説明

燃料性状測定装置

【課題】自動車や自動二輪車、小型船舶等の内燃機関を有するものに搭載することが可能な、安価な燃料性状測定装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る燃料性状測定装置は、発光波長幅の広い安価な複数の近赤外LED光源L1, L2, L3を使いながら、これに回折格子7を組み合わせることで、これらのLED光源を実質的に波長幅の狭い光源として機能させ、かつ検出器7の受光素子を単一にすることで、近赤外域では光源よりも高価な検出器に要するコストを削減したものである。実質的に波長幅の狭い検出法のため、混合燃料の複数成分を分離測定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車、小型船舶等の内燃機関を有するものに搭載することが可能な、混合燃料の組成を検出・測定するための燃料性状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油価格の高騰や地球温暖化といった問題に対応して、ガソリンにエタノール等のアルコールを混合した混合燃料が自動車燃料として使用されるようになってきている。ガソリンとアルコールとでは発熱量や気化特性が異なっており、これらの比率によって最適な燃焼条件が相違する。そのため混合燃料を使用する車(FFV)では、様々な混合比に対応できるように、使用される燃料中の成分の混合比を測定又は推定し、それに応じてエンジンの燃料噴射量や点火タイミング等の制御を変更する必要がある。
【0003】
自動車等に搭載される燃料性状検出装置では、混合燃料に含まれる各種成分の濃度を測定するために以下のことが求められる。
・レスポンスが速いこと。
・混合燃料の構成成分を正確に分離定量できること。
・安価であること。
・温度変化に強いこと。
・振動に強いこと。
・コンパクトであること。
【0004】
混合燃料に含まれる各種成分の濃度を測定する手法としては、従来、様々な方法が提案されている。例えば特許文献1には、1600nm付近の所定の1波長の近赤外光を混合燃料に照射し、その透過光の検出信号から得られる吸光度に基づいて、アルコール濃度を測定する手法が開示されている。1600nm付近の波長域にはアルコールの吸収波長帯が存在するため、アルコール濃度が高くなるほど吸光度は大きくなる。そのため、吸光度とアルコール濃度の関係を示すマップを予め作成しておけば、混合燃料に光を照射し、その透過光を検出するだけで、アルコール濃度を即座に算出することができる(すなわちレスポンスが速い)。
【0005】
なお、混合燃料に対して光の吸収を利用して分析を行う場合、特許文献1のように、近赤外域の光が一般的に用いられる。これは以下の理由による。赤外域の光では、混合燃料に含まれる成分の吸収が強すぎる(吸収係数が大きすぎる)ので、混合燃料を希釈することが必要になる。可視域の光では、赤外光とは逆にアルコールや炭化水素に(吸収係数が小さすぎるため)吸収されず、分析に利用することができない。これに対し、近赤外域の光は吸収係数がその中間であって、混合燃料を希釈せずに数mm程度の光路長(吸収を受ける部分の光路の長さ)で透過光を測定することができる。そのため、赤外域と可視域の中間の近赤外域の光が、このような試料の希釈を要しない実用分析に用いられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法では以下のような問題がある。アルコールには水分が混じっていることが多い上、水の吸収波長帯はアルコールの吸収波長帯に近い。また、1600nm付近の波長の光は、弱いながらも炭化水素(ガソリン)による吸収を受けてしまう。そのため、特許文献1のように1波長の光を用いるだけでは、ガソリン、アルコール、水を正確に分離定量することは困難である。従って、混合燃料の性状測定に光の吸収を利用する場合、複数の波長の光に対する光の吸収を測定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-157728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
混合燃料の性状測定において多波長の光の吸収を測定する場合、単一の連続光源から連続光を混合燃料に照射し、その透過光を回折格子で分光したうえで、複数の受光素子(例えばフォトダイオード)が一次元に並べられたアレイ形検出器により並列に検出する、という構成を用いることが考えられる。この構成では、可動部分がないため振動に強く、しかも多波長の光を同時に測定することができる、といった利点がある。
【0009】
しかしながら、安価に入手可能なシリコンのアレイ形検出器は、可視域には高い感度を有するものの、近赤外域の光を検出することができない。シリコン以外の近赤外域用のアレイ形検出器は入手可能ではあるものの非常に高価であるため、自動車などに搭載するような安価な装置には適当でない。
