説明

熱応答性液体組成物

【課題】本発明の課題は、親水性イオン液体と有機溶剤との混合物で低温下で溶解、高温下で相分離する性質を有する熱応答性液体組成物を提供することである。これを用いて難溶性物質を効率的に抽出することができるプロセスを提供する。
【解決手段】25℃における水100gへの溶解度が10g以上の親水性イオン液体(A)、好ましくは例えばイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンとテトラフルオロボレートイオンとの混合アニオンからなるイオン液体と、非共有電子対をもつ原子を分子内に少なくとも1つ有する有機溶剤(B)との混合物(C)であって、混合物(C)が下限臨界溶液温度を有することを特徴とする熱応答性液体組成物(X)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱応答性液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塩でありながら常温で液体であるイオン液体が各研究機関で盛んに研究されている。イオン液体は難溶性の物質を溶解する溶媒としても利用されており、例えばセルロース、キチン、キトサンなどの難溶性多糖類を溶解する溶剤として、イオン液体が優れているという報告(特許文献1)などがあり、これらの抽出溶媒としての応用が考えられている。このイオン液体に関してその混合物で下限臨界溶液温度を有する組み合わせがあることが報告されている。ここで、イオン液体と他の物質との混合物において、互いに相溶する状態から温度を上昇させ、互いに相溶しない状態へと変化する温度が存在する場合、その温度のことを下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature;以下、LCSTと記載する。)と呼ぶ。例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドとイオン液体の混合物(非特許文献1)などが挙げられる。
またイオン液体の場合、高分子ではなく、これまでに例がなかった低分子の液体とイオン液体の混合物で下限臨界溶液温度を持つという新たな現象が報告されている。これにより、光の透過を温度に応じて調節することができる液状透明材料や、ある物質からの有効成分を抽出し、温度変化だけで抽出液中から析出させ取り出したりすることで、廃溶剤発生量の少ない抽出プロセスを構築することが期待できる。このようなイオン液体とそれ以外の液体との混合物としては、水とリン系のイオン液体との混合物(非特許文献2)や、ベンゼンやトルエンやクロロホルムなどの疎水性有機溶剤と疎水性のイオン液体の混合物(非特許文献3)などが挙げられる。
【0003】
しかし難溶性物質の溶解性に優れた親水性のイオン液体と有機溶剤との混合物で下限臨界溶液温度(LCST)を示すようなものは未だ報告されていない。先述の従来技術である水とリン系のイオン液体の混合物は難溶性物質を溶解させることはできず、またベンゼンやトルエンやクロロホルムなどの有機溶剤とイオン液体で利用されているイオン液体は、下限臨界溶液温度以上での相分離状態が、上層、下層に分かれないほど分離状態が不十分である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−137677
【非特許文献1】Langmuir 23,988
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,1852
【非特許文献3】Chemical Communications 2006、445
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
親水性のイオン液体と有機溶剤が均一混合した状態と、両者が上層下層に分かれるレベルまで相分離した状態を温度によりコントロールできる熱応答性液体組成物を提供し、これを用いて難溶性物質を効率的に抽出することができるプロセスを提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、25℃における水100gへの溶解度が10g以上である親水性イオン液体(A)と非共有電子対をもつ原子を分子内に少なくとも1つ有する有機溶剤(B)との混合物(C)であって、混合物(C)が下限臨界溶液温度を有することを特徴とする熱応答性液体組成物(X);該熱応答性液体組成物を使用する難溶性多糖類の抽出方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱応答性液体組成物を用いれば、低温下で溶解、高温下で相分離する性質を有する熱応答性液体組成物を提供することができる。この組成物を用いて難溶性多糖類抽出プロセスに使用することで、難溶性多糖類を効率的に抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、親水性イオン液体(A)とは、25℃における水100gへの溶解度が10g以上であり、110℃以下で液体である塩をいうものとする。親水性イオン液体(A)は25℃において、水100gと無限量相溶する場合もある。
25℃における水100gへの溶解度が10g未満であると、有機溶剤(B)の非共有電子対への配位能が低すぎ、また温度を変化させても溶解性の変化はないか、わずかであるため、明確な温度応答性は発現してこない。また、難溶性多糖類を溶解することもできない。
【0010】
本発明のイオン液体(A)は25℃における水100gへの溶解度が10g以上である親水性イオン液体であれば、特に制限はなく、カチオン(a1)とアニオン(a2)からなり、カチオン(a1)としては、例えばアミジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピペリジンカチオン、モルホリンカチオン、ピペラジンカチオン、ピロールカチオンなどの第4級アンモニウムカチオン、ホスフォニウムカチオン、並びにスルホニウムカチオンなどが挙げられ、2種以上の混合物であってもよく、好ましくは、熱安定性の観点からアミジニウムカチオンであってもよい。
