説明

燃料添加剤

【課題】含有されるフェロセン及び/又はフェロセン誘導体が燃料中で容易に安定溶解することができる燃料添加剤を提供する。
【解決手段】燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを含む。また固体状の燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を80〜99質量%、レシチンを1〜20質量%含む。粒子状の燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を78〜99質量%、レシチンを0.9〜20質量%、水分を0.1〜2質量%を含む。液体状燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを溶解させた鉱物油を含み、該フェロセン及び/又はフェロセン誘導体の含有量は2〜5質量%、該レシチンの含有量は5〜50質量%である。燃料中のフェロセン及び/又はフェロセン誘導体の濃度を1〜50ppm、レシチンの濃度を0.01〜500ppmとして使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェロセン及び/又はフェロセン誘導体を含有する燃料添加剤に係り、更に詳細には、レシチンの添加により燃焼促進、煤塵減少、NOX低減等の作用が強化されたフェロセン及び/又はフェロセン誘導体含有燃料添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロセンとその誘導体は、各種液体燃料用の添加剤として従来から使用されている。例えば、特許文献1には、フェロセン及びその誘導体と、それを溶解する液体有機キャリヤーである芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤及び/又は石油系溶剤とから成る燃料添加剤組成物の存在下における液体炭化水素の改良燃焼方法が記載されている。また、特許文献2には、ディーゼルエンジンのコンディショニング方法として、燃料に20〜30ppmのフェロセンを添加することで、燃焼室中の炭素含有付着物が除去され、運行距離当たりの燃料消費が5%程減少することが示されている。
【0003】
更に、特許文献3には、重質残留油から成る内燃機関用燃料油に対する添加剤として、フェロセンとその誘導体とを他の添加物質を配合することなく、直接燃料に1〜100ppm添加してエンジンとその付属機器の炭素質付着物を減少させる方法が提案されている。
【特許文献1】特開平2−132188号公報
【特許文献2】米国特許第4389220号明細書
【特許文献3】特許第3599337号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの発明に使用されているフェロセン及びフェロセン誘導体は、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤及び石油系溶剤への溶解度が非常に低いという欠点を有している。
フェロセンは一般に固体状であり、特に固体状フェロセンを溶解させるには、固体の大きさにも依存するが、かなりの攪拌力と時間を必要とする。僅かな添加量でも簡単には溶けず、燃料に添加する前に予め溶解しなければ内燃機関にトラブルが発生するため、攪拌機付き溶解タンクで溶剤に溶かしてから燃料に添加しているのが現状である。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、含有されるフェロセン及び/又はフェロセン誘導体が燃料中で容易に安定溶解することができる燃料添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体をレシチンと併用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の固体状燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を80〜99質量%、レシチンを1〜20質量%含むことを特徴とし、本発明の粒子状燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を78〜99質量%、レシチンを0.9〜20質量%、水分を0.1〜2質量%含むことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の液体状燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを溶解させた鉱物油を含有し、該フェロセン及び/又はフェロセン誘導体の含有量が2〜5質量%、該レシチンの含有量が5〜50質量%であることを特徴とする。
