説明

熱延鋼帯の巻取り装置及び方法

【課題】熱延鋼帯、特に高強度極厚み材をコイル状に巻き取った際に発生しやすいキンク、トップマークと呼ばれる形状不良の発生を防止する技術を提供する。
【解決手段】熱延鋼帯2をマンドレル3方向に曲げるための上下一対のピンチロール9と、マンドレル3の周囲に配置された複数本のラッパーロール5と、ピンチロール9によってマンドレル3方向に曲げられた熱延鋼帯2の先端をラッパーロール5に向けて案内するスロートガイド13を備えた熱延鋼帯の巻取り装置1であって、スロートガイド13が水平方向となす角度をα、下ピンチロール9b表面とマンドレル3表面との共通接線14が水平方向となす角度をθとしたときに、0≦(α−θ)≦5°になるようにスロートガイド13が配置されると共に、スロートガイド13と共通接線14とのギャップGを熱延鋼帯2の板厚の2倍以下に調整可能に構成されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼帯の巻取り装置および該巻取り装置を用いた熱延鋼帯の巻取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主として大陸パイプラインでの原油や天然ガス等の資源の輸送効率化を目的に、API規格にしてX70〜X100といった大径厚肉高強度パイプ材の需要が高まっている。これは、前記の資源を効率的に輸送するためにパイプ内部には高い内圧がかけられ、かつ寒冷地での使用や地震による地殻変動なども考慮すると、高靭性、高強度といった特性がパイプ材にとって非常に重要となっているからである。
【0003】
このような大陸パイプラインに使用されるパイプは、肉厚が15mm〜25mm程度、外径は20インチ程度以上と大径である。このため、長手方向に縦長形状である厚鋼板の短辺側を円形に成形した後、突合せ部を長手方向に溶接してパイプとするUOE鋼管が多用されている。
このようなUOE鋼管に使用される厚鋼板は、1基あるいは2基の圧延機を有する厚板ミルで熱間スラブを多パス圧延にて略矩形形状に製造されるものであり、その製品長は最大でも30m程度である。
【0004】
これに対し、近年、厚鋼板を薄板圧延用の熱間圧延ラインにて圧延してコイル状に巻き取って熱延鋼帯コイルとした後、コイルを巻きほどいて所定の長さに切断した後に成形する電縫管や、熱延鋼帯を長手方向にらせん状に成形すると同時に板幅端部の突合せ部を溶接しながらパイプに製造するスパイラル鋼管の需要が高まっている。
熱延鋼帯コイルは、最大45トン程度までの製造が可能であり、例えば厚みが20mm、板幅が1900mm程度であれば熱延鋼帯の長さは151m程度となる。このような熱延鋼帯を用いて直径28インチのスパイラル鋼管を成形すると、パイプ長は約128mとなる。このように、パイプ成形前の母材として熱延鋼帯コイルを用いることにより、厚鋼板から製造する場合に比べ、連続して長いパイプの製造が可能となり、生産性の向上も期待できる。
【0005】
高強度極厚鋼帯をコイル状に巻き取る場合、材料の剛性が高いが故に、巻取り装置のピンチロールやラッパーロールの剛性、そしてマンドレルのトルク、その他先端部の巻き付き性等、様々な課題が発生する。
図8は、熱延鋼帯2をコイラーにて巻き取った後の状態を示す一例であり、コイル27の最内周部、すなわち熱延鋼帯2の最先端近傍に複数箇所がへの字状に折れ曲る折れ曲り形状28による形状不良が生じることがあり、このような形状不良はキンクと呼ばれている。このような複数箇所がへの字に折れ曲る折れ曲り形状28は、熱延鋼帯2における最も内周側から外周方向に数巻き程度の範囲で影響を及ぼすことが多く、このような折れ曲り形状28が発生したキンク部33は熱延鋼帯2を成形してパイプとする際に大きな問題となる。
【0006】
例えば、図8に示したような形状不良が発生したコイル27から熱延鋼帯2を払い出し、図9に示すスパイラル鋼管31に成形した場合、への字状の折れ曲り形状28により真円度が悪化するだけでなく、継ぎ目部35に段差37を生じるため、溶接不良を引き起こす原因となる。このため、熱延鋼帯2にキンクが発生すると、熱延鋼帯2における折れ曲り形状28が存在する部分、すなわち、コイル状に巻き取られた熱延鋼帯2の最内周から外周側に複数巻きに相当する部分を切断して除去した上でスパイラル鋼管31に成形せざるを得ない。このように切断除去する長さは、熱延鋼帯2の全長に対して数%にものぼることがあるため、大きな歩留まりロスになる。
