熱溶着用抵抗発熱体
【技術課題】
熱可塑性樹脂の熱溶着において、被溶着物の剛性を向上できる抵抗発熱体を提供する。
【解決手段】
熱可塑性樹脂の熱溶着に用いられる抵抗発熱体1の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体1に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を例えば断面L字型またはU字型等に一体形成する。このような断面形状にすると、抵抗発熱体1のたわみ強度が増し、これにより被溶着物を溶着したときに、この被溶着物の剛性が増す。
熱可塑性樹脂の熱溶着において、被溶着物の剛性を向上できる抵抗発熱体を提供する。
【解決手段】
熱可塑性樹脂の熱溶着に用いられる抵抗発熱体1の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体1に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を例えば断面L字型またはU字型等に一体形成する。このような断面形状にすると、抵抗発熱体1のたわみ強度が増し、これにより被溶着物を溶着したときに、この被溶着物の剛性が増す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する際に用いられる熱溶着用抵抗発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂による成形品は外装部品として広く用いられており、特に近年は寸法精度や剛性が必要な機能性部品、たとえば自動車のインテークマニホールドやコピー機のシャーシなど従来は金属を使用していた部品を代替するまでに至っている。
【0003】
また、前記の樹脂製機能部品には、製品の軽量化、高機能化、コストダウンのため、薄肉軽量化を図りながら高剛性を発揮することが求められている。
【0004】
この解決方法の一つとして、抵抗発熱体自体にも、従来の溶着するための機能だけではなく、成形品を高剛性体として成立させるための機能が求められている。
【0005】
熱可塑性樹脂で成形されたお互いの成形品を接合する方法の一つとして、その接合面に電気抵抗に基づく抵抗発熱体を挟み込み、成形品を適宜な力で押圧しながら前記抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させ、その熱で接合面の樹脂を溶融し、その後、電圧の印加を止めて冷却することにより溶融した樹脂を冷却硬化させて成形品同士を溶着する熱溶着方法に用いられる抵抗発熱体が特許文献1に紹介されている。
【0006】
ここで紹介されている抵抗発熱体の場合、その一例として、溶着強度を高めるためにこの抵抗発熱体に孔を設け、この孔を経由して被溶着体の樹脂が強固に結合するようにしている。
【0007】
又、特許文献2には抵抗発熱体と、該抵抗発熱体を被覆する樹脂部材からなる抵抗発熱溶着体を用いて被溶着体の接合強度を高める発明が紹介されている。さらに該抵抗発熱体は樹脂部材に被覆されることで該抵抗発熱体が溶着部位の中央部に位置し、接合面のズレを防止して、特に接合強度等の信頼性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−59050号公報
【特許文献2】特開2004−299363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし乍ら、前記した特許文献1において、溶着強度を高めるため図13に示すように発熱体100に孔101を設けた場合、この孔101を経由しての溶着による溶着強度の向上は見込めるが、通常使用される発熱体100は、溶着が終った後はただの挟雑物として接合面内に残り、この部分では溶着が無く、強度不足の原因となることから、溶着強度を高めるために発熱体100が偏平な場合には、その幅は可能な限り小さく設定されている。
【0010】
例えば、通常の発熱体100の場合、その幅は0.5〜2.0mmであり、ここに孔101を設ける場合、この孔101の直径は0.2〜1.0mmが限度となるが、特にこの幅の小さい発熱体100の場合は、孔101の直径は極めて小径となり、孔101を形成した効果は極めて小さくなると共に、孔101の形成部には曲げ応力が集中するためここにおいて剛性強度の低下を招いてしまう。
【0011】
また、発熱体100に孔101が設けてあると、この孔101の両サイドの発熱体100の断面積は孔101の無い部分に比較して数分の1となり、この孔101の部分における発熱量は、電気発熱の特性から孔101の無い部分に比較して高温となり、この温度ムラは樹脂の溶融にばらつきを発生させ、結果的に溶着強度の低下につながってしまう。
