説明

熱電材料、熱電材料の製造方法

【課題】Bi2Teの格子熱伝導率を大きく改善すると共に、機械加工に対する強度を大きく向上させる。
【解決手段】熱電材料を、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金であって、ユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置される合金によって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Bi2Teは優れた性能指数Z=α/(ρ×κ)を持つ熱電材料として知られ、近年においては、Bi2Teの性能指数向上や量産時の低コスト化など、各種の技術が開発されている(例えば、特許文献1)。なお、ここで、αはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率である。
【特許文献1】特許第3580783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術においてはBi2Teの熱伝導率κを大きく改善することができず、また、機械加工に対する強度を大きく向上させることはできなかった。
熱伝導率κは性能指数Zの分母に含まれるため、熱伝導率κを小さくすることが性能指数の改善に寄与する。熱伝導率κに含まれる格子熱伝導率はユニットセルの大きさに依存するため、約3.0nmという、他の合金と比較して比較的長いc軸長をもつBi2Teは熱伝導率が他の合金と比較して小さく、さらに格子熱伝導率の比率が高いため、高い性能指数Zの熱電材料が実現可能であるとされてきた。しかし、Bi2Teのc軸長を人為的に大きく変化させることは不可能であるため、Bi2Teにおいてc軸長に起因する格子熱伝導率を大きく改善することは不可能である。
【0004】
また、Bi2Teはユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に原子が配置される面が15層形成され、同じ面にはBiあるいはTeのいずれか一方が配置される。すなわち、Bi2Teのユニットセルは、Te面、Bi面、Te面、Te面、Bi面、、、のように各面に単一の元素が配置された互いに平行な面がc軸に沿って並ぶ構造となる。この構造において、Te面が隣り合う部分はファンデルワールス力によって結合しているため、他の面間の結合よりも結合力が弱い。従って、当該Te面同士の結合が弱いことに起因してBi2Teの機械強度は弱く、Bi2Teは機械加工時に扱いづらい物質となる。
【0005】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、高い性能指数と高い機械強度を実現した熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的の少なくとも一つを解決するため、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とによって、ユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置される合金を形成して熱電材料を構成する。すなわち、c軸に垂直な方向に15層の面が形成されるBi2Teよりも多層の面を含むユニットセルとなる合金をBiTe系合金で形成する。この結果、従来のBi2Teよりも大きなユニットセルの合金によって熱電材料を構成することが可能になり、格子熱伝導率を大きく改善することが可能になる。
【0007】
ここで、熱電材料はBiTe系熱電材料であればよい。すなわち、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を(Bi,Sb)、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素を(Te,Se)と表記したとき、(Bi,Sb)(Te,Se)の組成の材料(n,mは自然数)であればよい。また、結晶構造は、菱面体結晶構造(空間群R3−m(−は通常、3の上方に表記される))であることが好ましい。すなわち、この結晶において、c面に平行な方向の電気抵抗率はc軸に平行な方向の電気抵抗率より小さい。従って、c面の配向を制御することによって熱電材料の性能指数を向上し得る。なお、本明細書においてc軸,a軸等の結晶軸やc面等の結晶面は、空間群R3−mの結晶を六方晶表記したときの結晶軸や結晶面である。
【0008】
また、Bi2Teよりも大きなユニットセルの合金は、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素をA、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素をBとしたときに、組成式Aとすることによって生成することが可能である。すなわち、組成式Aの合金は、空間群R3−mの菱面体結晶構造となり、Bi2Teよりもc軸が長く(約4.2nm)、容易に格子熱伝導率を大きく改善することが可能である。
【0009】
