説明

熱型赤外線検出器

【課題】基板のウェットエッチング加工が容易であり、広い波長域にわたって効率良く赤外線を吸収できる熱型赤外線検出器を提供する。
【解決手段】赤外線吸収膜2は、TiNを含む第1の層21と、Si系化合物を含む第2の層22とを備え、第2の層22側から入射する赤外線のエネルギを熱に変換する。TiNは、8μmより短い波長域の赤外線に対する吸収率が高い一方、8μmより長い波長域の赤外線に対しては反射率が高い。従って、長波長域の赤外線に対する吸収率が良いSi系化合物層をTiN層上に積層すれば、TiN層において吸収率が低い波長域の赤外線をSi系化合物層において好適に吸収できると同時に、Si系化合物層を透過しようとする赤外線をTiN層の界面で反射してSi系化合物層へ戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型赤外線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の熱型赤外線検出器としては、例えば特許文献1または2に記載されたものがある。特許文献1には、焦電型赤外線固体撮像装置が開示されている。この装置の赤外線吸収膜は、広範囲の赤外域に感度を有する有機物層、および波長10μm付近の吸収率が高いSiO層からなる積層構造を有する。
【0003】
また、特許文献2には、熱型赤外線センサが開示されている。このセンサは、最下層に金属薄膜を含む多層構造の赤外線吸収膜を有する。金属薄膜の赤外線反射率は赤外線透過率よりも大きくなっており、他層を透過しようとする赤外線を金属薄膜において反射させることによって他層における赤外線吸収率を高めようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2523895号公報
【特許文献2】特許第3608427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、赤外線吸収体は機械的強度を保つために基板上に形成される。そして、赤外線吸収体において生じた熱を精度よく検出するため、検出領域の基板部分がウェットエッチング等により除去される(メンブレン構造:例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献1に開示された装置のように赤外線吸収膜に有機物層を含む場合、有機物層はウェットエッチングに対する耐性が低いので、基板の加工が困難となる。
【0006】
また、赤外線を検出する際には、より広い波長域にわたって高効率で検出できることが望ましい。特許文献2には、検出可能な波長域の広帯域化に関しては何ら記載されていない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、基板のウェットエッチング加工が容易であり、広い波長域にわたって効率良く赤外線を吸収できる熱型赤外線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の熱型赤外線検出器は、赤外線吸収体と、赤外線吸収体からの熱を電気的な量に変換する熱電変換部とを備え、赤外線吸収体が、TiNを含む第1の層と、SiCを含み第1の層上に設けられた第2の層とを有し、赤外線吸収体が、熱電変換部上に積層され、熱電変換部と共にメンブレン構造を構成しており、第2の層側から入射する赤外線のエネルギを熱に変換することを特徴とする。
【0009】
TiNは、8μmより短い波長域の赤外線に対する吸収率が他の無機材料より高い一方、8μmより長い波長域の赤外線に対しては反射率が高いという特徴を有する。従って、8μmより長い波長域の赤外線に対する吸収率が良い第2の層を第1の層(TiN層)の上に積層すれば、TiN層において吸収率が低い波長域の赤外線を第2の層において好適に吸収できると同時に、第2の層を透過しようとする赤外線をTiN層の界面で反射して第2の層へ戻すことができるので、8μmより短い波長域、および8μmより長い波長域の双方を含む広い波長域にわたる赤外線を効率よく吸収できる。上記した熱型赤外線検出器では、TiNを含む第1の層上に、8μmより長い波長域の赤外線に対する吸収率が高いSi系化合物を含む第2の層を設けている。これにより、広い波長域にわたって効率よく赤外線を吸収できる。
【0010】
また、上記した熱型赤外線検出器においては、TiNを含む第1の層が、8μmより短い波長域の赤外線を主に吸収するとともに、8μmより長い波長域の赤外線を第2の層へ向けて反射する。このように、一つの層が、一部の波長域の赤外線を吸収する機能と、他の波長域の赤外線を他層へ反射する機能とを兼備することにより、反射を主目的とする層を設ける場合と比較して、より少ない層数でもって広波長域の赤外線を効率良く吸収できる。