【0012】
また、特許文献2の抵抗発熱体においては、抵抗発熱体を被覆する樹脂は溶融温度が80℃〜170℃のホットメルト材であり、抵抗発熱体の発熱により溶融したホットメルト材は接合面に広がって固着するだけである。
【0013】
前記ホットメルト材を介した溶着の場合、ホットメルト材の溶融温度以上まで加熱するとホットメルト材の分解や焼きつきが発生する。このため被溶着物の溶融温度、たとえばナイロン66樹脂の場合その溶融温度である260℃まで加熱することは到底困難なため、このナイロン66樹脂のような高融点樹脂の場合には、被溶着材自体は溶融されないことから、強固な熱溶着を望むことはできない。
【0014】
本発明の目的は、被溶着物の剛性を高め、更に溶着強度を高めることができる熱溶着用抵抗発熱体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、熱溶着用抵抗発熱体において、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、前記抵抗発熱体の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を一体に形成したことを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が欧文字のL字状又はU字状又はV字状又は半円形状またはこれらの倒立形状又は前記L字状にあっては左右が逆転された形状から成ることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が単又は複数の山形又は波形に形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果は次のとおりである。
【0019】
本発明によると、抵抗発熱体の長手方向に沿って剛性補強手段を一体に形成したことにより、従来の断面形状が円形や矩形であったものに比較して、同じ断面積であっても約1.5〜3倍の曲げ強度を有する。
【0020】
このため、本発明に係る抵抗発熱体を用いることにより、抵抗発熱体の曲げ強度向上分はそのまま被溶着物の曲げ強度に付加されるため、確実に製品の剛性アップを図ることが可能となる。
【0021】
また、抵抗発熱体の曲げ強度を被溶着物の強度に合成して設計強度を設定すれば、被溶着物のさらなる薄肉化、軽量化を実現できる。
【0022】
さらに、前記抵抗発熱体は、剛性補強手段を一体に形成したことにより、抵抗発熱体の被溶着物に対するアンカー効果が大きくなり、被溶着物の一体化によって剛性が高まる。
【0023】
また断面U字又はV字又は山形又は波形形状の剛性補強手段を一体成形した抵抗発熱体においては、一方の被溶着物側の溶着リブが抵抗発熱体の凹部内に完全に嵌合した状態で溶着を行うため、他方の被溶着物側に形成した溶着溝の中央に抵抗発熱体が位置決めされ、溶着強度の信頼性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】剛性補強手段を一体形成した断面L字状抵抗発熱体の説明図。
【図2】A−A’線断面図。
【図3】図1の抵抗発熱体の組み付け例の説明図であって、(A)は組み付け前、(B)は組み付け後、(C)は溶着後の被溶着物の説明図。
【図4】B−B’線断面図。
【図5】(A)〜(E)溶着工程の説明図。
【図6】(A)〜(G)抵抗発熱体の説明図。
【図7】2等分割された抵抗発熱体の説明図。
【図8】抵抗発熱体及び被溶着物にネジ孔を設けた形態の説明図。
【図9】(A)〜(E)断面U字形状の抵抗発熱体の溶着工程の説明図。
【図10】(A)(B)従来の抵抗発熱体を用いた試験体の説明図。
【図11】(C)(D)本発明の抵抗発熱体を用いた試験体の説明図。
【図12】(A)〜(D)各種断面から成る試験体の片持ち先端集中荷重の説明図。
【図13】孔を設けた公知の抵抗発熱体の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着するもので、対象となる熱可塑性樹脂の種類としては次のようなものを挙げることができる。
【0026】
ABS、PP、PS、PE、PC、POM、PMMA、PBT、ABSとPCのアロイ、PPS、PPA、PET、LCP、PAなどの熱可塑性樹脂が代表例として挙げられるが、これについても限定するものではない。また、ガラスフィラー入り等の強化材を樹脂に混合したものにも適用が可能である。
【0027】
抵抗発熱体の材料としては、SUS、SECC、SPCC、NCHW等が代表例として挙げられるがこれに限定するものではない。
【0028】
抵抗発熱体は、上記例示した材質の平板材をプレス加工、又はフープ材をロールフォーミング等で形成する。
【実施例1】
