説明

熱硬化性樹脂組成物、その硬化物及び被膜形成方法

【課題】表面硬度に優れたオキセタン樹脂組成物及びそれを用いた被膜形成方法に関する。
【解決手段】オキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、芳香環を有するオキセタン化合物(A)と、芳香族ビニル化合物(B)及びヘテロポリ酸(C)を必須成分として含有し、芳香族ビニル化合物(B)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計に対し10〜70wt%であり、ヘテロポリ酸(C)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計100重量部に対して0.01〜5重量部である熱硬化性樹脂組成物。オキセタニル基としては、下記一般式(1)で表わされるオキセタン官能基がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面高度に優れたオキセタン樹脂組成物、その硬化物及び樹脂組成物を用いた被膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2002−332344号公報
【特許文献2】特開平11−29609号公報
【0003】
カチオン重合は、ラジカル重合と異なり、酸素阻害がないため、薄膜コーティングに好適であるとされている。オキセタン化合物は、カチオン重合可能なモノマーとして知られているが、柔軟なポリメチレンエーテル結合を有するために、表面硬度の高い硬化物を得ることは困難であった。
【0004】
特許文献1には、カチオン重合性基としてのオキセタニル基とラジカル重合性二重結合とを含有するポリマー又は混合物と、熱によりカチオン及びラジカルを発生する開始剤混合物を有する組成物が、表面硬度に優れるという記載がある。しかし、特許文献1記載の実施例の記載では、表面硬度の向上は、酸化チタン、アルコキシシランの配合によるものであり、上記樹脂自体の表面硬度は鉛筆硬度でH程度であり十分に満足いくものではなかった。
【0005】
特許文献2には、オキシラン化合物又はビニルエーテル化合物等のカチオン重合性化合物と、不飽和エステル型の化合物等のラジカル重合性化合物と、スルホニウム塩化合物等の熱カチオン重合開始剤とを含有させて得られる熱硬化性組成物についての記載があるが、スルホニウム塩化合物等の熱カチオン重合開始剤ではその硬化性が十分でなく、十分な表面硬度は得難いものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面高度に優れたオキセタン樹脂組成物、その硬化物及び樹脂組成物を用いた被膜形成方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、オキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、芳香環を有するオキセタン化合物(A)と、芳香族ビニル化合物(B)及びヘテロポリ酸(C)を必須成分として含有し、芳香族ビニル化合物(B)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計に対し10〜70wt%であり、ヘテロポリ酸(C)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計100重量部に対して0.01〜5重量部であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0008】
オキセタン化合物が有するオキセタニル基は、下記一般式(1)で表されるオキセタン官能基であることがよい。
【化1】

式中、R1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、フリル基又はチエニル基であることが好ましい。
【0009】
ヘテロポリ酸として、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸又はこれらの混合物が好ましいものとして挙げられる。
【0010】
また、本発明は、上記熱硬化性組成物を加熱して硬化させることにより得られる硬化物である。更に、本発明は、上記熱硬化性組成物を被塗物表面に塗布し、次いで塗布された硬化性組成物を加熱して硬化させることを特徴とする被膜形成方法である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
オキセタン化合物(以下、(A)成分ともいう)は、オキセタニル基(オキセタン官能基ともいう)を2以上含有し、かつ芳香環を含有する。オキセタニル基としては、上記一般式(1)で表されるオキセタン官能基を好ましく挙げることができる。
【0012】
一般式(1)において、R1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、フリル基又はチエニル基を示す。炭素数1〜6のアルキル基は直鎖状又は分岐状であってもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル等が挙げられる。炭素数1〜6のフルオロアルキル基は上記アルキル基の水素原子の少なくとも1個がフッ素原子で置換された基であり、例えば、フルオロプロピル、フルオロブチル、トリフルオロプロピル等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が好ましい。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。より好ましいR1としては、メチル、エチル等の炭素数1〜4の低級アルキル基がある。
【0013】
また、オキセタン化合物は、芳香環を含有する。芳香環としては、ベンゼン環、ビフェニル環のような非縮合芳香環や、ナフタレン環、環インデン環、フェナンスレン環、アントラセン環、ピレン環のような縮合芳香環が好適である。
【0014】
オキセタン化合物としては、分子中に2つ以上のオキセタニル基を有し、かつ芳香環を含有する多官能オキセタン化合物はいずれも使用可能であり、特定の化合物に限定されるものではない。
【0015】
2官能オキセタン化合物としては、下記一般式(2)で示されるビスオキセタン類が挙げられる。
【化2】

【0016】
上記一般式(2)において、R2は一般式(1)のR1と同じ意味を有する。好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基等の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられる。より好ましくは、メチル基もしくはエチル基である。
【0017】
3は2価の芳香環含有基であるが、下記式(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)で示される芳香族化合物並びに式(f)及び(g)で示されるカルボニル基を含む芳香族化合物から選択される2価の基が好ましく例示される。
【0018】
【化3】

