説明

熱膨張性マイクロカプセルの製造方法

【課題】耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを加熱して重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、前記重合性モノマーの重合温度を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック発泡体は、発泡体の素材と形成された気泡の状態に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の機能を発現できることから、様々な用途で用いられている。プラスチック発泡体を製造する方法として、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂と発泡剤とを含有する樹脂組成物、マスターバッチ等を、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により発泡剤を発泡させる方法が挙げられる。
【0003】
プラスチック発泡体の製造に用いられる発泡剤として、例えば、化学発泡剤が挙げられる。例えば、特許文献1には、少なくともエチレン−α−オレフィン共重合体と発泡剤とを、混練、成形して得られた発泡性ペレットが記載されており、発泡剤としてアゾ化合物、ヒドラジン誘導体、重炭酸塩等が挙げられている。
しかしながら、化学発泡剤を用いた場合、気泡の壁はマトリックス樹脂により形成され、壁の薄い部分が破裂して連続気泡が生じたり、壁の厚みにばらつきが生じたりすることがあり、均一な独立気泡を有する発泡体を得ることは難しい。また、化学発泡剤が加熱分解して分解ガスが生じると、同時に発泡残渣が生じ、得られる発泡体の性能に影響を与えることがある。
【0004】
これに対し、例えば、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤を内包して得られる熱膨張性マイクロカプセルも用いられている。
熱膨張性マイクロカプセルとして、例えば、特許文献2には、熱可塑性ポリマーシェル及びその中に閉じ込められた噴射剤を含む熱発泡性微小球体であって、前記ポリマーシェルが85重量%以上のニトリル含有モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーからのホモポリマー又はコポリマーからつくられ、かつ前記噴射剤が少なくとも50重量%のイソオクタンを含む熱発泡性微小球体が開示されている。また、特許文献3には、重合体から形成された外殻内に発泡剤が封入された構造を持つ熱発泡性マイクロスフェアーにおいて、該発泡剤がイソドデカンを含有する熱発泡性マイクロスフェアーが開示されている。
【0005】
熱膨張性マイクロカプセルは、加熱されると、揮発性膨張剤がガス状になるとともに、シェルポリマーが軟化して膨張する。しかしながら、加熱が高温又は長時間になると、膨張した熱膨張性マイクロカプセルの破裂又は収縮(いわゆる「へたり」と呼ばれる現象)、揮発性膨張剤のガス抜け等が生じ、高い発泡倍率が得られないことが問題である。従来の熱膨張性マイクロカプセルでは、このような「へたり」又はガス抜けの発生を充分に抑制し、充分に高い発泡倍率を実現するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−178372号公報
【特許文献2】特許第3659497号公報
【特許文献3】国際公開第06/030946号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを加熱して重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、前記重合性モノマーの重合温度を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを加熱して重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法において、前記重合性モノマーの重合温度を所定範囲の温度とすることにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及び発泡倍率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、まず、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を行う。
上記水性分散媒体は特に限定されないが、脱イオン水に分散安定剤を添加して得られる水性分散媒体が好ましい。
【0011】
上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、コロイダルシリカ等のシリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0012】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に応じて適宜決定することができる。
例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合、上記分散安定剤の添加量は、後述する重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記分散安定剤の添加量が1重量部未満であると、分散安定剤としての効果が充分に得られず、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することができないことがある。上記分散安定剤の添加量が20重量部を超えると、上記分散安定剤が後述する油性物質からなる油滴の表面に付着しなかったり、余分に存在する上記分散安定剤の固体粉末が、凝集又は異常反応の起点となったりすることがある。上記分散安定剤の添加量は、後述する重合性モノマー100重量部に対するより好ましい下限が2重量部、より好ましい上限が10重量部である。
【0013】
上記水性分散媒体には、必要に応じて、補助安定剤を添加してもよい。
上記補助安定剤は特に限定されず、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、水溶性窒素含有化合物、ポリエチレンオキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0014】
上記水溶性窒素含有化合物は特に限定されず、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。また、上記水溶性窒素含有化合物として、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等も挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0015】
上記水性分散媒体に上記補助安定剤を添加する場合、上記補助安定剤の添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に応じて適宜決定することができる。
例えば、上記補助安定剤として上記縮合生成物又は上記水溶性窒素含有化合物を用いる場合、上記補助安定剤の添加量は、後述する重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0016】
上記分散安定剤と上記補助安定剤との組み合わせは特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらのなかでは、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましく、該縮合生成物として、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、ジエタノールアミンとアジピン酸との縮合生成物、ジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が特に好ましい。
【0017】