【0007】
キンクはトップマークとも呼ばれ、従来からトップマーク(キンク)の発生を防止するため、様々な方法が提案されている。
例えば、熱延鋼帯の最先端部が各ラッパーロールを通過する直前に、各ラッパーロールをマンドレルから熱延鋼帯の厚さ分外方に退避させ、熱延鋼帯の最先端部が各ラッパーロールを通過した直後に、各ラッパーロールをマンドレルに押し付ける、オートマチックジャンピング制御(以下「AJC」という)を行う方法がある。これは、ラッパーロールを熱延鋼帯に強く押し付けたままの状態で、熱延鋼帯の最先端部がラッパーロールを通過すると、ラッパーロールは熱延鋼帯の最先端部に衝突するとともに外方に押し出され、その衝撃によりトップマークが発生する、との知見に基づくものである(特許文献1,2参照)。
【0008】
AJCとは対照的に、ラッパーロールを比較的弱く押し付けながら熱延鋼帯を巻き取る方法は、一定圧力制御(以下「CPR」という)と呼ばれている。
CPRにおいても、AJCと同様の考えにより、ラッパーロールを熱延鋼帯に押し付けておくべき巻き数を最小限とすることにより、トップマークの低減を図る方法が提案されている(特許文献3参照)。
また、熱延鋼帯の先端部の巻取りに際し、マンドレルのセグメントを外方に拡大する場合において、その圧力を適正に制御することにより、トップマークの発生を防止する方法も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平01−245918号公報
【特許文献2】特開平07−136718号公報
【特許文献3】特公平01−000130号公報
【特許文献4】特許開07−136717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記の先行技術文献に示された各方法は以下に述べるような問題をそれぞれ有していた。
まず、特許文献1,2のAJCでは、ラッパーロールの退避と押し付けのタイミング、そしてラッパーロールを押し付ける熱延鋼帯上の位置を、いかに精緻に制御しても、トップマークの発生を完全に防止することは難しかった。特に高強度極厚鋼帯の巻取りでは、材料の剛性が非常に高く、かつ最内周に複数箇所の折れ曲り形状28が形成される形状不良(トップマーク、キンク)に関してはAJCによる効果はほとんどなく、また、同じ理由により特許文献3のCPRにおいても高強度極厚鋼帯の巻取りでは形状不良(トップマーク、キンク)発生を防止することは困難であった。
【0011】
特許文献4に示されたマンドレルのセグメントを外方へ拡大する方法も、セグメントを外方へ拡大する前に既にトップマークが発生している場合があるため、そういう場合に拡大を行うと、却ってトップマークを際立たせてしまい、いかに精緻に制御してもトップマークの発生を完全に防止することは難しい。また、特許文献4に示された方法も、特に高強度極厚鋼帯の巻取りでは、AJC制御やCPRと同様の理由によりにほとんど効果がないものであった。
【0012】
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであり、熱延鋼帯、特に高強度極厚材をコイル状に巻き取った際に発生しやすいキンク、トップマークと呼ばれる形状不良の発生を防止する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
図4は、一般的な熱延鋼帯の巻取り装置21の要部を示しており、マンドレル3の方向に向けて曲げるためのピンチロール9、エプロン25(上エプロン25a、下エプロン25b)、スロートガイド23、マンドレル3、ラッパーロール5、通板ガイド7(7a〜7d)を備えている。
このような巻取り装置21においては、熱延鋼帯2の先端はピンチロール9を通過後、エプロン25とスロートガイド23にガイディングされながら進行し、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過した後、通板ガイド7にガイディングされながら、順次、第2のラッパーロール5bから、第3のラッパーロール5c、第4のラッパーロール5dとマンドレル3の間を進行する。
【0014】
そして、再度、第1のラッパーロール5aまで到達した際には外周側に熱延鋼帯2が重なり、同様な工程を行うことによって2巻き目、3巻き目と、熱延鋼帯2の全長が巻き取られるまで繰り返される。この際、3巻き目くらい以降では巻取り挙動が安定することから、通常はスロートガイド23を上方に退避させることが多い。
