TFE/プロピレン系共重合体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0047】
また、前記パーフルオロフッ素ゴムや非パーフルオロフッ素ゴムとして例示したものは主モノマーの構成であり、架橋用モノマーや変性モノマー等を共重合したものも好適に用いることができる。架橋用モノマーや変性モノマーとしては、ヨウ素原子、臭素原子、二重結合を含むものなどの公知の架橋用モノマー、移動剤、公知のエチレン性不飽和化合物などの変性モノマーなどを使用することができる。
【0048】
前記VdF系重合体としては、具体的には、VdF/HFP系共重合体、VdF/TFE/HFP系共重合体、VdF/TFE/プロピレン系共重合体、VdF/エチレン/HFP系共重合体、VdF/TFE/PAVE系共重合体、VdF/PAVE系共重合体、VdF/CTFE系共重合体などをあげることができる。さらに具体的には、VdF25〜85モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体75〜15モル%とからなる含フッ素共重合体であることが好ましく、より好ましくは、VdF50〜80モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体50〜20モル%とからなる含フッ素共重合体である。
【0049】
ここで、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえば、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、PAVE、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体があげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。
【0050】
前記フッ素ゴムの中でも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましく、圧縮永久ひずみが良好な点から、VdF単位とHFP単位と有するフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0051】
また、VdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましく、VdF/HFP系フッ素ゴムであることがより好ましい。
【0052】
また、パーオキサイド架橋が可能である点から、フッ素ゴム(b)が、分子中にヨウ素原子または臭素原子を有していてもよい。
【0053】
本発明に使用されるフッ素ゴム(b)は、通常の乳化重合法により製造することができる。重合時の温度、時間などの重合条件としては、モノマーの種類や目的とするゴムにより適宜決定すればよい。
【0054】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)の架橋フッ素ゴム(B)は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および架橋剤(C)の存在下、少なくとも1種のフッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである。ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、フッ素ゴム(b)を溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機であることが好ましい。動的に架橋処理することで、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)の相構造を制御することができる。
【0055】
架橋剤(C)は、フッ素ゴム(b)の種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0056】
本発明で用いられる架橋系は、フッ素ゴム(b)に架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または得られる成形品などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としては、ポリオール架橋系、有機過酸化物架橋系およびポリアミン架橋系のいずれも採用できる。
【0057】
ここで、ポリオール架橋系により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性も良く、シール特性に優れているという特徴がある点で好適である。
【0058】
有機過酸化物架橋系により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−炭素結合を有しているので、架橋点に炭素−酸素結合を有するポリオール架橋系および炭素−窒素二重結合を有するポリアミン架橋系に比べて、耐薬品性および耐スチーム性に優れているという特徴がある。
【0059】
ポリアミン架橋により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−窒素二重結合を有しているものであり、動的機械特性に優れているという特徴がある。しかし、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系架橋剤を用いて架橋してなる場合に比べて、圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。
【0060】
したがって、本発明では、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系の架橋剤を用いることが好ましく、前述のようにシール性に優れる点から、ポリオール架橋系の架橋剤を用いることがより好ましい。
【0061】
本発明における架橋剤は、ポリアミン系、ポリオール系、有機過酸化物系の架橋剤を使用することができる。
【0062】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0063】
ポリオール架橋剤としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0064】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0065】
有機過酸化物架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0066】
これらの中でも、得られる成形品などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0067】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール系架橋剤と併用して、通常、架橋促進剤を用いる。架橋促進剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0068】
ポリオール架橋系の架橋促進剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0069】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8―ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7―ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0070】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0071】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0072】
有機過酸化物架橋促進剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0073】
