説明

熱間鍛造用金敷および熱間鍛造方法

【課題】 熱間鍛造用金敷の高寿命化とすることができる新規な熱間鍛造用金敷及び熱間鍛造方法を提供する。
【解決手段】 打撃面に析出強化型耐熱合金層を有する熱間鍛造用金敷において、前記出強化型耐熱合金層はNi基合金組成を有する肉盛層であり、該肉盛層は質量%で、B:0〜0.02%、C:0.01〜0.15%、Mg:0〜0.01%、Al:0.5〜2%、Si:0〜1%、Mn:0〜1%、Ti:1〜3%、Cr:15〜22%、Co:2〜15%、Nb:0〜3%、Mo:3〜7%、Ta:1〜7%、W:3〜7%、且つ、Ta単独又はTa+2Nbの合計で1〜7%を含み、残部はNi及び不純物でなり、含有する元素M(但し、MはAl、Ti、Ta及びNbの4種の元素を表す。)の全てがNiMで表わされるγ’相を形成するとして求められるγ’相の全体に占める割合が原子%で20〜45%となる組成を有する熱間鍛造用金敷。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造に使用される高寿命の熱間鍛造用金敷および熱間鍛造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造装置に用いられる熱間鍛造用金敷には、高温強度、耐摩耗性、耐高温へたり性、耐ヒートクラック性等の特性に優れていることが要求される。これらの特性を満足させるため、従来から種々の提案がなされている。
例えば、本願出願人の提案による特開2001−62541号公報(特許文献1)や特開2001−71086号公報(特許文献2)には、熱間鍛造装置用の熱間鍛造用金敷を、全体を一体のγ’析出強化型Ni基合金で構成するか、Ni基合金でなる台金(基材)の作業面部(打撃面)にγ’析出強化型Ni基合金で肉盛りして構成する熱間鍛造用金敷を提案した。
前述の特許文献1や特許文献2で提案した熱間鍛造用金敷では、打撃面に使用するγ’析出強化型Ni基合金として、Al、Ti、Nb、Taの1種または2種以上を、Al+Ti+Nb+Taの合計で3質量%以上含むものが好ましいとし、具体的には、Alloy713C、Alloy718、Udimet(Udimet(R)はスペシャルメタルズ社の登録商標))520等を肉盛用の合金として挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−62541号公報
【特許文献2】特開2001−71086号公報
【特許文献3】特開平2−97634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のγ’析出強化型Ni基合金を肉盛した熱間鍛造用金敷は、確かに高温強度、耐摩耗性、耐ヒートクラック性を向上させることが可能である。
しかしながら、肉盛に用いられる合金に対して、初期の高温強度を付与し、且つ、鍛造作業中に金属間化合物を析出させて、高い強度を付与することができれば、より一層の高温強度、耐摩耗性、耐高温へたり性、耐ヒートクラック性を向上することができれば、更に熱間鍛造用金敷の高寿命化が達成できる。
本発明の目的は、熱間鍛造用金敷の高寿命化とすることができる新規な熱間鍛造用金敷および熱間鍛造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、打撃面に析出強化型耐熱合金層を有する熱間鍛造用金敷において、前記出強化型耐熱合金層はNi基合金組成を有する肉盛層であり、該肉盛層は、質量%で、B:0〜0.02%、C:0.01〜0.15%、Mg:0〜0.01%、Al:0.5〜2%、Si:0〜1%、Mn:0〜1%、Ti:1〜3%、Cr:15〜22%、Co:2〜15%、Nb:0〜3%、Mo:3〜7%、Ta:1〜7%、W:3〜7%、且つ、Ta単独またはTa+2Nbの合計で1〜7%を含み、残部はNi及び不純物でなり、含有する元素M(ただし、MはAl、TiおよびTaの3種の元素を表し、さらにNbを含有する場合にはこれらにNbを加えた4種の元素を表す。)の全てがNiMで表わされるγ’相を形成するとして求められるγ’相の全体に占める割合が原子%で20〜45%となる組成を有する熱間鍛造用金敷である。