【0010】
一方、検出器の受光素子を単一とする(すなわちアレイ形検出器を用いない)構成も考えられる。この場合、複数の単色(単波長)光源からそれぞれ波長の異なる単波長光をこの単一の受光素子に向けて照射し、単色光源と受光素子(検出器)の間で混合燃料による光の吸収を行わせる、という構成になる。この構成では、受光素子が単一であるため検出器の分のコストを削減することができる。しかしながら、波長幅の十分狭い単波長光を照射可能な単色光源(例えばレーザ光源など)は高価であり、さらに必要とする波長の数だけ用意する必要があるため、連続光源を用いる方式と同様にコストが高くなってしまう。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、車載に好適な、上記の様々な要求を満たすことができる燃料性状測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る燃料性状測定装置は、
異なる位置に配置された、所定の波長幅を有する複数の近赤外用の光源と、
前記複数の光源から照射される光の中から、それぞれ特定の波長の光を共通の方向に回折させる回折格子と、
前記回折格子により前記共通の方向に回折された各々の光を受光する単一の受光部と、
前記光源と前記受光部の間の光路上に設けられた、測定対象である燃料を収容するための測定セルと、
前記受光部の検出信号から得られた各光源からの光の吸収の度合いに基づいて、前記燃料に含まれる各成分の濃度を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする。
【0013】
なお、各光源から回折格子を経て共通の方向(受光部の方向)に回折される特定の波長の光とは、燃料中に含まれる検出対象とする成分の吸収波長帯にそれぞれ対応したものであり、光源毎に波長が異なる。
【0014】
本発明に係る燃料性状測定装置では、各々の光源の光の中から特定の波長の光を回折格子を用いて受光部の方向に回折させるため、各光源が発する光の波長幅よりも狭い波長幅の光を受光部に入射させることができる。また、各光源における光の出射位置と受光部における光の入射位置のそれぞれにスリットを設けることにより、より狭い波長幅の光を取り出すことも可能となる。そのため、各光源の発光波長幅は広くてもよく、例えば発光波長幅が100nm程度の安価な近赤外LEDを光源として用いることができ、装置のコストをより削減することができる。
【0015】
測定セルを回折格子と受光部の間に設ける場合、各光源の特定波長の光は共通の光路を通るため、この光路上に測定セルを配置すれば良い。一方、測定セルを各光源と回折格子の間に設ける場合、光源毎に光路が異なるため、各々の光路をまたぐように測定セルを配置する必要がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る燃料性状測定装置は、従来の単一の光源を用いる方式と単一の受光素子を用いる方式のそれぞれの長所を組み合わせた構成となっている。このような構成を採ることにより、従来、コストが高くなる原因であった近赤外用の受光素子の数を削減することができると共に、発光波長幅が100nm程度の安価な近赤外LEDを光源として用いることができるため、燃料性状測定装置を安価に提供することが可能となる。また、受光部が1つであるために、温度変化による波長毎の吸光度の測定誤差のばらつきが少なくなり、結果として、従来よりも正確に分離定量を行う(すなわち温度変化に強くする)ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】混合燃料に典型的に含まれる各成分の吸収スペクトル。
【図2】本実施例の各光源位置における波長分散と波長分解能を示す図。
【図3】本発明に係る燃料性状測定装置の一実施例の光学系を示す図。
【図4】本実施例の燃料性状測定装置の機能ブロック図。
【図5】本実施例の燃料測定装置による数値シミュレーションの結果を示す表。
【図6】本発明に係る燃料性状測定装置の変形例の光学系を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、混合燃料に一般的に含まれるエタノール、水、直鎖炭化水素(ヘプタン及びヘキサン)の各吸収スペクトルを示す。なお、図1の吸収スペクトルは、水以外の光路長を10mm、水の光路長を2mmとした場合のものである。
【0019】
図1の吸収スペクトルを示すエタノール、水、直鎖炭化水素の各成分を、複数の光源を用いて分離する場合、一般的に1550nm、1450nm、1200nmのそれぞれの単色光を発生する3つの単色光源が用いられる。なお、1450nmと1200nmはそれぞれ水と直鎖炭化水素の吸収ピークの波長であるが、1550nmは1580nm付近にあるエタノールの吸収ピークから若干ずれている。これは、ベンゼンの吸収ピークが1630nm付近にあり、その影響を受けないようにするためである。
