説明

熱機械木材パルプ精製機を制御するためのシステム及び方法

熱機械パルプは、製紙業において使用される繊維物質を生産するための重要なプロセスである。精製プロセスを安定化し、最適化する2レベル制御戦略が開発されている。安定化レイヤは、精製機ラインの稼働を調整する多変量モデル予測範囲コントローラからなる。品質最適化レイヤで、オンラインパルプ品質(ろ水度、繊維長)センサにより測定されるようなパルプ品質制御を行う。この制御戦略では、プロセス内の自然な減結合を活用する。このモジュール式設計技術では、共通レイテンシーチェスト内に流入する複数の精製機ラインを取り扱うことができる。大域的オプティマイザは、制約条件の取り扱いを強化するために2つのレイヤを統合し協調させるためにも使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年4月27日に出願した米国仮特許出願第60/566,149号(Honeywell Ref.I2407025US)の優先権を主張するものである。[0002]本発明は、パルプ精製(pulp refining)及び製紙に関するものであり、特に製紙プロセスで使用されるパルプの生産及び品質を管理するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙用パルプを製造するプロセスは、原材料を、生産されるパルプが有する必要のある品質に応じて、含有するセルロースの量が多い又は少ないバラバラの繊維に分解することを含む。これらのプロセスは、本質的に粉砕工程からなり、基本的に化学的である、強力な又はあまり強力でない脱リグニン作業と組み合わせることができる。粉砕工程は基本的に機械的である。
【0003】
これら2つの処理の相対的重要度に応じて、以下の5つの主要な種類のパルプを区別することが可能である。
【0004】
(1)原料をあらかじめ化学処理しない、粉砕することによる機械パルプ
(2)リグニンを軟らかくするために原料をあらかじめ蒸気処理することにより利用しやすくされた、圧力下での粉砕により得られる、熱機械パルプ
(3)化学試薬による本来位置(in situ)又は離間位置(ex situ)での原料の予備処理と組み合わせて粉砕することにより得られる、機械化学パルプ
(4)圧力下で部分的化学「蒸解」(chemical cooking)をすでに受けている原料を粉砕することにより得られる、半化学パルプ
(5)化学処理がかなり強力であり、化学処理で脱リグニン及び繊維への分解の主要な部分を行う、化学パルプ。
【0005】
[0010]精製機械パルプ(refiner mechanical pulp:RMP)は、ディスク(disc)精製機で木材チップ(及びときにはおがくず)の機械的分解(mechanical reduction)により生産される。このプロセスは、通常、連続して稼働する2つの精製段階(refining stage)、つまり、二段階精製法を使用することを伴い、従来の粉砕された木材よりも長い繊維のパルプを生産する。その結果、石臼でひいた木材に比べて、強く、ろ水性が高く、かさばるが、幾分暗い色をしている。熱機械的パルプ化(thermo-mechanical pulping:TMP)は、RMPの最初の大きな修正であり、新聞印刷用紙及びボール紙用のハイティアパルプ(high-tear pulps)を生産するためにいぜんとして大規模に使用されている。このプロセスは、精製に先立って、また精製中に、圧力下で短時間のうちに原料を蒸気処理することを伴う。蒸気処理は、チップを軟らかくするために使用され、その結果、生成されるパルプは、RMPよりも長い繊維の割合が多く、破片が少ない。
【0006】
[0011]均一で、高品質なTMPパルプを生産することは、次第に重要なものとなってきている。製紙業者は、抄紙機の稼働を最適なものにすることを望んでおり、場合によっては、高価なクラフト完成紙料を置き換えることも望んでいる。高度なプロセス制御で、パルプ及び製紙業界において一般に認められているとはいえ、熱機械パルプ化プロセスは、ほとんどのパルプ工場においてまだ手動制御が行われている。手動制御に依存するのは、主に、精製プロセスの多くのセクションからの制御及び変数入力を必要とする相互作用の高いTMPプロセスの複雑さに由来する。それに加えて、TMPプロセスの制御は、ほとんどの場合にオンラインセンサを使用してブローラインコンシステンシー(blow-line consistency;吹き込み列一致性)が測定されないためなおいっそう複雑である。繊維長及びろ水度(freeness)などのパルプ品質記述変数も、まれに測定される。
【0007】
[0012]高品質熱機械パルプを生産するために、精製プロセスは、厳格な制御の下になければならない。TMP精製機システムの閉ループ制御は、パルプ工場において最も複雑で、最も難しい制御問題の1つである。このプロセスは、本質的に、多変量であり、強い相互作用を示す。それに加えて、プロセスの帯域幅は、広い周波数範囲に広がっている。例えば、一次モーター負荷に対する一次プレートギャップと最終パルプろ水度との間の開ループ応答は、それぞれ約2分、及び約90分である。精製プロセスは、更に、精製機プレートの磨耗のせいで非定常過程ダイナミクスにより複雑化する。