【0011】
また、TiNおよびSi系化合物は、ウェットエッチングに対する耐性が高いので、基板のウェットエッチング加工を容易にできる。従って、上記した熱型赤外線検出器によれば、検出領域の基板部分が除去されたメンブレン構造を容易に製造できる。
【0012】
また、上記した熱型赤外線検出器では、第2の層がSiCを含む。これにより、上述した効果を好適に得ることができる。特に、SiCは他のSi系化合物と比較してウェットエッチングに対する耐性がより高いので、この熱型赤外線検出器によれば、メンブレン構造を更に容易に製造できる。
【0013】
また、熱型赤外線検出器は、第2の層が、第1の層よりも厚いことを特徴としてもよい。第1の層を構成するTiNは、厚さが或る値を超えると、赤外線に対する透過率が極めて小さくなるとともに、厚さを変化させても吸収率や反射率が殆ど変化しなくなる。しかし、第2の層を構成するSi系化合物は、厚いほど吸収率が高まる性質がある。従って、Si系化合物を含む第2の層をTiNを含む第1の層より厚くすることにより、8μmより長い波長域の赤外線を更に効率良く吸収できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板のウェットエッチング加工が容易であり、広い波長域にわたって効率良く赤外線を吸収できる熱型赤外線検出器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明による熱型赤外線検出器の第1実施形態を示す平面図である。(b)(a)に示すI−I線に沿った断面を示す側面断面図である。(c)(b)の一部を拡大した拡大断面図である。
【図2】TiNおよびSiCの赤外線吸収特性(入射波長に応じた吸収率)を示すグラフである。
【図3】TiNの赤外線反射特性(入射波長に応じた反射率)を示すグラフである。
【図4】第1実施形態による熱型赤外線検出器の動作を説明するための図である。
【図5】第1実施形態の赤外線吸収膜全体での赤外線吸収特性(入射波長に応じた吸収率)を示すグラフである。
【図6】(a)本発明による熱型赤外線検出器の第2実施形態を示す平面図である。(b)(a)に示すII−II線に沿った断面を示す側面断面図である。(c)(b)の一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る熱型赤外線検出器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1(a)は、本発明による熱型赤外線検出器の第1実施形態を示す平面図である。また、図1(b)は、図1(a)に示すI−I線に沿った断面を示す側面断面図である。また、図1(c)は、図1(b)の一部を拡大した拡大断面図である。
【0018】
本実施形態の熱型赤外線検出器1aは、いわゆるバルクマイクロマシン技術によって形成される形態の熱型赤外線検出器であり、赤外線吸収膜2と、サーモパイル形成膜3と、シリコン(Si)基板4とを備える。シリコン基板4は、矩形の平面形状を有しており、その外周に沿って設けられた枠部41を有する。枠部41に囲まれる中央付近には、赤外線検出領域A1に対応する大きさの開口4aが形成されており、後述するサーモパイル形成膜3および赤外線吸収膜2をメンブレン構造としている。なお、この開口4aは、シリコン基板4に対する選択的ウェットエッチングにより好適に形成される。
【0019】
サーモパイル形成膜3は、後述する赤外線吸収膜2からの熱を電気的な量(電圧、電流など)に変換するための熱電変換部である。サーモパイル形成膜3は、開口4aを塞ぐようにシリコン基板4上に設けられており、複数の熱電対が二次元状に配置されて成る。複数の熱電対それぞれの温接点(サーモカップル)は赤外線検出領域A1内に配置され、冷接点は枠部41上に配置される。
【0020】
赤外線吸収膜2は、本実施形態における赤外線吸収体であり、サーモパイル形成膜3上の赤外線検出領域A1に設けられている。赤外線吸収膜2は、TiNを主に含む第1の層21と、SiC、SiN、SiO、Si、或いはSiONなどのSi系化合物を主に含み第1の層21上に設けられた第2の層22とを備え、第2の層22側から入射する赤外線のエネルギを熱に変換する。第2の層22は、第1の層21よりも厚く形成されている。
【0021】
