説明

熱延鋼帯冷却設備

【課題】排水性能を向上させると共に、均一で安定した冷却効果を実現する。
【解決手段】搬送方向に離れた一対の位置から鋼帯1の所定位置(シャワー中心)に集中するように冷却水を噴射すると共に、その噴射方向を鋼帯1の幅方向に傾斜させ、シャワー中心を幅方向両側から挟むようにスプラッシュガード5を設ける。スプラッシュガード5の側壁6は、冷却水のスプラッシュ領域を覆うように形成し、側壁6の下部には勾配を有する底面7を形成し、その最下位に排水口8を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼帯冷却設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延された鋼帯を冷却する方法として、鋼帯の上面に冷却水を散布するパイプラミナ方式がある(特許文献1参照)。ところが、これは冷却水の勢いが弱いため、鋼帯の表面で膜沸騰状態となり、均一で安定した冷却効果を得られない可能性があるので、鋼帯に対して冷却水を噴射することが考えられる。
【特許文献1】特開平9−141322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、冷却水は鋼帯を搬送するローラ同士の隙間から排水されるが、上記のように大量の冷却水を噴射すると、ローラ同士の隙間からは十分な排水ができないので、冷却水が滞留し、均一で安定した冷却効果が得られない可能性がある。なお、ローラのピッチを広げ、排水性能を向上させることも考えられるが、鋼帯の先端を未拘束の状態で通過させるときに、これを円滑に行うためには、ローラのピッチを広げることは避けたい。
本発明の課題は、排水性能を向上させると共に、均一で安定した冷却効果を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1に係る熱延鋼帯冷却設備は、熱間圧延され搬送される鋼帯を冷却する熱延鋼帯冷却設備において、搬送方向に離れた一対の位置から前記鋼帯の所定位置に集中するように冷却水を噴射すると共に、当該噴射方向を前記鋼帯の幅方向に傾斜させた噴射手段と、前記鋼帯の所定位置を幅方向両側から挟むように並設され、当該鋼帯に噴射された前記冷却水を集めて排水する排水手段と、を備えることを特徴とする。
【0005】
また、本発明の請求項2に係る熱延鋼帯冷却設備は、前記排水手段は、前記鋼帯に噴射された前記冷却水のスプラッシュ領域を覆う側壁と、該側壁の下部に形成され勾配を有する底面と、該底面の最下位に形成された排水口と、を備えることを特徴とする。
本発明の請求項3に係る熱延鋼帯冷却設備は、前記排水手段は、流入してきた前記冷却水が跳ね返る位置に立設された障壁を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項4に係る熱延鋼帯冷却設備は、前記側壁を、上段及び下段に分割し、且つ上段に対して下段が上下方向に進退可能に構成することを特徴とする。
本発明の請求項5に係る熱延鋼帯冷却設備は、前記冷却水のスプラッシュ領域で前記鋼帯を搬送するローラの軸受を、保護板で遮蔽することを特徴とする。
本発明の請求項6に係る熱延鋼帯冷却設備は、前記冷却水のスプラッシュ領域で前記鋼帯を搬送するローラの軸受を、ダブルシール構造にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、搬送方向に離れた一対の位置から鋼帯の所定位置に集中するように冷却水を噴射することで、鋼帯の表面で膜沸騰状態となることを防ぎ、均一で安定した冷却効果を得ることができる。このとき、一対の位置から噴射された冷却水は、搬送方向の水勢を相殺し合うので、相互に水切りを行うことができると共に、その噴射方向を鋼帯の幅方向に傾斜させたことで、水流を幅方向へと向かわせることができる。そして、その所定位置を幅方向両側から挟むように排水手段を設けたことで、幅方向へと噴出する冷却水を効率的に集めて排水することができる。したがって、排水性能を向上させると共に、均一で安定した冷却効果を得ることができる。
【0008】
本発明の請求項2に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、鋼帯に噴射された冷却水のスプラッシュ領域を覆う側壁を形成することで、冷却水の周囲への飛散を防止することができ、この側壁の下部には勾配を有する底面を形成し、底面の最下位に排水口を形成したことで、側壁に向かって流入してきた冷却水を回収し確実に排水することができる。
本発明の請求項3に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、流入してきた冷却水が跳ね返る位置に障壁を設けたことで、冷却水の流出を確実に防止することができる。
【0009】
本発明の請求項4に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、側壁を上段及び下段に分割し、且つ上段に対して下段が上下方向に進退可能に構成することで、例えば鋼帯を搬送するローラやその軸受などのメンテナンスを容易に行うことができる。
本発明の請求項5に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、冷却水のスプラッシュ領域で鋼帯を搬送するローラの軸受を、保護板で遮蔽することで、軸受を冷却水のスプラッシュから保護し、長寿命化を図ることができる。
