説明

燃料系部品及びその製造方法

【課題】燃料の透過性を大幅に抑制しながらも高分子材料の伸び特性を十分に生かすことができる燃料系部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】高分子材料からなるホース形の基材11中にβ−ジケトン系の金属錯体からなるバリア材12を含浸させた燃料系ホース10とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料からなる燃料系部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の燃料系ホース、燃料系タンク、燃料系パッキン等に用いられる高分子材料からなる燃料系部品は、金属材料からなる燃料系部品よりも、ガソリン等の燃料が透過し易いため、金属材料からなる燃料系部品よりも、燃料が外部に揮発拡散し易くなっている。このため、例えば、下記特許文献1等においては、金属箔を樹脂材料でラミネートした材料からなる燃料系樹脂ホースを適用することにより、燃料の透過性を低減することを提案している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−009957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1等で提案されている燃料系樹脂ホースにおいては、金属箔と樹脂材料との伸び率が大きく異なるため、例えば、金属管の端部を内側に差し込むようにして接続するとき、当該金属管の径サイズ等によっては金属箔が樹脂材料の伸びに追従できずに破損してしまう可能性があった。
【0005】
このようなことから、本発明は、燃料の透過性を大幅に抑制しながらも高分子材料の伸び特性を十分に生かすことができる燃料系部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための、本発明に係る燃料系部品は、燃料と接触する燃料系部品であって、高分子材料からなる基材中にβ−ジケトン系の金属錯体からなるバリア材を含浸させたものからなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る燃料系部品は、上述した燃料系部品において、前記高分子材料が、極性を有するものであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る燃料系部品は、上述した燃料系部品において、前記高分子材料が、熱可塑性を有するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る燃料系部品は、上述した燃料系部品において、前記基材に対する前記バリア材の金属成分の含浸量が、2〜40重量%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る燃料系部品は、上述した燃料系部品において、前記金属錯体が、銅を含んでいるものであることを特徴とする。
【0011】
他方、本発明に係る燃料系部品の製造方法は、上述した燃料系部品の製造方法であって、前記基材及び前記バリア材を超臨界流体中に曝すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る燃料系部品の製造方法は、上述した燃料系部品の製造方法において、前記超臨界流体が、二酸化炭素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る燃料系部品によれば、基材を構成する高分子材料の隣り合う主鎖間に比較的大きく嵩高い金属錯体の分子が入り込んで、当該主鎖間を塞ぐように当該主鎖間に介在するようになるため、伸び特性をあまり低下させることなく当該主鎖間での燃料の通過を阻害することができることから、燃料の透過性を大幅に抑制しながらも高分子材料の伸び特性を十分に生かすことができる。
【0014】
また、本発明に係る燃料系部品の製造方法によれば、上述した燃料系部品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る燃料系部品及びその製造方法を自動車等の燃料系ホースに適用した場合の実施形態を図1〜4に基づいて以下に説明する。図1は、燃料系ホースの外観図、図2は、図1の燃料系ホースの拡大断面図、図3は、図2の燃料系ホースの一部抽出拡大図、図4は、図1の燃料系ホースの製造方法の実施に使用する製造装置の概略構成図である。
【0016】
図1,2に示すように、本実施形態に係る燃料系ホース10は、高分子材料からなるホース形の基材11中にβ−ジケトン系の金属錯体からなるバリア材12を含浸させたものからなっている。
【0017】