【0010】
また更に、本発明の燃料添加剤は、燃料中のフェロセン及び/又はフェロセン誘導体の濃度が1〜50ppm、且つレシチンの濃度が0.01〜500ppmとなるように添加して使用されることを特徴する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体をレシチンと併用することにより、含有されるフェロセン及び/又はフェロセン誘導体が燃料中で容易に安定溶解することができる燃料添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の燃料添加剤につき詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを含む燃料添加剤である。またこれらの燃料添加剤は、固体状、その中でも特に粒子状、及び液体状の形態をとることができる。
【0013】
(1)フェロセン及びフェロセン誘導体
フェロセンは、正式にはビス(シクロペンタジエニル)鉄といい、またジシクロペンタジエニル鉄とも呼ばれる。本発明で用いるフェロセン誘導体は、ジシクロペンタジエニル環にアルキル基等の置換基を有する構造の化合物であり、例えばエチルフェロセン、ブチルフェロセン、アセチルフェロセン、2,2−ビスーエチルフェロセニルプロパン等を挙げることができる。
【0014】
フェロセンとその誘導体(以下、フェロセン類という)の製造方法は、例えば、米国特許第2650756号明細書、米国特許第2769828号明細書、米国特許第2834796号明細書、米国特許第2898360号明細書、米国特許第3035968号明細書、米国特許第3238158号明細書、米国特許第3437634号明細書等に開示されている。
【0015】
本発明において、フェロセン類は、微粉末状、粗粒子状、ペレット状等の固体であっても、液体であってもよく、本発明の燃料添加剤の形態によって適宜に選択することができる。それについては後に詳述する。
【0016】
フェロセン類を含有することで、本発明の燃料添加剤は、燃焼促進作用、煤塵減少作用、NOX低減作用等を有することができる。特に、内燃機関であるディーゼルエンジンでは、この燃焼促進作用により、弁、ピストンリング、燃焼室への付着物の形成を抑制するクリーニング効果が見られる。この付着物は、エンジンの出力を低下させ、また付着した部品の磨耗を増大させるので、付着物の形成を抑制することは、ディーゼルエンジンの安定運転を実現するものである。更に、燃焼促進、煤塵減少、NOX低減等の燃焼改質による燃焼時の過剰な空気の抑制により、数%のレベルでの燃料消費量の削減が実現できる。
【0017】
(2)レシチン
レシチンは、グリセロリン脂質及びスフィンゴリン脂質を主成分とする動植物リン脂質である。各種の植物油、例えば大豆油、菜種油、米ぬか油、パーム油、ヒマワリ油、ヤシ油、綿実油、トウモロコシ油、落花生油、アマニ油、サフラワー油、オリーブ油等の精製工程で得られる。通常、植物油を1〜50%含んでおり、この植物油の含有量や、植物油中の飽和酸と不飽和酸との比率に応じて、常温で液体と固体のものが存在する。また、近年は、油分抽出・真空乾燥することによって、液体レシチンから粉末レシチンが製造されている。
【0018】
本発明において、レシチンは、液体であっても微粉末状等の固体であってもよく、本発明の燃料添加剤の形態によって適宜に選択することができる。それについては後に詳述する。
【0019】
(3)燃料添加剤の形態
本発明の燃料添加剤は、固体状、粒子状及び液体状の形態をとることができる。
【0020】
(i)固体状燃料添加剤
本発明の固体状燃料添加剤は、80〜99%のフェロセン類と1〜20%のレシチンとを含むことが好ましい。レシチンが1%未満ではフェロセン類が燃料に溶解し難いことがあり、レシチンを20%含有すれば十分にフェロセン類の溶解性向上の効果が生じ得るからである。
フェロセン類は、常温において固体の形態であれば特に限定されるものではなく、例えば微粉末状、粗粒子状、ペレット状などの形態を挙げることができる。またレシチンは、常温において粉末状の形態であることが好ましく、更に好ましくは粒子径が1mm以下の微粉末状の形態である。フェロセン類との混合がより均一になり得るからである。
【0021】
(ii)粒子状燃料添加剤
本発明の粒子状燃料添加剤は、上記固体状燃料添加剤の一形態であり、微粉末状フェロセン化合物を、粗粒子状に造粒したものである。その粒径は0.5mm〜15mmであることが好ましく、より好ましくは1mm〜10mmである。粒径が0.5mm未満では、飛散のために作業性が劣る場合があり、15mmを超えると解膠性が低下して溶解性が下がる可能性があるからである。