【0019】
式(a)〜(e)において、R4は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表わし、R5は、−O−、−S−、−CH2−、−NH−、−SO2−、−CH(CH3)−、−C(CH32−又は−C(CF32−を表わし、R6は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表わす。
【0020】
【化4】

【0021】
分子中に2個のオキセタン環を有するオキセタン化合物の中では、一般式(2)において、R2がメチル基又はエチル基であるものが好ましく、R3が式(d)又は式(f)で表される基、又はR4が水素原子である式(a)で表される2価の芳香族炭化水素基であるものが好ましい。具体的には、例えば、以下の化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0022】
【化5】

【0023】
3官能以上の多官能オキセタン化合物としては、下記一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0024】
【化6】

【0025】
上記一般式(3)において、R1は前記一般式(1)のR1と同じ意味であり、R7は3つ以上の水酸基を含有する芳香環含有化合物又は樹脂から水酸基をとって生じる残基である芳香環含有基を示す。具体的には、式(h)、(i)及び(j)で示される3価の芳香族炭化水素基が例示される。その他、ノボラック樹脂、ポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂、カリックスアレーン樹脂類など3つ以上の水酸基を有する芳香環を含有する樹脂から水酸基をとって生じる構造の基が例示される。また、mはR7とエーテル結合しているオキセタン官能基の数を表わし、3以上の整数、好ましくは3〜5000の整数である。
【0026】
【化7】