上記水性分散媒体には、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。このような無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。上記水性分散媒体に上記無機塩を添加する場合、上記無機塩の添加量は特に限定されないが、後述する重合性モノマー100重量部に対する好ましい上限が100重量部である。
更に、上記水性分散媒体には、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0018】
上記水性分散媒体のpHは、使用する上記分散安定剤及び上記補助安定剤の種類に応じて適宜決定することができる。
例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを用いる場合には、必要に応じて塩酸等の酸を加えることにより上記水性分散媒体のpHを3〜4に調整し、後述する重合性モノマーを加熱して重合させる工程では、酸性条件下で重合を行う。また、上記分散安定剤として水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを用いる場合には、上記水性分散媒体をアルカリ性に調整し、後述する重合性モノマーを加熱して重合させる工程では、アルカリ性条件下で重合を行う。
【0019】
上記重合性モノマーには、ニトリル系モノマーを含有させることが好ましい。上記重合性モノマーが上記ニトリル系モノマーを含有することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及びガスバリア性が向上する。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル、及び、これらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
上記重合性モノマーには、上記ニトリル系モノマーと共重合することのできる他のモノマー(以下、単に他のモノマーともいう)を含有させてもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、得られる熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又は無水マレイン酸、イタコン酸が特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記重合性モノマーに上記他のモノマーを含有させる場合、上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマーの合計100重量部中の好ましい上限が50重量部である。上記他のモノマーの含有量が50重量部を超えると、相対的に上記ニトリル系モノマーの含有量が低下し、得られる熱膨張性マイクロカプセルは耐熱性及びガスバリア性が低下して、高発泡倍率で発泡することができないことがある。
【0022】
上記重合性モノマーには、金属カチオン塩を含有させてもよい。
上記重合性モノマーが上記金属カチオン塩を含有することにより、例えば、上記他のモノマーとして含有されるメタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と、上記金属カチオン塩の金属カチオンとがイオン架橋を形成することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルのシェルの架橋効率が上がり、耐熱性が向上する。
また、上記イオン架橋を形成することにより、高温でもシェルの弾性率が低下しにくい熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。このような高温でもシェルの弾性率が低下しにくい熱膨張性マイクロカプセルは、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いた発泡成形に用いられる場合でも、高発泡倍率で発泡することができる。
【0023】
上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンは、上記カルボキシル基含有モノマー等のカルボキシル基とイオン架橋を形成することのできる金属カチオンであれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。
また、上記金属カチオン塩は、上記金属カチオンの水酸化物であることが好ましい。これらの金属カチオン塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記金属カチオン塩を2種以上併用する場合、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンからなる塩と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンからなる塩とを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンは、カルボキシル基等の官能基を活性化することができ、該カルボキシル基等の官能基と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとのイオン架橋形成を促進させることができる。
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられる。これらのなかでは、塩基性の強いNa、K等が好ましい。
【0025】
上記重合性モノマーに上記金属カチオン塩を含有させる場合、上記金属カチオン塩の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマーの合計100重量部中の好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。上記金属カチオン塩の含有量が0.1重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記金属カチオン塩の含有量が5.0重量部を超えると、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することができないことがある。
【0026】
上記重合性モノマーには、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を添加してもよい。
【0027】
上記揮発性液体は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、速やかに発泡を開始し、高発泡倍率で発泡することができる熱膨張性マイクロカプセルを製造できることから、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテルが好ましい。これらの揮発性液体は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、上記揮発性液体として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0028】
上記揮発性液体の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は50重量部である。上記揮発性液体の含有量が10重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ、高温でないと発泡できないことがある。上記揮発性液体の含有量が50重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、高発泡倍率で発泡することができないことがある。
【0029】
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。なお、上記重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0030】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0031】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0032】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0033】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0034】
