説明

熱間押出加工用潤滑剤組成物

【課題】熱間押出加工において被加工材表面を保護し、スケールの発生および疵の発生を防止することができる熱間押出加工用潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】熱間押出加工用潤滑剤組成物を、軟化点の異なるガラスフリットを複数含む構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間押出加工において素材の表面に塗布する潤滑剤組成物、該潤滑剤組成物を用いた熱間押出加工方法、および、継目無管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレスによる継目無鋼管の製造方法の代表的なものとして、熱間押出法(ユージンセジュルネ法)がある。図2に、該方法による加工の様子を示す模式図を示した。
【0003】
コンテナ6の一方端には、ダイホルダ4とダイバッカー5を介してダイス2が着脱自在に装着されている。コンテナ6の内部には、中心部に貫通孔が穿たれ、所定の温度に加熱後、その内外周面にガラス粉末からなる潤滑剤(それぞれ、内面潤滑剤、外面潤滑剤という)が塗布されたビレット8が挿入されている。
【0004】
ビレット8の貫通孔には、マンドレル3が挿入されるとともに、その後端面にはダミーブロック7が配置されている。ビレット8の押出し先端面と対向するダイス2の面には、内径がダイス2の内径よりも若干小さく、外径がコンテナ6の内径よりも若干小さい正面潤滑剤としてのガラスディスク1が装着されている。
【0005】
上記のガラスディスク1は、通常、ガラス粉末またはガラス粉末とガラス繊維の混合物を水ガラスや有機樹脂などからなるバインダーを用いて環状体に成形して固化させたものである。
【0006】
上記のような構成において、図示を省略したステムを作動させてダミーブロック7を白抜き矢印方向に押圧すると、ビレット8がアップセットされた後、ダイス2とマンドレル3とで形成される環状空隙から押し出されて金属管が製造される。
【0007】
このとき、正面潤滑剤としてのガラスディスク1はビレット8の熱により少しずつ軟化、溶融して、ビレット8の外周面に塗布された外面潤滑剤のガラス粉末とともにダイス2とビレット8間の潤滑剤として作用する。また、ビレット8の内周面に塗布された内面潤滑剤のガラス粉末は、マンドレル3とビレット8間の潤滑剤として作用する。
【0008】
熱間押出継目無鋼管の製造方法として、特許文献1には、ビレット・マンドレル間と、ビレット・ダイス間との摩擦係数比を所定の範囲とすることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−131667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
熱間押出法においては、ガラス潤滑を施す前に、素材(ビレット)表面にスケールを発生させることなく、ビレットを加熱することが必要である。このような観点から、加熱前のビレットには、無機潤滑剤成分、有機バインダー、有機溶媒からなる潤滑剤組成物が塗布されていた。
【0010】
該潤滑剤組成物を塗布した後、乾燥させる前にビレットを炉内に入れると、有機溶媒が突沸し、潤滑剤が剥離して表面保護の機能がなくなってしまうため、塗布した潤滑剤組成物は、十分に乾燥させる必要があった。しかし、乾燥工程に半日程度かかってしまうため、この工程を製造ラインに組み込むことができず、製造工程上不利なものであった。
【0011】
また、たとえ、潤滑剤組成物を十分に乾燥させてから、ビレットを炉内に入れたとしても、有機バインダーが燃焼することにより発煙したり、有機バインダーが焼失してしまい、無機潤滑剤成分が剥がれ落ちてしまうという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、熱間押出加工において被加工材表面を保護し、スケールの発生および疵の発生を防止することができる熱間押出加工用潤滑剤組成物、および、該潤滑剤組成物を用いた熱間押出加工方法および継目無管の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究して、以下の発明を完成させた。
【0014】
第1の本発明は、軟化点の異なるガラスフリットを複数含むことを特徴とする、熱間押出加工用潤滑剤組成物である。ここで、本発明における「ガラスフリット」とは、原料を溶解し、水中または空気中で急冷して作ったガラスで、一般的にカレット、または粉末状のものをいう。また、本発明における「熱間押出加工」とは、素材をあらかじめ加熱炉等により所定の高温に昇温せしめ、その後に、その素材を高温状態に保ちながら、押し出し装置等の加工機械を用いて押出加工を行うことをいう。したがって本発明において「熱間押出加工」の用語は、素材の加熱工程と、押出加工工程とを含む概念で用いられる。
