説明

燃料変換用触媒及びこれを用いた燃料供給装置

【課題】 濃硫酸の補給なし連続的にエタノールからジエチルエーテルを生成することができる燃料変換用触媒、及び、エンジンの効率的な燃焼状態を実現することが可能である燃料供給装置を提供する。
【解決手段】燃料タンクTに貯蔵されたエタノールをエンジンEに供給する第一供給路3と、燃料タンクTに貯蔵されたエタノールをエンジンEに供給する第二供給路5と、この第二供給路5上に配置されて燃料タンクTからエタノールが導入される低温部6L及びエンジンEからの排気ガスが導入される高温部6Hを具備した反応器6と、温度センサ8により検出された排気ガスの温度に基づいて第二供給路5上の反応器6の低温部6Lに導入するエタノールの供給量を制御する制御部9を備え、反応器6の低温部6Lに、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成る燃料変換用触媒10を設けて、エタノールからジエチルエーテルを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールからエーテルを合成するのに用いられる燃料変換用触媒、及びこの燃料変換用触媒を用いた燃料供給装置、すなわち、燃料としてのアルコールをエンジンに供給する燃料供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、アルコールからエーテルを製造する方法としては、工業的に行われている濃硫酸を用いた脱水反応がある。
エタノールからジエチルエーテルを製造する場合の反応式を以下に示す。
【0003】
エタノールの脱水:2COH→COC+H
【非特許文献1】岩波書店 理化学辞典 第3版 第137頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した濃硫酸を用いたエーテルの製造方法には、濃硫酸の補給が必要であり、例えば、自動車上においてエタノールからジエチルエーテルを製造する場合には、濃硫酸の供給装置を搭載する必要であるうえ、連続的に脱水反応を行なわせてジエチルエーテルを生成することが難しいという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたものであり、濃硫酸の補給なしに連続的にアルコールからエーテルを生成することができる燃料変換用触媒を提供し、例えば、自動車上において、この燃料変換用触媒にエタノールを導入してジエチルエーテルを生成し、これをエタノールとともにエンジンに導入することにより、効率的な燃焼状態を実現することが可能である燃料供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燃料変換用触媒は、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成る構成としたことを特徴としており、この燃料変換用触媒の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
一方、本発明の燃料供給装置は、燃料タンクに貯蔵されたアルコールをエンジンに供給する第一供給路と、燃料タンクに貯蔵されたアルコールをエンジンに供給する第二供給路と、この第二供給路上に配置されて燃料タンクからアルコールが導入される低温部及びエンジンからの排気ガスが導入される高温部を具備した反応器と、温度センサにより検出された上記排気ガスの温度に基づいて第二供給路上の反応器の低温部に導入するアルコールの供給量を制御する制御部を備え、上記反応器の低温部に、上記燃料変換用触媒を設けて、アルコールからエーテルを合成する構成としたことを特徴としており、この燃料供給装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
本発明の燃料変換用触媒では、ヘテロポリ酸の溶出がなく、反応を固定床状態で行うことから、連続的にエーテルを生成し得ることとなり、ヘテロポリ酸の溶出がない分だけ、劣化が抑えられることとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料変換用触媒によれば、上記した構成としているので、濃硫酸を供給することなく、連続的にアルコールからエーテルを合成することができ、加えて、ヘテロポリ酸の溶出がないので、劣化を抑えることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0010】
