説明

熱式流量センサ

【課題】安定した起動特性とセンサ素子の劣化抑制を実現し、ヒータの更なる小型化にも対応し得るヒータ温度制御手段を有する熱式流量センサを提供する。
【解決手段】半導体基板と、半導体基板に設けた空洞部と、半導体基板上に空洞部を覆う様に設けた絶縁膜と、絶縁膜が空洞部を覆うことにより形成される薄膜領域と、絶縁膜上の薄膜領域に設けた発熱抵抗体と、絶縁膜上の薄膜領域上に設け、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第1感温抵抗体と、第1感温抵抗体の温度に基づいて発熱抵抗体の温度を制御する発熱制御手段と、発熱抵抗体の近傍に設置し、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第2感温抵抗体と、第2感温抵抗体の温度に基づいて流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、発熱制御手段は、第1感温抵抗体の目標温度となる第1指標温度と第1感温抵抗体の退避温度となる第2指標温度とに基づいて発熱抵抗体の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱抵抗体を発熱させて前記発熱抵抗体の周囲を流れる流体の流量を計測する熱式流量センサに係り、特に、発熱抵抗体の発熱量を制御するための発熱制御手段を有する熱式流量センサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの内燃機関の吸入空気量を検出する空気流量センサとして、質量流量を直接測定できる熱式の空気流量センサが主流になっている。
【0003】
近年では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いてシリコン(Si)などの半導体基板上に熱式流量センサのセンサ素子を製造する熱式流量センサが提案されており、この様な半導体タイプのセンサ素子は、半導体基板の一部を矩形状に除去した空洞部を形成し、この空洞部に形成した数ミクロン厚の電気絶縁膜上に発熱抵抗体(以下、「ヒータ」と称す。)を形成している。
【0004】
この様なセンサ素子では、ヒータ近傍に感温抵抗体(以下、「検出抵抗」と称す。)を形成し、ヒータ上を移動する流体から検出抵抗への伝熱量をもとに流量を検出する方法が主流となっている。従って、ヒータは周囲温度に対し常に一定の温度差である必要がある。ヒータ温度の制御方法として、ヒータ近傍にヒータ温度監視用の感温抵抗体(以下、「傍熱抵抗」と称す。)を形成し、傍熱抵抗の抵抗値が所望値となる様にヒータ駆動電力を帰還制御する傍熱制御方式が知られている。
【0005】
上述のヒータ,検出抵抗、及び傍熱抵抗の大きさは数十〜数百ミクロンと微細であり、数ミクロンの薄膜状に形成されることから熱容量が小さく高速応答が可能である。そのため、帰還制御の応答遅延やヒータと傍熱抵抗間の伝熱遅延によって、起動時のヒータ温度が好適に制御できなくなる場合がある。本課題を解決する従来技術として特許文献1に記載の技術がある。
【0006】
特許文献1に記載の熱式流量センサは、傍熱抵抗の温度に応じて変化する電圧信号を、比較器を介してアップダウンカウンタに入力する。該アップダウンカウンタの出力は、デジタル・アナログ変換器(以下、DA変換器)ならびにヒータ駆動用のトランジスタを介して電力に変換され、ヒータに供給される。さらに、電源投入時には該アップダウンカウンタの初期値を基準値(好ましくは、該DA変換器の出力最大指示値)に設定し、且つ、該アップダウンカウンタをより高速なクロック信号にて動作することにより、ヒータの発熱量を素早く制御できる様に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−097925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術ではヒータや傍熱抵抗の熱容量のばらつきが起動特性に大きく影響を与えてしまう。例えば、半導体タイプのセンサ素子では、ヒータや傍熱抵抗の熱容量にばらつきが生じる。起動時に所定の駆動電力をヒータに印加した場合の熱的応答は熱容量に応じて異なるため、過渡にばらつきが生じ、例えば、過渡の増大により起動時間の長化を招く可能性がある。加えて、温度過渡の増大はセンサ素子の劣化を促進させる可能性がある。従来技術では、これらの点に関して十分な配慮がなされていなかった。
【0009】
これらの課題に対しては、演算処理の速度、即ち、クロック周期を調整する対応が考えられるが、調整工程の増加はコストアップを招いてしまう。また、ヒータや傍熱抵抗を大化することで熱容量のばらつきを抑制する対応が考えられるが、消費電力を増大させてしまう。
