説明

熱間スラブのサイジング圧延方法

【課題】幅圧下量をより大きくしようとすると圧延パス数が増して能率が下がり、然も先尾端部のフィッシュテールも増大して歩留まりも低下するという課題があり、素材スラブ供給元である連続鋳造工程における工程合理化の一環である鋳込み幅集約化の推進を図る熱間スラブのサイジング圧延技術を提供する。
【解決手段】2つの厚み圧下用水平圧延機1,3と1つの幅圧下用竪型圧延機2とを、第1の水平圧延機1、竪型圧延機2、第2の水平圧延機3の並び順で近接配置したサイジング圧延設備を用い、圧延ロールとスラブとのスリップが発生しない範囲内で圧縮力が作用するように、1つの熱間スラブ4を、隣接する竪型圧延機2と第1或いは第2の水平圧延機1或いは2にて同時に圧延し、或いは隣接する第1の水平圧延機1と竪型圧延機2と第2の水平圧延機3にて同時に圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間スラブのサイジング圧延方法に関し、詳しくは、連続鋳造にて製造されたスラブを所望の板厚、板幅に成形するにあたり、連続鋳造の生産性を向上させるとともにスラブ先尾端の平面形状を制御してクロップロスの低減を可能とする、熱間スラブのサイジング圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼帯は、通常200mm〜300mm程度の厚みのスラブから、粗圧延工程、仕上圧延工程を経て所望の板厚にまで減厚され、必要な材質を確保するために高速で走行しながらランナウトテーブルにて所定の冷却処理を施され、ダウンコイラーにてコイル状に巻き取られている。近年、多くの熱間圧延ラインの粗圧延工程では、加熱炉から抽出されたスラブに対して板幅方向に対峙する1対の金型にて大きな幅圧下加工を行うサイジングプレス装置が具備され、最大300mm程度の幅圧下を施した後、複数パスの圧延を経てシートバーに成形している。サイジングプレスの導入により熱間圧延ラインでの幅変更能力が格段に拡大され、連続鋳造におけるスラブ鋳込み幅の集約化が可能となり、モールド幅替え回数の低減や鋳込み中の幅替えに伴って発生する非定常スラブの低減など、連続鋳造ラインでの生産性や能力向上が図られている。
【0003】
しかしながら、一般的な熱延鋼帯製品の幅は700mm〜2200mm程度と様々であり、熱間圧延ラインにてサイジングプレスを活用したとしても、連続鋳造工程では別チャンスにて複数水準の幅のスラブを鋳込む必要がある。サイジングプレスを活用してもスラブ鋳込幅と製品幅の差を300mm程度以上にすることができないことから、連続鋳造工程と熱間圧延工程を直結した直送圧延の実施チャンスを含め、熱間圧延ラインでのサイクル構成が大きく制約されているのが実状である。また、連続鋳造速度はスラブ幅にはほとんど依存しないことから、スラブ幅が狭いほど連続鋳造での生産性が悪化するため、錫めっき用鋼板等の狭幅材の製造では連続鋳造にて倍幅スラブを鋳込み、オフラインにて板幅中央部を長手方向にガス溶断等の手段にて2枚のスラブに分割することも行われている。この場合、連続鋳造での生産性は向上するものの、スラブ分割工程が追加され、かつ直送圧延が不可となり、スラブの再加熱が必要となることから製造コストアップとなっている。
【0004】
このようなことから、連続鋳造スラブの幅変更量を拡大する方法として、水平圧延機の前後に竪型圧延機を配置し、幅圧延と水平圧延とを繰り返すサイジング圧延方法が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2)。特許文献1では、サイジング圧延時に発生しやすい板幅中央部の欠陥を低減するため、幅圧下での圧下率と水平圧延での圧下率の関係を規定している。これは、水平圧延する際に幅圧下にて板厚増が生じるドッグボーン部に比べ、相対的に板厚の薄いスラブ中央部の凹部で圧延方向に引張応力が作用し、欠陥となるのを低減させるためである。また、特許文献2ではドッグボーン部の水平圧延時に発生する板幅中央部の厚み方向の凹みを低減させる技術として、スラブを目標厚みまで水平圧延した後、幅圧下と局部的板厚増大部のみの水平圧延とを繰り返し実施する圧延方法が提案されている。