78〜99%のフェロセン類、0.9〜20%のレシチン及び0.1〜2%の水分を含むことが好ましい。レシチンが0.9%未満ではフェロセン類が燃料に溶解し難いことがあり、レシチンを20%含有すれば十分にフェロセン類の溶解性向上の効果が生じ得るからである。
フェロセン類は、常温において粉末状の形態であることが好ましく、更に好ましくは粒子径が2mm以下の微粉末状の形態である。またレシチンも、常温において粉末状の形態であることが好ましく、更に好ましくは粒子径が1mm以下の微粉末状の形態である。造粒の便宜のためである。
本発明において使用する粉末状レシチンは吸湿性が高く、少量の水分を混合することで造粒に適する粘着性を生じるが、水分が0.1%未満では十分な粘着性が生じない可能性があり、2%を超えると水分が過剰となり上記粉末状フェロセン類及び上記粉末状レシチンが塊状化する恐れがある。
【0022】
(iii)液体状燃料添加剤
本発明の液体状燃料添加剤は、フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを溶解させた鉱物油を含有し、該フェロセン及び/又はフェロセン誘導体の含有量が2〜5%、該レシチンの含有量が5〜50%であることが好ましい。レシチンが5%未満ではフェロセン類が鉱物油に溶解し難いことがあり、レシチンを50%含有すれば十分に鉱物油に対するフェロセン類の溶解性向上の効果が生じ得るからである。
フェロセン類は、微粉末状、粗粒子状、ペレット状等の固体であっても、液体であってもよいが、鉱物油に溶解させやすい形状という観点から、液体又は微粉末状であることが好ましい。また、レシチンも同様に液体であっても微粉末状等の固体であってもよいが、鉱物油に溶解させやすい形状である液体又は微粉末状であることが好ましい。
なお、本発明において使用される鉱物油とは、炭化水素系の重油、軽油、灯油等をいう。例えば、船舶用の大型ディーゼルエンジン等の燃料として用いられるC重油に対しては、A重油、B重油、軽油、灯油等を好ましく用いることができ、更に好ましくはA重油を用いることができる。
【0023】
(4)レシチンの作用・効果
本発明におけるレシチンは、主に次の作用を担う。
i)燃料に対するフェロセン類の溶解性及び溶解度の向上。
ii)燃料油中のスラッジの分散作用。
iii)粒子状燃料添加剤における造粒時のバインダー作用。
iv)粒子状燃料添加剤における解膠作用。
v)液体状燃料添加剤におけるフェロセン類の鉱物油に対する溶解性の向上。
以下に、上記の各々の作用について説明する。
【0024】
(i)燃料に対するフェロセン類の溶解性及び溶解度の向上
上述のようにフェロセン類は、各種燃料に対する溶解性及び溶解度が低いという欠点を有している。ここで「燃料」としては、ディーゼルエンジン、油燃焼炉及びボイラー装置等の燃料油として用いられるA重油、灯油や軽油等の軽質油、重質油、重質残渣油、潤滑油、廃油及びこれらの混合油、更にこれらのエマルション燃料、また石炭等の固体燃料等を挙げることができるが、形状が気体以外の燃料であればこれらに限定されるものではない。
【0025】
例えばフェロセン単独の場合、ベンゼン、トルエン及びキシレン以外の芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤等の石油系溶剤への溶解度は非常に低く、20℃において最大3%濃度までしか溶解しない。また長期的に安定な溶液のフェロセン濃度は、好ましくは2.5%以下である。重油等の燃料にフェロセンを溶解した場合も同様である。しかし、所定量のレシチンを添加することによって、フェロセンを5%濃度まで溶解することが可能となり、その溶液の安定性は幅広い温度域で良好となる。
A重油に対するフェロセン最大溶解度とレシチン添加量との関係を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
このように溶解促進作用を有するレシチンの添加により、各種燃焼設備の燃料又は燃料添加剤自体にフェロセン類を容易に溶解させて安定な溶液を得ることができるので、燃焼機関にフェロセン類を均一な微粒子状で噴霧することが可能となる。その結果、フェロセン類の持つ作用効果を十二分に発揮させることができる。
【0028】
なお、レシチンは親油性部分と親水性部分を有する為、界面活性剤として働くことが知られているが、本発明では、レシチンの親油性部分の働きにより溶解性等が向上するものと考えられる。即ち、燃料にフェロセン類及びレシチンを溶解すると、速やかにフェロセン類の表面にレシチンの親油性部分の一部が吸着し、それ以外の親油性部分がフェロセン類の表面で親油性を強化することによって、燃料油への溶解性及び溶解度の向上に寄与すると考えられる。
