説明

燃料供給装置

【課題】燃料タンク本体の燃料液面傾斜時であっても、燃料切れの発生を抑制し、確実に燃料を外部に送出できる燃料供給装置を得る。
【解決手段】燃料タンク本体14内のサブタンク15は、燃料フィルタ16と、その上方の貯留部材18とで構成される。蓋板部18には流入孔24が形成されており、流入孔24の周囲では、蓋板部22から下方に円筒状リブ30が延出されている。円筒状リブ30の周囲には、蓋板部22を貫通する気体排出孔35が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給装置に関し、さらに詳しくは、燃料タンク内の燃料を機関等に供給するための燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内の燃料を機関等の外部装置に供給する燃料供給装置には、燃料タンク本体内に燃料フィルタを備えるようにし、燃料フィルタで異物が除去された状態の燃料を燃料フィルタ内から外部に送出するようにしたものがある。たとえば特許文献1には、剛性を有するプロテクターをろ布で囲繞した構造のものが記載されている。
【0003】
特許文献1の構造では、プロテクターによってろ布内の空間が確保されるので、燃料タンクの水平時はろ布内に燃料を維持することができる。しかしながら、燃料タンクが傾斜した場合や燃料タンクにGが作用した場合(以下、これらをまとめて「燃料液面傾斜時」という)に、燃料タンク内の燃料がろ布から離れてしまうと、ろ布の表面の油膜が破れ、ろ布内の燃料が外部(燃料タンク内)に流出してしまうため、いわゆる燃料切れが生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−139006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時であっても、燃料切れの発生を抑制し、確実に燃料を外部に送出できる燃料供給装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、燃料を収容する燃料タンク本体と、袋状に形成されて前記燃料タンク本体内に備えられ、内部に燃料が流入するときに燃料から異物を除去すると共に、一部又は全部が燃料に浸漬している状態では表面に燃料による油膜が形成される燃料フィルタと、前記燃料フィルタ内から前記燃料タンク本体の外部に延出された送出配管を備え燃料を外部に送出するための送出手段と、前記燃料フィルタの上方に設けられて底部が前記燃料フィルタの上面の少なくとも一部によって構成され、燃料を貯留可能な貯留部材と、前記貯留部材を構成し、該貯留部材の上部を覆うと共に貯留部材の内部に燃料を流入可能とする流入孔が形成された蓋板部と、前記蓋板部の周縁と前記流入孔の間の位置から前記燃料フィルタに向かって延出され、下端の少なくとも一部が燃料フィルタに対し非接触とされた流出制限壁と、を有する。
【0007】
この燃料供給装置では、燃料タンク本体内に収容された燃料が、燃料フィルタを通過して(このとき、燃料の異物が除去される)燃料フィルタの内部に流入する。そして、燃料フィルタの内部の燃料が、送出手段により、送出配管を通じて外部に送出される。燃料フィルタは、その一部又は全部が燃料に浸漬している状態では、表面に燃料の油膜が形成されるので、燃料フィルタ内の燃料が流出することはない。これにより、燃料切れを生じさせることなく、燃料を外部に送出できる。
【0008】
燃料フィルタの上方には、燃料を貯留可能な貯留部材が設けられている。貯留部材の底部は、燃料フィルタの上面の少なくとも一部によって構成されている。したがって、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時に、燃料タンク内(貯留部材の外部)の燃料が燃料フィルタから離れてしまっても、貯留部材の内部に貯留された燃料が、燃料フィルタの上面に触れている状態を維持できるので、燃料フィルタの表面の油膜が維持される。これにより、燃料フィルタ内の燃料の流出を防止することができ、燃料切れを生じさせることなく、燃料を外部に送出できる。
【0009】
しかも、貯留部材の上部は蓋板部によって覆われている。したがって、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時でも、貯留部材から流出する燃料の量を少なくできる。蓋板部には流入孔が形成されているので、たとえば、燃料タンク本体内の燃料液面が流入孔よりも上方に位置していれば、流入孔から貯留部材内に燃料が流入する。
