説明

燃料電池のガス拡散体

【課題】生成水を触媒層近傍からガス拡散層の表面に速やかに移動させ、ガス拡散層からの排水性を向上させる。
【解決手段】親水性を有するガス拡散層102cにおいて、比較的に大径のガス拡散孔h1を形成するとともに、これよりも小径の排水孔h2を形成する。排水孔h2の直径φ2を毛管力の作用を生じさせ得る程度に設定することで、触媒層近傍からガス拡散層102cの表面sf1に生成水を吸い上げ、セル外に排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のガス拡散層を形成するためのガス拡散体に関し、詳細には、固体高分子型燃料電池において、触媒層近傍からガス拡散層の表面へ向かう生成水の積極的な輸送作用を得ることにより、ガス拡散層からの排水性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池では、イオン伝導性確保の観点から電解質膜中に水分を保持させるため、反応ガスに水蒸気を含ませ、電解質膜の加湿を行う。発電に伴いカソード電極の触媒層上に水(以下「生成水」という。)が発生することとなるが、この生成水をセル外に排出させるための方法として、蒸気状態の生成水を酸化剤ガス中に対流又は拡散させたり、液状態の生成水を酸化剤ガス中に蒸発させ又は酸化剤ガスにより微小な液滴の状態で輸送する方法が一般的に知られている。ここで、酸化剤ガスの湿度が過度に高いと、蒸発又は持ち去り等による排水作用が良好に得られなくなるため、ガス拡散層内に液状態の生成水が停滞し、酸化剤ガスの拡散及び触媒層への円滑な供給が阻害される。
【0003】
このようなフラッディングの問題を解消するための技術として、ガス拡散層からの排水性を考慮した次のような技術が知られている。すなわち、各セルを構成するセパレータにおいて、ガス拡散層に接触するリブの拡散層接触面の一部と、このリブの側面(反応ガスの流路を形成する。)とに連続して親水処理を施すことで、略L字状の親水部を形成するものである(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−116179号公報(段落番号0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このものは、ガス拡散層の表面にある生成水を、親水部を介してリブの側面に移動させ、より広い面積に亘り反応ガスと接触させることで、生成水の蒸発及び持ち去りを促進させようとするものである。すなわち、このものは、触媒層近傍からガス拡散層の表面に至るまでの生成水の移動に関しては考慮しておらず、触媒層近傍にある生成水をガス拡散層の表面に移動させるための積極的な方策を提供するものではない。
【0005】
以上より、本発明は、触媒層近傍からガス拡散層の表面へ向かう生成水の積極的な輸送作用を得ることにより、生成水を触媒層近傍からガス拡散層の表面に速やかに移動させ、ガス拡散層からの排水性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃料電池のガス拡散体及びこれを含んで構成される燃料電池を提供するものである。
本発明に係る燃料電池のガス拡散体は、第1の表面と、この第1の表面とは反対側の第2の表面と、第1の表面及び第2の表面により定められる厚さの方向にこの媒体を貫通する、比較的に大きな第1の直径のガス拡散孔を形成する第1の内面と、前記厚さの方向にこの媒体を貫通する、第1の直径よりも小さな第2の直径の排水孔を形成する第2の内面とを含んで構成される。
【0007】
本発明に係る燃料電池は、このようなガス拡散体を含んで構成されるものであり、電解質膜と、この電解質膜上に形成された触媒層と、この触媒層に燃料ガス又は酸化剤ガスを拡散させて供給するためのガス拡散層とを含んで構成される。このガス拡散層は、ガス拡散体により形成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガス拡散体において、第1の内面により比較的に大径のガス拡散孔を形成したことで、この孔を介して触媒層に燃料ガス又は酸化剤ガスを円滑に供給することができる。また、第2の内面によりガス拡散孔よりも小径の排水孔を形成したことで、この孔を介して毛管力の作用により触媒層上又はガス拡散層内に発生した液水を吸い上げ、ガス拡散層の表面に移動させることができる。このため、触媒層近傍からガス拡散層の表面へ向かう生成水の積極的な輸送作用が得られるので、生成水を触媒層近傍からガス拡散層の表面に速やかに移動させて、セル外に排出することが可能となり、ガス拡散層からの排水性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池1の構成を示している。本実施形態に係る燃料電池1は、固体高分子型燃料電池であり、単位セルCを積層したスタックとして構成される。