さらに、組成式Aで形成される空間群R3−mの菱面体結晶構造を持つ熱電材料は、ユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置され、隣り合う面の双方がTe面となることはない。従って、この構造においては面間がTe間のファンデルワールス力によって結合しておらず、Bi2Teよりも機械加工に対する強度の高い熱電材料を提供することができる。さらに、Bi2Teと比較してTeの比率が少ないため、高価な元素であるTeの使用量を抑制し、低コストで高性能な熱電材料を提供することが可能である。
【0010】
さらに、液体急冷法によって作製された薄膜又は粉末を固化成形することによってBiTe系合金を製造しても良い。すなわち、液体急冷法によって作製された薄膜又は粉末は微細な結晶粒によって構成されているが、一般に、材料内の結晶粒を微細化すると機械的強度が上がる(ホールペッチ則)ため、液体急冷法によって作製した薄膜又は粉末を利用することによって容易に機械強度を向上させることができる。なお、液体急冷法の具体例としては、溶解合金のロール型液体急冷やガスアトマイズ、回転ディスク法が挙げられる。
【0011】
なお、一定方向に配向した結晶軸を持つ薄膜が容易に作製可能であるという意味で、ロール型液体急冷によって得られた薄膜(微細な粒径の結晶を含む合金であり、結晶構造としては粉末と同視することができる)を利用することが好ましい。すなわち、この薄膜においては、膜厚方向に対してc面が平行に向いている傾向があるので、この薄膜内の配向を利用して熱電材料の特性を向上させることが可能である。
【0012】
さらに、BiTe系合金においては、Bi2Te以外の組成(例えば、組成式A)の合金でその合金の融点(固相線温度)を超えても単相の液相にはならず、合金の融点直上の温度範囲においては前記合金の固体と液体とが共存する。例えば、原料元素をBiTeの組成として温度をBiTeの融点(あるいは融点より僅かに高温)に設定しても、単相の液相にはならずBiの液相とBiTeの固相が共存する。
【0013】
そこで、組成式Aの合金を液体急冷する際に、合金の融点(固相線温度)以上の温度範囲であってBiTe系合金の固体と液体とが共存する固液共存範囲を超えた温度にて原料元素を溶解し、その後に液体急冷を行う構成とすれば、確実に目的組成の熱電材料の薄膜又は粉末を製造することが可能である。
【0014】
さらに、BiTe系熱電材料を製造する際に好適な構成例として、Bi2Te以外の組成の合金であってもBi2Teの融点よりも高い温度で原料元素を溶解する構成を採用可能である。すなわち、Bi2Te系熱電材料においては、Bi2Teの融点が最も高温であるため、溶解された原料元素を冷却すると当該Bi2Teの融点以下となった時点でBi2Teが固相になると考えられる。そこで、Bi2Teの融点よりも高い温度で原料元素を溶解した後に急冷すれば、より確実に目的組成の熱電材料の薄膜又は粉末を製造することが可能である。
【0015】
さらに、液体急冷法により作製された薄膜又は粉末を固化成形するための手法としては種々の手法を採用可能であり、例えば、塑性加工法を採用することが可能である。すなわち、液体急冷後の薄膜又は粉末材料を塑性加工法によって固化させると結晶の配向性を向上させることができるため、性能指数を向上させることが可能である。
【0016】
なお、塑性加工法は特に限定されず、例えば、加圧軸と押出軸とが一軸上にない金型による押出処理であってもよい。また、据え込み鍛造法や圧延法であっても良い。
【0017】
ここで、加圧軸と押出軸とが一軸上にない金型においては、合金が押出加工される際にその方向が変化することで、押出過程にある材料にせん断力が与えられればよい。従って、押出軸の向きが加圧軸と異なっていればよいが、好ましくは、30°〜150°の範囲で両者が交わるように設定する。押出処理は少なくとも1回行えばよく、熱電材料が所望の特性になるまで必要に応じて押出処理を繰り返すことができる。
【0018】
さらに、上述のようにして製造した熱電材料においては、特定の方向に関する性能指数が高いので、当該特定の方向(結晶粒の長手方向が揃っている特定の方向)を通電方向とするように熱電材料を切断して熱電素子を製造する。そして、得られた熱電素子を組み合わせて熱電変換モジュールとすれば、高性能の熱電変換モジュールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)熱電材料の製造方法:
(2)実施例:
(2−1)実施例1:
(2−2)実施例2:
(2−3)実施例3:
(2−4)実施例4:
(3)他の実施形態:
【0020】
(1)熱電材料の製造方法:
図1は、本発明の一実施形態にかかる熱電材料の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態においては、まず、BiTe系熱電材料の原料となる元素を秤量して溶解し、インゴットを作製する(ステップS100)。すなわち、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とのインゴットを秤量し、(Bi,Sb)(Te,Se)の組成とする。
【0021】
秤量後には、インゴットを加熱して溶解し(ステップS105)、溶解後の原料を液体急冷によって冷却することにより粉末を作製する(ステップS110)。本実施形態においては、当該インゴットを溶解する際にBi2Teの融点(586℃)よりも高い温度になるように原料元素を加熱する。従って、当該温度で溶解された原料内にBi2Teの固体を含む他の固相が含まれることはなく、当該溶解された原料を液体急冷によって粉末化することにより容易に(Bi,Sb)(Te,Se)の組成の粉末を取得することができる。