カチオン(a1)とアニオン(a2)からなるイオン液体(A)のカチオン(a1)のうち、特に好ましいのは一般式(1)で示されるイミダゾリウムカチオン(a11)である。
【0011】
【化1】

[R、Rは炭素数1〜4のアルキル基、R、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子で、かつR〜Rの全炭素数の合計が6以下である。]
【0012】
イミダゾリウムカチオン(a11)の具体例としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム、1,1−ジメチルイミダゾリウム、1,1,2−トリメチルイミダゾリウム、1,1,2,4−テトラメチルイミダゾリウム、1,1,2,5−テトラメチルイミダゾリウム、1,1,2,4,5−ペンタメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。
【0013】
これらの中でも、一般式(1)でのR〜Rで表されるアルキル基の炭素数が1〜4または水素原子であり、かつ、R〜Rの炭素数の合計が6以下であり、R、Rが水素であるイミダゾリウムカチオンが特に好ましい。このようなカチオン(a1)から形成されるイオン液体は十分な親水性を示すようになる。このようなカチオン(a1)の中でも、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが、アニオンと塩を形成させてイオン液体にした際に、低粘度、低融点の性質を示す点、またこれを用いたイオン液体の合成方法が確立されており、容易に入手できる点から最も好ましい。
【0014】
本発明におけるアニオン(a2)としては、25℃における水100gへの溶解度が10g以上である親水性イオン液体を構成するアニオンであれば、特に制限はなく、例えば下記に例示するような酸からプロトンを除いたアニオンである。アニオンは2種以上の混合物であってもよい。
【0015】
(1)無機強酸:
フッ酸、塩酸、硫酸、燐酸、HClO4、HBF4、HPF6、HAsF6、HSbF6、フルオロスルホン酸等;
(2)ニトリル基含有イミド:
HN(CN)2等;
(3)ニトリル含有メチド:
HC(CN)3等;
(4)チオシアン酸等;が挙げられる。
(5)カルボン酸
モノカルボン酸{C1〜8の脂肪族モノカルボン酸[飽和モノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸など)および不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸など)]および芳香族モノカルボン酸[安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸など]};
ポリカルボン酸(2〜4価のポリカルボン酸){脂肪族ポリカルボン酸[飽和ポリカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など);
不飽和ポリカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など)];
芳香族ポリカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリト酸など];
脂肪族オキシカルボン酸[グリコール酸、乳酸、酒石酸など];
芳香族オキシカルボン酸[サリチル酸、マンデル酸など];
S含有ポリカルボン酸[チオジプロピオン酸];および
その他のポリカルボン酸[シクロブテン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸、フラン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2−エン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2,5−ジエン−2,3−ジカルボン酸]など}
(6)リン酸エステル類
アルキル基の炭素数の合計が1〜8であるものが好ましく、モノメチルリン酸エステル、ジメチルリン酸エステル、モノエチルリン酸エステル、ジエチルリン酸エステル、ジブチルリン酸エステルなどが挙げられる。
これらのうちで好ましいものは、(1)無機強酸、(5)カルボン酸、(6)リン酸エステル類
などであり、この中でもHBFが温度応答性が鋭敏な点から好ましく、塩酸、酢酸、ギ酸、燐酸エステルなどが難溶性物質の溶解性の点から好ましく、塩酸、酢酸、ギ酸、アルキル基の炭素数の合計が1〜8であるモノ燐酸エステル、ジ燐酸エステルからなる群から選ばれる酸と、HBFの混合酸のアニオンが温度応答性が鋭敏な点と難溶性物質の溶解性の点から好ましい。これらのなかで、塩酸、酢酸、ギ酸、アルキル基の炭素数の合計が1〜8であるモノ燐酸エステル、ジ燐酸エステルからなる群から選ばれる酸と、HBFの混合酸のアニオンが特に好ましい。塩素イオン、酢酸アニオン、ギ酸アニオン、アルキル基の炭素数の合計が1〜8である燐酸エステルアニオンからなる群より選ばれるアニオンとテトラフルオロボレートイオンとの混合アニオンの重量比率は、10:90〜95:5が好ましい。
【0016】
