説明

燃料電池、それに好適な触媒及びその製造方法

【課題】安価で比較的高い発電効率を提供することができる燃料電池用触媒及びその製造方法を目的とする。
【解決手段】酵母の少なくとも一部分を高圧成形して固形体を形成し、該固形体を乾留により炭化させて炭化物を得て、該炭化物に白金微粒子を担持させて燃料電池用触媒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、それに好適な触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体酸化物形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、リン酸形燃料電池、高分子電解質形燃料電池(PEFC)、アルカリ水溶液形燃料電池に分類されうる。燃料電池は、燃料極(マイナス極)と空気極(プラス極)との間に電解質物質を挟んで構成され、この電解質物質の種類によって形式が分類されうる。
【特許文献1】特開2004−330181号公報
【特許文献2】特開2003−342584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リン酸型燃料電池及び高分子電解質形燃料電池では、燃料極(マイナス極)及び空気極(プラス極)として白金系の触媒が使用され、これが燃料電池の価格を高くする原因となっている。例えば、自動車1台に要求される電力を100kWとすると、自動車1台あたりに必要な白金の価格は30万円程度と言われている。
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、安価で比較的高い発電効率を提供することができる燃料電池、それに好適な触媒及びその製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の側面は、燃料電池用触媒に係り、該燃料電池用触媒は、酵母の少なくとも一部分の炭化物を含む。前記酵母の少なくとも一部分は、酵母の細胞壁を含みうる。前記燃料電池用触媒は、ビール糟の炭化物を更に含んでもよい。前記燃料電池用触媒は、前記炭化物に白金微粒子を担持させてなることが好ましい。
【0005】
本発明の第2の側面は、燃料電池に係り、該燃料電池は、電解質物質を燃料極及び空気極で挟んで構成され、前記燃料極及び前記空気極が酵母の少なくとも一部分の炭化物を含む。
【0006】
本発明の第3の側面は、炭化物を含む燃料電池用触媒の製造方法に係り、該方法は、酵母の少なくとも一部分を高圧成形して固形体を形成し、該固形体を乾留により炭化させることを含む。
【0007】
本発明の第4の側面は、炭化物を含む燃料電池用触媒の製造方法に係り、該方法は、酵母の少なくとも一部分を高圧成形して固形体を形成し、該固形体を乾留により炭化させて炭化物を得て、該炭化物に白金微粒子を担持させることを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安価で比較的高い発電効率を提供することができる燃料電池、それに好適な触媒及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0010】
図1は、本発明の好適な実施形態の燃料電池の概略構成を示す図である。本発明の好適な実施形態の燃料電池100は、水素イオンを通す電解質物質30を燃料極10と空気極20とで挟んで構成される。電解質物質30としてリン酸を含む電解質物質を使用する燃料電池は、リン酸形燃料電池と呼ばれる。電解質物質30として高分子電解質物質(高分子イオン交換膜)を使用する燃料電池は、高分子電解質形燃料電池(PEFC)と呼ばれる。
【0011】
燃料極10は、酵母の少なくとも一部分を炭化させた炭化物で構成された多孔質導電性物質に白金微粒子(粒子径は、例えば2〜5nm)を担持させた燃料極触媒層12を含む。燃料極10は、必要に応じて、燃料極触媒層12を支持する多孔質導電性支持層11を含みうる。
【0012】
空気極20は、酵母の少なくとも一部分を炭化させた炭化物で構成された多孔質導電性物質に白金微粒子(粒子径は、例えば2〜5nm)を担持させた空気極触媒層22を含む。空気極20は、必要に応じて、空気触媒層22を支持する多孔質導電性支持層21を含みうる。
【0013】
燃料極10に水素を供給し、空気極20に酸素を供給すると、燃料極触媒層12において水素が電子を放出して水素イオンとなる。電子は、負荷(電気回路)40を通して空気極20に移動する。水素イオンは、電解質物質30中を空気極20に向かって移動し、空気極20において、酸素、及び、負荷40を通して移動してくる電子と結合して水を生成する。
【0014】
この実施形態では、触媒層12、22の材料である炭化物(以下、材料炭化物)は、酵母の少なくとも一部分を炭化して構成される。ここで、酵母の一部分は、酵母の細胞壁を含みうる。酵母の細胞壁は、酵母から酵母エキスを搾り出した後に残る部分である。
【0015】
材料炭化物は、例えば、酵母の少なくとも一部分を高圧で成型して固形体を形成し、次いで、該固形体を乾留(部分燃焼を含む)させて炭化することによって製造されうる。炭化物の製造方法については、例えば、特開2003−342584号公報、特開平01−112972号公報、特開平2−294391号公報、特開2000−240864号公報等に記載されている。
