説明

熱線反射積層体及び熱線反射層形成用塗布液

【課題】十分な熱線反射性能及び密着性を持つ熱線反射積層体及びそれを得るために十分な塗布性能を持つ熱線反射層形成用塗布液を提供することにある。
【解決手段】銀を含む金属微粒子、極性溶媒及びバインダー成分を含有する塗布液において、前記バインダー成分が下記(i)、(ii)を含み、バインダー成分中、(i)の割合が5〜80重量%であり、かつ、(ii)の割合が20〜95重量%であることを特徴とする熱線反射層形成用塗布液。
(i)親水基を持つ樹脂
(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線を透過し、熱線(赤外線)を反射する熱線反射積層体と、熱線反射層形成用塗布液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境技術に対する関心が高まっており、利便性、快適性を損なわずにエネルギー効率を高める技術は非常に注目されているが、その中で、熱線反射は自動車や建物の窓等に適用することによって、室内の快適性を向上させながら、空調に要するエネルギーを低減させる技術として期待が高まっている。
太陽光は可視光、紫外光の他に、エネルギーの約半分を占める赤外光を含んでいるが、赤外光は皮膚に当たるとその温度を上昇させ、いわゆるジリジリ感を催させ、また、物体一般に照射されるとその温度を上昇させるため熱線と呼ばれ、自動車、建物等の室内温度上昇の大きな要因となる。
【0003】
熱線遮蔽は、基材に入射した光のうち、可視光を透過させ、熱線を遮断するという技術で、窓等の透明な基材に適用した場合、窓等の透明性、視認性を保ちながらも熱線を遮蔽し、室内の温度上昇を抑制するという効果がもたらされる。
熱線の遮蔽方法としては、熱線を吸収させる方法及び熱線を反射させる方法が挙げられるが、遮蔽効率及び基材の保護という観点からは、一般的に熱線反射の方法が優れているとされ、熱線反射の中でも金属薄膜を利用する技術が熱線の高効率な反射を比較的低コストで実現するために特に有効である。
【0004】
金属薄膜を作製するためには、真空蒸着法やスパッタ法などのドライ製膜法や塗布による製膜法があるが、特に塗布による製膜法は、比較的簡便な装置で適用でき、生産コストが抑制できる点や細かな曲面など複雑な形状を持つ基材への適用が可能である点などから有用である。
この方法においては、金属微粒子を含有する塗布液を基材に塗布・乾燥して、金属微粒子が広範囲にわたって集合化した薄膜を形成し、その後焼成処理を行うことにより、金属微粒子同士を融着させ、高い可視光透過率と熱線反射性を両立した金属薄膜形態の熱線反射層を得ることができる。
【0005】
ここで、金属微粒子含有塗布液の基材に対する塗布性能や、作製される熱線反射層の耐久性・密着性を支配する大きな要因の一つは塗布液及び熱線反射層に含有されるバインダーの性質である。
バインダーには、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが用いられるが、分子内に化学的に活性な部位を持つ化合物が密着性の向上などの観点から有効である。中でも、アルコキシシランを加水分解することによって生成するシラノール基を含有する化合物はバインダーとして有用であることが知られている。
【0006】
具体的には、特許文献1においては、アルコキシシラン加水分解物の重縮合物(MSEP2)をバインダーとして用いることによって、十分なガラス基材への塗布性能を持つ塗布液を作製し、密着性の高い熱線反射層を得ることに成功している。他に、特許文献2においても、アルコキシシランである正ケイ酸エチルを加水分解し、金属薄膜形成用塗布液のバインダー成分としている。
【0007】
また、特許文献3においては、ガラス基板上に作製された金属微粒子から成る薄層に、メチルシリケートを主成分とするシリカゾル液を塗布して、金属薄膜のバインダーとし、
金属薄膜の膜強度と基材に対する密着性を向上させている。
しかしながら、従来技術は、熱線反射性能及び密着性の両方を十分に満足するものではなく、更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2010/047391
【特許文献2】特開2001−64540
【特許文献3】特開2001−229731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、十分な熱線反射性能及び密着性を持つ熱線反射積層体及びそれを得るために十分な塗布性能を持つ熱線反射層形成用塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、金属微粒子と極性溶媒とバインダー成分とを含む熱線反射層形成用塗布液において、該バインダー成分が、(i)親水基を持つ樹脂と、(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物を共に含有し、かつ、バインダー成分中の(i)(ii)の割合が特定の範囲内である場合に上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)銀を含む金属微粒子、極性溶媒及びバインダー成分を含有する塗布液において、前記バインダー成分が下記(i)、(ii)を含み、バインダー成分中、(i)の割合が5〜80重量%であり、かつ、(ii)の割合が20〜95重量%であることを特徴とする熱線反射層形成用塗布液。
(i)親水基を持つ樹脂
(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物
(2)前記アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量が350以下であることを特徴とする(1)に記載の熱線反射層形成用塗布液。
【0012】
(3)前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコール又は/及びその誘導体であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の熱線反射層形成用塗布液。
