説明

熱電発電装置およびそれを用いた熱電発電方法

【課題】スラグヤードでの、熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する熱電発電ユニットを用いた熱電発電装置を提供する。
【解決手段】エネルギーの電気エネルギーへの変換を司る複数の熱電発電ユニット6と、これら熱電発電ユニットを保持する基盤7と、該熱電発電ユニットを保持した基盤の昇降を司る昇降手段と、排滓スラグの表面固化温度を検出する手段とを備え、上記熱電発電ユニットを、排滓スラグの表面凹凸に対応して、上下方向に変位可能に懸架する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所内のスラグヤードにおいて、熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する熱電発電ユニットを用い、直接スラグ上に載置する熱電発電装置およびそれを用いた熱電発電方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所においては、さまざまな廃熱が発生しており、昨今のエネルギー価格の高騰や、地球環境に対する負荷の問題などにより、これら廃熱の回収、有効利用は大きな課題となっている。そのために、上記のような廃熱を、蒸気の予熱に利用する方法、また廃熱から蒸気を発生させる方法等の検討がこれまでにもなされてきた。
【0003】
こうした取組みに対し、例えば、特許文献1には、廃熱として処理されている熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、回収する方法が記載されている。
特許文献2には、製鉄所などで発生するスラグ顕熱回収方法が記載されている。
特許文献3には、溶融スラグをスラグ冷却水槽内に投入して冷却する際に、高温となった冷却水の熱エネルギーを、スラグ冷却水槽内に配置した熱電素子を組み込んだ熱交換装置により、直接、電力に置換して回収する方法が記載されている。
特許文献4には、スラグ冷却水の熱により熱電素子エレメントを加熱して熱電発電を行うスラグ冷却コンベアに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−34084号公報
【特許文献2】特開2009−227489号公報
【特許文献3】特開平6−117781号公報
【特許文献4】特開2002−310572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラグの廃熱は、その発生量が多いにもかかわらず、これまで有効な廃熱回収がなされていない。その理由としては、スラグの発生が間欠的であると共に、大気温度から1400℃程度までと、その温度変動幅が大きいことが挙げられる。
【0006】
ここに、特許文献1では、スラグの廃熱を回収するための具体的な手順やその回収に特有の問題については何ら考慮が払われていない。
また、特許文献2では、熱を水蒸気で回収する方法が示されているものの、熱を電気に直接変換するものではないため、エネルギーの変換効率に劣る。
さらに、特許文献3および4に記載の技術では、通常、スラグ冷却水の温度は50〜80℃の範囲であり、例え、高温側温度の冷却水が最大加熱されたとしても、高々100℃であり、熱電変換モジュールの電極間における温度差を大きくとることが出来ない。すなわち、熱電変換モジュールの変換効率を上げられないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、スラグヤードにおいて、スラグの顕熱や廃熱を回収する際に、プロセス内の熱源温度とプロセス周辺の雰囲気温度との温度差を利用し、熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する熱電発電ユニットを用い、直接スラグ上に載置する熱電発電装置およびそれを用いた熱電発電方法を共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.熱エネルギーの電気エネルギーへの変換を司る複数の熱電発電ユニットと、これら熱電発電ユニットを保持する基盤と、該熱電発電ユニットを保持した基盤の昇降を司る昇降手段と、排滓スラグの表面固化温度を検出する手段とを備え、上記熱電発電ユニットが、排滓スラグの表面凹凸に対応して、上下方向に変位可能に懸架されていることを特徴とする熱電発電装置。