【0010】
加えて、この燃料供給装置では、蓋板部の周縁と流入孔の間の位置から、燃料フィルタに向かって流出制限壁が延出されている。したがって、燃料タンク本体の燃料液面が傾斜した場合に、周縁側から流入孔に向かって移動する燃料の移動が流出制限壁によって制限されるので、流入孔からの燃料の流出を特に効果的に抑制でき、貯留部材内に保持できる燃料の量が多くなる。
【0011】
流出制限壁の下端の少なくとも一部は、燃料フィルタに対し非接触とされているので、流入孔から流入した燃料を貯留部材内に行き渡らせて、貯留部材内を燃料の貯留スペースとして有効に利用できるようになる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記流出制限壁の少なくとも一部が前記流入孔の内周面の一部と連なるように流出制限壁が流入孔に近接して設けられている。
【0013】
このように流出制限壁を流入孔に近接配置することで、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時に貯留部材内に貯留できる燃料の量を多く確保することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記流出制限壁が前記流入孔を取り囲んでいる。
【0015】
流出制限壁が流入孔を取り囲んでいるので、燃料タンク本体の燃料液面傾斜の方向に依存することなく、流入孔からの燃料の流出を抑制可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記蓋板部の前記周縁から前記流出制限壁が延出された部位までの間で蓋板部を貫通する気体排出孔が形成されている。
【0017】
したがって、貯留部材の内部(流出制限壁と周縁の間の部分)に燃料が流入するときに、この部分にある気体を気体排出孔から排出することができ、貯留部材の内部を有功に利用して燃料を貯留可能となる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記蓋板部が、前記気体排出孔に向かって上昇するように傾斜されている。
【0019】
このように、蓋板部が気体排出孔に向かって上昇するように傾斜されていると、貯留部材に貯留された燃料中の気泡を、蓋板部の傾斜に沿って上昇させて気体排出孔から上方へ逃がし、貯留部材内での気泡の滞留を抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成としたので、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時であっても、燃料切れの発生を抑制し、確実に燃料を外部に送出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態の燃料供給装置を燃料タンク本体の全体構成と共に示す通常時の断面図であり、(B)はサブタンクを示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を部分的に拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を燃料タンク本体の全体構成と共に示す燃料タンク本体の燃料液面傾斜時の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を燃料タンク本体の全体構成と共に示す燃料タンク本体の燃料液面傾斜時で且つ燃料量が少なくなった状態の断面図である。
【図5】比較例の燃料供給装置を燃料タンク本体の全体構成と共に示す通常時の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の燃料供給装置を構成するサブタンクを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び図2には、本発明の第1実施形態の燃料供給装置12の概略構成が示されている。この燃料供給装置12は、燃料が収容される燃料タンク本体14を有している。燃料タンク本体14は、たとえば略箱状に形成されており、その内部には、燃料フィルタ16が配置されている。燃料フィルタ16は、その外側から内側へと燃料を通過させるが、その際に燃料中の異物を除去し、燃料フィルタ16の内部には異物が流入しないようにする作用を有する材料(たとえば織布、不織布、多孔質性樹脂など)で略袋状に形成されている。燃料フィルタ16を通過した燃料を、その内部に貯留させることができる。さらに、燃料フィルタ16の少なくとも一部が燃料タンク本体14内の燃料に浸漬されている状態では、燃料フィルタ16の表面に燃料による油膜LMが形成されて維持されるようになっている。