【0029】
図1は本発明に係る抵抗発熱体の実施形態を表すもので、この抵抗発熱体1は、プレス加工により溶着部の輪郭形状と一致する平面形状を呈し、その断面は図2に示すように平坦部1aの周縁を垂直方向に立ち上げて剛性補強手段としてのリブ1bを形成した断面L字型を呈している。材質はSUS304で、板厚は1.0mm、平坦部1aの幅2.0mm、リブ1bの高さ2.0mm、内側に突出した給電部2、2aの板幅は5.0mm、突出長さは8mm、である。
【0030】
なお、抵抗発熱体1の断面形状は、図6(A)(B)に示すU字型、(C)に示す左右が逆のL字型、(D)に示すV字型、(E)に示す倒立U字型、(F)に示す波又は山形、(G)に示す上向き半円型等となるように形成し、これらを用いることで剛性が高まる。
【0031】
上記実施例の抵抗発熱体1は平面視一体型抵抗発熱体1であるのに対し、図7は給電部2、2a間で抵抗発熱体1を2等分割した例である。分割された抵抗発熱体1は、1体型抵抗発熱体1に比べて形状に自由度が大きく、プレス成形時に発生する材料の廃棄ロスが少ない利点がある。
【0032】
図8は発熱体1の任意の位置にネジ孔17が形成され、熱溶着後にタッピングスクリュー18などによるネジの締め付けを可能とした例である。
【0033】
以上に説明した抵抗発熱体1の断面形状の選択と、給電部2、2aの配置は、溶着部の形状、材質、要求強度などに合わせて最適となるように選定する。
【0034】
次に、図1、2に示した抵抗発熱体1を用いて行う熱溶着工程を図3(A)〜(C)及び図4並びに図5(A)〜(E)に基づいて説明する。
【0035】
図3は樹脂成形品を熱溶着する形態の説明図であって、(A)は被溶着物10、12の溶着面に抵抗発熱体1を組み付ける前の状態、(B)は抵抗発熱体1を組み付けた状態、(C)は溶着が完了した状態、図4は溶着が完了した図3(C)において、B−B’線で切断した断面、図5(A)〜(E)は溶着工程を示すものである。
【0036】
この図3〜図5において、10は下面にリブ11を形成した被溶着部材A、12は上面に溶着溝13を形成した被溶着部材のB、14は被溶着部材Bに設けた電極16、16aの挿入孔、15は給電部2、2aの突き出し用切り欠きである。
【0037】
図5(A)〜(E)に示す溶着工程においては、被溶着部材B12はテーブル上(図示せず)に固定され、被溶着部材A10は上下動する可動部材(図示せず)に固定される。そして、被溶着部材B12の溶着面には凹状の溶着溝13が形成され、被溶着部材A10側には前記溶着溝13に上方から侵入できる寸法の溶着リブ11が形成されている。
【0038】
溶着に際しては(A)のようにテーブル上の被溶着部材B12の溶着溝11内に抵抗発熱体1を組み付け、給電部2、2aには図外の給電装置に接続された電極16、16aが結ばれ、(B)に示すように抵抗発熱体1に対する給電と同時又は先行して可動部材を下降させて被溶着部材A10側の溶着リブ11の先端を溶着溝13内の抵抗発熱体1に溶着リブ13の先端を押しつけることにより、抵抗発熱体1の熱でこの抵抗発熱体1に接している溶着リブ11及び溶着溝13の部分の樹脂が溶融を開始する(C)。
【0039】
この溶融の進行に合わせて可動部材を更に下降させて、面圧をかけることにより溶融した樹脂aは(C)に示すように溶着リブ11と溶着溝13の隙間内に侵入し、(D)に示すように所定の溶融した樹脂が接合面全体に拡散したところで給電が止る。
【0040】
この給電が止ると、抵抗発熱体1及び溶融した樹脂aが急激に冷却し、(E)に示すように最終的な溶着部a’が形成され、被溶着部材A10とB12は結合される。
【0041】
なお、以上に説明した給電タイミング及び被溶着部材A10の下降、停止のタイミングは制御回路により自動制御した。
図9(A)〜(E)は、断面がU字状の抵抗発熱体を用いた溶着工程であって、この工程の説明は前記した図5(A)〜(E)で説明した工程と同一のため、ここでの説明は省略する。
【比較例】
【0042】
溶着品の強度を確認するため、平板2枚を熱溶着した試験片を用いて、曲げ応力によるたわみ試験を行い(N=5)の平均値を求めた。
【0043】
本比較例に用いた抵抗発熱体は、図10(A)(B)及び図11(C)(D)に示すように、材質と長さ、断面積が同一で断面形状だけが異なる4種類である。
1.抵抗発熱体の断面形状 図10(A)矩形(アスペクト比0.33)
(B)矩形(アスペクト比0.75)
図11(C)L型
(D)U型
2.断面積 3平方ミリメートル
3.断面寸法 図10(A)t=1.0mm W=3.0mm
(B)t=1.5mm W=2.0mm
図11(C)t=0.8mm W=2.3mm H=2.3mm
(D)t=0.5mm W=2.0mm H=2.5mm