【0020】
図1では利用する3つの波長(1550nm、1450nm、1200nm)を棒線で示しているが、ここで、単色光源の代わりに例えば波長半値全幅が100nm程度のLED光源をそのまま用いると、その発光は、この縦棒を中心に図2のように基底幅では200nm程度範囲に広がるため、図1の急峻な吸収スペクトルを分離するには不十分である。これらの分離を行うには、少なくとも半値全幅で20nm(基底幅なら40nm)程度に狭くする必要がある。以下に示す本発明に係る燃料性状測定装置は、この光源波長幅の実効的な減少効果を実現するものである。
【実施例】
【0021】
本発明に係る燃料性状測定装置の一実施例の光学系を図3に示す。なお、本実施例では各光源と検出器が同一の水平面上に配置されるインプレーン配置を用いる。
本実施例の燃料性状測定装置は、3つの光源L1, L2, L3を用いる3波長測定系であり、各光源として、中心波長が1550nm、1450nm、1200nm、波長半値全幅が100nm程度のLED光源を用いる。
【0022】
光源L1, L2, L3から照射された光は、まず回折格子2に入射される。この回折格子2は、光源L1, L2, L3からそれぞれ特定の波長の光を取り出す「波長幅を狭くする」機能と、異なる位置に配置された光源L1, L2, L3から照射される光を単一の検出器7の方向に向けるための「光混合器」として機能と、を有する。回折格子2が有する「波長幅を狭くする」機能については後述するが、例えば回折格子2として1000本/mmの溝数のものを用いた場合、光源L1, L2, L3の波長半値全幅が100nm程度であっても、30nm程度にまで狭くすることができる。また、回折格子2が有する「光混合器」としての機能のために、3つの光源L1, L2, L3が互いに数mm離れていても、回折格子2から検出器7に向かっては共通の光路を進むことができる。以上の機能により、光源L1, L2, L3からの入射光のうちそれぞれ特定の波長を有する光が回折格子2により検出器7の方向に回折され、レンズ3により集光された後、フローセル5内に導入された混合燃料6に照射される。
【0023】
フローセル5は、レンズ3と検出器7の間の光路上に窓4が設けられた、直径5mm程度のチューブ状のものであり、光源L1, L2, L3からの光はフローセル5のチューブ内に導入された混合燃料6に照射され、混合燃料6に含まれる各成分の吸収を受けた後、透過光が検出器7に到達し、検出器7が有する単一の受光素子(受光部)によって、その透過光強度が測定される。ここで、吸収の度合いを表す透過光強度は、試料各成分の濃度に直接比例する吸光度(透過率の逆数の対数)に変換したのち、各成分の濃度に分ける。
【0024】
検出器7が有する受光素子としては、1200nmから1700nmの波長域に感度を有するGe(ゲルマニウム)ダイオードを好適に用いることができる。また、やや高価ではあるものの、InGaAs(インジウムガリウム砒素)ダイオードを用いても良い。いずれにせよ、本発明では受光素子を単一にすることができるため、装置のコストを大幅に削減することができる。
【0025】
上記の各光学素子やフローセル5等は全て遮光機能を有する筐体1に固着されており、可動部を持たないため、振動や外部からの衝撃に強い。また、装置のサイズは縦横それぞれおよそ3cmほどであり、自動車に搭載できる程度に小型である。
なお、本実施例のように、平面回折格子に平行光でなく発散光が入射される平面回折格子の使用法は、モンク・ギリーソンマウンティングとして古くから知られており、簡易な分光器に多用されている。本実施例においても、装置を小型化するために、モンク・ギリーソンマウンティングを用いた。
【0026】
光源L1, L2, L3としては、半導体レーザのような波長幅の狭いものを用いることが望ましいが、半導体レーザは非常に高価であるため、自動車等に搭載する安価な燃料性状測定装置としては適当でない。そこで、本実施例では半値全幅が100nm程度の近赤外LEDを光源として用いると共に、光源L1, L2, L3のそれぞれにおける光の出射位置と検出器7における光の入射位置に同じ幅のスリット8(入射・出射の倍率が1でないので正確には、倍率を含めたスリットの実効幅が同じ)を設け、さらに検出器7側のスリット8の開口がレンズ3の焦点位置となるようにした。回折格子2のみでも光源L1, L2, L3から狭い波長幅の光を取り出すことができるが、さらにスリット8を用いることにより、以下のようにさらに波長幅の狭い光を取り出すことが可能となる。
【0027】
例えば、回折格子として1000本/mmの溝数のもの(溝間隔0.001mm)を仮定し、回折格子2と光源L1, L2, L3の距離を25mmとして光源上での回折格子の線分散を計算してみた。分光器の設計でよく知られているように線分散(この場合は光源の横方向の移動距離δxと波長の変化δλの比例関係)の式、
【数1】

