説明

熱電変換材料

【課題】炭化物系セラミックスからなり、かつ、高い出力因子をもつn型熱電変換材料を提供する。
【解決手段】熱電変換材料は、結晶構造中にRC6八面体(但し、RはZr、Sc、Y又は希土類元素から選択された少なくとも一種類以上の元素である。)が稜共有することで形成される[RC2]層を部分構造として含む。すなわち、電気伝導率の高い層と電気伝導率の低い層とからなる二種類の異なる層が交互に積層する結晶構造をもつことから、良好な熱電特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護や資源の有効利用の観点から、散逸する熱エネルギーを電気エネルギーとして効率的に回収でき、しかも有害元素を全く含まない熱電変換材料が注目されている。現在実用化されている熱電変換材料には、Bi−Te系化合物に代表されるような金属間化合物がある。しかし、エネルギー変換効率は10%程度しかなく、TeやPbなどの有害元素を含むものもある。
【0003】
1993年にHicksら(非特許文献1乃至3)による超格子の概念が登場し、結晶構造における低次元化によって、高性能な熱電変換材料が設計できる可能性が示された。すなわち、電気伝導層と絶縁層が交互に積層する結晶構造をもつ熱電変換材料では、電気伝導層をナノメートルサイズにまで薄くすると、量子閉じ込め効果によりゼーベック係数が増大し、加えて層界面でフォノンが散乱されて熱伝導率が低下するため、熱電変換の高効率化につながることが理論的に示されている。これ以降、比較的高温(700℃程度)で動作するp型熱電変換材料についてはNaCo2O4などの層状コバルト酸化物に関する研究(非特許文献4)が進展する一方で、n型熱電変換材料の研究開発は比較的遅れている。熱電発電を実現するためには、一対のpn素子を組み合わせてモジュール化する必要があり、高性能なn型熱電変換材料の開発が急務である。
【0004】
特許文献1によって、一般式が(ZrC)m(Al,Si)4C3 (但し、mは2又は3の数である。) と (ZrC)nAl3C2 (但し、nは2又は3の数である。)で表される炭化物ホモロガス相が、n型熱電変換材料として有望であることが開示されている。これらの物質群は、稜共有したZrC6八面体から構成される[Zr2C3]層又は[Zr3C4]層と、化合物Al4C3の部分構造に類似した構造の[AlC]層又は[(Al,Si)C]層が交互に積み重なった結晶構造を示す。[Zr2C3]層又は[Zr3C4]層は電気伝導率が比較的高く、一方、[AlC]層又は[(Al,Si)C]層は電気伝導率が比較的低い。すなわち、電気伝導率の異なる二種類の層が交互に積層する結晶構造をもつことから、良好な熱電特性を示すと考えられる。これらの炭化物ホモロガス相の結晶構造は、熱力学的に安定な構造であり、高温域で熱電変換材料としての使用が可能である。さらに有害元素を含まず環境負荷が低いという特長がある。
【特許文献1】特開2006−222261号公報
【非特許文献1】Physical Review B: Condensed Matter, Vol. 47, 12727 (1993)
【非特許文献2】Physical Review B: Condensed Matter, Vol. 47, 16631 (1993)
【非特許文献3】Applied Physics Letters, Vol. 63, 3230 (1993)
【非特許文献4】Physical Review B: Condensed Matter, Vol. 56, 12685 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、実用化のためには、熱電変換効率をさらに改良する必要があるという問題点があった。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は高い出力因子をもつn型熱電変換材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、結晶構造中における電気伝導層の厚みが、より薄い化合物に着目した。より詳しくは、結晶構造中にRC6八面体(但し、RはZr、Sc、Y又は希土類元素から選択された少なくとも一種類以上の元素である。)が稜共有して二次元的に連なった[RC2]層を部分構造として含む化合物に着目した。
【0007】
本発明の熱電変換材料は、結晶構造中にRC6八面体(但し、RはZr、Sc、Y又は希土類元素から選択された少なくとも一種類以上の元素である。)が稜共有することで形成される[RC2]層を部分構造として含むことを特徴とする。
【0008】
特許文献1に記載の熱電変換材料は、一般式が(ZrC)m(Al,Si)4C3 (但し、mは2又は3の数である。) 又は (ZrC)nAl3C2 (但し、nは2又は3の数である。)で表される炭化物ホモロガス相である。mとnの値が2の炭化物は、それぞれ化学式がZr2(Al,Si)4C5とZr2Al3C4で表され、これらの結晶中にはZrC6八面体が稜共有して連結した[Zr2C3]層が存在する。この[Zr2C3]層は [ZrC2]層がc軸方向に二層積み重なっている。また、mとnの値が3の炭化物は、それぞれ化学式がZr3(Al,Si)4C5とZr3Al3C5で表され、それらの結晶中にはZrC6八面体が稜共有して連結した[Zr3C4]層が存在する。この[Zr3C4]層は[ZrC2]層がc軸方向に三層積み重なっている。
【0009】