架橋剤(C)の配合量としては、フッ素ゴム(b)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5重量部である。架橋剤(C)が、0.1重量部未満であると、フッ素ゴム(b)の架橋が充分に進行せず、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、10重量部をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の成形加工性が低下する傾向がある。
【0074】
架橋促進剤の配合量としては、フッ素ゴム(b)100重量部に対して、0.01〜8重量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5重量部である。架橋促進剤が、0.01重量部未満であると、フッ素ゴム(b)の架橋が充分に進行せず、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、8重量部をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の成形加工性が低下する傾向がある。
【0075】
また、溶融条件下とは、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、フッ素ゴム(b)が溶融する温度下を意味する。溶融する温度は、それぞれ含フッ素熱可塑性エラストマー(A)およびフッ素ゴム(b)のガラス転移温度および/または融点により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)とフッ素ゴム(b)の間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴム(b)が熱劣化する傾向がある。
【0076】
得られた熱可塑性重合体組成物(D)は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造、または含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)が共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0077】
フッ素ゴム(b)が、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、フッ素ゴム(b)が架橋フッ素ゴム(B)となることで溶融粘度が上昇し、架橋フッ素ゴム(B)が分散相になる、または含フッ素熱可塑性エラストマー(A)との共連続相を形成するものである。
【0078】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、その好ましい形態である含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造の一部に、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)との共連続構造を含んでいても良い。
【0079】
本発明においては、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)とフッ素ゴム(b)との相溶性が良好なため、フッ素ゴム(b)が含フッ素熱可塑性エラストマー(A)中で微分散することができ、その結果、架橋フッ素ゴム(B)相が微分散相を形成する熱可塑性重合体組成物(D)を得ることができる。
【0080】
このような構造を形成すると、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、優れた燃料バリア性、耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径は、0.01〜20μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、20μmをこえると、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の強度が低下する傾向がある。
【0081】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)において、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)との重量比が80:20〜10:90であることが好ましく、70:30〜20:80であることがより好ましく、60:40〜25:75であることがさらに好ましい。含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が10重量%未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の燃料バリア性が悪化し、成形加工性が低下する傾向があり、80重量%をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物(D)の強度が低下する傾向がある。
【0082】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜30g/10分であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると、流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。ここで、MFRは、(株)東洋精機製作所製メルトフローレート測定装置を使用して、297℃、5000g荷重の条件下にて実施する時の値を示す
そして、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、燃料周辺部品への使用を考慮した場合、燃料透過性が80g・mm/m2・day以下であることが好ましく、60g・mm/m2・day以下であることがより好ましく、30g・mm/m2・day以下であることがさらに好ましい。燃料透過性の下限値については、特に限定されるものではなく、小さければ小さい程好ましいものであり、0g・mm/m2・dayとなることが好ましい。
【0083】
ここで、燃料透過性の測定は、防湿包装材料の透湿度試験方法におけるカップ法に準ずる方法にて実施した。ここで、カップ法とは、JIS Z 0208に規定された透湿度試験方法であり、一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気量を測定する方法である。本発明においては、このカップ法に準じて、燃料透過性を測定するものである。具体的方法としては、20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10-32)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求める。
【0084】
【数1】

【0085】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0086】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて成形加工することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができ、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)は、使用目的に応じて任意の形状の成形体に成形される。
【0087】
本発明は、第2に、上記の熱可塑性重合体組成物(D)と他の熱可塑性樹脂(E)を溶融混練させてなる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0088】
通常、フッ素ゴム(b)と熱可塑性樹脂(E)との相溶性は不充分であるため、両者をブレンドすると、フッ素ゴム(b)が粗大分散し、その結果、架橋フッ素ゴム(B)相の平均分散粒子径が大きくなり、得られる熱可塑性樹脂組成物の物性が低下する傾向がある。それに対して、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、あらかじめ作製された熱可塑性重合体組成物(D)を用いるものであり、該熱可塑性重合体組成物(D)においては、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)中に微分散したフッ素ゴム(b)の微分散形状を架橋することにより保持した架橋フッ素ゴム(B)を含むため、熱可塑性樹脂(E)とブレンドした場合、熱可塑性樹脂(E)相に架橋フッ素ゴム(B)の微分散相を形成できるものである。その結果、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、燃料バリア性が優れるものである。