本実施形態において、各単位セルCの電解質膜101には、プロトン伝導性の高分子イオン交換膜として代表的なパーフルオロスルホン酸系の電解質膜を採用している。この電解質膜101に対し、ガス拡散体102a,102cをアノード側及びカソード側のそれぞれに接合して、膜電極接合体を構成している。ガス拡散体102a,102cの素材には、親水性のものを採用している。アノード側に接合したガス拡散体102aによりアノード側のガス拡散層(以下「アノードガス拡散層」という。)が形成されるとともに、このガス拡散体102aと電解質膜101とに挟まれた触媒によりアノード側の触媒層(以下「アノード触媒層」という。)が形成される。他方、カソード側に接合したガス拡散体102cによりカソード側のガス拡散層(以下「カソードガス拡散層」という。)が形成されるとともに、このガス拡散体102cと電解質膜101とに挟まれた触媒によりカソード側の触媒層(以下「カソード触媒層」という。)が形成される。また、アノードガス拡散層及びアノード触媒層により単位セルCのアノード電極が、カソードガス拡散層及びカソード触媒層により単位セルCのカソード電極が構成される。このように構成される膜電極接合体を一対のセパレータ103,103により上下から挟持するとともに、膜電極接合体の両側をシール材104,104により封止して、単位セルCが構成される。なお、ガス拡散体102a,102cは、電解質膜101上に触媒層を形成した後、触媒層に対して接合する。
【0010】
セパレータ103には、アノードガス拡散層102a又はカソードガス拡散層102cとの接合面に溝を形成しており、この溝により燃料ガス又は酸化剤ガスの通路pa,pcが形成される。通路paを流通する燃料ガスがアノードガス拡散層102aにより拡散されて、アノード触媒層全体に供給される。他方、通路pcを流通する酸化剤ガスがカソードガス拡散層102cにより拡散されて、カソード触媒層全体に供給される。燃料ガス及び酸化剤ガスには、イオン伝導性確保の観点から電解質膜101中に水分を保持させるために水蒸気を含ませており、これにより電解質膜101の加湿を行う。発電に伴い電解質膜101中を移動したプロトンがカソード触媒層上で酸化剤ガスと反応して液水を生成することから、酸化剤ガスの湿度が過度に高いと、カソードガス拡散層102c内に生成水が滞留して、酸化剤ガスの拡散及びカソード触媒層への円滑な供給が阻害される。本実施形態では、このフラッディングの問題を回避するため、ガス拡散層(特に、カソードガス拡散層102c)からの排水性を向上させる。以下、本実施形態に係るガス拡散体の構成について、カソードガス拡散層102cにより代表して説明する。
【0011】
図2は、本実施形態に係るカソードガス拡散層102cの構成を模式的に示しており、同図(a)は、この構成を上方斜視により、同図(b)は、縦方向の部分断面により示している。
本実施形態では、カソードガス拡散層102cにおいて、排水性向上のため、酸化剤ガスを流通させるための比較的に大径の孔(すなわち、ガス拡散孔)h1以外に、これよりも小径の孔(すなわち、排水孔)h2を形成している。カソードガス拡散層102cに親水性を持たせたことから、カソードガス拡散層102cに接触する生成水は、90°よりも小さなぬれ角を形成する。このため、排水孔h2の直径を適切な値(すなわち、第2の直径φ2)に設定することにより毛管力の作用を生じさせ、カソード触媒層上に発生した生成水を、排水孔h2を介してカソードガス拡散層102cの表面sf1に移動させることができる。他方、ガス拡散孔h1の直径を第2の直径φ2よりも大きな第1の直径φ1に設定することにより、ガス拡散孔h1に生じる毛管力を排水孔h2に生じるものよりも低下させて、排水孔h2へ向かう生成水の流れを促し、ガス拡散孔h1への生成水の浸入及びガス拡散孔h1における生成水の存在を抑制する。本実施形態では、第1の直径φ1を数マイクロメートルから数百マイクロメートルのオーダに設定し、第2の直径φ2を数ナノメートルから数百ナノメートルのオーダに設定している。
【0012】
また、本実施形態では、カソードガス拡散層102cにおいて、ガス拡散孔h1及び排水孔2に対して垂直な方向に延伸させて連通孔h3を形成し、この孔h3によりガス拡散孔h1と排水孔h2とを連通させている。本実施形態では、連通孔h3の直径φ3を排水孔h2と略同等に設定しているが、これに限らず、この孔h3に実質的な毛管力を生じさせ得る範囲で第2の直径φ2よりも大きな直径φ3(φ2<φ3<φ1)に設定してもよい。
【0013】
更に、本実施形態では、カソードガス拡散層102cの表面sf1において、第2の直径φ2よりも小さな等価水力直径φ4の溝gaを形成している。溝gaに代え、φ4に相当する直径の孔を形成することも可能である。本実施形態では、溝gaを酸化剤ガスの流れに関する上流から下流に延伸させて形成するとともに、排水孔h2の周縁に接するか、又はこれを横断させて形成している。
