説明

熱媒通流ローラ

【課題】 樹脂フイルムなどの処理物の均一な熱処理を可能にするとともに、熱交換器やポンプを小型化することのできる熱媒通流ローラを提供することを目的とする。
【解決手段】 円筒状のロールシェル11の肉厚内部に、ロールシェル11の長手方向に伸びる気液2相の熱媒体15を封入する密閉室13を、ロールシェル11の外周面に沿って複数形成すると共に、ロールシェル11内部に中子17を設け、その中子17の外周面とロールシェル11の内周面との隙間を熱媒流体の通流路とし、その熱媒通流路に出入り口間の温度差5℃〜83.3℃の処理物を加熱又は奪熱するための熱媒流体を流す。これにより熱媒流体の出入り口間における温度差にかかわらず処理物を均一に加熱又は奪熱処理することができ、その温度差の低減に要する流量を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を熱媒体として樹脂フィルムなどの処理物を加熱又は奪熱処理するローラに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムなどの処理物をローラに掛け、ローラに当接して通過する間に処理物を所定の温度に加熱したり、高温の処理物を所定の温度にまで奪熱することが行われている。加熱処理する場合、ローラは加熱処理に必要な温度に高められ、奪熱処理する場合、処理物からの奪熱作用によってローラ自体の温度が上昇するので、処理物の冷却に適応する温度までローラを冷却する。いずれの場合も熱を移送する媒体を必要とし、その媒体として流体たとえば油が使用されている。すなわち、適温の流体をローラの内部を通過させ、この流体でローラを加熱又はローラから奪熱する(以下、このようなローラを熱媒通流ローラという。)ようにしている。
【0003】
図4はこのような熱媒通流ローラの一例の概略構成を示すもので、図4において、1はロールシェル、2は回転駆動軸、3は中子、4はロータリジョイント、5は貯油タンク、6は油(熱媒流体)、7は加熱又は冷却用熱交換器、8は温度センサ、9はポンプ、10は樹脂フィルムなどの処理物である。ロールシェル1は円筒状をなし、その中空内部に中子3が配置され、中子3の中央部を貫通して熱媒通流路3aが形成されている。熱媒通流路3aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の流入口に連結され、ロールシェル1の内周壁と中子3の外周壁との間で形成された熱媒通流路1aは回転駆動軸2内を経てロータリジョイント4の出口に連結されている。
【0004】
すなわち、貯油タンク5の油6は加熱又は冷却用熱交換器7を通り、所定の温度にされ、ポンプ9によってロールシェル1内に送られ、熱媒通流路3aおよび1aを通流した油6は貯油タンク5へ排出される。主として熱媒通流路1aを通流する間にロールシェル1は所定の温度に維持され、ロールシェル1の表面に当接した処理物10を加熱又は奪熱する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような熱媒通流ローラでは、ローラ(ロールシェルに回転駆動軸を連結したもの)内に流入する熱媒流体の温度と処理物の加熱後または奪熱後に流出する熱媒流体の温度との間に温度差が発生し、その温度差はローラの表面に現れるため、ローラの表面に当接した処理物のローラの軸心に沿う長手方向に対し、均一な熱処理ができないという問題がある。この問題を解消するために、従来はこの温度差を減らすために、温度差に応じてローラ内を通流する熱媒流体の流量を増加するようにしている。そのために加熱又は冷却用熱交換器やポンプが大型化せざるを得ないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解消すべくなされたもので処理物の均一な熱処理を可能にするとともに、熱交換器やポンプを小型化することのできる熱媒通流ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱媒通流路を有し、前記熱媒通流路を流れる熱媒流体により表面に当接する処理物を一定の温度で加熱又は奪熱処理する熱媒通流ローラであって、中空ローラの肉厚内部に、ローラの長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を設けると共に、ローラの中空内部の中央部にローラの長手方向に伸びる中子を設け、前記中子の外周面とローラの内周面との隙間を前記熱媒通流路とし、前記熱媒通流路に、入口と出口における熱媒流体の温度差が5℃以上から83℃以下の範囲内を維持する熱媒流体を通流してなることを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ローラの肉厚内部にローラの長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を設けた上でローラの中空内部の中央部にローラの長手方向に伸びる中子を設けて、熱媒流体の流れる熱媒通流路をローラの内周面に寄せているので、熱媒流体の熱または処理物の熱がローラの表面と熱媒流体との間で迅速に交換され、必要な加熱および奪熱効果を高めることができる。また、熱交換が迅速であるために、ローラ内に流入する熱媒流体の温度と処理物の加熱後または奪熱後に流出する熱媒流体の温度との間の温度差が大きくなるが、この温度差を5℃以上から83℃以下の範囲内に維持することによってローラの軸心に沿う長手方向の表面温度を所定の温度に均一化することができる。この温度差が大きくなってもローラの表面温度が均一化されることから、熱媒流体の流量を大幅に減少することができる。この流量を大幅に減少させることができることによって、熱媒流体を供給する配管の径およびポンプの容量を小さくし、設備に要する費用を削減することが可能となり、また、配管の放熱量の低減とポンプ容量の低下によって、省エネルギーを達成することができる。さらに、ローラの肉厚内部にローラの長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室をローラの円周方向に複数個設けると、密閉室間でローラの肉厚を充分に確保することができ、ローラの強度を保持しつつローラの厚みを薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
