説明

熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物

【課題】線膨張係数を低減するとともに機械的強度を向上させることが可能な熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】線状熱硬化性樹脂、および貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージ基板の高密度化、高速性能化にともない、半導体チップと回路基板を接続するフリップチップバンプの狭クリアランス化が進んでいるが、異材質間の温度変化による膨張量の違いにより起こる応力によって、基板にクラックが生じるなどの問題がある。そのため、熱硬化性樹脂の線膨張係数(熱膨張係数)を回路基板に用いる他の材料の線膨張係数に近い数値まで低減することが求められている。その一方で、発生してしまう膨張量差を緩和する為、線膨張係数の低減とは相反する、伸び性という塗膜物性が求められている。また、半導体パッケージ基板の製造時から実装までのプロセス間で受けるさまざまな機械的、熱的な衝撃による破壊を防ぐ為、硬化塗膜の機械強度の向上も望まれる。
【0003】
線膨張係数の低減方法として、硬化性樹脂組成物に球状シリカを充填する方法(特許文献1)や、多孔性シリカを用いることで同じ充填量でさらなる線膨張係数の低減を図る方法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−49220号公報
【特許文献2】特開2008−150578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1および2に従って硬化性樹脂組成物に球状シリカや多孔性シリカを含有させると、シリカを含有させなかった場合と比べて線膨張係数は低減されるが機械的強度の向上につながらないという新たな問題を見出した。そこで本発明は、線膨張係数を低減するとともに機械的強度を向上させることが可能な熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、線状熱硬化性樹脂をシリカ微粒子の貫通孔に連通させると、線膨張係数の低減を達成するとともに、硬化性樹脂自体がもつ伸び性を損うことなく機械的強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物を提供する。
【0008】
[1]線状熱硬化性樹脂、および貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【0009】
[2]線状熱硬化性樹脂と、貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子と、前記貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子以外の無機フィラーを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【0010】
[3]前記線状熱硬化性樹脂が、線状エポキシ樹脂および線状エピスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種類であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0011】
[4]線状熱硬化性樹脂が、線状エポキシ樹脂及び線状エピスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種類と、3官能以上の非線状エポキシ樹脂の混合物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0012】
[5]前記非結晶性シリカ微粒子が、ハニカム構造を有するシリカ微粒子であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0013】
[6]前記非結晶性シリカ微粒子が、1nm〜10nmの細孔径を有し、0.01〜10μmの平均粒径を有することを特徴とする[1]から[5]の何れか一に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0014】
[7]上記[1]から[6]の何れか一に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物であって、硬化された線状熱硬化性樹脂が非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に連通されていることを特徴とする硬化物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、線状熱硬化性樹脂を非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に連通させることにより、線膨張係数を低減させることができるとともに、硬化性樹脂自体がもつ伸び性を大きく損うことなく機械的強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の熱硬化性樹脂組成物について説明する。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、線状熱硬化性樹脂、および貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子を含み、好ましくは、線状熱硬化性樹脂が非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に連通されている。
【0018】
本明細書において連通されている状態とは、線状熱硬化性樹脂が非結晶性シリカ微粒子の貫通孔内に完全に充填されている状態であってもよいし、または貫通孔の両端から浸入した線状熱硬化性樹脂が互いに繋がっていれば、貫通孔内に一部空洞がある状態であってもよい。
【0019】
