説明

熱融着ポリウレタン弾性繊維混用緯編地及び該緯編地を使用した衣類、並びに該緯編地の製造方法

【課題】
裁断、縫製部分からポリウレタン弾性繊維や非弾性糸が抜け出すことがなく、生地が安定し、変形、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、スリップインやカールの起こり難い、さらに伸縮を繰り返しても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸せず、編地の耐久性を向上させる。
【解決手段】
熱融着ポリウレタン弾性繊維と少なくとも1種類の非弾性繊維を用いた緯編地であって、該熱融着ポリウレタン弾性繊維を他の繊維との複合糸とし、さらに、その複合糸と非弾性繊維をプレーティング編したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維を混用した緯編地から作られた衣類が、着用中に繰り返し伸長されることにより生じる生地の「変形、目ずれ、わらい」、裁断部より糸が抜け出す所謂「ほつれ」、組織に発生したはしご状の傷やずれ、即ち「ラン、デンセン」、生地が湾曲した状態になる「カール」及び、裁断、縫製した製品の縫い目部分から弾性繊維のみが抜け出し、部分的に生地の伸縮性がなくなる「スリップイン」等を起き難くした緯編地に関するものであり、特に伸縮に対する耐久性の高い緯編地及びその製造方法、該緯編地を任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」で使用した衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維を混用した緯編地、経編地、織物等のストレッチ生地を使用した衣類は、伸びが大きく、伸長状態からの回復力やフィット性が良いため広く利用されている。しかし、ポリウレタン弾性繊維を混用した生地を裁断したままで伸長、着用を繰り返すと、変形して不均一な生地になり「変形、目ずれ、わらい」、糸が抜け出す「ほつれ」、生地の組織にはしご状の傷やずれが発生した「ラン、デンセン」、生地が湾曲した「カール」等の問題が起き易い。また、縫製部分でも繰り返し伸長によりポリウレタン弾性繊維が縫い目から抜け出す、いわゆる「スリップイン」も起き易い。
【0003】
これらの現象は、ポリウレタン弾性繊維以外の弾性繊維を使用した織編物でも起きるが、伸縮性の強いポリウレタン弾性繊維の場合は特に顕著である。
【0004】
これらの問題の対策として、編地端を折り返したり、別布や伸縮性テープを付けて、縫製したりすることが一般的に行われているが、凸状や段差、縫い目等が肌に直接接触することによる皮膚障害が懸念されたり、肌触り感や着心地といった着用感の低下、外衣にひびきやすいという審美性の低下等の問題が解決されておらず、編地端を縫製しないで「切りっぱなし」のままで使用できる編地が求められていた。
【0005】
編地端を縫製せずにそのまま衣類にする方法としては、経編地では密度を高くしたり、編組織選定等の工夫により「切りっぱなし」で使用できる編地が見出されている(特許文献1)。しかし、特許文献1の経編地は生地全体が厚地になり、薄地の衣類には適用できないという問題や、編み方向、裁断角度によってはほつれたり、カールしたりするという問題があった。
【0006】
これに対して、緯編地は、経編地に比べ生地全体を薄地にすることができるが、経編地に比べ、密度が低いのが一般的で、通常ほつれやすい。そこで、編地末端に止め編と言われる編組織を選定する方法があるが、止め編は編地末端の組織を変更していることから、任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」で衣類にすることはできない。また、止め編は特殊な編機が必要であることや、生産性を高めることが困難で、低コスト化を図るうえで重大なネックになる、という問題があった。
【0007】
そこで、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させることで「変形、目ずれ、わらい」、「ほつれ」、「ラン、デンセン」、「カール」の低減をはかり「切りっぱなし」で衣類にする提案(特許文献2、3)がなされている。
【0008】
特許文献2、3については、ほつれは抑制されるが、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互の接触部分が熱融着し組織(ループ)が固定化されるため、伸長時に該接触箇所がずれず、伸長応力が該接触箇所に集中しやすくなり、大きく伸長する場合や繰り返し伸長する場合に、断糸が発生する問題があった。例えば、融着していないポリウレタン弾性繊維を使用したゴム編組織の緯編地の場合、使用したポリウレタン弾性繊維の破断伸度を超えて編地を伸ばしても、一つ一つのニットループが伸長方向(緯)に広がる過程で生じる伸びにより、編地中のポリウレタン弾性繊維は破断伸度まで伸ばされることは通常ない。一方、ゴム編組織に熱融着ポリウレタン弾性繊維を使用して該弾性繊維相互の接触箇所を熱融着させた場合、編地を伸ばした際のニットループの変位は殆どなくなり、該弾性繊維の破断伸度を超えても編地が伸び、該弾性繊維が断糸してしまうという問題があった。このように、編地を大きく伸長してもあるいは伸縮を繰り返しても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しない、且つ任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」のまま使用できる緯編地の要望は極めて高かった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−147618号公報
【特許文献2】WO2004/053218号公報