【0014】
図4は、本実施形態に係るカソードガス拡散層102cの具体的な構成例を示している。
本実施形態では、第1の直径φ1に相当する直径の第1の粒子P1と、第2の直径φ2に相当する直径の第2の粒子P2とをバインダ等の接着手段により接着して、カソードガス拡散層102cを構成している。
【0015】
カソードガス拡散層102cの基材であるガス拡散体は、第1及び第2の粒子P1,P2をカソードガス拡散層102cの幅及び厚さtにより定められる平面内で交互に積層させて形成する。まず、図4の紙面に向かって左側の側面を底面として、第2の粒子P2をこの底面全体に亘り所定の厚さで敷き詰め、バインダにより接着した後、この第2の粒子P2の層上に第1の粒子P1を分散させ、更にバインダにより接着する。この工程をカソードガス拡散層102cの必要な長さlが得られるまで繰り返すのである。なお、第1の粒子P1の層を形成した後、この層を形成する第1の粒子P1の間に第2の粒子P2が侵入するのを防ぐには、第1の粒子P1の隙間を埋める程度の直径φ5(φ2<φ5<φ1)の粒子を第1の粒子P1の層上に分散させればよい。このような工程を経て形成されるカソードガス拡散層102cにおいて、ガス拡散孔h1は、隣り合う第1の粒子P1の間の空間として形成され、排水孔h2は、隣り合う第2の粒子P2の間の空間として形成される。
【0016】
連通孔h3は、第1の粒子P1を分散させる際に、隣り合う(図4において、上下に重なり合う)第1の粒子P1の隙間を調整することにより形成する。第1の粒子P1の間に第2の粒子P2を介在させることで、排水孔h2と略同径の連通孔h3を形成することができる。
溝gaは、ガス拡散体の一方の表面sf1に機械加工を施すことにより形成することができる。しかしながら、溝gaに代えて孔を形成してもよく、図4は、この一方の表面sf1上に、第2の粒子P2よりも小径の第3の粒子P3を積層させて、重なり合う第3の粒子P3の間の空間として孔を形成するものを示している。
【0017】
以上のようにして構成されたガス拡散体に対し、溝ga又は孔を設けた表面sf1とは反対側の表面sf2上に触媒を担持させ、触媒層clを形成する。ガス拡散体は、電解質膜101に対し、触媒層clを介して熱圧着等により接合する。
本実施形態において、カソードガス拡散層102cの表面sf1が「第1の表面」に、その反対側の表面sf2が「第2の表面」に相当する。また、ガス拡散孔h1を形成するカソードガス拡散層102cの内面(図4の例において、第1の粒子P1の表面)が「第1の内面」に、排水孔h2を形成するカソードガス拡散層102cの内面(図4の例において、第2の粒子P2の表面)が「第2の内面」に、連通孔h3を形成するカソードガス拡散層102cの内面(図4の例において、上下に重なり合う第1の粒子P1の間に介在させた第2の粒子P2の表面)が「第3の内面」に相当する。
【0018】
本実施形態によれば、カソードガス拡散層102cにおいて、比較的に大きな第1の直径φ1のガス拡散孔h1を介してカソード触媒層cl全体に酸化剤ガスを円滑に供給するとともに、第1の直径φ1よりも小さな第2の直径φ2の排水孔h2を介して毛管力の作用によりカソード触媒層cl上に発生した生成水を吸い上げ、カソードガス拡散層102cの表面sf1に移動させることができる。このため、カソード触媒層cl近傍からカソードガス拡散層102cの表面sf1へ生成水を速やかに移動させて、単位セルC外に排出することができ、カソードガス拡散層102cからの排水性を向上させ、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0019】
図8は、本実施形態に係る燃料電池1の電圧‐電流密度曲線を示している。本実施形態に係るカソードガス拡散層102cにより排水孔h2を形成した場合のものを曲線Aにより、排水孔h2に対応する構成を持たない場合のものを、比較例として曲線Bにより示している。同図から、曲線Aにおいて、高電流密度側の領域で内部損失の減少を確認することができる。また、電流密度の増大に従いカソードガス拡散層102cの採用による効果が顕著に見られることから、この内部損失の減少は、拡散分極による損失の減少を示すものと考えられる。
【0020】
また、本実施形態によれば、排水孔h2と略同径の連通孔h3を形成し、この孔h3によりガス拡散孔h1と排水孔h2を連通させたことで、ガス拡散孔h1に浸入した生成水を毛管力の作用により、この孔h3を介して排水孔h2に移動させ、カソード触媒層cl近傍から吸い上げた生成水とともにカソードガス拡散層102cの表面sf1に移動させ、単位セルC外に排出することができる。
【0021】