(4)前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の熱線反射層形成用塗布液。
(5)前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシラン又はトリアルコキシメチルシランであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の熱線反射層形成用塗布液。
【0013】
(6)透明基材上に、熱線反射層を有する積層体において、該熱線反射層は銀を含む金属成分及びバインダー成分を有し、かつ前記バインダー成分が下記(i)、(ii)を含み、バインダー成分中、(i)の割合が5〜80重量%であり、かつ、(ii)の割合が20〜95重量%であることを特徴とする熱線反射積層体。
(i)親水基を持つ樹脂
(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物
(7)前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコール又は/及びその誘導体であることを特徴とする(6)に記載の熱線反射積層体。
【0014】
(8)前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする(6)
に記載の熱線反射積層体。
(9)前記熱線反射層に接する保護層を有し、かつ、保護層がシリカ又は/及びシラノール基を有する化合物を含有することを特徴とする(6)ないし(8)のいずれかに記載の熱線反射積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱線反射層形成用塗布液によれば、基材に対する塗布性能が高いため、大きな面積を持つ基材に均一に塗布された、良好な外観を持つ熱線反射層を作製することができる。作製された熱線反射層は、高い熱線反射性能と基材に対する密着性を持ち、特にガラス基板に対する密着性に優れる。このような熱線反射層を含有する窓材を用いることで、建物や自動車の内部の快適性の向上、エアコン負荷の低減による省エネルギー化が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容には特定されない。
[熱線反射層形成用塗布液]
本発明の熱線反射層形成用塗布液は、金属微粒子、バインダー及び溶媒を含有する。以下、単に塗布液との記述は熱線反射層形成用塗布液を指す。
【0017】
(金属微粒子)
本発明における金属微粒子とは、複数の金属原子が結合して形成される塊状の構成物である。微粒子を構成する金属原子種は、単一であっても複数種よりなる合金であってもよいし、異種の金属微粒子が二種以上混合されていてもよい。
金属微粒子は銀を成分として含む。金属微粒子を構成する全金属中に含まれる銀の含有割合は30重量%以上であることが好ましく、特に50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが更に好ましく、80重量%以上であることが特に好ましく、85重量%以上であることがとりわけ好ましい。全金属中の銀の含有量が少なすぎる場合、熱線反射性能が不十分となる場合がある。なお、熱線反射性能を高めるには金属微粒子を構成する全金属中の銀の含有量が100重量%であることが好ましいが、耐光性をより高める観点では熱線反射層を構成する全金属中に含まれる銀の含有量は好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。この場合、銀以外に含有される金属種としては、Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Cu、Fe、Ni、Co、Sn、Ti、In、Al、Ta、Sbなどが挙げられるが、耐腐食性の観点から、Au(金)もしくはPd(パラジウム)が好ましく、特に色調の観点からPdが好ましい。
【0018】
塗布液中の金属微粒子の平均粒子径は、通常100nm以下、好ましくは、1〜50nm、さらに好ましくは2〜50nmである。平均粒子径が大きすぎると形成される金属薄膜の金属光沢が強くなり、さらに金属微粒子による光の散乱に起因する白濁が外観に見られるようになる場合がある。金属微粒子の平均粒子径が小さすぎると、金属微粒子が凝集しやすく、塗布液の安定性が得にくい場合がある。上記の範囲の粒子径であれば、好適な熱線反射層の外観と微粒子の分散安定性を共に得ることができる。
【0019】
金属微粒子の粒子径の測定は、動的光散乱測定による平均粒子径測定であってもよいし、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡による直接観測によって測定される平均粒子径であってもよい。本発明においては、測定された金属微粒子の粒子径の50点の平均値を平均粒子径とする。
金属微粒子は、異なる金属種のものを2種以上用いる場合は、平均粒子径の異なる金属微粒子を混合して用いてもよい。
【0020】
(極性溶媒)
上記熱線反射層形成用塗布液の溶媒としては、水との混合液における重量比率が5〜95%の範囲のいずれかの混合比率において、常温常圧で均一な溶液を形成できるものが好ましい。
このような溶媒を塗布液の分散媒として用いることで、金属微粒子の分散安定性を向上させ、塗膜における凝集物の発生を抑制する効果やバインダーの塗布液中における溶解性を向上させる効果が得られ、塗布液の保存安定性、基材への塗布性が向上する。
【0021】
かかる極性溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、1−エトキシ−2−プロパノールなどのアルコール類;酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類などが挙げられ、中でも、水、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、1−エトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0022】