【特許文献3】特開2005−113349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、裁断、縫製部分から使用したポリウレタン弾性繊維や非弾性糸が抜け出すことがなく、生地が安定し、変形、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、スリップインやカールの起こり難い、さらに伸縮を繰り返しても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しない、耐久性を向上させた熱融着ポリウレタン弾性繊維混用緯編地及び、該緯編地を直線、曲線、又は曲線と直線の組み合わせなど任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」または「フリーカット」で使用した衣類並びに、該緯編地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地を熱セットすることにより、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互で熱融着を生じ、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、スリップイン、カールが生じにくく、さらに熱融着ポリウレタン弾性繊維を他の繊維との複合糸にすることによって、融着面積が低減して、接触箇所又は融着箇所への応力集中が緩和され、さらに熱融着ポリウレタン弾性繊維の周囲に被覆される非弾性繊維によって熱融着ポリウレタン弾性繊維の伸長が抑制され、伸縮を繰り返しても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しない、耐久性の高い緯編地及び衣類が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地であって、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させたことを特徴とする緯編地、
(2)前記緯編地が、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた組織であることを特徴とする(1)の緯編地、
(3)前記緯編地が、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた変化組織であることを特徴とする(1)の緯編地、
(4)前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、カバリング糸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかの緯編地、
(5)前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、合撚糸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかの緯編地、
(6)前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、エア交絡糸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかの緯編地、
(7)前記カバリング糸が、芯糸を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、その芯糸に被覆される糸の太さが5〜330デシテックスであって、その撚り数が60〜2500T/mの範囲であることを特徴とする(4)の緯編地、
(8)前記合撚糸が、その撚り糸の少なくとも1本を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、該熱融着ポリウレタン弾性繊維以外の撚り糸の太さが5〜330デシテックスであって、その撚り数が60〜2500T/mの範囲であることを特徴とする(5)の緯編地、
(9)前記エア交絡糸が、その交絡させる糸の少なくとも1本を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、該熱融着ポリウレタン弾性繊維以外の糸の太さが5〜330デシテックスであって、その交絡数が30〜150個/mの範囲であることを特徴とする(6)の緯編地、
(10)前記緯編地が、衣類の縁の一部又は全部、あるいは、衣類の縁でない箇所の一部において、任意のラインで裁断されたままの状態で含まれることを特徴とする(1)から(9)のいずれかの緯編地、
(11)(1)から(10)のいずれかの緯編地を用いた衣類、及び、
(12)熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地であって、該緯編地を、湿熱100〜130℃、又は乾熱130〜220℃の熱セットにより、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させたことを特徴とする緯編地の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
切りっぱなしの衣類を製造するに当たり、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地を、熱セットによって熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させることによって組織の固定化を図り、変形、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、スリップイン、カールが起こりにくく、さらに伸縮を繰り返しても、ポリウレタン弾性繊維が断糸しない緯編地が得られ、着用を繰り返しても伸縮性を維持する耐久性の高い衣類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の緯編地は、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地で、熱セット等の熱処理によって、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に用いられる緯編地としては、平編、ゴム編、パール編等を適宜用いることができるが、特に、切りっぱなしで使用する際に、カールが生じ難くかつ熱融着しても緯編地本来の柔らかい伸びを与える編地が好ましく、例えばゴム編など上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた組織にすると、広範囲の条件でカールが生じ難くかつ伸長性の高い編地が得られる。