【0008】
[0013]過去には、単一ループPIDベースの非集中制御アーキテクチャを使用してTMPコントローラ設計が試みられた。非集中アーキテクチャの選択は、工場職員にとって理解しやすく、また既存の分散制御システム(distributed control system:DCS)を使用して簡単に実装できたため魅力的であった。比例−積分−微分(proportional-integral-derivative:PID)ベースの制御戦略は、流れ及び圧力調整などの局所制御ループの調整については条件を満たしているが、PIDコントローラは、複雑な多変量ダイナミクスを扱うことができない。それに加えて、PIDコントローラは、単一プロセス出力しか制御できない。しかし、パルプ品質を適切に制御するために、例えば、カナダ標準ろ水度(Canadian standard freeness:CSF)及び平均繊維長(mean-fiber length:MFL)などの少なくとも2つの変数が制御されなければならない。
【0009】
これらの変数は、物理的に連関しているため、任意のターゲットに対し独立に制御することができないが、代わりに、これらの変数は、オペレータによって定義された品質範囲内で制御されなければならない。この品質範囲は、パルプ品質変数に対し上限及び下限を設定することにより定義される。この制御の問題を扱うために、プロセス制約条件も扱うことができる多変量コントローラが必要である。制約付きモデルベースの予測制御(model based predictive control:MPC)は、プロセス工業における自然な候補である。MPCは、複雑なプロセス相互作用及び制約条件を効率よく扱うための統一フレームワークを提供する。MPC技術は、更に、産業界からも認められており、既存の工場DCSプラットフォーム内に容易に統合することができる。
【0010】
[0014]精製機システムの制御にMPCを使用することは、Du,H.著「Multivariable predictive control of a TMP plant」(Ph.D.dissertation,UBC,Vancouver,BC,Canada,1998)で取りあげられている。この研究は理論的レベルで提示されており、精製の強さを制御することが必要であることを実証した。しかし、パルプ品質を直接制御する試みはなされなかった。Strand、W.C.ら、IMPC 2001による他の研究では、MPCの使用について説明しているが、制御戦略の詳細については開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
[0015]本発明は、一部は、非集中制御アーキテクチャ及び戦略を拡張して集中コントローラ設計フレームワークに取り込めるという認識に基づく。しかし、この戦略は、単一のMPCコントローラを使用することにより集中フレームワークに直接拡張することはできない。プロセスダイナミックスは、広い周波数範囲に広がっているため、固定された周波数で実行される単一のMPCだと、高速及び低速の両方のダイナミクスを適切に制御することはできないであろう。この問題の程度を緩和するために、2レベル制御戦略が開発された。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[0016]本発明は、スループットを高め、エネルギー使用度を低減し、パルプ品質を改善するためにTMP精製ライン(refining line)全体を制御することができる2レベル制御戦略においてMPC技術を適用する。この制御戦略では、プロセスダイナミクスにおける自然な減結合を活用する。その結果、モデル予測範囲制御コントローラは、プロセスの高速及び低速ダイナミックスを独立に調整するように設計することができる。第1のレベルは、好ましくは精製機ライン(refiner line)モーター負荷及びブローラインコンシステンシーを調整する安定化コントローラである。第2のレベルは、パルプ品質変数に関連する低速ダイナミックスを好ましくは制御する品質コントローラである。品質コントローラは、プレートギャップを直接操作して最終パルプ品質を制御することができる。プレートギャップの直接操作により、内部比エネルギーループを実装する必要条件が除去される。
【0013】
しかし、それぞれの精製機上の比エネルギーループ(specific energy loop)は、本発明の性質に影響を及ぼすことなく含めることができる。この制御戦略では、設計者は、これら2つのレベルの実行周波数を独立に制御することができる。この精製機ラインを最大許容可能モーター負荷で稼働させることにより、与えられたパルプ品質範囲について生産が自動的に最大化される。このモジュール式のアプローチでは、更に、共通レイテンシーチェスト(latency chest:潜在箱)内に流入する複数の精製機ラインを取り扱うこともできる。安定化コントローラ及び品質コントローラを統合し、協調させるために、分散二次計画法に基づくオプティマイザも開発された。オプティマイザは、プロセスの大域的最適化を実行し、制御戦略の全体的な制約の条件取り扱いを改善する。