これらの作用は、新油性の強い非イオン系界面活性剤など他の界面活性剤には見られず、レシチン固有の特異性である。
【0029】
ii)燃料油中のスラッジの分散作用。
この作用は、上述のフェロセン類の溶解促進作用とは異なり、レシチン自体が燃料添加剤として働き、ディーゼルエンジンを始めとする燃焼設備の長期安定運転に寄与するものである。
【0030】
スラッジは、特に重質系の燃料油中に存在する不溶物であり、沈降しやすいためにストレーナーの閉塞トラブルや燃焼不良の原因となるものである。その発生は、原油の精製過程における熱処理、接触分解、熱分解等によって、釜残油中に残存する炭化水素が、酸化、重合、縮合されて水素分の少ない高分子の炭化水素に変化することに起因する。
【0031】
上述の変化は、炭化水素→マルテン→アスファルテン→カーベン→カーボイド→カーボンの順に起こり、これらの高分子は、最初は巨大な分子のコロイドとして重油中に存在する。該コロイドは、カーベンやカーボイド等のC/H比の極めて高い炭化水素を核としてその周りをいくらかのアスファルテンが囲み、さらにその周りを順次C/H比の低い高分子炭化水素が覆うものと考えられる。
【0032】
このようなコロイド粒子として重油中に存在するアスファルト性物質は、安定したコロイド状で分散して浮遊していれば、沈殿することなくストレ−ナの閉塞、燃焼不良等の問題を起こすことはない。しかし、このコロイド粒子は極性を持ち、吸着性がある。そのため、加熱、異種の油等の混合、長時間の貯蔵などにより平衡状態が崩れると、コロイド粒子同士が次々に結合し大きな粒子の集合体(ミセルコロイド)となり、沈殿してスラッジが形成される。
【0033】
具体的には、上記コロイド粒子を有する重油に軽質分が加えられた場合、コロイド表層部の高分子炭化水素やマルテンは溶解されるが、アスファルテンやカーボイド等は不飽和であり、極性を有するために、互いに結合して巨大なアスファルテン粒子が析出し、スラッジが形成される。また、熱が加えられた場合、コロイド表層部は溶解し、更に温度上昇により粘度が低下することで粒子運動が盛んになり、アスファルテン同士が衝突する機会が多くなることで結合・会合してスラッジが形成される。
【0034】
レシチンは、これらのカーボン、アスファルテン質等のスラッジの結合や会合内に浸透及び吸着し、界面活性剤として働くことによって、その分散力でスラッジを細分化する作用を有する。また、この作用により異種燃料の混合や加熱によるコロイド粒子の結合等を防ぐことでスラッジの析出沈殿を防止する効果をも有する。
【0035】
iii)粒子状燃料添加剤における造粒時のバインダー作用。
上述のように、粒子状燃料添加剤を造粒する際にレシチンは少量の水分と混合されることで造粒に適する粘着性を生じ、バインダーとしての役割を担う。
【0036】
iv)粒子状燃料添加剤における解膠作用。
粒子状燃料添加剤に含まれるレシチンは、添加剤を燃料に投入した際に粒子が砕けやすくする解膠作用を有する。砕かれた添加剤は、更にレシチンの溶解性向上作用により非常に溶解しやすくなる。
【0037】
v)液体状燃料添加剤におけるフェロセン類の鉱物油に対する溶解性の向上。
フェロセン類は、鉱物油に対する溶解度が非常に低く、約2.5%の濃度までしか溶解しない。しかし、所定量のレシチンを添加することによって、フェロセンを5%の濃度まで溶解することが可能となり、その溶液の安定性は幅広い温度域で良好となる。
【0038】
(5)フェロセン類及びレシチンの燃料中での濃度
本発明の燃料添加剤は、船舶や発電設備等で使用されるディーゼルエンジン、油燃焼炉及びボイラー装置等に用いる各種燃料において、フェロセン類の濃度が1〜50ppm、レシチンの濃度が0.01〜500ppmとなるように添加して使用することが好ましい。
更に詳しくは、通常は、フェロセン類の濃度について、油燃焼炉及びボイラー装置では1〜10ppm、ディーゼルエンジンでは10〜50ppmとなるように連続注入して用いることが好ましい。
ただし、燃焼機関の状態によっては、目的とする燃焼促進作用、煤塵減少作用、NOX低減作用等を大幅に改善させようとする場合に、この連続注入量の数〜数十倍量を一時的に短時間注入することができる。
【0039】
上記レシチンの濃度は、燃料油及び燃料添加剤自体に対し、フェロセン類を容易に安定的に溶解させるのに有利な濃度であり、特に重質系の燃料油では、更にスラッジを分散させるのに有利な濃度である。
【0040】
このように、好ましいレシチンの濃度でフェロセン類を容易に安定的に溶解することにより、フェロセン類の有する作用効果を十二分に発揮させ、燃焼設備の長期安定運転に寄与することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、各種特性の評価は下記の要領で行った。