【0089】
熱可塑性樹脂(E)としては、特に限定されないが、燃料バリア性に優れる点から、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および液晶樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましく、フッ素樹脂であることがより好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂には、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を含むものとする。
【0090】
フッ素樹脂としては、特に限定されるものではなく、少なくとも1種の含フッ素エチレン性重合体からなるフッ素樹脂であればよく、含フッ素エチレン性重合体は少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有するものであればよい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、例えば、TFE、一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などのパーフルオロオレフィン、CTFE、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、VdF、フッ化ビニル、一般式(8):
CH2=CX7(CF2n8 (8)
(式中、X7は、水素原子またはフッ素原子であり、X8は、水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、nは、1〜10の整数である)などのフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0091】
そして、含フッ素エチレン性重合体は、上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有してもよく、このような単量体としては、上記フルオロオレフィン、パーフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレンまたはアルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0092】
これらの中でも、得られる熱可塑性樹脂組成物の燃料バリア性・耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れ、かつ成形加工性が容易になる点から、含フッ素エチレン性重合体は、
(1)TFEとエチレンからなるエチレン−TFE共重合体(ETFE)
(2)TFEと一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるTFE−PAVE共重合体(PFA)またはTFE−HFP共重合体(FEP)
(3)TFE、エチレンおよび一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるエチレン−TFE−HFP共重合体(Et−TFE−HFP共重合体)
(4)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
のいずれかであることが好ましい。次に(イ)〜(ロ)の好ましい含フッ素エチレン性重合体について説明する。
【0093】
(1)ETFE
ETFEの場合、上述の作用効果に加えて柔軟性の点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、62:38〜90:10がより好ましく、63:37〜80:20が特に好ましい。また、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよびエチレンと共重合可能なものであればその種類は限定されない。第3成分としては、通常、下記式
CH2=CX9f5、CF2=CFRf5、CF2=CFORf5、CH2=C(Rf52
(式中、X9は水素原子またはフッ素原子、Rf5はフルオロアルキル基を表す)
で示されるモノマーが用いられ、これらの中でも、CH2=CX9f5で示される含フッ素ビニルモノマーがより好ましく、Rf5の炭素数が1〜8のモノマーが特に好ましい。
【0094】
前記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH2=CFCF2CF2CF2H)があげられる。
【0095】
第3成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0096】
(2)PFAまたはFEP
PFAまたはFEPの場合、上述の作用効果においてとりわけ燃料バリア性および耐熱性が優れたものとなる点で好ましい。TFE単位90〜99モル%と一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜10モル%からなる含フッ素エチレン性重合体であることがより好ましい。また、TFEおよび一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる含フッ素エチレン性重合体は、第3成分を含有していてもよく、第3成分としてはTFEおよび式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物と共重合可能なものであればその種類は限定されない。
【0097】
(3)Et−TFE−HFP共重合体
Et−TFE−HFP共重合体の場合、上述の作用効果に加えて柔軟性の点で好ましい。テトラフルオロエチレン単位19〜90モル%、エチレン単位9〜80モル%、および一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜72モル%からなる含フッ素エチレン性重合体であることがより好ましく、さらに好ましくはテトラフルオロエチレン単位20〜70モル%、エチレン単位20〜60モル%、および一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜60モル%からなる含フッ素エチレン性重合体である。
【0098】
また、テトラフルオロエチレン、エチレンおよび一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなる含フッ素エチレン性重合体は、追加成分を含有していてもよく、追加成分としては、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH2=CFCF2CF2CF2H)などをあげることができる。
【0099】
追加成分の含有量は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜3モル%であることが好ましい。
【0100】
(4)PVDF
PVDFの場合、上述の作用効果に加えて、柔軟性および優れた力学物性の点で好ましい。
【0101】
また、含フッ素エチレン性重合体の融点は、120〜330℃であることが好ましく、150〜310℃であることがより好ましく、150〜290℃であることがさらに好ましい。含フッ素エチレン性重合体の融点が、120℃未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向があり、330℃を超えると、熱可塑性樹脂組成物の成形加工時において、該熱可塑性樹脂組成物に含有される架橋フッ素ゴム(B)が熱劣化するおそれがある。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)の重量比が、70:30〜10:90からなるものであり、65:35〜20:80からなることが好ましく、60:40〜30:70からなることがより好ましい。