【0016】
図2は、本発明の好適な実施形態の材料炭化物の特性(評価結果)を示すグラフである。図2における横軸は、標準水素電極(NHE)を基準電極とする電位であり、図2における縦軸は、電極断面積あたりの電流値である。図2の示す特性は、酸素飽和水溶液を電解液として回転ディスク電極法にしたがって材料炭化物を評価した結果である。
【0017】
回転ディスク電極法は、ディスク状の電極を高速で回転させることによって電極表面に層流を形成し、反応体の拡散供給を一定にしつつ、電流−電圧曲線(ボルタモグラム)を測定する手法である。
【0018】
図2において、「XC72」は、比較例として挙げたものであり、Carbot社のファーネスブラックXC−72Rである。「XC72」は燃料電池触媒の白金担体として広く用いられている標準的なカーボンブラックである。また、「YST」は、酵母を炭化させて得られる材料炭化物であり、「YCW」は、酵母の細胞壁を炭化させて得られる材料炭化物であり、「80BEG−20YST」は、80%がビール糟、20%が酵母で構成される原料を炭化させて得られる材料炭化物である。
【0019】
図2において、電流が流れ始めるポイントにおける電位が大きいほど特性が優れている。注目すべきは、現在の燃料電池における標準的な材料炭化物である「XC72」よりも、本発明の好適な実施形態における「YCW」、「80BEG−20YST」、「YST」の方が優れた特性を示していることである。「YCW」、「80BEG−20YST」、「YST」は、材料の時点で「XC72」よりも優れた特性を有しているため、より少ない白金微粒子の担持量で「XC72」に白金微粒子を担持させたものと同等の性能を達成することができる。
【0020】
よって、「YCW」、「80BEG−20YST」、「YST」等のように酵母の少なくとも一部分を炭化させた炭化物を材料炭化物として使用することにより、「XC72」に白金微粒子を担持させた触媒層と同等の性能を有する触媒層を得るために要する白金微粒子の量を減らすことができる。したがって、この実施形態のように、酵母の少なくとも一部分を炭化させて材料炭化物を得ることによって、安価で比較的高い発電効率を提供することができる燃料電池用触媒及びそれを有する燃料電池を得ることができる。
【0021】
燃料電池での反応に関与する電子数は2、あるいは4である。2の場合の生成物は過酸化水素、4の場合の生成物は水である。電極の劣化を防ぐ観点から4の場合の反応が望ましい。二つの還元反応が同時におこる場合、反応関与電子数は、2と4の間にある。「80BEG−20YST」及び「YST」については3.5、「YST」については3.4である。数値が4に近いということは、より望ましい反応の比率が高いことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好適な実施形態の燃料電池の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の好適な実施形態の材料炭化物の特性(評価結果)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
10 燃料極
11 多孔質導電性支持層
12 燃料極触媒層
20 空気極
21 多孔質導電性支持層
22 空気極触媒層
100 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母の少なくとも一部分の炭化物を含むことを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記酵母の少なくとも一部分が酵母の細胞壁を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
ビール糟の炭化物を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
前記炭化物に白金微粒子を担持させてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒。
【請求項5】
電解質物質を燃料極及び空気極で挟んで構成される燃料電池であって、
前記燃料極及び前記空気極が酵母の少なくとも一部分の炭化物を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
炭化物を含む燃料電池用触媒の製造方法であって、
酵母の少なくとも一部分を高圧成形して固形体を形成し、該固形体を乾留により炭化させることを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項7】
炭化物を含む燃料電池用触媒の製造方法であって、
酵母の少なくとも一部分を高圧成形して固形体を形成し、該固形体を乾留により炭化させて炭化物を得て、該炭化物に白金微粒子を担持させることを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−287530(P2007−287530A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114977(P2006−114977)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】