【0042】
[フェロセンの溶解性試験による評価]
固体状燃料添加剤(実施例1〜4・比較例1)
燃料油としてのA重油(硫黄分=0.09%、粘度=2.8cst(50℃))200gに対し、20℃、60rpmで攪拌しながらフェロセンを添加し、フェロセン濃度が3%に至るまでの溶解速度を秒数で評価した。引き続き、更にフェロセンを添加して安定な溶解液を最大濃度で作製し、室温に静置して1週間後の状態で安定性を評価した。結果を表2に示す。
液体状燃料添加剤(実施例5〜7・比較例2)
20℃、60rpmで攪拌しながら、表3の配合で調製した燃料添加剤について、A重油にフェロセンが完全に溶解するまでの溶解速度を秒数で評価した。得られた溶解液を室温にて静置して1週間後の状態で安定性を評価した。試験は200gスケールで行った。結果を表3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
結果
本発明の固体状燃料添加剤(実施例1〜4)は、比較例1と比較して、フェロセン濃度が3%に至るまでの溶解速度が非常に速い。また安定な溶解液の濃度について、比較例1が3%で不溶物が多い状態であるのに対し、実施例1〜4では3.5〜5.0%の濃度が可能となった。更に、実施例1〜4の1週間後の安定性評価は○〜◎の結果となった。このように本発明の固体状燃料添加剤は、フェロセンの溶解速度、溶解濃度、安定性評価の全ての面において非常に優れていることが認められた。
本発明の液体状燃料添加剤(実施例5〜7)は、比較例2と比較して、燃料添加剤の調製時において、A重油に対し所定量のフェロセンが完全溶解に至るまでの溶解速度が非常に速い。更に、1週間後の安定性評価は○〜◎の結果となった。このように本発明の液体燃料添加剤は、フェロセンの溶解速度、溶解濃度、安定性評価の全ての面において非常に優れていることが認められた。
【0046】
[スラッジ分散効果]
表2及び表3に記載の実施例及び比較例を用いてスラッジ分散試験を行った。
試験は日本船主協会法に準じて行った。
【0047】
操作手順
(1)C重油0.1gを試験管に採り、これにノルマルヘプタン20mlを加えた。これに実施例1〜7及び比較例1〜2の燃料添加剤を0.02ml(1/1000)添加した。
(2)試験管に栓をして完全に混ざるまで20回以上強く振とうした。
(3)これを室温で静置し、経過時間毎の分散状態を、次の基準によって判定した。
【0048】
判定基準
A…完全に分散し沈殿のないもの。
B…分散はしているが沈殿のあるもの。
沈殿量の少ないものから順に、B1、B2、B3とする。
C…分散しないもの(ほとんど沈殿しているもの)。
試験結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
結果
本発明の固体状燃料添加剤(実施例1〜4)及び本発明の液体状燃料添加剤(実施例5〜7)は、比較例1、2及び無添加と比較して極めて優れたスラッジ分散効果を有する。レシチンを含有しない比較例1、2では全く効果が見られず、無添加のC重油と同じであった。レシチンの効果は、概ね添加量に比例した結果であった。
【0051】
[燃焼速度の測定]
本発明の液体状燃料添加剤(実施例5〜7)及び比較例2の液体状燃料添加剤を添加した燃料油(C重油…上記スラッジ分散効果の評価に用いたものと同じ)10mgを示差熱天秤TG/DTA6300(セイコーインスツメンツ株式会社製)を用いて、昇温速度100℃/分にて500℃まで加熱燃焼させ(残炭生成終了点での質量をm1とする)500℃で保持した時の生成残炭(95%燃えきり点の質量をm2とする)の質量減少曲線からTG(熱重量分析)残炭燃焼速度定数を算出した。空気量は100ml/分で行った。算出方法には次式(I)を用いた。※1、※2
TG残炭燃焼速度定数=A×T×In(m1/m2)/τ・・・(I)
A :定数
T :温度
m1:残炭生成終了点での質量
m2:95%燃えきり点の質量
τ :(m2−m1)時間
※1 柴山ら、日本機械学会論文集、34(260)、769(1968)
※2 候ら、日本機械学会論文集、54(507)3301(1988)
試験結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
結果
本発明の液体状燃料添加剤(実施例5〜7)の1000ppm添加は、比較例2の1000ppm添加と比較して高いTG残炭燃焼速度定数(相対速度定数)が得られた。これはフェロセンの含有量が多いので当然の結果であるが、実施例5〜7の500ppm添加でも比較例2の1000ppm添加よりも高いTG残炭燃焼速度定数(相対速度定数)が得られた。更に、実施例5〜7の1000ppm添加では、比較例2の2000ppm添加よりも高いTG残炭燃焼速度定数(相対速度定数)が得られた。