【0010】
本発明は、上記諸課題を鑑みて考案されたものであり、安定した起動特性とセンサ素子の劣化抑制を実現し、センサ素子の更なる小型化にも対応し得るヒータ温度制御手段を有する熱式流量センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の熱式流量センサは、半導体基板と、前記半導体基板に設けた空洞部と、前記半導体基板上に前記空洞部を覆う様に設けた絶縁膜と、前記絶縁膜が前記空洞部を覆うことにより形成される薄膜領域と、前記絶縁膜上の前記薄膜領域に設けた発熱抵抗体と、前記絶縁膜上の前記薄膜領域上に設け、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第1感温抵抗体と、前記第1感温抵抗体の温度に基づいて前記発熱抵抗体の温度を制御する発熱制御手段と、前記発熱抵抗体の近傍に設置し、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第2感温抵抗体と、前記第2感温抵抗体の温度に基づいて流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、前記発熱制御手段は、前記第1感温抵抗体の目標温度となる第1指標温度と前記第1感温抵抗体の退避温度となる第2指標温度とに基づいて前記発熱抵抗体の温度を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定した起動特性とセンサ素子の劣化抑制を実現し、センサ素子の更なる小型化にも対応し得るヒータ温度制御手段を有する熱式流量センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例におけるセンサ素子の略式断面構造。
【図2】第1実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図3】第2実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図4】第3実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図5】第4実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図6】第5実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図7】第6実施例における熱式流量センサの回路構成。
【図8】起動時における傍熱抵抗の温度変化。
【図9】起動時における中点電位V1の変化。
【図10】起動時におけるヒータに印加する駆動電流の変化。
【図11】傍熱抵抗の経時劣化量の環境温度依存性。
【図12】熱容量ばらつきによる起動時特性のばらつき。
【図13】DSPの演算処理内容例のブロック図表記。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明における第1実施例について、図1,図2を参照しながら説明する。
【0016】
尚、図1は第1実施例におけるセンサ素子の略式断面構造を示す。また、図2は第1実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0017】
第1実施例における熱式流量センサの構成について説明する。
【0018】
第1実施例における熱式流量センサは、センサ素子(100)及び処理回路(200)により構成される。
【0019】
センサ素子(100)は、ケイ素(Si)やセラミック等の熱伝導率の良い材料で構成する半導体基板(1)の一面(3)上に酸化物等を堆積することにより電気絶縁膜(4)を形成し、半導体基板(1)の他面方向からエッチングすることにより空洞部(2)を設け、さらに、空洞部(2)上の薄膜領域(5)上に、ヒータ(6)と傍熱抵抗(7)及び検出抵抗(9a)〜(9d)を、例えば、多結晶ケイ素(Si)や白金(Pt),モリブデン(Mo)等の抵抗温度係数(以下、「TCR」と称す。)の高い抵抗材料で形成し、さらに、薄膜領域(5)以外の電気絶縁膜(4)上に、固定抵抗(101)〜(103)を形成することにより構成する。尚、簡単化のため、固定抵抗(101)〜(103)の抵抗値は全て等しいものとして扱うが、それぞれ異なる値を適用しても良い。
【0020】
処理回路(200)は、ヒータ(6)の発熱量制御を行う発熱制御回路(8)及びヒータ(6)上を移動する流体の流量を検出する流量検出回路(10)により構成する。
【0021】
