説明

燃料遮断弁

【課題】燃料遮断弁10は、燃料タンク内の温度変化によって閉弁液位の変動が小さく、しかもフロートの成形精度を高くできるとともに生産性に優れている。
【解決手段】燃料遮断弁10は、弁室30Sを形成するケーシング20と、弁室30Sから外部に接続される接続通路31bを開閉するフロート52とを備え、フロート52の昇降により接続通路31bを開閉する。フロート52は、収納室53Sを有する第1フロート部53と、収納室53Sに収納される第2フロート部55とから構成されている。第2フロート部55は、第1フロート部53の貫通孔53eを貫通する上方延設部55bを備え、シート部材57の側方まで配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクの上部に装着され、燃料タンク内と外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料遮断弁として、特許文献1,2などが知られている。燃料遮断弁は、燃料タンクの上部に装着されており、外部(キャニスタ)に接続される接続通路をその上部に設けたケーシングと、ケーシングの弁室内に燃料液位により浮力を増減して昇降するフロートとを備えている。そして、燃料タンクの燃料液位の上昇によりフロートが浮力の増大により上昇することで接続通路を閉じて燃料の外部への流出を防止している。
【0003】
従来の燃料遮断弁のフロートは、下方に開放した浮力室を設けた薄肉のカップ形状に形成することで、フロートの射出成形時に生じやすいヒケを防止し、成形精度を高めている。このようなカップ形状のフロートは、該フロートの下端以上に燃料液位が上昇したときに浮力室が密閉される。密閉した浮力室の空気は、燃料タンク内の温度の変化に伴って膨張収縮してフロートの浮力を変える。このため、燃料遮断弁は、閉弁液位が燃料タンク内の温度変化により変動を生じるという課題がある。この課題を解決するために、浮力室を小さくした場合に、フロートは、射出成形の際に樹脂のヒケにより成形精度が悪くなるだけでなく、冷却までに長時間を要し、生産性が低下するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−308838号公報
【特許文献2】実開平5−1547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決することを踏まえ、燃料タンク内の温度変化によって閉弁液位の変動が小さく、しかもフロートの成形精度を高くできるとともに生産性に優れた燃料遮断弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するためになされた本発明は、
燃料タンクの上部に装着され、該燃料タンク内と外部とを接続する接続通路を開閉することで燃料タンクと外部とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記燃料タンク内と上記接続通路とを連通する弁室を形成するケーシングと、
上記弁室に収納され、該弁室内の燃料液位により浮力を増減して昇降することで上記接続通路を開閉するフロートと、
を備え、
上記フロートは、
上壁部と、該上壁部の外周部から円筒形状に延設された側壁と、該上壁部と上記側壁とにより囲まれかつ下方に開放した収納室と、上記上壁部の上部に設けられた弁部と、上記上壁部に貫通形成された貫通孔とを有する第1フロート部と、
上記収納室に収納されるフロート本体と、該フロート本体の上部に一体形成され上記貫通孔を貫通して上記弁部の外周側に配置された上方延設部とを有し、上記第1フロート部と一体化された第2フロート部と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる燃料遮断弁において、車両の傾倒時や揺動時にフロートが浮力により上昇する。フロートの上昇により、弁部が接続通路を閉じることで、燃料タンクを外部に対して遮断し、燃料タンクから外部へ燃料が流出するのを防止する。
【0008】
フロートは、第1フロート部および第2フロート部からなる複数の部材で構成することで、つまりカップ形状の第1フロート部の収納室を第2フロート部のフロート本体で埋める構成をとることで、第1フロート部の肉厚を薄くできる。これにより、第1フロート部を射出成形で形成する際に、第1フロート部の弁部やケーシングとの摺動部にヒケを低減でき、成形精度を高くできる。また、第1フロート部をカップ形状としたことでフロートの下方に開放される収納室は、第2フロート部の下部で埋められ、気体が入る容量を小さくできるから、気体の温度変化に伴うフロートの浮力の変動がなく、閉弁液位の変動を低減できる。
【0009】
また、フロートを樹脂射出成形により成形する際に、第1フロート部は、収納室を大きくとれるので、収納室を形成する金型に冷却手段を設けることができ、また、第2フロート部のフロート本体は、収納室を埋めるだけの小さい部材で済むから、両部材とも冷却に長時間を要しない。よって、射出成形の成形サイクルを短くでき、生産性に優れている。