これはレシチンのフェロセンに対する溶解度の向上とスラッジ分散効果との相乗効果と推察できる。レシチンを含有しない比較例2ではフェロセンは添加剤液中で不安定であるので燃料油中でも溶解が不十分と考えられる。また、スラッジ分散効果もないために、フェロセンの相対含有量が同じ場合、実施例5〜7と比較して効果が劣ったと思われる。
【0054】
[ディーゼルエンジンによる実機試験]
本発明の固体状燃料添加剤(実施例3)及び比較例1の固体状燃料添加剤を用いて、ディーゼルエンジンを備えた下記の仕様の貨物船で実機試験を行った。実機試験は、攪拌機付溶解タンク内で、固体燃料添加剤9.0Kgを360リットルのA重油に溶解させ、次いで、該溶解タンクから注入ポンプで燃料(C重油)ラインに1/1000添加して行った(燃料添加剤の添加量は25ppm)。
実施例3と比較例1の固体状燃料添加剤について、1ヶ月(30日)ごと交互に4ヶ月に渡って上記の方法で添加を行い(各固体燃料添加剤について、1ヶ月間×2回)、燃料消費量及び熱交換機の汚れ具合を目視観察して比較した。その後、水洗浄を行い汚れの除去性を比較した。
【0055】
貨物船の仕様
総トン数 :160,000トン
載貨重量トン数 :300,500トン
連続最大出力 :21,300KW×74rpm
シリンダー数 :10個
ターボ過給機の回転数 :10,000rpm
燃料消費量 :90,000L/day(無添加時)
試験結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
実船での試験なので、燃料消費量は風、潮の流れ、出力の相違等によって影響されるが、それぞれの項目について2回の試験とも同様の結果となったので評価は正しいと判断出来る。
本発明の固体燃料添加剤(実施例3)では、フェロセン自体の添加量は比較例1よりも僅かに少ないにも関わらず、燃料消費量が少ない結果となった。これは、レシチンがフェロセンの溶解性及び溶解度を向上させ、更にレシチン自体のスラッジ分散効果により、微細で安定した燃料噴霧が実現することで、総合的かつ相乗的に燃焼効率が向上したものである。また、燃焼促進作用が向上したため、熱交換機の汚れも比較例1に比べて清浄であり、簡単な水洗で除去されるという優位性がみられた。
その裏付けとして、実施例3の燃料添加剤を溶解タンク内に溶解させた場合、投入後、速やかに崩壊分散して約10分で完全に溶解し、また試験中も溶解タンク内には全く沈殿物・浮遊物は観られないことが確認された。それに対して、比較例1の燃料添加剤は約30分攪拌後に一部浮遊物が観られ、試験中も溶解タンク内はフェロセン不溶解分の沈殿・浮遊物が観られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロセン及び/又はフェロセン誘導体とレシチンとを含有することを特徴とする燃料添加剤。
【請求項2】
上記フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を80〜99質量%、上記レシチンを1〜20質量%含有し、固体状であることを特徴とする請求項1に記載の燃料添加剤。
【請求項3】
上記フェロセン及び/又はフェロセン誘導体を78〜99質量%、上記レシチンを0.9〜20質量%、水分を0.1〜2質量%含有し、粒子状であることを特徴とする請求項1に記載の燃料添加剤。
【請求項4】
上記フェロセン及び/又はフェロセン誘導体と上記レシチンとを溶解させた鉱物油を含有する燃料添加剤であって、
上記フェロセン及び/又はフェロセン誘導体の含有量が2〜5質量%、上記レシチンの含有量が5〜50質量%であり、液体状であることを特徴とする請求項1に記載の燃料添加剤。
【請求項5】
燃料中の上記フェロセン及び/又はフェロセン誘導体の濃度が1〜50ppm、且つ上記レシチンの濃度が0.01〜500ppmとなるように添加して使用されることを特徴する請求項1〜4のいずれかの項に記載の燃料添加剤。

【公開番号】特開2009−167301(P2009−167301A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7269(P2008−7269)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【特許番号】特許第4131748号(P4131748)
【特許公報発行日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000108546)株式会社タイホーコーザイ (28)
【Fターム(参考)】