説明

熱膨張性マイクロカプセルの製造方法

【課題】脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、前記金属塩又は金属酸化物は、pH7以下で水に不溶である熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック発泡体は、発泡体の素材と形成された気泡の状態に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の機能を発現できることから、様々な用途で用いられている。プラスチック発泡体を製造する方法として、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂と発泡剤とを含有する樹脂組成物、マスターバッチ等を、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により発泡剤を発泡させる方法が挙げられる。
【0003】
プラスチック発泡体の製造には、発泡剤として、例えば、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤を内包して得られる熱膨張性マイクロカプセルが用いられる。このような熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、重合可能なモノマー又はモノマー混合物、重合開始剤、揮発性膨張剤等からなる油性混合液を、重合反応容器中の分散安定剤を含有する水性分散媒体中に懸濁し、重合可能なモノマーを重合させることにより製造される。
【0004】
このような熱膨張性マイクロカプセルの製造に用いられる分散安定剤は、水性分散媒体に不溶な固体コロイドであり、従来、コロイダルシリカが多用されている。しかしながら、コロイダルシリカは、重合後に水性分散媒体を除去した後も熱膨張性マイクロカプセルの表面に残り、熱膨張性マイクロカプセルの脱水、乾燥が困難となることが知られている。また、コロイダルシリカを用いて得られる熱膨張性マイクロカプセルは発泡温度領域が狭く、適用できる用途が限定されてしまうことも問題である。
【0005】
これに対して、コロイダルシリカ以外の分散安定剤を用いる方法も検討されている。例えば、特許文献1に記載の発泡性熱可塑性微小球の製造方法においては、分散安定剤として、Ca、Mg、Ba、Fe、Zn、Ni若しくはMnのうちのいずれかの金属の塩又は水酸化物からなり、かつ、重合時に水性分散媒体が有するpHにおいて該水性分散媒体に不溶である粉末安定剤が用いられている。特許文献1には、同文献に記載の方法により得られる発泡性熱可塑性微小球は、従来の熱膨張性マイクロカプセルよりも容易に脱水、乾燥され、従来の熱膨張性マイクロカプセルより低い温度でも、また高い温度でも発泡できることが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法はアルカリ性条件下で行う必要があるため、モノマー成分としてカルボキシル基含有モノマー等を用いることが困難であり、使用できるモノマーの種類に制限がある。特に、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させるために有効なメタクリル酸等を使用できないことが問題であり、脱水性にも優れ、酸性条件下で耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる新たな方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2584376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、前記金属塩又は金属酸化物は、pH7以下で水に不溶である熱膨張性マイクロカプセルの製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、分散安定剤を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含む油性物質を懸濁させる工程と、重合性モノマーを重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法において、分散安定剤としてpH7以下で水に不溶な金属塩又は金属酸化物を用いることで、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、まず、金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を行う。
【0011】
上記金属塩又は金属酸化物は、油性物質からなる油滴の表面に付着して油滴を安定化させる分散安定剤としての機能を有する。上記金属塩又は金属酸化物は、後述する重合性モノマーを重合させる工程を行った後、容易に洗い流されることから、得られる熱膨張性マイクロカプセルは表面が平滑となり、脱水性に優れる。
【0012】
上記金属塩又は金属酸化物は、pH7以下で水に不溶である。
上記金属塩又は金属酸化物がpH7以下で水に不溶であることで、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を、pH7以下で行うことができる。そのため、モノマー成分としてメタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー等を用いて、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることができる。
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を、pH7以下で行うことが好ましい。
【0013】
本明細書中、金属塩が水に不溶であるとは、金属塩の化学式をMとし、下記式(1)に示す溶解平衡式において溶解度積Kspを下記式(2)で表したとき、下記式(3)で表される金属イオン濃度[M]が0.5mol/L以下であることをいう(化学便覧 改訂3版 基礎編II p177−182参照)。
【0014】
【数1】

【0015】
Ksp=[M[A (2)
[M]=(Ksp/[A1/x (3)
【0016】
上記金属塩又は金属酸化物は、pH7以下で水に不溶であれば特に限定されないが、金属水酸化物が好ましい。
上記金属水酸化物として、例えば、水酸化(II)ニッケル、水酸化(II)鉄、水酸化アルミニウム、水酸化(II)コバルト、水酸化(II)亜鉛、水酸化(III)イットリウム、水酸化(II)クロム、水酸化(III)クロム、水酸化(II)銅、水酸化(III)ガリウム、水酸化(II)錫、水酸化(II)鉛、水酸化(II)ベリリウム、水酸化(III)セリウム、水酸化(III)ネオジム等が挙げられる。
【0017】
上記金属水酸化物は、pH7以下における金属イオン濃度が0.3mol/L以下であることが好ましい。pH7以下における金属イオン濃度が0.3mol/L以下であることで、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程において、上記金属水酸化物がほぼ固体粉末として析出し、油性物質からなる油滴の表面に効率良く付着し、油滴の安定性が増す。