【0015】
本発明者らは、高速度カメラを用いた観察により、熱延鋼帯2、特に高強度極厚鋼帯を巻き取る際のキンクの発生メカニズムについて鋭意検討した。
その結果、キンクは熱延鋼帯2の先端がピンチロール9でマンドレル3に向けて曲げられ、スロートガイド23間を通過した後、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過して第2のラッパーロール5bとマンドレル3の間を通過するまでの挙動に大きく影響されていることを見出した。
【0016】
図5は、図4に示した第1のラッパーロール5a近傍を拡大して示した図である。図5に示すように、スロートガイド23は下ピンチロール9bの表面とマンドレル3の表面との共通接線14(図4及び図5中の破線)よりも傾斜が大きく、かつ共通接線14に対してギャップGだけ上方に離れた位置に設置されている。なお、ギャップGは第1のラッパーロール5aに近いほど小さく、逆に第1のラッパーロール5aから離れるほど大きくなっており、板厚+(50mm〜100mm)程度に設置されている。スロートガイド23を共通接線14から上記のように離しているのはスロートガイド23と鋼帯表面との強接触を防止するためである。
【0017】
このような一般的な熱延鋼帯の巻取り装置21を用いて熱延鋼帯2を巻き取った場合の挙動を図6に基づいて説明する。
図6は、熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aとマンドレル3間から第2のラッパーロール5bを通過するまでの挙動を時系列で示している。
熱延鋼帯2の先端部は仕上圧延機内にて上下方向に反りやすく、かつピンチロール9による曲げによりマンドレル3に巻き取る際には若干の下反り形状となっていることが多い。なお、以後、巻取り中の熱延鋼帯2の先端の反り方向は、巻取り円周方向に対して内向き、外向きと呼ぶ。
【0018】
図6(a)に示すように、熱延鋼帯2の先端が若干の下向き形状にて第1のラッパーロール5aとマンドレル3間に進入する。図5に示したように、スロートガイド23は下ピンチロール9bの表面とマンドレル3の表面との共通接線14に対して離れた位置に設定されているため、熱延鋼帯2の先端は第1のラッパーロール5aに衝突し、図6(a)に示したごとく下向き、すなわち円周方向に対して内向きの状態にて第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する。この場合、熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する際には、熱延鋼帯2の先端に逆方向すなわち外向きの曲げ作用が働き、第1のラッパーロール5aを通過する時点では熱延鋼帯2の先端は外向きに曲がる。
【0019】
そして、熱延鋼帯2の先端は外向きに曲ったまま通板ガイド7aによってガイディングされながら(図6(b)参照)、第2のラッパーロール5bまで到達する(図6(c)参照)。このとき図6(c)に示すように、熱延鋼帯2における外向き形状の先端は、図6(d)に示すように、第2のラッパーロール5bに沿いながらマンドレル3との間に進入していくが、この状態において、熱延鋼帯2の変形が通板ガイド7aによって拘束されながら行われることから、熱延鋼帯2の先端近傍では再度、逆向きの変形、すなわち円周方向に対して内向きの形状となり、第1の折れ曲り形状28aが発生する(図6(d)(e)参照)。
つまり、第1の折れ曲り形状28aは、熱延鋼帯2の先端がマンドレル3と第1のラッパーロール5aの間に進入する際に、一旦内向きの変形をすることが最も大きな要因である。
【0020】
また、図7に示すように、熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aによって外向きに変形して通板ガイド7aに衝突すると、熱延鋼帯2は進行方向と逆向きの力を受けることなり、先端部の速度が低下する。先端部の速度が低下すると、ピンチロール9と第1のラッパーロール5a間において熱延鋼帯2は座屈して大きく撓む。
本発明者らの観察によると、図7に示すように、熱延鋼帯2が撓んだ瞬間、その撓んだ部位がスロートガイド23に拘束されてへの形状に変形する。この部分が第2の折れ曲り形状28bとなって現れるのである。
