説明

燃料電池およびこれを用いた燃料電池スタック

【課題】高濃度燃料の使用が可能であり、もって、出力の向上および小型化が可能なパッシブ型燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料極11、電解質膜10および空気極12をこの順で含む膜電極複合体20を備える単位電池30と、単位電池30の燃料極11側に配置され、燃料を保持するとともに、燃料極に燃料を供給するための燃料供給部と、単位電池30と燃料供給部との間に配置され、燃料極11への燃料供給量を調整するための燃料供給調整層1とを含み、燃料供給調整層1が硬化性樹脂組成物の硬化物層からなる燃料電池およびこれを用いた燃料電池スタックである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、より詳しくは、ポンプやファン等の補機を使用することなく燃料および空気をそれぞれ、燃料極、空気極に供給するパッシブ型燃料電池に関する。また、本発明は、当該燃料電池を用いた燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、ユーザが1回燃料補充することで電子機器を従来よりも長く利用できる長時間駆動の点や、ユーザが外出先で電池を使い切ってしまっても、電池の充電を待たずに燃料を購入し補充することで直ぐに電子機器が利用できる利便性の点から、情報化社会を支える携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。
【0003】
燃料電池は、使用する電解質材料や燃料の分類から、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、ダイレクトアルコール型等に分類される。特に、電解質材料に固体高分子であるイオン交換膜を用いる固体高分子型燃料電池およびダイレクトアルコール型燃料電池は、常温で高い発電効率が得られることから、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての実用化が検討されている。
【0004】
特に、燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用するダイレクトアルコール型燃料電池は、燃料がガスである場合と比較して、燃料貯蔵室を比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池の構造の簡略化、省スペース化が可能であり、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が高い。電解質膜としてカチオン交換膜を使用するダイレクトアルコール型燃料電池においては、燃料極に燃料(アルコールまたはアルコール水溶液)を供給すると、燃料極に接触した燃料が酸化されて、二酸化炭素等のガスおよびプロトンに分離される。
【0005】
たとえば、アルコールとしてメタノールを用いた場合では、
CH3OH+H2O → CO2↑+6H++6e-
の酸化反応により二酸化炭素が燃料極側で発生する。
【0006】
燃料極側で発生したプロトンは、電解質膜を介して空気極側に伝達される。そして、空気極に伝達されたプロトンと、空気極に供給される空気中の酸素とが、
3/2O2+6H++6e- → 3H2
の還元反応を起こし、水が生成する。このときに電子が外部の電子機器(負荷)を通過して燃料極から空気極に移動し、電力が取り出される。
【0007】
一方、燃料電池、特に小型燃料電池は、燃料供給や空気供給の供給方式による分類から、パッシブ型とアクティブ型とに大きく分類することができる。パッシブ型燃料電池は、ポンプやファン等の外部動力を用いる補機を使用することなく、燃料および空気をそれぞれ、燃料極、空気極に供給する方式の燃料電池であり、非常に小さな小型燃料電池の実現の可能性があることから、携帯電子機器への搭載用途として期待が高い。
【0008】
しかしながら、従来のパッシブ型燃料電池においては、高濃度燃料(たとえば、燃料としてメタノール水溶液を用いた場合において、メタノール濃度が高い燃料)を使用すると、燃料電池の出力が安定しないため、比較的低濃度の燃料を使用せざるを得ないという問題があった。これにより、従来のパッシブ型燃料電池においては、十分な出力が得られないとともに、燃料貯蔵タンクの小型化、ひいては燃料電池の小型化が困難であるという問題があった。
【0009】
上記課題を解決する試みとして、特許文献1には、燃料供給部と起電部との間に、温度変化などによる体積変化により燃料極に供給する燃料供給量を調整する燃料供給調整膜を配設したパッシブ型燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−91291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ポンプやファン等の外部動力を使用する補機を用いることなく燃料および空気の供給が可能なパッシブ型燃料電池であって、高濃度燃料の使用が可能であり、もって、出力の向上および小型化が可能な燃料電池およびこれを用いた燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、燃料極、電解質膜および空気極をこの順で含む膜電極複合体を備える単位電池と、該単位電池の燃料極側に配置され、燃料を保持するとともに、燃料極に燃料を供給するための燃料供給部と、単位電池と燃料供給部との間に配置され、燃料極への燃料供給量を調整するための燃料供給調整層とを含み、該燃料供給調整層が硬化性樹脂組成物の硬化物層からなる燃料電池を提供する。
【0013】
本発明の燃料電池において、上記燃料供給部は、燃料極側が開放された空間からなる燃料供給室と、燃料を保持するための燃料貯蔵室と、燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる部材であって、その一端が燃料貯蔵室内に保持される燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が燃料供給室内部に配置され、燃料極に対向するように延びる燃料輸送部材とを含むことが好ましい。
【0014】
上記燃料供給調整層は、燃料および水に対する溶解性が低いことが好ましく、これらに不溶であることがより好ましい。具体的には、25℃の純メタノール中に24時間浸漬した後の重量減少率および25℃の純水中に24時間浸漬した後の重量減少率が3%以下であることが好ましい。なお、燃料に含まれる還元剤としてメタノール以外のものが用いられる場合には、25℃の当該還元剤中に24時間浸漬した後の重量減少率が3%以下であることが好ましい。上記燃料供給調整層は、さらに好ましくは、75℃の純水中に1時間浸漬した後の重量減少率が3%以下である。
【0015】
本発明の燃料電池は、単位電池と燃料供給調整層との間に配置された、疎水性の多孔質層をさらに備えることが好ましい。
【0016】
上記疎水性の多孔質層を備える場合において、本発明の燃料電池は、多孔質層と燃料供給部との間に燃料供給調整層を備えていてもよく、あるいは、単位電池と多孔質層との間および多孔質層と燃料供給部との間の双方に燃料供給調整層を備えていてもよい。
【0017】
本発明の1つの好ましい実施形態に係る燃料電池は、上記燃料供給室の両面に配置された一対の上記単位電池を備えるものである。
【0018】
上記単位電池は、燃料極上に積層されるアノード集電層と、空気極上に積層されるカソード集電層とをさらに備えることが好ましい。
【0019】
上記燃料は、従来公知の液体燃料であってよいが、本発明の燃料電池によれば、濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液またはメタノール(純メタノール)等の高濃度燃料であっても好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明は、上記燃料電池を2以上備える燃料電池スタックを提供する。本発明の燃料電池スタックは、同一平面内に離間して配置された2以上の上記燃料電池から構成される燃料電池層を2以上含むものであることができる。本発明はさらに、上記の燃料電池または燃料電池スタックを備える電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高濃度燃料の使用が可能なパッシブ型燃料電池が提供される。本発明によれば、高濃度燃料の使用が可能になるため、従来と比較して出力を向上させることができ、また、燃料貯蔵タンク(燃料貯蔵室)を小さくできることから、燃料電池の小型化を図ることができる。本発明の燃料電池および燃料電池スタックは、各種電子機器、とりわけ、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池、特に携帯用電子機器搭載型の小型燃料電池として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の燃料電池の一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示されるII−II線における概略断面図である。