好ましくは、前記熱間鍛造用金敷は、合金工具鋼を基材とする熱間鍛造用金敷である。
更に好ましくは、打撃面の前記析出強化型耐熱合金層の下層に固溶強化型耐熱合金でなる中間層を有し、該中間層は合金工具鋼の基材上に形成される熱間鍛造用金敷である。
また本発明は、前記の熱間鍛造用金敷を準備する第1のステップと、被鍛造材を加熱して前記熱間鍛造用金敷の前記打撃面に載置する第2のステップと、前記被鍛造材を熱間鍛造しながら、加熱された前記被鍛造材の温度と熱間鍛造中の前記被鍛造材の発熱による温度を利用して前記打撃面の前記析出強化型耐熱合金層にγ’相を析出させる第3のステップとからなる熱間鍛造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱間鍛造用金敷を用いることにより、従来の熱間鍛造用金敷よりも、更に高寿命化することができ、熱間鍛造における加工精度の向上、手入れ工数の削減に大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の熱間鍛造用金敷の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、本発明の重要な特徴は、熱間鍛造用金敷の打撃面に形成するに最適な析出強化型耐熱合金層を形成したことにある。
先ず、本発明者らは析出強化型耐熱合合金層の組成を検討した。熱間鍛造用金敷に析出強化型耐熱合金層を形成する場合、肉盛等を適用する必要があるが、AlやTiの含有量が多いと、AlやTiが酸化してしまい緻密な層が得られない。一方、通常、AlやTiは、析出強化には欠かせない元素であり、これらを低減しても高い高温強度、耐摩耗性等を確保できる合金が適当であるという知見を得た。
この知見に基づいて、検討した結果、ガスタービン材として溶製−熱間加工−固溶化処理−時効処理工程を適用して製造される溶製合金であるものの、AlやTiの含有量が低く、高温強度に優れるという特性を有する特開平2−97634号公報(特許文献3)に提案される合金組成に着目した。
【0009】
ところで上述の特許文献3に示される合金はガスタービン材に好適な用途として開発した合金であり、所望の組成が得られるように溶製し、その後、熱間加工−固溶化処理−時効処理を行うものである。一方、肉盛の場合、一旦、溶解と凝固の工程を経ることになり、溶解時の組成変化が懸念された。そのため、特許文献3の公知合金の組成でなる肉盛用粉末を作製し、実際に肉盛を行ってみたところ、肉盛層の組成と肉盛用粉末の組成の変化は殆ど見られなかった。
また、上述した通り、特許文献3の合金は、固溶化処理を行って時効処理でγ’相を析出するものである。しかし、肉盛した熱間鍛造用金敷に時効処理を行おうとすると、時効処理の温度域で打撃面を強固に支持すべき基材がオーバーテンパーとなり、基材の硬さが低下してしまう。そのため、時効処理に代わる加熱は、加熱された被鍛造材の温度と、熱間鍛造中の発熱による温度を利用して、熱間鍛造しながら時効処理の効果を得ることを検討した。
検討は、実際の熱間鍛造用金敷に特許文献3で示された組成の肉盛を行って、簡易的にγ’相の析出による硬さの変化を調査した。調査は、実際に熱間鍛造する時の熱間鍛造用金敷の打撃面の代表的な温度である700〜900℃の温度域のうち、最も低温側の700℃にて特許文献3の組成の粉末を溶解−凝固させた5つの試験片を用いて、加熱と冷却を繰り返し、20分、1時間、2時間、4時間後の硬さをビッカース硬度計にて測定した。その結果を表1に示す。
【0010】
【表1】

【0011】
表1に示すように、時間の経過とともに硬さが上昇していることが分かる。
次に、実際の熱間鍛造用金敷に特許文献3で示された組成の肉盛を行って熱間鍛造を行ってみたところ、従来合金のUdimet(R)520の大よそ2倍の寿命が得られた。この熱間鍛造結果と表1に示す硬さの結果から、熱間鍛造中に時効処理と同様、γ’相析出効果が得られることを確認した。
以上の結果から、加熱された被鍛造材の温度と、熱間鍛造中の発熱による温度を利用して、熱間鍛造しながらγ’相を析出させる時効処理の効果を得ることが確認された。