【0014】
[0017]一実施形態では、本発明は、熱機械パルプ(TMP)精製の集中制御をサポートするシステムを対象とし、これは、
TMP精製(refining)プロセスの高速ダイナミクス(dynamics:動力学)を扱うようにそれぞれ動作可能な1つ又は複数の安定化コントローラと、
TMP精製プロセスの低速ダイナミクスを扱うようにそれぞれ動作可能な1つ又は複数の品質コントローラと、
TMP精製プロセス全体を制御する1つ又は複数の安定化コントローラ及び品質コントローラを統合し、及び/又は協調させるように動作可能なオプティマイザとを備える。
【0015】
[0018]他の実施形態では、本発明は、熱機械パルプ(TMP)精製の集中制御をサポートする方法を対象とし、これは、
1つ又は複数の安定化コントローラを介してTMP精製プロセスの高速ダイナミクスを扱うことと、
1つ又は複数の品質コントローラを介してTMP精製プロセスの低速ダイナミクスを扱うことと、
オプティマイザを介してTMP精製プロセス全体を制御するため、1つ又は複数の安定化コントローラと品質コントローラを統合し、及び/又は協調させることとを含む。
【0016】
[0019]他の実施形態では、本発明は、熱機械パルプ(TMP)精製の集中制御をサポートするシステムを対象とし、これは、
1つ又は複数の安定化コントローラを介してTMP精製プロセスの高速ダイナミクスを扱う手段と、
1つ又は複数の品質コントローラを介してTMP精製プロセスの低速ダイナミクスを扱う手段と、
オプティマイザを介してTMP精製プロセス全体を制御するため、1つ又は複数の安定化コントローラと品質コントローラを統合し、及び/又は協調させる手段とを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[0023]本発明は、木材(又は他の繊維原料)を製紙で使用される繊維物質に分解する熱機械パルプ(TMP)プロセスを制御する技術を対象とする。TMPプロセスでは、レイテンシーチェンスト内に流入する単一精製機ラインを採用することができるか、又は共通レイテンシーチェスト内に流入する複数の並行精製機ラインを採用することができる。それぞれの精製機ラインは、少なくとも1つの精製機を含み、好ましくはそれぞれのラインは、2つ又はそれ以上の、直列に接続された精製機を含む。[0024]本発明は、TMPプロセス内の個々の精製機ラインのどれかを制御するために使用することができる。そのため、TMPプロセス「全体」(又はTMP精製プロセス「全体」)という用語は、精製機ラインにより包含されるプロセスを意味する。
【0018】
[0025]本発明は、TMPプロセスの単一の精製機ライン(2つの精製機がライン内にある)に関連して例示されているが、本発明は、それぞれの精製機ラインが少なくとも1つの精製機を備える少なくとも1つの精製機ラインを含む任意のTMPプロアセスに適用可能であると理解される。更に、複数の精製機ラインTMP内の精製機ラインがすべて同じ数の精製機を有することが好ましいが、それは必要ない。したがって、例えば、本発明は、それぞれの精製機ラインが異なる数の精製機を備える4つの並行精製機ラインからなるTMPプロセスに適用可能である。それぞれの精製機ラインは、本発明により制御することができる。
【0019】
[0026]TMP精製プロセス及び精製機装置は、当業で知られており、例えば、Danielssonらの米国特許第6,361,650号、Pietineらの第5,016,824号、Ojalaの第4,231,842号、Goheenらの第4,145,246号、Huusariの第4,421,595号、Handbook for Pulp & Paper Technologists 2nd ed., G.A.Smook, 1992, Angus Wilde Publications, Inc.、及びPulp and Paper Manufacture Vol III (Papermaking and Paperboard Making), R.MacDonald,ed. 1970, McGraw Hill、並びにDu,H.「Multivariable predictive control of a TMP plant」 Ph.D.dissertation, UBC, Vancouver, BC, Canada, 1998で説明されており、すべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