【図3】図1に示されるIII−III線における概略断面図である。
【図4】本発明の燃料電池の別の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の燃料電池のさらに別の一例を示す概略上面図である。
【図6】図5に示される燃料電池を燃料輸送部材が存在する位置で構成部材の積層方向に対して垂直な方向に切断したときの概略断面図である。
【図7】本発明の燃料電池スタックの一例を示す概略図である。
【図8】メタノール濃度が20Mである燃料を使用したときの実施例1で作製した燃料電池のI−V測定の結果を示す図である。
【図9】メタノール濃度が15Mである燃料を使用したときの比較例1で作製した燃料電池のI−V測定の結果を示す図である。
【図10】燃料供給室の両面に単位電池が配置された燃料電池に用いられる箱筺体(燃料供給室形成部材)および燃料輸送部材の好ましい一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<燃料電池>
以下、本発明の燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の燃料電池の一例を示す概略断面図であり、図2は図1に示されるII−II線における概略断面図であり、図3は図1に示されるIII−III線における概略断面図である。これらの図面に示されるように、図1に示される燃料電池100は、燃料極11、電解質膜10および空気極12をこの順で含む膜電極複合体20と、燃料極11上に積層され、これに電気的に接続されたアノード集電層21と、空気極12上に積層され、これに電気的に接続されたカソード集電層22とを備える単位電池30;アノード集電層21の表面に接して積層された疎水性多孔質層2;疎水性多孔質層2の表面に接して積層された燃料供給調整層1;燃料極11の下方(より具体的には燃料供給調整層1の下方)に配置され、燃料極11側が開放された空間からなる燃料供給室60;燃料極11に供給される燃料(図示せず)を保持するための燃料貯蔵室70;および、一端(図1における左側端部)が燃料貯蔵室70内に配置されるとともに、その他端が燃料供給室60内に配置され、燃料極11に対向するように延びる燃料輸送部材61とを基本的に備える。燃料輸送部材61は、燃料貯蔵室70に保持される液状の燃料(液体燃料)に対して毛細管作用を示す材料からなる。燃料供給室60と燃料貯蔵室70と燃料輸送部材61とが、燃料電池100の燃料供給部を構成している。
【0025】
燃料供給室60を構成する燃料極11直下の空間は、単位電池30の下部に、燃料供給調整層1に接するように配置された箱筺体40と燃料供給調整層1とによって形成されている。すなわち、箱筺体40は燃料供給室60を構成する凹部を有しており、この凹部が燃料極11の直下に配置されるようにアライメントし、かつ当該凹部の開口部側が燃料供給調整層1に対向するように箱筺体40を配置することにより、燃料供給室60が形成される。また、箱筺体40は、燃料電池100の燃料供給室60を構成する部位とともに、燃料貯蔵室70の底壁および側壁を構成する部位を一体として有している。
【0026】
燃料電池100は、箱筺体40とともに、カソード集電層22上に積層され、複数の開口51を有する蓋筺体50を備えており、単位電池30は、箱筺体40と蓋筺体50とによって挟持されている。蓋筺体50は、カソード集電層22上に積層される部位とともに、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)を構成する部位を一体として有しており、箱筺体40、蓋筺体50および単位電池30によって燃料貯蔵室70が形成されている。単位電池30、疎水性多孔質層2および燃料供給調整層1の燃料貯蔵室側端面には、燃料貯蔵室70内に保持された燃料が侵入しないよう、エポキシ系硬化性樹脂組成物などからなる封止層80が形成されている。図1に示される燃料電池100において、燃料貯蔵室70は、単位電池30およびその下方に配置された燃料供給室60の側方に配置されている。
【0027】
燃料供給室60は、燃料輸送部材61の端部(燃料貯蔵室側とは反対側の端部)近傍に、燃料供給室の内部空間と燃料電池100外部とを連通する第1の開孔63を備えている。この第1の開孔63は、箱筺体40に設けられた貫通孔である。また、燃料貯蔵室70は、その内部空間と燃料電池100外部とを連通する第2の開孔71を備えている。この第2の開孔71は、蓋筺体50に設けられた貫通孔である。
【0028】
本実施形態の燃料電池は、次のような動作により発電を行なう。すなわち、燃料貯蔵室70に液体燃料が供給されると、液体燃料は、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側端部から、燃料輸送部材61が有する細孔へ毛細管現象により移動する。移動した液体燃料は、燃料輸送部材61の細孔からなる毛細管を通して燃料輸送部材61内を浸透していき、燃料輸送部材61の他端(燃料貯蔵室70側とは反対側の端部)まで行き渡る。
【0029】
燃料輸送部材61内を浸透して燃料供給室60に輸送された液体燃料は、燃料供給室60の空間にガス状態で充満する。燃料供給室60の空間に充満したガス状態の液体燃料は、燃料供給調整層1を通過することにより、その量または濃度が適切な範囲に調整されるとともに、その量または濃度の均一化がなされて疎水性多孔質層2に入り、当該層内にてガス状態の液体燃料は、その量または濃度がより均一化される。疎水性多孔質層2を通過したガス状態の液体燃料は、アノード集電層21の開口から燃料極11に供給される。そして、液体燃料としてメタノール水溶液を例に挙げると、燃料極11に供給されたガス状態のメタノール水溶液は、
CH3OH+H2O → CO2↑+6H++6e-
の式で表される酸化反応を起こし消費される。一方、空気極12においては、蓋筺体50の開口51およびカソード集電層22の開口を通って到達した空気中の酸素と、電解質膜10を介して燃料極11から空気極12に伝達されたプロトンとが、
3/2O2+6H++6e- → 3H2
の式で表される還元反応を起こす。かかる酸化還元反応により、電子が、燃料極11→アノード集電層21→外部の電子機器(負荷)→カソード集電層22→空気極12のルートで移動し、外部の電子機器に対して電力が供給される。
【0030】
燃料供給室60内のガス状態の液体燃料は、燃料電池100の消費電流量に応じて消費されていくこととなるが、これを補うように、燃料輸送部材61から液体燃料が随時蒸発を続けるため、燃料供給室60内におけるガス状態の液体燃料の濃度は略一定に保持され、十分に高い電力を安定して供給することができる。また、単位電池30と燃料供給部(より具体的には燃料輸送部材61を備える燃料供給室60)との間に燃料供給調整層1が設けられているため、燃料極11への燃料供給を均一に、かつ適切量に制御された状態で行なうことが可能となる。これにより、燃料のクロスオーバーを効果的に抑制でき、発電部に温度ムラが生じにくく、安定した発電状態を維持することができる。
【0031】
本実施形態の燃料電池100において、燃料貯蔵室70から燃料供給室60への液体燃料の輸送(燃料輸送部材61内での液体燃料の浸透移動)は、専ら、燃料輸送部材61が有する細孔に由来する毛細管現象を利用したものである。したがって、燃料貯蔵室70から燃料供給室60への液体燃料の輸送を、外部動力を用いることなく、そしてほぼ重力の影響を受けることなく行なうことができる。
【0032】
次に、燃料電池100を構成する各部材等について詳細に説明する。
(燃料供給調整層)