【0023】
本実施形態では特に、2枚の同形状(たとえば四角形状等の多角形状であっても良いし、円形や楕円形などでも良いが、図1(B)に示すように長方形状としている)の不織布をこれらの周囲でのみ接合し、上面濾布16Uと下面濾布16Lがそれぞれ上下に凸となるように湾曲された形状としている。したがって、上面濾布16Uと下面濾布16Lとの間に、燃料を収容するための空間が構成されている。本実施形態では、燃料フィルタ16の長手方向は、燃料タンク本体14の長手方向と一致されている。また、燃料フィルタ16は、平面視にて燃料タンク本体14の略中央に配置されている。
【0024】
燃料フィルタ16(特に下面濾布16L)は、燃料タンク本体14の底面14Bに沿って略平行になるように配置されており、図1に矢印F1で示すように、底面14Bとの隙間を通じて燃料を燃料フィルタ16内に流入させることができる。しかも、燃料フィルタ16を底面14Bに沿って延在させており、燃料タンク本体14内の燃料が少なくなったときや、偏ったとき等であっても、より確実に燃料フィルタ16の一部が燃料に浸漬された状態を維持できるようにしている。もちろん、上面濾布16U及び下面濾布16Lの材質は、上記した不織布に限定されず、織布やスポンジ状の部材、メッシュ状の部材等であっても問題ない。また、上面濾布16Uと下面濾布16Lとの間に、必要に応じてスペーサ等を配置し、これらの形状(上又は下に凸となるよう湾曲した形状)を維持できるようにしてもよい。
【0025】
図2に示すように、上面濾布16Uと下面濾布16Lとは異なる材質とされており、特に、上面濾布16Uの圧力損失が下面濾布16Lの圧力損失よりも大きくなるように、これら濾布の材質が選択されている。ここでいう「圧力損失」は、上面濾布16Uあるいは下面濾布16Lを燃料が通過するとき(たとえば後述する燃料ポンプ本体42の駆動時)の、通過前後の圧力差である。したがって、下面濾布16Lは上面濾布16Uよりも相対的に燃料を通過させ易くなっている。本実施形態では、このように圧力損失に差を設けるために、上面濾布16Uは、下面濾布16Lよりも不織布の空隙の総面積が小さい構造とされている。
【0026】
図1から分かるように、燃料フィルタ16の上方には燃料ポンプモジュール32が備えられている。燃料ポンプモジュール32は、略筒状のケーシング34を有している。ケーシング34は、燃料タンク本体14の上面14Tに形成された取付孔36から燃料タンク本体14内に挿入されており、ケーシング34の上部において外側に広がるフランジ部38が、上面14Tの支持部40に支持されている。
【0027】
ケーシング34の内部には燃料ポンプ本体42が備えられている。燃料ポンプ本体42からは下方に向かって燃料吸引配管44Aが延出されており、燃料吸引配管44Aの下端は、上面濾布16Uを貫通して、燃料フィルタ16内に開口されている。また、燃料ポンプ本体42から上方には燃料吐出配管44Bが延出されており、ケーシング34の上部を貫通している。燃料ポンプ本体42の駆動により、燃料吸引配管44Aで燃料を吸引し、燃料吐出配管44Bから、図示しないエンジンに燃料を供給できるようになっている。本実施形態の燃料送出配管44は、燃料吸引配管44Aと燃料吐出配管44Bとを含んで構成されている。
【0028】
燃料フィルタ16の上方には、貯留部材18が設けられている。本実施形態の貯留部材18は、燃料フィルタ16の外縁部分から垂直に立設された筒状の側壁筒20を有している。側壁筒20の下面は、燃料フィルタ16の外周部分に接合(たとえば溶着)されている。燃料フィルタ16と貯留部材18とでサブタンク15が構成されている。
【0029】
さらに、側壁筒20の上端からは、燃料送出配管44に接近する方向(平面視にて中心に向かう方向)に、蓋板部22が延出されている。そして、側壁筒20と蓋板部22に加えて、燃料フィルタ16の上面濾布16Uによって、貯留部材18が構成されている。換言すれば、貯留部材18の底部が、上面濾布16Uによって構成されていることになる。貯留部材18内には、燃料フィルタ16の上方において燃料を貯留することが可能とされる。
