説明

熱間鍛造プレス用ダイセット

【課題】難加工性金属材料の鍛造に用いる熱間鍛造プレス装置の金型と金型支持台間の断熱構造材の強度と耐久性を、構造的な工夫によって向上させ、鍛造生産性を高めることができる熱間鍛造プレス用ダイセットを提供することである。
【解決手段】加熱用熱源によって加熱される金型とこの金型を、断熱材を介して取り付ける金型支持台を備えた熱間鍛造プレス用ダイセットにおいて、前記断熱材を複数の断熱用素材11とその外周を保持する保持枠12、および底板13と押さえ板14で一体化した断熱構造材とし、かつ保持枠12の内部に複数の断熱用素材11を分割して収容する仕切り枠15を設けたのである。それにより、高い圧縮強度を有する断熱効果に優れた断熱構造材9(10)を備えた熱間鍛造プレス用ダイセットを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱間鍛造プレスの金型構造に関し、詳しくは、加熱する金型と金型支持台間に設置する断熱構造材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金やNi基合金等の難加工性材料の鍛造に際しては、金型温度を鍛造素材の加熱温度と略同程度に保持し、歪速度を一定範囲内に制御して鍛造する恒温鍛造法や金型温度を鍛造素材の加熱温度に近づけると共に歪速度を制御して鍛造するホットダイフォージング方法が、難加工性金属材料を熱間精密型鍛造する方法として、適用されるようになった。
【0003】
上記の恒温鍛造やホットダイフォージングに用いられる金型構造としては、図1に示すような構造が一般的である。すなわち、熱間鍛造プレス装置1において、例えば、インダクションヒータなどの熱源2によって加熱される金型3、4は、プレス装置本体のダイプレート5、6に固定された金型支持台7、8に取り付けられている。そして、熱源2によって加熱された金型3、4から金型支持台7、8およびプレス装置本体側への熱移動を防ぐために、金型3、4と金型支持台7、8との間には、断熱構造部材9、10が配置されている。この断熱構造部材9、10には、金型に作用する鍛造荷重を受けるために、高い圧縮強度が要求される。
【0004】
これまでに、鍛造時の圧縮荷重による前記断熱構造部材の割損を防ぐことを目的とした断熱材が開示されている(特許文献1参照)。この断熱材は、図5および図6に示すように、予め六角形や四角形等の多角形断面としたセラミックス柱状体21を敷きつめ、枠22および押さえ板23で一体化した構成としたものである(符号付与)。このように、金型と支持台との間にセラミックス柱状体21を多数配置することにより、高温に加熱される金型がたとえ変形するとしても個々の柱状体21には圧縮力が主として作用することになり、個々の多角形柱状体21は当該圧縮力に対し強力な圧縮強度を有するところから充分に耐え、その結果、断熱材の割損が防止されると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-171239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、断熱用素材に多く使用されている、前述の窒化珪素やジルコニアなどのセラミックスは、圧縮強度自体は高いが引張強度は高くない。断熱用素材にはプレス方向の圧縮応力を受けることによりプレス横方向の引張応力が発生するため、断熱用素材をそのまま断熱構造材として使用すると高い強度を確保することができない。
【0007】
そこで、この発明の課題は、チタン合金やNi基合金等の難加工性材料の鍛造に用いる熱間鍛造プレス装置の金型と金型支持台間に介在させる断熱構造材の強度と耐久性を、構造的な工夫によって向上させた熱間鍛造プレス用ダイセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0009】
請求項1に係る熱間鍛造プレス用ダイセットは、加熱用熱源によって加熱される金型とこの金型を、断熱材を介して取り付ける支持台を備えた熱間鍛造プレス用ダイセットにおいて、前記断熱材が、複数の断熱用素材とその断熱用素材を保持する保持枠、および底板と押さえ板で一体化された断熱構造材であり、前記保持枠の内部に前記複数の断熱用素材を分割して収容する仕切り枠を設けたことを特徴とする。
【0010】