【0010】
また、第2フロート部の上方延設部は、フロートの液没時にフロートの全体としての浮力を増大する。この浮力の増大分は、液没した状態で燃料タンクが振動したときの下向きの力に対して、接続通路を閉じる位置に留まろうとする力として作用する。したがって、車両の振動等に起因した微振動が燃料遮断弁に及んでも、シート部材がシール部から離れにくく、シール性の低下を招くことがない。
【0011】
本発明の好適な態様として、上記第2フロート部は、第1フロート部より小さい比重で形成し、例えば、少なくとも一部が発泡樹脂により形成されている構成をとることができる。この構成により、第2フロート部は、第1フロート部よりも小さい比重となっており、第2フロート部を軽くでき、フロート全体も軽くできるので、車両の振動などに起因するシール性の低下を招くことがない。
【0012】
また、本発明の好適な態様として、上記ケーシングであって上記弁室に面した内壁から下方に形成され上記弁部と上記上方延設部との間に介在して該フロート機構を昇降方向にガイドするガイド部を備えた構成をとることができる。この構成により、ガイド部は、弁部と第2フロート部の上方延設部との間に介在して、フロート機構を昇降方向にガイドするから、フロート機構の昇降の際の傾きを防止し、シート部材がシール部に高いシール性で着座し、その間のシール性の低下に伴う不具合、つまり燃料がその間隙から接続通路を通じて外部へ流出するような不具合を生じない。
【0013】
本発明の好適な態様として、上記第1フロート部と上記第2フロート部とは、溶着や機械的な係合手段などにより一体化することができ、特に、係合爪と係合穴による係合手段により一体化する構成をとることにより、第1フロート部と第2フロート部の組付作業を簡略化できる。
【0014】
また、本発明の好適な態様として、上記弁部は、第1フロート部と一体に形成するほか、別体に形成してもよい。弁部を別体に構成する場合において、上記弁部は、ゴムなどの可撓性の材料から形成されたシート部材とし、シール部に対して撓ませることでシール性を向上させることができる。このようにシート部材を撓ませるように第1フロート部で支持するための構成として、上記第1フロート部は、該第1フロート部の上部から突設され上記シート部材を支持する弁支持部を備え、上記弁支持部は、上記シール部の外径より大きな内径を有する撓み用スペースを有し、該撓み用スペースは、上記シート部材が上記シール部に着座したときに該シート部材の弾性変形を許容するように形成されている構成をとることができる。
【0015】
また、他の好適な態様として、上記上方延設部の上部は、上記フロート機構が上昇位置になったときに、上記ケーシングの内壁に当たることで上記フロート機構の上限位置を規制するように構成することができる。この構成により、上方延設部の上部は、ケーシングの内壁に当たることで、フロート機構と天井壁部との上下方向の距離を所定範囲内に規制し、シート部材のシール部に着座したときにシート部材の弾性変形量を抑制するから、シート部材は、長期間にわたって高いシール性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例について説明する。
【0017】
(1) 燃料遮断弁10の概略構成
図1は本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクFTの上部に取り付けられる燃料遮断弁10を示す側面図、図2は燃料遮断弁10の平面図、図3は図2の3−3線に沿った断面図である。図1において、燃料タンクFTは、その表面がポリエチレンを含む複合樹脂材料から形成されており、そのタンク上壁FTaに取付穴FTbが形成されている。このタンク上壁FTaには、燃料遮断弁10がその下部を取付穴FTbに突入した状態にて取り付けられている。燃料遮断弁10は、車両の傾斜時や揺動時に燃料タンクFT内の燃料がキャニスタへ流出するのを規制するものである。
【0018】
(2) 燃料遮断弁10の各部の構成
図3において、燃料遮断弁10は、ケーシング20と、フロート機構50と、スプリング70とを主要な構成として備えている。ケーシング20は、ケーシング本体30と、底板35と、蓋体40とを備え、ケーシング本体30と底板35とにより囲まれたスペースが弁室30Sになっており、この弁室30Sにスプリング70に支持されたフロート機構50が収納されている。
【0019】
図4は燃料遮断弁10を分解した断面図である。ケーシング本体30は、天井壁部31と、側壁部32とにより囲まれたカップ形状であり、その下部を開口30aとしている。天井壁部31の中央部には、下方に向けて突設された通路形成突部31aが形成されており、この通路形成突部31aに弁室30Sに接続する接続通路31bが貫通形成されている。接続通路31bの弁室30S側は、シール部31cになっている。また、天井壁部31の下面には、通路形成突部31aの外周側を囲むように円筒形状にガイド部31dが突設されている。ガイド部31dは、フロート機構50の上部をガイドするとともに、弁室30Sから接続通路31bに向かう燃料を遮る防護壁としても機能する。