本発明で提案するところのn型熱電変換材料は、結晶中にRC6八面体が稜共有して二次元的に連なった[RC2]層が存在することを特徴とする。すなわち、電気伝導率の比較的高い層([RC2]層)が、特許文献1に記載の炭化物ホモロガス相における電気伝導率の比較的高い層([Zr2C3]層又は[Zr3C4]層)よりも薄い。例えば本発明の請求項3記載の(YC)Al3C2では、電気伝導率の比較的高い層である[YC2]層の厚みは、特許文献1に記載の(ZrC)2Al3C2と比べて約47%薄い。このため量子閉じ込め効果がより顕著になり、出力因子をより高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のn型熱電変換材料は高い熱電変換性能を有する。また、環境負荷が小さく、熱力学的に安定な構造であることから高温での使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施例を、図面を参照しつつ説明するが、これらは例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
本実施例では、(YC)Al3C2で表される熱電変換材料を作製し、従来の炭化物ホモロガス相の熱電変換材料である(ZrC)m(Al,Si)4C3 (但し、mは2又は3の数である。) 又は (ZrC)nAl3C2(但し、nは2又は3の数である。)との熱電特性の比較検討を行った。
1.実験方法
1−1.(YC)Al3C2の合成
YC2およびAl4C3粉末試薬をモル比4:3で秤量し、ボールミルで乾式混合した。これらの試薬は吸湿性を顕著に示すことから、できる限り吸湿による水和を防ぐために乾燥空気で満たしたグローブボックス内にて作業を行った。この混合粉末を約10mm×10mm×3mmの大きさに一軸加圧成形し,真空中にて1873Kで1時間加熱後,電気炉の電源を切って室温まで冷却した。得られた試料は目的物質のYAl3C3以外に、少量の不定形炭素とY2O3、Y4Al2O9から構成されていた。不定形炭素は、次の反応式に示すとおり、YC2とAl4C3が反応してYAl3C3と共に生成する。
【0013】
4YC2 + 3Al4C3→ 4YAl3C3 + 5C
また、二種類の酸化物Y2O3とY4Al2O9は、試薬の水和反応を完全に防ぐことができず、さらに焼成過程で次の反応式に示すとおりに生成したと考えられる。
【0014】
2Y(OH)3 → Y2O3+ 3H2O
4Y(OH)3 + 2Al(OH)3→ Y4Al2O9 + 9H2O
次に、先に得られた試料を粉砕し、パルス通電法を用いて、真空下にて40MPaで一軸加圧しながら1873Kで5min加熱して、約直径15mm×4mmのペレット状の緻密な焼結体を得た。
1−2.Rietveld法による結晶構造の精密化
(YC)Al3C2は(UC)Al3C2と等価な構造であると考えられるが、結晶構造の精密化は行われていない。そのためX線粉末回折法で結晶構造の決定とその精密化を行った。X線粉末回折装置(PANalytical X’PertPRO Alpha-1)で、CuKα1線(45kV×40mA)を用いて連続スキャン法でプロフィル強度の測定を行った. 2θ範囲は20.01536°から148.49159°であり、全データ数は7689点であり、全測定時間は2時間3分である。得られた試料の回折パターンには、目的物質からの回折線以外に、Y2O3とY4Al2O9からの回折線も存在した。そこでこれらの回折線を除いて指数付けを行い、可能な晶系と格子定数を求め、直接法(非特許文献5)を用いて初期構造モデルを求めた。構造の精密化はリートベルト法(非特許文献6)で行った。
【非特許文献5】Journal of Applied Crystallography, Vol. 32, 339 (1999)
【非特許文献6】Journal of Applied Crystallography, Vol. 2, 65 (1969)1−3.熱電特性評価方法 先に得られたペレット状の緻密な焼結体をダイヤモンドカッターで柱状(10mm×4mm×3mm)に切り出して、真空中にて室温から1073Kまでの電気伝導率(σ)とゼ−ベック係数(S)の値を測定した。試料を電気炉内に配置し、試料の片側のみに空気を流入した石英管を接触させて低温側をつくり、その反対側を高温側として両端の温度差を測定し、同時に両端における起電力を測定して、熱起電力と温度差のグラフの傾きからSの値を求めた。σの値は直流四端子法によって求めた。σとSの値からσS2の値を計算によって求めた。
【0015】
また、一般式が(ZrC)m(Al,Si)4C3 (但し、mは2又は3の数である。) と (ZrC)nAl3C2 (但し、nは2又は3の数である。)で表される炭化物ホモロガス相のσとS、σS2の値は、特許文献1から引用した。
2.結果
2−1.(YC)Al3C2の結晶構造
リートベルト解析の結果、信頼度因子の値は、Rwp=9.94%、Rp=7.36%、Rwp/Re=1.18となり、良好な解析結果が得られた(図1)。試料中に含まれている酸化物の存在割合を、リートベルト法で精密化して得られた尺度因子から求めたところ、Y2O3が約9.2wt%でY4Al2O9が約2.0wt%であった。
【0016】
粉末X線回折法では検出できなかったアモルファスカーボンの存在も考慮すると、試料中には84wt%の(YC)Al3C2、6wt%のアモルファスカーボン、8wt%のY2O3および2wt%のY4Al2O9が含まれていると考えられる。(YC)Al3C2の結晶学的データと構造パラメータをそれぞれ表1と表2に示す.