【0005】
また、従来の堅型圧延機によるスラブサイジング圧延にて発生不可避であった先尾端部のフィッシュテールとよばれる凹形状は、スラブの段階、あるいは熱間圧延ラインでの粗圧延工程を経たシートバーの段階にて切り落とされることから、大きな歩留まり低下となる。このため、堅型圧延機によるサイジング圧延ラインにサイジングプレス装置を設置し、サイジングプレスにて初期スラブ先尾端部の予成形を行うことにより、サイジング圧延でのスラブ先尾端部平面形状の過度の凹変形を抑止する技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−106601号公報
【特許文献2】特開昭62−97701号公報
【特許文献3】特開2008−272807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記した従来技術では、各々以下のような問題があった。
まず、特許文献1と特許文献2では、竪型圧延機での1パス毎の幅変更可能量を大きくできないため、スラブ全幅を大きく変更するためには多くの圧延パス数が必要であることから、生産性が低下するとともにスラブ温度の低下も著しく、特に連続鋳造と熱間圧延を直結して圧延する場合には不適という問題点があった。また、本プロセスではスラブの幅圧下量が大きくなるほど先尾端のフィッシュテールが増大し、大きな歩留まり低下となることが不可避である。
【0008】
また、特許文献3では、特許文献1、特許文献2に開示されている方法にて問題であったスラブ先尾端のフィッシュテール長を低減するため、新たなサイジングプレス装置を導入することが前提条件となっており、設置スペース、設備費、ランニングコスト等々、多くの点で問題がある。また、サイジング圧延にスラブ先尾端の予成形工程が追加されることから、生産性の低下、スラブ温度の低下をより一層拡大させてしまうという問題がある。
【0009】
上述の様に、従来の熱間スラブのサイジング圧延技術は、幅圧下量をより大きくしようとすると圧延パス数が増して能率が下がり、然も先尾端部のフィッシュテールも増大して歩留まりも低下するという未解決の課題があり、その為、素材スラブ供給元である連続鋳造工程における工程合理化の一環である鋳込み幅集約化の推進を難しくしていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、前記課題を解決する為に鋭意検討した結果、スラブ幅圧下時の先尾端部非定常変形に起因する歩留まり低下を最小限に抑制し、かつ高い生産性でスラブを目標の厚みと幅に成形することが可能なサイジング圧延方法を見出し、本発明を成した。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)
熱間スラブを圧延にて目標板厚と目標板幅に成形する設備として、2つの厚み圧下用水平圧延機と1つの幅圧下用竪型圧延機とを、第1の水平圧延機、竪型圧延機、第2の水平圧延機の並び順で近接配置した熱間スラブのサイジング圧延設備を用いる熱間スラブのサイジング圧延方法であって、1つの熱間スラブを、隣接する竪型圧延機と前記第1或いは第2の水平圧延機にて同時に圧延し、あるいは隣接する第1の水平圧延機と竪型圧延機と第2の水平圧延機にて同時に圧延するとともに、スラブ先端部の幅圧下時には上流側の水平圧延機と竪型圧延機間で圧延ロールとスラブとのスリップが発生しない範囲内で圧縮力が作用するように上流側の水平圧延機と竪型圧延機の圧延速度を制御することを特徴とする、熱間スラブのサイジング圧延方法。
【0011】
尚、ここで、「目標板厚」、「目標板幅」における「板」とは上記圧延による成形後の熱間スラブを指す。
(2)
(1)において、第1の水平圧延機、竪型圧延機、第2の水平圧延機の順方向の圧延と、第2の水平圧延機、竪型圧延機、第1の水平圧延機の逆方向の圧延とを交互に行って、前記目標板厚と前記目標板幅に成形することを特徴とする、熱間スラブのサイジング圧延方法。
(3)