【0015】
第1の本発明によれば、熱間押出加工用潤滑剤組成物は軟化点の異なるガラスフリットを複数含んでいるので、潤滑剤が異なる温度域に応じて適正な粘度を維持する。したがって、熱間押出加工の各段階、すなわち加熱炉内での加熱、均熱工程、加熱炉内から、押出加工工程への移動工程、さらにその後の(熱間)押出加工工程において、素材であるビレット、ホローシェル等の表面に十分な皮膜が形成される。これにより、素材表層と外気の接触が可能な限り抑制され、スケールの発生を防止できる。そして、押出加工において、スケールが巻き込まれ、外面疵が発生するのが防止される。
【0016】
もし、熱間押出加工用潤滑剤組成物が軟化点の低いガラスフリットのみ含む場合、熱間押出加工用潤滑剤組成物は、高温域において適正な粘度を確保できないため、熱間押出加工用潤滑剤組成物が素材表面から脱落してしまう。そして、加熱炉内温度が最高温度近傍(1200℃〜1300℃)に保持されている時、および押出加工時に、素材表層と外気との接触を抑制できず、スケールおよび外面疵の発生を防止できない。
【0017】
一方、熱間押出加工用潤滑剤組成物が軟化点の高いガラスフリットのみ含む場合、熱間押出加工用潤滑剤組成物は、加熱炉内の比較的低温域(400℃〜800℃)において素材表層と外気の接触を抑制できず、スケールおよび外面疵の発生を防止できない。
【0018】
第1の本発明において、複数のガラスフリットのうち、少なくとも一のガラスフリットは1200℃における粘度が10〜10dPa・sであるとともに、他の一のガラスフリットは700℃における粘度が10〜10dPa・sであることが好ましい。
【0019】
少なくとも一のガラスフリットは1200℃における粘度が10〜10dPa・sであることで、熱間押出加工用潤滑剤組成物が高温域においても、適正な粘度を維持でき、素材表面から脱落しない。このため、加熱炉内温度が最高温度近傍に保持されている時、および押出加工時に、潤滑剤は素材表層と外気の接触を可能な限り抑制でき、スケールおよび外面疵の発生を防止できる。
【0020】
さらに、他の一のガラスフリットは700℃における粘度が10〜10dPa・sであるので、加熱炉内の温度域で、潤滑剤は素材表面に十分に濡れ拡がり素材表面を覆うため、素材表層と外気との接触を可能な限り抑制でき、スケールおよび外面疵の発生を防止できる。
【0021】
第1の本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物は、常温において固形物である成分と液体である成分とを含み、さらに液体中に固形物成分を分散懸濁させる分散懸濁剤を含むことが好ましい。
【0022】
ここに「常温において固形物である成分」とは、上記ガラスフリットをいう。また、「常温において液体である成分」とは、この常温において固形物である成分を含む本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物を、素材表面に塗布、あるいはスプレーするために用いられる、例えば水、溶剤等の液体成分をいう。
【0023】
さらに、本発明における「分散懸濁剤」とは、熱間押出加工用潤滑剤組成物中に含まれるガラスフリット等の粉体成分を、水等の媒体中に分散、あるいは懸濁させる機能を有する物質をいい、粘土類を用いることができる。粘土類としては、例えば、ベントナイト、カオリン等が挙げられる。粘土類は、異なる種類のものを混合して使用してもよい。
【0024】
これにより、液体中に固体成分が分散懸濁されているので、一様な性状の熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面に塗布、あるいはスプレーすることができる。また、熱間押出加工用潤滑剤組成物の貯蔵タンクに撹拌機を設ける必要がない。さらにこれら分散懸濁剤は、常温における塗布作業において、熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面へ展着させ脱落を防止する作用を有するという利点がある。このため、本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物は、ビレットに塗布した後、十分に乾燥させないで炉内に投入したとしても、分散懸濁剤は焼失しないで、ガラスフリットを保持するので、保護層が剥離することがない。
【0025】
