説明

熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法

【課題】表面品質の良好なNi基合金を得ること、そのために熱間加工性の良好なNi基合金を有利に製造する技術を確立すること、そしてそのために、合金中のMg濃度、Ca濃度、酸素濃度およびS濃度を精度良く制御するための精錬方法を提案することにある。
【解決手段】原料をまず電気炉等で溶解した後、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器に出鋼して除滓し、続く二次仕上げ精錬においては、酸素吹精したのち脱酸し、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうち1種または2種以上からなるスラグ成分を添加して、生成するスラグ組成を、CaOとAl23の質量濃度比(CaO/Al23)を0.2〜2.0、マグネシア濃度を1〜18mass%に調整することにより、溶融合金中のMg濃度が0.005〜0.04mass%で、Ca濃度が0.0005〜0.04mass%で、酸素濃度が3〜50mass%となるようにすると共に、S濃度を0.0006mass%以下になるようにする熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法に係り、特にAl含有量の高いNi基合金の二次精錬方法に特徴を有する精錬方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
一般に、Ni基合金は、電気炉で一次精錬した後、AODやVOD等の二次精錬設備で脱炭などの酸化処理を行い、その後、還元もしくは脱酸処理する二次仕上げ精錬を施して精錬する方法、あるいは全工程を真空誘導炉で処理する方法などで溶製されている。
【0003】
従来、かかるNi基合金の中には、従来、Mgを0.005〜0.04 mass%含有させることにより、熱間加工後の表面品質を向上させようとする技術がある(特許文献1、2)。これらの従来技術は、そのMgの濃度を制御する方法として、溶融合金中にMgを添加することとしている。しかしながら、Mgは、蒸気圧が高く、作業上も安全面で問題があり、また、このMgは活性であるため、添加方式では濃度管理ならびに歩留りの点で問題があった。しかも、これら従来技術の場合、添加の歩留りが悪いので、高価なMgを大量に使用する必要が生じ、経済的でないという問題があった。
【0004】
これに対し、上述した問題点のないNi含有合金の例として、例えば、高Al含有ステンレス鋼があるが、特許文献3として示す従来技術の場合、凝固時のMgガス放出により、健全な鋼塊が得られないことが指摘されており、また、特許文献4として示すものでは、真空処理時のMgガス放出により処理時間が長くかかるという問題点が指摘されている。ただし、これらの従来技術では、Mgのピックアップ対策の1つとして、スラグ中のCaO/Al23比を制御する方法を提案しているものの、Mgを不純物元素として、それの低下を目指す技術である。
その他、特許文献5として示す方法では精錬容器内張りレンガ材質のアルミナを95%以上とすることにより、スラグへのMgOの混入を抑え、溶鋼中Mgピックアップを防止することが開示されているが、この材質は特殊材であることから、チャンスフリーで溶製することはできず、高価であるため、コストアップの原因となっていた。
【0005】
【特許文献1】:特開2002−146459号公報
【特許文献2】:特開平8−71679号公報
【特許文献3】:特開平11−279623号公報
【特許文献4】:特開2000−104112号公報
【特許文献5】:特開平3−15840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、表面品質の良好なNi基合金を得ること、そのために必要な熱間加工性の良好なNi基合金を有利に製造する技術を確立すること、そしてそのために、合金中のMg濃度、Ca濃度、酸素濃度およびS濃度を精度良く制御するための精錬方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、Ni基合金中のMg濃度に及ぼす影響を知るために種々の実験を行った。この実験の1つは、アルゴン雰囲気に調整された容器内に、10kg容量のMgO製るつぼを設置した高周波誘導加熱炉を使用し、前記るつぼ内に電解Niを収容して溶解し、得られた合金溶湯に種々の組成のCaO−Al23−MgO−F系スラグ゛を添加し、その後金属Alを添加した。Al濃度は0.01〜5%の範囲内で、調整した。得られた合金の成分分析を行った。その後、旋盤加工して8mmΦの引張り試験片を作製して、熱間圧延を想定した高温引張り実験を行った。
【0008】