これらの溶媒は1種を単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用し、その内の1種が水であることが好ましい。塗布液が水を含有することで、該金属微粒子の分散性向上効果、形成される塗膜の凝集物抑制効果が得られる。極性溶媒中の水の含有割合は、好ましくは5〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜90重量%である。
【0023】
(バインダー成分)
バインダー成分は、熱線反射層形成用塗布液の基材に対する塗布性能の観点から熱線反射層に含まれる。また、後述する熱線反射層の耐久性・密着性の向上に対しても大きな効果がある。
本発明の熱線反射層形成用塗布液は、バインダー成分として、親水基を持つ樹脂と、アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物を共に含有する。
【0024】
{(i)親水性基を持つ樹脂}
本発明の熱線反射層形成用塗布液においては、金属微粒子が、極性溶媒、特に水を含む極性溶媒に分散できることが好ましい。そのため、バインダー成分に親水基を持つ樹脂が含まれることが、極性溶媒に対する溶解性の観点から好ましい。また、親水基を持つ樹脂は、後述するアルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物が金属微粒子の融着を阻害するのを抑制する効果がある。
【0025】
親水基としては、ヒドロキシル基、オキシエチレン基等のオキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基、モルホリニル基、N−ピロリドニル基、アミド基、ニトロ基、シアノ基等のノニオン性基、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基等のアニオン性基、アンモニウム基、テトラアルキルアンモニウム基、ピリジニウム基等のカチオン性基が挙げられる。
【0026】
上記の中でも、ノニオン性、又はアニオン性の親水基が好ましく、特に好ましくは、ヒドロキシル基である。これらは金属に対して、強すぎない適度な相互作用を持つことから
、金属微粒子の融着を速やかに進行させるため、バインダーの親水基として好適に用いられる。
かかる親水性基を含むバインダーとしては、ポリビニルアルコール、部分ベンジル化ポリビニルアルコール、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリヒドロキシエチルアクリレート(もしくはメタクリレート)等が挙げられ、好ましくは、ポリビニルアルコール又は、部分ベンジル化ポリビニルアルコール、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール、アシル化ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル等)等のポリビニルアルコール誘導体である。
【0027】
かかる化合物の内、好適に用いられる市販の製品として、具体的には、完全けん化ポリビニルアルコールPVA117(クラレ工業)、部分けん化ポリビニルアルコールPVA505(クラレ工業)、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール エスレックKS−1、KS−10(積水化学工業)、部分ベンザール化ポリビニルアルコール エスレック KX−1(積水化学工業)などが挙げられる。
【0028】
{(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物}
アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物は、塗布液から作製される熱線反射層の耐久性・密着性を向上させるために加えられる。しかしながらかかる化合物は、塗布液を基材に塗布した後、焼成する際に金属微粒子の融着を妨げ、結果として形成される熱線反射層が十分な熱線反射性能を得られない傾向がある。この理由としては、加水分解処理によって生成するシラノール基が化学的に活性なため、金属微粒子表面に強く吸着し、金属微粒子同士の接触を妨げるからであると考えられる。この傾向は平均分子量の大きなものの方が高い。かかる観点から、アルコキシシラン加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量は、小さい方が好ましく、通常350以下であり、好ましくは320以下、より好ましくは300以下である。アルコキシシラン加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量は、塗布液から揮発してしまうことを防ぐため、通常は85以上である。アルコキシシラン加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量は、例えばGPC/MS、MALDI/TOFMSで測定できる。尚、本発明においてアルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量は、塗布液中に含まれるアルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の全体での数平均分子量を意味する。
【0029】
かかる化合物として好適に用いられるものは、具体的には、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等)、アルキルトリアルコキシシラン(トリメトキシメチルシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等)、アリールトリアルコキシシラン(フェニルトリメトキシシラン等)、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン等のアルコキシシラン類、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤、の加水分解物及びその部分縮合物が挙げられる。