【0022】
なお、液体急冷は、例えば、ロール型液体急冷法を採用可能である。すなわち、溶解させた原料を回転するロールに吹き付けることによって粉末とする。むろん、液体急冷の手法としては単ロール法でもよいし、双ロール法でもよいし、ガスアトマイズ法や回転ディスク法であっても良い。また、秤量した各元素を溶解した後、冷却してインゴットにする工程を省略し、溶解状態の合金を液体急冷してもよい。
【0023】
合金の粉末材料が準備されると、図示しないチャンバー内で当該粉末を金型にセット(ステップS120)し、チャンバー内を真空引きして真空引きが完了した後にチャンバー内にアルゴンガスを導入する(ステップS130)。この後、図示しないヒータによって金型を加熱し(ステップS140)、金型を予め決められた設定温度に設定する。例えば、粉末材料の融点(例えば、BiTeであれば420℃)より100℃低い温度〜融点より20℃低い温度の範囲で設定温度が設定される。
【0024】
金型が設定温度に達したら、図示しないプランジャを金型の一方の開口部にセットして粉末材料に対してせん断力を与えながら予め決められた押出速度で押出処理を行う(ステップS150)。すなわち、本実施形態においては、金型の2カ所に開口部が形成されるとともにそれぞれの開口部から金型の内側に延びる通路が形成され、各通路が金型内で繋がっている。また、各通路が延びる方向に沿った軸は異なる方向に配向している。従って、金型に形成された通路は一方の開口部から他方の開口部まで貫く穴であるとともに、延びる方向が異なる2個の通路が途中で繋がった穴である。このため、金型内に原料粉末をセットしてプランジャで押出処理を行うと、加圧軸と押出軸が異なる金型による押出処理、すなわち、材料に対してせん断力を作用させた状態で行う押出処理となる。この結果、押出処理対象の材料にせん断力を作用させながら固化成形することができ、高い性能指数かつ高い機械強度を持つ熱電材料が得られる。
【0025】
材料を固化成形すると、図示しない冷却機構によって金型を冷却し(ステップS160)、固化成形された熱電材料を取り出す(ステップS170)。製造された熱電材料に対しては熱電素子の切り出しを行う材料加工工程が実施され、切り出された熱電素子によって熱電モジュールが製造される。なお、ステップS120以降の押出処理は複数回行っても良い。
【0026】
(2)実施例:
(2−1)実施例1:
次に、上述のステップS105における溶解温度(急冷前の温度)を変えた場合の合金の組成について説明する。ここでは、加熱温度を550℃,570℃,590℃,650℃の4種類に設定した場合に、液体急冷によって得られる粉末に含まれる固相を解析した。
【0027】
下記の表1は、BiTeの組成となるように準備された原料元素を石英管に真空封止した後、ロッキング溶解炉内で原料元素を550℃,570℃,590℃,650℃のそれぞれとなるように加熱し、それぞれの温度において単ロール法によって液体急冷させた場合の固相を示している。
【表1】

【0028】
以上のように、溶解温度が590℃および650℃である場合にはBiTe単相の粉末を得ることができた。一方、溶解温度が570℃の場合にはBiTeとBiTeとが混合された粉末となり、溶解温度が550℃の場合には液体急冷時に溶解合金を射出できなかった。従って、少なくとも590℃以上の温度でインゴットを溶解すると液体急冷によってBiTeの単相を得ることができる。
【0029】
なお、590℃は、目的組成のBiTeの融点(420℃)よりも高温である(図2に示す状態図参照)。従って、インゴットを、単にBiTeの融点を超える温度に加熱して溶解した後に液体急冷を行っても単相の粉末を得るためには不充分であり、より高温となるように加熱する必要があることになる。そして、590℃はBiTeの融点(586℃)を僅かに上回る温度であり、溶解温度570℃においてはBiTeにBiTeが含まれていたことから、BiTeの融点以上の温度範囲420℃〜586℃で加熱した後に粉末化した場合には複数の相(本例の場合にはBiTeおよびBiTe)となることがわかる。従って、当該温度範囲には固相を含む複数の相が混在していたことになる。一方、温度範囲420℃〜586℃をも超える温度となるようにインゴットを加熱して液体急冷を行うと、他の相が含まれず単相のBiTeを得ることができる。
【0030】
図3Aは溶解温度を590℃に設定して液体急冷によって作製した粉末の粉末X線回折図形を示している。同図に示す測定結果の2θ位置に基づいてJCPDSカードによる物質の同定を行うと、図3Aに示す物質はJCPDSカードNo.33−0126のBiTeであった。一方、図3BはBiTeの粉末X線回折図形を示しており、図3Aにおいては、BiTeに特有の2θ位置に特有のピークが観測されない。従って、上述の図3Aに示す測定結果の粉末はBiTeの単相である。
【0031】