なお、第2の層22は、Si系化合物としてSiCおよびSiNのうち少なくとも一方を主に含むことが好ましい。また、第2の層22がSiO(0<X≦2,0≦Y<1)を主に含む場合、酸素原子の組成比X/(X+Y)が0.4以上0.8以下であれば、光透過率が良好となり且つ防湿性が高まるので好適である。
【0022】
ここで、図2は、TiNおよびSiCの赤外線吸収特性(入射波長に応じた吸収率)を示すグラフである。なお、図2において、グラフG1はTiNの吸収特性を示しており、グラフG2はSiCの吸収特性を示している。図2に示すように、TiNは、比較的短い波長域、例えば8μmより短い波長域での吸収率が高い。また、SiCは、比較的長い波長域、例えば8μm〜14μmの波長域での吸収率が高い。また、図3は、TiNの赤外線反射特性(入射波長に応じた反射率)を示すグラフである。図3に示すように、TiNは、比較的長い波長域、例えば8μmより長い波長域での反射率が高い。
【0023】
図4は、本実施形態による熱型赤外線検出器1aの動作を説明するための図である。なお、図4は、熱型赤外線検出器1aのうち、赤外線検出領域A1に相当する部位の側面断面を示している。
【0024】
熱型赤外線検出器1aの赤外線検出領域A1へ入射する赤外線IRは、赤外線吸収膜2へ第2の層22側から入射する。そして、赤外線IRのうち比較的短波長の波長成分(例えば波長8μmを超えない成分)IR(λ)は、第2の層22を透過し、第1の層21に主に吸収され、熱Hに変換される。また、赤外線IRのうち比較的長波長の波長成分(例えば波長8μmを超える成分)IR(λ)は、第2の層22に吸収され、熱Hに変換される。このとき、波長成分IR(λ)の一部は、第2の層22を透過しようとして第1の層21と第2の層22との界面に達するが、第1の層21のTiNが有する高い反射率によってこの界面において反射され、結局、第2の層22に吸収されることとなる。こうして発生した熱Hは、熱伝導性が高いTiNを含む第1の層21を伝わってサーモパイル形成膜3へ達する。そして、サーモパイル形成膜3において、熱Hの大きさに応じた電圧が生成される。
【0025】
本実施形態の熱型赤外線検出器1aおよび赤外線吸収膜2による効果について説明する。図2および図3に示したように、TiNは、8μmより短い波長域の赤外線IR(λ)に対する吸収率が他の無機材料より高い一方、8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)に対しては反射率が高いという特徴を有する。従って、8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)に対する吸収率が良い第2の層22を第1の層21の上に積層すれば、第1の層21に吸収されにくい波長域の赤外線IR(λ)を第2の層22において好適に吸収できると同時に、第2の層22を透過しようとする赤外線IR(λ)を第1の層21の界面で反射して第2の層22へ戻すことができるので、8μmより短い波長域の赤外線、および8μmより長い波長域の赤外線の双方を効率よく吸収できる。
【0026】
本実施形態の赤外線吸収膜2は、TiNを含む第1の層21の上に、8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)に対する吸収率が高いSi系化合物を含む第2の層22を設けている。これにより、広い波長域にわたって効率よく赤外線を吸収できる。特に、波長8μm〜14μmは、放射温度計測や人体検知用途に多用される波長域なので、この波長域の赤外線に対する吸収率が高いSi系化合物(特にSiC)を第2の層22が主に含むことにより、これらの測定を精度よく行うことができる。
【0027】
また、Si系化合物(特にSiC)は、TiNにおける吸収率が高い波長5μm付近の赤外線に対する透過率が高い。従って、第2の層22がSi系化合物を主に含むことにより、この波長域の赤外線IR(λ)を第1の層21へ効率よく入射させ、吸収効率を更に高めることができる。また、TiNは、比較的薄い層であっても赤外線に対する透過率が低いので(例えば、厚さ4000Åで透過率10%以下)、第1の層21にTiNを用いることにより、第1の層21の成膜時間を短くできる。また、TiNは、他の無機材料と比較して熱伝導率が高い(約29W/m・K)。従って、第1の層21がTiNを主に含むことにより、第1の層21と第2の層22で発生した熱を輻射等で失うことなく、サーモパイル形成膜3へ伝えることができると共に、熱型赤外線検出器1aの応答速度を高めることができる。
【0028】