【0030】
{(i)(ii)の配合割合}
本発明の熱線反射層形成用塗布液は、バインダー成分に、前記親水基を持つ樹脂と、アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物を共に、適切な量を含むことにより、基材に対する高い塗布性能を獲得し、また、作製される熱線反射層は高い密着性・反射性能が付与される。
【0031】
バインダー成分のうち、親水基を持つ樹脂の含有量は、5〜80重量%、好ましくは7〜65重量%、より好ましくは10〜60重量%である。含有量が少なすぎると、塗布液の塗布性能が低下する傾向があり、多すぎると作製される熱線反射層が水を含みやすくな
り、密着性が低下する。
バインダー成分のうち、アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の合計の含有量は、20〜90重量%、好ましくは35〜85重量%、より好ましくは40〜80重量%である。含有量が少なすぎると、作製される熱線反射層の密着性が低下し、多すぎると塗布液の塗布性能が低下し、基材に形成された液膜の収縮が発生する可能性がある。
【0032】
バインダー成分として、(i)(ii)以外に併用可能なものとしては、ポリメチルアクリレート(もしくはメタクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。
(分散剤)
上記熱線反射層形成用塗布液には分散剤が含まれていることが好ましい。分散剤とは、金属微粒子表面に親和性を持ち、かつ、金属微粒子の分散安定性を向上させる機能を持った化合物である。分散剤は塗布液に加えられているだけでなく、金属微粒子表面を被覆していてもよい。
【0033】
分散剤としては、多価カルボン酸又は/及びその誘導体が望ましい。多価カルボン酸又は/及びその誘導体としては例えば、シュウ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、Lーグルタミン酸、Lーアスコルビン酸等及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エステル化合物、アミド化合物が挙げられる。これらの化合物は1分子の中に電荷を多く持ち得るために、金属微粒子の分散安定性に対する寄与が大きく、さらに好適な還元性を持つために、塗布液を基材に塗布した後の焼成過程において、金属微粒子の融着を促進させることができる。これらの分散剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
上記分散剤の含有量は塗布液中の金属微粒子に対し、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%である。分散剤の量が少な過ぎると金属微粒子に対する分散剤の量が不十分となり、金属微粒子が凝集しやすい傾向にあり、塗布液の安定性が得にくい場合がある。分散剤量が多過ぎると金属微粒子の融着を阻害し、得られる熱線反射層の反射性能が低下する場合がある。
(その他の添加剤)
本発明の熱線反射層形成用塗布液には、これに含まれる金属の劣化を防止する目的で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面処理剤、赤外線吸収剤、複素環式化合物などの各種添加剤が含まれていても良い。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記添加剤の含有量は塗布液中の金属微粒子に対し、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜10重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0035】
(熱線反射層形成用塗布液の組成)
熱線反射層形成用塗布液における固形分(ここで、固形分とは、塗布液中の溶媒を除く
、全成分の合計をさす)の濃度は、30重量%以下であることが好ましく、より好ましく
は20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下である。
固形分の濃度が高いと、塗布液中の各成分の相互作用が大きくなり、塗布液を長期保存する際に沈殿が生じる可能性が高くなる。一方、塗布の効率等の点から、通常、0.1重量%以上、好ましくは、0.5重量%以上である。
【0036】
また、全固形分中、金属量は、通常70.0〜99.9重量%、好ましくは80〜99重量%、より好ましくは90〜98重量%、さらに好ましくは90〜97重量%である。金属量が少なすぎる場合、作製される熱線線反射層の熱戦反射性能が不十分となる傾向が
ある。但し、金属量が多過ぎると、熱線反射層の透明性を高めるために膜厚を薄くせざるをえず、この結果、熱線反射層の均一性が損なわれ、美観が損なわれる恐れがある。
【0037】
また、全固形分中、バインダー成分量は、通常0.1〜30.0重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜10重量%、さらに好ましくは3〜10重量%である。バインダー成分量が多すぎる場合、作製される熱線反射層の金属的性質が低下し、熱線反射性能が不十分となる傾向がある。ただし、バインダー成分量が少な過ぎると、熱線反射積層体に十分な耐久性・密着性が付与されない傾向がある。
【0038】
(熱線反射層形成用塗布液の製造方法)
本発明の塗布液は、上記各成分を固体もしくは溶液の状態で極性溶媒と混合することによって得られる。溶媒の沸騰、凍結や固体成分の昇華などによって最終的な塗布液の組成が著しく変化することがなければ、塗布液調製時の温度、圧力などは制限されない。
また、各成分を混合する順序も基本的には任意である。例えば、塗布液の成分のうち、一つまたは二つ以上を除く成分をあらかじめ混合しておき、使用する直前に残りの成分を加えて本発明の塗布液の形態にしてもよいし、濃縮された分散液の状態で輸送、保管を行い、使用する直前に極性溶媒によって本発明の形態に希釈してもよい。また、塗布液の固形分を乾燥体として保管し、使用前に極性溶媒に分散させて塗布液を得てもよい。