さらに、BiTeおよびBiTeのユニットセルは空間群R3−mの菱面体結晶構造であるとともに、BiTeのa軸長,c軸長が約0.45nm,約4.2nmでありBiTeのa軸長,c軸長が約0.44nm,約3.0nmである(Acta Cryst. (1979)B35, 147-149)。また、BiTeにおいてはc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置され、BiTeにおいてはc軸に垂直な方向に形成される15層の面のそれぞれに原子が配置される。従って、BiTeにおいては格子熱伝導率を大きく改善することが可能である。また、BiTeにおいて隣り合う面の双方がTe面となることはなく、ファンデルワールス力によって結合した部分がないためBi2Teよりも機械加工に対する強度の高い熱電材料を提供することができる。さらに、Bi2Teと比較してTeの比率が少ないため、高価な元素であるTeの使用量を抑制し、低コストで高性能な熱電材料を提供することが可能である。
【0032】
(2−2)実施例2:
次に、上述のステップS150におけるせん断付与押出の条件について検証する。下記の表2は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、工具鋼製の金型であって加圧軸と押出軸とが直交するように内径10mmの穴を2方向に形成した金型によってECAP(Equal-Channnel Angular Pressing)を行った場合の結晶粒経と最大曲げ応力とを示している。すなわち、実施例1(溶解温度590℃以上)のようにして液体急冷によって作製した粉末を上述の金型にセットし、当該金型をチャンバー内にセットし、チャンバー内を1.0×10−3Pa以下の圧力になるまで排気した後に当該チャンバー内にアルゴンガスを導入する。そして、390℃に加熱した後、表2に記載した各押出速度で押出処理を行う。むろん、押出に際しては背圧を付与することで成形性を改善(割れや欠けの防止)することができる。
【表2】

【0033】
なお、本明細書において結晶粒径は、ある断面における結晶粒の面積と同じ面積の円の半径にて定義され、当該結晶粒経は、例えば、TSL社製のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置にて測定することが可能である。また、最大曲げ応力は、熱電材料を金型内で押し出されていたときの状態に設置したと仮定した場合の、押出軸の方向に対して垂直かつ加圧軸の方向に対して平行な方向に応力を作用させて破壊したときの荷重によって評価した。すなわち、当該荷重をFとし、荷重方向の長さをh、荷重に対直な方向の長さをbとしたときに以下の式τにて算出することができる。
τ=3/2・F/bh
【0034】
以上のように、各押出速度においては、結晶粒経が小さくなるに従って曲げ強度が向上しており、当該曲げ強度は80Mpa以上である。一方、BiTeにおいて同じ条件で測定した場合の最大曲げ応力は大きくても60MPa程度である。従って、以上の実施例により、隣り合う面の双方がTe面とならないBiTe組成の合金によって、BiTeよりも機械加工に対する強度の高い熱電材料を提供することができることが確認された。なお、BiTeの融点は420℃であるため、押出処理の際の温度は420℃より低いことが好ましく、密度を充分に向上させるために300℃以上であることが好ましい。また、押出速度が速いと生産性が向上するが、過度に押出速度が速いと結晶粒経の粗大化を引き起こして強度を低下させるため、0.1mm/分以上、好ましくは0.3mm/分以上であればよい。
【0035】
(2−3)実施例3:
本発明にかかる熱電材料はせん断付与押出以外の固化成形方法によって製造することも可能である。例えば、ステップS150においてせん断付与押出ではなく、ホットプレス法によって固化成形する構成を採用しても良い。下記の表3は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で内径20mmの穴を形成した超硬合金製の金型によってホットプレスを行った場合の相対密度(ホットプレス後の熱電材料と当該熱電材料の理論密度との比)を示している。すなわち、実施例1(溶解温度590℃以上)のようにして液体急冷によって作製した粉末を上述の金型にセットし、当該金型をチャンバー内にセットし、チャンバー内を1.0×10−3Pa以下の圧力になるまで排気した後に当該チャンバー内にアルゴンガスを導入する。そして、390℃に加熱した後、98MPaにて30分加熱焼結する。
【表3】

【0036】
なお、本明細書において相対密度は、理論密度を8.448g/cm3(JCPDSカード)として計算した。以上のように、300℃以上の焼結温度であれば、ホットプレスによって目的組成(BiTe)の理論密度とほぼ同様の密度となっていることがわかる。
【0037】
従って、本実施例においても目的組成による熱電材料を製造できることが確認された。なお、BiTeの融点は420℃であるため、焼結温度は420℃より低いことが好ましく、密度を充分に向上させるために300℃以上であることが好ましい。
【0038】
(2−4)実施例4:
BiTeの単相からなる熱電材料を製造するためには、各種の液体急冷法および各種の固化成形法を利用することが可能である。下記の表4は、各種の液体急冷法および各種の固化成形法によって作製した熱電材料における格子熱伝導率と配向度とを示している。
【表4】