また、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸を使用することにより、編地の伸度を適度に規制してポリウレタン弾性繊維の断糸を防ぐことができることからも、ゴム編など上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた組織のように、緯伸度が大きく断糸の発生しやすい編地に対して好適に用いられる。
さらに、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた変化組織の場合、糸が変則的に動き、糸にかかるテンションが変化するために、ポリウレタン弾性繊維のベア糸のプレーティング編は技術的に困難であったが、ポリウレタン弾性繊維の伸度が規制された複合糸を使用し、かつ、ポリウレタン弾性繊維として熱融着のものを用いることで、針抜き、2×2テレコなどの変化組織に対しても、ポリウレタン弾性繊維を容易にプレーティング編することができ、切りっぱなしの衣類に好適な編地が得られる。
【0016】
ここで、本発明に用いられる熱融着ポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン弾性繊維相互又は該ポリウレタン弾性繊維と編地中の共用繊維とを熱融着し、編地の耐解編性が高く、特に切りっぱなし部の耐解編性に高い効果を与える熱融着ポリウレタン弾性繊維であれば、その組成、製造方法等は特に制限されるものではなく、例えば、ポリオールと過剰モル量のジイソシアネートを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタン中間重合体を製造し、該中間重合体のイソシアネート基と容易に反応し得る活性水素を有する低分子量ジアミンや低分子量ジオールを不活性な有機溶剤中で反応させポリウレタン溶液(ポリマー溶液)を製造した後、溶剤を除去し糸条に成形する方法や、ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジアミン又は低分子量ジオールとを反応させたポリマーを固化し溶剤に溶解させた後、溶剤を除去し糸条に成形する方法、前記固化したポリマーを溶剤に溶解させることなく加熱により糸条に成形する方法、前記ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させてポリマーを得、該ポリマーを固化することなく糸条に成形する方法、更には、上記のそれぞれの方法で得られたポリマー又はポリマー溶液を混合した後、混合ポリマー溶液から溶剤を除去し糸条に成形する方法等がある。これらの中で、特に、(A)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーと、(B)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーと、を反応させて得られるポリマーを固化することなく溶融紡糸する方法は、溶剤の回収を含まない為、経済的又は環境面で優位である。
【0017】
本発明に用いられる熱融着ポリウレタン弾性繊維の熱融着度は、熱融着力が0.10cN/デシテックス以上が好ましく、0.15cN/デシテックス以上がより好ましい。熱融着力が0.10cN/デシテックス未満であると編地の耐解編性が低く、編地がカールしたり、ほつれたり、ラン、デンセン、スリップイン、目ずれが生じる場合があり、好ましくない。
【0018】
本発明で用いられる熱融着ポリウレタン弾性繊維の太さは、編地の風合いの点から11〜311デシテックスであることが好ましく、より好ましくは15〜156デシテックス、さらに好ましくは22〜78デシテックスである。ポリウレタン弾性繊維が11デシテックスより細いと、熱処理の際に糸が断糸したり、編地の伸長回復性やパワーが低下したりする場合があり、311デシテックスより太いと編立性が低下する他、編地のパワーが強すぎる場合が生じるが、用途により繊度を変更することは何等差しさわりない。
【0019】
本発明で用いられる熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸の形態は、カバリング糸(シングルカバリング糸、ダブルカバリング糸)、合撚糸、エア交絡糸等いずれでもよいが、風合い、熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆程度より、カバリング糸が好ましく、シングルカバリング糸がより好ましい。複合糸を用いることにより、ポリウレタン弾性繊維の断糸を無くすことができ、さらに複合糸として共用した繊維の持つ物性、風合いが編地やその衣類に発揮できる点が長所である。中でも、複合糸の中心に熱融着ポリウレタン弾性繊維を配置することができ、また熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆度のコントロールが容易で、均一に被覆できるカバリング糸を用いることが好適である。なお、複合糸を用いることにより、熱融着ポリウレタン弾性繊維の断糸を防止することができる理由として、複合糸の加工倍率(ドラフト倍率)を超え該弾性繊維が伸び難いこと、該弾性繊維相互の熱融着面積が適度に軽減されいびつに融着する部位がなくなること等が考えられる。
【0020】
熱融着ポリウレタン弾性繊維の周囲に被覆される非弾性繊維は、特に制限はなく、例えば木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の化学合成繊維等を使用することができる。非弾性繊維の太さは、5〜330デシテックスであることが好ましく、より好ましくは5〜167デシテックス、さらに好ましくは、5〜111デシテックスである。非弾性繊維の太さが5デシテックスより低いとカバリングで糸切れしやすくなったり、ポリウレタン弾性繊維の被覆が少なくなり編地伸長時にポリウレタン弾性繊維が断糸するなどの問題があり、非弾性繊維の太さが330デシテックスより大きいとカバリング糸の伸縮性が低下したり、ポリウレタン弾性繊維の被覆が多くなる結果熱融着効果が足りないなどの問題が生じる。
また、複合糸全体に対してポリウレタン弾性繊維の混用割合は、3〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。