ここで、図5は、本実施形態の赤外線吸収膜2全体での赤外線吸収特性(入射波長に応じた吸収率)を示すグラフである。図5に示すように、赤外線吸収膜2によれば、8μmより長い波長域(特に8μm〜18μm付近)および8μmより短い波長域(特に4μm付近)の双方に亘って赤外線を効率よく吸収できることがわかる。また、8μmより長い波長域での吸収率は、図2に示したSiC単層での吸収率よりも高くなっている。すなわち、第1の層21(TiN)と第2の層22(SiC)との界面における反射によって、この波長域の赤外線が第2の層22においてより効率よく吸収されるためと考えられる。
【0029】
また、本実施形態の赤外線吸収膜2においては、TiNを含む第1の層21が、8μmより短い波長域の赤外線IR(λ)を主に吸収するとともに、8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)を第2の層22へ向けて反射する。このように、一つの層が、一部の波長域の赤外線IR(λ)を吸収する機能と、他の波長域の赤外線IR(λ)を他層(第2の層22)へ反射する機能とを兼備することにより、反射を主目的とする層を設ける場合と比較して、より少ない層数でもって広波長域の赤外線を効率良く吸収できる。
【0030】
また、TiNおよびSi系化合物は、ウェットエッチングに対する耐性が高いので、シリコン基板4のウェットエッチング加工を容易にできる。従って、本実施形態の赤外線吸収膜2によれば、赤外線検出領域A1の基板部分(開口4aに相当する部分)が除去されたメンブレン構造を容易に製造できる。特に、第2の層22がSi系化合物としてSiCおよびSiNを主に含む場合、SiCおよびSiNは他のSi系化合物と比較してウェットエッチングに対する耐性がより高いので、メンブレン構造を更に容易に製造でき、更に好適である。
【0031】
また、本実施形態のように、第2の層22は、第1の層21よりも厚いことが好ましい。第1の層21を構成するTiNは、厚さが或る値を超えると、赤外線に対する透過率が極めて小さくなるとともに、厚さの変化による吸収率や反射率の変化が微かとなる。しかし、第2の層22を構成するSi系化合物は、厚いほど吸収率が高まる性質がある。従って、第2の層22を第1の層21より厚くすることにより、8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)を更に効率良く吸収できる。
【0032】
なお、第2の層22の厚さに関する上記事実は、本実施形態の第2の層22が、赤外線吸収膜の保護のみに用いられる一般的なSi系化合物膜(例えばSiO膜)とは異なる作用を有することを顕著に示している。すなわち、赤外線吸収膜の保護のみに用いられる膜は、赤外線吸収膜よりも薄いことが一般的である。しかし、本実施形態の第2の層22は、上述したように赤外線を効率良く吸収するための赤外線吸収膜2の一部を構成するので、第1の層21よりも厚いことが好ましいのである。
【0033】
なお、第1の層21の厚さは、2500Å以上10000Å以下であることが好ましい。第1の層21の厚さを2500Å以上とすることにより、赤外線IR(λ)およびIR(λ)に対する透過率を低減し、吸収率および反射率を十分に確保できる。従って、8μmより短い波長域の赤外線IR(λ)を吸収する機能、および8μmより長い波長域の赤外線IR(λ)を反射する機能を効果的に発揮できる。また、第1の層21の厚さが10000Åを超えると、8μmより短い波長域の赤外線IR(λ)に対する吸収率が飽和する(厚さを増しても、吸収率が殆ど増大しない)傾向がある。従って、第1の層21の厚さを10000Å以下とすることにより、第1の層21の形成時間を短縮できる。
【0034】
また、第2の層22の厚さは、10000Å以上25000Å以下であることが好ましい。第2の層22の厚さを10000Å以上とすることにより、赤外線IR(λ)に対する吸収率を十分に確保できる。また、第2の層22の厚さが25000Åを超えると、赤外線IR(λ)に対する吸収率が100%に近くなり、飽和してしまう。従って、第2の層22の厚さを25000Å以下とすることにより、第2の層22の形成時間を短縮できる。
【0035】
また、上述したように、第2の層22は、第1の層21よりも厚いことが好ましい。第2の層22を構成するSi系化合物は、吸収率が飽和に達する厚さが、第1の層21を構成するTiNよりも厚い(Si系化合物:25000Å、TiN:10000Å)。したがって、第2の層22を第1の層21よりも厚くすることにより、更に効率よく赤外線を吸収できる。なお、第1の層21の厚さtと第2の層22の厚さtとの比(t/t)は、1〜10であることが好ましく、3が最適である。
【0036】
(第2の実施の形態)
