説明

燃料噴射弁

【課題】燃料の微粒化及び噴霧の拡散により貫徹力を低下した燃料噴射弁を提供することを課題とする。
【解決手段】燃料噴射弁1は、先端部に設けられた複数の噴孔25から燃料を噴射するノズルボディ2を備え、噴孔25が、噴孔25の中央部に断面の直径Dの小径部250と、小径部250の上流側で小径部250と連続し、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が縮小する第1テーパ部251と、小径部250の下流側で小径部250と連続し、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が拡大する第2テーパ部252と、を有し、第1テーパ部251の噴孔長をL、上流端における断面の直径をD、第2テーパ部252の噴孔長をL、下流端における断面の直径をDとした場合に、0<(D−D)/L<0.028(1)、0<L/D<5.8(2)、及び0<(D−D)/L(3)の関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁に関し、特に、内燃機関の気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の気筒内へ燃料を直接噴射する燃料噴射装置が知られている。このような燃料噴射装置は噴孔を設けた燃料噴射弁を備え、燃料噴射弁の噴孔を筒内に向けて配置することにより、筒内への燃料噴射を実現する。しかしながら、内燃機関の気筒内へ燃料を直接噴射する燃料噴射弁では、燃料噴射弁から噴射される燃料の貫徹力が大きい場合、ピストンやシリンダライナに燃料が付着することがある。
【0003】
シリンダライナに付着した燃料は、シリンダライナ上に油膜を形成しているエンジンオイルに溶解し、エンジンオイルと共にクランクケースへ流出する。これによってエンジンオイルが希釈されて、粘度や潤滑性能が低下する。また、シリンダライナに付着した燃料噴霧が気化されずに筒内に残存することにより、燃焼室内の空燃比が変化し、HCの排出量が増加する。これに対して、特許文献1、2には、燃料の貫徹力を抑制するための構成が開示されている。
【0004】
引用文献1の燃料噴射装置は、同一円周上に所定の角度間隔を持って配置された噴射孔が上流側から下流側へと進むにつれて通路径が増加するテーパ部とテーパ部の下流端と連続する第1の等径部とを有する。引用文献1の燃料噴射装置の構成によると、各噴射孔から噴射された燃料が互いに衝突しあい混合することにより、噴射方向が乱され噴射ノズル側に巻き上がる噴霧が形成され、噴射される燃料の貫徹力が低下し、微粒化される。
【0005】
引用文献2の燃料噴射ノズルは、ノズル本体に設けられた噴射孔の横断面が、内燃機関の燃焼室に向かって、最初は細まり、その後に再び拡がっていることを特徴とする。引用文献2の燃料噴射ノズルの構成によると、噴射孔の細まったスロート領域ではより高い速度が生ぜしめられ、燃料噴射ノズルの拡がったディフューザ部分では小さな粒子を有するスプレの形成が可能となる。これにより、燃料噴流の比較的高い速度に基づき最大分配領域がノズルから離れる方向へずらされるという不都合が、燃料噴射ノズルの拡がったディフューザ部分によって阻止される。また、燃料噴流速度への燃料噴流圧の最適な変換が得られることにより、キャビテーション傾向も減じられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−151018号公報
【特許文献2】特表2002−527678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の噴射ノズルに設けられた噴射孔は、噴射孔入口部で燃料が剥離し、テーパ部を設けた効果が低下してしまう。また、ニードル弁の開弁時初期の低圧噴射時に噴霧を微粒化する能力が低い。さらに、特許文献2の燃料噴射ノズルはキャビテーション傾向を減じるため、キャビテーション気泡の崩壊による噴霧を微粒化する効果が得られにくい。このため、このような燃料噴射弁は依然として改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、燃料の微粒化及び噴霧の拡散により貫徹力を低下した燃料噴射弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決する本発明の燃料噴射弁は、先端部に設けられた複数の噴孔から燃料を噴射するノズルボディを備え、前記噴孔は、前記噴孔の中央部に所定の断面径を有する小径部と、前記小径部の上流側で前記小径部と連続し、上流側から下流側に向かって前記噴孔の断面径が縮小する第1テーパ部と、前記小径部の下流側で前記小径部と連続し、上流側から下流側に向かって前記噴孔の断面径が拡大する第2テーパ部と、を有し、前記小径部の断面の直径をD、前記第1テーパ部の噴孔長をL、前記第1テーパ部の上流端における前記噴孔の断面の直径をDとした場合に、