第1の本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物において、低融点金属化合物の含有量は、潤滑剤組成物全体の質量を100質量%として、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。ここで、「低融点金属化合物」とは、高温で鉄よりも還元されやすく、はんだ脆性を引き起こす可能性のある金属の化合物をいい、例えば、亜鉛、錫、銅、これらの酸化物、硫化物等が挙げられる。低融点金属化合物が含有されていると、最終製品の表面に微量に残存した低融点金属化合物が、将来においてはんだ脆性の問題をおこす可能性があるからである。よって、本発明においては、低融点金属化合物の含有量を不可避不純物程度に抑えることが好ましい。
【0026】
第2の本発明は、第1の本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物を加熱前の素材表面に塗布する工程を含む、熱間押出加工方法である。ここで、本発明における「素材」とは、熱間押出加工に供される金属一般をいう。第2の本発明によれば、熱間押出加工工程中に素材表層と外気の接触を可能な限り抑制でき、スケールおよび外面疵の発生を防止できる熱間押出加工方法を提供することができる。
【0027】
また、第2の本発明の熱間押出加工方法においては、素材表面に熱間押出加工用潤滑剤組成物を塗布してから、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは5分以内に素材を炉内に投入することができる。このように、従来必要としていた潤滑剤組成物の乾燥工程が不要であるので、本発明の熱間押出加工方法は、ライン上で行うことができ、製造工程上好ましい方法である。
【0028】
第3の本発明は、第2の本発明の熱間押出加工方法を使用した、継目無管の製造方法である。第3の本発明によれば、加熱炉内で加熱中または押出加工中に、ビレット、ホローシェル表面と外気の接触を可能な限り抑制してスケールおよび外面疵の発生を防止した継目無管の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
第1の本発明によれば、熱間押出加工用潤滑剤組成物は軟化点の異なるガラスフリットを複数含んでいるので、潤滑剤が異なる温度域に応じて適正な粘度を維持する。したがって、熱間押出加工の各段階、すなわち加熱炉内での加熱、均熱工程、加熱炉内から、押出加工工程への移動工程、さらにその後の(熱間)押出加工工程において、素材であるビレット、ホローシェル等の表面に十分な皮膜が形成される。これにより、素材表層と外気の接触が可能な限り抑制され、スケールの発生を防止できる。そして、押出加工において、スケールが巻き込まれ、外面疵が発生するのが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の第一の態様は、軟化点の異なるガラスフリットを複数含むことを特徴とする、熱間押出加工用潤滑剤組成物である。ここで、ガラスフリットとは、個々のガラス成分をあらかじめ混合後溶融し、水中や空気中で急冷して作ったガラスをいう。無機成分をガラスフリットとすると、個々の成分で熱間押出加工用潤滑剤組成物の一成分として供される場合に比べて、あらかじめ溶融混合されてその共晶反応などにより融点が個々の成分の融点から低下し、潤滑剤として安定して存在できる。さらには、個々の成分に水分や結晶水が含まれる場合は、個々の成分のままであると、加熱された際に沸騰等により潤滑剤被膜が剥離等しやすいが、フリットとすることにより、沸騰などによる剥離の心配がないものとなる。以下、この熱間押出加工用潤滑剤組成物を構成する各成分についてそれぞれ説明する。
【0031】
(ガラスフリット)
<第一のガラスフリット>
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物に含まれる第一のガラスフリットは、高い軟化点を有するガラスフリットである。この第一のガラスフリットにより、加熱均熱炉内の温度が最高温度(例えば、1200〜1300℃)近傍である時、および素材が押出加工され加工熱、および摩擦熱が発生して高温状態にある時、潤滑剤は適正な粘度を有することができ、素材表面に満遍なく濡れ拡がる。かくして、高温状態において、潤滑剤が素材表面を覆うことにより素材表面と外気の接触を可能な限り抑制でき、外面疵の発生を防止できる。
【0032】
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物中に、上記第一のガラスフリットが含まれない場合、上記高温域において、潤滑剤は素材表面に付着するために必要な粘度を有しない。そのため、熱間押出加工用潤滑剤組成物が素材表面から流れ落ちて脱落してしまい、素材表面と外気とは自由に接触する。