前記成形前の熱間スラブは、前記目標板厚超の厚みと前記目標板幅超の幅を有する連続鋳造スラブであることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱間スラブのサイジング圧延方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイジング圧延素材とされる連続鋳造スラブの寸法を高生産性、高歩留まりの条件下で大幅に変更することが可能であり、連続鋳造の生産性向上、連続鋳造と熱間圧延の直結等、非常に大きな合理化効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のサイジング圧延による圧延後のスラブ先端部平面形状プロフィルの例を従来例と比較して示すプロフィル線図である。
【図2】本発明のサイジング圧延による圧延後のスラブ尾端部平面形状プロフィルの例を従来例と比較して示すプロフィル線図である。
【図3】本発明のサイジング圧延による圧延後のスラブ先端部平面形状プロフィルに及ぼす竪型圧延上流側より負荷した押込力の影響を例示するプロフィル線図である。
【図4】本発明のサイジング圧延による圧延後のスラブ尾端部平面形状プロフィルに及ぼす竪型圧延下流側より負荷した押込力の影響を例示するプロフィル線図である。
【図5】本発明に係るサイジング圧延設備を例示する模式的側面図である。
【図6】水平圧延のロールバイト内の中立点位置に及ぼす水平圧延下流側より負荷した押込力の影響を例示する圧延圧力パターン線図である。
【図7】水平圧延のロールバイト内の中立点位置に及ぼす水平圧延上流側より負荷した押込力の影響を例示する圧延圧力パターン線図である。
【図8】竪型圧延機によるスラブ幅圧下後のスラブ平面形状を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態をその作用効果と併せて説明する。尚、以下の説明及び該説明に用いる図において、「板」はスラブを意味する。
通常の竪型圧延機によるスラブ幅圧下では、圧延ロールとスラブとの間の接触弧長Ldに比べて板幅(スラブ幅の意。以下同じ)Wが広い、すなわちW/Ldが1より著しく大きい領域での幅圧下となることから幅圧下による歪が板幅中央まで浸透せず、特に前後に拘束のないスラブの先尾端部では幅端部の材料が幅中央部のそれより先進または後進するため、図8に示す如く先端部の幅落(幅の減少)と先尾端部での凹型平面形状、すなわちフィッシュテールが形成される(例えば、日本鉄鋼協会共同研究会圧延理論部会編「板圧延の理論と実際」昭和58年発行、p83)。スラブのサイジング圧延では、幅圧下と水平圧延を繰り返すことによりスラブ先尾端部のフィッシュテール形状が大きく拡大するため、次圧延工程での通板性に悪影響を及ぼさないようにシャーなどの手段により切断されてから圧延される。この際、切断された先尾端部はクロップと呼ばれ、クロップが大きいほど歩留まりが悪く製造コストを低下させる要因となる。
【0015】
本発明者らは、竪型圧延機による幅圧下で生じるフィッシュテールの形成メカニズムについて詳細に検討した結果、その低減方法を着想した。圧延では、材料(スラブ)は堅型圧延機の回転する幅圧下圧延ロール(エッジャーロール)との間の摩擦力によりロールバイト内に引き込まれていくため、前方に拘束のない先端部では幅端部が引き込まれ、大きなせん断変形が生じることによりフィッシュテール形状を形成する。これは、ロールバイト内の中立点位置、すなわち圧延ロール速度と材料速度が同一となる点より以前(上流側)では圧延ロール速度のほうが速く、かつ先端部では幅圧下による変形が自由端である前方に流れやすいことからより大きなせん断変形が生じ得るものである。本メカニズムによると、圧延での中立点位置をロールバイト入口方向に移動させることができれば、材料先端部でのフィッシュテール方向へのせん断変形が低減するものと考えられる。圧延での中立点は、ロールバイト内での長手方向の力が釣り合う位置となるが、ロールバイト入側、あるいはロールバイト出側の材料に圧縮や引張の外力を加えることによりその位置が大きく移動することが知られている(例えば、日本鉄鋼協会共同研究会圧延理論部会編「板圧延の理論と実際」昭和58年発行、p16)。このため、材料先端部では、ロールバイト入側より材料に圧縮力をかけることにより中立点がロールバイト入口方向に移動するため、圧延ロールとの間の摩擦力による前方へのせん断変形が抑制される、すなわち先端部フィッシュテール形状の低減が可能である。
