説明

燃料用ホース

【課題】帯電防止性に優れ、しかも、耐サワー性、シール性等に優れた燃料用ホースを提供する。
【解決手段】ポリアミド系樹脂製内層1を有し、その内層1の内周面全長にわたり、下記の(A)〜(C)を必須成分とする導電性コーティング層2が形成されている。
(A)フッ素ゴム。
(B)導電剤。
(C)下記の(a)または(b)からなる架橋剤。
(a)ポリヒドロキシ芳香族化合物および第四級アンモニウム塩。
(b)アミン系架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料〔ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、アルコール、水素、軽油、ジメチルエーテル、LPG、CNG等〕の輸送等に用いられる燃料用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリン燃料ホース等の燃料用ホースとしては、従来より、低コストな材料であるポリアミド樹脂を用いたホースがある。このようなホースは、ポリアミド樹脂のみにより形成された単層ホース以外に、例えば、ポリアミド樹脂層に他の樹脂層を積層し、多層構造をとることもある。しかし、このような多層の場合であっても、その最内層の材料には、耐燃料油性・耐低温衝撃性に優れることから、ポリアミド樹脂を用いるのが一般的である。ところで、上記のような燃料用ホースにおいては、そのホース内を流れる燃料(ガソリン等)とホース内周面との摩擦により静電気が発生すると、燃料への引火等の事故のおそれがあることから、そのようなことのないよう、ホースに導電性(帯電防止性)を付与し、上記静電気をホース外部へ逃がすことが極めて重要である。上記導電性の付与は、通常、上記最内層(ポリアミド樹脂層)にカーボンブラックを含有させることにより行われる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8ー86387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ポリアミド樹脂は、元来、燃料用途で重要な特性である耐サワー性(ガソリンが酸化されて生成するサワーガソリンに対する耐性)に限界があり、さらに、上記ポリアミド樹脂中にカーボンブラックを含有すると、そのカーボンブラックが燃料中の過酸化物を活性化させると考えられ、このことが、耐サワー性の劣化を更に引き起こすおそれがある。また、上記カーボンブラックの増量により導電性(帯電防止性)の確保を行うと、所望の導電性を確保するまでに相当量のカーボンブラックの増量を行わなければならないことから、そのホースにおけるシール性の低下や、ホースの柔軟性低下が懸念される。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、帯電防止性に優れ、しかも、耐サワー性、シール性等に優れた燃料用ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明の燃料用ホースは、ポリアミド系樹脂製内層を有し、その内層の内周面全長にわたり、下記の(A)〜(C)を必須成分とする導電性コーティング層が形成されているという構成をとる。
(A)フッ素ゴム。
(B)導電剤。
(C)下記の(a)または(b)からなる架橋剤。
(a)ポリヒドロキシ芳香族化合物および第四級アンモニウム塩。
(b)アミン系架橋剤。
【0006】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ポリアミド系樹脂製内層中にカーボンブラックを含有させて帯電防止を図るのではなく、ポリアミド系樹脂製内層の内周面全長にわたり、薄い導電性コーティング層を形成し、帯電防止を図ることを想起した。そして、このような導電性コーティング層に適したコーティング材料について、本発明者らが更に研究を重ねた結果、フッ素ゴムと、導電剤(カーボンブラック,イオン導電剤等)と、所定の架橋剤とを用いて導電性コーティング層を形成すると、所期の目的が達成できることを見いだし、本発明に到達した。ここで、本発明において、必須成分とは、任意成分に対するものであって、構成上必ず含有される成分のことをいい、量的な制約は受けない。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明の燃料用ホースは、そのポリアミド系樹脂製内層の内周面全長にわたり、フッ素ゴムと、導電剤と、所定の架橋剤とを用いて形成された導電性コーティング層を備えている。そのため、帯電防止性に優れ、しかも、耐サワー性、シール性、耐ガソリン透過性等にも優れている。そして、本発明の燃料用ホースは、特に、自動車用燃料配管用ホースとして、優れた機能を発揮することができる。また、ポリアミド系樹脂製内層材料へのカーボンブラックの配合を不要化あるいは減少化させることが可能となることから、ホースのシール性を更に良好にすることができ、燃料の漏出等を効果的に防ぐことができる。
【0008】
特に、上記導電性コーティング層の厚みが、3〜20μmの範囲に設定されていると、そのシール性が効果的に確保できるようになる。
【0009】
また、上記導電性コーティング層の電気抵抗が、1.0×108 Ω・cm以下に設定されていると、より帯電防止性に優れるようになる。
