説明

熱媒体加熱装置

【課題】PTCヒータを構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、損失低減、コスト低減、重量低減を図ることのできる熱媒体加熱装置を提供する。
【解決手段】放熱板13A、13Bの外周部をロウ付けや溶接により一体に接合するようにした。このように、ボルトレスの構成とし、熱媒体によってボルトが腐食することもなく、熱媒体加熱装置10を構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、コスト低減、重量低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータを用いて熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置の1つとして、正特性サーミスタ素子(PTC素子)を発熱要素とするPTCヒータを用いたものが知られている。
PTCヒータは、正特性のサーミスタ特性を有しており、温度の上昇と共に抵抗値が上昇し、これによって消費電流が制御されるとともに温度上昇が緩やかになり、その後、消費電流および発熱部の温度が飽和領域に達して安定するものであり、自己温度制御特性を備えている。
上記のように、PTCヒータは、ヒータの温度が上昇すると消費電流が低くなり、その後一定温度の飽和領域に達すると、消費電流が低い値で安定するという特性を有する。この特性を利用することにより、消費電力を節減することができるとともに、発熱部温度の異常上昇を防止することができるという利点が得られる。
このような特長を有することから、PTCヒータは、多くの技術分野において用いられており、空調の分野においても、例えば、車両用空調装置において、空気加温用の放熱器に供給する熱媒体(ここでは、エンジンの冷却水)を加熱するための加熱装置に適用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6に示すように、このようなPTCヒータ1において、PTC素子2は、その両面が、絶縁・熱伝導シート3A、3Bを介してフィン4a、5aを有した放熱板4、5によって挟み込まれている。これらPTC素子2、絶縁・熱伝導シート3A、3B、放熱板4、5の積層体6は、ケース7内に収容されている。PTC素子2は、制御基板8によってその通電が制御され、PTC素子2が発する熱は、フィン4a、5aを有した放熱板4、5を介してケース7内に放散される。
そして、ケース7内に図示しない導入口から導入された熱媒体は、ケース7の内壁面と放熱板4、5との隙間を通り、放熱板4、5から放散される熱によって加熱され、図示しない排出口からケース7外に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−56044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような従来のPTCヒータ1においては、PTC素子2、絶縁・熱伝導シート3A、3B、放熱板4、5を互いに密着させて熱伝導効率を高めるため、PTC素子2の両側に配置された放熱板4、5が、その外周部において複数本のボルト9によって、連結・固定されている。
【0006】
このとき、放熱板4、5等はアルミ系合金で形成されているのに対し、ボルト9は鉄系合金で形成されており、熱媒体(エンジンの冷却水:エチレングリコール)との接触により、ボルト9のみが腐食しやすくなっている。ボルト9が腐食すると、異物が熱媒体に混入したり、ボルト9が緩んで、放熱板4、5によって挟み込まれたPTC素子2側に熱媒体が侵入し、電気系統に異常を来たす等の不具合が発生する可能性がある。
【0007】
また、ケース7内において、ボルト9は突起物であるため、ケース7内における熱媒体の流れを妨げることになり、損失低減の妨げにもなっている。
このほか、ボルト9や、座金等により、部品点数が多く、部品コスト低減、重量低減の妨げともなっている。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、PTCヒータを構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、損失低減、コスト低減、重量低減を図ることのできる熱媒体加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもとになされた本発明の熱媒体加熱装置は、シート状のPTC素子を挟んでその両面に各々電極板、絶縁層および熱伝導層が順次設けられた積層構造のヒータ部と、ヒータ部の両面側に設けられ、当該ヒータ部よりも大きな面積を有した放熱板と、ヒータ部および放熱板を収容するケースと、を備え、ヒータ部の両面側の放熱板どうしが、ヒータ部の外周側で、ロウ付け、溶接、かしめのいずれかの接合手段により接合されていることを特徴とする。
このように、ヒータ部の両面側の放熱板どうしを、ヒータ部の外周側で、ロウ付け、溶接、かしめのいずれかの接合手段により接合することによって、ボルトを用いることなく放熱板どうしを接合することができる。