図6(a)は、本発明による熱型赤外線検出器の第2実施形態を示す平面図である。また、図6(b)は、図6(a)に示すII−II線に沿った断面を示す側面断面図である。また、図6(c)は、図6(b)の一部を拡大した拡大断面図である。
【0037】
本実施形態の熱型赤外線検出器1bは、いわゆる表面マイクロマシン技術によって形成される形態の熱型赤外線検出器であり、赤外線吸収膜5と、サーモパイル形成膜6と、シリコン(Si)基板7とを備える。シリコン基板7は、矩形の平面形状を有しており、その表面側の赤外線検出領域A2に対応する部分に矩形の凹部7aを有する。なお、この凹部7aは、ウェットエッチングにより好適に形成される。
【0038】
サーモパイル形成膜6は、赤外線吸収膜5からの熱を電気的な量(電圧、電流など)に変換するための熱電変換部である。サーモパイル形成膜6は、凹部7aを塞ぐようにシリコン基板7上に設けられており、複数の熱電対が二次元状に配置されて成る。複数の熱電対それぞれの温接点(サーモカップル)は赤外線検出領域A2内に配置され、冷接点は凹部7aを除くシリコン基板7の表面上に配置される。
【0039】
赤外線吸収膜5は、本実施形態における赤外線吸収体であり、サーモパイル形成膜6上の赤外線検出領域A2に設けられている。赤外線検出領域A2に相当するシリコン基板7の表面には凹部7aが形成されているので、赤外線吸収膜5は、サーモパイル形成膜6と共にメンブレン構造を成している。赤外線吸収膜5は、TiNを主に含む第1の層51と、SiC、SiN、SiO、Si、或いはSiONなどのSi系化合物を主に含み第1の層51上に設けられた第2の層52とを備え、第2の層52側から入射する赤外線のエネルギを熱に変換する。なお、上記第1実施形態と同様に、第2の層52は、Si系化合物としてSiCおよびSiNのうち少なくとも一方を主に含むことが好ましく、或いはSiO(0<X≦2,0≦Y<1)を主に含んでも良い。
【0040】
また、赤外線吸収膜5およびサーモパイル形成膜6には、厚さ方向に貫通する孔5aおよび6aがそれぞれ形成されている。孔5aおよび6aは、シリコン基板7に凹部7aを形成するためのエッチャントをサーモパイル形成膜6の裏側に侵入させるための孔であり、赤外線吸収膜5およびサーモパイル形成膜6に複数形成されている。また、孔5aおよび6aは、赤外線検出器としての動作時、特に窒素封じされた場合、凹部7aの圧力変化によりサーモパイル形成膜6が動かないようにする役目も果たす。
【0041】
本実施形態の熱型赤外線検出器1bによれば、上記第1実施形態の熱型赤外線検出器1aと同様の効果を得ることができる。
【0042】
本発明による熱型赤外線検出器は、上記した各実施形態に限られるものではなく、他にも様々な変形が可能である。例えば、上記各実施形態の熱型赤外線検出器は、熱電変換部としてサーモパイルを備える熱起電力型の構成を有するが、この他にも例えばLiTaO膜やPZT膜を備える焦電型、或いはサーミスタやボロメータを備える抵抗型の構成を有してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1a,1b…熱型赤外線検出器、2,5…赤外線吸収膜、3,6…サーモパイル形成膜、4,7…シリコン基板、21,51…第1の層、22,52…第2の層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収体と、
前記赤外線吸収体からの熱を電気的な量に変換する熱電変換部と
を備え、
前記赤外線吸収体が、
TiNを含む第1の層と、
SiCを含み前記第1の層上に設けられた第2の層と
を有し、
前記赤外線吸収体が、前記熱電変換部上に積層され、前記熱電変換部と共にメンブレン構造を構成しており、
前記第2の層側から入射する赤外線のエネルギを熱に変換することを特徴とする、熱型赤外線検出器。
【請求項2】
前記第2の層が、前記第1の層よりも厚いことを特徴とする、請求項1に記載の熱型赤外線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−123018(P2012−123018A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56010(P2012−56010)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2006−16733(P2006−16733)の分割
【原出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】