上記重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5重量部である。上記重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、上記重合性モノマーの重合反応が充分に進行せず、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することができないことがある。上記重合開始剤の含有量が5重量部を超えると、上記重合性モノマーの重合反応が急激に開始することにより、凝集が発生したり、重合が暴走して安全上問題となったりすることがある。
【0035】
上記水性分散媒体に、上記重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁する方法は特に限定されず、例えば、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法、ラインミキサー、エレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には、上記水性分散媒体と上記油性物質とを別々に供給してもよく、予め上記水性分散媒体と上記油性物質とを攪拌混合して得られた懸濁液を供給してもよい。
【0036】
また、上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤を別々に上記水性分散媒体に添加して、該水性分散媒体中で油性物質を調製してもよいが、通常は、予め上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤を混合して油性物質としてから、上記水性分散媒体に添加する。この場合には、上記油性物質と上記水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、更に別の容器で攪拌しながら混合することにより、上記油性物質を上記水性分散媒体に懸濁させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記重合開始剤は、予め上記油性物質に添加してもよく、上記水性分散媒体と上記油性物質とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0037】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、次いで、上記重合性モノマーを加熱して重合させる工程を行う。これにより、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体からなるシェルに、コア剤として上記揮発性液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルが得られる。
【0038】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記重合性モノマーの重合温度(Tp)を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度(T10)よりも5℃以上高い温度とする。
なお、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度とは、複数の重合開始剤を用いる場合には、該複数の重合開始剤の10時間半減期温度のうち最も低い10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度を意味する。
【0039】
また、重合開始剤の10時間半減期温度(T10)とは、重合開始剤を一定温度で維持した場合に、重合開始剤の量が10時間で1/2となる温度を意味し、例えば、以下のようにして求められる。
0.1mol/Lの濃度に調整した重合開始剤のベンゼン溶液を、窒素置換を行ったガラス管中に密封する。次いで、このガラス管を所定温度に設定した恒温槽に浸し、一定温度で重合開始剤の熱分解を行う。ここで、分解した重合開始剤量をx、分解速度定数をk、分解時間をt、重合開始剤の初期濃度をaとすると、下記式(1)及び(2)が得られ、更に、重合開始剤の半減期をt1/2とすると、下記式(3)が得られる。
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

【0042】
【数3】

【0043】
分解時間tとlna/(a−x)との関係をプロットし、得られた直線の傾きからkを求め、上記式(3)からその温度における重合開始剤の半減期t1/2を求める。更に、数点の温度Tについてk及びt1/2を求め、lnt1/2と1/Tとの関係をプロットし、得られた直線において、t1/2=10時間におけるTをその重合開始剤の10時間半減期温度T10とする。
【0044】
上記重合性モノマーの重合温度を上記範囲の温度とすることにより、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。これは、上記重合性モノマーの重合温度を上記範囲の温度とすることにより、上記重合性モノマーの重合速度が上昇してシェルの形成速度が上昇し、その結果、高密度化され、ガスバリア性及び弾性率に優れたシェルが形成されるためと推測される。
また、上記重合性モノマーの重合温度を上記範囲の温度とすることにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルの凝集又は合着の発生を抑制して、熱膨張性マイクロカプセルの製造を安定的に行うことができ、また、上記重合開始剤を必要以上に多量に用いる必要もない。
【0045】
上記重合性モノマーの重合温度は、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度であれば特に限定されないが、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及び発泡倍率を更に向上させることができることから、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも、15℃以上高い温度であることが好ましく、20℃以上高い温度であることがより好ましい。
【0046】
更に、上記重合性モノマーの重合温度は、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度(Tg)以上の温度であることが好ましく、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度(Tg)よりも5℃以上高い温度であることがより好ましい。上記重合性モノマーの重合温度をこのような範囲の温度とすることにより、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体の重合反応中の流動性が高くなり、シェルの高密度化が更に進行して、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及び発泡倍率を更に向上させることができる。
なお、ガラス転移温度(Tg)とは、主分子鎖の運動が凍結状態から離れる温度を意味し、例えば、示差走査熱量計(DSC)、動的粘弾性測定装置等によって測定される。また、熱膨張性マイクロカプセルのシェルのガラス転移温度を測定する場合には、例えば、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)等で熱膨張性マイクロカプセルを膨潤させた後、DMFと揮発性液体とを揮発させ、熱プレスによって得られる試験片のガラス転移温度を測定する方法等が用いられる。
【0047】
上記重合性モノマーの重合温度を、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度以上の温度とするためには、例えば、予め上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度を求め、得られたガラス転移温度以上の温度から任意の温度を選択する方法等が用いられる。