【0021】
以上のように、熱延鋼帯2の先端部がコイラーに進入した際に、上記のようなメカニズムによって、コイル最内周部に複数の折れ曲り形状28a、28bが発生することを確認した(図6(e)参照)。そして、特に剛性の高い高強度極厚鋼帯では、この折れ曲り形状28が最内周より複数巻きに至るまで影響を及ぼす。なお、先端部のへの字曲がりがひどい場合には、通板ガイド7aとマンドレル3との間にて先端詰まりが発生したり、あるいは熱延鋼帯先端が第2のラッパーロール5bに突っ掛かることによりコイラー詰まりが発生したりする。
【0022】
上記したキンク発生のメカニズムによると、熱延鋼帯2の最先端部が第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する際の逆曲げ変形がキンク発生に大きな要因になっていると考えられる。
そこで、キンク発生防止には、前記逆曲げ変形を防止することが重要であり、このためには図4におけるスロートガイド23の設置位置を調整し、スロートガイド23を下ピンチロール9bの表面とマンドレル3の表面との共通接線14と略平行にすると共に、図5における共通接線14とスロートガイド23とのギャップGを、マンドレル3の表面と第1のラッパーロール5aとの間のギャップと略同一となるように設置すればよいとの知見を得た。
【0023】
本発明はこれらの知見に基づきなされたものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
【0024】
(1)本発明に係る熱延鋼帯の巻取り装置は、熱延鋼帯をマンドレル方向に曲げるための上下一対のピンチロールと、前記マンドレルの周囲に配置された複数本のラッパーロールと、前記ピンチロールによってマンドレル方向に曲げられた熱延鋼帯の先端を前記ラッパーロールに向けて案内するスロートガイドを備えた熱延鋼帯の巻取り装置であって、
前記スロートガイドが水平方向となす角度をα、下ピンチロール表面とマンドレル表面との共通接線が水平方向となす角度をθとしたときに、0≦(α−θ)≦5°になるように前記スロートガイドが配置されると共に、前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを熱延鋼帯の板厚の2倍以下に調整可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0025】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記スロートガイドが前記熱延鋼帯に接触してガイドする回転ローラを備えていることを特徴とするものである。
【0026】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを保持するように前記スロートガイドを固定する固定手段を備えたことを特徴とするものである。
【0027】
(4)本発明に係る熱延鋼帯の巻取り方法は、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の熱延鋼帯の巻取り装置を用いた熱延鋼帯の巻取り方法であって、
前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを熱延鋼帯の板厚1.5倍〜2倍に設定して前記熱延鋼帯の巻取りを行うことを特徴とするものである。
【0028】
(5)また、上記(3)に記載の熱延鋼帯の巻取り装置を用いた熱延鋼帯の巻取り方法であって、
少なくとも熱延鋼帯の先端が前記スロートガイドの最も近くに設置された第1のラッパーロールとマンドレルとの間を通過し、前記第1のラッパーロールの隣に配置された第2のラッパーロールとマンドレルとの間を通過するまで、前記(3)に記載の固定手段によって前記スロートガイドの位置を固定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る熱延鋼帯の巻取り装置において、スロートガイドが水平方向となす角度をα、下ピンチロール表面とマンドレル表面との共通接線が水平方向となす角度をθとしたときに、0≦(α−θ)≦5°になるように前記スロートガイドが配置されると共に、前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを熱延鋼帯の板厚の2倍以下に調整可能に構成されているので、熱延鋼帯、板厚が厚く強度の高い材料からなる熱延鋼帯であってもその先端の巻き付き安定性を向上させるとともに、コイル内周の数巻きに発生するキンク不良のない熱延鋼帯の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態の熱延鋼帯の巻取り装置の説明図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態の熱延鋼帯の巻取り装置の動作説明図である。