[0027]図1は、直列に構成された一次精製機(PR)44及び二次精製機(SR)46を備える精製機ラインを例示している。精製機は、好ましくはディスク精製機である。この精製機ラインは、例えば、共通レイテンシーチェスト内に流入する4つの並行ラインのうちの1つとすることができる。一次精製機44は、送りネジ12、ディスク13、14、及びモーター16を備える。プレートギャップ距離は、2つのディスク13、14の隔たりであり。水は、ライン38を介して精製機に供給される。同様に、二次精製機46は、送りネジ22、ディスク19、22、及びモーター24を備える。水は、ライン36を介して二次精製機に供給される。適当な精製機が市販されているが、好ましい精製機は、Sunds CD70である。プレートギャップの調整には市販の真性ディスククリアランスシステムを使用できる。
【0021】
[0028]原料、例えば、供給チップは、精製機ラインの予備蒸気発生器10に入る。予備蒸気発生器10は、好ましくは、ミル(mill;粉砕機)蒸気とリサイクルプロセス蒸気の両方を使用して、チップ温度を、典型的には180℃まで高められる。予備蒸気発生により、木材チップから取り込まれている空気を取り除き、リグニン軟化を誘起する。ネジの速度により、一次精製機44への容積供給速度が決定される。一次ブローライン34を介して一次精製機44に続いて、半精製パルプ及び蒸気を一次ブローラインから分離する圧力サイクロン18がある。サイクロン18からの蒸気は、大気中に排出されるか、又は蒸気回収システム内に回収される。
【0022】
[0029]次いで、サイクロン18から、半精製パルプが、二次精製機46内に送られ、更に繊維生成が行われる。二次ブローライン40を介した二次精製機46の出口に、レイテンシーチェスト26がある。レイテンシーチェスト26では、粉砕された繊維を熱湯で緩くし、レイテンシーを除去することができる。レイテンシーチェスト26の出口には、試料を回収し、CSF及びMFLなどのパルプ品質パラメータを決定する繊維品質モニタ(QM)がある。
【0023】
[0030]図1に示されているように、精製機ラインは、更に、精製機ラインにそって戦略的に配置された各種のコントローラ及びインジケータも備える。これらの計測器は、すべて市販のものであり、通常、既存のTMP工場内に存在する。真性ギャップコントローラ(ZC)は、油圧コントローラで置き換えられる。インラインブローラインコンシステンシーインジケータは、すべての工場に存在しているというわけではない。インラインセンサが存在しない場合、第1の原理(質量及びエネルギー収支)モデリング及び/又は経験による(多変量統計データ解析)モデリング技術に基づくソフトウェアセンサを使用して、ブローラインコンシステンシーを予測することができる。
【0024】
モデル予測コントローラ及び大域的オプティマイザ
[0031]本発明では、TMP精製プロセスを安定化し、最適化する2レベル制御戦略を実装する。本明細書で詳しく説明されるように、モデル予測コントローラ(MPC)を使用する安定化レイヤで、精製機ラインの動作を調整する。本発明は、好ましくは、参照により本明細書に組み込まれる、Honeywell International Inc.に譲渡された「Method Of Multivariable Predictive Control Utilizing Range Control」という表題のLuらの米国特許第5,351,184号で説明されているように、モデル予測範囲制御(MPRC)とも呼ばれる、範囲制御を使用するロバスト多変量予測コントローラを使用する。それに加えて、品質最適化レイヤで、オンラインパルプ品質(ろ水度、繊維長)センサにより測定されるようなパルプ品質制御を行う。この制御戦略では、プロセス内の自然な減結合を活用する。このモジュール式設計技術では、共通レイテンシーチェスト内に流入する複数の精製機ラインを取り扱うことができる。
【0025】
[0032]最後に、大域的オプティマイザは、制約条件の取り扱いを強化するために2つのレイヤを統合し協調させるために使用される。大域的オプティマイザは、好ましくは、「Systems And Methods Using Bridge Models To Globally Optimize A Process Facility」という表題のZhuxin J.Luの米国特許第6,055,483号及び「System And Methods For Globally Optimizing A Process Facility」という表題のZhuxin J.Lu の第6,122,555号で説明されている技術を使用して実装されるが、両方とも、Honeywell International Inc.に譲渡され、参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
プロセスモデリング及び解析