線状熱硬化性樹脂は、貫通孔を有する非結晶性シリカの空隙内に効果的に連通させる観点より、直線的な構造をもつ熱硬化性樹脂である。このような線状熱硬化性樹脂としては、加熱により熱硬化性樹脂自体及び熱硬化性樹脂とその硬化剤と硬化反応を行うものであれば特に制限されるものではないが、好ましくは分子内に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有する化合物、すなわち多官能エポキシ化合物、又は分子内に2個以上のチオエーテル基を有する化合物、すなわちエピスルフィド樹脂などが挙げられる。なかでも線状の構造を持つエポキシ樹脂としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のjER828、jER834、jER1001、jER1004、大日本インキ化学工業社製のエピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、東都化成社製のエポトートYD−011、YD−013、YD−127、YD−128、ダウケミカル社製のD.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社のアラルダイド6071、アラルダイド6084、アラルダイドGY250、アラルダイドGY260、住友化学工業社製のスミ−エポキシESA−011、ESA−014、ELA− 115、ELA−128、旭化成工業社製のA.E.R.330、A.E.R.331、A.E.R.661、A.E.R.664等(何れも商品名)のビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製エピコート807、東都化成社製のエポトートYDF−170、YDF−175、YDF−2004、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドXPY306 等(何れも商品名)のビスフェノールF型エポキシ樹脂;日本化薬社製EBPS−200 、旭電化工業社製EPX−30、大日本インキ化学工業社製のEXA−1514(商品名)等のビスフェノールS型エポキシ樹脂;東都化成社製のエポトートST−2004、ST−2007、ST−3000(商品名)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のYL−6056、YX−4000、YL−6121(何れも商品名)等のビキシレノール型もしくはビフェノール型エポキシ樹脂又はそれらの混合物;日本化薬社製NC−3000等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられ、線状構造を持つエピスルフィド樹脂としては、例えばジャパンエポキシレジン社製のビスフェノールA型エピスルフィド樹脂YL−7000などが挙げられる。また、同様の合成方法を用いて、上記線状構造をもつエポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子を硫黄原子に置き換えたエピスルフィド樹脂なども用いることができる。本発明では、一種類の線状熱硬化性樹脂が使用されてもよいし、複数種類の線状熱硬化性樹脂が使用されてもよい。
【0020】
本発明の樹脂組成物において、本発明の効果が発揮される範囲で上記線状熱硬化性樹脂と他の熱硬化性樹脂を併用することができる。
【0021】
前記他の熱硬化性樹脂としては、加熱により熱硬化性樹脂自体及び熱硬化性樹脂とその硬化剤と硬化反応を行うものであれば特に制限されるものではないが、好ましくは分子内に少なくとも3つ以上のエポキシ基を有する化合物、すなわち多官能エポキシ化合物、又は分子内に3個以上のチオエーテル基を有する化合物、すなわちエピスルフィド樹脂などが挙げられる。前記他の熱硬化性樹脂として、好ましくは3官能以上の非線状エポキシ樹脂を使用することができる。
【0022】
前記多官能性エポキシ化合物としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製のエピコートYL903、大日本インキ化学工業社製のエピクロン152、エピクロン165、東都化成社製のエポトートYDB−400,YDB−500、ダウケミカル社製のD.E.R.542、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイド8011、住友化学工業社製のスミ−エポキシESB−400、ESB−700、旭化成工業社製のA.E.R.711、A.E.R.714等(何れも商品名)のブロム化エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のエピコート152、エピコート154、ダウケミカル社製のD.E.N.431、D.E.N.438、大日本インキ化学工業社製のエピクロンN−730、エピクロンN−770、エピクロンN −865、東都化成社製のエポトートYDCN−701、YDCN−704、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドECN1235、アラルダイドECN1273、アラルダイドECN1299、アラルダイドXPY307 、日本化薬社製のEPPN―201、EOCN−1025、EOCN−1020、EOCN−104S、RE−306、住友化学工業社製のスミ−エポキシESCN−195X 、ESCN−220、旭化成工業社製のA.E.R.ECN−235、ECN−299等(何れも商品名)のノボラック型エポキシ樹脂;大日本インキ化学工業社製のエピクロン830、ジャパンエポキシレジン社製のエピコート604、東都化成社製のエポトートYH−434、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドMY720、住友化学工業社製のスミ−エポキシELM−120等(何れも商品名)のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドCY−350(商品名)等のヒダントイン型エポキシ樹脂;ダイセル化学工業社製のセロキサイド2021、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドCY175、CY179等(何れも商品名)の脂環式エポキシ樹脂; ジャパンエポキシレジン社製のYL−933、ダウケミカル社製のT.E.N.、EPPN−501、EPPN−502等( 何れも商品名)のトリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のエピコート157S (商品名)等のビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のエピコートYL−931、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイド163等(何れも商品名)のテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂; チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアラルダイドPT810、日産化学工業社製のTEPIC等(何れも商品名)の複素環式エポキシ樹脂; 日本油脂社製ブレンマーDGT 等のジグリシジルフタレート樹脂; 東都化成社製ZX−1063等のテトラグリシジルキシレノイルエタン樹脂; 新日鉄化学社製ESN−190、ESN−360、大日本インキ化学工業社製HP−4032、EXA−4750、EXA−4700等のナフタレン基含有エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン社製のYX−8800等のアントラセン骨格を有するエポキシ樹脂;大日本インキ化学工業社製HP−7200、HP−7200H等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂; 