【0021】
カバリング糸、合撚糸の場合、ポリウレタン弾性繊維のドラフトは、1.0〜5.0倍が好ましく、より好ましくは1.2〜4.5倍である。撚り数は、60〜2500T/mが好ましく、より好ましくは100〜2000T/m、更に好ましくは200〜1800T/mである。撚り数が60T/mよりも低いと、編機での編成時の加工安定性が低下する場合があり、2500T/mよりも高いと、芯糸等に用いられる熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆度が高くなり、熱融着しにくくなる場合がある。エア交絡糸の場合、ポリウレタン弾性繊維のドラフトは、1.0〜5.0倍が好ましく、より好ましくは1.2〜4.5倍である。交絡数は、30〜150個/mが好ましく、より好ましくは30〜120個/m、更に好ましくは30〜100個/mである。交絡数が30個/mよりも低いと、編機での編成時の加工安定性が低下する場合があり、150個/mよりも高いと、使用される熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆度が高くなり、熱融着しにくくなる場合がある。
【0022】
したがって、ポリウレタン弾性繊維のドラフト(伸長倍率)や非弾性繊維の繊度、平均交絡長等により、撚り数、交絡数は適時変更する必要があるが、熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆率を40%以下に調整することが好ましく、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下である。熱融着ポリウレタン弾性繊維の被覆率が40%を超えると、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互の熱融着箇所が少なくなり、切りっぱなしの箇所が繰り返し使用中にほつれやすくなったり、ポリウレタン弾性繊維本来の伸びが失われたりするので好ましくない。切りっぱなしの状態で製品として繰り返し使用しても、ポリウレタン弾性繊維が断糸することなく、かつ、ほつれやカールがし難く、ポリウレタン弾性繊維本来の伸度が発揮できる点で上記の通りの被覆率が好ましい。一方、製品として繰り返し使用しても、ポリウレタン弾性繊維が断糸することなく、また、編機での編成時の加工安定性の点などから、被覆率は2%以上が好ましい。
【0023】
なお、本発明の被覆率は、カバリング糸、合撚糸の場合は(1)式で、エア交絡糸の場合は(2)式で計算した値である。
C=(0.012×√D×T/(1000/DR))×100 (1)式
ここで、Cは被覆度(%)を、Dは熱融着ポリウレタン弾性繊維の周囲に被覆される非弾性繊維の繊度(デシテックス)を、Tは撚糸時の撚り数(T/m)(ダブルカバリング糸の場合は上下撚り数の和)を、DRはカバリング又は撚糸時のポリウレタン弾性繊維のドラフト(倍)を示す。
C=(K×KL/1000)×100 (2)式
ここで、Kはエア交絡時の交絡数(個/m)を、KLは平均交絡長(mm/個)を示す。
【0024】
本発明の熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と混用される非弾性繊維は、特に制限は無く、例えば、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の化学合成繊維等のフィラメント糸、ステープル糸、ステープル混紡糸など任意の糸を使用することができる。非弾性繊維の太さは、編地の使用用途にもよるが、ステープル糸の場合、綿番手8〜120番、特に30〜80番が好ましく、フィラメント糸の場合、12〜660デシテックス、特に22〜167デシテックスが好ましい。これらの非弾性糸は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
非弾性繊維の混用の形態は、特に制限するものではないが、2種類以上の非弾性繊維を合撚、混紡して使用しても良いし、引き揃えて編み込んでも良い。また、複合糸として共用した非弾性繊維の種類により、例えば、吸湿性、抗菌性、消臭性、保温性、冷感性など編地に様々な機能や風合いを与えることができる。
【0026】
本発明の緯編地の製造方法は、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編することで得ることができる。この場合、非弾性繊維、ポリウレタン弾性繊維の繊度にもよるが、本発明に使用される繊維の繊度、編機の種類、編み機のゲージの範囲、また薄地から中厚地の生地を得る目的からして、非弾性繊維の編み込み糸長は10〜100cm/100Wであることが好ましく、より好ましくは15〜94cm/100Wである。熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸の編み込み糸長は9〜96cm/100Wが好ましい。ここで編み込み糸長とは、編地の任意のウェールに印を付け、そこから100ウェール目に印をつけ、解編し、初荷重(0.02kgf)を掛け、印間の長さを測定した値である。
【0027】
熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸と非弾性繊維との編み込み方法は、編目中での熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸と非弾性繊維の位置を調整可能で安定させることができ、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を全てのループで交差、接触させることができるプレーティング編が好ましく、プレーティング編することで得られた編地は、熱処理により熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させることで、編地のすべてのループを固定することができ、編地全体で、カール、ほつれが抑制され、該編地を直線、曲線、又は曲線と直線の組み合わせなど任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」または「フリーカット」で使用した衣類として好適に使用できる。