【0030】
蓋板部22の中央部(最も高い位置)には、図1(B)にも示すように、蓋板部22を厚み方向に貫通する流入孔24が形成されている。流入孔24の中央部分には、燃料送出配管44が挿通されている。流入孔24の内寸は、燃料送出配管44の外径よりも大きくされている。このため、流入孔24の孔縁は燃料送出配管44とは非接触となっており、これらの隙間28を通じて貯留部材18の内部に燃料が流入可能となっている。流入孔24は、燃料送出配管44を挿通するための挿通孔を兼ねているので、このような挿通孔をあらためて形成する必要がなく、構造の簡素化が図られている。
【0031】
蓋板部22は、外周部分から中心部分(流入孔24が形成された部分)に向かって上昇するように傾斜している。このような傾斜を有することで、貯留部材18の内部が燃料で満たされている状態で、燃料中に存在する気泡が蓋板部22の下面に沿って上昇し、貯留部材18の外に抜ける。
【0032】
貯留部材18の高さは、その最上部18T(流入孔24が形成されている部分)の高さ方向の位置が、燃料タンク本体14に設定された液面の報知位置WLよりも低く設定されている。この報知位置WLは、図示しない液位センサによって燃料液位を検知し、その位置が報知位置WL以下になった場合に、燃料残量が少なくなったことを乗員に知らせる基準となる位置である。すなわち、燃料タンク本体14内の液位が報知位置WLよりも下がった場合であっても、流入孔24を通じて貯留部材18内に燃料が流入するように、貯留部材18の流入孔24の位置が決められている。
【0033】
なお、本実施形態では特に、側壁筒20の下部に接合片26が形成されている。接合片26は、側壁筒20と燃料フィルタ16との接合面積を増大させて接合強度を向上させると共に、下面濾布16Lを通じて燃料フィルタ16内に燃料が流入するときの燃料フィルタ16の上方への移動を抑制する効果を有している。なお、この接合片26は省略することも可能である。
【0034】
貯留部材18内には、蓋板部22の下面から流入孔24を取り囲む円筒状の円筒状リブ30が下方に向けて延出されている。円筒状リブ30の下辺30B(下端)は燃料フィルタ16に対し全周で非接触とされて隙間31が構成されている。流入孔24から流入した燃料が貯留部材18内に広がることを妨げないようになっている。
【0035】
円筒状リブ30は、流入孔24と蓋板部22の周縁部分22E(側壁筒20)との間に位置していれば(換言すれば、円筒状リブ30の内径が、流入孔24の内径より大きくされていれば)よいが、本実施形態では、本実施形態では円筒状リブ30の内周面が流入孔24の内周面連なる(したがって、円筒状リブ30の内径と流入孔24の内径は一致している)ように、円筒状リブ30が全周にわたって流入孔24に対し近接配置されている。
【0036】
また、図1(A)から分かるように、このような円筒状リブ30を設けるにあたって、蓋板部22の高さが、側壁筒20(周縁部分22E)よりも中心部分(流入孔24の周囲)で高くされている。したがって、側壁筒20の上端部分と同じ高さで略水平に蓋板部22を形成した構造と比較して、貯留部材18の大容量化が図られている。
【0037】
蓋板部22には、板厚方向に貫通する気体排出孔35が形成されている。図1(B)から分かるように、本実施形態ではサブタンク15を平面視して、弧状の2つの気体排出孔35が円筒状リブ30の周囲に形成されている。気体排出孔35はそれぞれ略半周にわたる形状とされ、2つの気体排出孔35で、円筒状リブ30の略全周を囲んでいる。また、気体排出孔35の内辺は、円筒状リブ30の外周と一致するように、気体排出孔35が円筒状リブ30に接近して配置されている。実質的に、気体排出孔35は、側壁筒20と円筒状リブ30の間における蓋板部22の最も高い位置に形成されていることになる。
【0038】
次に、本実施形態の燃料供給装置12の作用を説明する。
【0039】
図1に示すように、燃料タンク本体14内において、貯留部材18の流入孔24よりも高い液位で燃料が存在している状態では、隙間28(流入孔24と燃料送出配管44との間)を通じて流入した燃料が貯留部材18内に貯留されている。また、この状態で、燃料フィルタ16内にも燃料が存在している。
【0040】