式(j)中、R8は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はアリール基を表わす。
【0027】
芳香族ビニル化合物(以下、(B)成分ともいう)としては、ビニル基を有する芳香族化合物であれば、用いることができる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼンのような、ビニルベンゼン類、ビニルビフェニル類、ビニルナフタレン類、インデン、アセナフチレン等があげられる。また、ビニルピリジン、ビニルキノリンのような複素環芳香族ビニル化合物も用いることができる。これらのうち、入手の容易さから、好ましくは、ビニルベンゼン類、アセナフチレンである。
【0028】
ヘテロポリ酸(以下、(C)成分ともいう)についてであるが、例えば、モリブデン(VI)やタングステン(VI)イオンは水中ではオキソ酸になる。これらのオキソ酸は重合して、高分子のポリオキソ酸となる。このとき、同種のオキソ酸だけが重合するのではなく、あるオキソ酸の周りに別種のオキソ酸が重合することがあり。このような化合物をヘテロポリ酸という。中心のオキソ酸を形成する元素をヘテロ元素、その周りで重合するオキソ酸の元素をポリ元素と呼ぶ。ヘテロ元素としては、Si, P, As, S, Fe, Coなどがあり、ポリ元素としてはMo, W, V 等がある。重合時のヘテロ元素に対するポリ元素の数も多種類あるため、それらの組合わせで、多くのヘテロポリ酸が製造可能である。本発明にはこのようなヘテロポリ酸であれば、特に制限なく使用することができる。
【0029】
硬化性能、入手の容易さから、好ましくは、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸であり、さらに好ましくは、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸である。また、これらの塩、ナトリウム塩、セシウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩等も用いることができる。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における(A)成分の含有量としては、(A)成分、及び(B)成分の合計に対し、90〜30wt%、好ましくは70〜40wt%である。(B)成分の含有量としては、(A)成分、及び(B)成分の合計に対し、10〜70wt%、好ましくは30〜60wt%である。上記の範囲の量の(B)成分を配合することにより、加熱により、優れた表面硬度を有する硬化物が得られる。
【0031】
(C)成分のヘテロポリ酸の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜3重量部の範囲がよい。(C)成分は熱カチオン硬化触媒として機能するため、その含有量が過剰になると、保存安定性が低下する可能性がある。また、ヘテロポリ酸が過小になると、硬化速度が低下し、組成物の硬化が十分でない。
【0032】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中の各成分の含有量は、別の観点からは次の範囲が好ましい。(A)成分40〜90wt%、好ましくは50〜80wt%、(B)成分10〜59wt%、好ましくは20〜49wt%、(C)成分0.01〜5wt%、好ましくは0.03〜3wt%を含むことがよい。
【0033】
なお、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、その使用に際し、本発明の効果を損なわない範囲であれば、公知の各種添加剤、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤(熱安定剤、耐候性改良剤等)、増量剤、粘度調節剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、離型剤などを添加・混合できる。なお、これらは本発明の熱硬化性樹脂組成物における(A)〜(C)成分の配合割合の計算からは除外される成分と理解される。
【0034】
また、反応性希釈剤として一官能のオキセタン化合物を添加することもできる。一官能のオキセタンとしては、3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-メチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンが好ましい。
【0035】
本発明の熱硬化性組成物は、塗料、インキ、接着剤、レジスト材などとして好適に使用することができる。
【0036】
本発明の被膜形成方法は、被塗物表面に、上記熱硬化性組成物を塗布し、次いで塗布された硬化性組成物を加熱して硬化させる方法である。
【0037】
本発明の組成物は、紙、プラスチック、金属、ガラス、木質材及びこれらを組合せた基材などである被塗物に塗布することができる。例えば、これらの被塗物表面に本発明組成物を塗布量が硬化膜厚で1〜500μm、好ましくは2〜100μmの範囲内になるように塗布し、ついで加熱することによって硬化させることができる。塗布手段としては、例えば、ロールコータ塗装、スプレー塗装、刷毛塗り、バーコータ塗装、ローラー塗装、スクリーン印刷、平圧印刷、輪転印刷などを挙げることができる。
【0038】
加熱手段は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱などの乾燥設備を適用できる。加熱温度は、通常、40〜260℃程度、好ましくは70〜200℃程度の範囲内にあることが適している。加熱時間は、特に制限されるものではないが、通常、5〜120分の範囲が好適である。
【0039】
本発明の硬化物は、硬化性組成物を加熱して硬化して得られる。この硬化物は、表面硬度が高い。
【発明の効果】
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、表面硬度が高く、概観に優れ、耐薬品性などを示す不溶不融の三次元構造の硬化物を形成する。この熱硬化性組成物は、塗料、インキ、接着剤、レジスト材などとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。「部」はそれぞれ重量基準である。実施例及び比較例で使用した材料及びその略号は、以下の通りであり、精製することなくそのまま使用した。
【0042】
(A)成分
・OXBP:4,4'-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル:宇部興産株式会社製
(B)成分
・アセナフチレン:新日鐵化学株式会社製
・ジビニルベンゼン:新日鐵化学株式会社製 DVB-960
(C成分)
・SiW:ケイタングステン酸:日本無機化学工業株式会社製
・SI100L:SbF6-系スルホニウム塩:三新化学工業株式会社製(サンエイドSI100L)
【実施例】
【0043】
実施例1〜6及び比較例1、2
表1に示す配合にて各成分を室温で混合して各熱硬化性組成物を得た。ついで、得られた各熱硬化性組成物をガラス板上にバーコーターにて硬化被膜の膜厚が約30μmとなるように塗布し、熱風炉で、炉内温度140℃で120分加熱して硬化被膜を得た。比較例1においては、特許文献2に記載されているスルホニウム塩系の触媒として、SI100Lを比較のために用いた。表1における配合量の単位はgである。
【0044】
得られた被膜について、下記試験方法に基いて、被膜外観、鉛筆硬度、その結果を表1に示す。
【0045】
被膜外観
塗膜の平滑性、ワレ、ツヤ感を肉眼にて観察し下記基準にて評価した。 ○:塗膜に異常がなく、良好、 △:平滑性またはツヤ感がやや劣るが、ワレは認められない、 ×:ワレが認められる、又は平滑性もしくはツヤ感が著しく劣る。
【0046】
表面硬化性
硬化塗膜表面を、メチルエチルケトンを含浸させたガーゼで約1kg/cm2 の圧力をかけて往復してこすり、塗膜表面のツヤ感を下記基準にて評価した。 ◎:5往復しても塗面のツヤ感に変化がほとんど認められない、 ○:5往復では塗面のツヤ感に変化がかなり認められるが、2往復ではツヤ感に変化がほとんど認められない、 ×:1往復で塗面のツヤ感に変化がかなり認められる。
【0047】
鉛筆硬度
JIS K−5400 8.4.2(1990)に規定する鉛筆引っかき試験を行い、擦り傷による評価を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、本発明の熱硬化性樹脂組成物は表面高度が著しく改善されることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキセタニル基を1分子中に2個以上含有し、芳香環を有するオキセタン化合物(A)と、芳香族ビニル化合物(B)及びヘテロポリ酸(C)を必須成分として含有し、芳香族ビニル化合物(B)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計に対し10〜70wt%であり、ヘテロポリ酸(C)の配合割合が、オキセタン化合物(A)と芳香族ビニル化合物(B)の合計100重量部に対して0.01〜5重量部であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
オキセタニル基が、下記一般式(1)で表わされるオキセタン官能基である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

式中、R1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素原子、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、アリル基、アリール基、アラルキル基、フリル基又はチエニル基を示す。
【請求項3】
ヘテロポリ酸が、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸又はこれらの混合物である請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性組成物を熱硬化させて得られることを特徴とする熱硬化性組成物の硬化物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱硬化性組成物を被塗物表面に塗布し、次いで塗布された硬化性組成物を加熱して硬化させることを特徴とする被膜形成方法。

【公開番号】特開2008−214493(P2008−214493A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53856(P2007−53856)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】