発熱制御回路(8)は、傍熱抵抗(7)の温度を目標温度となる第1指標温度に近づける様に制御する第1温度制御回路(11)と、第1指標温度よりも高く、且つ、傍熱抵抗(7)の退避温度となる第2指標温度以下に保持する様に制御する第2温度制御回路(12)により構成する。
【0022】
第1温度制御回路(11)は、比較器(21)と、デジタル演算処理回路(以下、DSP)(22)と、DA変換器(201)と、トランジスタ素子(202)により構成される。
【0023】
第2温度制御回路(12)は、比較器(14)と、スイッチング素子(16)により構成される。
【0024】
また、センサ素子(100)には電極(301)〜(305)を設け、処理回路(200)と電気的に接続する。センサ素子(100)において、ヒータ(6)は電極(301)および基準電位点に接続する。また傍熱抵抗(7)及び固定抵抗(101)〜(103)によりブリッジ回路を構成し、傍熱抵抗(7)と固定抵抗(101)の中点電位(V1)を電極(302)に接続し、固定抵抗(102)と固定抵抗(103)の中点電位(V2)を電極(303)に接続する。また、検出抵抗(9a)〜(9d)によりブリッジ回路を構成し、検出抵抗(9a)と検出抵抗(9b)の中点電位を電極(304)に接続し、検出抵抗(9c)と検出抵抗(9d)の中点電位を電極(305)に接続する。尚、流量検出回路(10)は、電極(304)及び(305)から出力された信号に基づいて流量を求める。
【0025】
次に、第1実施例における熱式流量センサの動作について説明する。
【0026】
尚、以降では熱式流量センサが起動処理を終える、即ちヒータ(6)の温度が収束した状態で、流量検出を行っている状態を「安定状態」と呼称する。また、起動処理中、即ち制御系が過渡にある状態を「過渡状態」と呼称する。
【0027】
安定状態においては、DA変換器(201)の出力によりトランジスタ素子(202)はオン状態のため、駆動電流(Ih)がスイッチング素子(16)及び電極(301)を介してセンサ素子(100)に入力される。ヒータ(6)は駆動電流(Ih)によってジュール熱を生じ、電気絶縁膜(4)及び流体を介して傍熱抵抗(7)に伝わる。傍熱抵抗(7)は温度が上昇するため抵抗値が増大し、中点電位(V1)における電位は降下する。尚、固定抵抗(101)〜(103)は薄膜領域(2)にないため、伝わった熱は半導体基板(1)に吸収されてしまい温度は変化しない。そのため、中点電位(V2)は不変である。
【0028】
次に、中点電位(V1)及び(V2)は、電極(302)および電極(303)を介して比較器(21)に入力される。比較器(21)は、中点電位(V1)及び(V2)を比較し、比較結果をDSP(22)に入力する。DSP(22)は、中点電位(V1)及び(V2)が等しくなる様な駆動電力指示値を算出し、後段のDA変換器(201)に出力する。そして、DA変換器(201)に入力された駆動電力指示値に応じてトランジスタ素子(202)のベース電圧が変化し、駆動電流(Ih)が変化する。以上の帰還制御により、ヒータ(6)の温度は常に一定に保たれる。
【0029】
次に、過渡状態の動作内容を図8〜図11を参照しながら説明する。図8は起動時における傍熱抵抗(7)の温度変化を示す。また、図9は起動時における中点電位(V1)の変化を示す。また、図10は起動時におけるヒータ(6)に印加する駆動電流の変化を示す。
【0030】
尚、図8〜図10には、第2温度制御回路がない場合の特性も示す。
【0031】
起動の瞬間においては、ヒータ(6),傍熱抵抗(7)及び検出抵抗(9a)〜(9d)は同じ温度なので、中点電位(V1)は(V2)より高い電位となっている。起動した瞬間においては、DSP(22)の出力は初期値または不定値のため、トランジスタ素子(202)から供給される駆動電流(Ih)は適当な大きさとなる。半導体タイプのヒータ(6)の熱容量は微小のため、如何なる電流値であってもヒータ(6)は発熱を始める。ヒータ(6)の熱を受けた傍熱抵抗(7)は抵抗値が上昇し、中点電位(V1)は降下する。
【0032】
次に、ある程度の時間が経過した時点で傍熱抵抗(7)の温度は第1指標温度を超え、第2指標温度に近づく。同時に、中点電位(V1)は中点電位(V2)よりも低電位となり、第2指標温度に相当する電位(V1′)に到達する。この状態における第2温度制御回路(12)の動作を説明する。
【0033】