ここで、燃料ポンプモジュール32が駆動されると、矢印F0で示すように、燃料フィルタ16内の燃料が燃料送出配管44を通じて外部(機関等)に送出される。燃料フィルタ16内には、上面濾布16U(矢印F2参照)及び下面濾布16L(矢印F1参照)を通過して燃料が流入可能であるが、特に、下面濾布16Lの圧力損失は上面濾布16Uの圧力損失よりも低く(小さく)なっているので、実質的に下面濾布16Lをより多くの燃料が通過して、燃料フィルタ16内に流入する。また、貯留部材18内には、矢印F3で示すように、隙間28を通じて燃料タンク本体14内の燃料が流入する。
【0041】
燃料タンク本体14内の燃料量が少なくなった状態においても、燃料フィルタ16の少なくとも一部(本実施形態では下面濾布16L)が燃料に浸漬されていれば、燃料フィルタ16の表面に、燃料による油膜LMが形成され維持されている。
【0042】
車両の坂道走行により燃料タンク本体14が傾斜した場合や、加減速時、旋回時等で燃料タンク本体14にGが作用した場合には、図3に示すように、燃料タンク本体14の燃料が一方に偏ると共に液面が傾斜するような液面変動が生じることがある(燃料液面傾斜時)。
【0043】
このとき、図3から分かるように、燃料フィルタ16は液面よりも上側の部分が燃料タンク本体14内の気体中に露出しているが、液面よりも下側の部分は燃料中に浸漬されていれば、表面の油膜LMが維持されている。そして、燃料の送出に必要なエネルギーは、油膜の表面張力により、
【0044】
(気相からの気体吸引)>(液相からの燃料吸引)
【0045】
の関係となるため、燃料フィルタ16内には燃料のみを吸引する。そして、これらの状態では、燃料ポンプモジュール32の駆動により、燃料フィルタ16内の燃料を外部に送出できる。
【0046】
しかも、本実施形態の燃料供給装置12では、貯留部材18内に円筒状リブ30が設けられており、円筒状リブ30は、流入孔24を取り囲んでいる。したがって、燃料タンク本体14で燃料液面が傾斜したときに、貯留部材18内において、燃料が流入孔24から流出することを、円筒状リブ30で堰き止めることで抑制できる。図3に示した例では、流入孔24よりも貯留部材18の右側部分から燃料が左側へ移動しようとするとき、この燃料が円筒状リブ30で堰き止められることで、流入孔24から流出することが抑制されている。さらにこの燃料は、貯留部材18の左側部分に燃料を案内する作用も有している。このように、円筒状リブ30が設けられていない構成と比較して、流入孔24から短時間で燃料が流出してしまうことを抑制でき、より多くの燃料を貯留部材18内に保持できることになる。
【0047】
また、蓋板部22には気体排出孔35が形成されているので、貯留部材18内の気体が、気体排出孔35から排出される。このように、貯留部材18内の気体を気体排出孔35から排出することで、貯留部材18内に燃料が流入することが妨げられない。すなわち、貯留部材18内を有効に利用して燃料を貯留することが可能となる。
【0048】
さらに、図4に示すように、燃料タンク本体14内の燃料が少なくなり、且つ燃料タンク本体14の燃料液面が傾斜した状態を考える。この場合、燃料タンク本体14内の燃料(貯留部材18の外部の燃料)は、燃料フィルタ16から離れてしまっている。しかし、本実施形態では、燃料フィルタ16の上方の貯留部材18に燃料が貯留されており、しかも、貯留部材18の底部は、燃料フィルタ16の上面濾布16Uによって構成されている。すなわち、燃料フィルタ16の一部が燃料に浸漬された状態となっているので、燃料フィルタ16の表面に形成された油膜LMが、引き続き維持されている。したがって、燃料フィルタ16内へは、貯留部材18内の燃料が流入する。この場合も、図3に示した状態と同様に、燃料の送出に必要なエネルギーは、油膜の表面張力により、
【0049】
(気相からの気体吸引)>(液相からの燃料吸引)
【0050】
の関係となるため、燃料フィルタ16内には、矢印F2で示すように、貯留部材18内の燃料を吸引する。しかも、この状態においても、より多くの燃料を貯留部材18内に保持できる。そして、燃料ポンプモジュール32の駆動により、燃料フィルタ16内の燃料を外部に送出できる。実質的に、燃料フィルタ16内及び貯留部材18内の燃料のすべてを送出できる。
【0051】
このように、本実施形態の燃料供給装置12では、円筒状リブ30を設けたことで、燃料フィルタ16の上方に設けた貯留部材18に、より多くの燃料を貯留することが可能であり、燃料タンク本体14の燃料液面傾斜時であっても、いわゆる燃料切れの発生を抑制し、確実に燃料を外部に送出できるようにしている。
