説明

熱脱塩方法

熱分離ユニットに供給溶液を導入すること、熱分離ユニット中の供給溶液を蒸留して、蒸留ストリームと供給溶液よりも高い溶質濃度を有する残渣ストリームとを生成すること、熱分離ユニットからの残渣ストリームの一部を選択的な透過性を有する膜の一方の側面に接触させ、選択的な透過性を有する膜の反対側の側面を供給溶液の一部に接触させて、選択的な透過性を有する膜を横切るように直接浸透により水を流して残渣ストリームを希釈すること、および希釈した残渣ストリームの少なくとも一部を熱分離ユニットに導入することを含む熱脱塩方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱脱塩方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を脱塩するためのあらゆる方法は、既に知られている。例えば、逆浸透等の膜技術を用いて海水から水を分離してもよい。又、熱分離方法を用いて海水から水を分離してもよい。熱分離技術の例として、多段フラッシュ蒸留(MSF)、多重効用蒸留(MED)および蒸気圧縮蒸留(VC)が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
海水は、熱分離ユニットで沈殿し易いカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよび硫酸イオン等のイオンを含んでいる。スケール形成を低減するために化学添加剤を添加してもよい。しかし、これにより、全体の方法のコストが増えてしまう。更に、海水を加熱する最大の温度(最大ブライン温度)を下げることでスケール形成を低減させてもよいが、脱塩方法の効果が著しく低減してしまう。
【0004】
スケール形成のリスクを低減するための多くの試みは行われている。GB2443802号では、例えば、熱分離ユニットに導入する前に海水フィード・ストリームをナノ濾過膜又は逆浸透膜に通している。ナノ濾過膜又は逆浸透膜は、少なくともスケールを形成するイオンを保持し、蒸留前に海水を軟水にする。この技術が効果的であったとしても、海水は膜と接する前に加圧される必要があり、全方法のコストが著しく増えてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
熱脱塩方法であって、
熱分離ユニットに供給溶液を導入すること、
熱分離ユニット中の供給溶液を蒸留して、蒸留ストリームと供給溶液よりも高い溶質濃度を有する残渣ストリームとを生成すること、
熱分離ユニットからの残渣ストリームの一部と、選択的な透過性を有する膜の一方の側面とを接触させること、
選択的な透過性を有する膜の反対側の側面と供給溶液の一部とを接触させ、直接浸透により選択的な透過性を有する膜を横切って水が流れることで残渣ストリームを希釈すること、および
希釈させた残渣ストリームの少なくとも一部を熱分離ユニットに導入すること
を含む熱脱塩方法である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、本発明の熱脱塩方法のある実施形態の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
上記で説明したように、例えば海水等の供給溶液(又は供給液又はフィード溶液;feed solution)は、供給溶液を蒸留して蒸留ストリームと供給溶液よりも高い溶質濃度である残渣ストリームとを生成する熱分離ユニットに導入される。蒸留ストリームは、典型的には水であり、一般的には純度を高めるため又は直接使用のため熱分離ユニットから除去される。残渣ストリームの一部(すなわち、全てではない)は、典型的にはブローダウンすなわち塩水(又はブライン;brine)として除去される。その一方で、例えば、多段フラッシュ工程の場合、残渣ストリームの一部は、熱回収部のフラッシュ・チャンバー内に生成される蒸気熱を回収する手段として、典型的には熱回収部を通じて再循環される。
【0008】
本発明の方法では、残渣ストリームの一部は、選択的な透過性を有する膜の一方の側と接する。選択的な透過性を有する膜の他方の側は、供給溶液の一部と接する。残渣ストリームは供給溶液よりも高い溶質濃度であるので、供給溶液から水が選択的な透過性を有する膜を通って流れ、直接浸透(direct osmosis)により残渣液を希釈する。つまり、供給溶液に高圧をかけることなく溶媒流れを生じさせることができる。液体溶媒(例えば、水)は選択的な透過性を有する膜を通って流れることができるが、選択的な透過性を有する膜はカルシウムイオン、マグネシウムイオン、硫酸イオン等のスケール形成イオンのいくつかを保有する。それ故、希釈された残渣液は、原供給溶液に対して軟水化し、蒸留のため熱分離ユニットに導かれる。それ故、熱分離ユニット中の全ての供給溶液が原供給溶液に対して軟水化する。これにより、供給溶液を加熱する最大温度(例えば、最大ブライン温度)が増え、全方法の効率性が改善される。従って、熱分離ユニットに用いるスケール防止剤の量を減らして、全方法の費用対効果が改善される。