【0028】
熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸は、全コースに使用しても良いし(図2)、熱融着ポリウレタン弾性繊維単独又は非熱融着ポリウレタン弾性繊維単独あるいは非熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸と、交互に編み込んでもよい(図3)。さらに熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸を1コース以上おきに編み込んでもよいが、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸を使用しないコースには熱融着ポリウレタン弾性繊維単独又は非熱融着ポリウレタン弾性繊維単独あるいは非熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸を使用することが好ましく、熱融着ポリウレタン弾性繊維を使用することで、すべてのコースの組織固定化が可能なため、ほつれやカールの抑制に一層の効果があり、より好ましい。
また、図2、3で、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸または熱融着弾性繊維などを、上下針で編み込む方法を示したが、それら弾性繊維を上針のみで編み込む方法や下針のみで編み込む方法、或いはそれら3つを複合した方法でもよい。さらに、針抜き、2×2リブ、フライスメッシュ、フライスジャカード他、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた変化組織でもよい。
【0029】
また、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸は、編地の限られたコースに単独又は複数コースで使用しても良いし、編地の全コースに使用しても良いが、編地の限られたコースに使用すると、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸を使用したコースのみで組織が固定されるため、当該部しかカール、ほつれ抑制効果がなく、裁断の自由度が制限され、「切りっぱなし」で使用できる裁断部が直線状になる。編地の全コースに使用すると、編地全体の組織が固定されるので、編地全体で、カール、ほつれが抑制され、裁断の自由度が増し、該緯編地を直線、曲線、又は曲線と直線の組み合わせなど任意のラインで裁断したままの状態、所謂「切りっぱなし」または「フリーカット」で使用した衣類として好適に使用できる。
【0030】
編機については、緯編地を作製するのに用いられる通常の編機を使用することができ、常法に従って編地を作製することができる。一例として、ダイヤルシリンダーの丸編機を用いる場合、ゲージは8〜42Gが好ましく、シングルシリンダーの丸編機を用いる場合、12〜42Gが好ましい。編針にはプレーティング専用針を使うことが好ましい。
【0031】
このようにして、緯編地を編成した後、熱セットにより、編地を構成する熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させる。熱セットの方法は、乾熱セットと湿熱セットのいずれを採用してもよい。
【0032】
乾熱セットを行なう場合、例えば編地を開反しピンテンターのようなセット機を使い、熱風により熱固定することで行なうことができる。また編地を開反せず袋状や筒状などの状態で熱セットすることも何等問題なく実施できる。この場合、セット温度は130〜220℃、特に140〜200℃が好ましく、セット時間は10〜180秒、特に20〜120秒が好ましい。
【0033】
一方、湿熱セットの方法は、編地を型板に入れた状態で常法により所定圧力の飽和蒸気により熱固定することにより行なうことができる。この場合、セット温度は100〜130℃、特に105〜125℃が好ましく、セット時間は2〜120秒、特に5〜60秒が好ましい。
【0034】
セット温度が乾熱220℃又は湿熱130℃よりも高いと、製品の風合い、染色堅牢度等に悪い影響を与え好ましくない。乾熱130℃又は湿熱100℃より低いと、熱融着ポリウレタン弾性繊維が熱融着しない、編地の寸法、性量が安定しない場合が生じる。
【0035】
染色については、常法で行なうことができるが、複合糸鞘糸の非弾性繊維と、複合糸と混用される非弾性繊維の素材が異なる場合は、各素材の常法で2浴染めを行なうことで色違いが生じないため好ましいが、淡色、白色の場合はこの限りでない。
【0036】
本発明の緯編地は、熱融着ポリウレタン繊維相互を熱融着させることで組織を固定化させ、裁断部分を切りっぱなしにしても、カール、ほつれ、ラン等が生じることがなく、更に伸縮を繰り返しても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しないため、裁断部分を始末する手間を省くことができ、耐久性の高い緯編地ができる。また、本発明の緯編地を切りっぱなしで用いたインナーウェアは、外衣にひびきにくく審美性にも優れるため、各種インナーウェア、ニット衣類用として好適に用いることができる。とりわけ、本発明の緯編地を切りっぱなしでニット衣類の少なくとも一部分に用い、ショーツ、シャツ、キャミソール、スリップ、ボディスーツ、ブリーフ、トランクス、肌着、ガードル、ブラジャー、スパッツ、腹巻等の切りっぱなし衣類を提供することができる。
また、本発明の緯編地を切りっぱなしでニット衣類の少なくとも一部分に用いて、水着、トレーニングウェア、レオタード、スキー・野球・サッカーなど様々な競技用スポーツウェアに、機能性かつスポーティな印象を付与することができる。
さらに、本発明の緯編地を切りっぱなしでニット衣類の少なくとも一部分に用いて、Tシャツ、ジャケット、セーター、ベストなどの切りっぱなし衣類を提供したり、手袋、帽子、パジャマ、ガウンなどでも従来にない機能、デザイン、印象の衣類を提供したりすることができる。
その他、消費者など製品使用者の好みにより、衣類などの製品を裁断して使用したり、丸、ダイヤ、ハート、星型等の任意の形状で製品の一部を切り抜いて好みのお洒落を楽しんだり、ファッション性を付与した状態で使用することもできる。