【0010】
そして、上記燃料用ホースの外周面に、さらに、フッ素ゴムと、所定の架橋剤とを必須成分とするコーティング層が形成されていると、融雪剤等による腐蝕劣化等を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の燃料用ホースは、例えば、図1に示すように、ポリアミド系樹脂製内層1の内周面全長にわたり、薄い導電性コーティング層2が形成され構成される。なお、図1において、ポリアミド系樹脂製内層1の外周面に形成されている導電性コーティング層2は、必要に応じて適宜配設されるものであり、不必要なときには省略される。
【0013】
上記ポリアミド系樹脂製内層1の材料であるポリアミド系樹脂としては、脂肪族系、芳香族系等特に限定するものではなく、例えば、ラクタムの重合物、ジアミンとジカルボン酸の縮合物、アミノ酸の重合物およびこれらの共重合体およびブレンド物等があげられる。具体的には、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド99(PA99)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド912(PA912)、ポリアミド12(PA12)、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体(PA6/66)、ポリアミド6とポリアミド12との共重合体(PA6/12)等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0014】
そして、上記ポリアミド系樹脂製内層1の内周面全長にわたり形成される導電性コーティング層2は、フッ素ゴム(A成分)と、導電剤(B成分)と、所定の架橋剤(C成分)とを用いて形成されている。
【0015】
上記フッ素ゴム(A成分)としては、特に限定するものではなく、例えば、フッ化ビニリデンと三フッ化塩化エチレンとの共重合体、フッ化ビニリデンと六フッ化プロピレンとの共重合体、フッ化ビニリデンと六フッ化プロピレンと四フッ化エチレンとの三元共重合体、四フッ化エチレンとプロピレンとの共重合体、フッ化ビニリデンと四フッ化エチレンとプロピレンとの三元共重合体、ポリフッ化ビニリデンとアクリルゴムとのブレンド物等があげられる。
【0016】
上記フッ素ゴム(A成分)とともに用いられる導電剤(B成分)としては、特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラック等の電子導電剤や、イオン導電剤があげられる。上記電子導電剤は、具体的には、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、c−ZnO,c−TiO2 ,c−Fe3 4 ,c−SnO2 等の導電性金属酸化物、グラファイト,カーボンナノチューブ,カーボンブラック等の導電性粉末等があげられる。上記イオン導電剤は、具体的には、リン酸エステル、スルホン酸塩、脂肪族多価アルコール、脂肪族アルコールサルフェート塩等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、上記「c−」とは、導電性を有するという意味である。
【0017】
上記導電剤(B成分)の含有割合は、フッ素ゴム(A成分)100重量部(以下「部」と略す)に対して、10〜40部の範囲内が好ましく、特に好ましくは15〜30部の範囲内である。すなわち、上記導電剤(B成分)の含有割合が10部未満であると、目的とする導電性が得られにくくなるからであり、逆に40部を超えると、柔軟性に乏しくなる傾向がみられるからである。
【0018】
上記フッ素ゴム(A成分)および導電剤(B成分)とともに用いられる所定の架橋剤(C成分)には、下記の(a)または(b)からなる架橋剤が用いられる。
(a)ポリヒドロキシ芳香族化合物および第四級アンモニウム塩。
(b)アミン系架橋剤。
【0019】
上記(a)におけるポリヒドロキシ芳香族化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(いわゆる「ビスフェノールA」)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(いわゆる「ビスフェノールAF」)、レゾルシン、1,3−トリヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、4,4′−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアンスラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(いわゆる「ビスフェノールB」)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3′,5,5′−テトラクロロビスフェノールA、3,3′,5,5′−テトラブロモビスフェノールA、またはこれらのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩などがあげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0020】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物の含有割合は、フッ素ゴム(A成分)100部に対して、0.5〜5部の範囲内が好ましい。すなわち、上記化合物が0.5部未満であると、架橋が不充分となって、充分な強度が得られなくなるおそれがあり、逆に5部を超えると、硬くなりすぎ、柔軟性に劣る傾向がみられるからである。