【0103】
熱可塑性重合体組成物(D)が10重量%未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の柔軟性が悪化する傾向があり、70重量%をこえると、得られる熱可塑性重合体組成物の強度、成形加工性が低下する傾向がある。
【0104】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)とを溶融混練等の手法で複合することにより得られる。溶融混練は、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して行うことができるが、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機であることが好ましい。
【0105】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)とを溶融混練等の手法で複合することにより得られるが、熱可塑性重合体組成物(D)の製造と、熱可塑性樹脂(E)との溶融混練とを、二軸押出機等の混練装置を使用して連続的に行うこともできる。例えば、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、少なくとも1種のフッ素ゴム(b)および架橋剤(C)を二軸押出機に供給して動的架橋を行い、かつ該二軸押出機の途中から熱可塑性樹脂(E)を供給することにより、熱可塑性重合体組成物(D)を単離することなく、連続的に熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0106】
得られた熱可塑性樹脂組成物は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および熱可塑性樹脂(E)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造、または含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および/または熱可塑性樹脂(E)と架橋フッ素ゴム(B)が共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および熱可塑性樹脂(E)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0107】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その好ましい形態である含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および熱可塑性樹脂(E)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造の一部に、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および/または熱可塑性樹脂(E)と架橋フッ素ゴム(B)との共連続構造を含んでいても良い。
【0108】
このような構造を形成すると、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、優れた燃料バリア性、耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径は、0.01〜20μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、20μmをこえると、得られる熱可塑性樹脂組成物の強度が低下する傾向がある。
【0109】
本発明の熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜30g/10分であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると、流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。ここで、MFRは、(株)東洋精機製作所製メルトフローレート測定装置を使用して、297℃、5000g荷重の条件下にて実施する時の値を示す。
【0110】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、燃料周辺部品への使用を考慮した場合、燃料透過性が80g・mm/m2・day以下であることが好ましく、60g・mm/m2・day以下であることがより好ましく、40g・mm/m2・day以下であることがさらに好ましく、20g・mm/m2・day以下であることがとくに好ましい。燃料透過性の下限値については、特に限定されるものではなく、小さければ小さい程好ましいものであり、0g・mm/m2・dayとなることが好ましい。燃料透過性の測定は、前記同様である。
【0111】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、炭酸カルシウム、タルク、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で添加することができる。
【0112】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一般の成形加工方法や成形加工装置などを用いて成形加工することができる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができ、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、使用目的に応じて任意の形状の成形体に成形される。
【0113】
さらに、本発明には、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を使用して得られた成形品に関するものであるが、該成形品としては、シートまたはフィルムの成形体を包含し、また本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層および他の材料を含む層を有する積層構造体を包含するものである。
【0114】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む少なくとも1つの層と他の材料を含む少なくとも1つの層との積層構造体において、該他の材料は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよい。該他の材料としては、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどの架橋ゴム、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0115】
該積層構造を有する成形品においては、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層と他の材料を含む基材層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層と他の材料を含む基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6−ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物;等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0116】
本発明には、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物の単独の層を用いた燃料ホース、または熱可塑性樹脂組成物の単独の層を用いた燃料容器が包含される。燃料ホースの用途は特に限定されないが、例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等があげられる。また、燃料容器の用途は特に限定されないが、例えば、自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等があげられる。
【0117】