本発明において、燃料供給調整層1は、燃料極11への燃料供給量(その濃度も含む)を調整する機能を有する層であり、硬化性樹脂組成物の硬化物層から構成される。このような燃料供給調整層1を介して燃料(典型的にはガス状態の液体燃料)を燃料極11へ供給することにより、燃料の過剰供給が防止されるため、燃料のクロスオーバーおよびこれに伴う発電部の過度の温度上昇を抑制することができ、安定した発電状態が達成される。また、燃料供給調整層1内で燃料の量または濃度の均一化が促進されるので、量または濃度のムラが低減され、このことも発電状態の安定化に寄与する。また、燃料の量または濃度の均一化により、燃料極11における局所的な燃料不足による出力低下も防止できる。
【0033】
燃料供給調整層1を形成する硬化性樹脂組成物としては、硬化性樹脂として、たとえば、変性オレフィン系樹脂、α−オレフィン系樹脂等のオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、などを含む硬化性樹脂組成物を挙げることができる。なかでも、燃料電池製造の効率化および簡略化の観点から、熱硬化性または光硬化性樹脂組成物が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂組成物としては、たとえば、変性オレフィン系溶液型接着剤(東亜合成(株)製の「アロンメルトPPET−1600」、「アロンマイティPU−171H」等)や、エポキシ樹脂系接着剤(Three Bond社製の一液型熱硬化性エポキシ樹脂系接着剤「TB2242」等)などの熱硬化性接着剤を好適に用いることができる。また、紫外線硬化性樹脂組成物としては、たとえば、アクリル樹脂系接着剤(電気化学工業(株)製の「UVX−7000」等)やα−シアノアクリレート系接着剤(Three Bond社製の「1771E」、「1773E」等)などの紫外線硬化性接着剤を好適に用いることができる。
【0034】
また、単位電池30をホットプレスにより作製する場合、その温度は通常130℃程度であるため、130℃以下の温度で硬化するものが好ましい(より好ましくは100℃以下、たとえば80℃程度)。130℃以下の温度で硬化する低温硬化性樹脂組成物を用いることにより、燃料電池作製時において、単位電池に過度に熱がかかることを防止することができる。130℃以下の温度で硬化する低温硬化性樹脂組成物としては、たとえば、変性オレフィン系溶液型接着剤(東亜合成(株)製の「アロンメルトPPET−1600」、「アロンマイティPU−171H」等)や、エポキシ樹脂系接着剤(Three Bond社製の一液型熱硬化性エポキシ樹脂系接着剤「TB2242」等)などの熱硬化性接着剤を好適に用いることができる。なお、上記硬化性樹脂組成物は通常、硬化剤を含み、必要に応じて、その他の添加剤(溶剤など)を含んでいてもよい。燃料供給調整層1は、硬化性樹脂組成物を基材(たとえば、疎水性多孔質層2あるいはアノード集電層21など)に塗布し、加熱や紫外線などの照射により硬化させることによって形成することができる。この際、燃料供給調整層1を形成する硬化性樹脂組成物は、接着剤としての機能も有し得るので、当該硬化性樹脂組成物を単位電池30と箱筺体40と接合するための接着剤として利用してもよく、これにより、製造工程の簡略化および構成部材の削減を図ることができる。
【0035】
燃料供給調整層1の厚みは、使用する材料により大きく変化し得るため、特に制限されるものではない。実施例で例示する材料(変性オレフィン系樹脂を含む硬化性樹脂組成物)を用いて燃料供給調整層を、疎水性多孔質層(日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」)の一方の面のみに形成する場合を例に挙げると、十分な燃料供給調整機能を付与するために、燃料供給調整層の厚みは、単位面積あたりに積層される燃料供給調整層を構成する材料の質量で表して、0.030mg/cm2以上であることが好ましく、0.050mg/cm2以上であることがより好ましい。また、燃料極への燃料供給不足を防止するとともに、燃料極で発生した排ガスを効率的に排出させる観点からは、燃料供給調整層の厚みは、0.300mg/cm2以下であることが好ましく、0.200mg/cm2以下であることがより好ましい。
【0036】
燃料供給調整層1は、燃料および水に対する溶解性が低いことが好ましく、これらに不溶であることがより好ましい。これは、図1に示されるように、燃料輸送部材61が燃料供給調整層1と離間して配置される場合であっても、燃料の浸透による膨張により、燃料輸送部材61が燃料供給調整層1と接触することがあるが、このような場合においても燃料供給調整層1の溶出を抑制できるためである。具体的には、25℃の純メタノール中に24時間浸漬した後の重量減少率および25℃の純水中に24時間浸漬した後の重量減少率が3%以下であることが好ましい。「重量減少率」とは、25℃の純メタノールおよび25℃の純水に実質的に溶解せず、かつ少なくとも100℃の環境下にて性状が変化しない基材上に燃料供給調整層を形成した試験片を25℃の純メタノールまたは純水に24時間浸漬した後、100℃の環境下で30分間乾燥する試験を行ない、室温下に1時間放置した後に、下記式:
重量減少率=100×(試験前重量−試験後重量)/(試験前重量)[%]
によって算出される値である。25℃の純メタノール中に24時間浸漬した後の重量減少率および25℃の純水中に24時間浸漬した後の重量減少率は、それぞれ2%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。また、燃料供給調整層1は、上記と同じ理由から、75℃の純水中に1時間浸漬した後の重量減少率が3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。75℃の純水中に1時間浸漬した後の重量減少率についても、上記と同様の浸漬試験を行ない、上記式によって算出される。
【0037】
なお、燃料に含まれる還元剤としてメタノール以外のものが用いられる場合には、25℃の当該還元剤中に24時間浸漬した後の重量減少率が上記範囲にあることが好ましい。
【0038】
(疎水性多孔質層)
疎水性多孔質層2は、単位電池30(より具体的には、アノード集電層21)と燃料供給調整層1との間に配置される、ガス透過性の層であり、燃料極11へ供給されるガス状態の液体燃料の量または濃度をより均一化させる機能を有する。また、疎水性多孔質層2は、疎水性を有することから、燃料供給調整層1側への水(たとえば、空気極12で生成され、電解質膜10を介して燃料極11側へ移動してきた水)の侵入を防止することができる。これにより、燃料極11における水分濃度が良好に保たれるので、出力低下を防止することができる。この効果は、高濃度燃料(純メタノールなど)を用いる場合に特に有利である。さらに、疎水性多孔質層2を設けると、燃料極11で発生した排ガス(二酸化炭素ガス等)が疎水性多孔質層2内で均一化されるため、当該ガスの排出効率を向上させることができる。
【0039】
また、後述するように、燃料供給調整層1への燃料供給は、ガス状態ではなく、液体燃料として供給することが可能であるが、この場合、疎水性多孔質層2は、ガス状態として燃料を透過させる機能を有する。
【0040】
疎水性多孔質層2としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、撥水化処理されたシリコーンシートなどを挙げることができ、たとえば、多孔質フィルム(日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。疎水性多孔質層2の厚みは特に制限されないが、燃料供給調整層を形成する基材として形状を十分に保持できるようにするために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、疎水性多孔質層2の厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。なお、疎水性多孔質層2を省略し、アノード集電層21上に直接、燃料供給調整層1を積層してもよい。
【0041】
(燃料輸送部材)
燃料輸送部材61は、その少なくとも一部が燃料供給室60内に配置され、燃料貯蔵室70から燃料供給室60に毛細管現象を利用して液体燃料を輸送するための部材であり、用いる液体燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる。このような毛細管作用を示す材料としては、アクリル系樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、セルロースなどの高分子材料(プラスチック材料)からなる不規則な細孔を有する多孔質体;ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチールなどの金属材料からなる不規則な細孔を有する多孔質体が挙げられる。多孔質体としては、上記金属材料からなる不織布、発泡体、焼結体や、高分子材料等の金属材料以外からなる不織布などを挙げることができる。また、上記高分子材料または金属材料からなり、毛細管として表面に規則的なまたは不規則なスリットパターン(溝パターン)を有する基板を燃料輸送部材61として用いることもできる。