上記pH7以下における金属イオン濃度が0.3mol/L以下である金属水酸化物は特に限定されないが、水酸化(II)ニッケル(pH7における金属イオン濃度=0.018mol/L)、水酸化(II)鉄(pH7における金属イオン濃度=0.08mol/L)、水酸化アルミニウム(pH7における金属イオン濃度=1.92×10−11mol/L)、水酸化(II)コバルト(pH7における金属イオン濃度=0.13mol/L)、水酸化(II)亜鉛(pH7における金属イオン濃度=0.04mol/L)、水酸化(III)イットリウム(pH7における金属イオン濃度=0.00063mol/L)、水酸化(II)クロム(pH7における金属イオン濃度=0.000002mol/L)、水酸化(III)クロム(pH7における金属イオン濃度=6.3×10−10mol/L)、水酸化(II)銅(pH7における金属イオン濃度=0.0000015mol/L)、水酸化(III)ガリウム(pH7における金属イオン濃度=7×10−15mol/L)、水酸化(II)錫(pH7における金属イオン濃度=0mol/L)、水酸化(II)鉛(pH7における金属イオン濃度=0.0000011mol/L)、水酸化(II)ベリリウム(pH7における金属イオン濃度=0.00000008mol/L)、水酸化(III)セリウム(pH7における金属イオン濃度=0.01mol/L)、水酸化(III)ネオジム(pH7における金属イオン濃度=0.005mol/L)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのなかでは、水酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0018】
上記金属塩又は金属酸化物の添加量は特に限定されないが、油性物質100重量部に対する好ましい下限が2重量部、好ましい上限が20重量部である。上記金属塩又は金属酸化物の添加量が2重量部未満であると、上記金属塩又は金属酸化物の分散安定剤としての効果が充分に得られず、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られないことがある。上記金属塩又は金属酸化物の添加量が20重量部を超えると、上記金属塩又は金属酸化物が油滴の表面に付着しなかったり、余分な固体粉末が存在し、凝集又は異常反応の起点となったりすることがある。上記金属塩又は金属酸化物の添加量は、油性物質100重量部に対するより好ましい下限が3重量部、より好ましい上限が15重量部である。
【0019】
上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液には、必要に応じて、補助安定剤を添加してもよい。
上記補助安定剤は特に限定されず、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、水溶性窒素含有化合物、ポリエチレンオキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0020】
上記水溶性窒素含有化合物は特に限定されず、例えば、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0021】
また、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液には、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。このような無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得られる。
更に、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液には、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0022】
上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液を調製する方法は特に限定されず、例えば、上記金属塩又は金属酸化物の粉体を水に添加する方法、上記金属塩を水に溶解し、その後pHを調整して金属塩を析出させる方法等が挙げられる。
【0023】
上記重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有することが好ましい。
上記重合性モノマーが上記カルボキシル基含有モノマーを含有することで、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られる。なお、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法においては、上記金属塩又は金属酸化物がpH7以下で水に不溶であることで、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を、pH7以下で行うことができ、モノマー成分として上記カルボキシル基含有モノマー等を用いることができる。
【0024】
上記カルボキシル基含有モノマーは特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、より耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られることから、メタクリル酸が特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が50重量部である。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量が1重量部未満であると、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られないことがある。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量が50重量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性が確保できず、熱膨張しなくなることがある。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は、上記重合性モノマー全体100重量部に対するより好ましい下限が3重量部、より好ましい上限が30重量部である。
【0026】
上記重合性モノマーは、ニトリル系モノマーを含有することが好ましい。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記ニトリル系モノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限が50重量部、好ましい上限が99重量部である。上記ニトリル系モノマーの含有量が50重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性が低下することがある。上記ニトリル系モノマーの含有量が99重量部を超えると、上記重合性モノマー全体に占める耐熱性を付与するためのモノマーの含有量が減り、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が確保できなくなることがある。
【0028】
上記重合性モノマーは、上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等と共重合することのできる他のモノマー(以下、単に、他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい上限が50重量部である。上記他のモノマーの含有量が50重量部を超えると、上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等の含有量が低下して、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性、ガスバリア性等が低下することがある。