0<(D−D)/L<0.028 (1)
の関係を満たすことを特徴とする。
【0010】
このような構成により、噴孔を流れる燃料は、燃料の流れる方向に縮小する第1テーパ部においてキャビテーション気泡が発生し、発生したキャビテーション気泡が崩壊することにより、燃料の微粒化が図られる。このキャビテーション気泡の崩壊により、噴孔内の流れに乱れが生じるため、噴霧の貫徹力が低下できる。さらに、このように微粒化された燃料は流れ方向に拡大する第2テーパ部により噴霧が拡散されるため、貫徹力が低下できる。
【0011】
また、上記の燃料噴射弁において、
0<L/D<5.8 (2)
の関係を満たすこととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の燃料噴射弁は、キャビテーションを発生させる第1テーパ部と、噴霧角を広げる第2テーパ部を備えたことにより、燃料の微粒化を図るとともに、噴霧を拡散し、貫徹力を低下する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の燃料噴射弁を断面にして内部の概略構造を示した説明図である。
【図2】図1の燃料噴射弁の噴孔の周辺を拡大して示した説明図である。
【図3】噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。
【図4】噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。
【図5】噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は本実施例の燃料噴射弁1を断面にして内部の概略構造を示した説明図である。燃料噴射弁1はノズルボディ2とニードル3とを備えている。この燃料噴射弁1は内燃機関に組み付けられる。特に、燃料噴射弁1は内燃機関の備える気筒内に燃料を噴射するように組み付けられる。このような内燃機関は自動車を始めとする輸送機械やその他動力機関に用いられる。以下の説明において、先端側とはニードル3が閉弁するときの移動方向、すなわち図面中の下側を示し、基端側とはニードル3が開弁するときの移動方向、すなわち図面中の上側を示すこととする。
【0016】
ノズルボディ2は有底円筒状の部材であり、内部に中空部21と、燃料溜り室22と、高圧燃料通路23と、シート部24と、噴孔25とが設けられている。中空部21内にはニードル3が摺動可能に配置されている。高圧燃料通路23は、燃料噴射弁1の外部と燃料溜り室22とを接続し、燃料噴射弁1の外部から燃料溜り室22へ高圧燃料を供給する。噴孔25は、ノズルボディ2に複数設けられており、複数の噴孔25はノズルボディ2の軸線に中心を有し、この軸線に直交する円の円周上に等間隔に設けられている。ノズルボディ2は先端部に設けられた複数の噴孔25から燃料を噴射する。
【0017】
ニードル3は大径円柱部31と小径円柱部32とを備えている。小径円柱部32は大径円柱部31の先端側に位置する。ニードル3がノズルボディ2内に組み込まれた際に、ニードル3の大径円柱部31と小径円柱部32との接合部が燃料溜り室22に位置する。ニードル3の大径円柱部31は、ノズルボディ2の中空部21の壁面にガイドされて摺動する。ニードル3の小径円柱部32はノズルボディ2の中空部21との間で燃料供給路41を形成する。燃料供給路41は、燃料溜り室22からノズルボディ2の先端部、すなわち、噴孔25へ燃料を供給する。
【0018】
ニードル3の先端部33は先端へ向かってテーパ状に細くなる形状をしている。ニードル3の先端部33はノズルボディ2のシート部24に着座する。ニードル3が着座した状態では、燃料の噴射が停止され、ニードル3がシート部24から離間した状態で、燃料が噴孔25から噴射される。
【0019】
燃料噴射弁1は、ノズルボディ2の基端側に駆動機構5を備えている。駆動機構5は、背圧室51、オリフィス52、バルブ53、ソレノイド54、スイッチ55を備えている。駆動機構5はニードル3の摺動動作を制御する機構である。背圧室51はニードル3の基端に位置する。背圧室51には高圧燃料通路23から高圧燃料が供給される。背圧室51はオリフィス52により収納室56と連通されている。バルブ53は収納室56内で基端側へ移動可能に収納されている。バルブ53はスプリング57により、先端側へ付勢されている。