【0042】
燃料輸送部材61が有する細孔の細孔径は、重力に対して十分な毛細管現象が生じ、良好な吸い上げ高(燃料輸送部材の一端を液体燃料に浸漬したときの、毛細管現象による液体燃料の当該部材における到達可能位置を意味する)および吸い上げ速度(燃料輸送部材の一端を液体燃料に浸漬したときの、単位時間当たりに吸い上げられる液体燃料の体積を意味する)を得るために、0.1〜500μmとすることが好ましく、1〜300μmとすることがより好ましい。なお、燃料輸送部材61が有する細孔の細孔径は、水銀圧入法により測定される径である。吸い上げ高が小さすぎると、燃料極全体にわたって液体燃料を供給させることができず、燃料電池の出力が低下する。また、燃料電池による発電で消費される液体燃料の消費速度に対して、十分な吸い上げ速度を有していないと、燃料輸送部材のいずれかの箇所で液体燃料が枯渇し、燃料輸送部材の他端まで液体燃料が供給されない結果、同様に燃料電池の出力が低下する。
【0043】
上記金属材料からなる金属多孔質体のなかでは、ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチールなどの金属材料からなる金属多孔質体が好ましく、該金属材料を繊維状に加工し、不織布とした金属繊維不織布、およびこれを焼結し、必要に応じて圧延してなる金属繊維不織布焼結体がより好ましく、金属繊維不織布焼結体を用いることがさらに好ましい。金属繊維不織布焼結体を用いることにより、空隙率を高くした場合であっても燃料輸送部材61の十分な強度を維持することができるため、燃料電池製造時における組み立て精度を高めることができる。また、十分な強度を維持しつつ、空隙率を高めることができるため、燃料輸送部材61が保持可能な液体燃料量を向上させることができる。このことは、吸い上げ高さが同じ場合、吸い上げ速度がより大きくなることを意味しており、したがって、燃料貯蔵室70から離れた燃料極11の部位に対しても、効果的に液体燃料を供給することが可能となる。
【0044】
燃料輸送部材61を構成する毛細管作用を示す材料としては、上記吸い上げ高および吸い上げ速度の観点から、30分後の揚水距離が10cm以上であるものを用いることが好ましく、15cm以上であるものを用いることがより好ましい。このようなものとしては、王子キノクロス(株)製の「ハトシート」、東レ(株)製の「導水シート」などがある。揚水距離とは、フェルト試験片の下端2cmを温度25℃の水中に浸し、一定時間(30分)放置後の水の到達高さを意味する。
【0045】
図1に示される燃料電池100において、燃料輸送部材61は、短冊形状、より具体的には直方体形状を有している(図1〜3参照)。ただし、このような形状に限定されるものではなく、燃料輸送部材61の形状は、燃料電池全体の形状や膜電極複合体の形状等に応じた適宜の形状とすることができる。直方体形状以外の他の例として、たとえば立方体形状、一端から他端に向かうに従い、幅が連続的または段階的に小さくまたは大きくなる形状(表面が台形や三角形である形状等)などの短冊形状が挙げられる。
【0046】
燃料輸送部材61の長さ(燃料貯蔵室70側の一端からこれに対向する他端までの距離)は、特に制限されず、燃料電池全体の形状や膜電極複合体の形状等に応じた適宜の長さとすることができるが、燃料輸送部材61の一端を燃料貯蔵室70に保持された液体燃料に接触可能な位置に配置したときに、その他端が燃料極11の端部(燃料貯蔵室70側とは反対側の端部)の略直下の位置に配置されるような長さまたはそれ以上の長さを有していることが好ましい。これにより、燃料極11の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部までを含めた燃料極11全体にわたって、燃料をより効果的に供給することができる。
【0047】
なお、「液体燃料に接触可能な位置」とは、図1に示されるように、燃料輸送部材61の一端が燃料貯蔵室70内部に位置する場合のほか、燃料輸送部材61の一端が燃料供給室60と燃料貯蔵室70とを仕切る壁(箱筺体40の一部分である)の内部に位置する場合などを含む。燃料輸送部材61の一端が燃料貯蔵室70内部に位置するように燃料輸送部材61の長さを調整することにより、使用時における燃料電池100の向きがどのような向きであっても、液体燃料と燃料輸送部材61との接触が可能となる。
【0048】
燃料輸送部材61の厚みに特に制限はなく、燃料電池100の厚みや燃料供給室60の高さなどに応じて適宜されるが、たとえば0.05〜5mm程度とすることができ、燃料電池100の小型化、ならびに、吸い上げ高および吸い上げ速度向上の観点からは0.1〜1mmとすることが好ましい。
【0049】
図1に示される燃料電池100において、短冊形状を有する燃料輸送部材61は、短冊形状(より具体的には直方体形状)を有する単位電池30の直下の位置において、燃料極11に対向するように配置されている。より具体的には、燃料輸送部材61は、アノード集電層21、疎水性多孔質層2、燃料供給調整層1および燃料供給室60の上部空間を介して、燃料極11の直下の位置に配置されており、かつ、燃料極11と燃料輸送部材61との配置関係は、上下方向(燃料電池の各部材の積層方向)(図1参照)およびこれと垂直な方向(燃料電池の幅方向)(図2〜3参照)に関して、ともに平行である。このような燃料極11と燃料輸送部材61との配置関係は、燃料を燃料輸送部材61から燃料極11へ効率的に供給する上で極めて好ましいが、このような配置関係に限定されるものではない。たとえば、燃料輸送部材61は、燃料貯蔵室70から離れるに従い、次第に燃料極11に近づくように、あるいは離れるように、上下方向に関して傾斜して配置することができる。また、燃料輸送部材61は、燃料電池100を上から見たときに、燃料極11と交差するように配置してもよい。さらに、燃料輸送部材61は、燃料極11の直下の位置に(燃料電池100を上からみたときに、燃料輸送部材61の位置と燃料極11の位置とが一致するように)配置するのではなく、ずらした状態で配置してもよい。
【0050】
また、図1に示される燃料電池100において燃料輸送部材61は、燃料供給室60における上下方向の中心部付近に配置されているが、これに限定されるものではなく、たとえば、上下方向の中心部付近以外の箇所に配置してもよいし、燃料供給調整層1に接するように配置してもよいし、燃料供給室60の底面(箱筺体40)に接するように配置してもよい。燃料輸送部材61が燃料供給調整層1に接して配置される場合、燃料供給調整層1側へ移動する燃料の少なくとも一部は、液体状態であってよい。
【0051】
(電解質膜)
膜電極複合体20を構成する電解質膜10は、燃料極11から空気極12へプロトンを伝達する機能と、燃料極11と空気極12との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。電解質膜の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜なども挙げられる。
【0052】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。
【0053】
電解質膜10の膜厚はたとえば1〜200μmである。また、電解質膜10のEW値(プロトン官能基1モルあたりの乾燥重量)は、800〜1100程度であることが好ましい。EW値が小さいほど、プロトン移動に伴う電解質膜の抵抗が小さくなり高い出力を得ることができるが、実用上は電解質膜の寸法安定性や強度の問題から、極端に小さくすることは困難である。
【0054】
(燃料極および空気極)
電解質膜10の一方の表面に積層される燃料極11および他方の表面に積層される空気極12には、少なくとも触媒と電解質とを有する多孔質層からなる触媒層が設けられる。燃料極11用の触媒は、メタノール水溶液等の液体燃料をプロトンと電子に分解し、電解質は、生成した該プロトンを電解質膜10へ伝導する機能を有する。空気極12用の触媒は、電解質を伝導してきたプロトンと空気中の酸素から水を生成する機能を有する。
【0055】