【0016】
図3は、有限要素法にて計算した竪型圧延機によるスラブ先端部の平面形状を示しており、厚み295mm、幅1800mm、温度1000℃相当のスラブをφ2500mmのカリバーロール(エッジャーロール)にて1パス300mmの幅圧下を行う条件で、かつスラブ尾端部に圧延下流側に向かう押込力を負荷した場合の先端部形状の変化を示している。押込力を負荷しない場合、スラブ先端部はフィッシュテール形状となっているが、負荷する押込力が大きくなるにしたがってフィッシュテール形状が抑制され、本幅圧下条件では5MPa程度の押込力の負荷により先端部の凹み変形深さがほぼ0まで抑制されている。しかしながら、凹形状は抑制されるものの板幅端付近の幅落ち(幅減少)が大きく、大きな押込力を負荷した場合には逆に凸状のタング(舌)に移行している。
【0017】
また、スラブ尾端部では、スラブ先端部とは逆にロールバイト出側から材料に圧縮力をかけることにより中立点がロールバイト出口方向に移動するため、圧延ロールとの間の摩擦力による端部の前方への引き込み変形が助長される、すなわち尾端部フィッシュテール形状の低減が可能である。図4は、図3と同じ条件下で、スラブ先端部に圧延上流側に向かう押込力を負荷した場合の尾端部形状の変化を示している。押込力を負荷しない場合、スラブ尾端部はフィッシュテール形状となっているが、負荷する押込力が大きくなるにしたがってフィッシュテール形状が抑制されている。しかしながら、押込力に対するフィッシュテール形状の変化は先端部に比べると小さく、凹形状の完全な抑制は困難である。
【0018】
本発明者らは、これらの押込力負荷によるスラブ先端部と尾端部における平面形状変化の挙動を詳細に検討し、先端部の凸形状と尾短部の凹形状を組合せた平面形状制御技術を着想した。
本発明を実現するための実施形態について図5を用いて説明する。図5は、本発明に係るサイジング圧延設備を構成するところの、第1の水平圧延機1、竪型圧延機2、第2の水平圧延機3を近接配置した設備列である(以後、この順番での圧延を順方向圧延若しくは順方向パスと呼び、逆の順番での圧延を逆方向圧延若しくは逆方向パスと呼ぶ)。
【0019】
ここで、近接配置とは、竪型圧延機2と第1の水平圧延機1或いは堅型圧延機2と第2の水平圧延機3の隣接配置間隔がサイジング圧延素材とされる連続鋳造後の最小スラブ長さの30%未満である配置を意味する。
本発明では、連続鋳造にて鋳込まれたスラブ4を図5の設備列にて順方向パスと逆方向パスでの圧延にて目標スラブ寸法に成形するに際し、各圧延パスでの材料先端部の幅圧下時には上流側の水平圧延機と竪型圧延機間で圧延ロールとスラブとのスリップが発生しない範囲内で圧縮力が作用するように上流側水平圧延機と竪型圧延機の速度制御を行うことを特徴とする。例えば、順方向パスの場合、第1の水平圧延機1と堅型圧延機2との間に圧縮力を作用させる。また、逆方向パスの場合、第2の水平圧延機3と堅型圧延機2との間に圧縮力を作用させる。
【0020】
板圧延におけるスリップの発生条件は、ロールバイト内に中立点が存在するか否かで判定可能であり、第1の水平圧延機1により竪型圧延機2へ押込力を負荷することを想定した圧延解析を行った。図6は初等解析手法にて計算した第1の水平圧延機1のロールバイト内での圧延圧力分布の例であり、厚み295mm、温度1000℃相当のスラブをφ1000mmのロールにて280mmの厚みまで水平圧下する条件である。第1の水平圧延機1と竪型圧延機2との間の材料に圧縮応力を発生させる、すなわち第1の水平圧延機1の下流側から押込応力を負荷することにより中立点がロールバイト出口側に移動するが、本圧延条件では約5MPa以下の押込応力であればスリップが発生しないことがわかる。これは、図3に示した先端平面形状変化を発生させるための応力レベルとほぼ同等であり、本圧延法により材料先端部の凹形状から凸形状への平面形状制御が可能である。
【0021】