【0039】
[熱線反射積層体]
本発明の熱線反射積層体は、透明基材上に、金属とバインダー成分を含む熱線反射層を有し、必要に応じて該熱線反射層上に保護層が設けられる。通常、これらの層が順次積層された構成を有する。
(透明基材)
本発明の熱線反射積層体に使用することができる透明基材の材料としては、各種樹脂やガラス等を用いることができる。透明基材に使用可能な材料の例としては、ソーダガラスや強化ガラスなどの無機ガラスが透明性、加工性、耐薬品性、耐擦傷性の観点から窓材に好ましく、その他に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、繊維素系樹脂、セラミック等が挙げられる。
【0040】
熱線反射層との密着性を向上させるために、透明基材の成分としてシラノール基を持つ化合物が含有されていることが好ましく、この観点からは、基材として無機ガラスが特に好ましい。
{形態}
透明基材の形態は、板、シート、フィルムなど任意であり、平面状(平板状)であっても曲面を有していてもよい。
【0041】
{厚み}
透明基材の厚みは、その形態に応じて適宜選択される。板状もしくはシート状の場合、透明基材の厚みは通常0.1mm〜10cmである。透明基材が薄過ぎると得られる積層体の機械的強度が低くなる傾向がある。また、透明基材が厚過ぎると透明性が低くなり、窓等に用いた際に視界が悪くなる場合がある。また、フィルム状の場合、透明基材の厚みは通常10μm〜0.5mmである。厚みが10μm未満ではハンドリングが悪くなる傾向があり、0.5mmを超えるとフィルムとしてのフレキシビリティーに劣るものとなる場合がある。
【0042】
(熱線反射層)
本発明の熱線反射層形成用塗布液を基材に塗布した後、焼成を行うことで熱線反射層が得られる。
{金属成分}
熱線反射層に含まれる金属成分の金属種、成分比は塗布液におけるものと同様である。
【0043】
{バインダー成分}
熱線反射層に含まれるバインダー成分には、親水基を持つ樹脂と、アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物を共に含有する。
親水基を持つ樹脂の好ましい種類は、塗布液におけるものと同様である。
アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の好ましい種類は、塗布液におけるものと同様であるが、平均分子量は、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上である。平均分子量が大きいほど熱線反射層の膜強度が大きくなる。
【0044】
バインダー成分中の、親水基を持つ樹脂と、アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の配合割合は、塗布液における配合割合と同様である、
{組成}
熱線反射層の組成は、塗布液の固形分における組成と同様である。
{熱線反射層の厚さ}
熱線反射層の膜厚は好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上、より好ましくは12nm以上、より好ましくは15nm以上、更に好ましくは20nm以上、とりわけ好ましくは25nm以上であり、また、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、更に好ましくは60nm以下、とりわけ好ましくは50nm以下である。熱線反射層の膜厚が小さ過ぎると、十分な熱線反射性能が得られないばかりでなく、膜欠陥が生じやすいため、耐久性が劣る場合がある。一方、熱線反射層の膜厚が大き過ぎると、透明性の低下又は/及び可視光線反射率の増加に起因する金属光沢感(いわゆるぎらつき)の増加の問題が生じる恐れがある。
【0045】
(保護層)
熱線反射層上に保護層を設けることで、熱線反射層に含有される金属の腐食の抑制、擦過や衝撃などの物理的な破壊要因からの熱線反射層の保護が可能である。保護層は、熱線反射層に接する様に設けることが、金属腐食の抑制及び生産性向上のために好ましい。
保護層主成分としては、有機高分子、無機化合物などが挙げられる。有機高分子としては、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアルキレングリコール、エポキシ樹脂などが挙げられ、ガラス転移温度が高く、耐熱性が良好であるという観点からはアクリル樹脂が好ましい。
【0046】
無機化合物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物、シリカ、シリコーン樹脂などが挙げられ、製膜の容易さの観点からは、ゾルゲル法によって作製されるシリカ被膜及び熱硬化型シリコーン樹脂が好ましい。
また、熱線反射層との密着性を向上させるという観点からは、保護層の成分としてシリカ又は/及びシラノール基を持つ化合物が含有されていることが好ましく、シラノール基を持つ化合物としては、例えばテトラエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の加水分解物及びその部分縮合物等が挙げられる。シリカ又は/及びシラノール基を持つ化合物の合計の含有量は、通常0.1〜95重量%、好ましくは0.5〜90重量%、より好ましくは1〜85重量%である。
【0047】