【0021】
また、上記(a)における第四級アンモニウム塩としては、例えば、8−メチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウム−メチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリドなど;フェニルトリメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド、硫酸水素フェニルトリメチルアンモニウム、フェニルトリエチルアンモニウムクロリド、フェニルトリオクチルアンモニウムブロミドなど;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムオクタン酸塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムノナン酸塩、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムデカン酸塩、1,6−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムオクタン酸塩、テトラブチルアンモニウムオクタン酸塩、テトラブチルアンモニウムノナン酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムオクタン酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムノナン酸塩など;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムギ酸塩、1,6−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムギ酸塩、テトラブチルアンモニウムギ酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムギ酸塩など;硫酸水素テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、硫酸水素ベンジルトリブチルアンモニウム、硫酸水素トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウム、硫酸水素8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムなどがあげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、ジアザビシクロウンデセン塩が、加硫性を向上させる点から好ましい。
【0022】
上記第四級アンモニウム塩の含有割合は、フッ素ゴム(A成分)100部に対して、0.1〜5部の範囲内が好ましい。すなわち、上記第四級アンモニウム塩が0.1部未満であると、加硫接着性が不充分となるおそれがあり、逆に上記第四級アンモニウム塩が5部を超えると、加硫制御が困難になる傾向がみられるからである。
【0023】
一方、上記(b)のアミン系架橋剤としては、例えば、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、テトラエチレンペンタミン、1,6−ヘキサンジアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、エチレンジアミンカルバメート、脂環式アミン塩などがあげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0024】
上記アミン系架橋剤の含有割合は、フッ素ゴム(A成分)100部に対して、0.5〜5部の範囲内が好ましい。すなわち、上記アミン系架橋剤が0.5部未満であると、加硫接着性が不充分となって、充分な強度が得られなくなるおそれがあり、逆に上記アミン系架橋剤が5部を超えると、硬くなりすぎ、柔軟性に劣る傾向がみられるからである。
【0025】
なお、上記導電性コーティング層2用材料には、上記(A)〜(C)の各成分とともに、必要に応じ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等の金属酸化物や、水酸化カルシウム等の金属水酸化物を含有することができる。また、それ以外にも、必要に応じて、共架橋剤、補強材、白色充填材、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤、老化防止剤、難燃剤等を含有しても差し支えない。さらに、上記導電性コーティング層2用材料には、塗工性を高めるため、通常、水や、ケトン類,エステル類,エーテル類等の溶剤が用いられる。水に分散させる場合には、適宜、ラウリル硫酸塩等の分散剤が含有される。それ以外にも、シリコーンオイル等の塗料添加剤や、トルエン,キシレン等の溶媒を含有しても差し支えない。