また、各圧延パスでの材料尾端部の幅圧下時には下流側の水平圧延機と竪型圧延機間で圧延ロールとスラブとのスリップが発生しない範囲にて圧縮力が作用するように下流側水平圧延機と竪型圧延機の速度を制御することを特徴としている。図7は第2の水平圧延機3と竪型圧延機2との間の材料に圧縮応力を発生させる、すなわち第2の水平圧延機3の上流側から押込応力を負荷することを想定した圧延解析結果例であり、厚み290mm、温度1000℃相当のスラブをφ1000mmのロールにて265mmの厚みまで水平圧下する条件である。上流側からの押込応力の負荷により中立点がロールバイト入口側に移動しており、本圧延条件では約13MPa以下の押込応力であればスリップが発生しないことになる。図4に示した尾端平面形状変化を発せさせるための応力レベルと比較すると、13MPa以下となる押込応力10MPaではフィッシュテール形状の変化は小さくて、本圧延法により材料尾端部の凹部形状から凸形状への平面形状制御は困難であることがわかる。
【0022】
しかしながら、本発明では順方向圧延と逆方向圧延の組合せにてスラブ先尾端の平面形状を制御することを特徴としており、初期スラブ寸法から目標スラブ寸法へ成形するための圧延条件により、適宜、押込力を最適化すればよい。以後、順方向圧延での先端部と尾端部をそれぞれスラブ先端部、スラブ尾端部とよび、順方向、逆方向のいずれにおいても圧延方向の先端と尾端をそれぞれ圧延先端、圧延尾端と呼ぶ。本発明では、順方向パスと逆方向パスを組み合せる。その結果、順方向パスにてスラブ先端部を凸形状に成形するとともに、その後の逆方向パスにて圧延尾端となるスラブ先端部に形成される凹形状との組合せを最適化することにより、スラブ先端部の平面形状凹凸を最小化することが可能である。また、順方向パスにて凹形状となるスラブ尾端部は、逆方向パスでは圧延先端となるため、適切な押込力を負荷することによりスラブ尾端部の平面形状凹凸を最小化することが可能である。
【0023】
本発明のサイジング圧延方法では、竪型圧延機にてスラブ先端部を噛み込む際、上流側の水平圧延機のトルクにより押込圧延を実施するためスリップ発生限界が著しく向上し、竪型圧延機での1パス圧延にて大きな幅圧下が可能となるという特長も有している。このことから、数パスの圧延にて1000mmを超える板幅変更が可能であり、かつ、水平圧延にて所望の板厚に成形することが可能である。
【0024】
また、本発明によるサイジング圧延法では、水平圧延により竪型圧延機での幅圧下圧延に押込力を負荷することから、厚み圧下量が小さすぎる場合には水平圧延にてスリップが発生する。このため、水平圧延にてスリップを発生させずかつ竪型圧延機での幅圧下に対して適切な押込力を負荷するためには、水平圧延において予め中立点がロールバイト内に存在しうる適切な水平圧延条件を求めて設定すればよい。本発明者らの検討によると、適切な押込力を負荷するために必要な水平圧下量を設定する限りにおいては、特許文献2で課題とされていた板幅中央部での厚み方向の凹みが発生することはない。
【0025】
以上の説明から明らかなように、本発明による熱間スラブのサイジング圧延方法により、連続鋳造後のスラブ寸法を高生産性、高歩留まりの条件下で大幅に変更することが可能であり、連続鋳造の生産性向上、連続鋳造と熱間圧延の直結等、非常に大きな合理化効果を得ることが可能である。なお、本サイジング圧延設備は熱間圧延ラインの加熱炉と粗圧延工程の間に設置してもよい。
【実施例】
【0026】
以下、図1、図2、図5を用いて、本発明の効果を示す実施例について述べる。
本実施例は、本発明法と従来法との2通りのサイジング圧延方法の例(本発明例と従来例)の各々で圧延される材料の圧延中の変形挙動を有限要素法で解析(シミュレーション)した結果である。解析対象材料は、初期スラブ寸法が厚み295mm、幅1800mmで、初期スラブ温度が1000℃相当の普通炭素鋼とした。図5の第1の水平圧延機1、と第2の水平圧延機3の圧延ロール径はφ1000mm、竪型圧延機2の圧延ロール径(エッジャーロール径)はφ2500mmであり、竪型圧延ロールには底面の高さ235mm、傾斜角22度の凹カリバーを付与している。順方向圧延では、第1の水平圧延機1のロールギャップは280mm、竪型圧延機2のロールギャップは1500mm、第2の水平圧延機3のロールギャップは265mmとした。また逆方向圧延では、第2の水平圧延機3のロールギャップは250mm、竪型圧延機2のロールギャップは1200mm、第2の水平圧延機3のロールギャップは235mmとした。つまり、全2回の幅圧下圧延にて合計600mmの幅変更を行う条件である。