[0033]典型的なTMPプロセスは、多変量モデルを構築するのに役立つ非常に強い相互作用を示す。例えば、送りネジ速度が変化すると、一次精製機モーター負荷及びブローラインコンシステンシーが影響を受ける。送りネジ速度が増加した場合も、二次精製機の動作が影響を受ける。しかし、SR希釈及びSRプレートギャップの変化があっても、PR精製機の稼働性は影響を受けない。[0034]例示的なプロセスの操作変数(MV)及び制御変数(CV)は、表1にまとめられている。これから明らかなように、これらの変数は基本変数を代表しているが、他のTMPプロセス変数は、操作及び制御が可能である。
【0027】
表1
MVs CVs
ネジ速度 PRモーター負荷
PR希釈液流 PRブローラインコンシステンシー
PRプレートギャップ SRモーター負荷
SR希釈液流 SRブローラインコンシステンシー
SRプレートギャップ 最終パルプ品質(MFL、CSF、破片、繊維長分布)
化学薬品添加 PRブローラインパルプ品質 (MFL、CSF、破片、繊維長分布)
SRブローラインパルプ品質 (MFL、CSF、破片、繊維長分布)
PR比エネルギー
SR比エネルギー
蒸気流 比エネルギー合計(PR+SR)
PRとSRとの出力分割比。
【0028】
[0035]それぞれの精製機ラインが同じ精製機を備えることができるとしても、何らかの機械的な相違点がありうることに留意されたい。例えば、いくつかの精製機では平坦なゾーンに希釈液流れがあるが、他の精製機では、円すい状ゾーンに希釈液がある。これらの機械的な違いがあるため、プロセスモデルは、各種の精製機ライン同士で極めて異なりうる。
【0029】
[0036]精製プロセスをモデル化するのに、不感時間伝達関数の一次の項があれば十分であった。精製プロセスは、いくつかの極めて高速なプロセスダイナミックスといくつかの非常に低速なプロセスダイナミックスを持つ。例えば、一次プレートギャップとモーター負荷との間のモデルの時定数は、約2分であった。しかし、品質変数の応答は、比較するとかなり遅かった。一次プレートギャップとCSFとの間の時定数は、約90分であった。プロセスの開ループプロセス帯域幅のこのような大きな相違は、QMの配置によるものである。QMは、レイテンシーチェストの後に配置され、その結果、レイテンシーチェストのダイナミクスは、品質変数の応答に集中する。これは、センサの配置がプロセス応答にどのように著しい影響を及ぼしうるかを示す一実施例である。一次モーター負荷(曲線A)及びCSF(曲線B)の周波数応答は、図2に例示されている。利得は、比較が容易なように、1に正規化されている。
【0030】
[0037]識別結果及び周波数応答の差に基づき、プロセスは減結合され、2つの群に分割された。以下の入力及び出力の対を定義することができる。
【0031】
【数1】

【0032】
【数2】

[0038]これから明らかなように、入力/出力を対にすることは、上に示した実施例に制限されないが、プロセス構成により示されるように、表1に載っているようなMV及びCVの組合せとして存在しうる。[0039]上記の分離は、更に、強い物理的基礎も有する。パルプ品質は、最終的には、一次精製機の動作により決定されるため、一次精製機のプレートギャップを使用して、最終パルプ品質を調整することができる。[0040]プロセス変数のこのような分離は、2レベル制御戦略を開発する基礎となる。本発明の制御戦略の主要目的は、精製機モーター負荷の制御、ブローラインコンシステンシーの制御、木材チップ密度変動の低減、生産速度の最大化、及びパルプ品質の管理を行うことである。
【0033】
精製機ライン安定化
[0041]本発明の安定化コントローラの目的は、uを操作することによりyを制御することである。一般に、uが一定に保たれる場合、モーター負荷とブローラインコンシステンシーの著しい変動が観察される。これらの観察結果から、チップ供給において著しい質量流量の外乱があるにちがいないことが確認される。一定のネジ速度で、精製機ラインへの流量を一定にすることができる。しかし、精製機は、質量処理量に基づいて動作する。PRモーター負荷は、チップかさ密度の変化にほとんど瞬間的に応答する。その後、PRモーター負荷をチップかさ密度の変動の指標として使用することができる。チップかさ密度の変化は、更に、ブローラインコンシステンシーにも影響を及ぼしうる。したがって、PRモーター負荷及びPRブローラインコンシステンシーを制御するために、ネジ速度及びPR希釈液流を操作することが必要である。
【0034】
[0042]この制御戦略において、精製機ラインへの流量は変化を続けているが、質量流量は、PRモーター負荷及びブローラインコンシステンシーの厳格な制御を維持することにより一定に保たれる。モーター負荷を一定に維持した場合も、比エネルギー(モーター負荷/質量処理量)が安定し、またブローラインコンシステンシーを一定に維持した場合も、精製強度が安定する。比エネルギー及び精製強度の安定化は、高品質のTMPパルプを生産する上で必要である。SR精製機は、更に、ネジ速度及びPR希釈液流の影響も受ける。SRプレートギャップ及びSR希釈液流量は、SR精製機の動作を調整するために使用され、ネジ速度及びPR希釈液流は、外乱変数として使用される。繊維切断及びパッド潰れを防ぐために、モーター負荷とプレートギャップ(又は油圧)との間の利得の符号を検出するリアルタイムアルゴリズムも組み込むことができる。PR及びSR精製機を最大許容モーター負荷で動作させると、生産速度が自動的に最大化される。