処理物の均一な熱処理を可能にするとともに、熱交換器やポンプを小型化することのできる熱媒通流ローラを提供する目的を、ローラの肉厚内部にローラの長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を設けるとともに、ローラの中空内部中央部にローラの長手方向に伸びる中子を設け、その中子の外周面とローラの内周面との隙間を熱媒流体の通流路とすることにより実現した。
【実施例】
【0010】
以下本発明の実施例について図を参照して説明する。図1(a)(b)は実施例に係る熱媒通流ローラの縦断面図である。なお、図4に示すロータリジョイント4、貯油タンク5、加熱又は冷却用熱交換器7、温度センサ8およびポンプ9からなる油(熱媒流体)の循環経路については図では省略している。
【0011】
図1において、11はロールシェル、12は回転駆動軸、13は密閉室、17は中子、15は気液2相の熱媒体である。ロールシェル11は円筒状を成し、長手方向の両側の端部は回転駆動軸12のフランジ12aに連結固定されている。密閉室13はロールシェル11の肉厚内に、たとえばロールシェル11の長手方向の端縁からその長手方向にドリルで孔を形成し、その孔に気液2相の熱媒体となる適量の水15などを注入して開口部を閉塞することにより形成され、図1(b)に示すように適宜間隔を隔ててローラの外周面に沿って複数個設けられている。
【0012】
中子17はロールシェル11の中空内部の中央部にロールシェル11の長手方向に伸び、図1に示すように中子17の外周面とロールシェル11の内周面との隙間を熱媒流体が、ロールシェル11の一方の端部から他方の端部へ通過する。すなわち、すなわち、図示しない加熱又は冷却用熱交換器、ポンプおよび一方のロータリジョイントを経て送り込まれた油などの熱媒流体は、ロールシェル11を加熱し、または奪熱し、他方のフランジ12a、回転駆動軸12およびロータリジョイントを経て貯油タンクへ排出される。
【0013】
このようにロールシェル11内を通過する熱媒流体は、処理物10(図4参照)を加熱する場合には、処理物10に熱を奪われロールシェル11の入口側と出口側とで温度差が発生する。しかし、入口側の高温部に位置する密閉室13内の熱媒体15が熱媒流体によって加熱されたロールシェル11の熱を奪って加熱気化し、その気体は出口側の低温部に移動してロールシェル11に熱を放出して液化する。この潜熱の移動によってロールシェル11の表面温度は均一化され、処理物10をローラの軸心に沿う長手方向に対して均一な加熱処理ができる。
【0014】
また、処理物10(図4参照)から熱を奪う場合には、処理物10によって加熱されたロールシェル11の熱を奪って加熱気化し、その気体は低温部に移動してロールシェル11に熱を放出して液化する。この潜熱の移動によってロールシェル11の表面温度は均一化され、処理物10をローラの軸心に沿う長手方向に対して均一な奪熱処理ができる。
【0015】
以上の実施例では、熱媒流体が中子17の外周面に沿ってロールシェル11の一方の端部から他方の端部へ直線状に通過するが、図2に示すように中子17の外周面に螺旋状の凹溝17aを形成してもよい。このように熱媒流体が通過する通流路を長くすると、密閉室13内の熱媒体15の潜熱移動と相俟って熱媒流体とロールシェル11との熱交換効率をより高めることができる。
【0016】
なお、以上の実施例では、熱媒流体の流路が直接にロールシェル11に接しないことから、ロールシェル11の熱膨張差による機械的精度の劣化を抑制することができ、また、熱媒流体の流路をロールシェル11の外表面側に寄せているので、必要な加熱および奪熱を効果的に作用させることができる。
【0017】
以上のように構成した熱媒通流ローラについて、ロールの直径310mm、ロール面長1110mm、ファン負荷運転、流体流量2.4m/h、流体比重841kg/m、流体比熱0.42kcal/kg、流体入り口温度178℃、流体出口温度168℃、流体出入口温度差10℃で、流体の出口側から入り口までほぼ等間隔に14点の温度センサをロールシェル11の表面に配置して、計測した。
【0018】
その結果、流体の出口側から順に、146.8 148.8 [150.6 150.8 150.9 150.9 150.9 150.8 150.6 150.7 150.5 150.3] 149.4 147.8であった。[]内の温度が気液2相の熱媒体を収納した密閉室の有効長かつ処理物幅の有効長960mmである。この範囲での温度差は0.6℃であり、流体出入口温度差10℃にかかわらず良好な温度分布を呈している。なお、[]外の温度は密閉室の有効外のロール有効長外部分であり、熱が回転駆動軸に奪われて温度が若干低下している。
【0019】