本発明の請求項6に係る熱延鋼帯冷却設備によれば、冷却水のスプラッシュ領域で鋼帯を搬送するローラの軸受を、ダブルシール構造にすることで、冷却水の内部への浸入を防ぎ、長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1及び図2は、冷却水噴射設備の概略構成である。熱間圧延された鋼帯1は、テーブルローラ2によって巻取り側へと搬送され、その途中で、図1に示すように、上下から噴射される冷却水によって両面が冷却される。
先ず、下面の冷却は、テーブルローラ2同士の間に配設された複数の下部ラミナーヘッダ3によって行われる。下部ラミナーヘッダ3は、例えばスプレーノズルで構成され、図2に示すように、下面の幅方向全域に渡って冷却水を吹き掛けるように、複数のノズルが列設されている。この冷却水は、自然落下し、図示しない下方の排水設備によって処理される。
【0011】
一方、上面の冷却は、図1に示すように、鋼帯1の上方に配設された一対の上部ラミナーヘッダ4によって行われる。上部ラミナーヘッダ4は、冷却水が直線状に吐出し鋼帯1の所定位置(シャワー中心)に集中するように、高圧ノズルで構成され、図1及び図2に示すように、多数の吐水線が形成される。
先ず、幅方向から見ると(図1)、一方の側の上部ラミナーヘッダ4において、複数列の吐水線があるが、全て同一方向の角度で噴射される。一方、搬送方向から見ると(図2)、垂直方向に対して左側に傾斜して噴射される列と、右側に傾斜して噴射される列とがあり、これらは交互に配列されている。
【0012】
図3は、鋼帯1の上面に噴射された冷却水の水勢を示す。すなわち、幅方向の中心を境にして、左側は左方向へと斜行し、右側は右方向へと斜行し、尚且つシャワー中心を境にして、左方向へと斜行する一群同士が対抗すると共に、右方向へと斜行する一群同士が対抗する。したがって、搬送方向の水勢は相殺され、幅方向の水勢が残るため、冷却水の流れはシャワー中心に沿って幅方向の両側へと向かう。
【0013】
図4〜図7は、鋼帯1の上面に噴射した冷却水を集めて排水するスプラッシュガード5の概略構成である。
スプラッシュガード5は、シャワー中心を幅方向両側から挟むように並設されており、テーブルローラ側が開口した箱型に形成されている。すなわち、冷却水のスプラッシュ領域を覆う『コの字』型の側壁6と、側壁6の下部に形成され勾配を有する底面7と、底面7の最下位に形成された排水口8と、で構成されている。
スプラッシュ領域は、上部ラミナーヘッダ4から噴射される冷却水の流量や流速、噴射角度、更に鋼帯1の搬送速度等に応じて決定される。
【0014】
側壁6は、図5に示すように、上段6a及び下段6bに分割されており、その上段6aを架台9に固定し、上段6aに対して下段6bが上下方向に進退可能に構成されている。
底面7は、図6に示すように、二つの区画からなり、各区画の略中央に向けて傾斜した勾配が形成されている。底面7におけるテーブルローラ側の縁部は、鋼帯1の搬送ラインと略同じ高さにある。
【0015】
排水口8は、図4に示すように、テーブルローラ2のドライブシャフト10との干渉を避けて配置され、図示しない下方の排水設備に接続されている。排水口8の断面積は、上部ラミナーヘッダ4から噴射される冷却水の流量に応じて決定される。
なお、テーブルローラ2を挟んで反対側のスプラッシュガード5では、排水口8の位置が上記の構成とは異なるが、これは、ドライブシャフト10の配置に応じて変化させたものである。
【0016】
図7に示すように、側壁6の内周で、シャワー中心の延長線上には、幅方向に流入してくる冷却水を搬送方向に分散して方向転換させるセンターガイド11が形成され、コーナには、センターガイド11によって方向転換された冷却水を更にテーブルローラ側に方向転換させるコーナガイド12が形成されている。さらに、側壁6の内周で、コーナガイド12からテーブルローラ側に向かう間には、底面から立ち上がる障壁13が形成されている。
【0017】
図8に示すように、スプラッシュガード5下方には、テーブルローラ2の軸受14が配設されており、この軸受14に対してスプラッシュガード5とテーブルローラ2との間から漏出した冷却水が浸入する可能性がある。そこで、軸受14を遮蔽する保護板15を、スプラッシュガード5の下部から垂設する。保護板15は、遮蔽面積を広げるために、テーブルローラ回転軸2aに跨るような形状となっており、勿論、僅かな隙間を設けて、非接触状態を維持している。さらに、軸受14において、シールのリップを二重に形成にしたり、シール自体を二重にしたりして、ダブルシール構造にする。
以上より、上部ラミナーヘッダ4が「噴射手段」に対応し、スプラッシュガード5が「排水手段」に対応している。
【0018】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
鋼帯1の表面で冷却水が膜沸騰状態となることを避けるためには、冷却水を高圧噴射する必要があるが、大量の冷却水を噴射すると、テーブルローラ2の隙間からは十分な排水ができず、冷却水が滞留してしまう可能性がある。
そこで、搬送方向に離れた一対の位置から鋼帯1の所定位置(シャワー中心)に集中するように冷却水を噴射すると共に、その噴射方向を鋼帯1の幅方向に傾斜させる。これにより、一対の位置から噴射された冷却水は、搬送方向の水勢を相殺し合うので、相互に水切りを行うことができ、且つ冷却水の流れをシャワー中心に沿って幅方向の両側へと向かわせることができる。