【0026】
そして、本発明の燃料用ホースは、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、ポリアミド系樹脂を押出成形機を用いて押出成形し、ポリアミド系樹脂製内層1を作製する。他方、上記(A)〜(C)の各成分材料を準備し、必要に応じてその他の成分材料も準備し、これらを、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、二軸混練押出機等の混練機を用いてコンパウンドとした後、さらにこのコンパウンドを、必要に応じ、溶剤に溶解し、サンドミル等で分散することにより、導電性コーティング層2用材料(コーティング液)を調製する。そして、上記ポリアミド系樹脂製内層1の、内周面,外周面のうちの少なくとも内周面に、上記調製のコーティング液を塗工する。この塗工法は、特に制限するものではなく、ディッピング法、スプレーコーティング法、ロールコート法等の従来の方法が適用できる。そして、塗工後、乾燥および加熱処理を行うことにより、コーティング液中の溶剤を蒸発除去させ、導電性コーティング層2を形成する。このようにして、目的する燃料用ホースを作製することができる。なお、図1に示す燃料用ホースは、ディッピング法により形成されたものであり、ホース外周面にも、その内周面と同様に導電性コーティング層2が形成されている。
【0027】
このようにして得られるホース各層の厚みは、ホースの用途等により異なるが、ポリアミド系樹脂製内層1の厚みは、通常、0.05〜2.0mmであり、好ましくは0.1〜1.5mmである。また、上記ポリアミド系樹脂製内層1の内周面に形成された導電性コーティング層2の厚みは、3〜20μmの範囲に設定されていると好ましく、より好ましくは3〜15μmの範囲である。すなわち、上記導電性コーティング層2の厚みが3μm未満であると、シール性が確保し難く、逆に20μmを超える厚みであると、金属製パイプ等の挿入不具合を起こしやすくなるからである。なお、ホースの内径は、用途によって異なるが、通常、2〜60mmであり、好ましくは4〜50mmである。
【0028】
また、上記ポリアミド系樹脂製内層1の内周面に形成された導電性コーティング層2の電気抵抗が、1.0×108 Ω・cm以下に設定されていると、帯電防止性に優れるようになるため、好ましい。より好ましくは1.0×106 Ω・cm以下である。
【0029】
さらに、図1のように、ホースの外周面に導電性コーティング層2が形成されていると、融雪剤等による腐蝕劣化等を効果的に防止することができる。すなわち、本発明の燃料用ホースは、主に自動車燃料用ホースに用いられるのであるが、その使用の際に、ポリアミド樹脂を材料とする層に融雪剤が付着すると、その融雪剤の主成分である塩化カルシウムにより、上記層が劣化することがあるからである(特に、ポリアミド6をその材料とする場合に、顕著な劣化がみられる)。このような劣化が生じると、ホースの応力のかかった部分にクラックが生じる。そのため、この劣化を防止すべく、ホースの外周面に対しても上記導電性コーティング層2を形成することが好ましい。なお、ホース外周面においては、必ずしも導電性を要しないため、上記導電性コーティング層2に代えて、導電剤以外の必須成分〔(A)および(C)成分〕を用いてコーティング層を形成した場合であっても、上記と同様の効果(腐蝕劣化等の防止効果)を得ることができる。
【0030】
また、本発明のホースは、ポリアミド系樹脂製内層1の内周面に導電性コーティング層2が形成された2層構造や、さらにそのポリアミド系樹脂製内層1の外周面にコーティング層(例えば、図1に示したような導電性コーティング層2)が形成された3層構造のものに限定されるものではない。すなわち、上記ポリアミド系樹脂製内層1の外周面に、さらに、他の樹脂層や,ゴム層や,補強糸層等を形成してもよい。
【0031】
本発明のホースは、自動車の燃料用ホースとして好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、例えば、トラクターや耕運機等の燃料用ホース等にも用いることができる。
【0032】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例1】
【0033】
〔導電性コーティング層形成材料(コーティング液)の調製〕
フッ素ゴム(デュポンダウエラストマー社製、バイトンA)100部と、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン(デュポン社製、Diak# 3)3部と、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)20部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ# 30)15部とを、ニーダーを用いて混練し、さらに、溶剤(MEK)を加えて混合・攪拌することにより、固形分20%のコーティング液を調製した。
【0034】
〔燃料用ホースの作製〕