【0033】
第一のガラスフリットの軟化点は特に限定されないが、その粘度は、1200℃において10〜10dPa・sの範囲にあることが好ましい。この「1200℃」は、鋼の熱間押出加工における、最高加熱温度、および塑性加工中の素材温度に相当する。粘度の下限値を10dPa・sとすることにより、高温域での素材表面からの熱間押出加工用潤滑剤組成物のタレ落ちを防ぐことができる。一方、粘度の上限値を10dPa・sとすることにより、高温域での素材表面からの熱間押出加工用潤滑剤組成物の脱落を防ぐことができる。
【0034】
第一のガラスフリットの、平均粒径は特に限定されるものではないが、潤滑剤を静的に保管中に安定的に分散懸濁させる、および、素材表面へ一様に塗布するという観点から、25μm以下であることが好ましい。
【0035】
本発明において、第一のガラスフリットを構成する材料は特に限定されないが、一例として、SiOを60〜70質量%、Alを5〜20質量%、CaOを0〜20質量%、他にMgO、ZnO、KO等を含むガラスフリットを挙げることができる。なお、以下において示すように低融点金属フリーとする場合は、ZnOを含まないガラスフリットを使用することが好ましい。
【0036】
<第二のガラスフリット>
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物に含まれる第二のガラスフリットは、第一のガラスフリットより低い軟化点を有するガラスフリットである。この第二のガラスフリットにより、加熱均熱炉内の温度が比較的低温(例えば、400〜800℃)近傍である場合、潤滑剤は適正な粘度を有することにより、素材表面に満遍なく濡れ拡がる。かくして、加熱均熱炉内において、素材表面を覆うことにより素材表面と外気の接触を可能な限り抑制して、外面疵の発生を防止する。
【0037】
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物中に、上記第二のガラスフリットが含まれない場合、加熱均熱炉内において、潤滑剤が素材表面を覆うことができないので、上記の素材表面と外気との接触を可能な限り抑制する効果を得ることができない。
【0038】
第二のガラスフリットの軟化点は特に限定されないが、その粘度は、700℃において10〜10dPa・sの範囲にあることが好ましい。この「700℃」は、素材を加熱する加熱炉内の低〜中温域を想定している。粘度の下限値を10dPa・sとすることにより、加熱均熱炉内での素材表面からの熱間押出加工用潤滑剤組成物のタレ落ちを防ぐことができる。一方、粘度の上限値を10dPa・sとすることにより、加熱均熱炉内での素材表面からの熱間押出加工用潤滑剤組成物の脱落を防ぐことができる。
【0039】
第二のガラスフリットの、平均粒径は特に限定されるものではないが、潤滑剤を静的に保管中に安定的に分散懸濁させる、および、素材表面へ一様に塗布するという観点から、25μm以下であることが好ましい。
【0040】
本発明において、第二のガラスフリットを構成する材料は特に限定されないが、一例として、SiOを40〜60質量%、Alを0〜10質量%、Bを20〜40質量%、ZnOを0〜10質量%、NaOを5〜15質量%、他にCaO、KO等を含むガラスフリットを挙げることができる。なお、以下において示すように低融点金属フリーとする場合は、ZnOを含まないガラスフリットを使用することが好ましい。
【0041】
(分散懸濁剤)
本発明における分散懸濁剤は、熱間押出加工用潤滑剤組成物中に含まれるガラスフリット等の粉体成分を、水等の媒体中に分散、あるいは懸濁させる機能を有する物質をいう。例えば、ベントナイト、カオリン等の粘土類が挙げられる。粘土類を使用することで、従来の有機バインダー等を使用していた場合と異なり、加熱均熱炉内でのガス発生を抑制することができる。また、炉内で焼失することがないので、フリットの脱落を防止することができる。
【0042】
粘土類としては、SiOが55質量%程度、Alが30質量%程度、Iglossが11質量%程度、他の微量成分としてFe、CaO、MgO、NaO、KO等を含むもの、あるいは、SiOが60質量%程度、Alが15質量%程度、Iglossが17質量%程度、他の微量成分としてFe、CaO、MgO、NaO、KO等を含むものを例示することができる。
【0043】