【0020】
側壁部32には、燃料タンクFT(図3)内と弁室30Sとを接続する通気孔32aが形成され、また、底板35を取り付けるための係合穴32bが形成されている。底板35は、ケーシング本体30の開口30aを閉じる部材であり、その外周部に形成された係合爪35aがケーシング本体30の係合穴32bに係合することにより、ケーシング本体30の開口30aを閉じるように装着されている。底板35には、連通孔35bおよびスプリング70の下端を支持するためのスプリング支持部35cが形成されている。
【0021】
蓋体40は、蓋本体41と、蓋本体41の中央から側方へ突出した管体部42と、蓋本体41の外周に形成されたフランジ43と、支持部44を備え、これらを一体に形成している。管体部42には、蓋側通路42aが形成されており、この蓋側通路42aの一端は、接続通路31bを通じてケーシング本体30の弁室30Sに接続され、他端はキャニスタ(図示省略)側に接続される。支持部44は、蓋本体41の下部に形成され、ケーシング本体30の上部を嵌合・支持する筒体である。この支持部44には、係合穴44aが形成されている。この係合穴44aは、ケーシング本体30の側壁部32に形成された係合爪32cに係合することで、蓋体40は、ケーシング本体30を保持している。また、フランジ43の下端部には、燃料タンクFTのタンク上壁FTa(図3)に溶着される外側溶着部43aが形成されている。
【0022】
フロート機構50は、フロート52と、弁部を構成するシート部材57とを備えている。フロート52は、第1フロート部53と、第2フロート部55とを備え、これらを一体に組み付けている。図5はフロート機構50の斜視図、図6はフロート機構50を分解した断面図、図7はフロート機構50を分解した斜視図である。
【0023】
第1フロート部53は、上壁部53aと、その上壁部53aの外周から下方に形成された筒状の側壁53bと、上壁部53aから下方に形成された円柱状の中央部53cとを備えており、その内側スペースが第2フロート部55の下部を収納するための収納室53Sになっている。上壁部53aは、中央部53cの上外周部から側壁53bに4箇所放射状に掛け渡された架橋部53dを備え、各々架橋部53dの間が貫通孔53eになっている。
【0024】
第1フロート部53は、その上部中央にシート部材57を支持する弁支持部54を備えている。弁支持部54は、中央部53cの上面から突設された円柱形状の支持基部54aと、支持基部54aの上部に形成された円板部54bと、円板部54bの外周部から上方に向けて突設された円筒部54cとを備え、支持基部54aと円筒部54cとに囲まれたスペースが撓み用スペース54Sになっている。弁支持部54の円板部54bには、液抜き溝54d(図7)が3箇所形成されている。液抜き溝54dは、撓み用スペース54Sに溜まった燃料を排出するとともに、撓み用スペース54S内の空気抜きによりシート部材57を撓み易くする。
【0025】
また、第1フロート部53の側壁53bの外周部には、ガイド突条53fが形成されている。ガイド突条53fは、第1フロート部53の側壁53bに周方向に等間隔に8カ所、上下方向にリブ形状に突設されている。また、側壁53bの下部には、第2フロート部55と係合するための係合穴53gが貫通形成されている。
【0026】
第2フロート部55は、円柱状のフロート本体55aと、フロート本体55aの上部から突設された4つの扇形のブロックからなる上方延設部55bとを備え、その内側スペースが嵌挿孔55S(図6)になっている。各々の上方延設部55bの間には、円形凹所から放射状に嵌合溝55cが形成されている。嵌合溝55cは、第1フロート部53の中央部53cおよび架橋部53dに嵌合し、上方延設部55bを貫通孔53eから突出させるように形成されている。また、第2フロート部55の下部には、第1フロート部53の係合穴53gに係合するための係合爪55dが形成されている。
【0027】
第2フロート部55を第1フロート部53に組み付けるには、第2フロート部55の上方延設部55bから収納室53Sに挿入し、上方延設部55bを貫通孔53eに位置合わせして、さらに第2フロート部55を第1フロート部53内に押し入れて、係合爪55dを第1フロート部53の係合穴53gに係合させる。これにより、第2フロート部55が第1フロート部53に一体化する。この組付状態にて、第2フロート部55の上方延設部55bの上面は、後述するように、フロート機構50が上昇位置になったときに、天井壁部31に当たることでフロート機構50の昇降する上限位置を規制する規制部になっている。
【0028】
また、図6に示す収納室53Sの内周側であって、第2フロート部55の内壁との間には、下方に開口したスプリング室52Sが形成されている。図4に示すようにスプリング70は、スプリング室52Sに収納されるとともに、上壁部53aの下部のスプリング支持部53hと底板35のスプリング支持部35cとの間に支持される。
【0029】