燃料極11および空気極12用の触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていてもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。これにより、燃料極11および空気極12の保水性を向上させることができる。また、燃料極11および空気極12の電解質は、電解質膜10のEW値よりも小さなEW値を有する材料からなることが好ましく、具体的には、電解質膜10と同質材料であるが、EW値が400〜800である電解質材料が好ましい。このような電解質材料を用いることによっても、燃料極11および空気極12の保水性を向上させることができる。燃料極11および空気極12の保水性の向上により、プロトン移動に伴う電解質膜10の抵抗や燃料極11および空気極12における電位分布を改善することができる。また、EW値の低い電解質は同時に液体燃料の透過性も高いことから、EW値の低い電解質を用いることにより、燃料極11の触媒層に均一にガス状態の液体燃料を供給することができる。
【0056】
燃料極11および空気極12はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノード導電性多孔質層、カソード導電性多孔質層を備えていてもよい。これらの多孔質層は、燃料極11、空気極12に供給されるガス(ガス状態の液体燃料または空気)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0057】
(アノード集電層およびカソード集電層)
アノード集電層21、カソード集電層22はそれぞれ、燃料極11上、空気極12上に積層され、膜電極複合体20とともに単位電池30を構成する。アノード集電層21およびカソード集電層22はそれぞれ、燃料極11、空気極12における電子を集電する機能と、電気的配線を行なう機能とを有する。集電層の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。なお、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層が、たとえば金属等からなり、導電性が比較的高い場合には、アノード集電層およびカソード集電層は省略されてもよい。
【0058】
より具体的には、アノード集電層21は、ガス状態の液体燃料を燃料極11へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。この貫通孔は、燃料極11の触媒層で生成する排ガス(二酸化炭素ガス等)を燃料供給室60へ誘導するための排出孔としても機能する。同様に、カソード集電層22は、燃料電池外部の空気を空気極12の触媒層に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0059】
(燃料供給室)
燃料供給室60は、燃料輸送部材61および後述する燃料貯蔵室70とともに、燃料保持および燃料供給の役割を果たす燃料供給部を構成する部位であり、好ましくは燃料極11の直下に配置され、その内部空間に上述の燃料輸送部材61を備えている。燃料供給室60の内部空間は、好ましくは、燃料極11の燃料貯蔵室70側端部からこれと反対側の端部までの長さと同じかまたはそれ以上の長さを有しており、燃料極11の幅と同じかまたはそれ以上の幅を有している。燃料供給室60の内部空間の高さ(深さ)は特に制限されず、燃料輸送部材61を設置できる高さを有していればよい。
【0060】
図1に示される燃料電池100において燃料供給室60は、単位電池30の下部に燃料供給調整層1に接するように配置された、燃料供給室60の内部空間を構成する凹部を有する箱筺体40と燃料供給調整層1とによって形成されている。なお、本実施形態において箱筺体40は、燃料供給室60を構成する部位とともに、燃料貯蔵室70の底壁および側壁を構成する部位を一体として有しているが、これに限定されるものではなく、燃料供給室60を構成する部材と燃料貯蔵室70を構成する部材とは異なる部材であってもよい。
【0061】
本実施形態における箱筺体40は、プラスチック材料または金属材料を用いて、少なくとも燃料供給室60の内部空間を構成する凹部を有するように適宜の形状に成形することによって作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。これらのなかでも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエチレン(PE)は、3次元架橋による分子量増加により強度が高く安価に加工ができ、また軽量であることから好ましく用いられる。
【0062】
燃料供給室60は、燃料極11の触媒層で生成する排ガス(二酸化炭素ガス等)を燃料電池100外部へ排出するための第1の開孔63を有することが好ましい。図1に示される燃料電池100において第1の開孔63は、箱筺体40の外壁に設けられた、燃料供給室60の内部空間と燃料電池100外部とを連通する孔である。特に、図1および図3に示されるように、第1の開孔63が、燃料極11の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部近傍に設けられていることが好ましい。これは、液体燃料がアルコール水溶液(メタノール水溶液など)である場合、燃料供給室60内におけるガス状態の液体燃料のアルコール濃度は、燃料貯蔵室70に近いほど高濃度となり、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部に近づくほど低濃度となるため、上記のような位置に第1の開孔63を設置することにより、燃料極11で生成する排ガスとともに第1の開孔63から排出されるアルコール量を低減することができるためである。第1の開孔63から排出される燃料をより低減するために、第1の開孔63内に燃料を燃焼させる触媒を含む多孔質層を形成することも好ましい。
【0063】
ただし、第1の開孔63の位置は上記の位置に限定されるものではない。たとえば、第1の開孔63は、燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔(燃料供給室60の内部空間を構成する箱筺体40が有する壁に設けられた貫通孔)であってもよい。後述するように、燃料貯蔵室70には、その内部空間と燃料電池外部とを連通する第2の開孔71が設けられる。したがって、このような位置に第1の開孔63を設けることにより、燃料極11の触媒層で生成した排ガスは、燃料供給室60、第1の開孔63、燃料貯蔵室70および第2の開孔71を順に通って燃料電池外部に排出される。
【0064】
これら第1の開孔63および第2の開孔71が設けられることにより、燃料供給室60内は常に大気圧に維持されるため、燃料輸送部材61の高い吸い上げ高および吸い上げ速度を維持することができる。すなわち、燃料輸送部材61に液体燃料が染み込み、燃料供給室60内が加圧状態となって、燃料輸送部材61の吸い上げ高および吸い上げ速度が低下することを防止できる。
【0065】
また、このような吸い上げ高および吸い上げ速度の低下を効果的に防止するために、燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する第1の開孔63の断面積は、燃料輸送部材61が有する細孔の断面積よりも大きいことが好ましい。これにより、燃料極11で生成した排ガスが燃料輸送部材61中の液体燃料を燃料貯蔵室70に押し戻しながら燃料貯蔵室70に排出されるときの圧力損失よりも、第1の開孔63を通って燃料貯蔵室70に排出されるときの圧力損失の方がはるかに小さくなるため、燃料輸送部材61の吸い上げ高および吸い上げ速度の低下が効果的に防止される。ただし、第1の開孔63の断面積は、燃料貯蔵室70内に保持された液体燃料が直接第1の開孔63内に侵入して燃料供給室60内に漏れ出さない程度の大きさとすることが好ましく、あるいは、燃料供給室60内への液体燃料の漏出を防止するための気液分離膜(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等からなる多孔質膜)を第1の開孔63内に設けることが好ましい。
【0066】
第1の開孔63は、箱筺体40における燃料供給室60の底壁を構成する部位に設けられた貫通孔として形成されてもよい。この場合においても、第1の開孔63は、燃料輸送部材61の燃料貯蔵室70側とは反対側の端部近傍に配置されることが好ましい。
【0067】