また、本発明における保護層は、大きな耐擦過性及び耐衝撃性を付与するという観点からは、ハードコート層(硬い層)であることが好ましく、その硬さは、JIS K5600−5−4の引っかき硬度(鉛筆法)試験において、通常HB以上、好ましくはH以上、より好ましくは2H以上である。好適に用いられる市販のハードコート層形成用塗布液としては、トスガード510(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、シラノール基を有するポリアルキルシロキサンを含有)、SHC−900(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、シラノール基を有する化合物を含有)、KP−851、KP−854(以上、信越シリコーン(株)製、シラノール基を有する化合物を含有)、AY42−150(東レダウコーニング、多官能アクリレート化合物を含有)、AY42−151(東レダウコーニング、アクリレート化合物を含有)、NSC−1520(日本精化(株)製、シラノール基を有する化合物の重合体を含有)、NSC−5100(日本精化(株)製、シラノール基を有する化合物の重合体を含有)、アクアミカNL110−20(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、ポリ(ペルヒドロシラザン))、アクアミカNL110A−20(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、ポリ(ペルヒドロシラザン))、などが挙げられる。
保護層の厚さは、通常0.1〜200μm、好ましくは、0.5〜150μm、特に好ましくは、1〜100μmである。保護層が厚すぎると保護層による赤外線吸収の影響が大きくなり、積層体の熱線反射性能が低下し、薄すぎると耐擦過性・耐衝撃性の効果を十分に得ることができない場合がある。
【0048】
[熱線反射積層体の製造]
本発明の熱線反射積層体の製造は、透明基材上に、熱線反射層を形成し、必要であれば、さらに保護層を積層することにより行なうことができる。
(熱線反射層の形成)
本発明の熱線反射層形成用塗布液を基材に塗布する方法としては、特に制限はなく、ディップコート法、フローコート法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等、従前知られるいずれの塗工方法によっても塗布することができる。
【0049】
その後、焼成を行うことにより、熱線反射層の熱線反射性能を向上させることができる。この時の焼成温度は、通常70〜300℃、好ましくは、100〜200℃、より好ましくは、100〜150℃である。この温度が高すぎると、金属微粒子の融着が進行し過ぎて熱線反射層の耐久性が低下する傾向があり、低すぎると十分な熱線反射性能を得ることが困難な場合がある。
【0050】
また、焼成時間は、通常10秒〜6時間、好ましくは、1分〜2時間、より好ましくは1分〜30分間である。焼成時間が長すぎると生産効率が劣ることとなり、短すぎると熱線反射性能が不十分となる恐れがある。
(保護層の形成)
本発明の保護層の形成方法には特に制限はなく、ドライ製膜法によるものでも塗布液を塗布するなどの湿式製膜法によるものでもよい。
【0051】
{ドライ製膜法}
ドライ製膜法による場合には、真空蒸着法、スパッタリング法や化学気相蒸着法で、金属酸化物などによる保護層を形成させる方法がある。
{湿式製膜法}
本発明の熱線反射層が湿式製膜法で作製されることから、熱線反射層の製膜と共通の設備を用いて連続的に実施できるという観点において、湿式製膜法が好ましい。
【0052】
湿式製膜法については特に制限されず、保護層形成用の塗布液を、ディップコート法、フローコート法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法、カーテンコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等、従前知られるいずれの塗工方法によっても塗布することができる。
その後、通常、乾燥することで保護層を形成するが、特に、保護層形成用溶液として、前述のハードコート層形成用塗布液を用いる場合には、乾燥後、常法に準じて、例えば、70℃〜200℃で、1分〜3時間加熱するか、例えば、100mJ/m〜10000mJ/mのエネルギーで紫外線照射することによりハードコート層を形成する。
【0053】
[用途]
本発明の熱線反射積層体は、建物や自動車等の窓材として使用できる。例えば熱線反射積層体を車の窓材として使用する場合、熱線反射積層体の透明基材側を車の外側に向けた方が、熱線反射層の耐久性の観点からは好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下、熱線反射層塗布液との記述は、熱線反射層形成用塗布液を指す。
[実施例1]
<熱線反射層塗布液1の調製>
トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製
)0.06重量部をメタノール(純正化学株式会社製)13.4重量部に溶解した後、正ケイ酸テトラエチル(東京化成工業株式会社製,TEOSと略す)8.5重量部、脱塩水1.5重量部を加えて、60℃で30分間攪拌した。得られた溶液1重量部に対して、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル:和光純薬工業株式会社製)を35重量部加えて希釈した。得られた希釈溶液75重量部に、銀コロイド水溶液(動的光散乱法で
評価された銀微粒子の平均粒子径21.2nm、固形分濃度10.6重量%、pH=5.1)を300重量部、ポリビニルアルコール水溶液(株式会社クラレ製「PVA117」
の溶液、固形分濃度1重量%)を25重量部、PGMを300重量部加えて混合し、熱線反射層塗布液1を調製した。尚、塗布液1中では、原料であるTEOSは、完全に加水分解されてSi(OH)(分子量96)になっていると予想される。
【0055】
<熱線反射積層体1−1の作製>
熱線反射層塗布液1をガラス基板(青板ガラス、基板サイズ10cm×10cm、厚み
3mm)に約2mL滴下し、500rpm、30秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製「1H−D7」)により塗布した後、温風を吹き付けて乾燥させた。その後、150℃の定温乾燥器(アズワン株式会社製「DO−450FPA」)内で30分間加熱して熱
線反射積層体1−1を作製した。
【0056】
<熱線反射積層体1−2の作製>
熱線反射積層体1−1に、熱硬化型ハードコート液トスガード510(モメンティブ・マテリアルズ・パフォーマンス・ジャパン合同会社製、成分としてシラノール基を有するポリアルキルシロキサンを含む、固形分濃度21重量%)を約2mL滴下し、300rpm、30秒の条件でスピンコーターにより塗布し、温風を吹き付けて乾燥させた後、120℃の定温乾燥器内で10分間加熱処理して、熱線反射積層体1−2を作製した。