第2温度制御回路(12)において、比較器(14)は(V1)と(V2)との電位差から(V1′)に到達したことを検出し、比較器(14)の出力を反転して警告信号を出力する。警告信号を受けたスイッチング素子(16)は、トランジスタ素子(202)とヒータ(6)との接続を断絶する。この状態において、ヒータ(6)に電流は流れないため発熱量は減少する。同時に、傍熱抵抗(7)の温度も低下するため、中点電位(V1)は(V2)方向に近づく。すると、比較器(14)は警告信号を解除し、スイッチング素子(16)は再び接続状態となり、傍熱抵抗(7)の温度は再上昇し、中点電位(V1)は(V1′)に再び近づいてゆく。
【0034】
以上の動作を第2温度制御回路(12)が繰返し実行する間に、DSP(22)は過渡状態を脱して適切な制御量を出力する。すると、スイッチング素子(16)を接続した状態においても、傍熱抵抗(7)の温度は第2指標温度に近づかなくなり、この後、第1温度制御回路(11)の機能により、第1指標温度に静定する。この後、流量検出回路(10)は、電極(304)及び(305)の電圧信号に基づいて正確な流量を検出する。
【0035】
ここで、熱容量ばらつきによる起動特性への影響を図11を参照しながら説明する。
【0036】
第2温度制御回路(12)が無い場合には、起動時の温度上昇が抑制されることはなく、曲線的な温度変化を経て目標温度に収束する。しかし、熱容量のばらつきは過渡のばらつき要因となるため、静定までに必要な時間にも所定のばらつきΔt′が生じる。
【0037】
一方、第2温度制御回路(12)がある場合には、起動時の温度上昇を所定温度でクランプするため、目標温度に収束するまでの時間が短くなる。さらに、温度を直接クランプするために、熱容量のばらつきがクランプ温度に影響することはない。従って、熱容量ばらつきの影響による起動時間のばらつきはΔt′に対して小さいΔtとなる。
【0038】
次に、第1実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0039】
第1の利点は、第2温度制御回路(12)を導入することにより、製造誤差等による熱容量のばらつきが、起動時特性に及ぼす影響を低減することができるため、安定した起動特性を得ることができる点である。この結果、個体毎の調整工程を設ける必要はなく、また、ヒータ(6)を大化しなくても均一な起動特性を確保することができる様になる。
【0040】
第2の利点は、第2温度制御回路(12)を導入することにより、起動時のヒータ(6)の温度のオーバーシュート量を抑制することができるため、起動時間が短縮可能である点である。この結果、ヒータ(6)の温度はより素早く静定するため、流量検出を開始するまでの待機時間を短縮することができる。または、自己診断等に充てられる時間をより確保することができる。
【0041】
第3の利点は、第2温度制御回路(12)を導入することにより、傍熱抵抗(7)の温度が第2指標温度よりも高温になることを予防することができるため、傍熱抵抗(7)の熱による劣化を抑制することができる点である。図12には傍熱抵抗(7)の経時劣化の環境温度依存性を示す。温度を抑制すれば、劣化が抑制できることを示している。この結果、ヒータ(6)の温度を長期に渡って制御することができ、検出精度を長期に渡って維持できる様になる。
【0042】
第4の利点は、第2温度制御回路(12)を導入することにより、第1温度制御回路(11)が故障した場合のフェールセーフ回路として、ヒータ(6)の熱暴走を防止できる点である。これにより、安全にフェールセーフモードに移行することが可能となる。
【0043】
尚、本実施例においては、スイッチング素子(16)をトランジスタ素子(202)及びヒータ(6)間の通電経路上に配置したが、DA変換器(201)及びトランジスタ素子(202)間に配置しても同様の効果が得られる。また、必ずしも比較器(14)を設ける必要はなく、比較器(21)の代わりにアナログ・デジタル変換器(以下、AD変換器)を設け、AD変換器の出力に基づいてスイッチング素子(16)を動作しても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0044】
本発明における第2実施例について、図3を参照しながら説明する。尚、図3は、第2実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0045】
第2実施例における熱式流量センサは、第1実施例におけるスイッチング素子(16)の代わりにクランプ素子(17)を設けることにより構成する。
【0046】
第2実施例において、安定状態における動作は第1実施例における動作内容と相違ない。過渡状態における動作内容には一部相違がある。具体的には、比較器(14)が警告信号を出力した時のクランプ素子(17)の動作は、ヒータ(6)とトランジスタ素子(202)との接続を絶ち、且つ、所定電位にヒータ(6)をクランプする。これにより、ヒータ(6)には一定の電圧が印加される。この時、ヒータ(6)をクランプする電位は、アース電位またはこれに準ずる電位であることが望ましい。