本発明において、好ましいイオン液体としては、次のようなものを例示することができる。1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとギ酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとN(CN)2アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとC(CN)3アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとフタル酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムとN(CN)2アニオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムとC(CN)3アニオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムと酢酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムと塩化物イオンからなるイオン液体、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムとギ酸アニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとギ酸アニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとN(CN)2アニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとC(CN)3アニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンからなるイオン液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとフタル酸アニオンからなるイオン液体などが挙げられる。これらの中で最も好ましいものは、低粘度、低融点である点から1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、難溶性物質の溶解性の点から、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体である。
【0017】
本発明において、好ましいイオン液体として、これらの混合物でも良く、次のようなものを例示することができる。例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体の混合物、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンからなるイオン液体と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体の混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとギ酸アニオンからなるイオン液体と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体の混合物、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとジエチル燐酸エステルアニオンからなるイオン液体と1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体の混合物などが挙げられる。
【0018】
本発明において有機溶剤(B)はその分子内に非共有電子対をもつ原子を分子内に少なくとも1つ有しており、このような原子を有する原子団としては、ヒドロキシル基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基、カーボネート基等があげられ、有機溶剤(B)とはすなわちこれらの原子団を分子内に有する有機溶剤であり、例えばアルコール類、グリコール類、エーテル類、アルデヒド類、エステル類、カーボネート類などが挙げられる。これらのなかでもエーテル類が好ましく、ビス(2−メトキシエチル)エーテルは、分子内にエーテル基を2個有し、かつ低粘度であることから最も好ましい。またカーボネート基も非共有電子対をもつ酸素を3個有していることから好ましく、低粘度である点からジメチルカーボネートが好ましい。
【0019】
親水性イオン液体(A)と非共有電子対をもつ原子を分子内に少なくとも1つ有する有機溶剤(B)の重量比率は1:99〜80:20が好ましい。
本発明の熱応答性液体組成物(X)の好ましい具体例としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、ビス(2−メトキシエチル)エーテルが重量で1:1:1で混合した熱応答性液体組成物(X)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと酢酸アニオンからなるイオン液体、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、ビス(2−メトキシエチル)エーテルが重量で1:1:1で混合した熱応答性液体組成物(X)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンと塩化物イオンからなるイオン液体、1−エチル−2、3−ジメチルイミダゾリウムカチオンとテトラフルオロボレートアニオンからなるイオン液体、ジメチルカーボネートが重量で1:1:1で混合した熱応答性液体組成物(X)などが挙げられる。
また、塩素イオン、酢酸アニオン、ギ酸アニオン、アルキル基の炭素数の合計が1〜8である燐酸エステルアニオンからなる群より選ばれるアニオンとテトラフルオロボレートイオンとの混合アニオンと、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンからなる親水性イオン液体(A1)とビス(2−メトキシエチル)エーテル(B11)からなり、(A1):(B11)の重量比が1:99〜80:20である混合物が好ましい。
本発明の熱応答性液体組成物(X)を用いることにより、難溶性多糖類の抽出を効率よく行うことができる。
【0020】