=A
ただし、Aは、k番目の精製機ラインに対応する多変量動的モデル行列である。
【0035】
[0043]モデル予測範囲制御(MPRC)に基づく制御法則は、それぞれの精製機ラインを制御するために使用される。MPRCの式の中で、以下のコスト関数が最小化される。
【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

ただし、
Aは、動的モデル行列である
W、W、Wは、重み対角行列である
Sは、累計和行列である
は、総和行列である
及びyは、成形制約条件を指定するためのものである。
【0038】
[0050]y_hi及びy_loは、yの上限及び下限である
∇は、差分演算子である(つまり、∇u(t)=u(t)−u(t−1))
∇u_hi及び∇u_loは、MV速度制約の上限及び下限である
u_hi及びu_loは、MV絶対制約の上限及び下限である
Λは、移動ペナルティ行列である。
【0039】
[0055]MPRCの新しい構成要素は、制御漏斗の使用及び設計である。y_lo及びy_hiをCV毎に指定することにより、漏斗の形状が定義される。調整CVについては、漏斗のテールエンドは、設定点の値のところで1本の線に絞られる。制約CVについては、漏斗テールエンドは、CV上限及び下限に対し開く。いずれの場合も、漏斗開口部は、テールエンドよりも広く、何らかの動的相互作用が可能である。漏斗設計が適切であれば、移動ペナルティ項は、取り除くことができる。その結果、チューニングつまみの個数が減り、制御パフォーマンスが、CV毎に直接指定可能になる。
【0040】
[0056]管又は階段などの他の幾何学的形状は、制御の特別な必要条件がそれらを保証する場合に使用することができる。プロセス産業におけるほとんどの用途では、漏斗は、単純なチューニングパラメータ化をもたらすが、それでも、各種用途の要求条件について十分な多目的性を有する。基準軌跡y_refが好ましい場合、y_loとy_hiの両方をy_refに設定することができる。この場合、移動ペナルティ項∇uΛ∇uを加えて、システム安定性を確実にすることができ、MPRCの式は、MPCの古典的調整式に戻る。調整制御及び制約制御は両方とも、範囲制御に統一される。
【0041】
パルプ品質最適化
[0057]安定化コントローラは、PR及びSR精製機モーター負荷及びブローラインコンシステンシーを安定化させることにより精製機ラインの動作を改善することができる。そこで、品質コントローラの目的は、PRプレートギャップを操作して最終パルプ品質を制御することにより精製機ラインを操作することである。
【0042】
[0058]同様に、油圧を操作して、最終パルプ品質を制御することができる。また、ブローラインコンシステンシーは、最終パルプ品質を制御するために操作することができる。上記実施例ではPRギャップを使用していたが、ほとんどすべてのMVはパルプ品質に影響を及ぼすことは理解される。PRプレートギャップの操作の選択は、更に、比エネルギー制御ループの要求条件を除去するのでいくつかの追加の利点を得られる。比エネルギーとパルプ品質との間に強い相関性があるが、この関係は、静止的ではないと確定されている。木材種、チップかさ密度、及び他のプロセス変更が生じると、所望の品質のパルプを生産するための比エネルギーの絶対値が著しく変化しうる。PRプレートギャップを直接操作することにより、木材チップを処理するために適用される比エネルギーは、動的に調整される。例えば、CSFを下げるには、比エネルギーを高める必要がある。この制御戦略では、以下の簡素化された制御活動を行うことにより比エネルギーの増大を達成する。
【0043】
[0059]アクション1:品質コントローラは、プレートギャップを低いCSFまで下げる。しかし、プレートギャップが減少すると、モーター負荷は増大し、ブローラインコンシステンシーも増大する。[0060]アクション2:安定化コントローラは、ネジ速度を下げ、必要に応じてPR希釈を調節することによりモーター負荷及びブローラインコンシステンシーを調整する。上記の事象系列において、モーター負荷は、一定に維持されたが、ネジ速度は下げられた。ネジ速度が下がったことで、更に、質量処理量が減少し、最終的に、比エネルギーが増大する。[0061]品質コントローラに対する入力/出力関係は、以下のように定義される
=A