その結果、合金の化学成分は、Mg濃度が0.005〜0.04mass%、Ca濃度が0.0005〜0.04mass%、酸素濃度が3〜50massppm、S濃度が0.0006mass%以下の時に、優れた熱間加工性を有することが確かめられた。また、この時のスラグの組成について、サンプリングして調べたところ、スラグ組成がCaO/Al23質量濃度比が0.2〜2.0、マグネシア濃度が1〜18mass%の時に、上記したMg濃度、Ca濃度、酸素濃度、S濃度の範囲を満足することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、C:0.3mass%以下、Si:0.5mass%以下、Mn:2mass%以下、Cr:3mass%以下、Cu:40mass%以下、Fe:3mass%以下、Ti:2mass%以下、Mg:0.005〜0.04mass%、Ca:0.0005〜0.04mass%、酸素:3〜50ppm、S:0.0006mass%以下、Al:0.01〜5mass%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金の精錬に当たり、原料をまず電気炉等で溶解した後、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器に出鋼して除滓し、続く二次仕上げ精錬においては、酸素吹精したのちAlを添加して脱酸する過程において、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうち1種または2種以上からなるスラグ成分を添加して、生成する二次精錬スラグの組成を、CaOとAl23の質量濃度比(CaO/Al23)を0.2〜2.0、マグネシア濃度を1〜18mass%としたCaO−Al23−MgO系スラグもしくはCaO−Al23−F系スラグに調整して脱硫することにより、S含有量が0.0006mass%以下の合金となるようにすることを特徴とする、熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法を提案するものである。
【0010】
また、本発明は、C:2mass%以下、Si:1mass%以下、Mn:2mass%以下、P:0.03mass%以下、Cr:30mass%以下、Cu:1mass%以下、Ti:2mass%以下、Fe:20mass%以下、Mg:0.005〜0.04mass%、Ca:0.0005〜0.04mass%、酸素:3〜50ppm、S:0.0006mass%以下、Al:0.01〜5mass%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金の精錬に当たり、原料をまず電気炉等で溶解した後、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器に出鋼して除滓し、続く二次仕上げ精錬においては、酸素吹精したのちAlを添加して脱酸する過程において、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうち1種または2種以上からなるスラグ成分を添加して、生成する二次精錬スラグの組成を、CaOとAl23の質量濃度比(CaO/Al23)を0.2〜2.0、マグネシア濃度を1〜18mass%としたCaO−Al23−MgO系スラグもしくはCaO−Al23−F系スラグに調整して脱硫することにより、S含有量が0.0006mass%以下の合金となるようにすることを特徴とする、熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法を提案するものである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明に係る精錬方法によれば、Alを含有するNi基合金の熱間加工性を改善するために必要なMgおよびCa濃度の制御を、二次仕上げ精錬のスラグ成分の制御により簡便に行うことができるから、従来の方法よりも精度よく、かつ低コストで行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の精錬方法では、まず、電気炉にて、純金属ニッケルやスクラップ、銅、フェロクロム、金属クロムなどを溶解してNi基合金の粗溶湯を得る。その後、このNi基合金の粗溶湯を、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器内に出鋼して望ましくは除滓を行う。その後、前記二次精錬用容器を用いるVODまたはAODあるいはその両方での二次仕上げ精錬において、Cを除去するための酸素吹精(酸化精錬)を行い、その後、脱酸と成分調整(Al添加を含む)などを目的とした精錬を行うと共に、Al含有量の調整(Al添加)を行う。
なお、本発明において用いる上記二次精錬用容器のMgO含有耐火物とは、ドロマイト、マグネシアカーボン、マグネシアアルミナカーボン、マグネシアクロム煉瓦などのライニングをいう。
【0013】
上記二次仕上げ精錬において、Alを添加して脱酸する過程において、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうちの1種または2種以上からなるスラグ成分を添加し、後述するようなスラグ組成の調整を行う。なお、この場合において、マグネシア源をスラグ成分として用いない場合でも、MgO含有耐火物中のマグネシアがCaO-Al23系スラグあるいはCaO-Al23-F系スラグ中に溶解することで、CaO-Al23-MgO系スラグあるいはCaO-Al23-MgO-F系スラグが形成される。もちろん、マグネシア源としてMgOを積極的に添加しても構わない。このようにして、スラグ中に添加されたMgOが、下記の(1)式の反応式によって還元され、該溶融合金中に供給されるものと考えられる。