4.抵抗発熱体の材質 SUS304
5.被溶着物10、12の材質 ポリカーボネート
6.被溶着物10、12の寸法 10mm×1020mm t=2.0mm
7.試験方法 片持ち集中荷重
片持ち梁L=100mm 先端荷重=10N
【0044】
たわみ試験の結果を図12に示す。図12(A)(B)は、断面が矩形の抵抗発熱体を使った溶着試験片図10(A)(B)の曲げ強度を示し、先端部のたわみは(A)19.5mm、(B)14.4mmであった。
【0045】
同様にして、本発明に係る剛性補強手段を形成した抵抗発熱体1の試験結果を図12(C)(D)に示す。この結果から、本発明を実施した抵抗発熱体1の場合、たわみ強度が大幅に向上したことが判る。
【0046】
以上の比較例の結果を表1に示す。この表1で明らかなように、抵抗発熱体単体の変形量は、断面矩形(B)と比較してそのたわみ(変形)量は断面L型(C)が約57%、断面U型(D)は約32%である。被溶着物を抵抗発熱体1で溶着一体化した試験片の変形量は、断面矩形(B)と比較して断面L型(C)が約65%、断面U型(D)は約50%であった。この結果から本発明の抵抗発熱体を用いることで溶着部分の強度が大きく向上することが確認できた。
【0047】
【表1】
【符号の説明】
【0048】
1 抵抗発熱体
2、2a 給電部
10 被溶着部材A
11 溶着リブ
12 被溶着部材B
13 溶着溝
14 給電用穴孔
15、15a 給電用切欠
16、16a 給電用電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する際に用いられる熱溶着用抵抗発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂による成形品は外装部品として広く用いられており、特に近年は寸法精度や剛性が必要な機能性部品、たとえば自動車のインテークマニホールドやコピー機のシャーシなど従来は金属を使用していた部品を代替するまでに至っている。
【0003】
また、前記の樹脂製機能部品には、製品の軽量化、高機能化、コストダウンのため、薄肉軽量化を図りながら高剛性を発揮することが求められている。
【0004】
この解決方法の一つとして、抵抗発熱体自体にも、従来の溶着するための機能だけではなく、成形品を高剛性体として成立させるための機能が求められている。
【0005】
熱可塑性樹脂で成形されたお互いの成形品を接合する方法の一つとして、その接合面に電気抵抗に基づく抵抗発熱体を挟み込み、成形品を適宜な力で押圧しながら前記抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させ、その熱で接合面の樹脂を溶融し、その後、電圧の印加を止めて冷却することにより溶融した樹脂を冷却硬化させて成形品同士を溶着する熱溶着方法に用いられる抵抗発熱体が特許文献1に紹介されている。
【0006】
ここで紹介されている抵抗発熱体の場合、その一例として、溶着強度を高めるためにこの抵抗発熱体に孔を設け、この孔を経由して被溶着体の樹脂が強固に結合するようにしている。
【0007】
又、特許文献2には抵抗発熱体と、該抵抗発熱体を被覆する樹脂部材からなる抵抗発熱溶着体を用いて被溶着体の接合強度を高める発明が紹介されている。さらに該抵抗発熱体は樹脂部材に被覆されることで該抵抗発熱体が溶着部位の中央部に位置し、接合面のズレを防止して、特に接合強度等の信頼性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−59050号公報
【特許文献2】特開2004−299363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし乍ら、前記した特許文献1において、溶着強度を高めるため図13に示すように発熱体100に孔101を設けた場合、この孔101を経由しての溶着による溶着強度の向上は見込めるが、通常使用される発熱体100は、溶着が終った後はただの挟雑物として接合面内に残り、この部分では溶着が無く、強度不足の原因となることから、溶着強度を高めるために発熱体100が偏平な場合には、その幅は可能な限り小さく設定されている。
【0010】
例えば、通常の発熱体100の場合、その幅は0.5〜2.0mmであり、ここに孔101を設ける場合、この孔101の直径は0.2〜1.0mmが限度となるが、特にこの幅の小さい発熱体100の場合は、孔101の直径は極めて小径となり、孔101を形成した効果は極めて小さくなると共に、孔101の形成部には曲げ応力が集中するためここにおいて剛性強度の低下を招いてしまう。
【0011】