【図4】従来の熱延鋼帯の巻取り装置の説明図である。
【図5】図4の一部を拡大して示す図である。
【図6】従来の熱延鋼帯によってキンクが発生するメカニズムを説明するための図である(その1)。
【図7】従来の熱延鋼帯によってキンクが発生するメカニズムを説明するための図である(その2)。
【図8】キンクを有する熱延鋼帯をコイルにした状態の説明図である。
【図9】図8に示したコイルを巻きほどいた熱延鋼帯をパイプにスパイラル成形した際の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本実施の形態に係る熱延鋼帯の巻取り装置1は、図1に記載するとおり、熱延鋼帯2を巻き取るマンドレル3と、マンドレル3の周囲に配置された4本のラッパーロール5(第1のラッパーロール5a〜第4のラッパーロール5d)と、4本のラッパーロール5間にマンドレル3の外周を覆うように設けられた4数の通板ガイド7(第1の通板ガイド7a〜第4の通板ガイド7d)と、熱延鋼帯2をマンドレル3方向に曲げるための上下一対のピンチロール9(上ピンチロール9a、下ピンチロール9b)と、ピンチロール9によってマンドレル3方向に曲げられた熱延鋼帯2の先端をガイドするエプロン11(上エプロン11a、下エプロン11b)と、エプロン11によってガイドされた熱延鋼帯2の先端を第1ラッパーロールに向けて案内するスロートガイド13とを備えている。
以下、本発明の要部を成す構成を詳細に説明する。
【0032】
<スロートガイド>
図2に記載するとおり、スロートガイド13には、複数の回転ローラ15が設置されており、熱延鋼帯2との摩擦を軽減するように構成されている。
下ピンチロール9b表面とマンドレル3表面との共通接線14(以下、単に「共通接線14」という)が水平方向となす角度をθ、スロートガイド13が水平方向となす角度をαとしたときに、スロートガイド13は0≦(α−θ)≦5°を満たすように設置されている。
また、スロートガイド13の下面(本実施の形態ではスロートガイド13が複数の回転ローラ15を備えているので、回転ローラ15の下面)と共通接線14とのギャップG(図2参照)を熱延鋼帯2の板厚の2倍以下に調整可能に構成されている。
【0033】
スロートガイド13を上記のように配置した理由を以下に説明する。
〔ギャップGを熱延鋼帯2の板厚の2倍以下に調整可能にした理由〕
通常、熱延鋼帯2の最先端部の通板性を確保するため、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間のギャップは板厚の1.5倍程度に設定されている。このため、ギャップGを板厚の1.5倍よりも広くしすぎると、熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aに衝突して内向きに変形するのを防止できず、キンク発生防止の効果が得られない。また、ギャップGを広くしすぎると、熱延鋼帯2のマンドレル3への巻き付き性が低下するという問題も生ずる。このような理由から、ギャップGを熱延鋼帯2の板厚の2倍以下に設定したものである。
【0034】
もっとも、ギャップGを狭くしすぎると、熱延鋼帯2の進入時における先端の反り形状によっては熱延鋼帯2の最先端部がギャップ間に詰まってコイル詰まりが発生する。したがって、ギャップGは板厚の1倍(板厚と同じ)以上にすべきであることは当然であるが、好ましくは、板厚の1.5倍つまり第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間のギャップと略同一に設定しておくことが好ましい。ギャップGを板厚の1.5倍程度にすることで、マンドレル3の間のギャップと略同一となり、熱延鋼帯2の先端部が進入する際に第1のラッパーロール5aに衝突するのを防止して、キンク発生の原因となった熱延鋼帯2のラッパーロール5aとマンドレル3の間へ進入時の内向き変形の発生(図6(a))をより効果的に防止できる。