【0047】
次に、第2実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0048】
第2実施例により得られる利点は、第1実施例の利点に加えて、クランプ素子(17)が動作した時のヒータ端電圧を確実に低減し得る点である。これにより、ヒータ(6)の温度をより確実に降下させることができる様になる。
【0049】
尚、本実施例においては、クランプ素子(17)をトランジスタ素子(202)及びヒータ(6)間の通電経路上に配置したが、DA変換器(201)及びトランジスタ素子(202)間に配置しても同様の効果が得られる。この場合のクランプ電圧は、トランジスタ素子(202)のエミッタ電位またはアース電位、またはこれらに準じた電圧であることが好ましい。また、クランプ素子(17)をDSP(22)及びDA変換器(201)の間に配置し、DSP(22)が出力するデジタル値を所定値にクランプする様な構成としても同様の効果が得られる。また、必ずしも比較器(14)を設ける必要はなく、比較器(21)の代わりにアナログ・デジタル変換器(以下、AD変換器)を設け、AD変換器の出力に基づいてクランプ素子(17)を動作しても同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0050】
本発明における第3実施例について、図4を参照しながら説明する。尚、図4は、第3実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0051】
第3実施例における熱式流量センサは、第1実施例におけるスイッチング素子(16)の代わりに2種の抵抗値を有する負荷抵抗(18a)及び(18b)と、いずれかの抵抗を選択してヒータ(6)に接続する抵抗切替スイッチ(19)とを設けることにより構成する。尚、本実施例においては、各負荷抵抗の抵抗値は(18a)<(18b)とする。
【0052】
第3実施例において、安定状態における動作は第1実施例における動作内容と相違ない。ただし、安定状態においてはヒータ(6)に接続される負荷抵抗は(18a)とする。過渡状態における動作内容には一部相違がある。具体的には、比較器(14)が警告信号を出力した時に、抵抗切替スイッチ(19)はヒータ(6)に接続する負荷抵抗を(18a)から(18b)に切換える。これにより、ヒータ(6)に流れる電流は低減される。
【0053】
次に、第3実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0054】
第3実施例により得られる利点は、第1実施例の利点に加えて、抵抗切替スイッチ(19)が動作した時の駆動電流(Ih)の変化を低減し得る点である。図1に示すセンサ素子の構成によれば、ヒータ(6)及び傍熱抵抗(7)、及び検出抵抗(9a)〜(9d)は薄膜領域(5)上に近接して設けられているため、クロストークが発生する可能性がある。本実施例によれば、センサ素子上のクロストークによるノイズを低減することができるため、優れた精度でヒータ(6)の温度制御ならびに検出抵抗(9)による流量検出を行うことができる。
【0055】
尚、本実施例においては、負荷抵抗(18a),(18b)及び抵抗切替スイッチ(19)をトランジスタ素子(202)及びヒータ(6)間の通電経路上に配置したが、DA変換器(201)及びトランジスタ素子(202)間に配置しても同様の効果が得られる。また、必ずしも比較器(14)を設ける必要はなく、比較器(21)の代わりにアナログ・デジタル変換器(以下、AD変換器)を設け、AD変換器の出力に基づいて抵抗切替スイッチ(19)を動作しても同様の効果が得られる。また、負荷抵抗(18)を可変抵抗体で構成し、抵抗切替スイッチ(19)によって可変抵抗体の抵抗値を変化させることによっても同様の効果が得られる。また、負荷抵抗(18)はヒータ(6)に対して並列接続としても同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0056】
本発明における第4実施例について、図5を参照しながら説明する。尚、図5は、第4実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0057】
第4実施例における熱式流量センサは、第1実施例におけるスイッチング素子(16)の代わりに、基準発振器(203)の出力を異なる分周比で分周する分周器(23a)及び(23b)と、分周期(23a)によって生成された第1クロック信号と、分周期(23b)によって生成された第1クロック信号よりも低速な第2クロック信号の何れかをDSP(22)の動作クロックとして選択するクロック切換スイッチ(24)とを設けることにより構成する。