また、発熱体100に孔101が設けてあると、この孔101の両サイドの発熱体100の断面積は孔101の無い部分に比較して数分の1となり、この孔101の部分における発熱量は、電気発熱の特性から孔101の無い部分に比較して高温となり、この温度ムラは樹脂の溶融にばらつきを発生させ、結果的に溶着強度の低下につながってしまう。
【0012】
また、特許文献2の抵抗発熱体においては、抵抗発熱体を被覆する樹脂は溶融温度が80℃〜170℃のホットメルト材であり、抵抗発熱体の発熱により溶融したホットメルト材は接合面に広がって固着するだけである。
【0013】
前記ホットメルト材を介した溶着の場合、ホットメルト材の溶融温度以上まで加熱するとホットメルト材の分解や焼きつきが発生する。このため被溶着物の溶融温度、たとえばナイロン66樹脂の場合その溶融温度である260℃まで加熱することは到底困難なため、このナイロン66樹脂のような高融点樹脂の場合には、被溶着材自体は溶融されないことから、強固な熱溶着を望むことはできない。
【0014】
本発明の目的は、被溶着物の剛性を高め、更に溶着強度を高めることができる熱溶着用抵抗発熱体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、熱溶着用抵抗発熱体において、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、前記抵抗発熱体の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を一体に形成したことを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が欧文字のL字状又はU字状又はV字状又は半円形状またはこれらの倒立形状又は前記L字状にあっては左右が逆転された形状から成ることを特徴とするものである。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体において、前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が単又は複数の山形又は波形に形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果は次のとおりである。
【0019】
本発明によると、抵抗発熱体の長手方向に沿って剛性補強手段を一体に形成したことにより、従来の断面形状が円形や矩形であったものに比較して、同じ断面積であっても約1.5〜3倍の曲げ強度を有する。
【0020】
このため、本発明に係る抵抗発熱体を用いることにより、抵抗発熱体の曲げ強度向上分はそのまま被溶着物の曲げ強度に付加されるため、確実に製品の剛性アップを図ることが可能となる。
【0021】
また、抵抗発熱体の曲げ強度を被溶着物の強度に合成して設計強度を設定すれば、被溶着物のさらなる薄肉化、軽量化を実現できる。
【0022】
さらに、前記抵抗発熱体は、剛性補強手段を一体に形成したことにより、抵抗発熱体の被溶着物に対するアンカー効果が大きくなり、被溶着物の一体化によって剛性が高まる。
【0023】
また断面U字又はV字又は山形又は波形形状の剛性補強手段を一体成形した抵抗発熱体においては、一方の被溶着物側の溶着リブが抵抗発熱体の凹部内に完全に嵌合した状態で溶着を行うため、他方の被溶着物側に形成した溶着溝の中央に抵抗発熱体が位置決めされ、溶着強度の信頼性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】剛性補強手段を一体形成した断面L字状抵抗発熱体の説明図。
【図2】A−A’線断面図。
【図3】図1の抵抗発熱体の組み付け例の説明図であって、(A)は組み付け前、(B)は組み付け後、(C)は溶着後の被溶着物の説明図。
【図4】B−B’線断面図。
【図5】(A)〜(E)溶着工程の説明図。
【図6】(A)〜(G)抵抗発熱体の説明図。
【図7】2等分割された抵抗発熱体の説明図。
【図8】抵抗発熱体及び被溶着物にネジ孔を設けた形態の説明図。
【図9】(A)〜(E)断面U字形状の抵抗発熱体の溶着工程の説明図。
【図10】(A)(B)従来の抵抗発熱体を用いた試験体の説明図。
【図11】(C)(D)本発明の抵抗発熱体を用いた試験体の説明図。
【図12】(A)〜(D)各種断面から成る試験体の片持ち先端集中荷重の説明図。
【図13】孔を設けた公知の抵抗発熱体の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着するもので、対象となる熱可塑性樹脂の種類としては次のようなものを挙げることができる。
【0026】
ABS、PP、PS、PE、PC、POM、PMMA、PBT、ABSとPCのアロイ、PPS、PPA、PET、LCP、PAなどの熱可塑性樹脂が代表例として挙げられるが、これについても限定するものではない。また、ガラスフィラー入り等の強化材を樹脂に混合したものにも適用が可能である。