本実施例の燃料遮断弁10では、主な構成部品が例えばポリエチレン、POM、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PA(ポリアミド)等の樹脂製である。ここで、フロート52のうち第1フロート部53を形成する樹脂材料(以下、第1の樹脂材料と呼ぶ)についても、上記ポリエチレン、POM、PPS、PA等のいずれかが用いられている。これに対して、第2フロート部55を形成する樹脂材料(以下、第2の樹脂材料と呼ぶ)としては、発泡樹脂が用いられている。具体的には、発泡樹脂は、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン等のいずれかに炭酸ガス等を注入して発泡させたものである。この結果、第2フロート部55は、第1フロート部53より小さい比重になっている。
【0030】
図8は燃料遮断弁の要部を説明する説明図、図9は図8に続く動作を説明する説明図である。シート部材57は、可撓性を有する材料(ゴム材料、熱可塑性エラストマなど)から下方に向けて開口したカップ形状に形成されており、つまりシート部58と、シート部58の外周部から下方に突設された被支持部59とから形成され、その内側が装着用スペース57Sになっている。シート部58は、シール部31cに着離するシート面58aと、シート面58aの外周部に沿って形成された弾性変形部58bとを備えている。シート面58aがシール部31cに押されたときに、弾性変形部58bが撓み用スペース54S内に凹むように弾性変形してシール部31cに着座する(図9参照)。被支持部59は、円筒形状の側壁部59aと、抜止部59bとにより形成されている。シート部材57は、装着用スペース57Sに弁支持部54を圧入することで弁支持部54に取り付けられている。
【0031】
(3) 燃料遮断弁10の動作
次に、燃料遮断弁10の動作について説明する。図3において、燃料タンクFT内で燃料の蒸発により発生した燃料蒸気は、連通孔35b、通気孔32aを通じて弁室30S内に入り、弁室30Sから、接続通路31b、蓋側通路42aを通じて、キャニスタ側へ逃がされる。そして、車両の傾斜などにより燃料タンクFT内の燃料液位が上昇すると、燃料は連通孔35bを通じて弁室30Sに流入する。そして、燃料液位が所定の液位FL1に達すると、フロート52の浮力およびスプリング70の荷重による上方への力と、フロート52およびシート部材57の自重による下方への力との釣り合いによって、前者が後者を上回ったときにフロート52が上昇する。このとき、図9に示すように、フロート機構50は、ガイド部31dにより昇降方向にガイドされつつ上昇し、シート部材57がシール部31cによって押されることにより撓み用スペース54Sに向けて湾曲するように弾性変形して、シート部材57のシート面58aが接続通路31bを閉じる。このとき、第2フロート部55の上方延設部55bの上面が天井壁部31の下面に当たることでシート部材57の撓み量が規制される。このように、車両の傾斜時などに、燃料タンクFTから燃料蒸気を逃がすとともに燃料が燃料タンクFT外へ流出するのを防止することができる。
一方、燃料タンクFTの燃料液位が低下して弁室30S内の燃料が連通孔35bなどから排出されると、フロート52は、その浮力を減少して下方への力を受けて、シート部材57がシール部31cから離れて、接続通路31bを開く。
【0032】
(4) 実施例の作用・効果
上記実施例の構成により、以下の作用・効果を奏する。
【0033】
(4)−1 フロート52は、第1フロート部53および第2フロート部55からなる複数の部材で構成することで、つまりカップ形状の第1フロート部53の収納室53Sを第2フロート部55のフロート本体55aで埋める構成をとることで、第1フロート部53の肉厚を薄くできる。これにより、第1フロート部53を射出成形で形成する際に、第1フロート部53の弁支持部54やガイド突条53fなどのヒケを低減でき、成形精度を高くできる。また、第1フロート部53をカップ形状としたことでフロート52の下方に開放される収納室53Sは、第2フロート部55で埋められ、燃料で密封される室を小さくできるから、フロート52の下端以上の燃料液位になっても、密封された気体の温度変化に伴うフロート52の浮力の変動がなく、閉弁液位の変動を低減できる。
【0034】
(4)−2 フロート52を樹脂射出成形により形成する際に、第1フロート部53は、収納室53Sを大きくとることで、収納室53Sを形成する金型に冷却手段を設けることができ、また、第2フロート部55は、収納室53Sを埋めるだけの小さい部材で済むから、両部材とも冷却に長時間を要しない。よって、射出成形の成形サイクルを短くでき、生産性に優れている。
【0035】
(4)−3 第2フロート部55の上方延設部55bは、フロート52の全体としての浮力を増大する。この浮力の増大分は、液没した状態で燃料タンクが振動したときの下向きの力に対して、接続通路31bを閉じる位置に留まろうとする力として作用する。したがって、車両の振動等に起因した微振動が燃料遮断弁10に及んでも、シート部材57がシール部31cから離れにくく、シール性の低下を招くことがない。