【0012】
ところで、熱間鍛造用金敷の打撃面に用いる合金には、初期の強度を高くしつつ、且つ、時効効果を鍛造中に発現できるように、添加する合金元素を適正にする必要がある。
初期の強度においては、従来合金のUdimet(R)520を肉盛した後の硬さは、おおよそ370HV程度であることから、上記の表1に示す特許文献3の範囲の合金は、初期の硬さにおいても従来合金より高硬度であり、高い強度を有することが分かる。
また、時効効果を鍛造中に発現できるように、添加する合金元素の適正化の具体的な方法としては、本発明では強度に寄与するMoとWとを、特許文献3で規定される範囲より若干高めたうえで、更に、含有する元素M(ただし、MはAl、TiおよびTaの3種の元素を表し、さらにNbを含有する場合にはこれらにNbを加えた4種の元素を表す。)の全てがNiMで表わされるγ’相を形成するとして求められるγ’相の原子%が計算上、20〜45%となる組成に調整する。
これにより、熱間鍛造中の温度でγ’相を析出させて時効効果を発現させるものである。計算上のγ’相が20原子%未満では前述の時効効果が不十分となり、また、45原子%を超えるとかえって靭性が劣化するおそれがあるため、γ’相の原子%を20〜45%の範囲とする。
なお、上記のγ’相は、Al,Ti,Ta,Nbが全てγ’相(NiM)となると仮定した計算に基づくものである。計算は、先ず、金敷の成分を原子%で表記したときのAl,Ti,Ta,Nbの総和から、NiMを計算上求めるものである。
【0013】
次に本発明の析出強化型耐熱合金層の組成を詳しく説明する。なお、化学組成は特に記載のない限り質量%として記す。
本発明では、WとMoは初期の強度を高めるため、必須で添加する元素である。
W:3〜7%
Wは、マトリックスの固溶化元素として、後述するMoと同様、引張強度を向上させるのに有効な元素である。そのため、Wは最低3%を必要とする。しかし、7%を越えるWの添加は、Moと同様、組織の安定性に悪影響を及ぼすため、Wの上限を7%とする。より好ましいWの下限は4%であり、より好ましいWの上限は5%である。
Mo:3〜7%
Moは、オーステナイト相に固溶して、基地を強化し、高温強度を向上させるのに有効な元素である。そのため、Moは最低3%以上を必要とする。しかし、7%を超えるMoの添加は、後述するCrと同様、組織を不安定にするため、Moの上限を7%とする。より好ましいMoの下限は4%であり、より好ましいMoの上限は5%である。
【0014】
次に本発明では、前述したように、20〜45%のγ’相となる組成の合金を用いて、熱間鍛造中の温度で時効効果を発現させるものである。そのため、Ta,Al,Tiについては必須で添加し、NbはTaの一部を置換することができる。
Ta:1〜7%
Taは、後述するTiと同様、NiAlのAl側に固溶してγ’の格子定数を大きくし、引張強度を向上させる。上記の効果を得るために、Taは最低1%を必要とする。しかし、Taが7%を越えるとδ相(NiTa)の析出を生じて延性を劣化させるため、Taの上限を7%とする。より好ましいTaの下限は3%であり、より好ましいTaの上限は5%である。
Nb:0〜3%、Ta+2Nb:1〜7%
Nbは、Taと同族の元素であり、Taの一部を3%以下のNbで置換できる。しかし、Nbの原子量はTaの約1/2であることから、Nbを添加する場合はTa+2Nbとする。また、Nbは高温強度を向上させ、前述するTaと同様の効果を及ぼすが、高温強度を向上させる効果はTaに及ばないため、Nbを添加する場合においてはTaと共に複合添加する。NbとTaを複合添加した場合でも、その総量はTaを単独添加したときと同じく、1〜7%である。
【0015】
Al:0.5〜2%
Alは、Niと結合して安定なγ’相を析出させ、熱間鍛造中の高温強度を与えるために、不可欠な元素であり、最低0.5%を必要とする。しかし、本合金では高温強度の向上のために、γ’相中の{Ti+Ta(+Nb)}/Al比を高くしてγ’相の格子定数を大きくし、γ’の析出による格子歪を高める必要があるため、Alの上限を2%とする。より好ましいAl下限は1.0であり、より好ましいAlの上限は1.6%である。