このような燃料系ホース10は、前記基材11及び前記バリア材12を超臨界流体中に曝すことにより得ることができる。具体的には、例えば、図4に示すように、上記基材11及び上記バリア材12を耐圧容器111の内部に入れて、開閉弁114,115を開放し、二酸化炭素ボンベ112の調整弁112aを調整すると共に、加圧ポンプ113を作動させることにより、二酸化炭素ボンベ112から耐圧容器111の内部に二酸化炭素(CO2)101を送給して、耐圧容器111内の空気を外部にパージした後、開閉弁115を閉鎖すると共に加熱器116を作動して耐圧容器111内の二酸化炭素101を所定の条件(例えば50℃、10MPa)の超臨界流体(CO2の臨界点:約31℃、7.4MPa)に調整して前記バリア材12を超臨界流体に溶解させ、当該耐圧容器111内を均一な条件に揃えた後、前記調整弁112a及び開閉弁114を閉鎖し、加圧ポンプ113の作動を停止すると共に、上記加熱器116を調整して耐圧容器111内をさらに昇温(例えば120℃)することにより、当該耐圧容器111内で超臨界流体となった二酸化炭素101と共に上記バリア材12を前記基材11の表面から内部に浸入させることにより、当該基材11中に当該バリア材12を含浸させ、所定時間経過後、加熱器116の作動を停止して耐圧容器111の加熱を中止し、所定温度にまで戻ったところで前記開閉弁115を徐々に開放して耐圧容器111内の圧力を常圧にまで戻すことにより、耐圧容器111内から燃料系ホース10として取り出すことができる。
【0018】
このようにして基材11中にバリア材12を含浸させた燃料系ホース10においては、図3に示すように、基材11を構成する高分子材料の隣り合う主鎖11a間に比較的大きく嵩高い金属錯体の分子12aが入り込んで、当該主鎖11a間を塞ぐように当該主鎖11a間に介在するようになるので、伸び特性をあまり低下させることなく当該主鎖11a間での燃料の通過を阻害することができる。
【0019】
したがって、本実施形態に係る燃料系ホース10によれば、燃料の透過性を大幅に抑制しながらも高分子材料の伸び特性を十分に生かすことができるので、例えば、金属管の端部を内側に差し込むようにして接続しても、外部への燃料の揮発拡散性能の低下を引き起こすことがない。
【0020】
なお、前記超臨界流体としては、臨界温度や臨界圧力等の物性や溶媒としての特性等の観点から、二酸化炭素が最も好ましい。
【0021】
また、前記基材11を構成する高分子材料としては、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリビニルクロライド(PVC)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の樹脂や、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等のゴム等を挙げることができ、特に、極性を有する高分子材料(例えば、PA、PVC、EVOH、PVDF等)を適用すると、基材11に対して超臨界流体が馴染み易く、浸入しやすくなるので、非常に好ましく、さらに、熱可塑性を有する高分子材料(例えば、PA、PVC、EVOH、PVDF等)であると、上記製造の際に基材11に対してバリア材12が浸入しやすくなるので、とても好ましい。
【0022】
また、前記バリア材12を構成するβ−ジケトン系の金属錯体としては、例えば、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)パラジウム、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウム、トリス(ジピバロイルメタネート)アルミニウム、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)ニッケル、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)亜鉛、ビス(アセチルアセトネート)亜鉛等をあげることができ、特に、当該金属錯体が銅を含んでいるものであると、超臨界流体の二酸化炭素に対する溶解度を高くすることができるので、非常に好ましい。
【0023】
このような金属錯体をバリア材12に適用すると、極性を有する高分子材料からなる基材11に対してバリア材12が馴染み易くなるので、バリア材12を基材11中に浸入させ易くすることができると共に、バリア材12を基材11中に保持させ易くなるだけでなく、モノケトン系のような高い反応性がなく、比較的安定した状態を維持することができ、取扱性が良好となるので、とても好ましい。
【0024】
また、前記基材11に対する前記バリア材12の金属成分の含浸量が、2〜40重量%であると好ましい(特に、4〜25重量%であるとより好ましい)。なぜなら、前記基材11に対する前記バリア材12の金属成分の含浸量が、2重量%未満であると、燃料の透過性を十分に抑制することができず、40重量%を超えると、高分子材料からなる基材11の伸び率が大きく低下してしまうからである。
【0025】
なお、本実施形態では、自動車等の燃料系ホース10に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、自動車等の燃料系タンクや燃料系パッキン等にも本実施形態の場合と同様にして適用することができるのはもちろんのこと、高分子材料からなる燃料系部品であれば、本実施形態の場合と同様にして適用することができる。
【実施例】
【0026】
本発明に係る燃料系部品の効果を確認するために行った確認試験を図5に基づいて以下に説明する。図5は、試験器具の概略構成図である。
【0027】
[試験体の作製]
前述した実施形態に基づいて、下記に示す条件で試験体A,Bを作製した。なお、比較のため、バリア材を含浸させない基材のままの比較体も作製した。
【0028】
〈試験体A〉
・基材:厚さ1.1mm、直径4.0cmの円形状のPA11シート
・バリア材:ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)銅