【0052】
特に、車体のパネルには、燃料ポンプモジュール32の上方にサービルホールが形成されており、このサービスホールを通じてサブタンク15を燃料タンク本体14内に搭載する構造が採られることがあるため、サブタンク15(燃料フィルタ16及び貯留部材18)の幅や長さには制限が生じる。しかし、このようにサブタンク15のサイズに制限があっても、燃料タンク本体14の燃料液面が傾斜したときに貯留部材18内に貯留できる燃料の量を多く確保できる。
【0053】
また、円筒状リブ30の下辺30Bは燃料フィルタ16に対し全周で非接触とされて隙間31が構成されている。このため、たとえば、燃料タンク本体14の燃料液面が傾斜した状態から水平状態に戻った場合にも、貯留部材18の内部に燃料を貯留することができる。ここで、図5に示す比較例の燃料供給装置102を比較対象として考える。この燃料供給装置102では、蓋板部22に気体排出孔35が形成されていないが、これ以外は、上記第1実施形態の燃料供給装置12と同一の構成とされている。比較例の燃料供給装置102では、隙間31を通じて燃料が貯留部材18の内部に流入しようとしても、貯留部材18内の燃料液面が円筒状リブ30の下辺30Bに達した後は気体が排出されえないため、それ以上貯留部材18内に燃料を貯留することが困難で、いわゆるエアーポケットAP(気体が溜まった空間)が生じてしまう。これに対し、本実施形態の燃料供給装置12では、気体排出孔35から気体を排出することで、貯留部材18内を有功に利用し、より多くの燃料を貯留できる。
【0054】
図6には、本発明の第2実施形態の燃料供給装置を構成するサブタンク65が示されている。第2実施形態の燃料供給装置では、サブタンクの構造のみが第1実施形態と異なっているが、他は同一構成とされているので、以下では、第2実施形態のサブタンク65のみについて説明し、第2実施形態の燃料供給装置の全体構成については説明を省略する。
【0055】
第2実施形態のサブタンク65では、第1実施形態と同様の燃料フィルタ16(図1参照)及び貯留部材18を備えているが、貯留部材18の内部には、サブタンク65の短手方向に延在される2枚の平板状リブ66Sが蓋板部22から下方に延出されている。平板状リブ66Sは、サブタンク65の長手方向で流入孔24を挟むように対向して配置されている。
【0056】
平板状リブ66Sの下辺は燃料フィルタ16からは離間しており、第1実施形態と同様の隙間31(図1(A)参照)が構成されている。
【0057】
蓋板部22には、短手方向の略中央位置で、且つ平板状リブ66Sに近接した位置(流入孔24に近接した位置)に気体排出孔68が形成されている。
【0058】
このような構成とされた第2実施形態の燃料供給装置では、サブタンク65の長手方向で燃料液面が傾斜した場合に、貯留部材18の内部から燃料が流入孔24を通じて流出することを抑制できる。
【0059】
なお、第2実施形態の燃料供給装置において、サブタンク65の短手方向ではなく、長手方向に沿った2枚のリブ(長手リブ)を形成し、サブタンク65の短手方向に燃料液面が傾斜した場合に、流入孔24の上方の貯留部材18内からの燃料の流出を抑制するようにしてもよい。さらに、平板状リブ66Sと長手リブとを併用してもよい。
【0060】
また、上記では、流出制限壁(円筒状リブ30、平板状リブ66S及び長手リブ)の下辺(下端)のすべてが燃料フィルタ16から離間している例を挙げているが、下辺の少なくとも一部が燃料フィルタ16から離間していれば、離間した部分に隙間31が構成される。したがって、流入孔24から貯留部材18内に流入した燃料を、この隙間を通じて行き渡らせることができる。上記各実施形態のように、流出制限壁の下辺のすべてが 燃料フィルタ16に対し非接触となっていれば、より短時間で燃料を貯留部材18内に行き渡らせることができる。
【0061】