また、本発明の燃料供給装置によれば、上記した構成としているので、例えば、自動車上において、燃料変換用触媒にアルコールを導入すれば、濃硫酸の補給なしにエーテルを連続的に生成することが可能であり、これをアルコールとともにエンジンに導入することにより、効率的な燃焼状態を実現することができ、加えて、燃料変換用触媒の性能低下による交換の必要もないので、メンテナンス時間の削減及び交換コストの低減をも実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の燃料変換用触媒では、金属アルコキシドから合成した金属酸化物ゲルにより、ヘテロポリ酸を多孔質材料に接着して固定化して成る構成や、ヘテロポリ酸粒子を多孔質材料で被覆して、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成る構成を採用することができる。
【0012】
前者の場合は、多孔質材料が特定の種類に限定されることがないので、高表面積の多孔質材料にヘテロポリ酸を固定することができ、反応性の向上を実現し得ることとなり、一方、後者の場合は、溶解しやすいヘテロポリ酸の溶出を抑えることができ、耐久性能の向上を実現し得ることとなる。
【0013】
また、本発明の燃料変換用触媒では、多孔質材料が、SiO,Al,CeO及びTiOのうち少なくとも一つを含む構成とすることができ、この場合は、多孔質材料が液中でも安定であり、加熱しても表面積が低下することがないので、性能を安定して維持し得ることとなる。
【0014】
さらに、本発明の燃料変換用触媒では、ヘテロポリ酸が、12−タングストリン酸,12−モリブトリン酸,12−モリブデンタングストリン酸及び12−タングストケイ酸のうち少なくとも一つを含む構成とすることができ、この構成を採用した場合において、他の固体酸触媒とは異なり、非常に強い酸性を示すことから、200℃以下の低い温度でも反応活性を示し、例えば、自動車上において、低い排気ガスの熱を有効に回収して効率的に合成を行ない得ることとなる。
【0015】
一方、本発明の燃料供給装置では、反応器の低温部において、燃料変換用触媒をアルコール液中に浸漬させてある構成とすることができ、この場合は、アルコール液中でエーテルを合成することができるので、燃料を気化する必要がない分だけ、起動性及び応答性が向上することとなる。
【0016】
また、本発明の燃料供給装置では、反応器に、燃料変換用触媒を加熱する加熱部を設けた構成とすることが可能であり、この構成とすると、燃料変換用触媒に速やかに熱が伝わるため、起動性及び応答性が向上して、効率的にエーテルを合成し得ることとなる。
【0017】
さらに、本発明の燃料供給装置では、加熱部をプレートフィン型熱交換器とした構成を採用することができ、この場合には、燃料変換用触媒に効率的に熱を伝えることができるので、反応器の小型化が図られることとなる。
【0018】
さらにまた、本発明の燃料供給装置では、反応器においてアルコールから生成したエーテルと未反応のアルコールとを分離し、この分離した未反応のアルコールのみを反応器からエンジンに供給する未反応アルコール供給路と、アルコールから生成したエーテルのみを反応器からエンジンに供給するエーテル供給路を設けた構成とすることが可能であり、この構成を採用すると、エンジンにエーテルとアルコールとを分けて供給することができるので、エーテル及びアルコールをそれぞれ必要な割合で必要な量だけエンジンに供給することが可能となり、最適な燃焼状態を実現し得ることとなる。
【0019】
さらにまた、本発明の燃料供給装置では、エーテル供給路にエーテル貯蔵部を設けた構成とすることが可能であり、この場合には、エーテルを必要な時に必要な量だけエンジンに供給することが可能となり、その結果、エンジン出力に応じた効率的な燃焼を実現し得ることとなる。
【0020】
さらにまた、本発明の燃料供給装置では、アルコールをエタノールとし、エーテルをジエチルエーテルとした構成や、アルコールをメタノールとし、エーテルをジメチルエーテルとした構成を採用することができ、前者の場合は、着火性の高いジエチルエーテルをエンジンに供給することができるので、燃焼性の向上が図られることとなり、後者の場合は、すすの生成の少ない燃焼が可能なジメチルエーテルをエンジンに供給することができるので、排気ガスのきれいな燃焼を行わせ得ることとなる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
図1は本発明の一実施例による燃料供給装置を示すもので、図1に示すように、この燃料供給装置1は、燃料タンクTに貯蔵されたエタノール(アルコール)を第1ポンプ2の作動によりエンジンEに供給する第一供給路3と、この第一供給路3と同じく燃料タンクTに貯蔵されたエタノールを第2ポンプ4の作動によりエンジンEに供給する第二供給路5と、この第二供給路5上に配置されて燃料タンクTからエタノールが導入される低温部6L及び排気路7を通してエンジンEから排気ガスが導入される高温部6Hを具備した反応器6と、排気路7に配置した温度センサ8により検出された上記排気ガスの温度に基づいて第2ポンプ4に指令を与えて第二供給路5上の反応器6の低温部6Lに導入するエタノールの供給量を制御する制御部9を備えており、反応器6の低温部6Lには、エタノールからジエチルエーテルを合成する燃料変換用触媒10が設けてある。