3MgO(スラグ)+2Al(メタル)=Al23(スラグ)+3Mg(メタル)…(1)
【0014】
上記(1)式からわかるように、スラグからのMgの供給を制御するには、スラグ中のアルミナの活量とマグネシアの活量を適正な値に制御することが必要である。図1にCaO-Al23系スラグにおけるアルミナの1600℃における活量を示す。この図より、スラグ中のアルミナ濃度の増加に伴い、アルミナの活量が増加していくことがわかる。図2は、2.5mass%のAlを含有する溶融Ni基合金において、Mgをスラグから還元反応により添加した実験の結果を示す。ここで、スラグ中のMgO濃度は10mass%とし、溶鋼温度は1550℃として実験した。なお、この図は、反応30分後の分析値をプロットした図であるが、この図により、CaO/Al23比の増加に伴い、すなわち、スラグ中のアルミナ濃度の減少に伴い、溶融Ni基合金中のMgが(1)式に従い増加することがわかる。
以上のことから、Alを含有する溶融Ni基合金において、Mg濃度を制御するためには、MgOを含有するスラグのCaO/Al23比を制御すればよいことがわかった。
【0015】
次に、スラグ中のCaOについてもまた、上述したと同様に、下記(2)式の反応に従い還元され、該溶融Ni基合金中に供給される。
3CaO(スラグ)+2Al(メタル)=Al23(スラグ)+3Ca(メタル)…(2)
【0016】
上記(2)式に示したCaOの還元反応についても、MgOの還元反応と同様に、スラグ中のCaOの活量とアルミナの活量を制御することで、溶融合金中に供給するCa濃度を制御でき、そして図3に示すとおり、CaO/Al23比が0.2〜2.0、好ましくは0.3〜1.9、Ca濃度を0.0005〜0.04mass%、好ましくは0.0005〜0.02mass%に制御可能であることがわかる。
【0017】
また、上記Ni基合金溶湯は、その後、普通造塊あるいは連続鋳造により凝固させて鋼片とするが、このとき、熱間加工性に有害となるSついては、該溶融Ni基合金中のMgあるいはCaと(3)、(4)式のように反応し、硫化物として固着される。このように、熱間加工性に有害なSを無害な硫化物の形態に制御することで、熱間加工性が改善できる。
Ca(メタル)+S(メタル)=CaS(硫化物) …(3)
Mg(メタル)+S(メタル)=MgS(硫化物) …(4)
【0018】
以下に、本発明に係る精錬方法について詳細に説明する。
一般に、MgはNi基合金の熱間加工性を阻害するSと結合し、MgSを形成し、Sを無害化する作用のある元素である。その作用効果は、0.005mass%以上としたときに発揮される。一方、このMgを0.04mass%を超えて過剰に添加してもSの無害化効果が飽和するため、経済的でない上に、MgNi2のような低融点の金属間化合物を生成して、逆に熱間加工性を悪化させる。そのため、Ni基合金中のMgの含有量は0.005〜0.04mass%とする。好ましくは0.007〜0.035mass%、より好ましくは、0.01mass%〜0.03mass%とする。
【0019】
Ni基合金中のCaもMg同様に、熱間加工性を阻害するSと結合し、CaSを形成して、Sを無害化する元素である。その効果は、0.0005mass%以上の含有量のとき顕著である。一方、このCa量が0.04mass%を超えて過剰に添加してもS無害化の効果が少なく、経済的でない上に、溶接性を悪化させる。そのため、Caは0.0005mass%〜0.04mass%とする。好ましくは0.0007mass%〜0.03mass%、より好ましくは0.001mass%〜0.02mass%とする。
【0020】
Ni基合金中のSは、0.0006mass%を超えると粒界への硫化物の析出によって、熱間加工性を悪化させ、熱間加工後に、表面に割れなどの欠陥が発生し、表面品質を悪くして、歩留り低下させる。そのため、Ni基合金中のSは0.0006mass%以下とする。
【0021】
Ni基合金中のOは、50massppmを超えると、該合金中の介在物量が多くなり、表面品質に悪影響を及ぼす。また、脱酸が不充分になってしまうので、スラグメタル間において起こる脱硫反応も十分に進行せず、S含有量が0.0006mass%を超えて熱間加工性の低下を招き、割れが発生するおそれがある。一方、Oが3massppmより低いと、脱酸が効きすぎた状態となるために、スラグ中のMgOの還元反応が進行しすぎてしまい、Mgが0.04mass%を超えてしまうため、熱間加工性が悪化する。同様に、スラグ中のCaOの還元反応も進行しすぎてしまい、Caが0.04mass%を越えてしまうため、溶接性が悪化してしまう。そのためにOは、3〜50massppmとする。好ましくは、4〜45massppmが好適であり、より好ましくは5〜40massppmである。
【0022】
Ni基合金中のAlは、Ni基合金の耐酸化性を向上したり、ガンマプライム相を析出して、合金の硬度を上げるために必要な元素である。場合によっては、脱酸元素としても必要となる。本発明では、これらの特性を満足させるために、Ni基合金中のAl濃度の範囲を0.01〜5mass%とする。