なお、第1の開孔63、特に燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する第1の開孔63においては、開孔内部が液体燃料で濡れてしまうことによる排ガス通過時の圧力損失の上昇を抑制するために、液体燃料に対する第1の開孔63内部の濡れ性を低減させることが好ましい。濡れ性を低減する方法としては、開孔内壁面に撥水処理を施すか、もしくは開孔内に撥水性の多孔質材料を充填する方法が挙げられる。ただし、使用する液体燃料の濃度および表面張力によっては、撥水処理ではなく撥油処理を施すことが好ましい場合もある。たとえば、液体燃料として純メタノールを使用する場合には、開孔内壁面に撥油処理を施すか、もしくは開孔内に撥油性の多孔質材料を充填することが好ましい。
【0068】
第1の開孔63の直径は、たとえば1〜2000μmとすることができ、好ましくは10〜1500μmである。
【0069】
(燃料貯蔵室)
燃料貯蔵室70は、好ましくは単位電池30および燃料供給室60の側方に配置される、液体燃料を保持するための室である。燃料貯蔵室70の大きさや形状は特に制限されないが、燃料供給室60内に配置された燃料輸送部材61の一端と燃料貯蔵室70内に保持された液体燃料とが接触可能となるよう、その側壁面に開口を有する必要がある。その開口は、燃料供給室60と燃料貯蔵室70とを仕切る箱筺体40の一部分を構成する壁を貫通する穴から形成されるものであってもよく、この場合、燃料輸送部材61は、その一端が当該穴の内部に位置するかまたは燃料貯蔵室70内部に位置する(図1)ように、当該穴に挿入される。
【0070】
図1に示される燃料電池100において燃料貯蔵室70は、カソード集電層22上に積層され、複数の開口51を有する蓋筺体50、箱筺体40、単位電池30、疎水性多孔質層2および燃料供給調整層1によって形成されている。単位電池30、疎水性多孔質層2および燃料供給調整層1の燃料貯蔵室側端面は、燃料貯蔵室70内に保持された燃料が侵入しないよう、エポキシ系硬化性樹脂組成物などからなる封止層80によって封止されている。なお、燃料貯蔵室70は、これら蓋筺体50および箱筺体40を用いて構成する必要性は必ずしもなく、たとえば、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)、側壁および底壁を形成する部位を一体として含む1つの部材から構成することもできる。
【0071】
図1に示される燃料電池100において蓋筺体50は、燃料貯蔵室70の上壁(天井壁)を形成するとともに、単位電池30が直接露出することを防止している。蓋筺体50の空気極12直上部分には、空気を流通させるための複数の開口51(ただし、開口の数は1以上あればよい)が形成されている。
【0072】
蓋筺体50は、プラスチック材料または金属材料を用い、適宜の形状に成形することによって作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。これらのなかでも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリエチレン(PE)は、3次元架橋による分子量増加により強度が高く安価に加工ができ、また軽量であることから好ましく用いられる。
【0073】
燃料貯蔵室70は、その内部空間と燃料電池外部とを連通する第2の開孔71を備えることが好ましい。これにより、液体燃料が燃料輸送部材61によって燃料供給室60に輸送される場合においても、燃料貯蔵室70内が大気圧に維持されるため、液体燃料の輸送が阻害されず、燃料輸送部材61の高い吸い上げ高および吸い上げ速度を維持することができる。第1の開孔63が燃料供給室60の内部空間と燃料貯蔵室70の内部空間とを連通する孔である場合、第2の開孔71は、燃料極11で生成した排ガスを燃料電池外部へ排出する機能も有している。図1に示される燃料電池100において第2の開孔71は、蓋筺体50を厚み方向に貫通する貫通孔であるが、これに限定されるものではない。
【0074】
第2の開孔71からの液体燃料の漏洩を防止するために、第2の開孔71の開孔径は十分に小さいことが好ましく(たとえば直径100〜500μm程度、好ましくは100〜300μm)、あるいは、燃料電池外部への液体燃料の漏出を防止するための気液分離膜(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンまたはポリエチレン等からなる多孔質膜)を第2の開孔71内に設けることが好ましい。
【0075】
なお、特に第2の開孔71が、燃料極11で生成した排ガスを燃料電池外部へ排出する機能を有する場合においては、第2の開孔71の内部が液体燃料で濡れてしまうことによる排ガス通過時の圧力損失の上昇を抑制するために、液体燃料に対する第2の開孔71内部の濡れ性を低減させることが好ましい。濡れ性を低減する方法としては、開孔内壁面に撥水処理を施すか、もしくは開孔内に撥水性の多孔質材料を充填する方法が挙げられる。ただし、使用する液体燃料の濃度および表面張力によっては、撥水処理ではなく撥油処理を施すことが好ましい場合もある。たとえば、液体燃料として純メタノールを使用する場合には、開孔内壁面に撥油処理を施すか、もしくは開孔内に撥油性の多孔質材料を充填することが好ましい。
【0076】
以上に示した本実施形態の燃料電池100は、種々の変形を施すことができる。たとえば、疎水性多孔質層2を設ける場合、燃料供給調整層1は、疎水性多孔質層2と燃料供給部との間だけでなく、単位電池30と疎水性多孔質層2との間にも設置することができる。この構成においても上記実施形態と同様に、燃料供給量を最適に調節することが可能となる。なお、単位電池30と疎水性多孔質層2との間のみに燃料供給調整層1を設置することもできるが、燃料電池作製工程を簡略化できることから、少なくとも疎水性多孔質層2と燃料供給部との間に燃料供給調整層1を設置することが好ましい。すなわち、熱硬化性樹脂を含む接着剤で燃料供給調整層を作製すると、燃料供給調整層と箱筐体を熱圧着でき、簡易なプロセスでの作製が可能となる。
【0077】
また、本発明の燃料電池の層構成は、図1〜3に示されるものに限定されるものではなく、たとえば図4に示されるような、燃料供給室60の両面に単位電池30が配置された構成であってもよい。図4は、燃料供給室60の両面に単位電池30が配置された燃料電池の一例を示す、図2と同様の断面図である。かかる構成においては、燃料供給室60は、上下2つの燃料極11に対して燃料を供給するために、上下面ともに開放されている必要があることから、箱筺体40として、上下面が開いた空間を有する部材(燃料供給室形成部材)が用いられる。このような燃料供給室60の両面に単位電池30が配置された燃料電池は、2つの単位電池に対して1つの燃料供給部で足りることから、燃料電池の薄型化を図ることができるとともに、燃料電池の単位体積当たりの出力を向上させることができる。
【0078】
たとえば、燃料供給室60の両面に単位電池30が配置された燃料電池は、図10に示されるように、箱筺体40としての、燃料供給室60である上下面が開いた空間を有する燃料供給室形成部材と、当該空間に挿入される燃料輸送部材61とを用いた燃料供給部を備えることができる。図10に示される燃料供給室形成部材(箱筺体40)は上下面が開いた空間(燃料供給室)を6つ有する(櫛歯を7つ有する)櫛形状からなり、燃料輸送部材61も同様に、櫛歯を6つ有する櫛形状からなる。燃料輸送部材61の6つの櫛歯を燃料供給室形成部材(箱筺体40)の6つの空間(燃料供給室)に挿入するように、これらの部材を組み合わせることにより、燃料供給部が形成される。図10に示される燃料供給室形成部材(箱筺体40)および燃料輸送部材61は、同一平面上に配置された単位電池を6個(両面を合わせると12個)備える燃料電池の構築に好適に用いられるものである。
【0079】
また、本発明の燃料電池は、同一平面上に配置された単位電池30を2以上含むものであってもよい。その一例として、単位電池セル30を4つ備える燃料電池の概略図を図5および図6に示す。この燃料電池の層構成は図1と同じであってよい。図5は、単位電池セル30を4つ備える燃料電池の一例を示す概略上面図である。図6は燃料輸送部材61が存在する位置で構成部材の積層方向に対して垂直な方向に切断したときの概略断面図であり、図1に示されるIII−III線における断面図に相当する図である。
【0080】
図5および図6に示される燃料電池において、各単位電池30は、図1の燃料電池100と同様、短冊形状(より具体的には直方体形状)を有しており、隣り合う単位電池同士が互いに平行となるように、離間して配置されている。単位電池セル30間に設けられる隙間の幅は、たとえば0.5〜10mm程度である。ただし、各単位電池は必ずしも平行に配置される必要はない。