【0009】
また、ヒータ部の外周部に沿って、PTC素子、電極板、絶縁層および熱伝導層をクランプするクランプ部材を設け、ヒータ部の両面側の放熱板どうしを、クランプ部材を介して接合手段により接合することもできる。
【0010】
また、本発明は、シート状のPTC素子を挟んでその両面に各々電極板、絶縁層および熱伝導層が順次設けられた積層構造のヒータ部と、ヒータ部の両面側に設けられ、当該ヒータ部よりも大きな面積を有した放熱板と、ヒータ部および放熱板を収容するケースと、を備え、放熱板は一体成形され、放熱板にヒータ部が挿入されて形成されていることを特徴とする熱媒体加熱装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボルトを用いることなく放熱板どうしを接合することができるので、PTCヒータを構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、損失低減、コスト低減、重量低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一の実施形態における熱媒体加熱装置の断面図および要部拡大断面図である。
【図2】第一の実施形態の複数の変形例を示す拡大断面図である。
【図3】第一の実施形態のさらに他の変形例を示す拡大断面図である。
【図4】第二の実施形態における熱媒体加熱装置の断面図である。
【図5】第三の実施形態における熱媒体加熱装置の断面図である。
【図6】従来の熱媒体加熱装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本実施の形態における熱媒体加熱装置10の構成を説明するための図である。
図1に示すように、熱媒体加熱装置10は、ケース20内に、両面に図示しない電極板を有したPTC素子11、絶縁・熱伝導シート(絶縁層および熱伝導層)12A、12B、放熱板13A、13B、制御基板14を備えている。
【0014】
PTC素子11は、プレート状、シート状で、両面に設けられた電極板から通電がなされることにより発熱する。PTC素子11への通電は、制御基板14により制御されている。制御基板14では、スイッチング素子15の作動により、ハーネス16を介してPTC素子11への通電制御を行う。
【0015】
絶縁・熱伝導シート12A、12Bは、絶縁性と、高い熱伝導性を有した材料、例えばアルミナ等からなるシート状で、PTC素子11の両面に沿って設けられている。
これらPTC素子11とその両面の絶縁・熱伝導シート12A、12Bにより、積層構造のヒータ部が形成されている。
【0016】
放熱板13A、13Bは、積層構造のヒータ部の絶縁・熱伝導シート12A、12Bの表面に沿うよう配置されたプレート本体13cと、プレート本体13cにおいて、絶縁・熱伝導シート12A、12Bに対向する側とは反対側に形成されたフィン13dとを一体に備えている。プレート本体13cは、ヒータ部よりも大きな面積を有している。この放熱板13A、13Bは、放熱性に優れるアルミ系合金で形成されている。
【0017】
放熱板13A、13Bは、プレート本体13cにおいて、制御基板14が配置されている側の基端部に、プレート本体13cに直交し、絶縁・熱伝導シート12A、12Bに対向する側とは反対側に延びる取付プレート部17が一体に形成されている。
【0018】
放熱板13A、13Bは、プレート本体13cどうしがPTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bを挟んで対向する部分において、その外周部41、42が互いに連結されている。
これには、例えば、放熱板13Aの外周部41と放熱板13Bの外周部42の一部を互いに重ね合わせ、一方の放熱板13Aの外周部41と放熱板13Bの表面との境界部分Aをロウ付や溶接により接合することができる。
【0019】
ケース20は、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12B、放熱板13A、13B、を収容するヒータ収容ケース21と、制御基板14を収容する制御基板収容ケース22とからなる2分割構造とされている。
ヒータ収容ケース21は、一方に開口部23を有し、その内部に前記のPTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12B、放熱板13A、13Bを収容する。開口部23の周囲にはフランジ部24が形成されており、放熱板13A,13Bの取付プレート部17がここに突き当たるようになっている。
【0020】
制御基板収容ケース22は、一方に開口しており、その内部に制御基板14、スイッチング素子15を収容する。そして、制御基板収容ケース22は、その開口をヒータ収容ケース21の開口部23に突き当てられた放熱板13A,13Bの取付プレート部17に突き当て、これらがボルト25によって締結される。
これにより、ケース20の内部空間は、放熱板13A,13Bによって、二つの空間に区分されている。