このように、金型からその支持台への熱移動を抑制するために介在させる断熱構造材を、分割した複数の断熱用素材から形成することにより、鍛造荷重によって一部の断熱用素材に亀裂が発生した場合でもその他の断熱用素材への亀裂伝播を防止できる。また、保持枠を断熱構造材の外周に設けるだけでなく、内部に仕切り枠を設置することで、保持枠全体の構造的強度が高まるとともに、一部の断熱用素材に割損が生じた場合でも断熱構造材全体の強度低下に繋がる危険性を抑制でき、かつ断熱構造材の設計の自由度も高まる。
【0011】
請求項2に係る熱間プレス用ダイセットは、前記断熱用素材の断面形状が、正方形または円形であることを特徴とする。
【0012】
前記断熱用素材の平面形状を、その長辺(長径)/短辺(短径)の比rをできる限り1に近い多角形もしくは楕円形とすることにより、鍛造(プレス)荷重の作用によって断熱用素材に発生する曲げモーメントを小さくすることができ、前記比rが1となる正方形または円形の断面形状の場合が、亀裂発生の抑制効果が最も大きくなる。
【0013】
請求項3に係る熱間プレス用ダイセットは、前記断熱用素材のプレス方向高さを前記保持枠のプレス方向高さより、この保持枠のプレス方向高さの1%〜20%高くしたことを特徴とする
【0014】
このように、断熱用素材のプレス方向高さを保持枠のプレス方向高さより、この保持枠高さの1%〜20%高くすることにより、高い圧縮強度を有する断熱用素材がプレス方向の圧縮荷重を受けるため、断熱構造材としても高い圧縮強度を発揮できる。なお、断熱用素材のプレス方向高さが保持枠のプレス方向高さより、この保持枠高さの1%未満しか高くない場合には、前記圧縮荷重が保持枠の方に作用する虞があり、また20%を超える場合には、断熱用素材の圧縮強度が低下する虞があるため、いずれも断熱構造材としての高い圧縮強度を発揮できなくなる。
【発明の効果】
【0015】
この発明では、加熱用熱源によって加熱される金型とこの金型を取り付ける支持台との間に介在させる断熱材を、複数の断熱用素材とその外周を保持する保持枠、および底板と押さえ板で一体化し、前記外周枠の内部に前記複数の断熱用素材を分割して収容する仕切り枠を設けた断熱構造材としたので、鍛造荷重によって一部の断熱用素材に亀裂が発生した場合でもその他の断熱用素材への亀裂伝播を防止でき、保持枠全体の構造的強度が高まるとともに、一部の断熱用素材に割損が生じた場合でも断熱構造材全体の強度低下に繋がる危険性を抑制できる。また、断熱用素材の平面形状を、その長辺(長径)/短辺(短径)のrが1となる正方形または円形としたので、鍛造(プレス)荷重の作用による亀裂の発生が最も効果的に抑制される。
【0016】
さらに、断熱用素材のプレス方向高さを保持枠のプレス方向高さより、この保持枠高さの1%〜20%大きくすることにより、高い圧縮強度を有する断熱用素材がプレス方向の圧縮荷重を受けることができるため、断熱構造材としても高い圧縮強度を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】熱間鍛造プレス装置の要部の構成を示す説明図である。
【図2】(a)施形態の断熱構造材を示す説明図(平面図)である。(b)実施形態の断熱構造材を示す説明図(A-A断面図)である。
【図3】実施形態の断熱構造材の部分拡大図(断面図)である。
【図4】他の断熱構造材を示す説明図(平面図)である(比較例)。
【図5】従来技術の断熱材の構造を示す説明図(平面図)である。
【図6】従来技術の断熱材の構造を示す説明図(断面図)である。
【符号の説明】
【0018】
1:熱間鍛造プレス装置 2:熱源 3、4:金型
5、6:ダイプレート 7、8:金型支持台 9、10:断熱構造材
11、11a:断熱用素材 12:保持枠 13:底板
14:押さえ板 15:仕切り枠
21:柱状体 22:枠 23:押さえ板
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施形態を添付の図1から図4に基づいて説明する。
【0020】