【0023】
この場合、燃料変換用触媒10は、金属酸化物ゲルによってヘテロポリ酸を多孔質材料に接着して固定化して成っており、また、反応器6は,プレートフィン型熱交換器で構成してあり、燃料変換用触媒10は、低温部6Lの加熱部として機能するプレートフィン6aにコーティングしてある。
【0024】
ヘテロポリ酸の金属酸化物ゲルによる固定化は、まず、均一な大きさのメソ細孔(孔径が1.5〜4nmの微細な孔)を多数有するメソポーラス物質であるMCM41に一般的な含浸法により5wt%の12−モリブトリン酸を含浸するのに続いて、このMCM41粒子をテトラエトキシシラン,ジエタノールアミン及びエタノール水溶液の混合液に浸漬した後、ろ過,乾燥及び焼成の各工程を経て行うようにした。
【0025】
上記した燃料供給装置1では、反応器6内において、第二供給路5を通して導入された燃料タンクTからのエタノールが脱水反応を起こしてジエチルエーテルが生成される。そして、この生成されたジエチルエーテル及び未反応のエタノールは、第二供給路5を通してエンジンEに導入されることから、効率的な燃焼が実現でき、エンジンEの燃費の向上を実現し得ることとなる。
【0026】
また、上記した燃料供給装置1では、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成る燃料変換用触媒10を用いているので、すなわち、ヘテロポリ酸の溶出がなくそして劣化を抑え得る燃料変換用触媒10を用いているので、この燃料変換用触媒10の性能低下による交換の必要がなく、その結果、メンテナンス時間の削減及び交換コストの低減を実現し得ることとなる。
【0027】
さらに、上記した燃料供給装置1では、その燃料変換用触媒10を金属酸化物ゲルによりヘテロポリ酸を多孔質材料に接着して固定化して成るものとしているので、多孔質材料が特定の種類に限定されることがなく、したがって、高表面積の多孔質材料にヘテロポリ酸を固定することができることとなって、反応性の向上を実現し得ることとなる。
【0028】
さらにまた、上記した燃料供給装置1の燃料変換用触媒10では、MCM41に一般的な含浸法により5wt%の12−モリブトリン酸を含浸するよにしているので、性能を安定して維持し得るのに加えて、低い排気ガスの熱を有効に回収して効率的に合成を行ない得ることとなる。
【0029】
さらにまた、上記した燃料供給装置1では、反応器6をプレートフィン型熱交換器で構成し、この反応器6の低温部6Lの加熱部として機能するプレートフィン6aに燃料変換用触媒10をコーティングするようにしているので、燃料変換用触媒10に効率的に熱を伝えることができ、その結果、起動性及び応答性が向上して、効率的にエーテルを合成し得るうえ、反応器6の小型化が図られることとなる。
【0030】
さらにまた、上記した燃料供給装置1では、燃料であるアルコールをエタノールとし、反応器6で生成されるエーテルをジエチルエーテルとしていることから、着火性の高いジエチルエーテルをエンジンEに供給し得ることとなって、燃焼性の向上が図られることとなる。
【0031】
なお、上記した燃料供給装置1において、反応器6の低温部6Lで燃料変換用触媒10をエタノール液中に浸漬させておくように成すことができ、この場合は、エタノール液中でジエチルエーテルを合成し得ることとなり、燃料を気化する必要がない分だけ、起動性及び応答性が向上することとなる。
【0032】
[実施例2]
図2は本発明の他の実施例による燃料供給装置を示すもので、図2に示すように、この燃料供給装置21では、反応器26に、エタノールから生成したジエチルエーテルと未反応のエタノールとを分離する図示しない分離機構を設けており、この分離機構で分けた未反応のエタノールは、反応器26の低温部26Lから未反応エタノール供給路(未反応アルコール供給路)31を介してエンジンEに供給し、一方、エタノールから生成したジエチルエーテルは、反応器26の低温部26Lからエーテル供給路32を介してエンジンEに供給するようにしていて、このエーテル供給路32には、エーテル貯蔵部33及びバルブ34が設けてある。
【0033】
この場合、燃料変換用触媒30は、水/油エマルション法により合成されて固定化して成るヘテロポリ酸触媒としてあり、反応器26の低温部26Lの加熱部として機能するプレートフィン26aにコーティングしてある。
【0034】