そして、一方の空間S1には、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12B、放熱板13A、13B、制御基板14等が収容されている。
他方の空間S2においては、図示しない導入口から導入された熱媒体、ケース20の内壁面と放熱板13A,13Bとの隙間を通り、放熱板13A,13Bから放散される熱によって加熱され、図示しない排出口からケース20外に排出される。
【0021】
上述したような構成によれば、放熱板13A、13Bの外周部41、42をロウ付けや溶接により一体に接合するようにした。このように、ボルトレスの構成とすることで、熱媒体によってボルトが腐食することもなく、熱媒体加熱装置10を構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、コスト低減、重量低減を図ることができる。また、ボルトによってケース20内における熱媒体の流れを妨げることもなく、熱媒体の流れの損失を低減して熱交換効率を高めることができる。
【0022】
なお、上記実施形態においては、放熱板13A、13Bの外周部の端部を噛み合わせるようにして重ね合わせ、その重ね合わせ部分をロウ付けにより接合したが、これに限るものではなく、図2(a)に示すように、放熱板13A、13Bの外周部43、44を、互いに直交するように突き合わせ、その突き合わせ部分Bをロウ付け等により接合することもできる。
【0023】
また、図2(b)に示すように、放熱板13A、13Bの外周部45、46どうしを同一面内で突き合わせ、その突き合わせ部分Cをロウ付けしても良い。
さらに、図2(c)に示すように、放熱板13A、13Bの外周部47、48どうしを突き合わせた部分Dに溝49を形成し、この溝49の内部で放熱板13A、13Bどうしをロウ付けしても良い。これにより、ロウ付けのロウが外方に突出するのを防ぐことができる。
【0024】
また、放熱板13A、13Bの外周部どうしは、ロウ付けや溶接ではなく、かしめによって接合しても良い。すなわち、図3に示すように、放熱板13Aの外周部51と、放熱板13Bの外周部52を、かしめにより接合することができる。これには、放熱板13Aの外周部51に、外周側に折り返した返し部51aを形成し、この返し部51aに放熱板13Bの外周部52を巻きつけるようにかしめて巻き付け部52aを形成する。この場合、放熱板13A、13Bの外周部51、52どうしの合わせ面の間には、シール部材53を挟み込むのが好ましい。
【0025】
[第二の実施形態]
次に、本発明にかかる第二の実施形態について説明する。以下の説明においては、上記第一の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、共通する構成については図中に同一符号を付してその説明を省略する。
図4に示すように、熱媒体加熱装置10は、ケース20内に、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12B、放熱板13C、制御基板14を備えている。
【0026】
放熱板13Cは、PCT素子11の両側の絶縁・熱伝導シート12A、12Bの表面に沿うよう配置された二枚一対のプレート本体13cと、プレート本体13cにおいて、絶縁・熱伝導シート12A、12Bに対向する側とは反対側に形成されたフィン13dと、二枚一対のプレート本体13c、13cをその外周部において連結する連結部13eと、が一体に形成されている。本実施形態にかかる放熱板13Cは、前述した実施形態のように、二枚一対のプレート本体を接合して形成されるものではなく、完全に一体成形されているものである。
このように放熱板13Cを一体成形とすることで、ロウ付け、溶接、かしめ等の接合手段を不要とすることができる。
【0027】
放熱板13Cは、プレート本体13cにおいて、制御基板14が配置されている側の基端部に、プレート本体13cに直交し、絶縁・熱伝導シート12A、12Bに対向する側とは反対側に延びる取付プレート部17が一体に形成されている。
【0028】
放熱板13Cは、連結部13eにより、プレート本体13cどうしがPTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bを挟んで対向する部分において、その外周部が互いに連結されている。
【0029】
このような構成の放熱板13Cにおいては、その内部空間にPTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bを挿入するには、その開口側を図示しない冶具等で、弾性変形可能な範囲内で弾性変形させて広げる。
【0030】
上述したような構成によれば、放熱板13Cが一体形成されて、ボルトレスの構成とすることで、熱媒体によってボルトが腐食することもなく、熱媒体加熱装置10を構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、コスト低減、重量低減を図ることができる。また、ボルトによってケース20内における熱媒体の流れを妨げることもなく、熱媒体の流れの損失を低減して熱交換効率を高めることができる。