なお、各例において、液体急冷法による薄膜又は粉末の作製に際しては、アルゴン雰囲気において溶融温度600℃で原料合金を溶融させた。また、単ロール法、双ロール法における回転数は500rpm、回転ディスク法における回転数は2000rpmに設定して溶融金属を急冷させた。また、各固化成形法による固化に際しては、アルゴン雰囲気において加工温度を390℃に設定した。そして、ホットプレスおよび放電プラズマにおいては100MPaで加圧して加圧した。せん断付与押出においては加圧軸と押出軸との角度が90°の型によって押出処理を2回繰り返した。据え込み鍛造においては圧下率75%で鍛造を行った。一軸押出しにおいては押比(入口面積/出口面積)=5の型によって押出を行った。圧延においては圧下率75%で圧延を行った。HPT(High Pressure Torsion)では1rpmで10回転する過程において1000MPaで加圧した。
また、本明細書において格子熱伝導率は熱伝導率κおよび電気抵抗ρの測定結果に基づいて特定した。すなわち、定常法にて熱伝導率κを測定し、四端子法にて電気抵抗ρを測定し、電子熱伝導率κelをκel=L・T/ρとして算出する。そして、格子熱伝導率κphをκph=κ−κelとして算出した。なお、ここで、Lはローレンツ定数、Tは絶対温度である。なお、BiTeは高キャリア濃度の半導体であるため、ローレンツ定数としては金属の2.45×10-8WΩ/K2ではなく、1.48×10-8WΩ/K2を採用した。
【0039】
BiTeにおいては、ユニットセルのc面に平行な方向の電気伝導率が小さいため、c面が特定の方向に揃っている熱電材料を構成すると、高い性能指数の熱電材料を得ることができる。実際の熱電材料においては、熱電材料を特定の方向に平行な方向で切断した断面の80%の面積を占める結晶のそれぞれにおいて、当該特定の方向とc面との角度が27°未満であることが好ましい。表4の配向度は当該c面が特定の方向に揃っている程度を評価するための指標であり、熱電材料におけるある断面の80%を占める結晶において特定の方向とc面との角度がx°以内であるとき、当該xを配向度と呼んでいる。なお、c面と特定方向との角度はEBSD装置にて測定した結果を解析ソフトウェアによる解析にて定義することが可能であり、当該解析に基づいて配向度を特定することができる。
【0040】
以上の表4に示すように、BiTeの格子熱伝導率はBiTeの格子熱伝導率よりも小さいため、性能指数の分母を小さくすることができ性能指数を高めることが可能である。また、BiTeの配向度は27°未満であるため高い性能指数を実現することが可能である。
【0041】
(3)他の実施形態:
本発明においては、BiTe系の合金によって、ユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置される合金や組成式Aの合金を構成することができれば良く、上述の実施形態以外にも種々の構成を採用可能である。例えば、BiTe系の熱電材料を真空蒸着法やスパッタ法、MBE法等によって作製して熱電材料薄膜を製造してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】熱電材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】BiTe系合金の状態図である。
【図3】(3A)および(3B)は粉末X線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素との合金であって、ユニットセルにおいてc軸に垂直な方向に形成される21層の面のそれぞれに原子が配置される合金によって構成される、
熱電材料。
【請求項2】
前記合金は、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素をA、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素をBとしたときに、組成式Aである、
請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
液体急冷法により作製された薄膜又は粉末を固化成形することによって、
請求項2に記載された前記熱電材料を製造する、
熱電材料の製造方法。
【請求項4】
前記液体急冷法は、前記合金の融点以上の温度範囲であって前記合金を含む固液共存範囲を超えた温度にて溶解させた原料元素を急冷する、
請求項3に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項5】
前記固化成形は、塑性加工法によって行われる、
請求項3または請求項4のいずれかに記載の熱電材料の製造方法。
【請求項6】
前記固化成形は、加圧軸と押出軸とが一軸上にない金型による押出処理によって行われる、
請求項3または請求項4のいずれかに記載の熱電材料の製造方法。
【請求項7】
Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素Aと、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素Bとの合金であって、組成式Aの合金によって構成される、
熱電材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−135455(P2010−135455A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308144(P2008−308144)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】