【0057】
[実施例2]
<熱線反射層塗布液2の調製>
正ケイ酸テトラエチルの代わりに、トリメトキシメチルシラン(東京化成工業株式会社製,TMMSと略す)を用いたこと以外は、熱線反射層塗布液1の調製と同様の操作を行
って、熱線反射層塗布液2を調製した。尚、塗布液2中では、原料であるTMMSは、完全に加水分解されてCHSi(OH)(分子量94)になっていると予想される。
【0058】
<熱線反射積層体2−1の作製>
熱線反射層塗布液1の代わりに、熱線反射層塗布液2を用いたこと以外は、熱線反射積層体1の作製と同様の操作を行って、熱線反射積層体2−1を得た。
<熱線反射積層体2−2の作製>
熱線反射積層体1−1の代わりに、熱線反射積層体2−1を用いたこと以外は、熱線反射積層体1−2の作製と同様の操作を行って、熱線反射積層体2−2を得た。
【0059】
[実施例3]
<熱線反射層塗布液3の調製>
TEOSの代わりに、メチルトリエトキシシラン(キシダ化学株式会社製,MTEOSと略す)を用いたこと以外は、熱線反射層塗布液1の調製と同様の操作を行って、熱線反射層塗布液3を調製した。尚、塗布液3中では、原料であるMTEOSは、完全に加水分解されてCHSi(OH)(分子量94)になっていると予想される。
【0060】
<保護層形成用塗布液3の調製>
トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.06重量部をメタノー
ル13.4重量部に溶解した後、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)8.5重量部、脱塩水1.5重量部を加え、60℃で30分間攪拌した。得られた溶液2重量部にトスガード510を70重量部加え、保護層形成用塗布液3を得た。
【0061】
<熱線反射積層体3の作製>
熱線反射層塗布液3をガラス基板(熱線吸収ガラス、基板サイズ10cm×10cm、
厚み4mm)に約2mL滴下し、1000rpm、30秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製「1H−D7」)により塗布した後、温風を吹き付けて乾燥させた。作製された薄膜上に再び熱線反射層塗布液3を滴下し、同様の操作により塗布を行った。その後、180℃の定温乾燥器内で30分間加熱して熱線反射積層体を作製した。この熱線反射積層体に、保護層形成用塗布液3を約2mL滴下し、300rpm、30秒の条件でスピンコーターにより塗布し、温風を吹き付けて乾燥させた後、120℃の定温乾燥器内で10分間加熱処理して、熱線反射積層体3を作製した。
【0062】
[比較例1]
<熱線反射層塗布液Aの調製>
トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.06重量部をメタノー
ル13.4重量部に溶解した後、TEOS8.5重量部、脱塩水1.5重量部を加えて、60℃で30分間攪拌した。得られた溶液1重量部に対して、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル:和光純薬工業株式会社製)を35重量部加えて希釈した。得られた希釈溶液1重量部に、銀コロイド水溶液(動的光散乱法で評価された銀微粒子の平均
粒子径21.2nm、固形分濃度10.6重量%、pH=5.1)を3重量部、PGMを
3重量部加えて混合し、熱線反射層塗布液Aを調製した。尚、塗布液A中では、原料であるTEOSは、完全に加水分解されてSi(OH)(分子量96)になっていると予想される。
【0063】
<熱線反射積層体A−1の作製>
熱線反射層塗布液Aをガラス基板(青板ガラス、基板サイズ10cm×10cm、厚み
3mm)に約2mL滴下し、500rpm、30秒の条件でスピンコーター(ミカサ株式会社製「1H−D7」)により塗布した後、温風を吹き付けて乾燥させたが、ガラス基板上
で塗布液の液膜が収縮を起こしたため、基板上に均一に塗布することはできなかった。その後、150℃の定温乾燥器(アズワン株式会社製「DO−450FPA」)内で30分
間加熱して熱線反射積層体A−1を作製した。
【0064】
<熱線反射積層体A−2の作製>
熱線反射積層体1−1の代わりに、熱線反射積層体A−1を用いたこと以外は、熱線反射積層体1−2の作製と同様の操作を行って、熱線反射積層体A−2を得た。
[比較例2]
<熱線反射層塗布液Bの調製>
トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.06重量部をメタノー
ル(純正化学株式会社製)13.4重量部に溶解した後、MTEOS8.5重量部、脱塩水1.5重量部を加えて、60℃で30分間攪拌した。得られた溶液1重量部に対して、PGMを35重量部加えて希釈した。得られた希釈溶液25重量部に、銀コロイド水溶液を300重量部、ポリビニルアルコール水溶液を75重量部、PGMを300重量部加えて混合し、熱線反射層塗布液Bを調製した。尚、塗布液B中では、原料であるMTEOSは、完全に加水分解されてCHSi(OH)(分子量94)になっていると予想される。
【0065】
<熱線反射積層体Bの作製>
熱線反射層塗布液3の代わりに、熱線反射層塗布液Bを用いたこと以外は、熱線反射積層体3の作製と同様の操作を行って、熱線反射積層体Bを得た。
熱線反射層形成用塗布液及び作製された熱線反射積層体に対して、以下の評価を行った。
[熱線反射層形成用塗布液の塗布性能]
熱線反射層形成用塗布液を基板に塗布して作製された熱線反射積層体を観察し、基板全体に熱線反射層が均一に形成されている場合には○、基板全体に塗布できず、塗れていない部分が生じている場合には×として熱線反射層形成用塗布液の塗布性能を評価した。
【0066】
[日射反射率]
実施例1,2、比較例1の保護層形成前の熱線反射積層体1−1、2−1、A−1について、熱線反射層を付与した側から、分光反射率を分光光度計(日立製作所製「U−40