すなわち、熱応答性液体組成物(X)は、室温近辺の低温ではイオン液体(A)と有機溶剤(B)が均一に混合した状態であり、この状態ではもともと難溶性多糖類の溶解性が低い有機溶剤(B)を含んでいるため熱応答性液体組成物(X)は難溶性多糖類溶解性は非常に低く、難溶性多糖類は溶解しない。これを100℃程度の高温にすることで、イオン液体(A)と有機溶剤(B)が相分離を起こし、難溶性多糖類溶解性が高いイオン液体(A)層に難溶性多糖類が溶解する。これを再度、室温に戻すことで、相分離状態が均一状態に戻り、難溶性多糖類の溶解度が急激に下がることで、難溶性多糖類が析出してくる。この性質を利用して、具体的には次のようなセルロースの抽出が行える。
【0021】
本発明の熱応答性液体組成物(X)に木材などの、セルロースを含有する材料をいれ、これを50〜100℃の高温に加熱して、1〜24時間攪拌を行い、抽出を行う。熱応答性液体組成物(X)とセルロースを含有する材料の重量比50:50〜100:1である。
高温状態ではイオン液体と有機溶剤が相分離しており、セルロースはイオン液体層に溶解している状態である。これを25〜60℃まで冷却することで、イオン液体は有機溶剤と再溶解し、セルロースの溶解度が急激に減少し、セルロースが析出してくるので、これを濾過、遠心分離などで回収する。このプロセスは原理上、廃棄物が無いため、非常にクリーンなプロセスである。
実施例
【0022】
実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、部は重量部とする。
【0023】
<製造例1>
<1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸アニオンからなるイオン液体の合成>
ガラス製オートクレーブに1−エチルイミダゾール(68部)(東京化成工業製)とメタノール(600部)(和光純薬製)を入れ、ジメチルカーボネート(64.5部)(宇部興産製)を25℃で30分かけて滴下した。さらに酢酸(600部)(和光純薬製)を25℃で30分かけて滴下した。30分攪拌後、減圧脱溶剤により、メタノールを除去することで1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸アニオンからなるイオン液体を得た。
<製造例2>
<1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸アニオンからなるイオン液体の合成>
ガラス製オートクレーブに1−ブチルイミダゾール(124.2部)(東京化成工業製)とメタノール(600部)(和光純薬製)を入れ、ジメチルカーボネート(64.5部)(宇部興産製)を25℃で30分かけて滴下した。さらに酢酸(600部)(和光純薬製)を25℃で30分かけて滴下した。30分攪拌後、減圧脱溶剤により、メタノールを除去することで1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸アニオンからなるイオン液体を得た。
【0024】
<実施例1>
25℃において水と任意の割合で溶解するイオン液体である1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(関東化学社製)2.0gと、製造例1で得た1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸イオンからなるイオン液体4.4gと、ビス(2-メトキシエチル)エーテル(和光純薬製)6.0gを20mlのスクリュー管に入れ、25℃で混合することで、両者が均一に混ざり合った熱応答性液体組成物(X−1)を得た。イオン液体の含有量は52重量%であった。この熱応答性液体組成物のLCSTは38℃であった。42度にすると、上層と下層に分離した。
【0025】
<実施例2>
25℃において水と任意の割合で溶解するイオン液体である1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(関東化学社製)2.0gと、製造例2で得た1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸イオンからなるイオン液体4.4gと、ビス(2-メトキシエチル)エーテル(和光純薬製)6.0gを20mlのスクリュー管に入れ、25℃で混合することで、両者が均一に混ざり合った熱応答性液体組成物(X−2)を得た。イオン液体の含有量は52重量%であった。この熱応答性液体組成物のLCSTは40℃であった。45度にすると、上層と下層に分離した。
【0026】
<比較例1>
疎水性イオン液体である1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムとビストリフルオロメチルスルホニルアミド(関東化学社製)(25℃における水100gへの溶解度が0.5g。このイオン液体が疎水性であるのは、アニオンが疎水性であるためである。)2gとクロロホルム(和光純薬製)18gをガラス製オートクレーブに入れ、25℃下で混合することで、両者が均一に混ざり合った熱応答性液体組成物(X’−1)を得た。イオン液体の含有量は10%であった。この熱応答性液体組成物の相分離温度は110℃であったが、白濁したのみで明確な相分離は確認できず、上層と下層のようには分かれなかった。
【0027】
実施例1で用いたイオン液体を利用して、木材からのセルロース抽出を行った。
<実施例3>
熱応答性液体組成物(X−1)40g中に、薄片状にカットした木片(杉材)1.0gを入れ、100℃×2hrの条件で加熱攪拌を行った。この状態では、LCST(38℃)以上であるため(X−1)は2層に分かれ、セルロースの溶解性に優れたイオン液体の層にセルロースが抽出されている。100℃のままろ紙でろ過し、木片を除去した。室温(25℃)まで冷却すると、白色のセルロースが析出してきた。この状態では、LCST(38℃)以下であるため(X−1)はイオン液体とビス(2-メトキシエチル)エーテルの相溶した混合溶液であるため、セルロースを溶解することができない。このため、セルロースが析出してくる。この液を遠心分離することにより、白色のセルロース0.1gを得た。