が成り立つ。ここで、Lは回折格子から光源までの距離、dは回折格子の溝間隔、θは回折格子の法線と回折格子からみた注目する光源の方向とのなす角度である。L=25mm, d=0.001mm,θ=38度の場合で(1)式を計算すると、δλ=1nm に対して、δxは0.032mm、100nmあたりなら3.2mmとなる。すなわち図2のように、中心波長が1450nmの光源L2の位置を0mm(原点)とすれば、1550nmの光源L1は+3.2mmの位置に、1200nmの光源L3を-7.1mm(マイナス側では計算上分散が250nm×3.2mm/100nm=8mmより少し小さくなる)の位置に置くことになる。ここでスリット幅を0.5mmにすると、光源の光の半値全幅は16nm(分散の計算:100/3.2×0.5)となるため、各光源において実質的に利用される波長幅は図2の三角形のようになり、もとの波長幅を十分狭くすることができる。なお、図2では参考のために、中心波長が1300nmの光源を使う場合の位置(-4.3mm)も記載した。
【0028】
線分散の値はθを38度から0度まで小さくすると、100nmあたり3.2mmのものが2.5mm程度と小さくなるし、線分散の値は回折格子の溝本数でも変わる。光源の横方向のサイズが2mmから3mm程度であるから、図2の典型例は、この程度の回折格子を使えば、いずれにしても、3つの光源が互いにぶつかることなく、逆に距離が離れすぎることもなく、ちょうどよい大きさに収容できることを示したものである。また、光源としてLEDチップを専用に製作し(1mm程度の)小型のものを作ることも可能であるため、図2でLの値を半分にし、全体としてもさらに半分程度のサイズにするような小型化も可能である。
【0029】
このような構成を用いることにより、本実施例の燃料性状測定装置では以下のような効果を奏する。
(1) LEDとフォトダイオードの組み合わせであるため、レスポンスが速い。
(2) 安価で波長幅の広い近赤外LEDを用いても、回折格子とスリットの作用により波長の半値全幅を狭めることができる。そして狭い半値幅の赤外光の吸収波長を比較することにより、混合燃料中の各成分を精度良く測定することが可能となる。
(3) 検出器にはフォトダイオードを一つ用いるだけで良いため、近赤外域では高価なフォトダイオードの分のコストを従来よりも削減することができる。
(4) LED、回折格子、フォトダイオードは、温度による特性変化が少ないため、温度変化に強い。また、フォトダイオードが1つのみであることから、温度変化による波長毎の吸光度の測定誤差のばらつきを少なくすることができ、結果として、従来よりも正確に各成分の濃度を算出することができる。
(5) 可動部がないため、振動に強く堅牢である。
(6) 縦横それぞれ約3cm程度又はそれ以下の大きさであり、コンパクトである。
【0030】
図4に、本実施例の燃料性状測定装置の機能ブロック図を示す。この図に示すように本実施例の燃料性状測定装置では、図3に示した光学測定系の他に、光源L1, L2, L3の点灯を高速に切り換える光源点灯回路20と、検出器7の検出信号の増幅やアナログ信号からデジタル信号への変換など各種の信号処理を行う信号処理部21と、検出信号から得られる各光源からの光の吸光度に基づいて、混合燃料6に含まれる各成分の濃度を算出する演算部22と、これら光源点灯回路20、信号処理部21、演算部22を制御する制御部23と、を有している。
【0031】
光源点灯回路20によって逐次的に切り換えられた各光源からの光は、それぞれフローセル5中の混合燃料6により吸収を受けた後に検出器7により検出され、信号処理部21において時分割で取得される。そして、演算部22において、それぞれの光源に対する吸光度が算出され、以下に示す多波長演算により、混合燃料6に含まれる各成分の濃度が計算される。なお、本実施例においては、光源点灯回路20によって光源を切り換える際に光源L1, L2, L3のいずれも点灯しない、暗信号を検出するための期間を設けており、光源L1, L2, L3のそれぞれが点灯する期間で得られた検出信号から、この暗信号の期間に得られた検出信号を差し引いた値を、各光源に対する検出信号として用いている。
【0032】
<多波長演算の例>
演算部22では、例えば以下の計算を行なう。
x1, x2, x3をそれぞれ混合燃料中に含まれるアルコール、直鎖炭化水素、水の濃度、uをこれら以外の構成成分(例えばベンゼンなど)の濃度とし、それぞれの濃度の総和を1とする。また、光源L1, L2, L3のそれぞれに対して得られた吸光度の測定値をa1, a2, a3とし、さらにhijをxi=1のときの光源Ljに対して得られた吸光度とする。このとき、以下の連立方程式が成立する。
【数2】

なお、上式ではuの寄与が十分小さいものとしてuに関する項を除いている。そのため、式(1)は実際には近似式であるが、簡単のため等式で表すことにする。
さらに濃度の総和が1であることから、次式が得られる。