Ti:1.5〜3.0%
Tiは、Alと同様Niと結合してγ’相を析出させ、高温強度を高める作用を有し、最低1.5%を必要とする。しかし、3.0%を越える多量のTiは本発明にとって重要な元素であるTaのγ’相中への固溶度を減少させ、また、η相(NiTi)が析出して強度を低下させるので、Tiの上限を3.0%とする。より好ましいTiの下限は2.1%であり、より好ましいTiの上限は2.7%である。
【0016】
B:0〜0.02%
Bは、粒界強化作用により、高温強度と延性を高めるのに有効であり、必要に応じて添加することができる。例えば、被鍛造材が難加工性の材質である場合等は、Bを添加することが好ましい。しかし、過剰なBの添加は硼化物を形成する。硼化物は、溶接時に硼化物の局部溶解が生じ高温割れの原因となるため、Bの上限を0.02%とする。Bを添加する場合のより好ましい下限は0.001%(10ppm)であり、より好ましい上限は0.015%である。
C:0.01〜0.15%
Cは、Crを主体として粒界にM23型の炭化物を不連続に析出し、粒界を強化させる作用を有する。そのため、Cは最低0.01%を必要とする。しかし、0.15%を越える過剰のCは一次炭化物の生成量を増加させ、靭延性を低下させるので、Cの上限を0.15%とする。
Mg:0〜0.01%以下
Mgは脱酸及び脱硫による高温での粒界延性を改善する元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、Mgを0.01%を超えて添加しても前記の効果の向上は望めないことから、Mgを添加する場合の上限を0.01%とする。
【0017】
Si:0〜1.0%
Siは、脱酸元素として添加する。Siが1.0%を超えると有害相の析出や高温強度が低下する。そのため、Siの上限を1.0%とする。好ましいSiの上限は0.5%である。
Mn:0〜1.0%
MnもSiと同様に脱酸元素として添加する。Mnが1.0%を超えると有害相の析出や高温強度が低下する。そのため、Mnの上限を1.0%とする。好ましいMnの上限は0.5%である。
なお、前述のようにSiとMnは共に脱酸元素であるため、SiとMnの一方の元素で十分に脱酸を行うことができれば、他方の元素の添加は必ずしも必要でなくなる。このことから、SiとMnの下限を0%とする。
【0018】
Cr:15〜22%
Crは、合金の基地中に置換型原子として固溶し、引張強さ、弾性限および硬さを高める。また耐摩耗性を向上させる効果があるため、Crは最低15%を必要とする。しかし、22%を越えるCrの添加は、組織を不安定とするだけでなく、Mo、Wとともに脆化相であるσ相を生成しやすくなるので、Crの上限を22%とする。より好ましいCrの下限は17%であり、より好ましいCrの上限は19%である。
Co:2〜15%
Coは、高温域でのγ’の固溶量を増加させる効果と、溶接性を改善させる効果を有するため、最低2%を必要とする。しかし、Coが多量に存在する場合にはラーベス相などの有害相の析出を生じやすくするため、Coの上限を15%とする。より好ましいCoの下限は8%であり、より好ましいCoの上限は12%である。
残部のNiはオーステナイト基地とNi(Al,Ti,Ta)または、Ni(Al,Ti,Ta,Nb)なるγ’析出強化相を構成する基本元素である。
本発明合金においては、不純物として、通常、Fe,P,S,Ca,Zr等の混入が考えられるが、以下の量は特性上特に問題はないので、本発明合金中に含まれてもよい。
Fe≦3.0%、P≦0.03%、S≦0.03%、Ca≦0.02%、Zr≦0.01%
【0019】
上述した組成の析出強化型超耐熱合金を熱間鍛造用金敷の打撃面に積層させるには、溶接肉盛などの公知の技術を採用することができる。
肉盛の方法には、例えば、上記合金をワイヤに加工して肉盛する方法と、合金粉末を用いる方法とがあり、何れの方法を用いてもよい。但し、上記の合金は、凝固速度が遅いと偏析しやすいこと、更には、ワイヤまでの加工が必要なことを考慮すると、粉末を用いて肉盛するのがよい。粉末による肉盛では、成分偏析も抑制できるし、ワイヤまでの加工も必要ないことから、肉盛した合金の特性の観点と製造コストの観点からしても有利である。