【0036】
(4)−4 第2フロート部55を第1フロート部53に組み付けるのに、第1フロート部53の収納室53Sに第2フロート部55を挿入すれば、上方延設部55bが貫通孔53eから突出するとともに、係合爪55dが係合穴53gに係合するから、組付作業も簡単である。
【0037】
(4)−5 図9に示すように天井壁部31の下面に突設されたガイド部31dは、弁支持部54との間に介在して、フロート機構50を昇降方向にガイドするから、フロート機構50の昇降の際の傾きを防止し、シート部材57がシール部31cに高いシール性で着座し、その間のシール性の低下に伴う不具合、つまり燃料がその間隙から接続通路31bを通じて外部へ流出するような不具合を生じない。
【0038】
(4)−6 図6に示す弁支持部54は、第1フロート部53の上部から突設しているので、その側方が無駄なスペースになる。こうしたスペースを有効に活用するために、第1フロート部53の上部であって弁支持部54の外周側に突出部を一体成形することが考えられる。しかし、弁支持部54は、円板部54bがアンダーカットとなるために、弁支持部54の外周側のスペースに、上述したような突出部を第1フロート部53と一体成形することが難しい。しかし、本実施例では、第2フロート部55の一部を第1フロート部53の上部に配置した上方延設部55bとすることにより、アンダーカットとすることなく、弁支持部54の側方のスペースを、浮力を生じさせる部分として利用している。
【0039】
(4)−7 図9に示すように第2フロート部55の上方延設部55bの上面は、天井壁部31の下面に当たることで、フロート機構50と天井壁部31との上下方向の距離を所定範囲内に規制し、シート部材57のシール部31cに着座したときにシート部材57の弾性変形量を抑制するから、シート部材57は、長期間にわたって高いシール性を維持することができる。
【0040】
(4)−8 フロート機構50は、液没した状態で燃料タンクが振動して下向きの力を受けた場合に下降しようとするが、第2フロート部55が燃料よりも小さい比重となっており、第2フロート部55を軽くでき、フロート52全体も軽くできるから、接続通路31bを閉じる位置に留まろうとする。したがって、車両の振動等に起因した微振動が燃料遮断弁10に及んでも、シート部材57がシール部31cから離れにくく、シール性の低下を招くことがない。
【0041】
(4)−9 フロート52は、第1フロート部53と第2フロート部55とを別部材から構成しているが、シート部材57を支持している弁支持部54は、ケーシング本体30の内壁でガイドされる第1フロート部53に一体に設けられているので、シート部材57は、傾きが小さく、シール性に優れている。
【0042】
(5) 他の実施例
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0043】
(5)−1 上記実施例では、第2フロート部55を第1フロート部53よりも小さい比重にするために、第2フロート部55を発泡樹脂により形成していたが、これに代えて、第2フロート部55を微小中空球状体が混合された樹脂材料により形成する構成としてもよい。微小中空球状体としては、例えばスコッチライトグラスバブルズ(住友3M社製,粒径範囲15〜135μm,平均粒径30〜70μm)を使用することができる。なお、スコッチライトグラスバブルズに限る必要はなく他のガラス微小中空球状体としてもよいし、ガラス球以外にもセラミック球等の他の微小中空球状体としてもよい。さらに、微小中空球状体に限る必要はなく、中空管状体を樹脂に混合して比重の小さい樹脂材料を作成する構成としてよい。
【0044】
(5)−2 上記実施例では、燃料遮断弁をタンクの上壁の上面に装着した構成について説明したが、これに限らず、燃料遮断弁を燃料タンクの上壁の内面に装着する、いわゆるインタンク式であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例にかかる自動車の燃料タンクの上部に取り付けられる燃料遮断弁を示す側面図である。
【図2】燃料遮断弁の平面図である。
【図3】図2の3−3線に沿った断面図である。
【図4】燃料遮断弁を分解した断面図である。
【図5】フロート機構の斜視図である。
【図6】フロートを分解した断面図である。
【図7】フロート機構を分解した斜視図である。
【図8】燃料遮断弁の要部を説明する説明図である。
【図9】図8に続く動作を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10...燃料遮断弁
20...ケーシング
30...ケーシング本体
30S...弁室
30a...開口
31...天井壁部
31a...通路形成突部
31b...接続通路
31c...シール部
31d...ガイド部
32...側壁部
32a...通気孔
32b...係合穴
32c...係合爪
35...底板
35a...係合爪
35b...連通孔