【0030】
上記重合性モノマーには、金属カチオン塩を添加してもよい。
上記金属カチオンを添加することにより、上記カルボキシル基含有モノマー等のカルボキシル基と、上記金属カチオンとがイオン架橋を形成し、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの架橋効率が上がり、耐熱性が向上する。また、上記イオン架橋を形成することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、高温でもシェルの弾性率が低下しにくい。そのため、このような熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合して成形すると、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いる場合でも熱膨張性マイクロカプセルの破裂及び収縮が生じにくく、該熱膨張性マイクロカプセルを用いて高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。
【0031】
上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンは、上記カルボキシル基含有モノマー等のカルボキシル基とイオン架橋を形成することのできる金属カチオンであれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。
また、上記金属カチオン塩は、上記金属カチオンの水酸化物であることが好ましい。これらの金属カチオン塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記金属カチオン塩を2種以上併用する場合、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンからなる塩と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンからなる塩とを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンは、カルボキシル基等の官能基を活性化することができ、該カルボキシル基等の官能基と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとのイオン架橋形成を促進させることができる。
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられる。これらのなかでは、塩基性の強いNa、K等が好ましい。
【0033】
上記金属カチオン塩の添加量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。上記金属カチオン塩の含有量が0.1重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記金属カチオン塩の含有量が5.0重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合して成形すると、得られる発泡成形体は発泡倍率が著しく低下することがある。
【0034】
上記揮発性液体は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルが得られることから、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテルが好ましい。これらの揮発性液体は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、上記揮発性液体として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0035】
上記揮発性液体の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は50重量部である。上記揮発性液体の含有量が10重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ、高温でないと発泡できないことがある。上記揮発性液体の含有量が50重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、該熱膨張性マイクロカプセルを用いると高発泡倍率で発泡成形を行うことができないことがある。
【0036】
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0037】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0038】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0039】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0040】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0041】
上記重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー全体100重量部に対する好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5重量部である。上記重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、上記重合性モノマーの重合反応が充分に進行せず、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルが得られないことがある。上記重合開始剤の含有量が5重量部を超えると、上記重合性モノマーの重合反応が急激に開始することにより、凝集が発生したり、重合が暴走して安全上問題となったりすることがある。
【0042】
上記重合性モノマーには、更に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を添加してもよい。
【0043】
上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、上記重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁する方法は特に限定されず、例えば、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法、ラインミキサー、エレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には、上記分散液と上記油性物質とを別々に供給してもよく、予め上記分散液と上記油性物質とを攪拌混合して得られた懸濁液を供給してもよい。
【0044】
また、上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤と別々に上記分散液に添加して、該分散液中で油性物質を調製してもよいが、通常は、予め上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤を混合して油性物質としてから、上記分散液に添加する。この場合には、上記油性物質と上記分散液とを予め別々の容器で調製しておき、更に別の容器で攪拌しながら混合することにより、上記油性物質を上記分散液中に分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記重合性モノマーを重合させるために重合開始剤が用いられるが、上記重合開始剤は、予め上記油性物質に添加してもよく、上記分散液と上記油性物質とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0045】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、次いで、上記重合性モノマーを重合させる工程を行う。これにより、共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルが得られる。