【0027】
本発明例では竪型圧延機2のロール回転速度を40mpmとし、順方向圧延での第1の水平圧延機1による幅圧下圧延入側に対する押込応力は約5MPaであり、スラブ先端部が竪型圧延機2を通過した直後に押込応力が0MPaとなるように第1の水平圧延機1の回転速度を変更した。そして、スラブ尾端部が第1の水平圧延機1を抜けた直後、第2の水平圧延機3による幅圧下圧延出側に対する押込応力が約7MPa程度となるように第2の水平圧延機3のロール回転速度を変更した。逆向圧延では、第2の水平圧延機3による幅圧下圧延入側に対する押込応力は約7MPaであり、スラブ先端部が竪型圧延機2を通過した直後に押込応力が0MPaとなるように第2の水平圧延機3の回転速度を変更した。また、スラブ尾端部が第2の水平圧延機3を抜けた直後、第1の水平圧延機1による幅圧下圧延出側に対する押込応力が約5MPa程度となるように第1の水平圧延機1のロール回転速度を変更した。
【0028】
これに対し、従来例では竪型圧延機2のロール回転速度を40mpmとし、順方向圧延、逆方向圧延のいずれにおいても、常時、第1の水平圧延機1と竪型圧延機2、そして竪型圧延機2と第2の水平圧延機3の間の押込力が0MPaとなるように適宜ロール回転速度を変更した。
図1は、本発明例と従来例との夫々について順逆合計2パスの各パス後のスラブ先端部の平面形状を示すプロフィル線図であり、従来例でのフィッシュテールの凹深さ長が180mm程度であるのに対して本発明例では約50mm弱となっており、約1/4に低減している。また、図2は、本発明例と従来例との夫々について順逆合計2パスの各パス後のスラブ尾端部の平面形状を示すプロフィル線図であり、従来例でのフィッシュテールの凹深さ長が170mm程度であるのに対し、本発明例では20mm程度と約1/8まで大きく低減している。
【0029】
以上の実施例から、本発明のサイジング圧延方法によればスラブ先尾端の平面形状を制御しながら、少ない圧延パスにてスラブ幅の大きな変更が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0030】
1 第1の水平圧延機
2 竪型圧延機
3 第2の水平圧延機
4 スラブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間スラブを圧延にて目標板厚及び目標板幅に成形する設備として、2つの厚み圧下用水平圧延機と1つの幅圧下用竪型圧延機とを、第1の水平圧延機、竪型圧延機、第2の水平圧延機の並び順で近接配置し、熱間スラブのサイジング圧延設備を用いる熱間スラブのサイジング圧延方法であって、1つの熱間スラブを、隣接する竪型圧延機と前記第1或いは第2の水平圧延機にて同時に圧延し、あるいは隣接する第1の水平圧延機と竪型圧延機と第2の水平圧延機にて同時に圧延するとともに、スラブ先端部の幅圧下時には上流側の水平圧延機と竪型圧延機間で圧延ロールとスラブとのスリップが発生しない範囲内で圧縮力が作用するように上流側の水平圧延機と竪型圧延機の圧延速度を制御することを特徴とする、熱間スラブのサイジング圧延方法。
【請求項2】
請求項1において、第1の水平圧延機、竪型圧延機、第2の水平圧延機の順方向の圧延と、第2の水平圧延機、竪型圧延機、第1の水平圧延機の逆方向の圧延とを交互に行って、前記目標板厚と前記目標板幅に成形することを特徴とする、熱間スラブのサイジング圧延方法。
【請求項3】
前記成形前の熱間スラブは、前記目標板厚超の厚みと前記目標板幅超の幅を有する連続鋳造スラブであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間スラブのサイジング圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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