【0081】
燃料電池が同一平面上に配置された複数の単位電池30を有する場合、燃料輸送部材61は、図6に示されるように、燃料供給室60内に各単位電池に対向するように配置される複数の燃料輸送用の部材(櫛歯)が燃料貯蔵室70側において一体化された櫛歯形状の1つの部材であってもよく、あるいは、単位電池30のそれぞれに対向するように配置された単位電池セル30と同数の複数の燃料輸送部材61を設けるようにしてもよい。また、図5および図6に示される例においては、単位電池30と同数の燃料供給室60が設けられているが、これに限定されるものではなく、たとえば複数の単位電池30に対して燃料供給室60を1つのみ設け、この燃料供給室60内に複数の燃料輸送部材61(または複数の櫛歯を有する1つの燃料輸送部材61)を設置するようにしてもよい。複数の単位電池セルを備える燃料電池のその他の可能な変形は、上述した1つの単位電池を備える燃料電池と同様である。
【0082】
さらに、燃料供給部は、燃料供給室と燃料貯蔵室と燃料輸送部材とからなるものに限定されず、たとえば、燃料貯蔵室と、該燃料貯蔵室に接続された流路を備える流路板とからなるものであってもよい。流路板は、たとえば、箱筺体40について例示した材料から構成された平板を基材とするものであってよく、燃料が流通する流路は、該基材の片側表面もしくは両側表面に設けられた1以上の溝として形成することができ、あるいは、厚み方向に貫通するスリット状の空間であってもよい。このような燃料供給部を備える燃料電池において、燃料貯蔵室から毛細管現象により流路板の流路に移動した燃料は、液体状態として燃料供給調整層に供給されるが、燃料供給調整層および疎水性多孔質層を通過して燃料極に供給されるのは、ガス状態の燃料である。
【0083】
本発明の燃料電池は、固体高分子型燃料電池、ダイレクトアルコール型などとして適用することができ、特にダイレクトアルコール型燃料電池(とりわけ、ダイレクトメタノール型燃料電池)として好適である。本発明の燃料電池において使用することのできる液体燃料としては、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類;ジメトキシメタンなどのアセタール類;ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類;ならびにこれらの水溶液を挙げることができる。これらの液体燃料において、水以外の成分が、燃料極において酸化される還元剤である。液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。本発明によれば、高濃度燃料(濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液または純メタノールなど)を用いる場合であっても、安定した出力を得ることができる。
【0084】
<燃料電池スタック>
本発明はまた、上記で示した本発明に係る燃料電池を2以上備える燃料電池スタックを提供する。複数の燃料電池を集積化して燃料電池スタック構造を構築する場合、特に高濃度燃料を用いる場合においては、スタック構造内部において、発電に伴う熱の滞留が生じやすく、温度上昇が生じやすいが、燃料供給調整層を備える本発明に係る燃料電池を用いた燃料電池スタックによれば、燃料極への燃料供給量が適切に制御されるため、各単位電池において過度の温度上昇が生じにくく、もって、燃料電池スタック内部における過度の温度上昇を生じにくくすることができる。これにより、高濃度燃料を用いる場合においても、燃料電池スタックの安定した出力を得ることが可能となるとともに、燃料電池スタックの小型化を図ることができる。
【0085】
図7は、燃料電池スタックの一例を示す概略図であり、図7(a)はその斜視図、図7(b)は上面図、図7(c)は側面図である。図7に示される燃料電池スタックは、本発明に係る5つの燃料電池700を、同一平面内に、各燃料電池700の間に隙間が形成されるように離間して配置してなる燃料電池層710と、長辺と短辺を有する2つの短冊状の(より具体的には直方体形状の)スペーサ720を、同一平面内に、各スペーサ720の間に隙間が形成されるように離間して配置してなるスペーサ層730とを交互に積層した構造を有する(燃料電池層4層およびスペーサ層4層)。2つのスペーサ720は、燃料電池700の長手方向における両端部において燃料電池700と交わるように配置されている。このように、燃料電池およびスペーサを井型に積層させることによって、燃料電池スタック内部の空間が3次元的に連通したスタック構造が実現される。かかるスタック構造は、パッシブ方式での空気の供給効率に優れており、スタック内部に位置する空気極に対しても、ファンなどの補機を用いることなく空気を効率的に供給することができる。
【0086】
図7に示されるような井型の燃料電池スタックにおいて、燃料電池層が有する燃料電池の数、スペーサ層が有するスペーサの数、ならびに、燃料電池層およびスペーサ層の積層数は特に限定されず、図7はその一例を示したものに過ぎない。
【0087】
スペーサは、たとえば、箱筺体40について例示した材料から構成された平板を基材とするものであってよく、また他にもメッシュ状や、不織布状、発泡体、焼結体などからなる導電性または非導電性の多孔質体からなることもできる。図4に示されるような、燃料供給室60の両面に単位電池30が配置された燃料電池を用いる場合には、短絡を防ぐために、スペーサは、非導電性の材料からなることがより好ましい。
【0088】
本発明の燃料電池および燃料電池スタックは、電子機器、特には、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコンに代表される携帯機器などの小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
以下の手順で、蓋筺体を有しないこと以外は図1と同様の燃料電池を作製した。
【0091】
(1)燃料供給調整層の形成
疎水性多孔質層2として、縦23mm、横45mm、厚み0.1mmのポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2026A−N06」)を用いた。この疎水性多孔質層2の片面に、変性オレフィン系溶液型接着剤である東亜合成(株)製の「アロンメルトPPET−1600」0.16g、変性オレフィン系溶液型接着剤である東亜合成(株)製の「アロンマイティPU−171H」等)0.006gおよびトルエン20gを混合して得られた溶液をスプレー塗布し、室温で乾燥させた。次に、一方の面に縦18mm、横40mm、深さ1.2mmの凹部(燃料供給室60となる空間)と、縦23mm、横15mm、深さ4mmの凹部(燃料貯蔵室70となる空間)とが形成された縦25mm、横60mm、厚み5mmの箱筺体40(図1と同様の位置に1mm径の第1の開孔63を有している)を、その凹部(燃料供給室60となる空間)が上記溶液の塗布層に対向するように該塗布層上に積層させた後、100℃に保持した乾燥炉内で加重をかけながら30分間放置することにより上記溶液の塗布層を硬化させ、燃料供給調整層1を形成するとともに、燃料供給調整層1と箱筺体40とを熱圧着した。
【0092】
(2)燃料輸送部材の設置
厚さ1mmのパルプ不織布(王子キノクロス(株)製「ハトシート」)を用意し、これを縦12mm、横46mmに切断して燃料輸送部材61とした。この燃料輸送部材61を、図1に示されるように、燃料貯蔵室70を形成する凹部と燃料供給室60を形成する凹部の間にある箱筐体40の一部である隔壁上に配置し、燃料供給調整層1と箱筺体40とで形成される、燃料供給室60となる空間に組み込んだ。なお、当該組み込み後に、上記の燃料供給調整層1と箱筺体40との熱圧着が行なわれる。
【0093】
(3)膜電極複合体の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、燃料極用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いて、燃料極用の触媒ペーストと同様にして、空気極用の触媒ペーストを作製した。