また、本発明には、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する多層燃料ホース、または熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する多層燃料容器が包含される。該多層燃料ホースまたは多層燃料容器としては、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層と、他の材料を含む少なくとも1つの層を含み、これらの層が接着剤層を介在させないで、あるいは介在させて、互いに接着しているものである。
【0118】
そして、他の材料を含む層としては、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物以外のゴムを含む層や熱可塑性樹脂を含む層があげられる。
【0119】
該ゴムとしては、耐薬品性や柔軟性の観点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴムおよびアクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種からなるゴムが好ましく、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種ゴムからなることがより好ましい。
【0120】
また、該熱可塑性樹脂としては、燃料バリア性の観点から、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂が好ましく、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂ポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0121】
上記に示した本発明により得られた熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層、および他のゴムもしくは他の熱可塑性樹脂を含む層を有する燃料ホースまたは燃料容器としては、特に限定されず、例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等の燃料ホース;自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等の燃料容器があげられる。
【0122】
この内、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む層、および他のゴムを含む層を有する燃料ホースとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴムあるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴムを含む外層、本発明の熱可塑性重合体組成物(D)を含む中間層、およびフッ素ゴムを含む内層の3層から構成される燃料ホース、あるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムまたはその水素添加ゴムあるいはアクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴムを含む外層、および本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物を含む内層の2層から構成される燃料ホースが、優れた燃料バリア性・柔軟性・耐薬品性を示す点で好ましい。
【0123】
本発明の熱可塑性重合体組成物(D)または熱可塑性樹脂組成物、および該組成物を用いた成形品は、以下に示す分野で好適に用いることができる。
【0124】
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)リング、パッキン、シール材、チューブ、ロール、コーティング、ライニング、ガスケット、ダイアフラム、ホース等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置、薬液配管、ガス配管に用いることができる。
【0125】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【0126】
航空機分野、ロケット分野および船舶分野では、ダイアフラム、O(角)リング、バルブ、チューブ、パッキン、ホース、シール材等があげられ、これらは燃料系統に用いることができる。
【0127】
プラント等の化学品分野では、ライニング、バルブ、パッキン、ロール、ホース、ダイアフラム、O(角)リング、チューブ、シール材、耐薬品用コーティング等があげられ、これらは医薬、農薬、塗料、樹脂等化学品製造工程に用いることができる。
【0128】
医薬品等の薬品分野では、薬栓等として用いることができる。
【0129】
現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野および塗装設備等の塗装分野では、ロール等があげられ、それぞれフィルム現像機・X線フィルム現像機、印刷ロールおよび塗装ロールに用いることができる。
【0130】
一般工業分野では、パッキング、Oリング、ホース、シール材、ダイアフラム、バルブ、ロール、チューブ、ライニング、マンドレル、電線、フレキシブルジョイント、ベルト、ゴム板、ウェザーストリップ、PPC複写機のロール、ロールブレード、ベルト等があげられる。
【0131】
本発明の成形品は上述の各種用途に好適に用いることができ、特に燃料周辺部品として好適である。また、本発明の成形品は、特に、シール材、パッキン、ローラー、チューブまたはホースとして有用である。
【0132】
さらに、本発明は、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、架橋フッ素ゴム(B)および架橋剤(C)を、溶融条件下にて動的に架橋処理する工程、続いて熱可塑性樹脂(E)を溶融混練する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【実施例】
【0133】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0134】
<硬度>
実施例および比較例で製造した熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、これらを用いてJIS−K6301に準じてA硬度を測定した。
【0135】
<引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率>
実施例および比較例で製造した熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、該ペレットを熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ2mmのシート状試験片を作製し、それから厚み2mm、幅5mmのダンベル状試験片を打ち抜いた。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ((株)島津製作所製)を使用して、JIS−K6301に準じて、50mm/分の条件下で、23℃における引張破断強度、引張破断伸びおよび引張弾性率を測定した。
【0136】
<燃料透過性>
実施例および比較例で製造した熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、該ペレットを熱プレス機により280℃、5MPaの条件下で圧縮成形し、厚さ0.5mmのシート状試験片を作製した。20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10-32)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、前記シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求めた。
【0137】
【数2】

【0138】
<流動性>