【0028】
実施例2で用いたイオン液体を利用して、カニの甲羅からのキチン抽出を行った。
<実施例4>
熱応答性液体組成物(X−2)40g中に、ミキサーで粉砕したカニの甲羅2.0gを入れ、100℃×2hrの条件で加熱攪拌を行った。この状態では、LCST(40℃)以上であるため(X−2)は2層に分かれ、キチンの溶解性に優れたイオン液体の層にキチンが抽出されている。100℃のままろ紙でろ過し、カニの甲羅の粉末を除去した。室温(25℃)まで冷却すると、白色のキチンが析出してきた。この状態では、LCST(40℃)以下であるため(X−2)はイオン液体とビス(2-メトキシエチル)エーテルの相溶した混合溶液であるため、キチンを溶解することができない。このため、キチンが析出してくる。この液を遠心分離することにより、白色のキチン0.3gを得た。
【0029】
<比較例2>
実施例2で、熱応答性液体組成物(X−1)の代わりに、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(関東化学社製)2.0gと、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムと酢酸イオンからなるイオン液体4.4gの混合物を用いて、実施例2と同様にして杉材からセルロースを抽出したところ、室温(25℃)まで冷却すると、イオン液体はゲル化しセルロースを分離することができなかった。
【0030】
<比較例3>
ガラス製オートクレーブ中に、比較例1の熱応答性液体組成物(X’−1)40g、薄片状にカットした木片(杉)1.0gを入れ、120℃×2hrの条件で加熱攪拌を行った。圧抜き後、60℃で木片をろ紙で除去した後、室温まで冷却したが、何も回収されなかった。
【0031】
<LCST、又は相分離温度の測定>
混合物の入ったスクリュー管にマグネティックスターラーピースを入れ、熱電対で温度を測定しながら、ホッティングスターラー(CORNING社製)により加熱、攪拌を行なった。攪拌を行いながら、濁りが発生した温度を相分離温度とした。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の熱応答性液体組成物は加熱、冷却により液状混合物の混合状態を任意にコントロールすることができる。極性、溶質の溶解性などを温度により制御できる。これにより、ある物質からの有効成分を抽出し、温度変化だけで抽出液中から析出させ取り出したりすることで、廃溶剤発生量の少ない抽出プロセスを構築することができる。また組成物の透過率、屈折率などの光学的物性、光の透過を温度に応じて調節することもできるため、調光透明材料などへの応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における水100gへの溶解度が10g以上である親水性イオン液体(A)と非共有電子対をもつ原子を分子内に少なくとも1つ有する有機溶剤(B)との混合物(C)であって、混合物(C)が下限臨界溶液温度を有することを特徴とする熱応答性液体組成物(X)。
【請求項2】
親水性イオン液体(A)がカチオン(a1)とアニオン(a2)からなる塩であって、カチオン(a1)が一般式(1)で示されるイミダゾリウムカチオンである請求項1に記載の熱応答性液体組成物(X)。
【化1】

[R、Rは炭素数1〜4のアルキル基、R、R、Rは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子で、かつR〜Rの全炭素数の合計が6以下である。]
【請求項3】
カチオン(a1)が1−エチル−3−メチルイミダゾリウムである請求項2に記載の熱応答性液体組成物。
【請求項4】
アニオン(a2)がテトラフルオロボレートイオンである請求項2又は3に記載の熱応答性液体組成物(X)。
【請求項5】
アニオン(a2)が、塩素イオン、酢酸アニオン、ギ酸アニオン、アルキル基の炭素数の合計が1〜8である燐酸エステルアニオンからなる群より選ばれるアニオンとテトラフルオロボレートイオンとの混合アニオンである請求項2又は3に記載の熱応答性液体組成物。
【請求項6】
有機溶剤(B)がエーテル結合を有する化合物(B1)である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱応答性液体組成物。
【請求項7】
有機溶剤(B)がビス(2−メトキシエチル)エーテル(B11)である請求項6に記載の熱応答性液体組成物。
【請求項8】
塩素イオン、酢酸アニオン、ギ酸アニオン、アルキル基の炭素数の合計が1〜8である燐酸エステルアニオンからなる群より選ばれるアニオンとテトラフルオロボレートイオンとの混合アニオンと、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンからなる親水性イオン液体(A1)とビス(2−メトキシエチル)エーテル(B11)からなり、(A1):(B11)の重量比が1:99〜80:20である混合物を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱応答性液体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱応答性液体組成物を使用する難溶性多糖類の抽出方法。


【公開番号】特開2009−178617(P2009−178617A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17225(P2008−17225)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】