【0009】
好ましくは、本発明の方法は、選択的な透過性を有する膜と接する前に供給溶液の一部を加熱することを更に含む。これにより、選択的な透過性を有する膜を通る溶媒(例えば、水)の浸透が高温でも改善されるので、利点がある。膜と接する供給溶液の一部は、5〜50℃の範囲の温度であってもよく、好ましくは15〜45℃の範囲の温度であってよく、より好ましくは25〜40℃の範囲の温度であってもよい。加熱工程は、熱分離ユニットからの熱を使用してもよい。又、又は、更に、残渣液は膜と接する前に冷却されてもよい。残渣液は、典型的には、選択的な透過性を有する膜と接する際、15〜60℃、好ましくは25〜50℃、より好ましくは30〜40℃の範囲の温度である。
【0010】
供給溶液の一部は、選択的な透過性を有する膜と接する前にスケール防止剤、腐食防止剤、分散剤および/又は抗菌剤で処理されてもよい。又、濾過、精密濾過又は限外濾過法等の他の前処理技術により供給溶液の一部を処理して、選択的な透過性を有する膜を詰まらせ又は汚す供給溶液からの大きな不純物を除いてもよい。
【0011】
残渣ストリームの一部は、選択的な透過性を有する膜と接する前にスケール防止剤、腐食防止剤、分散剤および/又は抗菌剤で処理されてもよい。又、濾過、精密濾過又は限外濾過法等の他の前処理技術により残渣ストリームの一部を処理して、選択的な透過性を有する膜を詰まらせ又は汚す供給溶液からの大きな不純物を除いてもよい。
【0012】
直接浸透工程(又は直接的な浸透工程;direct osmosis step)において、適当に選択的な透過性を有する膜を使用してもよい。直接浸透工程において、多くの膜を使用してもよい。適当な膜として、(脱塩174(2005年)1−11のマカッチャンらが説明するように)酢酸セルロース(CA)膜および三酢酸セルロース(CTA)膜並びにポリアミド(PA)膜が挙げられる。膜は平面であってもよく、又はチューブ・ファイバー又は中空糸形状であってよい。特に、高圧をかけずに選択的な透過性を有する膜を通る溶媒流れを生じさせる場合に、薄膜を用いてもよい。望ましくは、膜をメッシュ・サポート等の支持構造に支持してもよい。
【0013】
ある態様では、ハウジング又はシェルに1つ又はそれよりも多いチューブ(又は管)膜を配置してもよい。供給溶液をハウジングに導いてもよく、残渣液をチューブに導いてもよい。供給溶液の溶媒濃度は残渣液の溶媒濃度よりも高いので、溶媒(液体)は、選択的な透過性を有する膜を通じて供給溶液から残渣液に拡散する。希釈された残渣液をチューブの内部から回収してもよく、濃度の高い供給溶液をハウジングから除去してもよい。
【0014】
平面の膜を用いる際、断面図でらせん状になるようにシートを巻いてもよい。
【0015】
溶媒分子(例えば、水)は選択的な透過性を有する膜を通って流れるが、カルシウムイオン、マグネシウムイオンおよび硫酸イオン等のスケールを形成するイオンは保持されるように、選択的な透過性を有する膜の孔サイズ(又は孔径)を選定してもよい。典型的な孔サイズは、1〜100Å、好ましくは2〜50Å、例えば10〜40Åの範囲である。孔サイズは、適当な技術を使用することにより決定してもよい。
【0016】
必ずしも必要ではないが、供給溶液の一部を加圧して、3MPa以下、典型的には0.1〜1MPa、好ましくは0.1〜0.5MPa、より好ましくは0.1〜0.3MPaの圧力で選択的な透過性を有する膜と接触させてもよい。
【0017】
いずれの適当な供給溶液を本発明の方法で使用してもよい。好ましくは、供給溶液は海水又は汽水である。
【0018】
いずれの適当な熱分離ユニットを本発明の方法で使用してもよい。好ましくは、熱分離ユニットは、多段フラッシュ蒸留装置、多重効用蒸留装置および蒸気圧縮装置から選択される。
【0019】
選択的な透過性を有する膜に導かれる残渣ストリームの一部を処理して、この膜に導かれる前に粒状物又は他の望ましくない物質又はイオンを除去してもよい。濾過、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過又は吸着等の適当な技術を使用してもよい。
【0020】
又、供給溶液を処理して、選択的な透過性を有する膜に導かれる前に粒状物又は他の望ましくない物質又はイオンを除去してもよい。濾過、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過又は吸着等の適当な技術を使用してもよい。
【0021】
添付する図1を参考に本発明のこれら実施形態および他の実施形態を説明する。図1は、本発明の方法の形態を実施するための装置の概略図である。
【0022】
冷却水と供給溶液(1)がコンデンサー(2)に導かれる。凝縮(又は濃縮)される供給水を蒸気(10)により加熱して、蒸留物(4)を形成させる。
【0023】
エバポレーター(17)では、スチーム(5)により、部分的に供給水/希釈塩水(14)を蒸発させ、コンデンサー(2)に移動する蒸気(10)を生成させる。スチーム(5)を凝縮して、凝縮物をボイラーシステムへ戻す。