【0027】
抵抗発熱体の材料としては、SUS、SECC、SPCC、NCHW等が代表例として挙げられるがこれに限定するものではない。
【0028】
抵抗発熱体は、上記例示した材質の平板材をプレス加工、又はフープ材をロールフォーミング等で形成する。
【実施例1】
【0029】
図1は本発明に係る抵抗発熱体の実施形態を表すもので、この抵抗発熱体1は、プレス加工により溶着部の輪郭形状と一致する平面形状を呈し、その断面は図2に示すように平坦部1aの周縁を垂直方向に立ち上げて剛性補強手段としてのリブ1bを形成した断面L字型を呈している。材質はSUS304で、板厚は1.0mm、平坦部1aの幅2.0mm、リブ1bの高さ2.0mm、内側に突出した給電部2、2aの板幅は5.0mm、突出長さは8mm、である。
【0030】
なお、抵抗発熱体1の断面形状は、図6(A)(B)に示すU字型、(C)に示す左右が逆のL字型、(D)に示すV字型、(E)に示す倒立U字型、(F)に示す波又は山形、(G)に示す上向き半円型等となるように形成し、これらを用いることで剛性が高まる。
【0031】
上記実施例の抵抗発熱体1は平面視一体型抵抗発熱体1であるのに対し、図7は給電部2、2a間で抵抗発熱体1を2等分割した例である。分割された抵抗発熱体1は、1体型抵抗発熱体1に比べて形状に自由度が大きく、プレス成形時に発生する材料の廃棄ロスが少ない利点がある。
【0032】
図8は発熱体1の任意の位置にネジ孔17が形成され、熱溶着後にタッピングスクリュー18などによるネジの締め付けを可能とした例である。
【0033】
以上に説明した抵抗発熱体1の断面形状の選択と、給電部2、2aの配置は、溶着部の形状、材質、要求強度などに合わせて最適となるように選定する。
【0034】
次に、図1、2に示した抵抗発熱体1を用いて行う熱溶着工程を図3(A)〜(C)及び図4並びに図5(A)〜(E)に基づいて説明する。
【0035】
図3は樹脂成形品を熱溶着する形態の説明図であって、(A)は被溶着物10、12の溶着面に抵抗発熱体1を組み付ける前の状態、(B)は抵抗発熱体1を組み付けた状態、(C)は溶着が完了した状態、図4は溶着が完了した図3(C)において、B−B’線で切断した断面、図5(A)〜(E)は溶着工程を示すものである。
【0036】
この図3〜図5において、10は下面にリブ11を形成した被溶着部材A、12は上面に溶着溝13を形成した被溶着部材のB、14は被溶着部材Bに設けた電極16、16aの挿入孔、15は給電部2、2aの突き出し用切り欠きである。
【0037】
図5(A)〜(E)に示す溶着工程においては、被溶着部材B12はテーブル上(図示せず)に固定され、被溶着部材A10は上下動する可動部材(図示せず)に固定される。そして、被溶着部材B12の溶着面には凹状の溶着溝13が形成され、被溶着部材A10側には前記溶着溝13に上方から侵入できる寸法の溶着リブ11が形成されている。
【0038】
溶着に際しては(A)のようにテーブル上の被溶着部材B12の溶着溝11内に抵抗発熱体1を組み付け、給電部2、2aには図外の給電装置に接続された電極16、16aが結ばれ、(B)に示すように抵抗発熱体1に対する給電と同時又は先行して可動部材を下降させて被溶着部材A10側の溶着リブ11の先端を溶着溝13内の抵抗発熱体1に溶着リブ13の先端を押しつけることにより、抵抗発熱体1の熱でこの抵抗発熱体1に接している溶着リブ11及び溶着溝13の部分の樹脂が溶融を開始する(C)。
【0039】
この溶融の進行に合わせて可動部材を更に下降させて、面圧をかけることにより溶融した樹脂aは(C)に示すように溶着リブ11と溶着溝13の隙間内に侵入し、(D)に示すように所定の溶融した樹脂が接合面全体に拡散したところで給電が止る。
【0040】
この給電が止ると、抵抗発熱体1及び溶融した樹脂aが急激に冷却し、(E)に示すように最終的な溶着部a’が形成され、被溶着部材A10とB12は結合される。
【0041】
なお、以上に説明した給電タイミング及び被溶着部材A10の下降、停止のタイミングは制御回路により自動制御した。
図9(A)〜(E)は、断面がU字状の抵抗発熱体を用いた溶着工程であって、この工程の説明は前記した図5(A)〜(E)で説明した工程と同一のため、ここでの説明は省略する。
【比較例】
【0042】
溶着品の強度を確認するため、平板2枚を熱溶着した試験片を用いて、曲げ応力によるたわみ試験を行い(N=5)の平均値を求めた。
【0043】
本比較例に用いた抵抗発熱体は、図10(A)(B)及び図11(C)(D)に示すように、材質と長さ、断面積が同一で断面形状だけが異なる4種類である。