まず、ポリアミド11をホース状に押出成形し、ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み1.0mm)を形成した。ついで、その内周面および外周面に、上記調製のコーティング液をディッピングし、160℃で30分間加硫してコーティング層(厚み10μm)を形成することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【実施例2】
【0035】
まず、ポリアミド12をホース状に押出成形し、ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み1.0mm)を形成した。ついで、その内周面および外周面に、実施例1と同様にして調製したコーティング液をディッピングし、160℃で30分間加硫してコーティング層(厚み10μm)を形成することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【実施例3】
【0036】
まず、ポリアミド6と、エチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH)層用材料であるEVOH(クラレ社製、エバールEP−F101)と、接着層用材料である酸変性ポリプロピレン(三井化学社製、アドマーQF500)と、ポリアミド12とを準備し、ホース状に、四層共押出成形し、ポリアミド6樹脂層(内径6.0mm、厚み0.3mm)の外周面にEVOH層(厚み0.1mm)が形成され、上記EVOH層の外周面に接着層(厚み0.1mm)が形成され、上記接着層の外周面にポリアミド12樹脂層(厚み0.5mm)が形成されてなるホースを作製した。ついで、そのホースの内周面および外周面に、実施例1と同様にして調製したコーティング液をディッピングし、150℃で60分間加硫してコーティング層(厚み10μm)を形成することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【実施例4】
【0037】
まず、ポリアミド12と、ポリフェニレンスルフィド(PPS)層用材料であるPPSとを準備し、ホース状に、三層共押出成形し、ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み0.3mm)の外周面にPPS層(厚み0.1mm)が形成され、上記PPS層の外周面にポリアミド樹脂層(厚み0.6mm)が形成されてなるホースを作製した。ついで、そのホースの内周面および外周面に、実施例1と同様にして調製したコーティング液をディッピングし、160℃で30分間加硫してコーティング層(厚み10μm)を形成することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【実施例5】
【0038】
まず、ポリアミド12と、変性ビニリデンフルオライド樹脂(変性PVDF)層用材料である変性PVDFとを準備し、ホース状に、三層共押出成形し、ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み0.3mm)の外周面に変性PVDF層(厚み0.2mm)が形成され、上記変性PVDF層の外周面にポリアミド樹脂層(厚み0.5mm)が形成されてなるホースを作製した。ついで、そのホースの内周面および外周面に、実施例1と同様にして調製したコーティング液をディッピングし、160℃で30分間加硫してコーティング層(厚み10μm)を形成することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【実施例6】
【0039】
フッ素ゴム(ダイキン工業社製、ダイエルG−801)100部と、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン2部と、8−ベンジル−1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムクロリド0.5部と、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)20部と、酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ# 150)3部と、水酸化カルシウム(近江化学社製、CAL−Z)6部とを、ニーダーを用いて混練し、さらに、溶剤(MEK)を加えて混合・攪拌することにより、固形分20%のコーティング液(導電性コーティング層形成材料)を調製した。そして、実施例1における導電性コーティング層形成材料に代えて、上記調製のコーティング液を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、目的とする燃料用ホース(図1参照)を製造した。
【0040】
〔比較例1〕
まず、ポリアミド12を100部に対し、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)15部を混合・攪拌し、導電ポリアミド樹脂層用材料を調製した。そして、上記調製の材料と、ポリアミド12とを準備し、ホース状に、二層共押出成形し、導電ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み0.1mm)の外周面にポリアミド樹脂層(厚み0.9mm)が形成されてなる燃料用ホースを作製した。