上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度は、例えば、以下のようにして求められる。
各重合性モノマーの種類をA,B,C,・・・Nとし、これらの重合性モノマーの重量比をa:b:c:・・・n、かつ、a+b+c+・・・n=1とする。更に、各重合性モノマーが単独で重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度を、ポリマーハンドブック等から、TgA,TgB,TgC,・・・TgNとする。このとき、各重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度Tgは、下記式(4)により求められる。
【0048】
【数4】

【0049】
上記重合性モノマーの重合温度の上限は特に限定されないが、140℃以下であることが好ましい。上記重合性モノマーの重合温度が140℃を超えると、重合中の上記揮発性液体の蒸気圧が高くなり、得られる熱膨張性マイクロカプセルは重合時に熱膨張をしてしまうことがある。
【0050】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、更に、得られた熱膨張性マイクロカプセルを脱水する工程、乾燥する工程等を行ってもよい。
【0051】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法によれば、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は特に限定されないが、好ましい下限が200℃である。上記最大発泡温度が200℃未満であると、熱膨張性マイクロカプセルは耐熱性が低く、高温において、高発泡倍率で発泡できないことがある。また、上記最大発泡温度が200℃未満であると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、ペレット製造時の剪断力により発泡が生じてしまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造できないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度は、より好ましい下限が210℃である。
なお、上記最大発泡温度(Tmax)は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。
【0052】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が10μm、好ましい上限が50μmである。上記体積平均粒子径が10μm未満であると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを発泡成形に用いる場合に、得られる発泡成形体の気泡が小さすぎ、軽量化が不充分となることがある。上記体積平均粒子径が50μmを超えると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを発泡成形に用いる場合に、得られる発泡成形体の気泡が大きくなりすぎ、強度等の面で問題となることがある。上記体積平均粒子径は、より好ましい下限が15μm、より好ましい上限が40μmである。
【0053】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルの用途は特に限定されず、例えば、熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することにより、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡できることから、高温で加熱する工程を有する発泡成形にも好適に適用される。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0056】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)20重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部と、1N塩酸0.7重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合比の重合性モノマー100重量部と、重合開始剤1重量部と、揮発性液体としてトリメチロールプロパントリメタクリレート0.5重量部、イソペンタン20重量部及びイソオクタン10重量部とからなる油性物質を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら表1に示した重合温度(Tp)で24時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0057】
(評価)
実施例、比較例で得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(1)耐熱性(Tmax)及び発泡倍率
得られた熱膨張性マイクロカプセルを、加熱発泡顕微装置(ジャパンハイテック社製)を用いて5℃/minで常温から280℃まで加熱した。任意の熱膨張性マイクロカプセル5点の画像から平均粒子径の変化を5℃ごとに計測し、最大発泡温度(Tmax)(℃)を測定して耐熱性を評価した。最大発泡温度が175℃以下であった場合を×とした。また、最大発泡温度が180〜185℃であった場合を○、190℃以上であった場合を◎とした。
また、30℃における熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に対する、最大発泡温度における熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径の比を発泡倍率とした。発泡倍率が2.9倍以下であった場合を×、3.0〜3.9倍であった場合を○、4.0倍以上であった場合を◎とした。
なお、熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径は、レーザー回折光散乱光度計(堀場製作所社製)によって測定した。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、耐熱性に優れ、高発泡倍率で発泡することのできる熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを加熱して重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、
前記重合性モノマーの重合温度を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも5℃以上高い温度とする
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
重合性モノマーの重合温度を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも15℃以上高い温度とすることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
重合性モノマーの重合温度を、少なくとも1つの重合開始剤の10時間半減期温度よりも20℃以上高い温度とすることを特徴とする請求項2記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
重合性モノマーの重合温度を、前記重合性モノマーを重合させて得られる重合体のガラス転移温度以上の温度とすることを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2011−167664(P2011−167664A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36232(P2010−36232)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】