この実施例において、トルエン100L,5%12−タングトリン酸水溶液1.5L及びオクチルトリクロロシラン24molを超音波攪拌することによりエマルションをつくり、これにメチルトリクロロシランを24mol添加した後、空気中で攪拌,ろ過,洗浄,乾燥及び焼成の各工程を経ることにより、シリカで包接された燃料変換用触媒30を得た。
【0035】
上記した燃料供給装置21では、反応器26内において、第二供給路5を通して導入された燃料タンクTからのエタノールが脱水反応を起こし、ジエチルエーテルが生成する。そして、この生成したジエチルエーテルはガス層へ、未反応のエタノールは液相へ相分離され、未反応のエタノールは、反応器26の低温部26Lから未反応エタノール供給路31を介してエンジンEに供給され、一方、生成したジエチルエーテルは、エーテル供給路32上のエーテル貯蔵部33に一時蓄えられ、制御部9の指示によるバルブ34の作動により、エンジンEに供給される。
【0036】
つまり、エンジンEに対してジエチルエーテルとエタノールとを別々に供給し得るので、とくに、エーテルを必要な時に必要な量だけエンジンに供給し得るので、エンジン出力に応じた最適な燃焼を行わせることが可能であり、運転性の向上が図られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の燃料供給装置の一実施例を概略的に示す構成説明図である。(実施例1)
【図2】本発明の燃料供給装置の他の実施例を概略的に示す構成説明図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0038】
1,21 燃料供給装置
3 第一供給路
5 第二供給路
6,26 反応器
6H,26H 反応器の高温部
6L,26L 反応器の低温部
8 温度センサ
9 制御部
10,30 燃料変換用触媒
E エンジン
T 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成ることを特徴とする燃料変換用触媒。
【請求項2】
金属アルコキシドから合成した金属酸化物ゲルにより、ヘテロポリ酸を多孔質材料に接着して固定化して成る請求項1に記載の燃料変換用触媒。
【請求項3】
ヘテロポリ酸粒子を多孔質材料で被覆して、ヘテロポリ酸を多孔質材料に固定化して成る請求項1に記載の燃料変換用触媒。
【請求項4】
多孔質材料が、SiO,Al,CeO及びTiOのうち少なくとも一つを含む請求項1〜3にいずれか一つの項に記載の燃料変換用触媒。
【請求項5】
ヘテロポリ酸が、12−タングストリン酸,12−モリブトリン酸,12−モリブデンタングストリン酸及び12−タングストケイ酸のうち少なくとも一つを含む請求項1〜4にいずれか一つの項に記載の燃料変換用触媒。
【請求項6】
燃料タンクに貯蔵されたアルコールをエンジンに供給する第一供給路と、燃料タンクに貯蔵されたアルコールをエンジンに供給する第二供給路と、この第二供給路上に配置されて燃料タンクからアルコールが導入される低温部及びエンジンからの排気ガスが導入される高温部を具備した反応器と、温度センサにより検出された上記排気ガスの温度に基づいて第二供給路上の反応器の低温部に導入するアルコールの供給量を制御する制御部を備え、上記反応器の低温部に、請求項1〜5のいずれかに記載の燃料変換用触媒を設けて、アルコールからエーテルを合成することを特徴とする燃料供給装置。
【請求項7】
反応器の低温部において、燃料変換用触媒をアルコール液中に浸漬させてある請求項6に記載の燃料供給装置。
【請求項8】
反応器に、燃料変換用触媒を加熱する加熱部を設けた請求項6又は7に記載の燃料供給装置。
【請求項9】
加熱部をプレートフィン型熱交換器とした請求項8に記載の燃料供給装置。
【請求項10】
反応器においてアルコールから生成したエーテルと未反応のアルコールとを分離し、この分離した未反応のアルコールのみを反応器からエンジンに供給する未反応アルコール供給路と、アルコールから生成したエーテルのみを反応器からエンジンに供給するエーテル供給路を設けた請求項6〜9のいずれか一つの項に記載の燃料供給装置。
【請求項11】
エーテル供給路にエーテル貯蔵部を設けた請求項10に記載の燃料供給装置。
【請求項12】
アルコールをエタノールとし、エーテルをジエチルエーテルとした請求項6〜11のいずれか一つの項に記載の燃料供給装置。
【請求項13】
アルコールをメタノールとし、エーテルをジメチルエーテルとした請求項6〜11のいずれか一つの項に記載の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−167511(P2006−167511A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359830(P2004−359830)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】