実施例および比較例で製造した熱可塑性重合体組成物または熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、メルトフローレート測定装置((株)東洋精機製作所製)を使用して、297℃、5000g荷重の条件下でメルトフローレート(MFR)を測定した。なお、比較例2および3では、265℃、5000g荷重の条件下でメルトフローレート(MFR)を測定した。実施例9では、210℃、5000g荷重の条件下でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0139】
<含フッ素熱可塑性エラストマー(A)>
(TFE−ET共重合体セグメント)−(VdF−TFE−HFP共重合体セグメント)−(TFE−エチレン共重合体セグメント)からなるトリブロック共重合体
(297℃・5000g荷重におけるMFR=26g/10min)
TFE−エチレン共重合体セグメント中のTFEとエチレンとの比率=50:50mol%
VdF−TFE−HFP共重合体セグメント中のVdF、TFE、HFPの比率=50:30:20mol%
【0140】
<フッ素ゴム(b)>
VdFとHFPからなる2元系ゴム(VdF:HFP=78:22mol%、121℃におけるムーニー粘度=41、297℃・5000g荷重におけるMFR=28g/10min)
【0141】
<架橋剤(C)>
ポリオール系架橋剤:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(ダイキン工業(株)製「ビスフェノールAF」)
【0142】
<熱可塑性樹脂(E−1)>
ダイキン工業(株)製「ネオフロンFEP NP3000」(融点:約250℃)
【0143】
<熱可塑性樹脂(E−1)>
ダイキン工業(株)製「ネオフロンETFE EP610」(融点:約220℃)
【0144】
<熱可塑性樹脂(E−3)>
(株)クラレ製エチレンビニルアルコール樹脂「エバールF101」(融点:183℃)
【0145】
実施例1〜3
上記したフッ素ゴム(b)100重量部に対して、架橋剤(C−1)2.17重量部および架橋促進剤(ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド;北興化学工業(株)製「TPP−ZC」)0.43重量部を2本ロールにて混練し、続いて受酸剤(協和化学工業(株)製 酸化マグネシウム「MA150」)3重量部、促進剤(近江化学工業(株)製 水酸化カルシウム「カルディック2000」)6重量部を配合して2本ロールにて混練し、フッ素ゴム(b)のコンパウンドを作製した。
【0146】
続いて、上記した含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、フッ素ゴム(b)のコンパウンドを、表1に示す割合で予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度260℃およびスクリュー回転数300rpmの条件下に溶融混練し、熱可塑性重合体組成物のペレットをそれぞれ製造した。得られた熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの測定を行なった結果を表1に示す。
【0147】
比較例1
上記したフッ素ゴム(b)100重量部に対して、架橋剤(C)2.17重量部、架橋促進剤(ベンジルトリフェニルフォスフォニウムクロライド;北興化学工業(株)製「TPP−ZC」)0.43重量部、受酸剤(協和化学工業(株)製 酸化マグネシウム「MA150」)3重量部、促進剤(近江化学工業(株)製 水酸化カルシウム「カルディック2000」)6重量部を、2本ロールにて混練し、170℃で10分間プレス架橋した後、230℃で24時間オーブン架橋を行い、架橋したフッ素ゴム(b)を作製した。得られた架橋したフッ素ゴム(b)のシートから上記した方法に準じて試験片を作製し、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの評価を行なった結果を表1に示す。
【0148】
実施例1〜3により得られた熱可塑性重合体組成物は、比較例1の架橋フッ素ゴム(b)と比較して、著しく燃料バリア性に優れていることがわかった。また、比較例1の架橋フッ素ゴム(b)はゴム全体が架橋されているのでもはや溶融成形やリサイクルができないのに対して、実施例1〜3により得られた熱可塑性重合体組成物は溶融成形やリサイクルが可能であり、成形加工性に優れていることがわかった。
【0149】
また、実施例1〜2により得られた熱可塑性重合体組成物は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)によるモルフォロジー観察により、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造を有することがわかった。架橋フッ素ゴム(B)の分散粒子径はそれぞれ、実施例1および実施例2のいずれでも20μm以下であった。実施例3では、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造であり、その一部に共連続構造を含んだ構造であった。粒子径は、20μm以下であった。
【0150】
【表1】

【0151】
実施例4〜8
実施例3で得られた熱可塑性重合体組成物(D)、および上記した熱可塑性樹脂(E−1)または熱可塑性樹脂(E−2)を表2に示す割合で予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度280℃およびスクリュー回転数300rpmの条件下に溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットをそれぞれ製造した。得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの測定を行なった結果を表2に示す。
【0152】
実施例9
実施例3で得られた熱可塑性重合体組成物(D)、および上記した熱可塑性樹脂(E−3)を表2に示す割合で予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度230℃およびスクリュー回転数300rpmの条件下に溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの測定を行なった結果を表2に示す。
【0153】
比較例2および3
ダイネオン製「THV 200G」(比較例2)またはダイネオン製「THV 500G」(比較例3)のペレットを用いて、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの測定を行なった結果を表2に示す。
【0154】
実施例4〜8により得られた熱可塑性樹脂組成物は、比較例3および4で使用した樹脂と比較して、燃料透過性に優れており、かつ燃料透過性と柔軟性のバランスに優れていることがわかった。
【0155】
比較例4
上記した含フッ素熱可塑性エラストマー(A)15重量部、フッ素ゴム(b)35重量部および熱可塑性樹脂(E−1)50重量部を、予備混合した後、二軸押出機に供給して、シリンダー温度280℃およびスクリュー回転数300rpmの条件下に溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。その後、得られた熱可塑性樹脂組成物中に含有されるフッ素ゴム(b)100重量部に対して、架橋剤(C−1)2.17重量部および架橋促進剤(ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド;北興化学工業(株)製「TPP−ZC」)0.43重量部、受酸剤(協和化学工業(株)製 酸化マグネシウム「MA150」)3重量部、促進剤(近江化学工業(株)製 水酸化カルシウム「カルディック2000」)6重量部を配合して2本ロールにて混練し、170℃で10分間プレス架橋した後、230℃で24時間オーブン架橋を行い、架橋した熱可塑性樹脂組成物を作製した。得られた架橋した熱可塑性樹脂組成物のシートから上記した方法に準じて試験片を作製し、上記した方法で硬度、引張破断強度、引張破断伸び、引張弾性率、燃料透過性およびメルトフローレートの評価を行なった結果を表2に示す。
【0156】