上記重合させる方法は特に限定されず、例えば、加熱により上記重合性モノマーを重合させる方法等が挙げられる。
【0046】
なお、得られた熱膨張性マイクロカプセルは、続いて、脱水する工程、乾燥する工程等を経てもよい。本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法においては、分散安定剤として上記金属塩又は金属酸化物を用い、上記重合性モノマーを重合させた後、上記金属塩又は金属酸化物は容易に洗い流されることから、得られる熱膨張性マイクロカプセルは表面が平滑となり、脱水性に優れる。
【0047】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法においては、分散安定剤として上記金属塩又は金属酸化物を用いることで、脱水性に優れた熱膨張性マクロカプセルを得ることができる。また、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法においては、上記金属塩又は金属酸化物がpH7以下で水に不溶であることで、上記金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を、pH7以下で行うことができる。そのため、モノマー成分としてメタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー等を用いて、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることができる。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルの用途は特に限定されず、例えば、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することで、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0051】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
重合反応容器中で、表1に示す金属塩又は金属酸化物を水300重量部に分散させた分散液を調製した。
次いで、表1に示した配合で油性物質を調製し、この油性物質を分散液に懸濁させた。得られた懸濁液をホモジナイザーで攪拌混合した後、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)しながら、60℃で20時間反応させて、熱膨張性マイクロカプセルを得た。なお、比較例4、5においては、重合性モノマーを重合させても粒子化せず、熱膨張性マイクロカプセルが得られなかった。
【0052】
(評価)
実施例、比較例において、重合性モノマーの重合後に得られた重合スラリー、及び、得られた熱膨張性マイクロカプセルについて以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(1)脱水性
得られた重合スラリー500mLについて、直径90mmの濾紙を用いて真空濾過を行い、濾過5分後に濾紙上の熱膨張性マイクロシプセルの状態を観察し、流動性のある液状部分が残っていた場合を「×」と、液状部分が無く、ウェットケーキ状であった場合を「○」として評価した。
【0054】
(2)耐熱性
得られた熱膨張性マイクロカプセルを約0.1g秤量し、10mLのメスシリンダーに入れた。このメスシリンダーを180℃に加熱したオーブンに5分間投入し、膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積を測定した。その後、220℃に加熱したオーブンに更に10分間投入し、膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積を測定した。
180℃で5分間処理した直後の膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積をL、更に220℃で10分間処理した後の膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積をHとしたとき、H/Lが0.4未満であった場合を「×」と、0.4以上0.6未満であった場合を「△」と、0.6以上0.8未満であった場合を「○」と、0.8以上であった場合を「◎」として評価した。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、脱水性及び耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、
前記重合性モノマーを重合させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、
前記金属塩又は金属酸化物は、pH7以下で水に不溶である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
金属塩又は金属酸化物を水に分散させた分散液に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を、pH7以下で行うことを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
金属塩又は金属酸化物は、金属水酸化物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
金属水酸化物は、pH7以下における金属イオン濃度が0.3mol/L以下であることを特徴とする請求項4記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
金属水酸化物は、水酸化(II)ニッケル、水酸化(II)鉄、水酸化アルミニウム、水酸化(II)コバルト、水酸化(II)亜鉛、水酸化(III)イットリウム、水酸化(II)クロム、水酸化(III)クロム、水酸化(II)銅、水酸化(III)ガリウム、水酸化(II)錫、水酸化(II)鉛、水酸化(II)ベリリウム、水酸化(III)セリウム、水酸化(III)ネオジムからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
金属水酸化物は、水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項6記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
金属塩又は金属酸化物は、油性物質100重量部に対する添加量が2〜20重量部であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2011−74339(P2011−74339A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230307(P2009−230307)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】