なお、従来の縫製した衣類と比較しても、従来の非熱融着ポリウレタン弾性繊維を使用した衣類と比較しても、物性、風合い、消費耐久性など衣類として何ら問題なく、安心して使用することができる。(消費耐久性とは、衣類を利用する消費者が着用、洗濯、乾燥、保管など通常の使用に耐える物性を所有しているかどうかを表現した特性である。)
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
カバリング糸の芯糸として熱融着ポリウレタン弾性繊維44デシテックスを、鞘糸として東レ(株)製ナイロン仮撚加工糸13デシテックス5フィラメントZ撚を用いて、カバリング機を使用し、該芯糸をドラフト2.3倍で延伸しつつ、該芯糸に撚り数600T/m、スピンドル回転数16,000rpmでZ撚に該鞘糸を巻付け、シングルカバリング糸を得た。得られたシングルカバリング糸の被覆度は6.0%であった。フライス編機(釜径:16インチ、ゲージ:20、給糸口数:30口)で日清紡績(株)製綿60番手と該カバリング糸をプレーティング編にて編み込み、全針でニット編を行い、1×1ゴム編組織の緯編地を編成した。綿糸の編み込み糸長は46.0cm/100W(100ウェールあたりの糸長が46.0cm)として、カバリング糸は加工倍率(ドラフト)2.3倍そのままで編みこんだ結果、該熱融着ポリウレタン弾性繊維の編み込み糸長は、20.0cm/100Wとなった。
【0039】
ついで、得られた編地を下記条件にて染色加工した。
1)プリセット工程として、乾熱190℃で60秒間処理した。
2)精練工程として、精練剤を2mL/L、苛性ソーダを2.2g/L使用して90℃で20分間処理した。
3)漂白工程として、30%過酸化水素を15mL/L、珪酸ナトリウムを5mL/L、苛性ソーダを1.1g/L使用して90℃で30分間処理した。
4)綿の染色工程として、反応染料を20owf%、無水芒哨を90g/L、ソーダ灰を16g/L使用して60℃で30分間処理した。
5)フィックス工程として、フィックス剤を3.0owf%使用して50℃で20分間処理した。
6)ソーピング工程として、ソーピング剤1mL/L使用して90℃で10分間処理した。
7)ナイロンの染色工程として、酸性染料を2owf%、均染剤を2owf%、硫安を0.3owf%使用して97℃で50分間処理した。
8)フィックス工程として、フィックス剤を4owf%、酢酸を0.7owf%使用して80℃で20分間処理した。
9)柔軟工程として、柔軟剤(a)を3owf%、柔軟剤(b)を1owf%使用して45℃で15分間処理した。
10)ファイナルセット工程として、乾熱160℃で30秒間処理した。
【0040】
尚、上記工程で使用した薬剤は以下の通りである。
綿の染色での使用薬剤
精練剤:SSK−15A(松本油脂社製)
反応染料:KPZOL BLACK KMN(紀和化学工業社製)
フィックス剤:ダンフィックスRE(日東紡社製)
ソーピング剤:スコアロールTS840(旭電化工業社製)
ナイロンの染色での使用薬剤
酸性染料:Nylosan Black F−WL(クラリアントジャパン社製)
均染剤:サンドゲンNH(クラリアントジャパン社製)
フィックス剤:ハイフィックスGM(大日本製薬社製)
柔軟剤(a):サファノール N−750(三洋化成工業社製)
柔軟材(b):ニッカシリコン AM−202(日華化学社製)
【0041】
熱融着度の評価、定荷重伸度の測定、定荷重伸長による編地中のポリウレタン弾性繊維の耐久性、耐伸縮疲労性試験、洗濯による傷み評価、着用試験による編地のほつれ、及びカール評価については、下記の通り実施し、結果を表1に示す。
【0042】
<熱融着度の評価>
編地をコース方向にカットし、カット部に編み込んだポリウレタン弾性繊維又はポリウレタン弾性繊維を含む複合糸の解編張力を測定した。解編速度は100mm/分とし、1分間の平均解編張力を測定した。ポリウレタン弾性繊維又は複合糸中のポリウレタン弾性繊維の解編が困難な場合は、熱融着良好として、連続した解編が可能な場合は、熱処理前後の平均解編張力を測定し、続いて、熱処理後の平均解編張力(cN)をポリウレタン弾性繊維の初期繊度(デシテックス)で除して熱融着力(cN/デシテックス)とし、下記の評価を行なった。
〈評価基準〉
熱融着良好:ポリウレタン弾性繊維又は複合糸中のポリウレタン弾性繊維の解編が困難な場合(熱融着力は解編不可能とした。)、もしくは熱融着力が0.10cN/デシテックス以上。
熱融着不良:熱融着力が0.10cN/デシテックス未満。
【0043】
<定荷重伸度の測定、定荷重伸長による編地中のポリウレタン弾性繊維の耐久性>
タテ2.5cm×ヨコ16cmの試料片を採取し、把握長10cmで引張試験機に取り付け、伸長速度300mm/分で試料片を緯方向に22N定荷重となるまで伸長し、10N、15N及び22N荷重時の伸度を測定した。測定時の環境は温度20℃、相対湿度65%であった。
さらに、22N定荷重伸長した試料のポリウレタン弾性繊維の断糸を目視で判定した。
【0044】
<耐伸縮疲労性試験>
タテ9cm×ヨコ17cmの試料片を採取し、把握長7cmでデマッチャー試験機に取り付け、試験片を緯方向に下記設定伸度で7500回、伸長速度200回/分で繰返し伸縮を行い、伸縮後試料のポリウレタン弾性繊維の断糸を目視で判定した。
試験伸度の設定
定荷重伸度の測定結果より
(1)15N荷重時伸度が100%未満の場合…15N荷重時伸度で設定。
(2)15N荷重時伸度が100%以上の場合…(10N荷重時伸度+15N荷重時伸度)/2で設定。但し、150%を上限とする。
尚、設定伸度は2捨3入(5%刻み)とする。
例)132%→130%、133%→135%
137%→135%、138%→140%
【0045】
<洗濯による傷み評価>
タテ5cm×ヨコ40cmの編地サンプルを取り、編地のウェール方向に対して40°の切り込みを5箇所入れて、タテ方向の裁断面を合わせて筒状に縫製した後、家庭用2槽式洗濯機((株)東芝製 商品名:GINGA4.5)を使用して下記条件にて洗濯を行った。
洗濯(300分)→遠心脱水(5分)→注水すすぎ(10分)→遠心脱水(5分)
液温:常温(25℃),水流:強水流
洗剤:ライオン(株)製、商品名:トップ,水量:30リットル