35c...スプリング支持部
40...蓋体
41...蓋本体
42...管体部
42a...蓋側通路
43...フランジ
43a...外側溶着部
44...支持部
44a...係合穴
50...フロート機構
52...フロート
52S...スプリング室
53...第1フロート部
53S...収納室
53a...上壁部
53b...側壁
53c...中央部
53d...架橋部
53e...貫通孔
53f...ガイド突条
53g...係合穴
54...弁支持部
54S...撓み用スペース
54a...支持基部
54b...円板部
54c...円筒部
54d...液抜き溝
55...第2フロート部
55S...嵌挿孔
55a...フロート本体
55b...上方延設部
55c...嵌合溝
55d...係合爪
57...シート部材
57S...装着用スペース
58...シート部
58a...シート面
58b...弾性変形部
59...被支持部
59a...側壁部
59b...抜止部
70...スプリング
FT...燃料タンク
FL1...液位
FTa...タンク上壁
FTb...取付穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク(FT)の上部に装着され、該燃料タンク(FT)内と外部とを接続する接続通路(31b)を開閉することで燃料タンク(FT)と外部とを連通遮断する燃料遮断弁において、
上記燃料タンク(FT)内と上記接続通路(31b)とを連通する弁室(30S)を形成するケーシング(20)と、
上記弁室(30S)に収納され、該弁室(30S)内の燃料液位により浮力を増減して昇降することで上記接続通路(31b)を開閉するフロート(52)と、
を備え、
上記フロート(52)は、
上壁部(53a)と、該上壁部(53a)の外周部から円筒形状に延設された側壁(53b)と、上記上壁部(53a)と上記側壁(53b)とにより囲まれかつ下方に開放した収納室(53S)と、上記上壁部(53a)の上部に設けられた弁部と、上記上壁部(53a)に貫通形成された貫通孔(53e)とを有する第1フロート部(53)と、
上記収納室(53S)に収納されるフロート本体(55a)と、該フロート本体(55a)の上部に一体形成され上記貫通孔(53e)を貫通して上記弁部の外周側に配置された上方延設部(55b)とを有し、上記第1フロート部(53)と一体化された第2フロート部(55)と、
を備えたことを特徴とする燃料遮断弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料遮断弁において、
上記第2フロート部(55)は、上記第1フロート部(53)より小さい比重で形成されている燃料遮断弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料遮断弁において、
上記ケーシング(20)であって上記弁室(30S)に面した内壁から下方に形成され上記弁部と上記上方延設部(55b)との間に介在して上記フロート機構(50)を昇降方向にガイドするガイド部(31d)を備えた燃料遮断弁。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料遮断弁において、
上記第1フロート部(53)と上記第2フロート部(55)とは、係合爪と係合穴による係合手段により一体化されている燃料遮断弁。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料遮断弁において、
上記弁部は、可撓性の材料から形成されたシート部材(57)である燃料遮断弁。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料遮断弁において、
上記第1フロート部(53)は、該第1フロート部(53)の上部から突設され上記シート部材(57)を支持する弁支持部(54)を備え、
上記弁支持部(54)は、上記シール部(31c)の外径より大きな内径を有する撓み用スペース(54S)を有し、該撓み用スペース(54S)は、上記シート部材(57)が上記シール部(31c)に着座したときに該シート部材(57)の弾性変形を許容するように形成されている燃料遮断弁。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の燃料遮断弁において、
上記上方延設部(55b)の上部は、上記フロート機構(50)が上昇位置になったときに、上記ケーシング(20)の内壁に当たることで上記フロート機構(50)の上限位置を規制するように構成されている燃料遮断弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−45447(P2008−45447A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219993(P2006−219993)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】