【0058】
尚、第4実施例において、安定状態における動作は第1実施例における動作内容と相違ない。ただし、安定状態においてクロック切換スイッチ(24)は第2クロック信号を選択する。過渡状態における動作内容には一部相違がある。具体的には、比較器(14)が警告信号を出力した時に、クロック切換スイッチ(24)はDSP(22)の動作クロックを第2クロック信号から第1クロック信号に切換える。これにより、DSP(22)の動作速度が高速化され、素早く過渡状態を脱して安定状態に移行する。
【0059】
次に、第4実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0060】
第4実施例により得られる利点は、第1実施例の利点に加えて、ヒータ(6)の駆動電力を断絶若しくはクランプしないため、図10に示す様な不連続な電流変化は生じず平滑的なふるまいとなり、クロストークを確実に抑制できる点である。これにより優れた精度でヒータ(6)の温度制御ならびに検出抵抗(9)による流量検出を行うことができる。
【0061】
尚、本実施例の応用例として、基準発振器とは異なる周期のクロックを生成する第2の基準発振器を新たに設けても同様の効果を得られる。また、必ずしも比較器(14)を設ける必要はなく、比較器(21)の代わりにアナログ・デジタル変換器(以下、AD変換器)を設け、AD変換器の出力に基づいてクロック切換スイッチ(24)を切換えても同様の効果が得られる。また、分周器(23)の分周比率を可変とし、比較器(14)の出力に応じて分周比率を変更する構成としても同様の効果が得られる。
【実施例5】
【0062】
本発明における第5実施例について、図6を参照しながら説明する。尚、図6は、第5実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0063】
第5実施例における熱式流量センサは、第4実施例における分周器(23)の代わりに、記憶素子(204)と、記憶素子(204)に記憶された2つの異なる記憶値(204a)又は(204b)をDSP(22)の演算定数として選択する定数選択スイッチ(25)とを設けることにより構成する。尚、本実施例においては、記憶値(204a)及び(204b)は、「(204a)の絶対値<(204b)の絶対値」の関係にあるとする。
【0064】
また、DSP(22)の内部構成について図13を参照しながら説明する。尚、図13はDSP(22)の演算処理内容例のブロック図表記である。
【0065】
DSP(22)の内部は、例えば、比例ゲイン(401)と、積分ゲイン(402)と、積分器(403)と、比例ゲイン(401)の出力と積分器(403)の出力とを加算する加算器(404)により構成する。
【0066】
第5実施例において、安定状態における動作は第1実施例における動作内容と相違ない。ただし、安定状態において図6に示されように定数選択スイッチ(25)は記憶値(204a)を選択する。また、過渡状態における動作内容には一部相違がある。具体的には、比較器(14)が警告信号を出力した時に、定数選択スイッチ(25)はDSP(22)の入出力ゲインを変更するため、記憶値(204a)から記憶値(204b)に選択先を切換える。これにより、DSP(22)の比例ゲイン(401)及び積分ゲイン(402)に設定される値は変更され、DSP(22)の入出力ゲインが増加する。即ち、帰還ゲインが増加することによりヒータ制御系の応答性が向上するため、素早く過渡状態を脱して安定状態に移行する。
【0067】
次に、第5実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0068】
第5実施例により得られる利点は、第1実施例の利点に加えて、ヒータ(6)の駆動電力を断絶若しくはクランプしないため、図10に示す不連続な電流変化は生じず平滑的なふるまいとなり、クロストークを確実に抑制できる点である。これにより優れた精度でヒータ(6)の温度制御ならびに検出抵抗(9)による流量検出を行うことができる。さらに、ハードウェアとしては記憶素子(204)の追加のみで対応可能であるため、簡素な構成で上記利点を得ることができる。
【0069】
尚、本実施例の応用例として、比例ゲイン(401)及び積分ゲイン(402)とは別に調整用ゲインを設けても良い。具体的には、比較器(21)からの入力を増幅させてから各ゲインに入力する方法や、加算器(404)の後段にゲインを設ける方法がある。また、DA変換器(201)のゲイン、即ち、ダイナミックレンジを変更することによっても同様の効果が得られる。