図1に示したように、インダクションヒータなどの熱源2によって加熱される金型3、4は、プレス装置本体のダイプレート5、6に固定された金型支持台7、8に取り付けられている。そして、例えば、インダクションヒータなどの熱源2によって加熱された金型3、4から金型支持台7、8およびプレス装置本体側への熱移動を防ぐために、金型3、4と金型支持台7、8との間には、断熱構造部材9、10が配置されている。この断熱構造部材9、10は、図2(a)および(b)に示すように、複数の断熱用素材11とその外周を保持する保持枠12、および底板13と押さえ板14で一体化された断熱構造材であり、前記保持枠12の内部に複数の断熱用素材11をそれぞれ収容する仕切り枠15を設けて断熱構造が形成されている。前記保持枠12および仕切り枠15、底板13および押さえ板14は、いずれも耐熱高強度鋼板製のものである。
【0021】
前記断熱用素材の平面形状すなわちプレス方向に見た形状は、その長辺(長径)/短辺(短径)の比rをできる限り1に近い多角形もしくは楕円形とすることが、鍛造(プレス)荷重の作用によって断熱用素材に発生する曲げモーメントを小さくする観点から望ましく、平面形状を、前記比rが1となる正方形または円形とすることにより、鍛造(プレス)荷重の作用による亀裂の発生を最も効果的に抑制することができる。また、図3に示すように、断熱用素材11のプレス方向の高さh1は、保持枠12のプレス方向の高さh2よりも1%〜20%の範囲内で高く形成されている。すなわち、図3に示したように、断熱用素材11と保持枠12の高さの差をdとすると、d=(0.01〜0.2)×h2である。このように、断熱用素材11の高さを保持枠12の高さよりも高く形成することにより、高い圧縮強度を有する断熱用素材11が、常にプレス方向の圧縮荷重を受けるため、断熱構造部材として、高い圧縮強度を発揮できる。
【実施例】
【0022】
図2(a)、(b)および図3に示したように、平面形状が100mm×100mmの正方形である高さ(h1)が40mmのジルコニアセラミックス製の複数の断熱用素材11を密に敷き詰め、これら断熱用素材11を保持する厚さ(幅)35mm、高さ(h2)38mmの耐熱高強度鋼であるステンレス製の保持枠12および同寸法の仕切り枠15、厚さがそれぞれ8mmの底板13および押さえ板14を配置して一体化した断熱構造材9(10)を形成した。そして図1に示したように、この断熱構造材9(10)を、インダクションヒータを用いた熱源2、2によって加熱される金型3、4と金型支持台7、8間に設置した。
【0023】
次に、加熱炉でチタン合金(Ti−6Al−4V)のビレットを950℃に加熱し、熱源2、2により金型温度を630℃に上昇させて鍛造した。プレス荷重は5000トンであった。20回鍛造後に使用済みの断熱用素材11を目視観察したところ特に損傷はなく、断熱構造材9、10と金型支持台7、8との接触界面近傍の金型支持台7、8の表面温度を接触温度計により測定したところ、100℃以下であり、断熱効果も十分であった。一方、図4に示すように、平面形状が100mm×200mmの長方形である断熱用素材11aで断熱構造材9、10と同様の断熱構造材(A-A断面図(省略)は図3と同様)を作製・配置して、上記鍛造条件と同じ条件で鍛造したところ、20回鍛造後に使用済みの断熱用素材11aに亀裂発生が目視観察された。このように、本発明の熱間鍛造プレス用ダイセットに用いる断熱構造材の強度と耐久性、および断熱効果が確認された。


























【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用熱源によって加熱される金型とこの金型を、断熱材を介して取り付ける支持台を備えた熱間鍛造プレス用ダイセットにおいて、前記断熱材が、複数の断熱用素材とその外周を保持する保持枠、および底板と押さえ板で一体化された断熱構造材であり、前記保持枠の内部に前記複数の断熱用素材を分割して収容する仕切り枠を設けたことを特徴とする熱間鍛造プレス用ダイセット。
【請求項2】
前記断熱用素材の平面形状が、正方形または円形であることを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造プレス用ダイセット。
【請求項3】
前記断熱用素材のプレス方向高さを前記保持枠のプレス方向高さより、この保持枠のプレス方向高さの1%〜20%高くしたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱間鍛造プレス用ダイセット。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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