【0035】
〔スロートガイドを共通接線と略平行にした理由〕
上記のように、ギャップGを板厚の2倍以下に設定することを前提にして、スロートガイド13を共通接線14と略平行にすることで、スロートガイド13は全体として共通接線14と板厚の2倍程度しか離れないことにある。このため、仮に熱延鋼帯2の先端が第1の通板ガイド7aとの摩擦によって座屈しそうになっても、スロートガイド13によって保持され、座屈が阻止され、従来例において問題となった第2の折れ曲り変形(図7)の発生を防止できる。
【0036】
以上を総括すると、スロートガイド13を上記のように配置することにより、熱延鋼帯2の先端部を共通接線14に平行かつ共通接線14に近接した状態で進入させることができ、これによって熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aに衝突して内向きに変形するのを防止でき、かつピンチロール9と第1のラッパーロール5a間において熱延鋼帯2が座屈して大きく撓むのを防止することができ、これによりキンク発生を防止することができる。
【0037】
また、本実施の形態では、スロートガイド13に複数の回転ローラ15を設けているので、スロートガイド13と熱延鋼帯2の強接触により鋼帯表面に擦過痕が発生することを防止することができる。
回転ローラ15は必ずしも熱延鋼帯2の通板速度と同期して駆動させる必要はなく、回転抵抗の小さなベアリングを使用し、無駆動のアイドル回転するものでもよい。
もっとも、回転ローラ15は必須ではなく、本発明は回転ローラ15がない場合を排除するものではない。
【0038】
なお、熱延鋼帯2の先端が第2のラッパーロール5bとマンドレル3との間を通過後には、マンドレルトルクによって巻取り状態が安定することから、当該状態になればスロートガイド13の配置は上記の設定した状態でなくてもよい。逆に言えば、少なくとも熱延鋼帯2の先端が第2のラッパーロール5bとマンドレル3との間を通過するまでは、スロートガイド13の配置を上記の状態に固定するのが望ましい。スロートガイド13の位置を固定するための手段としては、例えばスロートガイド13の上面側に油圧シリンダーを設けて、熱延鋼帯2による押圧に抵抗するようにすればよい。
【0039】
なお、前述したように、3巻き目程度以降では巻取り挙動が安定することから、スロートガイド13を上方に退避させてもよい。
【0040】
<エプロン>
本実施の形態においては、上述したようにスロートガイド13と共通接線14とのギャップを小さくし、かつスロートガイド13と共通接線14を略平行にしたため、スロートガイド13の上端部が共通接線14に近い位置になっている。そのため、上エプロン11aが熱延鋼帯2をスロートガイド13にガイドしやすくするため、上エプロン11aの下向きの傾斜を従来例(図4の25a参照)よりも大きくしてその下端部をスロートガイド13の上端部近傍に配置すると共に、上エプロン11aとスロートガイド13との間に補助ロール17を設けている。
【0041】
なお、ラッパーロール5の本数や通板ガイド7の数は、上記の実施の形態で示したものに限定されなるものではなく、巻取り装置の仕様によってラッパーロール3本、通板ガイド3個やラッパーロール5本、通板ガイド5個のように適宜変更可能である。
【0042】
上記のように構成された本実施の形態の熱延鋼帯2の巻取り装置1を用いた熱延鋼帯2の巻取り方法を図3に基づいて概説する。
熱延鋼帯2の先端はピンチロール9を通過後、エプロン11とスロートガイド13にガイディングされながら進行し、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間に進入する。本実施の形態では、スロートガイド13が共通接線14と略平行で、かつギャップGが板厚の2倍以下に設定されているので、熱延鋼帯2の先端が第1のラッパーロール5aに強く衝突して内向きに変形することがなく、それ故に、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する際に、大きな外向きの変形が生ずることなく、熱延鋼帯2は、図3に示すように、ほぼマンドレル3に沿うようにして第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する。
【0043】