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物においては、分散懸濁剤により、液体中に固体成分が分散懸濁されているので、熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面に一様な性状で塗布、あるいはスプレーすることができる。さらに、これら分散懸濁剤は、常温における塗布作業において、熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面へ展着させ、脱落を防止する作用を有するものである。本発明においては、このような分散懸濁剤を含有しているため、従来の潤滑剤組成物において必要とされていた長時間の乾燥工程が不要となる。
【0044】
(その他の成分)
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物には、以上に示した各成分に加えて、その用途等に応じて適宜他の成分を添加することができる。他の成分の具体例としては、塗布性状の改良を目的として、各種無機電解質、例えば、亜硝酸ソーダや、有機バインダー等の粘性調整剤、およびpH調整を目的とした無機化合物等を挙げることができる。
【0045】
(低融点金属フリーへの対応)
製品である鋼管表面に、亜鉛、錫、銅等の低融点金属が付着していると、はんだ脆性の問題が生じる場合がある。特に、鋼管が使用されるのが発電設備等である場合、高い安全性が求められることから、はんだ脆性の可能性は完全に除去することが要求される。このような観点から、本発明の熱間押出加工用潤滑剤においては、低融点金属化合物の含有量が、潤滑剤組成物全体を基準(100質量%)として、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下に設定される。
【0046】
(熱間押出加工方法)
本発明の第二の態様は、上記の熱間押出加工用潤滑剤組成物を加熱前の素材表面に塗布する工程を含む、熱間押出加工方法である。図1に、本発明の熱間押出加工方法の一例としての工程図を示す。第一工程S1においては、素材表面に本発明の第一態様にかかる熱間押出加工用潤滑剤組成物を均一に塗布する。塗布方法は、特に限定されず、例えば、はけ塗り、スプレー、どぶ付け等の方法を採用できる。続く第二工程S2においては、上記熱間押出加工用潤滑剤組成物を表面に均一に塗布した素材を加熱炉・均熱炉内に投入し、所定の温度、所定の時間保持する。必要に応じ昇温時間のコントロールも行う。素材がステンレス鋼、高合金鋼の場合、炉内最高温度は1200〜1300℃に調節される。次いで、第三工程S3において、上記加熱炉・均熱炉内の素材を取り出し、次の第四工程S4において、加熱された素材を押出加工する。
【0047】
第二の態様にかかる本発明の熱間押出加工方法の特徴は、第一工程S1において、第一の態様にかかる熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面に均一に塗布することにある。そして、熱間押出加工用潤滑剤組成物中の軟化点の異なるガラスフリットにより、第二工程S2〜第四工程S4の間の温度変化によらず、潤滑剤が適正な粘度を維持でき、常に素材表面を被覆することにより、素材表面と外気との接触を可能な限り抑制することができる。
【0048】
また、本発明の熱間押出加工方法においては、素材表面に熱間押出加工用潤滑剤組成物を塗布してから、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは5分以内に素材を炉内に投入することができる。このように、従来必要としていた潤滑剤組成物の乾燥工程が不要であるので、本発明の熱間押出加工方法は、ライン上で行うことができ、製造工程上好ましい方法である。
【0049】
従来の有機バインダーおよび有機溶媒を含む潤滑剤組成物は、粘度が比較的小さく、粘度調製が容易にできるという特徴があった。熱間押出法(ユージン法)による継目無管の製造設備においては、この従来の潤滑剤組成物に最適化されたスプレー設備等を備えているものであった。本願の熱間押出加工用潤滑剤組成物は、分散懸濁剤としてベントナイト、カオリン等の粘土類を用いているため、粘度が比較的高く、粘度調製が難しいという特徴がある。そのため、これを採用するには、製造設備の大幅な変更が必要であり、熱間押出法(ユージン法)による継目無管の製造設備においては、このような粘度の高い潤滑剤組成物を採用しようというインセンティブは働きにくかった。
【0050】
このような状況下において、本発明者らは、従来の製造設備を使用できるか否かに関係なく、純粋に鋼管の疵を防止することを目的として鋭意検討を行った結果、非常に優れた性能を有する熱間押出加工用潤滑剤組成物を見出したのである。
【0051】
(鋼材)