本発明に係る流出制限壁の形状や位置も、上記した円筒状リブ30や平板状リブ66S及び長手リブ等に限定されない。要するに、貯留部材18の内部において、流入孔24から周縁部分22Eの間で、蓋板部22から下方に(但し燃料フィルタ16には少なくとも一部が非接触で隙間31が構成されるように)流出制限壁が延出されていれば、燃料タンク本体の燃料液面傾斜時における流入孔24からの燃料の流出を抑制できる。ただし、流出制限壁を流入孔24から離れた位置(周縁部分22Eに近い位置)に設けると、燃料の流入孔24からの流出を抑制する効果が低くなる。したがって、流出制限壁としての本来的な作用、すなわち流入孔24からの燃料の流出抑制という観点からは、流出制限壁に近い位置とに設けることが好ましく、流出制限壁の壁面の少なくとも一部が流入孔24の一部と連なるように近接した位置することがより好ましい。第1実施形態では、円筒状リブ30の内周面の全体が、流入孔24の内周面と連続している(平面視したときに一致している)。第2実施形態においても、平板状リブ66Sの一部(中央部分)は、平面視したときに流入孔24の内周面と連続している。
【0062】
気体排出孔35の位置も、蓋板部22において周縁部分22Eから流出制限壁が形成された部分の間であれば特に制限されないが、図1(A)等から分かるように、貯留部材18の最も高い位置の気体排出孔35を設けると、より効果的に気体を排出できる。
【0063】
さらに、貯留部材18と送出手段(燃料ポンプモジュール32、特に燃料吸引配管44A)との関係も、上記したものに限定されない。たとえば、燃料吸引配管44Aが、蓋板部22の流入孔24と異なる位置で蓋板部22を貫通する構造でもよい。
【0064】
また、貯留部材18が、燃料フィルタ16の一部を覆わない(上方から見て、燃料フィルタ16の一部が貯留部材18から外側にはみ出している)構成としてもよい。この場合には、燃料吸引配管44Aを、燃料フィルタ16のはみ出し部分(貯留部材18の外部)に接続すれば、蓋板部22を貫通しない構造とすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
12 燃料供給装置
14 燃料タンク本体
14T 上面
14B 底面
15 サブタンク
16 燃料フィルタ
16U 上面濾布
16L 下面濾布
18 貯留部材
20 側壁筒
22 蓋板部
22E 周縁部分
24 流入孔
30 円筒状リブ(流出制限壁)
31 隙間
32 燃料ポンプモジュール
35 気体排出孔
44 燃料送出配管
65 サブタンク
66S 平板状リブ(流出制限壁)
68 気体排出孔
LM 油膜
WL 報知位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を収容する燃料タンク本体と、
袋状に形成されて前記燃料タンク本体内に備えられ、内部に燃料が流入するときに燃料から異物を除去すると共に、一部又は全部が燃料に浸漬している状態では表面に燃料による油膜が形成される燃料フィルタと、
前記燃料フィルタ内から前記燃料タンク本体の外部に延出された送出配管を備え燃料を外部に送出するための送出手段と、
前記燃料フィルタの上方に設けられて底部が前記燃料フィルタの上面の少なくとも一部によって構成され、燃料を貯留可能な貯留部材と、
前記貯留部材を構成し、該貯留部材の上部を覆うと共に貯留部材の内部に燃料を流入可能とする流入孔が形成された蓋板部と、
前記蓋板部の周縁と前記流入孔の間の位置から前記燃料フィルタに向かって延出され、下端の少なくとも一部が燃料フィルタに対し非接触とされた流出制限壁と、
を有する燃料供給装置。
【請求項2】
前記流出制限壁の少なくとも一部が前記流入孔の内周面の一部と連なるように流出制限壁が流入孔に近接して設けられている請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記流出制限壁が前記流入孔を取り囲んでいる請求項1又は請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記蓋板部の前記周縁から前記流出制限壁が延出された部位までの間で蓋板部を貫通する気体排出孔が形成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料供給装置。
【請求項5】
前記蓋板部が、前記気体排出孔に向かって上昇するように傾斜されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−36793(P2012−36793A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176432(P2010−176432)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】