洗濯水1リットルに対して洗剤1.3g使用
負荷布:綿とポリウレタン弾性繊維混用ベア天竺編地1.0kg分
次に、編地のヨコ方向に裁断した編地端とウェール方向に対して40°に裁断した編地端のほつれ程度を観察し、ほつれ程度は下記の4段階で評価した。
尚、△と×は裁断面より糸端が飛び出しており、裁断ラインが凹凸になる外観の悪いものであり、◎又は○が裁断面から糸端の飛び出しもなく、外観が良く、洗濯耐久性の点で好ましい。
〈評価基準〉
◎:傷みが認められず、洗濯前との差なし。耐久性良好。
○:やや傷みが認められるが、糸端の飛び出しはなし。耐久性良好。
△:傷みが認められ、糸端が飛び出している。耐久性不良。
×:傷みが激しく、裁断面の編地組織が崩れている。耐久性不良。
【0046】
<着用試験による編地のほつれ、カール評価>
図1のパターン図に基づき、図1の9のラインが編地ウェール方向に対して0°近傍になるように、編地を裁断し、図1の1と2、3と5、4と5(1〜5は縫製部)を重ね合わせて縫製して、図1の6のウエスト部、7、8の脚回り部、9のクロッチ部はいずれも裁断したままの切りっぱなしとして、ショーツを作製した。
尚、各部の編地ウェール方向に対する裁断角度とラインは以下の通りであった。
ウエスト部:70°〜90°の曲線
脚回り部 :0°〜90°の曲線
クロッチ部:0°近傍の曲線
作製したショーツを着用、洗濯、乾燥を3日間繰り返した。3日間着用後の編地端のほつれ程度と着用中、着用後のカール発生状況を観察し、下記の4段階で評価した。
尚、傷み評価については、△と×は裁断面より糸端が飛び出しており、裁断ラインが凹凸になる外観の悪いものであり、◎又は○が裁断面から糸端の飛び出しもなく、外観が良く、洗濯耐久性の点で好ましい。
〈傷み評価基準〉
◎:傷みが認められず、着用前との差なし。耐久性良好。
○:やや傷みが認められるが、糸端の飛び出しはなし。耐久性良好。
△:傷みが認められ、糸端が飛び出している。耐久性不良。
×:傷みが激しく、裁断面の編地組織が崩れている。耐久性不良。
カールの評価については、△と×は着用後、着用中にカールが発生しており、洗濯してもカールが解消しないもので、カール部が折れることで外衣に折れた箇所が見えたり、着用感の悪いものであり、◎又は○が着用中にカールの発生がなく、外衣にひびくことがなく、着用後にカールしても、洗濯をするとカールが解消するので、衣類として好ましい。
〈カール評価基準〉
◎:着用中、着用後ともカールの発生はなし。耐久性良好。
○:着用直後にカールが見られたが、洗濯、乾燥により解消した。耐久性良好。
△:着用後にカールが発生、洗濯、乾燥しても解消しない。耐久性不良。
×:着用中にカールが発生、洗濯、乾燥しても解消しない。耐久性不良。
【0047】
[実施例2]
天竺編機(釜径:38インチ、ゲージ:28、給糸口数:100口)で東レ(株)製ナイロン仮撚加工糸78デシテックス52フィラメントのS撚とZ撚を1コースおき交互に、実施例1のカバリング糸を全コースにプレーティング編にて編み込み、全針でニット編を行い、平編組織の緯編地を編成した。ナイロン仮撚加工糸の編み込み糸長は25.6cm/100W(100ウェールあたりの糸長)として、カバリング糸は加工倍率(ドラフト)2.3倍そのままで編みこんだ結果、該熱融着ポリウレタン弾性繊維の編み込み糸長は、11.1cm/100Wとなった。
得られた緯編地を実施例1と同様のセット、ナイロンの染色を行った後、同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
プリセット工程を180℃で30秒に変更した以外は実施例1と同じようにして試験した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例4]
実施例1のカバリング糸の鞘糸の代わりに東レ(株)製ナイロンフィラメント糸17デシテックス5フィラメントを用いて、撚り数1600T/mにした以外は実施例1と同様の方法で編地を作製し、同様の試験を行った。結果を表1に示す。得られたシングルカバリング糸の被覆度は18.2%であった。
【0050】
[実施例5]
エア交絡糸用の糸として、実施例1の熱融着ポリウレタン弾性繊維と、東レ(株)製ナイロン仮撚加工糸33デシテックス24フィラメントZ撚を用いて、該熱融着ポリウレタン弾性繊維をドラフト2.3倍で延伸しつつ、エア圧4.5kg/cmでエア交絡させ、交絡数52個/m、平均交絡長を4.8mm/個とし、プリセット工程を190℃で30秒とした以外は実施例1と同様の方法で編地を作製し、同様の試験を行った。結果を表1に示す。得られたエア交絡糸の被覆度は25.0%であった。
【0051】
[比較例1]
実施例1のカバリング糸の代わりに熱融着ポリウレタン弾性繊維44デシテックスをベア糸で編み込み倍率2.3倍(編込糸長に換算すると20.0cm/100W)の設定で編み込んだ以外は実施例1と同様の方法で編地を作製し、同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
実施例2のカバリング糸の代わりに熱融着ポリウレタン弾性繊維44デシテックスをベア糸で編み込み倍率2.3倍(編込糸長に換算すると11.1cm/100W)の設定で編み込んだ以外は実施例2と同様の方法で編地を作製し、同様の試験を行った。結果を表1に示す
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1、4は、熱融着により組織が固定化されており、洗濯、着用試験でも切りっぱなし部分の傷み、カールはほとんど認められず、切りっぱなし部を含む衣類として消費耐久性は良好であった。実施例2は、熱融着により組織が固定化されており、洗濯、着用試験でも切りっぱなし部分の傷みはほとんど認められず、着用試験で着用時にカールが見られたが、洗濯、乾燥によりカールは解消し、切りっぱなし部を含む衣類として消費耐久性は良好であった。実施例3及び5は、プリセット前の編地の解編張力が0.9cN、0.8cNで、プリセット後の編地の解編張力が7.8cN、5.7cNであり、プリセットによりそれぞれ約9倍、約7倍にあがり、適度な熱融着力を持ち、熱融着力は、0.18cN/デシテックス、0.13cN/デシテックスになったことで、洗濯、着用試験でも切りっぱなし部分の耐ほつれ、耐カールなど消費耐久性は良好で、衣類として充分に使用できるものであった。