【0020】
スイッチ55のON/OFF操作は、コントロールユニットにより行われる。コントロールユニットは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の形式のディジタルコンピュータからなり、内燃機関の制御のために設けられている各種センサや作動装置と信号をやり取りして内燃機関を制御する。すなわち、コントロールユニットは、燃料噴射弁1の燃料噴射時にスイッチ55をONにしてソレノイド54へ通電し、燃料噴射弁1の燃料噴射停止時にスイッチ55をOFFにしていソレノイド54への通電を遮断する。
【0021】
スイッチ55がONされると、ソレノイド54が通電されてバルブ53が基端側へ引上げられる。バルブ53が引上げられることにより、背圧室51内の燃料がオリフィス52から抜け出て背圧室51内の圧力が低下する。これにより、ニードル3にかかる燃料の圧力バランスが変化する。すなわち、ニードル3を基端側へ押し付ける力より先端側に押し付ける力が強まるため、ニードル3が基端側へ移動し、ニードル3がシート部24から離間する。これにより、燃料が噴孔25へ供給されて噴射される。
【0022】
次に、ノズルボディ2の噴孔25について詳細に説明する。図2は図1における噴孔25の周辺を拡大して示した説明図である。噴孔25は、噴孔25の中央部に所定の断面径を有する小径部250と、小径部250の上流側で小径部250と連続し、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が縮小する第1テーパ部251と、小径部250の下流側で小径部250と連続し、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が拡大する第2テーパ部252を有する。小径部250は、噴孔25において流路が最も狭い箇所である。第1テーパ部251は、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が縮小している。また、第1テーパ部251の上流端、すなわち、ノズルボディ2の内部側の端部にはRが形成されている。第2テーパ部252は、上流側から下流側に向かって噴孔25の断面径が拡大している。
【0023】
次に、噴孔25へ流れ込み噴射される燃料の態様を説明する。ニードル3がリフトし、噴孔25の上流端(入口)から燃料が進入する際、燃料流に剥離が生じ、キャビテーション気泡cbが発生する。発生したキャビテーション気泡cbは、通路の径が縮小する第1テーパ部251において崩壊する。これにより、噴孔25内の燃料が微粒化されるとともに、燃料流が大きく乱れる。燃料が微粒化されることにより、噴射された後の噴霧fsが微粒化される。さらに、燃料流が乱れることにより、燃料の流れる方向の速度が減衰して噴霧fsの貫徹力が低下する。このように第1テーパ部251で流れの乱れた燃料は、通路の径が拡大する第2テーパ部252において広がるため、噴霧角が広がる。噴射される燃料の噴霧角が広がるため、噴霧fsが拡散し、噴霧fsの貫徹力が低下する。上記の第1テーパ部251において、特に、キャビテーション気泡cbの崩壊のエネルギーは数万気圧とかなり大きなものであるため、燃料の初期分裂が促進され、噴霧fsの微粒化に大きな影響を与える。このキャビテーション気泡cbの崩壊による噴霧fsの微粒化は、ニードル3がリフトを開始した噴射の初期から発生する。このため、燃料の圧力の低い噴射初期から微粒化され、貫徹力の低下された噴霧fsが実現される。
【0024】
さらに、噴孔25の形状について、噴霧の長さの増減割合との関係とともに具体的に説明する。小径部250の断面の直径をD、第1テーパ部251の噴孔長をL、第1テーパ部251の上流端、すなわち、ノズルボディ2の内部側における噴孔25の断面の直径をD、第2テーパ部252の噴孔長をL、第2テーパ部252の下流端、すなわち、ノズルボディ2の外部側における噴孔25の断面の直径をDとした場合、噴孔25は、
0<(D−D)/L<0.028 (1)
0<L/D<5.8 (2)
0<(D−D)/L (3)
の関係を満たすように形成される。
ここで、
= (D−D)/L (4)
= (D−D)/L (5)
= L/D (6)