【0009】
2.前記熱電発電ユニットが、該熱電発電ユニットを冷却する冷却手段を具えることを特徴とする前記1に記載の熱電発電装置。
【0010】
3.前記1または2に記載の熱電発電装置を、排滓スラグ上に設置して、該排滓スラグの熱を利用して熱電発電を行う方法であって、
上記排滓スラグが固化したことを確認したのち、上記熱電発電装置の熱電発電ユニットを保持した基盤を降下させ、該熱電発電ユニットを、該排滓スラグの表面凹凸に対応して接触載置したのち、熱電発電を開始することを特徴とする熱電発電方法。
【0011】
4.前記熱電発電装置の熱電発電ユニット温度を、該熱電発電ユニットに設けた冷却手段を用いて調節することを特徴とする前記3に記載の熱電発電方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従う熱電発電装置では、熱電発電ユニットと熱源とを、接触載置して発電することができるため、発電効率が向上し、スラグの顕熱および廃熱の回収を効果的に実現することができる。
また、本発明の熱電発電方法によれば、熱電発電ユニットの破損のおそれなしに、スラグヤードの熱を電気エネルギーに、効率的に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う熱電発電ユニットの構成を示す図である。
【図2】本発明に従う熱電発電装置を示す模式図である。
【図3】本発明に従う熱電発電装置の排滓場への接触載置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図1、2および3を用いて具体的に説明する。
図中、1は熱電発電素子、2は冷却部、3は熱緩衝材、4は冷却水導入および排出部、5は電極、6は熱電発電ユニット、7は基盤、8は上部架構、9は懸架手段、10は冷却水、11は冷却水配管、12は電装系統、13は基盤と支柱の接続部、14は支柱、15は吊り具、16は熱電発電装置、17は装置をスラグ上に移設するクレーン(昇降手段)、18はスラグ運搬台車および19は運搬台車より排出されたスラグである。
一般に、製鉄所で発生する排滓スラグ(以下、単にスラグともいう)は、セメント原料向けの高炉スラグを除き、スラグヤードと呼ばれる場所で、冷却固化した後に破砕されるものが殆どである。スラグヤードには、高炉や製鋼工場より、スラグが溶融した状態で積載されたスラグ運搬台車18が運び込まれる。そして、スラグヤードの上方で、スラグの入った鍋を傾動させて、溶融スラグを流出する。
その後、空冷状態で数時間から数十時間放置し、ついで表面に散水し、さらに冷却してから重機にて固化したスラグを破砕して排出する。この時、スラグ運搬台車18におけるスラグの表面温度は1400℃を超えているが、流出後、急激に低下し、2時間ほどで400℃程度となる。その後は、スラグの表面温度変化は緩慢となり、100℃程度に低下するまでに、24時間程度を要する。
また、溶融スラグの粘性は比較的高いため、流出したスラグは水平にはならず、台車側が高くて反対側が低い緩傾斜を形成するとともに、表面に凹凸が発生する。
【0015】
本発明の熱電発電装置16は、熱エネルギーの電気エネルギーへの変換を司る複数の熱電発電ユニット6と、これら熱電発電ユニットを保持する基盤7と、該熱電発電ユニットを保持した基盤の昇降を司る昇降手段(装置をスラグ上に移設するクレーン)17と、排滓スラグの表面固化温度を検出する手段(図示省略)とを備え、さらに、上記熱電発電ユニットは、排滓スラグの表面凹凸に対応して、上下方向に変位できるよう懸架手段9によって懸架されている。
【0016】
本発明では、上述したような排滓スラグの表面(上面)が固化した後に、その排滓スラグの表面に、図1に示したような熱電発電ユニット6を複数保持した熱電発電装置16を接触載置する。なお、本発明で接触載置とは、排滓スラグの表面に、熱電発電ユニットが可能なかぎり広い面積で接触して載置されていることをいう。
また、熱電発電素子1の受熱側には、温度を緩衝するための熱緩衝材を有している。この緩衝材は、固化直後のスラグの熱が、直接、熱電発電素子1に伝熱して悪影響を与えることを防止するためのもので、材質、構造等は特に限定するものではないが、たとえばセラミックス材料や金属材料が使用可能であり、また、当該使用温度域で、変態点(たとえば融点)を持つ材料、例えば蓄熱材を内部に封入したものでも良い。