[0062]品質コントローラの動的モデル行列Aは、安定化コントローラループが閉じられた後に識別される。品質コントローラは、更に、MPRCアルゴリズムを使用する。複数のラインについて、それぞれの精製機ラインの関与は、独立にモデル化される。しかし、組み合わされたパルプ品質が制御されるので、それぞれの精製機ラインを最適な動作点に維持するために、精製機ライン毎にいくつかの制約条件が定義されなければならない。例えば、一次プレートギャップに対する上限及び下限を定義することができ、並行精製機ライン間のプレートギャップの相対的変化も定義することができる。更に、比エネルギーに対する上限値及び下限値も定義することができる。精製機ラインは、固定された比エネルギー目標値に対して制御されることはないが、指定された範囲内に維持することができる。比エネルギーの正確な値は、品質及び安定化コントローラの協力により動的に調節される。
【0044】
[0063]品質コントローラを導入することで、品質コントローラと安定化コントローラとの間の相互作用が確立される。これらの相互作用は、プレートギャップが一次モーター負荷及びパルプ品質の両方に影響を及ぼすときの固有のプロセス相互作用によるものである。これらの相互作用を考慮し、食い違いを解消するために、安定化及び品質コントローラを統合し、協調させる3層アプローチが提案される。
【0045】
[0064]オプティマイザは、MPRC設計に基づいており、分散型二次計画を解くことにより定常状態の解を得る(米国特許第6,055,483号及び第6,122,555号を参照)。3層アプローチでは、最上位層は、他のプロセス制約条件に基づくプラント規模の最適化用である。中間層は、それぞれのコントローラが局所的に実現不可能な操作コマンドを受け取るのを防ぐための協調「カラー」である。最低位層は、MPRCコントローラのレイヤである。
【0046】
[0065]オプティマイザは、協調されるMPRCコントローラ内に存在するモデルを利用することができる。プロセス定常状態モデルは、以下のように定義される。
【0047】
【数5】

ただし、
Ggは、大域的利得行列であり、
【0048】
【数6】

は、uからyまでのフィードフォワードモデルである。更に、i={1...n+q}を定義するが、ただし、n+qは、MPRCコントローラの総数を表す。
【0049】
【数7】

ステップ2:以下のように、MPRCコントローラ毎に、大域的最適値に最も近い局所的に実現可能な点を見つける。
【0050】
【数8】

ステップ3:ステップ2の解を対応するi番目のコントローラに渡し、MPRCを使用して、大域的協調及び最適化を実行する。
【0051】
【数9】

【0052】
[0070]ステップ1で、第1の2組の制約条件、y_lo≦Gu≦y_hi及びu_lo≦ug≦u_hiは、MPRCコントローラのそれぞれから転送されるすべての制約条件の複合を表す。制約条件の第1の組のGgは、大域的利得行列である。この制約条件転送により、オプティマイザは、MPRCコントローラが中で制御しようとする同じ組の制約条件を受け入れる。追加の線形又は非線形制約条件は、第3の制約条件の組に含めることができる。ステップ2で、2組の制約条件、
【0053】
【数10】

及び
【0054】
【数11】

は、予測水平線の終わりのi番目のコントローラ内の制約条件に対応する制約条件を表す。行列G(1)は、i番目のコントローラに対するモデル利得であり、行列Gのi番目の対角ブロックにも等しい。
【0055】
[0071]ステップ2は、協調カラーであり、これを通して、MPRCコントロールを、局所的に実行不可能な操作目的を受け入れることから保護することができる。大域的に実現可能な解は、ローカルコントローラには実現可能でない場合があることに留意されたい。協調カラーは、「ローカルインタレスト(local interest;局所的利益)」を保護する手段となり、実際には、ローカルインタレストに最も有利に働く。ローカルインタレストとグローバルインタレスト(global interest;大域的利益)とのバランスを取ることが好ましい場合、大域的考慮事項についてローカルインタレストを引き替えにする目的関数を構築することが可能であろう。ローカルインタレストとグローバルインタレストは、常に、最適化の水平線の終わりに収束し、食い違いは、一時的に生じるだけであることに注意されたい。
【0056】
[0072]図3は、大域的最適化を使用する結果として得られる制御構造を例示する。TMPプロセス全体が、一次精製機60、及びレイテンシーチェスト64内に流入する二次精製機62を含む。安定化装置コントローラ54は、高速なダイナミクスを扱い、品質コントローラ52は、低速ダイナミクスを扱い、オプティマイザ50は、TMPプロセス全体を制御するため安定化装置コントローラ54及び品質コントローラ52を統合し、及び/又は協調させる。
【0057】
[0073]上記の説明では、本発明の原理、好ましい実施形態、及び動作モードについて述べた。しかし、本発明は、説明されている特定の実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。そこで、上述の実施形態は、制限するものとしてではなく例示するものとしてみなされるべきであり、当業者であれば請求項で定められているように本発明の範囲から逸脱することなくさまざまな変更をこれらの実施形態に加えられることは、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】TMPプロセスの精製ラインを例示する流れ図である。