【実施例6】
【0070】
本発明における第6実施例について、図7を参照しながら説明する。尚、図7は、第6実施例における熱式流量センサの回路構成を示す。
【0071】
第6実施例における熱式流量センサは、第5実施例における分周器(23)の代わりに、記憶素子(26)と、記憶素子(26)に記憶された2つの演算処理プログラム(26a)又は(26b)をDSP(22)の演算処理プログラムとして選択するプログラム選択スイッチ(27)とを設けることにより構成する。尚、本実施例においては、演算処理プログラム(26a)及び(26b)のプログラム容量は、「(26a)>(26b)」の関係にあるとする。
【0072】
第6実施例において、安定状態における動作は第1実施例における動作内容と相違ない。ただし、安定状態においてプログラム選択スイッチ(27)は演算処理プログラム(26a)を選択する。過渡状態における動作内容には一部相違がある。具体的には、比較器(14)が警告信号を出力した時に、プログラム選択スイッチ(27)は、DSP(22)の演算処理プログラムを、より短い演算処理プログラム(26b)に変更する。これにより、DSP(22)の演算周期は実質的に高速化されるため、ヒータ制御系の応答性が向上し、素早く過渡状態を脱して安定状態に移行する。
【0073】
次に、第6実施例における熱式流量センサにより得られる利点について説明する。
【0074】
第6実施例により得られる利点は、第1実施例の利点に加えて、ヒータ(6)の駆動電力を断絶若しくはクランプしないため、図10に示す様な不連続な電流変化は生じず平滑的なふるまいとなり、クロストークを確実に抑制できる点である。これにより優れた精度でヒータ(6)の温度制御ならびに検出抵抗(9)による流量検出を行うことができる。さらに、ハードウェアとしては記憶素子(26)の追加のみで対応可能であるため、簡素な構成で上記利点を得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体基板
2 空洞部
3 半導体基板の一面
4 電気絶縁膜
5 薄膜領域
6 ヒータ
7 傍熱抵抗
8 発熱制御回路
9 検出抵抗
10 流量検出回路
11 第1温度制御回路
12 第2温度制御回路
13 帰還制御回路
14,21 比較器
15 制限手段
16 スイッチング素子
17 クランプ素子
18 負荷抵抗体
19 抵抗切替スイッチ
20 高速化手段
22 DSP
23 分周器
24 クロック切換スイッチ
25 定数選択スイッチ
26,204 記憶素子
27 プログラム選択スイッチ
100 センサ素子
101〜103 固定抵抗
200 処理回路
201 DA変換器
202 トランジスタ素子
203 発振器
301〜305 電極
401 比例ゲイン
402 積分ゲイン
403 積分器
404 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に設けた空洞部と、
前記半導体基板上に前記空洞部を覆う様に設けた絶縁膜と、
前記絶縁膜が前記空洞部を覆うことにより形成される薄膜領域と、
前記絶縁膜上の前記薄膜領域に設けた発熱抵抗体と、
前記絶縁膜上の前記薄膜領域上に設け、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第1感温抵抗体と、
前記第1感温抵抗体の温度に基づいて前記発熱抵抗体の温度を制御する発熱制御手段と、
前記発熱抵抗体の近傍に設置し、且つ、温度に応じて抵抗値が変化する第2感温抵抗体と、
前記第2感温抵抗体の温度に基づいて流体の流量を検出する流量検出手段と、を有し、
前記発熱制御手段は、前記第1感温抵抗体の目標温度となる第1指標温度と前記第1感温抵抗体の退避温度となる第2指標温度とに基づいて前記発熱抵抗体の温度を制御することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の熱式流量センサにおいて、
前記第2指標温度は、前記第1指標温度よりも高い温度に設定されており、
前記発熱制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度を第1指標温度に近づける様に制御を行う第1温度制御手段と、前記第1感温抵抗体の温度を第2指標温度以下に保持する第2温度制御手段と、を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の熱式流量センサにおいて、