本発明の熱間押出加工用潤滑剤組成物が使用される鋼材としては、特に限定されず、炭素鋼や、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系のステンレス鋼を挙げることができる。また、マンネスマン法に比べて生産性が低いが、変形が主として圧縮変形加工であるため加工性がよいという押出加工法(ユージン法)の特徴から、ステンレス鋼等の合金鋼、中でも、15%Cr以上の高合金鋼、が好ましく使用される。
【0052】
(継目無管の製造方法)
本発明の第三の態様は、上記熱間押出加工方法を使用した、継目無管の製造方法である。まず、連続鋳造設備により製造される断面形状円形の鋳片を所定長に切断したビレットを加熱した後、穿孔プレスによって断面形状円形中心部分を貫通するように孔を開ける。この穿孔プレスによる穿孔の際に発生する偏肉を防止するために、あらかじめビレットに機械加工によりパイロットホールを開けて、このパイロットホールを穿孔プレスによって拡管してもよい。
【0053】
そして、孔が形成されたビレット表面に上記第一工程S1の、熱間押出加工用潤滑剤組成物を素材表面に均一に塗布することが行われる。次いで、加熱炉内で所定温度および所定時間のもと加熱が行われる(工程S2)。続いて炉内からビレットが取り出され(工程S3)、このビレットは図2に示したような押出プレス機において、押出加工が施される。押出加工においては、ビレットにあらかじめ形成された孔にマンドレル3が挿入され、ダミーブロック7を白抜き矢印方向に押圧することにより、ダイス2とマンドレル3とで形成される環状空隙からビレットが押し出されて素管(ホローシェル)が製造される。その後、ホローシェルは、延伸圧延工程、定径圧延工程を経て継目無管となる。
【実施例】
【0054】
加熱炉、および押出プレス機を備えた実機の継目無管製造設備を使用して、評価試験を実施した。
(1)評価用試料
材質:SUS304TP(硫黄入りステンレス鋼)
(2)加熱炉における加熱条件
予熱(炉床回転炉):900℃±30℃、100分
加熱(高周波加熱):1160℃、90秒
(3)押出条件
ビレット形状:175φ×28φi〜38φi(mm)
押出後形状:48.6φ×5.1t×22800L(mm)
【0055】
<熱間押出加工用潤滑剤組成物の調製>
(実施例1)
高軟化点ガラスフリットを24.5質量%、低軟化点ガラスフリットを1.8質量%、分散懸濁剤として粘土類1を2.0質量%、粘土類2を1.7質量%、水を70.0質量%含有してなる熱間押出加工用潤滑剤組成物を調製した。低軟化点ガラスフリット、高軟化点ガラスフリットの組成および粘度、粘土類1および2の組成を表1に示す。
調製した潤滑剤組成物を加熱炉内に投入前のビレット表面に均一に塗布し、大気中に4分間放置し乾燥させてから、炉内に投入し、上記の条件で熱処理および押出加工を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
(比較例1)
高軟化点ガラスフリットを用いずに潤滑剤組成物を調製し、乾燥時間を30分とした以外は、実施例1と同様にして熱処理および押出加工を行った。
【0058】
(比較例2)
低軟化点ガラスフリットを用いずに潤滑剤組成物を調製し、乾燥時間を30分とした以外は、実施例1と同様にして熱処理および押出加工を行った。
【0059】
(比較例3)
酸化防止剤を塗布しないで鋼管を熱処理および押出加工した。
【0060】
(比較例4)
分散懸濁剤として、粘土類の代わりにアクリル酸エステルを用い、乾燥時間を30分とした以外は、実施例1と同様にして熱処理および押出加工を行った。
【0061】
(比較例5)
分散懸濁剤として、粘土類の代わりにアクリル酸エステルを用い、乾燥時間を90分とした以外は、実施例1と同様にして熱処理および押出加工を行った。
【0062】
<評価方法>
押出加工後の外面疵の有無について評価した(n数=500本)。外面疵がなくあるいは小さく実機に使用可能なレベルと判断されたものを「合格品」とし、使用不可能と判断されたものを「不合格品」として、以下の基準で評価した。
○:不合格品の割合が5%未満であった。
△:不合格品の割合が5%以上50%未満であった。
×:不合格品の割合が50%以上であった。
【0063】
【表2】

【0064】
本実施例から以下の点が明らかになった。
【0065】
低軟化点ガラスフリットのみを配合した潤滑剤組成物を使用した場合(比較例1)、加熱炉内の温度が最高温度域(1200〜1300℃)となる場合、潤滑剤組成物中のガラスフリットは溶融する。そして、このときの潤滑剤組成物の粘度は極めて低いため、潤滑剤組成物はビレット表面から流れ落ち、ビレット表面にスケールが発生し、押出加工の際に、このスケールが巻き込まれて鋼管の表面に外面疵が発生したと考えられる。
【0066】