とする。KからKは噴霧の長さを決定する無次元数である。Kファクタは第1テーパ部251により定まる因子である。Kファクタは第2テーパ部252の形状により定まる因子である。Kファクタは小径部250の径と位置により定まる因子である。
【0025】
次に、図3から図5を参照しながら、KからKと噴霧の長さの増減割合との関係を説明する。図3は噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。図4は噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。図5は噴霧の長さの増減割合についてKファクタの影響について示した説明図である。図3から図5の関係はニードルがフルリフト(全開)するタイミングでの噴霧の長さを計測したものである。具体的には、噴射開始後1.2msのタイミングで計測した値を用いている。また、噴霧の長さの増減割合の計測は、噴孔数が3の場合と、噴孔数が10の場合とにおいて行い、噴射圧120MPaまで連続的に計測して確認した。また、120MPaまでの計測結果から、120MPa以上の場合も依然普遍的に効果があると推定する。
【0026】
図3によると、Kファクタの値が0から0.028の間で噴霧の長さが減少することが示されている。すなわち、Kファクタの値が0から0.028の値である場合(上記(1)式が満たされる場合)、噴霧の長さが縮小する。したがって、式(1)を満たすことにより、噴霧の貫徹力が低下する。
【0027】
図4によると、Kファクタの値が0以上であれば、噴霧の長さが減少することが示されている。すなわち、Kファクタの値が0以上である場合(上記(3)式が満たされる場合)、噴霧の長さが縮小する。したがって、式(3)を満たすことにより、噴霧の貫徹力が低下する。また、図4に示すように、Kファクタが大きくなるほど、噴霧の長さが縮小する。Kファクタは、第2テーパ部252の下流端における噴孔25の断面の直径Dを大きくするほど、大きくなる。このため、噴霧の長さを縮小するには、第2テーパ部252の下流端における噴孔25の断面の直径Dを大きくすることが望ましい。しかしながら、直径Dを大きくしすぎると、隣り合う噴孔と干渉してしまう。このため、直径Dは、隣り合う噴孔との間に干渉が生じない程度に最大の値をとることができる。
【0028】
図5によると、Kファクタの値が0から5.8の間で噴霧の長さが減少することが示されている。すなわち、Kファクタの値が0から5.8の値である場合(上記(2)式が満たされる場合)、噴霧の長さが縮小する。したがって、式(2)を満たすことにより、噴霧の貫徹力が低下する。
【0029】
上記の通り、式(1)から式(3)を満たすように形成された噴孔25から噴射される燃料噴霧は、燃料流に生じたキャビテーション気泡の崩壊により微粒化され、さらに、噴霧が拡散されることにより、貫徹力が低下する。噴霧の貫徹力が低下することにより、内燃機関のピストンやシリンダライナに燃料が付着することが抑制される。これにより、オイル希釈による性能悪化や壁面付着により生じるHCの増加を抑制できる。
【0030】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0031】
1 燃料噴射弁
2 ノズルボディ
25 噴孔
250 小径部
251 第1テーパ部
252 第2テーパ部
3 ニードル
cb キャビテーション気泡
fs 噴霧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に設けられた複数の噴孔から燃料を噴射するノズルボディを備え、
前記噴孔は、
前記噴孔の中央部に所定の断面径を有する小径部と、
前記小径部の上流側で前記小径部と連続し、上流側から下流側に向かって前記噴孔の断面径が縮小する第1テーパ部と、
前記小径部の下流側で前記小径部と連続し、上流側から下流側に向かって前記噴孔の断面径が拡大する第2テーパ部と、
を有し、
前記小径部の断面の直径をD、前記第1テーパ部の噴孔長をL、前記第1テーパ部の上流端における前記噴孔の断面の直径をDとした場合に、
0<(D−D)/L<0.028 (1)
の関係を満たすことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
0<L/D<5.8 (2)
の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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