【0017】
【表1】




【0018】
【表2】



【0019】
(YC)Al3C2は空間群P63mcであり、格子定数の値はa = 0.342157(4) nmとc = 1.72820(1) nmである。この結晶構造は、非特許文献7によって報告されている(UC)Al3C2や(ScC)Al3C2と等価な構造であり、厚さ約0.32nmの[YC2]層と厚さ約0.54nmの[AlC]層がc軸方向に交互に積み重なっていることが確認できた(図2)。
【0020】
特許文献1で開示されている熱電変換材料の(ZrC)2Al3C2と(YC)Al3C2の結晶構造を比較すると、[AlC]層の厚さは両者でほぼ同じである。一方、(ZrC)2Al3C2の電気伝導層である[Zr2C3]層の厚みは約0.60nmあり、(YC)Al3C2の電気伝導層である[YC2]層の厚みの方が約0.28nm薄いことが確かめられた。
【非特許文献7】Journal of Solid State Chemistry, Vol. 140, 396 (1998)2−2.(YC)Al3C2の熱電特性 (YC)Al3C2は、温度が上昇するに従いσの値が減少しており、導体的な挙動を示した。比較試料である(ZrC)m(Al,Si)4C3 (m = 2 and 3) 又は (ZrC)nAl3C2 (n = 2 and 3) のσの値と比べると、室温から1073Kの全温度域にわたって(YC)Al3C2のほうが低かった(図3)。今回得られた試料中には、絶縁性の不純物(Y2O3とY4Al2O9)が共存していることから、試料の純度を上げることでσの値をより高くすることができると考えられる。
【0021】
Sの値が全温度域で負の値を示したことから、(YC)Al3C2はn型熱電変換材料である。Sの絶対値は温度の上昇に伴い増加し、1073Kにて112μVK−1に達した。また室温から1073Kの全温度域にわたって、その値は比較試料を大幅に上回った(図4)。
【0022】
σS2の値は温度上昇に伴い一様に増加しつづけ、600K以上では全ての比較試料よりも大きな値となった。その最大値は1073Kにおいて1.96×10−4Wm−1K−2であった(図5)。以上から、電気伝導率の比較的高い層の厚みを、従来の炭化物ホモロガス相よりも薄くすることで、熱電変換の出力因子をより高くすることができることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は熱エネルギーと電気エネルギーを相互変換する熱電変換素子として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、(YC)Al3C2とY2O3、Y4Al2O9の観測したプロフィル強度(+)と計算したプロフィル強度(上方の実線)の比較および、図の下方に両者の差を示す図である。 縦線は上から(YC)Al3C2、Y2O3、Y4Al2O9のブラッグ反射の位置を表す。
【図2】図2は、(YC)Al3C2の結晶構造を[110]方向から見た図である。
【図3】図3は、本発明の実施例で得られた(YC)Al3C2と比較試料(ZrC)m(Al,Si)4C3 (m = 2 and 3) 及び (ZrC)nAl3C2 (n= 2 and 3)の電気伝導率の温度依存性を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施例で得られた(YC)Al3C2と比較試料(ZrC)m(Al,Si)4C3 (m = 2 and 3) 及び (ZrC)nAl3C2 (n = 2 and 3)のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施例で得られた(YC)Al3C2と比較試料(ZrC)m(Al,Si)4C3 (m = 2 and 3) 及び (ZrC)nAl3C2 (n = 2 and 3)の出力因子の温度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造中にRC6八面体(但し、RはZr、Sc、Y又は希土類元素から選択された少なくとも一種類以上の元素である。)が稜共有することで形成される[RC2]層を部分構造として含むことを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
前記の熱電変換材料の一般式がRAl3C3(但し、RはZr、Sc、Y又は希土類元素から選択された少なくとも一種類以上の元素である。)で表されることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記のRがYであることを特徴とする請求項1又は2記載の熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−243936(P2008−243936A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79124(P2007−79124)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】