【0020】
本発明では安価な合金工具鋼を基材として、打撃面に本発明で規定する合金を肉盛することができる。
合金工具鋼を基材として、打撃面に本発明合金で規定する組成の合金を肉盛すると、基材と打撃面とが異種合金で構成されるため、それぞれの異種合金が有する異なる特性を付与することができる。
具体的には、打撃面は被鍛造材を打撃する打撃面とするに必要な高硬度を付与しつつ、基材には高い剛性を実現し、熱間鍛造用金敷の応力を緩和することを可能とするものである。
基材となる合金工具鋼は、JIS−G4404に記されるものであれば良い。中でも熱間での使用に好適なものが好ましく、典型的な成分範囲を示すと、質量%で、C:0.25〜0.5%、Si:1.2%以下、Mn:1.0%以下、Cr:0.8〜5.5%、Ni:0〜4.3%、Mo:0〜3.0%、W:0〜9.5%、V:0〜2.1%、Co:0〜4.5%を含み、残部はFe及び不純物でなる合金である。基材となる合金工具鋼を、例えば800〜1100℃の焼入と、500〜700℃の焼戻しを実施し、通常、330〜380HBW程度の硬さに調整した状態で使用する。
【0021】
また、本発明では、図1に示す熱間鍛造用金敷1のように合金工具鋼でなる基材2と、本発明で規定する合金でなる析出強化型耐熱合金層の打撃面3との間に、固溶強化型耐熱合金でなる中間層4をさらに具備することができる。
中間層として固溶強化型耐熱合金を具備することにより、基材となる合金工具鋼と打撃面となる析出強化型耐熱合金層との溶接性を向上させ、基材と打撃面との間に発生する応力をより確実に緩和させることができ、熱間鍛造用金敷の寿命をより一層向上することができる。
本発明の場合、中間層で用いる固溶強化型耐熱合金は、その固溶強化型耐熱合金の有する強化機構を利用するものでなく、上記のように溶接性を改善したり、応力を緩和したりする層として用いるものである。中間層は、単層でも良いし、二以上の成分の異なる固溶強化型耐熱合金を積層して用いても良い。
なお、本発明で言う固溶強化型耐熱合金とは、例えば、JIS−G4901やG4902に示される組成を有する合金のうち、合金元素を固溶させて基地(マトリックス)を強化することが可能な組成を有する合金や、ASTM−A494に記される合金で有ればよい。
典型的な成分範囲を示すと、質量%で、C:0.15%以下、Cr:15〜30%、Co:0〜3%、Mo:0〜30%、W:0〜10%、Nb:0〜4%、Ta:0〜4%、Ti:0〜1%、Al:0〜2%、Fe:0〜20%、Mn:0〜4%を含み、残部はNi及び不純物でなる合金である。
勿論、中間層を形成した熱間鍛造用金敷であっても、打撃面の硬さを311HBW以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を更に詳しく説明する。
870℃×1時間での焼入れと640℃×4時間での焼戻しにより、ブリネル硬さで352HBWに調整したJIS SKT4で作製した基材2に、中間層4としてASTM−A494相当合金を積層させ、打撃面3にアトマイズ法により製造した粒径、212/63μmの合金粉末をプラズマトーチアーク溶接により20mm肉盛して図1に示す構造の本発明の熱間鍛造用金敷1を作製した。表2に本発明で規定する組成の析出強化型耐熱合金層(打撃面)の組成と中間層の組成を示す。なお、打撃面に用いた合金組成から原子量を求め、それをNiM(MはAl,Ti,Ta)に当てはめて計算すると、γ’相は27.1%であった。
また、上述の本発明と同様の基材と中間層を形成した後、肉盛りを行った。肉盛りに用いた合金は、Alloy718合金などと比較して高温強度に有利な、特許文献1に記されたUdimet(R)520相当合金粉末を20mm肉盛して、比較例の熱間鍛造用金敷を得た。表3に比較例の析出強化型耐熱合金層(打撃面)の組成と中間層の組成を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