さらに、実施例1〜5は、熱融着ポリウレタン弾性繊維を他の繊維との複合糸にすることによって、融着面積が低減して、接触箇所への応力集中が緩和され、さらに熱融着ポリウレタン弾性繊維の周囲に被覆される非弾性繊維によって、熱融着ポリウレタン弾性繊維の伸長が抑制され、耐伸縮疲労性試験においても熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しない耐久性の高い緯編地が得られた。
実施例1〜5の編地を使用したショーツなどの製品の製造にあたり、縫製時にカールを広げたり、押さえたりする手間が省けたり、ランが発生しにくいため縫製が容易にできるので、高い生産効率で製造できた。また、薄く切りっぱなしの製品ができるので、外衣にひびかない、着用痕が肌に残らない、皮膚刺激性の低い、肌触り感や着心地といった着用感良好の衣類、さらに、洗濯、着用を繰り返してもほつれ、カール、熱融着ポリウレタン弾性繊維が断糸しない耐久性の高い切りっぱなしの衣類が得られた。
比較例1、2も、熱融着により組織が固定化されており、耐ほつれ、耐カールなど切りっぱなし部を含む衣類として耐久性は良好であったが、22N定荷重で編地を大きく伸長した際や、耐伸縮疲労性試験でポリウレタン弾性繊維が断糸しており、伸長や繰り返し伸縮に対する耐久性が劣る編地であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】着用試験用ショーツのパターン図である。
【図2】非弾性繊維にプレーティング編する相手糸が熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸である編組織図である。
【図3】非弾性繊維にプレーティング編する相手糸として、熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と、熱融着ポリウレタン弾性繊維単独又は非熱融着ポリウレタン弾性繊維単独あるいは非熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸とを、交互に編み込んだ編組織図である。
【符号の説明】
【0056】
1 縫製部
2 縫製部
3 縫製部
4 縫製部
5 縫製部
6 ウエスト部
7 脚回り部
8 脚回り部
9 クロッチ部
10 ダイヤル針
11 非弾性繊維
12 熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸
13 熱融着ポリウレタン弾性繊維単独又は非熱融着ポリウレタン弾性繊維単独あるいは非熱融着ポリウレタン弾性繊維を含んだ複合糸
14 シリンダ針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地であって、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させたことを特徴とする緯編地。
【請求項2】
前記緯編地が、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた組織であることを特徴とする請求項1記載の緯編地。
【請求項3】
前記緯編地が、上下針の相対位置をリブ出合いに配列して編まれた変化組織であることを特徴とする請求項1記載の緯編地。
【請求項4】
前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、カバリング糸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緯編地。
【請求項5】
前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、合撚糸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緯編地。
【請求項6】
前記熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸が、エア交絡糸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の緯編地。
【請求項7】
前記カバリング糸が、芯糸を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、その芯糸に被覆される糸の太さが5〜330デシテックスであって、その撚り数が60〜2500T/mの範囲であることを特徴とする請求項4記載の緯編地。
【請求項8】
前記合撚糸が、その撚り糸の少なくとも1本を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、該熱融着ポリウレタン弾性繊維以外の撚り糸の太さが5〜330デシテックスであって、その撚り数が60〜2500T/mの範囲であることを特徴とする請求項5記載の緯編地。
【請求項9】
前記エア交絡糸が、その交絡させる糸の少なくとも1本を熱融着ポリウレタン弾性繊維とし、該熱融着ポリウレタン弾性繊維以外の糸の太さが5〜330デシテックスであって、その交絡数が30〜150個/mの範囲であることを特徴とする請求項6記載の緯編地。
【請求項10】
前記緯編地が、衣類の縁の一部又は全部、あるいは、衣類の縁でない箇所の一部において、任意のラインで裁断されたままの状態で含まれることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の緯編地。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の緯編地を用いた衣類。
【請求項12】
熱融着ポリウレタン弾性繊維を含む複合糸と少なくとも1種類の非弾性繊維をプレーティング編した緯編地であって、該緯編地を、湿熱100〜130℃、又は乾熱130〜220℃の熱セットにより、熱融着ポリウレタン弾性繊維相互を熱融着させたことを特徴とする緯編地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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