日本油脂社製CP−50S、CP−50M等のグリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂;さらにシクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートの共重合エポキシ樹脂; エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体(例えばダイセル化学工業製PB−3600等)、CTBN変性エポキシ樹脂(例えば東都化成社製のYR−102、YR−450等)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にノボラック型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はそれらの混合物が好ましい。
【0023】
また前記分子中に3個以上のチオエーテル基を有する化合物としては、公知同様の合成方法を用いて、上記3官能以上の多官能エポキシ樹脂のエポキシ基の酸素原子を硫黄原子に置き換えたエピスルフィド樹脂なども用いることができる。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱硬化性樹脂の硬化剤を含有することができる。熱硬化性樹脂硬化剤は特に限定されず、アミン類、フェノール樹脂、酸無水物、カルボキシル基含有化合物、水酸基含有化合物などを挙げることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱硬化触媒を含有することができる。そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン化合物などが挙げられる。また、市販されているものとしては、例えば四国化成工業社製の2MZ−A、2MZ−OK、2PHZ、2P4BHZ、2P4MHZ(いずれもイミダゾール系化合物の商品名)、サンアプロ社製のU−CAT3503N、U−CAT3502T(いずれもジメチルアミンのブロックイソシアネート化合物の商品名)、DBU、DBN、U−CATSA102、U−CAT5002(いずれも二環式アミジン化合物及びその塩)などが挙げられる。特にこれらに限られるものではなく、熱硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂とその硬化剤との反応を促進するものであればよく、単独で又は2種以上を混合して使用してもかまわない。また、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−S−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS−トリアジン誘導体を用いることもできる。
【0026】
貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子は、少なくとも一つの貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子であり、一般的には平均粒径が数nm〜数十μmの大きさを有する非結晶性シリカ微粒子である。貫通孔の断面形状および孔径は、線状熱硬化性樹脂を充填することが可能であれば特に限定されないが、ハニカム構造を有するシリカ微粒子が好ましく、例えばハニカム構造を有するメソポーラスシリカが挙げられる。この「ハニカム構造」は、一般的に、断面が六角形等の多角形の貫通孔を有する筒状体が集合して形成された構造をいう。ハニカム構造を有するメソポーラスシリカの製法は特に限定されず、公知の方法で製造されたものを用いることができる。また、ハニカム構造を有するメソポーラスシリカは、市販のもの、たとえばアドマテックス社製のAdmaporous等を使用することができる。
【0027】
貫通孔の孔径およびハニカム構造を有するシリカ微粒子の細孔径は特に限定されないが、好ましくは1nm〜10nmであり、1nm未満であると線状熱硬化性樹脂を充分に連通させることが難しくなり、塗膜強度の低下する傾向にある。細孔径は、公知の吸着法で測定が可能である。
【0028】
前記シリカ微粒子の平均粒径は0.01〜10μmであることが望ましく、さらに望ましくは0.01〜5μmである。シリカ微粒子が大きすぎると回路基板を作製した際に微小配線の形成に悪影響を与える恐れがある。また、粒径が0.01μm未満の場合、シリカ微粒子の表面積が増大し、熱硬化性樹脂の量に対し充填率を大きくすることが困難となり望む特性を得ることが難しくなる。平均粒子径は、公知の方法で測定が可能であり、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0029】
前記シリカ微粒子を熱硬化性樹脂組成物に配合する際、シリカ微粒子は、溶媒に分散された形態であってもよいし、粉体の形態であってもよいが、熱硬化性樹脂の充填のしやすさや分散不良による粗粒子の発生予防の観点より、溶媒を主成分とするスラリー状の形態で配合することが理想的である。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マイカ等の公知慣用の無機フィラーを単独または複数種類を上記シリカ微粒子と併用して配合することができる。これらは塗膜の密着性、硬度、熱伝導性などの特性を向上させる目的で用いられ、絶縁信頼性の観点より球状シリカが好ましい。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子に線状熱硬化性樹脂を連通することにより得ることができる。連通は、前記シリカ微粒子の貫通孔の開孔径に依存した毛細管現象及びシリカ微粒子表面への樹脂組成物の吸着現象により発現されると考えられる。従って、連通させることのできる成分は、開孔径以下のものとなることが予想され、鋭意研究の結果、線状熱硬化性樹脂を含有することが好ましいことを見出した。また、吸着現象を利用する観点より、線状熱硬化性樹脂と親和性を有する有機修飾基、たとえばアルキル基やエポキシ基等をシリカ微粒子の表面及び孔内に導入することも有用である。連通は、あらかじめ貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子を熱硬化性樹脂に混合することにより連通させたマスターバッチを用いる方法や、樹脂組成物の調整の段階では、溶媒を主成分とするスラリー状態の非結晶性シリカ微粒子を経て、樹脂等を混合させて組成物を得たのち連通させる方法等が挙げられる。後者の方法の場合、組成物中で、シリカ微粒子スラリーの溶媒に熱硬化性樹脂組成物が拡散することや、樹脂組成物の乾燥又は熱硬化のプロセスにおける溶媒揮発の際、溶媒が存在していた箇所に樹脂組成物が移動する現象が考えられる。
【0032】
貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子は、線状熱硬化性樹脂100質量部に対して、一般に0.1〜75質量部、好ましくは1〜60質量部で使用することができる。貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子が0.1質量部より少ないと、シリカ微粒子の添加による効果が低く、80質量部より多いと、貫通孔内の充填率を大きくすることが困難となり望む特性を得ることが難しくなる。線状熱硬化性樹脂は、一般に組成物全体中の固形分比で1〜95質量%、好ましくは10〜90質量%の量で含有される。また、貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子は、一般に組成物全体中の固形分比0.1〜45質量%、好ましくは3〜35質量%の量で含有される。
【0033】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加熱硬化させて硬化物を得ることができ、硬化物は、硬化された線状熱硬化性樹脂が含まれる樹脂組成物が非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に連通されている。
【0034】
本発明の樹脂組成物とその硬化物において、貫通孔の75〜100%が線状熱硬化性エポキシエ樹脂が含まれる樹脂組成物で連通されていることが好ましく、貫通孔の90〜100%が連通されていることがより好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物とその硬化物において、非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に線状熱硬化性樹脂が含まれる樹脂組成物が連通されていることは、公知の方法で確認が可能であり、得られた熱硬化性樹脂組成物の硬化物の比重測定により確認し、貫通孔内への体積充填率(%)を求めることや、透過型電子顕微鏡による硬化物の観察により可能である。
【実施例】
【0036】
1.熱硬化性樹脂組成物の調製
以下の実施例1〜3では、貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子として、ハニカム構造を有するハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリー(アドマテックス社製PC−200G−MCA 有効シリカ量:15重量% 主溶媒:メチルエチルケトン)を用いた。比較例1では「球状多孔質シリカ微粒子のスラリー」を使用し、比較例2では「球状シリカ微粒子のスラリー」を使用し、これらは以下の方法で製造した。
【0037】
「球状多孔質シリカ微粒子のスラリー」の製造
フィラーとして球状多孔質シリカ微粒子(AGCエスアイテック社製 サンスフェアH−31)を用い、有機溶媒としてメチルエチルケトンを用いてスラリー状のものを作製した。まず、メチルエチルケトン40重量部と分散補助剤としてシランカップリング剤(信越シリコーン社製 KBM−403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)3重量部を攪拌機で予備し、球状多孔質シリカ微粒子100重量部を添加したのち再度攪拌機で予備分散を行った。次いで、このビーズミルを用いて有効シリカ量が70重量%の均一に分散したスラリーを製造した。
【0038】
「球状シリカ微粒子のスラリー」の製造
フィラーに球状シリカ微粒子(アドマテックス社製 アドマファインSO−E2)を用いた他は、球状多孔質シリカ微粒子のスラリーの製造法と同様の手法に従って、有効シリカ量が70重量%の球状シリカ微粒子のスラリーを得た。
【0039】
(実施例1)
ナス型フラスコに、熱硬化性樹脂として固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 jER1001 ビスフェノールA型エポキシ樹脂)および液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 jER828 ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、エポキシ樹脂硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成社製 2E4MZ)、シリカ微粒子スラリーとしてハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリー(アドマテックス社製PC−200G−MCA 有効シリカ量:15重量%)、添加剤としてアクリル系消泡レベリング剤、希釈溶剤としてジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを、表1に示す配合割合に秤量した。
【0040】
次いで、自転公転方式攪拌機を用い、十分に攪拌を行った後、ロータリーエバポレーターを用い、スラリー中のメチルエチルケトンを十分に揮発させて、熱硬化性樹脂をハニカム状メソポーラスシリカ微粒子へ充填させた熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1のハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリーの配合割合を267質量部から133質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0042】
(実施例3)
実施例1のエポキシ樹脂(固形エポキシ樹脂と液状エポキシ樹脂の併用)を固形エポキシ樹脂のみに変更した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0043】
(実施例4)
実施例4では、線状熱硬化性樹脂と他の熱硬化性樹脂(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)を併用し、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0044】
(実施例5)
実施例5では、実施例1の熱硬化性樹脂組成物に、フィラーとして球状シリカ微粒子を更に添加し、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0045】
(比較例1)
実施例1のハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリーに代えて球状多孔質シリカ微粒子のスラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。配合量は、実施例1と有効シリカの質量部をあわせた。
【0046】
(比較例2)