次に、表2および表3に示した組成を有する中間層と析出強化型耐熱合金層(打撃面)を形成した本発明と比較例の熱間鍛造用金敷を用いて4面鍛造により荷重700〜750tonで熱間鍛造を行った。被鍛造材は難加工性のUdimet(R)520相当合金であった。また、鍛造中の打撃面の温度は約850℃であり、本発明の熱間鍛造用金敷を用いた熱間鍛造の総作業時間は約5時間であった。温度と時間のから熱間鍛造しながらγ’相を析出させる時効処理の効果を十分に発揮できるものであった。
熱間鍛造後の熱間鍛鍛造用金敷の磨耗量を比較するため、4面鍛造装置に設置した4つの熱間鍛造用金敷(型1〜4)の打撃面が平均で1mm磨耗するまで熱間鍛造を行った。
なお、磨耗量の測定は、熱間鍛造用金敷が最も磨耗する打撃面の中央部を測定し、測定にはゲージを用いた。その結果を表4に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
表4に示すように、本発明の熱間鍛造用金敷を用いた場合では鍛造本数が36本であったのに対し、比較例の熱間鍛造用金敷を用いた場合では鍛造本数が18本であり、本発明の熱間鍛造用金敷は、比較例と比べて2倍の本数を鍛造することができた。また、熱間鍛造後の本発明の熱間鍛造用金敷の打撃面にはヒートクラックの発生もないことを確認した。
今回の結果は、被鍛造材を難加工性のNi基のγ’析出強化型合金として行った結果であり、特に、超耐熱合金などの難加工材の熱間鍛造において優れた耐磨耗性を示すことが期待できる。
以上の結果から、本発明の熱間鍛造用金敷は高い寿命が実現できることが分かった。また、熱間鍛造用金敷の補修による交換頻度を低減することができるため、生産性向上にも有効である。
【符号の説明】
【0028】
1 熱間鍛造用金敷
2 基材(合金工具鋼)
3 打撃面(析出強化型耐熱合金層)
4 中間層(固溶強化型耐熱合金)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃面に析出強化型耐熱合金層を有する熱間鍛造用金敷において、前記析出強化型耐熱合金層はNi基合金組成を有する肉盛層であり、該肉盛層は、質量%でB:0〜0.02%、C:0.01〜0.15%、Mg:0〜0.01%、Al:0.5〜2%、Si:0〜1%、Mn:0〜1%、Ti:1〜3%、Cr:15〜22%、Co:2〜15%、Nb:0〜3%、Mo:3〜7%、Ta:1〜7%、W:3〜7%、且つ、Ta単独またはTa+2Nbの合計で1〜7%を含み、残部はNi及び不純物でなり、含有する元素M(ただし、MはAl、TiおよびTaの3種の元素を表し、さらにNbを含有する場合にはこれらにNbを加えた4種の元素を表す。)の全てがNiMで表わされるγ’相を形成するとして求められるγ’相の全体に占める割合が原子%で20〜45%となる組成を有することを特徴とする熱間鍛造用金敷。
【請求項2】
前記熱間鍛造用金敷は、合金工具鋼を基材とすることを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造用金敷。
【請求項3】
打撃面の前記析出強化型耐熱合金層の下層に固溶強化型耐熱合金でなる中間層を有し、該中間層は合金工具鋼の基材上に形成されることを特徴とする請求項2に記載の熱間鍛造用金敷。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載された熱間鍛造用金敷を準備する第1のステップと、
被鍛造材を加熱して前記熱間鍛造用金敷の前記打撃面に載置する第2のステップと、
前記被鍛造材を熱間鍛造しながら、加熱された前記被鍛造材の温度と熱間鍛造中の前記被鍛造材の発熱による温度を利用して前記打撃面の前記析出強化型耐熱合金層にγ’相を析出させる第3のステップとからなる
ことを特徴とする熱間鍛造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−52441(P2013−52441A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174773(P2012−174773)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】