【図2】プレートギャップ変化に対する一次モーター負荷及びCSFの周波数応答のボードマグニチュード(bode magnitude;前兆等級)図である。
【図3】大域的最適化を使用する制御構造を例示する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機械パルプ(TMP)精製の集中制御をサポートするためのシステムであって、
前記TMP精製(60、62)プロセスの高速ダイナミクスを扱うようにそれぞれ動作可能な1つ又は複数の安定化コントローラ(54)と、
前記TMP精製(60、62)プロセスの低速ダイナミクスを扱うようにそれぞれ動作可能な1つ又は複数の品質コントローラ(52)と、
前記TMP精製(60、62)プロセス全体を制御するため、前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)と品質コントローラ(52)を統合し、及び/又は協調させるように動作可能なオプティマイザ(50)と、を含むシステム。
【請求項2】
前記オプティマイザ(50)は、更に、
1組の制約条件に基づき定常状態大域最適解を生成し、
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)のそれぞれについて前記大域最適解に最も近い局所的に実現可能な点を見つけ、
前記対応するコントローラに最も近い局所的に実現可能な点を渡すように動作可能である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)は、それぞれ、制約モデルベース予測制御(MPC)コントローラとすることができる請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)は、それぞれ、独立に制御することができる、及び/又はその実行周波数は、独立に選択することができる請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)は、それぞれ、複数の操作及び/又は制御変数を有することができる請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
熱機械パルプ(TMP)精製の集中制御をサポートするための方法であって、
1つ又は複数の安定化コントローラ(54)を介して前記TMP精製(60、62)プロセスの高速ダイナミクスを扱う工程と、
1つ又は複数の品質コントローラ(52)を介して前記TMP精製(60、62)プロセスの低速ダイナミクスを扱う工程と、
オプティマイザ(50)を介して前記TMP精製(60、62)プロセス全体を制御するため、前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)と品質コントローラ(52)を統合する、及び/又は協調させる工程と、を含む方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)は、それぞれ、制約モデルベース予測制御(MPC)コントローラ(50)とすることができる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
更に、1組の制約条件に基づき定常状態大域最適解を生成する工程と、
前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)のそれぞれについて前記大域最適解に最も近い局所的に実現可能な点を見つける工程と、
前記対応するコントローラに最も近い局所的に実現可能な点を渡す工程と、を含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
更に、前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)のそれぞれに対しモデル予測範囲制御(MPRC)アルゴリズムを使用する工程を含む請求項6に記載の方法。
【請求項10】
更に、前記1つ又は複数の安定化コントローラ(54)及び品質コントローラ(52)のそれぞれを制御し、及び/又はその実行周波数を独立に選択する工程を含む請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534860(P2007−534860A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510934(P2007−510934)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/014461
【国際公開番号】WO2005/106114
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】