一方、高軟化点ガラスフリットのみを配合した潤滑剤組成物を使用した場合(比較例2)、分散懸濁剤の働きで潤滑剤組成物中の固形分はビレット表面に付着してはいるものの、炉内における低〜中温域において、潤滑剤組成物は十分な粘度を有せず、ビレット表面に皮膜を形成できない。したがって、この間にビレット表面と外気とは自由に接触して、スケールが発生したものと考えられる。
【0067】
分散懸濁剤として、アクリル酸エステルを用いた場合(比較例4、比較例5)は、炉内において潤滑剤の被膜が剥離して、スケールが発生したと考えられる。また、乾燥時間を十分にとった場合(比較例5)においても、炉内ではアクリル酸エステルが燃焼してしまうことにより、やはり被膜が剥離してしまったと考えられる。
【0068】
これらに対し、本発明の潤滑剤組成物を使用した場合(実施例1)には、粘土類の作用により、炉内でのガラスフリットの付着性(乾燥強度)が良好であり、加熱炉内での低〜中温域で、低軟化点ガラスフリットにより潤滑剤組成物が適切な粘度を有し、潤滑剤組成物はビレット表面を被覆し、ビレット表面と外気との接触を可能な限り抑制した。また、加熱炉内の高温域においては、高軟化点ガラスフリットにより潤滑剤組成物が適切な粘度を維持し、潤滑剤組成物はビレット表面を被覆して、ビレット表面と外気との接触を可能な限り抑制した。これにより、スケールの発生が防止された。
【0069】
(実施例2)
表3に示した亜鉛フリーの材料を用いて、実施例1と同一の組成で潤滑剤組成物を調製し、同様の条件で熱処理および押出加工を行った。この場合においても、スケールの発生が防止され、実施例1と同様の結果が得られた。本願の潤滑剤組成物は、亜鉛フリーにも対応できることが示された。
【0070】
【表3】

【0071】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う熱間押出加工用潤滑剤組成物、およびそれを使用した熱間押出加工方法および継目無管の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の熱間塑性加工方法の一例としての工程を示す図である。
【図2】押出加工法(ユージン法)の概要を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点の異なるガラスフリットを複数含むことを特徴とする、熱間押出加工用潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記複数のガラスフリットのうち、少なくとも一のガラスフリットは1200℃における粘度が10〜10dPa・sであるとともに、他の一のガラスフリットは700℃における粘度が10〜10dPa・sであることを特徴とする、請求項1に記載の熱間押出加工用潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記熱間押出加工用潤滑剤組成物が、常温において固形物である成分と液体である成分とを含むものであって、さらに前記液体中に前記固形物成分を分散懸濁させる分散懸濁剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱間押出加工用潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記分散懸濁剤が粘土類である、請求項3に記載の熱間押出加工用潤滑剤組成物。
【請求項5】
低融点金属化合物の含有量が、前記熱間押出加工用潤滑剤組成物全体の質量を100質量%として、1質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱間押出加工用潤滑剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱間押出加工用潤滑剤組成物を加熱前の素材表面に塗布する工程を含む、熱間押出加工方法。
【請求項7】
前記素材表面に前記熱間押出加工用潤滑剤組成物を塗布してから、1時間以内に素材を炉内に投入する、請求項6に記載の熱間押出加工方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の熱間押出加工方法を使用した、継目無管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314780(P2007−314780A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114859(P2007−114859)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000108661)タカラスタンダード株式会社 (51)
【Fターム(参考)】