・超臨界流体:CO2を50℃、10MPaの状態に調整した後、120℃にまで昇温
・処理時間:9時間
【0029】
〈試験体B〉
・処理時間:25時間
※上記条件以外は試験体Aと同一
【0030】
〈比較体〉
・基材:試験体A,Bと同一
※バリア材含浸処理はなし
【0031】
[試験体中のバリア材の含浸量]
上述したようにして作製した試験体A,B中のバリア材の金属成分の厚さ方向での含浸量分布を測定したところ、試験体Aは、図6に示すように、バリア材の金属成分の含浸量が約2〜22重量%となり、試験体Bは、図7に示すように、バリア材の金属成分の含浸量が約4〜23重量%となった。なお、図6,7で示されているように、試験体A,Bの厚さ方向で中心位置よりも外側においてバリア材の含浸量が高くなるのは、バリア材が基材の外側(表面側)から内側(中心側)に向かって徐々に含浸していくからである。
【0032】
[試験方法]
図5に示すように、開口部を上方に向けたアルミニウム製の試験容器121の内部に燃料102(ガソリン)を入れ、当該試験容器121の開口部を塞ぐように試験体1を載置した後、外面と内面とを連通する連通孔122aを複数形成されたアルミニウム製の蓋板122で当該試験容器121の上記開口部及び試験体1を覆うように当該蓋板122を当該試験容器121に締結具123で締結固定した後、蓋板122を下側に位置させるように上下の向きを反転し(図5A参照)、これを恒温槽(40℃)に入れて所定時間(360〜600時間)保持すると共に、定期的に重量計測し、重量減少量に基づいて、試験体1の燃料透過抑制率を求める一方、引張り試験を行って、引張り伸び率を求めた。なお、比較体においても、上述と同様にして燃料透過抑制率及び引張り伸び率を求めた。
【0033】
[試験結果]
その結果を下記の表1に示す。表1からわかるように、試験体A,Bは、比較体と同様に十分な引張り伸び率を発現しながらも、燃料透過抑制率を向上できることが確認された。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る燃料系部品は、燃料の透過性を大幅に抑制しながらも高分子材料の伸び特性を十分に生かすことができるので、自動車産業等を始めとする各種産業において、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る燃料系部品を自動車等の燃料系ホースに適用した場合の実施形態の外観図である。
【図2】図1の燃料系ホースの拡大断面図である。
【図3】図2の燃料系ホースの一部抽出拡大図である。
【図4】図1の燃料系ホースの製造方法の実施に使用する製造装置の概略構成図である。
【図5】本発明に係る燃料系部品の効果を確認するために行った確認試験に使用する試験器具の概略構成図である。
【図6】試験体Aの厚さ方向の位置とバリア材の金属成分の含浸量との関係を表すグラフである。
【図7】試験体Bの厚さ方向の位置とバリア材の金属成分の含浸量との関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 試験体
10 燃料系ホース
11 基材
11a 主鎖
12 バリア材
12a 分子
101 二酸化炭素
102 燃料
111 耐圧容器
112 二酸化炭素ボンベ
112a 調整弁
113 加圧ポンプ
114,115 開閉弁
116 加熱器
121 試験容器
122 蓋板
122a 連通孔
123 締結具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と接触する燃料系部品であって、
高分子材料からなる基材中にβ−ジケトン系の金属錯体からなるバリア材を含浸させたものからなる
ことを特徴とする燃料系部品。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料系部品において、
前記高分子材料が、極性を有するものである
ことを特徴とする燃料系部品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料系部品において、
前記高分子材料が、熱可塑性を有するものである
ことを特徴とする燃料系部品。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料系部品において、
前記基材に対する前記バリア材の金属成分の含浸量が、2〜40重量%である
ことを特徴とする燃料系部品。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料系部品において、
前記金属錯体が、銅を含んでいるものである
ことを特徴とする燃料系部品。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の燃料系部品の製造方法であって、
前記基材及び前記バリア材を超臨界流体中に曝す
ことを特徴とする燃料系部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料系部品の製造方法において、
前記超臨界流体が、二酸化炭素である
ことを特徴とする燃料系部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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