【0024】
高い溶質濃度を有する塩水(又はブライン;brine)処理物(7)を除去し、次いで、供給溶液(1)をエバポレーター(17)から除去する。塩水の一部(9)は、膜システム(12)中の選択的な透過性を有する膜の一方の側面と接触する。任意には、エバポレーター(17)から浸透剤/塩水(9)は、膜システム(12)中の選択的な透過性を有する膜の一方の側面に導かれる前に浸透剤/塩水の前処理システム(8)で処理されてもよい。膜システム(12)中の選択的な透過性を有する膜の他方の側面は、供給溶液(1)の一部と接する。これにより、水が膜を横切って流れて、直接浸透により塩水/浸透剤(9)のフィード・ストリームを希釈する。膜システム(12)にフィード・ストリーム(1)の一部を導く前に、フィード・ストリームを供給水前処理システム(11)に通してもよい。残った供給水ストリームは、高濃度の供給水(15)として膜システム(12)から除去される。
【符号の説明】
【0025】
1 冷却水とフィード供給
2 コンデンサー
3 加熱した供給水
4 蒸留物
5 スチーム供給
6 ボイラーシステムへ戻るスチーム凝縮物
7 塩水/ブローダウンの処分
8 浸透剤/塩水の前処理システム
9 塩水/浸透剤の供給
10 蒸気
11 供給水前処理システム
12 膜システム
13 希釈塩水/浸透剤
14 供給水/希釈塩水
15 高濃度の供給水
16 冷却水排出
17 エバポレーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱脱塩方法であって、
熱分離ユニットに供給溶液を導入すること、
前記熱分離ユニット中の供給溶液を蒸留して、蒸留ストリームと前記供給溶液よりも高い溶質濃度を有する残渣ストリームとを生成すること、
前記熱分離ユニットからの前記残渣ストリームの一部と、選択的な透過性を有する膜の一方の側面とを接触させること、
前記選択的な透過性を有する膜の反対側の側面と前記供給溶液の一部とを接触させ、直接浸透により前記選択的な透過性を有する膜を横切って水が流れることで前記残渣ストリームを希釈すること、および
希釈させた前記残渣ストリームの少なくとも一部を前記熱分離ユニットに導入すること
を含む熱脱塩方法。
【請求項2】
前記供給溶液が海水又は汽水である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分離ユニットを多段フラッシュ蒸留装置、多重効用蒸留装置および蒸気圧縮蒸留装置から選択する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ブローダウンとして前記熱分離ユニットから前記残渣ストリームの一部を除去および処分することを更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記選択的な透過性を有する膜と接する前に前記供給溶液の一部を加熱することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記選択的な透過性を有する膜と接する前に前記供給溶液の一部をスケール防止剤および/又は抗菌剤で処理する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記選択的な透過性を有する膜と接する前に前記残渣液の一部をスケール防止剤および/又は抗菌剤で処理する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記選択的な透過性を有する膜に導入する前に前記残渣液を処理して、粒状物、有機物又は他の物質を除去する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記選択的な透過性を有する膜に導入する前に前記供給溶液を処理して、粒状物、有機物又は他の物質を除去する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記選択的な透過性を有する膜が10〜40Åの平均孔サイズを有する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。


【図1】
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【公表番号】特表2013−509288(P2013−509288A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535915(P2012−535915)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001984
【国際公開番号】WO2011/051662
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(307033039)サリー・アクアテクノロジー・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】