【0031】
[第三の実施形態]
次に、本発明にかかる第三の実施形態について説明する。以下の説明においては、上記第一の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、共通する構成については図中に同一符号を付してその説明を省略する。
図5に示すように、熱媒体加熱装置10は、ケース20内に、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12B、放熱板13D、13E、制御基板14を備えている。
【0032】
放熱板13D、13Eは、絶縁・熱伝導シート12A、12Bの表面に沿うよう配置されたプレート本体13cと、プレート本体13cにおいて、絶縁・熱伝導シート12A、12Bに対向する側とは反対側に形成されたフィン13dとを一体に備えている。この放熱板13D、13Eは、放熱性に優れるアルミ系合金で形成されている。
【0033】
放熱板13D、13Eのプレート本体13c、13cの外周部の間には、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bの積層体を挟み込むクランプ部材50が設けられている。クランプ部材50は、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bの三辺において、これらを挟み込んで保持する。
【0034】
放熱板13D、13Eのプレート本体13c、13cの外周部と、クランプ部材50は、ロウ付けや溶接によって一体に接合されている。
【0035】
上述したような構成によれば、放熱板13D、13Eの外周部をクランプ部材50を介してロウ付けや溶接により一体に接合するようにした。このように、ボルトレスの構成とすることで、熱媒体によってボルトが腐食することもなく、熱媒体加熱装置10を構成する部材の腐食を防いで装置信頼性を高めるとともに、コスト低減、重量低減を図ることができる。また、ボルトによってケース20内における熱媒体の流れを妨げることもなく、熱媒体の流れの損失を低減して熱交換効率を高めることができる。
また、クランプ部材50により、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bの三辺において、これらを挟み込んで保持する。これにより、PTC素子11、絶縁・熱伝導シート12A、12Bの密着性が高まり、熱伝達効率を高く維持できる。
【0036】
なお、上記実施の形態では、熱媒体加熱装置10の各部の構成を示したが、上記に示したものだけではなく、他のいかなるものとしても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…熱媒体加熱装置、11…PTC素子、12A、12B…絶縁・熱伝導シート(絶縁層および熱伝導層)、13A、13B、13C、13D、13E…放熱板、13c…プレート本体、13d…フィン、13e…連結部、14…制御基板、20…ケース、21…ヒータ収容ケース、22…制御基板収容ケース、41、42、43、44、45、46、47、48、51、52…外周部、49…溝、50…クランプ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のPTC素子を挟んでその両面に各々電極板、絶縁層および熱伝導層が順次設けられた積層構造のヒータ部と、
前記ヒータ部の両面側に設けられ、当該ヒータ部よりも大きな面積を有した放熱板と、
前記ヒータ部および前記放熱板を収容するケースと、を備え、
前記ヒータ部の両面側の前記放熱板どうしが、前記ヒータ部の外周側で、ロウ付け、溶接、かしめのいずれかの接合手段により接合されていることを特徴とする熱媒体加熱装置。
【請求項2】
前記ヒータ部の外周部に沿って、前記PTC素子、前記電極板、前記絶縁層および前記熱伝導層をクランプするクランプ部材が設けられ、
前記ヒータ部の両面側の前記放熱板どうしが、前記クランプ部材を介して前記接合手段により接合されていることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項3】
シート状のPTC素子を挟んでその両面に各々電極板、絶縁層および熱伝導層が順次設けられた積層構造のヒータ部と、
前記ヒータ部の両面側に設けられ、当該ヒータ部よりも大きな面積を有した放熱板と、
前記ヒータ部および前記放熱板を収容するケースと、を備え、
前記放熱板は一体成形され、当該放熱板に前記ヒータ部が挿入されて形成されていることを特徴とする熱媒体加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−146514(P2012−146514A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4042(P2011−4042)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】