【数3】

式(1)及び(2)を行列を用いて表すと、
【数4】

となる。ここで、式(3)の係数行列の逆行列を両辺に掛けると次式が成立する。
【数5】

式(4)の逆行列は、hijが既知であれば予め求めておくことができる。そのため、吸光度の測定値a1, a2, a3が得られれば、式(4)より、x1, x2, x3及びuの濃度が即座に算出される。
【0033】
図1のグラフから得られる各成分の吸光度hijを用いてシミュレーション計算した結果を、図5の表に示す。この表はx1(エタノールの濃度)、x2(ヘプタンとヘキサンの平均濃度)、x3(水の濃度)の設定値を変化させたときの、式(4)による算出値と設定値とを比較したものである。なお、この数値シミュレーションでは、uはベンゼンのみの濃度とした。
【0034】
図5の表から、各成分の設定値をどのように変化させてもエタノールの誤差は出にくく、最大でも1%程度の誤差(上から2段目の最右欄)であり、十分な精度でエタノールの濃度を測定することができていることが分かる。一方、直鎖炭化水素(ヘプタン及びヘキサン)の誤差については、上から3段目の最左欄が最も誤差が大きく3.4%となった。これは、式(4)でベンゼンの寄与の補正を行っていないにも関わらずベンゼンの濃度が0.8もあることが原因であるが、それでも十分高い精度で各濃度が測定されている。
【0035】
図6に、本実施例の燃料性状測定装置の変形例を示す。本変形例は光源L1, L2, L3と検出器7が同じ水平面上にない、オフプレーン配置を用いた例である。図6の例では、光源L1, L2, L3から照射された光が回折格子2に斜め下の角度から入射し、斜め上向きで出射している。この変形例の装置では、図3に示す同一の水平面上に光源と検出器が配置されるインプレーン配置よりも、設計の自由度を高くすることができる。
【0036】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形や修正、追加などを行っても、本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例では3つの光源を用いる3波長測定系を示したが、ベンゼンの吸収波長帯に対応する光源を更に設けた4波長測定系とすることもできる。また、それ以上の数の光源に対しても容易に拡張可能である。さらに、回折格子2の溝間隔やスリット8のスリット幅を更に狭くすることで、光源としてより波長幅の広いものを用いたり、光源の実効的な波長幅をより狭くすることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1…筐体
2…回折格子
3…レンズ
4…窓
5…フローセル
6…混合燃料
7…検出器
8…スリット
20…光源点灯回路
21…信号処理部
22…演算部
23…制御部
1、L2、L3…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる位置に配置された、所定の波長幅を有する複数の近赤外用の光源と、
前記複数の光源から照射される光の中から、それぞれ特定の波長の光を共通の方向に回折させる回折格子と、
前記回折格子により前記共通の方向に回折された各々の光を受光する単一の受光部と、
前記光源と前記受光部の間の光路上に設けられた、測定対象である燃料を収容するための測定セルと、
前記受光部の検出信号から得られた各光源からの光の吸収の度合いに基づいて、前記燃料に含まれる各成分の濃度を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする燃料性状測定装置。
【請求項2】
前記光源が、700nm以上3000nm以下の波長の光を発する発光ダイオードであることを特徴とする請求項1に記載の燃料性状測定装置。
【請求項3】
前記光源の発光半値全幅が40nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料性状測定装置。
【請求項4】
前記光源における光の出射位置と前記受光部における光の入射位置のそれぞれにスリットが配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料性状測定装置。
【請求項5】
前記燃料から、鎖状炭化水素又は芳香族炭化水素の濃度と、アルコールの濃度と、水の濃度と、を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料性状測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−52880(P2012−52880A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194813(P2010−194813)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】