このように、第1のラッパーロール5aとマンドレル3の間を通過する際に、外向きの変形が生じないので、従来例のように第1の折曲り変形が生ずることがない。
また、前記外向きの変形が生じないため、熱延鋼帯2の先端が第1の通板ガイド7aに強くこすりつけられることもなく、熱延鋼帯2が座屈することもない。仮に、熱延鋼帯2の先端が第1の通板ガイド7aに当接して熱延鋼帯2が座屈しそうになっても、スロートガイド13が接線に近接して配置されているので、熱延鋼帯2はスロートガイド13に保持されて座屈やそれによる撓みが防止される。
【0044】
熱延鋼帯2の先端は、第1の通板ガイド7aにガイドされながらマンドレル3に巻回されながら進行して、第2のラッパーロールとマンドレル3との間に進入して、通過する。
熱延鋼帯2の先端が、第2のラッパーロールとマンドレル3と間を通過するまでは、スロートガイド13の位置を固定するように、例えば油圧シリンダーからなる固定手段を駆動させる。
熱延鋼帯2の先端が、第2のラッパーロールとマンドレル3と間を通過すると、固定手段による固定を解除するようにしてもよい。
【0045】
そして、再度、第1のラッパーロール5aまで到達した際には外周側に熱延鋼帯2が重なり、同様な工程を行うことによって2巻き目、3巻き目と、熱延鋼帯2の全長が巻き取られるまで繰り返される。この際、3巻き目くらい以降では巻取り挙動が安定することから、通常はスロートガイド13を上方に退避させてもよい。
【0046】
本実施の形態によれば、従来、熱延鋼帯2の先端におけるキンクの発生を防止でき、キンクが発生しやすい高強度極厚鋼帯においてもキンクの発生を防止できる。これに加えて、熱延鋼帯先端の突っ掛け等によって発生していたコイル詰まりトラブルも大幅に減少し、熱延鋼帯2の安定した巻取りが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を確認する実験を行ったので、これについて説明する。
実験の対象とした材料はAPI規格X80グレードであり、厚み250mm、幅1850mm、長さ9mのスラブ(重量33トン)を熱間圧延ラインの粗圧延工程、仕上圧延工程を経て厚み25mmに仕上げ、冷却テーブル上にて520℃まで冷却したのちに巻取り装置にて巻き取った。
【0048】
巻取り装置は図1に示した形態のコイラー1と、図4に示した形態のコイラー21を使用した。これらのコイラー1,21において、ラッパーロール5a〜5dの直径はφ440mm、マンドレル3の外径はφ750mmであり、巻取り後のコイル外径はφ1858mmである。
最終仕上圧延機出側、すなわち冷却テーブル上での熱延鋼帯速度は150mpmであり、熱延鋼帯2の先端部は150mpmの速度にてコイラーに進入し巻き付きが開始される。この際、マンドレル3、ラッパーロール5の速度は、熱延鋼帯2の速度に対して所定のリード率にて巻取りが開始されるように、熱延鋼帯先端部が最終仕上圧延機を抜けたタイミングあたりから加速をはじめている。そして、巻き付き開始時のマンドレル3のリード率は15%とし、ラッパーロール5のリード率は25%に設定した。
そして、巻き付き開始後、マンドレル3とラッパーロール5の減速を開始し、5回転に設定した巻付き完了時点においてマンドレル3とラッパーロール5の速度が熱延鋼帯2の通板速度に同期するように150mpmまで減速した。
【0049】
熱延鋼帯2の尾端部がコイラー手前20m程度の位置から減速を開始し、熱延鋼帯2の尾端部がコイル下側となる位置にて回転を停止した。そして、コイル下方で待機させていたクレードルロール29(図8参照)を上昇させ、機外へと抜き出し、コイルヤードまで搬出した。
そして、放冷却にてコイルが常温まで冷却された後、アクリル板にて作成した厚み3mm、マンドレル3の外径と同じ直径φ750mmの円盤をコイル内周部に当て、コイル最内周の折れ曲り部とアクリル円盤外周表面との最大距離を測定し、キンクの指標とした。以後、測定した最大距離を折れ曲り高さと呼ぶ。
【0050】
本発明による効果を検証するため、図1に示したコイラー1においても、スロートガイド13が水平方向となす角αを変更し、スロートガイド13が水平方向となす角αと下ピンチロール9bの表面とマンドレル3の表面との共通接線14が水平方向となす角度θとの角度差(α−θ)を変えることにした。また、ギャップGを変更し、熱延鋼帯2の板厚Hとの比を変えることでこれにつての評価を行った。