ロールが放出する熱量を求めると、Q(kcal/h)=10×2.4×841×0.42=8477kcal/h=9.86Kwである。ここで、気液2相の熱媒体を収納した密閉室を設けずに、この温度差0.6℃を得るときの流量Vを求めると、V(m/h)=8477/(0.6×841×0.42)=40(m/h)となる。これは気液2相の熱媒体を収納した密閉室を設けた場合に比べ約16.7倍の流体流量が必要であることを意味する。
【0020】
すなわち、実施例のように構成すると、図4に示す従来の熱媒通流ローラの1/16.7倍の流体流量で済み、この場合、配管およびロータリージョイントの断面積を1/16.7とすることが可能であり、配管およびロータリージョイントに要するコストを低減することができる。また、流体流量の低減は、配管工数および設置スペースの低減につながり、コスト低減として大きなメリットがあり、さらに流路の断面積が1/16.7となることは配管表面積が約1/4となり、配管放熱が1/4になって省エネルギーとすることができる。流体の流量が少なくすめば流体を供給するポンプも小さくてよく、流量が1/16.7であればポンプの容量は通常1/10程度で十分である。
【0021】
なお、以上は流体出入口温度差10℃とした場合であるが、流体出入口温度差10℃とした理由は、処理物を均一に熱処理しようとするとロールの有効長における温度分布精度が通常5℃未満である必要がある。つまり流体出入口温度差5℃未満とする必要があり、流体出入口温度差5℃以上となる場合には、流体出入口温度差にしたがい流量を増加しなければ均一に熱処理することができない。
しかし、気液2相の熱媒体を収納した密閉室を設けることにより、流体出入口温度差5℃以上であっても流量を増加することなく十分に均一な熱処理が果たせることを示すためである。すなわち、流体出入口温度差10℃でロールの有効長における温度分布精度が0.6℃であることは、ロールの有効長における温度分布精度が5℃未満までとすれば、流体出入口温度差は、5/0.6×10=83.3℃と大幅な温度差とすることができ、配管、ロータリージョイントおよびポンプなどを小型化することができる顕著な効果が得られる。
【0022】
ところで、奪熱によってローラ(厳密にはロールシェル)の表面温度が変動する際、それを熱媒流体の温度を制御することでローラの表面温度を一定に制御するが、熱媒流体の温度制御は比較的に安定的にできるのに比べ、流路壁面との熱伝達率が小さいためにローラの温度は追従せず時間遅れが発生する。この遅れを解消するために、ローラ自体をジュール発熱させる誘導発熱機構を付加すると好都合である。
【0023】
図3は誘導発熱機構を付加した熱媒通流ローラの実施例を示すもので、誘導コイルと鉄心とからなる誘導発熱機構18を熱媒通流ローラの外周面の近傍位置に配置したものである。このように誘導発熱機構を付加しておくと、処理物の処理温度を変更した場合などに迅速に対応することができる。
【0024】
以上の各実施の形態では、密閉室に気液2相の熱媒体となる適量の水15などを注入しているが、密閉室にヒートパイプを挿入するようにしてもよい。また、複数の密閉室はそれぞれ独立しているが、たとえば密閉室の両側の端部で互いに連通するようにしてもよい。その連通路を回転駆動軸のフランジ内に設けるようにしてもよく、この場合、密閉室はロールシェルの肉厚内を貫通することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例に係る熱媒通流ローラを示す縦断面図(a)と横断面図(b)である。
【図2】本発明の他の実施例に係る熱媒通流ローラを示す縦断面図である。
【図3】本発明の他の実施例に係る熱媒通流ローラを示す縦断面図である。
【図4】従来の熱媒通流ローラを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0026】
4 ロータリジョイント
5 貯油タンク
7 加熱又は冷却用熱交換器
8 温度センサ
9 ポンプ
10 処理物
11 ロールシェル
12 回転駆動軸
13 密閉室
15 気液2相を形成する熱媒体
17 中子
18 誘導発熱機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒通流路を有し、前記熱媒通流路を流れる熱媒流体により表面に当接する処理物を一定の温度で加熱又は奪熱処理する熱媒通流ローラであって、中空ローラの肉厚内部に、ローラの長手方向に伸びる気液2相の熱媒体を封入する密閉室を設けると共に、ローラの中空内部の中央部にローラの長手方向に伸びる中子を設け、前記中子の外周面とローラの内周面との隙間を前記熱媒通流路とし、前記熱媒通流路に、入口と出口における熱媒流体の温度差が5℃以上から83℃以下の範囲内を維持する熱媒流体を通流してなることを特徴とする熱媒通流ローラ。
【請求項2】
中子の外周面に熱媒通流路となる螺旋状の凹溝を形成してなることを特徴とする請求項1に記載の熱媒通流ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−207826(P2006−207826A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116738(P2006−116738)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【分割の表示】特願2002−276652(P2002−276652)の分割
【原出願日】平成14年9月24日(2002.9.24)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】