また、実施例4〜8により得られた熱可塑性樹脂組成物は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)によるモルフォロジー観察により、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および熱可塑性樹脂(E)が連続相を形成しかつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造を有することがわかった。架橋フッ素ゴム(B)の分散粒子径は、実施例4〜9において、全て20μm以下であった。
【0157】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および少なくとも1種のフッ素ゴム(b)の少なくとも一部が架橋されてなる架橋フッ素ゴム(B)を含む熱可塑性重合体組成物(D)であって、架橋フッ素ゴム(B)が、含フッ素熱可塑性エラストマー(A)および架橋剤(C)の存在下、フッ素ゴム(b)を溶融条件下にて動的に架橋処理したものである熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項2】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が、少なくとも1種のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、少なくとも1種の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)とを含み、かつエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のうち、少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントである請求項1記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項3】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が、1個のエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と、2個の非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)を含み、かつエラストマー性ポリマーセグメント(a−1)と非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)のうちの少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであるトリブロックポリマーである請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項4】
エラストマー性ポリマーセグメント(a−1)が、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレンの共重合体であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメント(a−2)が、テトラフルオロエチレン/エチレンの共重合体である請求項2または3に記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項5】
フッ素ゴム(b)が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴムおよびテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項6】
架橋剤(C)が、有機過酸化物、アミン化合物およびヒドロキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項7】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴム(B)が分散相を形成する構造である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項8】
架橋フッ素ゴム(B)の平均分散粒子径が、0.01〜20μmである請求項7に記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項9】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)と架橋フッ素ゴム(B)との重量比が、80:20〜10:90である請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)を溶融混練させてなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
熱可塑性樹脂(E)が、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および液晶樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項10記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
フッ素系樹脂が、
(1)テトラフルオロエチレンおよびエチレンの共重合体、
(2)テトラフルオロエチレンと、下記一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体、
(3)テトラフルオロエチレン単位19〜90モル%、エチレン単位9〜80モル%、および下記一般式(1):
CF2=CF−Rf1 (1)
(式中、Rf1は、−CF3または−ORf2であり、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物単位1〜72モル%を含む共重合体、および
(4)ポリフッ化ビニリデン
からなる群から選ばれる一つ以上の樹脂である請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
熱可塑性重合体組成物(D)と熱可塑性樹脂(E)の重量比が、70:30〜10:90である請求項10〜12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)または請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)または請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含む層と、他の材料を含む層を有する積層成形品。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)または請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた燃料周辺部品。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)または請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた単層燃料ホース。
【請求項18】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性重合体組成物(D)または請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含む層を有する多層燃料ホース。
【請求項19】
請求項9〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた燃料容器。
【請求項20】
含フッ素熱可塑性エラストマー(A)、架橋フッ素ゴム(B)および架橋剤(C)を、溶融条件下にて動的に架橋処理する工程、続いて熱可塑性樹脂(E)を溶融混練する工程を含む熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−191576(P2007−191576A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10996(P2006−10996)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】