【0041】
〔比較例2〕
まず、ポリアミド12を100部に対し、カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、ケッチェンブラックEC)15部を混合・攪拌し、導電ポリアミド樹脂層用材料を調製した。そして、上記調製の材料と、ポリアミド12と、変性ビニリデンフルオライド樹脂(変性PVDF)層用材料である変性PVDFとを準備し、ホース状に、四層共押出成形して、導電ポリアミド樹脂層(内径6.0mm、厚み0.1mm)の外周面にポリアミド樹脂層(厚み0.2mm)が形成され、上記ポリアミド樹脂層の外周面に変性PVDF層(厚み0.2mm)が形成され、上記変性PVDF層の外周面にポリアミド樹脂層(厚み0.5mm)が形成されてなる燃料用ホースを作製した。
【0042】
このようにして得られた実施例品および比較例品の燃料用ホースを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1に示した。
【0043】
〔シール性〕
上記各ホースの両端に金属製パイプ(外径8mm,内径6mm,先端R0.5の口金)を取り付け、120℃×168時間熱老化し、金属パイプを万力で挟み込み、チューブを180°回転させた後、水没させて、ホース内にエアーによる圧力を加えた。そして、その圧力を徐々に上げ、気泡が洩れ出てくるときの圧力を測定し、シール性の評価を行った。すなわち、8.8MPa未満の圧力で気泡の洩れが確認されたものを×、8.8MPa以上の圧力であっても気泡の洩れが確認されなかったものを○と表示した。
【0044】
〔柔軟性〕
上記各ホースを、直径200mmの管状の筒(マンドレル)に巻きつけ、その巻きつけ度合により、柔軟性の評価を行った。すなわち、上記巻きつけによりキンク(座屈)しなかったものを○、キンク(座屈)したものを×と表示した。
【0045】
〔耐サワー性〕
Fuel Cにラウロイルパーオキサイド(LPO)を5重量%混合してなる模擬変性ガソリンを調製した。そして、長さ10mの燃料用ホースの両端部に金属製パイプを圧入し、圧力レギュレーターを介して、0.3MPaの圧力で上記模擬変性ガソリンを、60℃で8時間循環させた後16時間封入した。これを1サイクルとして20サイクル行った後、燃料用ホースをサンプリングして、180°に折り曲げ、その部分を半割し、内面状態を目視により観察した。その結果、クラック等の異常が何ら生じなかったものを○、クラックや割れが生じたものを×として耐サワー性の評価を行った。
【0046】
〔導電性〕
GM213法により、ホースの内層内周面の表面抵抗を測定した。そして、その表面抵抗が1.0×108 Ω以下であったものを○、1.0×108 Ωを超えたものを×として、導電性の評価を行った。
【0047】
【表1】

【0048】
上記結果から、実施例品は、いずれもシール性、柔軟性、耐サワー性に優れていた。また、ホース内周面の導電性が良好であったことから、実施例のホースは帯電防止性に優れているものであることがわかる。
【0049】
これに対して、比較例1,2品は、ホース内周面の導電性は良好であったが、シール性、耐サワー性等に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の自動車用燃料系ホースは、ガソリン、アルコール混合ガソリン、ディーゼル燃料のような自動車燃料の輸送等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の燃料用ホースの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ポリアミド系樹脂製内層
2 導電性コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂製内層を有し、その内層の内周面全長にわたり、下記の(A)〜(C)を必須成分とする導電性コーティング層が形成されていることを特徴とする燃料用ホース。
(A)フッ素ゴム。
(B)導電剤。
(C)下記の(a)または(b)からなる架橋剤。
(a)ポリヒドロキシ芳香族化合物および第四級アンモニウム塩。
(b)アミン系架橋剤。
【請求項2】
上記導電性コーティング層の厚みが、3〜20μmの範囲に設定されている請求項1記載の燃料用ホース。
【請求項3】
上記導電性コーティング層の電気抵抗が、1.0×108 Ω・cm以下に設定されている請求項1または2記載の燃料用ホース。
【請求項4】
上記燃料用ホースの外周面に、さらに上記(A)および(C)を必須成分とするコーティング層が形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料用ホース。

【図1】
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【公開番号】特開2006−71027(P2006−71027A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256040(P2004−256040)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】