【0017】
本発明の熱電発電ユニット6の基本構成は、従来公知の熱電発電ユニットでよく、両側に電極5を備えたP型およびN型の熱電素子1と、さらにその両側に配置したセラミックス製の絶縁基板とからなる熱電発電ユニットを用いることができる。
【0018】
基盤7の材質は、熱電発電ユニット6が保持でき、かつスラグの顕熱および廃熱を、効果的に熱電発電ユニット6に伝えることが出来るものであれば、特に限定はされないが、銅やステンレス鋼やセラミック等が好適である。
また、基盤7は、上部架構8や、懸架手段9、冷却水10、冷却水配管11、電送系統12、基盤と支柱の接続部13、支柱14、吊り具15などを適宜有している。
【0019】
本発明は、熱電発電ユニット6が上下に移動可能な形態で懸架されていることが特徴である。この熱電発電ユニットは上記基盤上に設けられた上部架構よりバネ等よりなる懸架手段によって懸架されており、排出固化したスラグの表面凹凸に応じて熱電発電ユニットの高さ方向の位置を変えられるので、基盤に熱電発電ユニットが固定されている場合に比べて、熱電発電ユニットとスラグとの間隔のばらつきを小さくでき、かつ熱電発電ユニット受熱面の温度のばらつきを抑制することができる。
【0020】
上記懸架手段は、公知のつる巻きばねや板バネ等、懸架される熱電発電ユニットの重量および固化したスラグの硬さ等から適切な懸架手段を選択すればよく、特段の制限はない。
【0021】
本発明に従う装置では、熱電発電ユニットの昇降を司る昇降手段17を備えている。
具体的には、図2に記載の熱電発電ユニット6および基盤7を昇降し、排滓スラグに載置できる機器であれば、特段の限定はない。例えば、図3に示すような、ジブクレーン(ロープトロリ式つち形クレーン)や製鉄所用天井クレーンなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明の熱電発電装置16は、排滓スラグの表面(上面)固化温度を検出する手段(図示省略)を備えている。
上記手段としては、排滓スラグの表面が固化したことを検知できれば、特段の限定はないが、例えば、熱電発電ユニットがスラグ上に載った場合の面積当りの荷重に等しくなるような金属製の棒を使用して、熱電発電装置の任意の場所、数箇所にスラグの固化を判定するセンサーとして配置し、この棒がスラグに沈み込まなくなった時点を、熱電発電装置をスラグ上面に接触載置するタイミングとすることができる。
また、非接触タイプの放射温度計によりスラグの表面温度を測定して、スラグが固化する温度以下となった時点で、熱電発電装置をスラグ上面に接触載置しても良い。
特に、非接触タイプの放射温度計は、排滓スラグの表面状態を正確に把握できるために、特に好ましい。
【0023】
上述した熱電発電ユニットの大きさに、特に限定はないが、個々を1m2以下とすることが好ましい。というのは、熱電発電モジュールや、熱電発電ユニット自体の変形を防ぐことができるからである。より好ましくは、2.5×10-1m2以下である。
【0024】
上記の熱電発電ユニットには、熱電発電ユニットを冷却する冷却手段(図1中、冷却部2、冷却水導入および排出部4、図2中、冷却水10、冷却水配管11で示す)が備わっていることが好ましい。この冷却手段は、図示したような水冷のみならず、空冷または溶媒冷却など、従来公知の熱電発電ユニット用冷却手段がいずれも適用できる。
また、上記冷却手段を用いることで、熱電発電ユニットの損傷を抑制することができる。
【0025】
次に、上記した熱電発電装置の具体的な使用方法(熱電発電方法)について説明する。
まず、前述した排滓スラグの表面固化温度を検出する手段によって、図3に示したスラグ運搬台車18から排出した排滓スラグ19が固化したことを確認する。ついで、本発明に従う熱電発電ユニットを保持した基盤を、昇降手段により降下させ、熱電発電ユニットを、固化した排滓スラグの上面に接触載置する。その後、熱電発電を開始する。
【0026】
スラグは、上述したように1400℃から常温までと、その温度変動幅が大きい。従って、熱電発電ユニットを、スラグ上方に単に載置するだけでは、熱電素子の温度が耐熱温度以上となって、熱電発電ユニットが破損するおそれがある。
そこで、本発明では、例えば、熱電発電ユニットの表面温度を計測することで、排滓スラグが固化したことを検知して接触載置することができる。