前記第1温度制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度に基づいた信号を入力とし前記発熱抵抗体に供給する電力或いは電力指示値を出力とする帰還制御手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項4】
請求項2に記載の熱式流量センサにおいて、
前記第2温度制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度に基づいた信号を入力とし前記第1感温抵抗体の温度が前記第2指標温度以上であるか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項5】
請求項2に記載の熱式流量センサにおいて、
前記第2温度制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度と前記第2指標温度との温度差に基づいて前記発熱抵抗体に供給する電力或いは電力指示値を制限する制限手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の熱式流量センサにおいて、
前記制限手段は、前記電力或いは前記電力指示値の伝達経路を断絶する断絶手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項7】
請求項5に記載の熱式流量センサにおいて、
前記制限手段は、前記電力或いは前記電力指示値を所定値に固定する固定手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項8】
請求項5に記載の熱式流量センサにおいて、
前記制限手段は、前記発熱抵抗体に電気的に接続可能な少なくとも2つ以上の抵抗値を有する負荷抵抗体と、前記発熱抵抗体に前記負荷抵抗体のいずれかの抵抗値を選択して電気的に接続する接続手段と、を有していることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項9】
請求項3に記載の熱式流量センサにおいて、
前記第2温度制御手段は前記第1感温抵抗体の温度と第2指標温度との温度差に基づいて、前記帰還制御手段の入出力応答を高速化する高速化手段を有することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項10】
請求項9に記載の熱式流量センサにおいて、
前記帰還制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度に基づいた信号をデジタル信号に変換するデジタル変換部と、第1クロック信号に基づいて演算処理を行うデジタル演算処理部とを有し、
前記高速化手段は、前記第1クロック信号とは異なる周期の第2クロック信号を生成する第2クロック生成部と、前記デジタル演算処理部を動作させるクロック信号を切換えるクロック切換手段とを有し、
前記クロック切換手段は、前記第1感温抵抗体の温度及び第2指標温度間の温度差に基づいて前記デジタル演算処理部の動作クロックを切換えることを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項11】
請求項9に記載の熱式流量センサにおいて、
前記帰還制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度に基づいた信号をデジタル信号に変換するデジタル変換部と、前記デジタル信号に基づいて演算処理を行うデジタル演算処理部とを有し、
前記高速化手段は、前記デジタル演算処理部の入出力ゲインを変更するゲイン変更手段を有し、且つ、前記第1感温抵抗体の温度と第2指標温度との温度差に基づいて、前記ゲイン変更手段は前記デジタル演算処理部の入出力ゲインを最大化することを特徴とする熱式流量センサ。
【請求項12】
請求項9に記載の熱式流量センサにおいて、
前記帰還制御手段は、前記第1感温抵抗体の温度に基づいた信号をデジタル信号に変換するデジタル変換部と、前記デジタル信号に基づいて演算処理を行うデジタル演算処理部と、少なくとも2つ以上の異なる処理プログラムを記憶する記憶手段とを有し、
前記高速化手段は、前記デジタル演算処理部の処理内容を選択するプログラム選択手段を有し、
前記プログラム選択手段は前記第1感温抵抗体の温度と第2指標温度との温度差に基づいて前記デジタル演算処理部の処理内容を変更することを特徴とする熱式流量センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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