【0019】
その先に、つまりシャワー中心を幅方向両側から挟むようにスプラッシュガード5を設けたことで、幅方向へと噴出する冷却水を効率的に集めて排水することができる。したがって、排水性能を向上させると共に、均一で安定した冷却効果を得ることができる。
スプラッシュガード5の側壁6は、冷却水のスプラッシュ領域を覆うように形成されているので、冷却水の周囲への飛散を確実に防止することができる。また、側壁6の下部には勾配を有する底面7を形成し、その最下位に排水口8を形成したことで、側壁6に向かって流入してきた冷却水を回収し確実に排水することができる。
【0020】
このとき、冷却水の流れは、センターガイド11及びコーナガイド12によって方向転換されることで流速が低減されてから、障壁13によって塞き止められ、排水口8へスムーズに案内される。この障壁13によって、冷却水がテーブルローラ側に流出することを確実に防止することができる。
また、スプラッシュガード5の側壁6は、架台9に固定された上段6aに対して下段6bが上下方向に進退可能なので、例えば排水口8を所定位置で切り離し、この排水口8の上部や底面7と一体化された下段6を上昇させれば、テーブルローラ2や軸受14のメンテナンスを容易に行うことができる。なお、ここでは上段6aに対して下段6bを、上下方向に進退可能な構成としているが、幅方向に沿って前後に進退可能な構成とし、上段6aに対して下段6bを外方に引き出せば、上記と同様の効果を得ることができる。
【0021】
一方、スプラッシュ領域に配設されたテーブルローラ2の軸受14を、保護板15で遮蔽することで、軸受14を冷却水から保護し、長寿命化を図ることができる。さらに、この軸受14を、ダブルシール構造にすることで、冷却水の内部への浸入を防ぎ、長寿命化を図ることができる。
なお、上記の一実施形態では、側壁6を平面で構成しているが、これに限定されるものではなく、冷却水のスプラッシュ領域を覆うことができればよいので、曲面で構成してもよい。
また、上記の一実施形態では、一つのスプラッシュガード5に二つの排水口8を設けているが、所望の排水性能が確保できれば、一つだけでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】幅方向から見た冷却水噴射設備である。
【図2】搬送方向から見た冷却水噴射設備である。
【図3】冷却水の水勢を示す。
【図4】スプラッシュガードの平面図である。
【図5】スプラッシュガードの側面図である。
【図6】スプラッシュガードの斜視図である。
【図7】冷却水の流れを示す。
【図8】テーブルローラの軸受である。
【符号の説明】
【0023】
1 鋼帯
2 テーブルローラ
3 下部ラミナーヘッダ
4 上部ラミナーヘッダ
5 スプラッシュガード
6 側壁
7 底面
8 排水口
9 架台
10 ドライブシャフト
11 センターガイド
12 コーナガイド
13 障壁
14 軸受
15 保護板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延され搬送される鋼帯を冷却する熱延鋼帯冷却設備において、
搬送方向に離れた一対の位置から前記鋼帯の所定位置に集中するように冷却水を噴射すると共に、当該噴射方向を前記鋼帯の幅方向に傾斜させた噴射手段と、前記鋼帯の所定位置を幅方向両側から挟むように並設され、当該鋼帯に噴射された前記冷却水を集めて排水する排水手段と、を備えることを特徴とする熱延鋼帯冷却設備。
【請求項2】
前記排水手段は、前記鋼帯に噴射された前記冷却水のスプラッシュ領域を覆う側壁と、該側壁の下部に形成され勾配を有する底面と、該底面の最下位に形成された排水口と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼帯冷却設備。
【請求項3】
前記排水手段は、流入してきた前記冷却水が跳ね返る位置に立設された障壁を備えることを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼帯冷却設備。
【請求項4】
前記側壁を、上段及び下段に分割し、且つ上段に対して下段が上下方向に進退可能に構成することを特徴とする請求項2又は3に記載の熱延鋼帯冷却設備。
【請求項5】
前記冷却水のスプラッシュ領域で前記鋼帯を搬送するローラの軸受を、保護板で遮蔽することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の熱延鋼帯冷却設備。
【請求項6】
前記冷却水のスプラッシュ領域で前記鋼帯を搬送するローラの軸受を、ダブルシール構造にすることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の熱延鋼帯冷却設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−221298(P2008−221298A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65128(P2007−65128)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200334)JFEメカニカル株式会社 (48)
【Fターム(参考)】