【実施例1】
【0027】
図3に示したように、スラグヤードの表面が固化した排滓スラグ上に、本発明に従う熱電発電装置を、昇降手段で載置した。なお、表面固化は熱放射温度計で検知した。
熱電発電ユニットは、一辺10個の熱電発電モジュール(性能10kW/m、大きさ2.5×10−3(4mm×50mm×50mm))を格子状に合計100個並べ、ユニットとして0.25mの面積とした。なお、ユニットは、グラファイトシートの熱伝導シート付きとした。また、ここで、緩衝材は、熱電発電ユニット1の高温側に、ユニットと同じ0.25mの面積で、材質:アルミナ、厚み:1cmとした。
【0028】
さらに、縦方向および横方向に11個ずつ、合計121個のユニットを、上部架構を有する基盤に懸架し、全体で約30mの面積をもつ300kW相当の熱電発電装置とした。
【0029】
そして、スラグを排滓後のスラグヤードの一部(30m)に、昇降手段であるクレーンを用いて、上記した熱電発電ユニットを接触載置し、発明例とした。
一方、懸架手段を用いずに、熱電発電ユニットを載置した基盤を直接スラグに接触させて熱電発電を行い、比較例とした。
スラグの排滓量は約9トン、排滓終了時の表面温度は1400℃であった。
【0030】
ここに、発明例では、スラグの表面温度が1000℃以下となった時点で、上記の熱電発電装置をクレーンにて固化したスラグ上に移動し、発電を開始した。発電はスラグ表面温度が250℃となった時点で終了した。発電時間は4.5時間、発電量は0.3MWであった。
一方、比較例は、排滓スラグの表面が平滑でなかったため、熱電発電ユニット間で接触が一様でなく、発電出力が大きく変動してしまった。
【0031】
以上の結果から、本発明の熱電発電方法および本発明に従う熱電発電装置を用いることで、熱源(スラグ排滓)に接触載置することができ、その結果、安定して効率の良い熱電発電を行うことができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、スラグ排滓の熱など、製造プロセスから発生する熱を、効果的に電力へと変換できるので、製造工場における省エネルギーに貢献する。
【符号の説明】
【0033】
1 熱電発電素子
2 冷却部
3 熱緩衝材
4 冷却水導入および排出部
5 電極
6 熱電発電ユニット
7 基盤
8 上部架構
9 懸架手段
10 冷却水
11 冷却水配管
12 電装系統
13 基盤と支柱の接続部
14 支柱
15 吊り具
16 熱電発電装置
17 装置をスラグ上に移設するクレーン
18 スラグ運搬台車
19 運搬台車より排出されたスラグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーの電気エネルギーへの変換を司る複数の熱電発電ユニットと、これら熱電発電ユニットを保持する基盤と、該熱電発電ユニットを保持した基盤の昇降を司る昇降手段と、排滓スラグの表面固化温度を検出する手段とを備え、上記熱電発電ユニットが、排滓スラグの表面凹凸に対応して、上下方向に変位可能に懸架されていることを特徴とする熱電発電装置。
【請求項2】
前記熱電発電ユニットが、該熱電発電ユニットを冷却する冷却手段を具えることを特徴とする請求項1に記載の熱電発電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱電発電装置を、排滓スラグ上に設置して、該排滓スラグの熱を利用して熱電発電を行う方法であって、
上記排滓スラグが固化したことを確認したのち、上記熱電発電装置の熱電発電ユニットを保持した基盤を降下させ、該熱電発電ユニットを、排滓スラグの表面凹凸に対応して接触載置したのち、熱電発電を開始することを特徴とする熱電発電方法。
【請求項4】
前記熱電発電装置の熱電発電ユニット温度を、該熱電発電ユニットに設けた冷却手段を用いて調節することを特徴とする請求項3に記載の熱電発電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−234954(P2012−234954A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102189(P2011−102189)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】