【0023】
上述したNi基合金の二次仕上げ精錬過程において、上述した組成のNi基合金を得るためには、Alの添加を伴う脱酸時、またその後に生成する二次精錬スラグのCaO/Al23比を、上述したように0.2〜2.0に、調整するが、これは合金中のMgおよびCa濃度を制御する上で極めて重要な作業である。それはもし、この二次精錬スラグのCaO/Al23質量濃度比が2.0を超えると、スラグ中のAl23の活量が低下し、またMgOの活量が高くなって、上記(1)式に従い溶融合金中にMgが過剰に還元さる結果、Mg濃度が高くなって、熱間加工性が悪化するためである。
【0024】
一方、CaO/Al23質量濃度比が0.2より低いとMgの還元が不十分となるだけででなく、スラグの脱硫能が低下して、脱硫不足となり、溶融合金中のS濃度が0.0006mass%以下にならず、熱間加工性が悪くなる。また、同様にCaO/Al23比が2.0を超えると、Caが過剰に供給されて、溶接性が悪化する。一方、CaO/Al23質量濃度比が0.2より低いと、Caの還元が十分に行われないばかりか、スラグの脱硫能が低下して、脱硫不足となり、合金中のS濃度が0.0006mass%以下に低下せず、熱間加工性が悪くなる。
そのため、CaO/Al23質量濃度比は、0.2〜2.0以下、好ましくは0.3〜1.9、より好ましくは、0.3〜1.5、さらに好ましくは、0.4〜1.3とする。
【0025】
また、上記二次精錬スラグ中のMgO濃度も、Ni基合金中のMg濃度を制御する上で重要な支配因子である。このスラグ中MgO濃度が18mass%を超えて高くなると、溶融合金中にMgが過剰に還元し、Mgのピックアップが起こり、熱間加工性が著しく低下する。しかも、スラグの融点の上昇を通じてスラグ流動不足を招き、脱硫能が低下することに伴うS起因の熱間加工性の悪化を招く。
スラグ中のMgO濃度が1%よりも低いと、MgをNi基合金中に0.005mass%以上供給することができなくなる。そのため、二次精錬スラグ中のMgO濃度は、1mass%〜18mass%とする。好ましくは3mass%〜15mass%、より好ましくは、4mass%〜13mass%とする。
【0026】
なお、本発明に係る精錬方法によって製造されるNi基合金は、Niを30mass%以上、とくに60mass%以上含有する合金の製造に適用すると有効である。特にモネル合金やインコネル601の製造方法として有効である。例えば、モネル合金の化学成分は、C:0.3mass%以下、Si:0.5mass%以下、Mn:2mass%以下、Cr:3mass%以下、Cu:40mass%以下、Fe:3mass%以下、Ti:2mass%以下、残部Niおよび不可避的不純物からなるもの、例えば、代表組成が30mass%Cu-0.03mass%Al-0.01mass%Mg-Niであるモネル400(JIS鋼種名:NW4400)や、代表組成が30mass%Cu-3mass%Al-0.5mass%Ti−0.02mass%Mg-NiであるモネルK−500(JIS鋼種名:NW5500)などが対象なる。この場合において、上記インコネル601(JIS鋼種名:NCF601)の化学成分は、C:2mass%以下、Si:1mass%以下、Mn:2mass%以下、P:0.03mass%以下、Cr:30mass%以下、Cu:1mass%以下、Ti:2mass%以下、Fe:20mass%以下、残部Niおよび不可避的不純物からなり、代表組成は23mass%Cr-15mass%Fe-1.5mass%Al-0.01mass%Mg-Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金の溶製技術として有効である。
【実施例】
【0027】
次に実施例を提示して本発明の構成および作用効果をより明らかにするが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
電気炉で純Ni、ステンレス屑、フェロニッケル、銅、場合によっては、フェロクロム、金属Crなどを溶解した後、溶湯をMgO系耐火物(ドロマイトまたはマグネシアクロム質レンガ)を用いた一次精錬用容器内に出鋼した後、除滓した。その後、前記二次精錬用容器内Ni基合金の一次精錬溶湯をVODによる二次仕上げ精錬段階において、Cを除去する目的で酸素吹精して酸化精錬を行った。その後、脱酸と合金成分の添加を目的としてAlを投入し、引続き石灰石、螢石、アルミナあるいはマグネシア源としてマグネシアあるいはドロマイトレンガ屑の一種又は2種以上を添加して、スラグ成分を調整して、脱硫を行った。さらに、Al、C、Si、Mnなどの成分元素を厳密に調整し、最終的に普通造塊あるいは、連続鋳造機を用いて鋼片を得た。普通造塊の場合には、熱間鍛造を行い、スラブとした。その後、いずれの場合のスラブも表面を研削し、さらに、熱間圧延を実施し合金板を製造した。
【0028】