1.抵抗発熱体の断面形状 図10(A)矩形(アスペクト比0.33)
(B)矩形(アスペクト比0.75)
図11(C)L型
(D)U型
2.断面積 3平方ミリメートル
3.断面寸法 図10(A)t=1.0mm W=3.0mm
(B)t=1.5mm W=2.0mm
図11(C)t=0.8mm W=2.3mm H=2.3mm
(D)t=0.5mm W=2.0mm H=2.5mm
4.抵抗発熱体の材質 SUS304
5.被溶着物10、12の材質 ポリカーボネート
6.被溶着物10、12の寸法 10mm×1020mm t=2.0mm
7.試験方法 片持ち集中荷重
片持ち梁L=100mm 先端荷重=10N
【0044】
たわみ試験の結果を図12に示す。図12(A)(B)は、断面が矩形の抵抗発熱体を使った溶着試験片図10(A)(B)の曲げ強度を示し、先端部のたわみは(A)19.5mm、(B)14.4mmであった。
【0045】
同様にして、本発明に係る剛性補強手段を形成した抵抗発熱体1の試験結果を図12(C)(D)に示す。この結果から、本発明を実施した抵抗発熱体1の場合、たわみ強度が大幅に向上したことが判る。
【0046】
以上の比較例の結果を表1に示す。この表1で明らかなように、抵抗発熱体単体の変形量は、断面矩形(B)と比較してそのたわみ(変形)量は断面L型(C)が約57%、断面U型(D)は約32%である。被溶着物を抵抗発熱体1で溶着一体化した試験片の変形量は、断面矩形(B)と比較して断面L型(C)が約65%、断面U型(D)は約50%であった。この結果から本発明の抵抗発熱体を用いることで溶着部分の強度が大きく向上することが確認できた。
【0047】
【表1】
【符号の説明】
【0048】
1 抵抗発熱体
2、2a 給電部
10 被溶着部材A
11 溶着リブ
12 被溶着部材B
13 溶着溝
14 給電用穴孔
15、15a 給電用切欠
16、16a 給電用電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、
前記抵抗発熱体の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を一体に形成したことを特徴とする熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項2】
前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が欧文字のL字状又はU字状又はV字状又は半円形状またはこれらの倒立形状又は前記L字状にあっては左右が逆転された形状から成ることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項3】
前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が単又は複数の山形又は波形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項1】
熱可塑性樹脂で成形された成形品同士の接合面に断面偏平形状の抵抗発熱体を挟み込み、この抵抗発熱体に電圧を印加して発熱させることにより接合面の溶融を図り、更に接合面間に面圧をかけて接合面同士を熱溶着する方法に用いられる抵抗発熱体において、
前記抵抗発熱体の長手方向に沿ってこの抵抗発熱体に作用する曲げに対する応力を高めるための剛性補強手段を一体に形成したことを特徴とする熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項2】
前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が欧文字のL字状又はU字状又はV字状又は半円形状またはこれらの倒立形状又は前記L字状にあっては左右が逆転された形状から成ることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【請求項3】
前記剛性補強手段を一体に形成した抵抗発熱体の断面形状が単又は複数の山形又は波形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱溶着用抵抗発熱体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−153063(P2012−153063A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15557(P2011−15557)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】
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