実施例1のハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリーに代えて球状シリカ微粒子のスラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。配合量は、実施例1と有効シリカの質量部をあわせた。
【0047】
(比較例3)
ハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリーを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0048】
(比較例4)
実施例1のビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0049】
(比較例5)
実施例1のビスフェノールA型エポキシ樹脂に代えてジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を用い、ハニカム状メソポーラスシリカ微粒子スラリーを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を得た。
【表1】

【0050】
表1において、組成物中の成分の配合量は、熱硬化性樹脂の配合量を100質量部とした場合の質量部で示す。表1に記載の各成分の名称および入手先は以下のとおりである。
【0051】
jER828:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製)
jER1001:固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製)
HP−7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製)
2E4MZ:2−エチル−4メチルイミダゾール(四国化成工業社製)
BYK−361N:アクリル系消泡レベリング剤(ビックケミー社製)。
【0052】
2.評価
(物性値測定用サンプルの作製)
得られた熱硬化性樹脂組成物を厚み18μmの銅箔の光沢面側にバーコーターを用いて塗工し、熱風循環式乾燥炉にて90℃で20分乾燥した後、170℃で60分硬化させた。次いで銅箔を剥離し、厚み50±3μmの物性値測定用フィルム状サンプルを得た。
【0053】
(線膨張係数測定)
得られた物性値測定用サンプルを、熱機械的分析装置(セイコーインスツルメンツ社製 TMA−120)を用いて、線膨張係数を測定した。昇温速度は、5℃/分とした。Tg前線膨張係数(α1)を40℃〜60℃の温度範囲で求めた。
【0054】
(弾性率、破断強度、伸び率測定)
得られた物性値測定用サンプルを、引っ張り試験機(島津製作所社製 オートグラフAGS−100N)を用いて、弾性率、伸び率を測定した。測定条件は、サンプル幅約10mm、支点間距離約40mm、引っ張り速度は1.0mm/minとし、破断時の強度を破断強度、破断時の伸び率を伸び率とした。
【0055】
線膨張係数、弾性率、破断強度、伸び率の測定結果を以下の表に示す。
【表2】

【0056】
球状多孔質シリカを含む比較例1および球状シリカを含む比較例2の組成物は、比較例3(シリカ微粒子を含有しない点を除けば比較例1および2と同じ組成を有する)と比べて、低い線膨張係数を有するが、破断強度は向上していない。
【0057】
一方、ハニカム構造を有するメソポーラスシリカを含む実施例1および2の組成物は、比較例3(シリカ微粒子を含有しない点を除けば実施例1および2と同じ組成を有する)と比べて、低い線膨張係数を有するとともに高い破断強度を有し、弾性率も高く、伸び率の損失も大きくない。また、実施例3の組成物は、熱硬化性樹脂として固形エポキシ樹脂のみを使用した本発明の例であるが、実施例1および2の組成物と同様、比較例3と比べて低い線膨張係数を有するとともに高い破断強度を有し、弾性率も高く、伸び率の損失も大きくない。また、実施例4の組成物は、線状熱硬化性樹脂とジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を併用した本発明の例であり、実施例5の組成物は、フィラーとして球状シリカ微粒子を更に添加した本発明の例であるが、これら実施例の組成物も、比較例3と比べて低い線膨張係数を有するとともに高い破断強度を有し、弾性率も高く、伸び率の損失も大きくない。
【0058】
比較例4および5は、熱硬化性樹脂として線状エポキシ樹脂ではないジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を使用した例であるが、シリカ微粒子を含有しない比較例5の組成物は、線膨張係数が高い上に、破断強度と伸び率も低く、これにハニカム構造を有するメソポーラスシリカを含有させると(比較例4)、比較例5と比べて線膨張係数は低下するが、破断強度と伸び率が著しく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状熱硬化性樹脂、および貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
線状熱硬化性樹脂と、貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子と、前記貫通孔を有する非結晶性シリカ微粒子以外の無機フィラーを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
線状熱硬化性樹脂が、線状エポキシ樹脂および線状エピスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
線状熱硬化性樹脂が、線状エポキシ樹脂及び線状エピスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種類と、3官能以上の非線状エポキシ樹脂の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記非結晶性シリカ微粒子が、ハニカム構造を有するシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記非結晶性シリカ微粒子が、1nm〜10nmの細孔径を有し、0.01〜10μmの平均粒径を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物であって、硬化された線状熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物が非結晶性シリカ微粒子の貫通孔に連通されていることを特徴とする硬化物。

【公開番号】特開2010−235806(P2010−235806A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86086(P2009−86086)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【Fターム(参考)】