【0094】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパー(25BC、SGL社製)を縦35mm、横50mmに切断した後、その多孔質層上に、上記の燃料極用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、縦30mm、横45mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約200μmの燃料極11を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパーの多孔質層上に、上記の空気極用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、縦30mm、横45mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約70μmの空気極12を作製した。
【0095】
つぎに、厚さ約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を縦35mm、横50mmに切断して電解質膜10とし、上記燃料極11と電解質膜10と上記空気極12をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜10に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間のホットプレスを行ない、燃料極11および空気極12を電解質膜10に接合した。上記重ね合わせは、燃料極11と空気極12の電解質膜10の面内における位置が一致するように、かつ燃料極11と電解質膜10と空気極12の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の外周部を切断することにより、縦23mm、横40mmの膜電極複合体20を作製した。
【0096】
(4)単位電池の作製
厚さ100μm、縦23mm、横45mmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらをアノード集電層21およびカソード集電層22とした。
【0097】
つぎに、上記アノード集電層21を燃料極11上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層するとともに、カソード集電層22を空気極12上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着材層を介して積層し、これらをホットプレスにより接合して、縦23mm、横40mmの単位電池30を作製した。なお、アノード集電層21およびカソード集電層22は、それらの開孔が形成された領域がそれぞれ燃料極11、空気極12の直上に配置されるように積層した。
【0098】
(5)燃料電池の作製
上記で得られた単位電池30のアノード集電層21側に、箱筺体40が燃料供給調整層1を介して接合された疎水性多孔質層2を積層した後、図1に示されるように、単位電池30、疎水性多孔質層2および燃料供給調整層1の側面にエポキシ樹脂系接着剤を塗布、乾燥して薄い封止層80を形成し、これらの部材を接合、固定することにより、燃料電池を得た。
【0099】
なお、上記疎水性多孔質層2と燃料供給調整層1との積層体を1cm角に切断して試験片を得た後、当該試験片について上述の浸漬試験を行ない、上記式に基づいて、25℃の純メタノール中に24時間浸漬した後の重量減少率W1、25℃の純水中に24時間浸漬した後の重量減少率W2および75℃の純水中に1時間浸漬した後の重量減少率W3をそれぞれ測定した。その結果、W1、W2およびW3はそれぞれ、0.0%、0.0%、0.3%であった。なお、ポリテトラフルオロエチレンからなる疎水性多孔質層2は、25℃の純メタノールならびに25℃および75℃の純水に実質的に溶解しない。
【0100】
各種濃度のメタノール水溶液を燃料としてパッシブ供給にて燃料供給を行ない、得られた燃料電池を稼動させ、充放電装置(菊水電子工業(株)製の「SPEC20526」)を用いてI−V測定を行ない、燃料電池の出力特性を評価した。その結果、メタノール濃度が15M以上である燃料を用いたときにも高い出力密度を得ることができ、図8に示されるように、メタノール濃度が20Mのときには、約12mW/cm2の出力密度が得られた。図8および後述する図9において、「出力密度」とは、単位面積当たりの出力値を示すものであり、この値により電池の性能を評価できる。
【0101】
<比較例1>
燃料供給調整層を有しないこと以外は、実施例1の燃料電池と同様の構造を有する燃料電池を作製した。得られた燃料電池の出力特性を同様にして評価したところ、図9に示されるように、メタノール濃度が15Mのときには、約9mW/cm2の出力密度が得られたものの、メタノール濃度が16Mになると、燃料電池の温度上昇が著しくなり、ほとんど出力は得られなかった。
【符号の説明】
【0102】
1 燃料供給調整層、2 疎水性多孔質層、10 電解質膜、11 燃料極、12 空気極、20 膜電極複合体、21 アノード集電層、22 カソード集電層、30 単位電池、40 箱筺体、50 蓋筺体、51 開口、60 燃料供給室、61 燃料輸送部材、63 第1の開孔、70 燃料貯蔵室、71 第2の開孔、80 封止層、100,700 燃料電池、710 燃料電池層、720 スペーサ、730 スペーサ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極、電解質膜および空気極をこの順で含む膜電極複合体を備える単位電池と、
前記単位電池の前記燃料極側に配置され、燃料を保持するとともに、前記燃料極に前記燃料を供給するための燃料供給部と、
前記単位電池と前記燃料供給部との間に配置され、前記燃料極への燃料供給量を調整するための燃料供給調整層と、
を含み、
前記燃料供給調整層は、硬化性樹脂組成物の硬化物層からなる、燃料電池。
【請求項2】
前記燃料供給部は、
前記燃料極側が開放された空間からなる燃料供給室と、
前記燃料を保持するための燃料貯蔵室と、
前記燃料に対して毛細管作用を示す材料からなる部材であって、その一端が前記燃料貯蔵室内に保持される前記燃料に接触可能な位置に配置されるとともに、その他端が前記燃料供給室内部に配置され、前記燃料極に対向するように延びる燃料輸送部材と、
を含む、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記燃料供給調整層は、25℃の純メタノール中に24時間浸漬した後の重量減少率および25℃の純水中に24時間浸漬した後の重量減少率が3%以下である、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料供給調整層は、75℃の純水中に1時間浸漬した後の重量減少率が3%以下である、請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記単位電池と前記燃料供給調整層との間に配置された、疎水性の多孔質層をさらに備える、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記単位電池と前記多孔質層との間および前記多孔質層と前記燃料供給部との間に前記燃料供給調整層を備える、請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃料供給室の両面に、一対の前記単位電池を備える、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記単位電池は、前記燃料極上に積層されるアノード集電層と、前記空気極上に積層されるカソード集電層とをさらに備える、請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記燃料は、濃度が50モル%を超えるメタノール水溶液または純メタノールである、請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池を2以上備える燃料電池スタック。
【請求項11】
2以上の燃料電池層を含み、
前記燃料電池層は、同一平面内に離間して配置された2以上の前記燃料電池から構成される、請求項10に記載の燃料電池スタック。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の燃料電池または燃料電池スタックを備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−222349(P2011−222349A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91245(P2010−91245)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】