00」)により測定し、ISO9050で規定される波長範囲の分光反射率を用いて該規
格に記載される計算方法に従い日射反射率(the solar direct reflectance)を求めた。但し、分光反射率は、入射角10度、光吸収暗幕シート(
#65、エドモンド・オプティックス・ジャパン株式会社製)を光トラップとして測定し
た鏡面反射率である。
【0067】
また、実施例3、比較例2の保護層形成後の熱線反射積層体3、Bについて、熱線反射層を付与していない側から測定した以外は、上述と同様の方法で、日射反射率を測定した。
[密着性試験]
実施例1〜3、比較例1,2の保護層形成後の熱線反射積層体1−2、2−2、3、A−2、Bについて、試料の被評価箇所に、ガイド(スーパーカッターガイド, 太佑機材株
式会社製)を用いて、カッターによって縦横11本ずつの交差する切込みを1mm間隔で
入れ、切込みの上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標) No.405−1P、ニチバン, JIS Z−1522に適合)を貼り付けた後、テープの端を60°程度の角度を
つけて持ちながら、一気に引き離した。テープの貼りはがしを5回繰り返した。被評価箇所を観察し、JIS−5600−5−6に従って、剥離度合を分類した。
【0068】
また、熱線反射積層体3及びBについては、以下の条件で温水浸漬を行った後にも、上
記と同様の密着性試験を行った。
(温水浸漬)
脱塩水を満たした容器を40℃の恒温槽(IN81、ヤマト科学株式会社製)中に12時間以上静置した後、前記脱塩水に、熱線反射積層体3及びBを浸し、そのまま40℃の恒温槽中で70時間静置した。
【0069】
上記評価結果を表1、表2に示す。
表1、表2における塗布液中のバインダー成分の配合割合は、原料であるアルコキシシランが、塗布液中では完全に加水分解していると予想した上で、原料であるPVAとアルコキシシランの仕込み比率より計算した値である。熱線反射膜中の、(i)親水基を持つ樹脂の割合、(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の割合は、塗布液中の場合とほぼ同様になると考えられる。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1より、実施例1,2は、熱線反射形成用塗布液の塗布性能が良好で、かつ、熱線反射積層体の日射反射率、密着性も良好であることが解る。比較例1は、熱線反射形成用塗布液の塗布性能が悪く、熱線反射層が基板全体を覆っておらず、製品として良好なものが作れないことが解る。また、比較例1の熱線反射積層体の日射反射率は低い。
表2より、実施例3は、熱線反射層形成用塗布液の塗布性能が良好で、かつ、熱線反射積層体の日射反射率が高く、温水試験後においても高い密着性を保持していることが解る。比較例2は、熱線反射積層体の日射反射率が実施例3より低く、かつ熱線反射積層体の温水試験後の密着性が大きく低下していることが解る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含む金属微粒子、極性溶媒及びバインダー成分を含有する塗布液において、前記バインダー成分が下記(i)、(ii)を含み、バインダー成分中、(i)の割合が5〜80重量%であり、かつ、(ii)の割合が20〜95重量%であることを特徴とする熱線反射層形成用塗布液。
(i)親水基を持つ樹脂
(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物
【請求項2】
前記アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物の平均分子量が350以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱線反射層形成用塗布液。
【請求項3】
前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコール又は/及びその誘導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱線反射層形成用塗布液。
【請求項4】
前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱線反射層形成用塗布液。
【請求項5】
前記アルコキシシランが、テトラアルコキシシラン又はトリアルコキシメチルシランであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の熱線反射層形成用塗布液。
【請求項6】
透明基材上に、熱線反射層を有する積層体において、該熱線反射層は銀を含む金属成分及びバインダー成分を有し、かつ前記バインダー成分が下記(i)、(ii)を含み、バインダー成分中、(i)の割合が5〜80重量%であり、かつ、(ii)の割合が20〜95重量%であることを特徴とする熱線反射積層体。
(i)親水基を持つ樹脂
(ii)アルコキシシランの加水分解物又は/及びその重縮合物
【請求項7】
前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコール又は/及びその誘導体であることを特徴とする請求項6に記載の熱線反射積層体。
【請求項8】
前記親水基を持つ樹脂が、ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項6に記載の熱線反射積層体。
【請求項9】
前記熱線反射層に接する保護層を有し、かつ、保護層がシリカ又は/及びシラノール基を有する化合物を含有することを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の熱線反射積層体。

【公開番号】特開2011−241357(P2011−241357A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117253(P2010−117253)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】