表1に、得られたNi基合金(モネル合金)の化学成分、二次仕上げ精錬時のスラグの組成を示す。表2には、他のNi基合金(インコネル601合金)の化学成分、二次仕上げ精錬時のスラグ組成を示す。そして、表1記載の合金(モネル合金)のスラブ表面性状および圧延後の割れの状況について評価した結果を、表3にまとめて示す。また、表4は、表2記載のNi基合金(インコネル601合金)のスラブ表面性状および圧延後の割れの状況について評価した結果を示している。
合金の化学成分および二次仕上げ精錬時のスラグ組成は、蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、合金の酸素濃度は不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法で定量分析を行った。スラブ表面の割れの有無は、スラブ表面を研削した後に、浸透探傷試験(PT)を行い評価した。圧延後の割れの有無は、表面のスケールを除去した後に、目視により確認したものである。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表1〜4に示す結果からわかるように、本発明の範囲を外れる条件で製造した比較例の合金は、スラブ表面で割れが観察されたり、あるいはその後の熱間圧延において割れが発生し、その割れ部はトリミングができないほど大きいため屑化になった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】CaO-Al23系スラグ中のアルミナの活量を示すグラフである。
【図2】2.5mass%のAlを含有する溶融Ni基合金におけるMgのスラグからの添加の実験結果を示すグラフである。
【図3】2.5mass%のAlを含有する溶融Ni基合金におけるCaのスラグからの添加の実験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.3mass%以下、Si:0.5mass%以下、Mn:2mass%以下、Cr:3mass%以下、Cu:40mass%以下、Fe:3mass%以下、Ti:2mass%以下、Mg:0.005〜0.04mass%、Ca:0.0005〜0.04mass%、酸素:3〜50ppm、S:0.0006mass%以下、Al:0.01〜5mass%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金の精錬に当たり、原料をまず電気炉等で溶解した後、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器に出鋼して除滓し、続く二次仕上げ精錬においては、酸素吹精したのちAlを添加して脱酸する過程において、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうち1種または2種以上からなるスラグ成分を添加して、生成する二次精錬スラグの組成を、CaOとAl23の質量濃度比(CaO/Al23)を0.2〜2.0、マグネシア濃度を1〜18mass%としたCaO−Al23−MgO系スラグもしくはCaO−Al23−F系スラグに調整して脱硫することにより、S含有量が0.0006mass%以下の合金となるようにすることを特徴とする、熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法。
【請求項2】
C:2mass%以下、Si:1mass%以下、Mn:2mass%以下、P:0.03mass%以下、Cr:30mass%以下、Cu:1mass%以下、Ti:2mass%以下、Fe:20mass%以下、Mg:0.005〜0.04mass%、Ca:0.0005〜0.04mass%、酸素:3〜50ppm、S:0.0006mass%以下、Al:0.01〜5mass%、残部Niおよび不可避的不純物からなるNi基合金の精錬に当たり、原料をまず電気炉等で溶解した後、MgO系耐火物を用いた二次精錬用容器に出鋼して除滓し、続く二次仕上げ精錬においては、酸素吹精したのちAlを添加して脱酸する過程において、石灰石、螢石、アルミナ、マグネシアのうち1種または2種以上からなるスラグ成分を添加して、生成する二次精錬スラグの組成を、CaOとAl23の質量濃度比(CaO/Al23)を0.2〜2.0、マグネシア濃度を1〜18mass%としたCaO−Al23−MgO系スラグもしくはCaO−Al23−F系スラグに調整して脱硫することにより、S含有量が0.0006mass%以下の合金となるようにすることを特徴とする、熱間加工性に優れたNi基合金の精錬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−114544(P2009−114544A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332743(P2008−332743)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【分割の表示】特願2003−187734(P2003−187734)の分割
【原出願日】平成15年6月30日(2003.6.30)
【出願人】(000232793)日本冶金工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】