さらに、仕上圧延後の先端形状の影響も調査するため、高速度ビデオカメラをコイラー脇に設置し、第1のラッパーロール5a入側での熱延鋼帯2の先端部形状を観察した。
【0051】
表1に結果を示す。表1において、判定の○は折れ曲り高さが5mm以下、△は5〜10mm、×は10mm以上の場合を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
コイラー1を使用し、かつ本発明によるスロートガイド13の設置方法を用いたNo.1〜6の条件では、いずれの先端形状においても折れ曲り高さが5mm以下となり良好であった。
これに対し、従来の巻取り装置であるコイラー21を使用した場合、あるいはコイラー1を使用したものの本発明によるスロートガイドの設置方法とはしなかった場合には、折れ曲り高さが7mm〜20mmとばらつきが大きくなった。
【0054】
表1に示した実験結果から、図1に示したコイラー1の形態で、かつスロートガイドの設置方法として本発明の構成を採用することで、キンク発生を効果的に防止できることが確認できた。
【符号の説明】
【0055】
1 熱延鋼帯の巻取り装置
2 熱延鋼帯
3 マンドレル
5 ラッパーロール
5a 第1のラッパーロール
5b 第2のラッパーロール
5c 第3のラッパーロール
5d 第4のラッパーロール
7 通板ガイド
7a 第1の通板ガイド
7b 第2の通板ガイド
7c 第3の通板ガイド
7d 第4の通板ガイド
9 ピンチロール
9a 上ピンチロール
9b 下ピンチロール
11 エプロン
11a 上エプロン
11b 下エプロン
13 スロートガイド
14 共通接線
15 回転ローラ
17 補助ロール
21 熱延鋼帯の巻取り装置(従来例)
23 スロートガイド(従来例)
25 エプロン(従来例)
25a 上エプロン
25b 下エプロン
27 コイル
28a 第1の折れ曲り形状
28b 第2の折れ曲り形状
29 クレードルロール
31 スパイラル鋼管
33 熱延鋼帯のキンク部
35 継ぎ目部
37 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼帯をマンドレル方向に曲げるための上下一対のピンチロールと、前記マンドレルの周囲に配置された複数本のラッパーロールと、前記ピンチロールによってマンドレル方向に曲げられた熱延鋼帯の先端を前記ラッパーロールに向けて案内するスロートガイドを備えた熱延鋼帯の巻取り装置であって、
前記スロートガイドが水平方向となす角度をα、下ピンチロール表面とマンドレル表面との共通接線が水平方向となす角度をθとしたときに、0≦(α−θ)≦5°になるように前記スロートガイドが配置されると共に、前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを熱延鋼帯の板厚の2倍以下に調整可能に構成されていることを特徴とする熱延鋼帯の巻取り装置。
【請求項2】
前記スロートガイドが前記熱延鋼帯に接触してガイドする回転ローラを備えていることを特徴とする請求項1記載の熱延鋼帯の巻取り装置。
【請求項3】
前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを保持するように前記スロートガイドを固定する固定手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の熱延鋼帯の巻取り装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の熱延鋼帯の巻取り装置を用いた熱延鋼帯の巻取り方法であって、
前記スロートガイドと前記共通接線とのギャップを熱延鋼帯の板厚1.5倍〜2倍に設定して前記熱延鋼帯の巻取りを行うことを特徴とする熱延鋼帯の巻取り方法。
【請求項5】
請求項3に記載の熱延鋼帯の巻取り装置を用いた熱延鋼帯の巻取り方法であって、
少なくとも熱延鋼帯の先端が前記スロートガイドの最も近くに設置された第1のラッパーロールとマンドレルとの間を通過し、前記第1のラッパーロールの隣に配置された第2のラッパーロールとマンドレルとの間を通過するまで、前記請求項3に記載の固定手段によって前記スロートガイドの位置を固定することを特徴とする熱延鋼帯の巻取り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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