更に、本実施形態によれば、カソードガス拡散層102cの表面sf1に第2の直径φ2よりも小さな等価水力直径φ4の溝ga(又は孔)を形成したことで、カソード触媒層cl近傍からこの表面sf1に吸い上げた生成水を、溝gaを伝わらせて単位セルC外に排出することができる。溝gaを伝う移動の過程で生成水と酸化剤ガスとが広い面積で接触することとなるため、蒸発又は持ち去りによる排水作用を促進させることができる。
【0022】
図5は、本実施形態に係るカソードガス拡散層102cの他の具体的な構成例を示している。
図5(a)に示すカソードガス拡散層102cは、第1の粒子P1を積層させ、バインダにより接着して多孔体を形成するとともに、この多孔体を第2の粒子P2を分散させたスラリーに浸漬させ、及び乾燥させて形成したものである。第1の粒子P1に囲まれた空間としてガス拡散孔h1が形成され、隣り合う第2の粒子P2,P2の間、又は第1及び第2の粒子P1,P2の間の空間として排水孔h2が形成される。
【0023】
図5(b)に示すカソードガス拡散層102cは、第1の粒子P1の表面に第2の粒子P2をバインダにより予め接着した後、第1の粒子P1を積層させ、及び接着して形成したものである。同図(a)のものと同様に、第1の粒子P1に囲まれた空間としてガス拡散孔h1が形成され、隣り合う第2の粒子P2の間の空間等として排水孔h2が形成される。
【0024】
図5(c)に示すカソードガス拡散層102cは、複数の第2の粒子P2をバインダにより予め略球状に接着して、第1の直径φ1に相当する直径の球状体又は擬似球状体Sを形成し、この球状体Sを積層させ、及び接着して形成したものである。球状体S(簡単のため、二点鎖線によりその外形を示す。)に囲まれた空間としてガス拡散孔h1が形成され、隣り合う第2の粒子P2の間の空間として排水孔h2が形成される。
【0025】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係るカソードガス拡散層102cの構成を示している。同図(a)は、カソードガス拡散層102cを厚さtの方向に切断した状態で示し、同図(b)は、貫通孔tbの内面を平面に展開した状態で示している。
本実施形態では、カソードガス拡散層102cにおいて、第1の直径φ1に相当する直径の孔(以下「貫通孔」という。)tbを厚さtの方向に貫通させて形成するとともに、この孔tbの内壁iwに、第2の直径φ2に相当する等価水力直径の溝gbを全周に亘り形成している。第1の実施形態におけると同様に、表面sf1に第2の直径φ2よりも小さな等価水力直径の溝ga又は孔を形成するとよい。
【0026】
本実施形態に係るカソードガス拡散層102cにおいて、カソードガス通路pcを流通する酸化剤ガスは、貫通孔tbを介してカソード触媒層cl全体に供給される。他方、カソード触媒層cl上に発生した生成水は、内壁iwに形成された溝gbに毛管力の作用が生じることで、この溝gbを伝ってカソードガス拡散層102cの表面sf1に吸い上げられる。すなわち、本実施形態では、貫通孔tbが「ガス拡散孔」として機能し、溝gbが「排水孔」として機能する。
【0027】
図7は、本発明の第3の実施形態に係るカソードガス拡散層102cの構成を示している。同図(a)は、カソードガス拡散層102cを平面視により示し、同図(b)は、同図(a)に示すx−x線による断面を示している。
本実施形態では、カソードガス拡散層102cを、カーボン繊維cfを織り重ねて形成している。厚さtの方向に対して垂直な各段の配列において、隣り合うカーボン繊維cfの間隔を、第1の直径φ1に相当する間隔s1と、第2の直径φ2に相当する間隔s2とで交互に設定している。このように構成されるカソードガス拡散層102cにおいて、表面sf1に第2の直径φ2よりも小さな等価水力直径の溝ga等を形成し得ることは、以上と同様である。
【0028】
本実施形態に係るカソードガス拡散層102cにおいて、カソードガス通路pcを流通する酸化剤ガスは、間隔s1の隙間h1を介してカソード触媒層cl全体に供給され、カソード触媒層cl上に発生した生成水は、間隔s2の隙間h2を介して毛管力の作用により表面sf1に吸い上げられる。すなわち、本実施形態では、隙間h1が「ガス拡散孔」として機能し、隙間h2が「排水孔」として機能する。
【0029】
本実施形態では、カーボン繊維の間隔を調整することにより異なる機能の隙間h1,h2を形成することとしたが、これに限らず、たとえば、第2の直径φ2に相当する太さの複数のカーボン繊維を束ねて繊維材を形成し、これを織り重ねることで、間隔の調整等を要することなく同様な機能の隙間を形成することができる。この場合は、繊維材の隙間として「ガス拡散孔」が形成されるとともに、各束におけるカーボン繊維の隙間として「排水孔」が形成される。
【0030】
なお、以上で述べたカソードガス拡散層102cの構成は、同様な構成のガス拡散体を基材として採用することにより、アノードガス拡散層102aについて適用することもできる。
以上では、ガス拡散体に親水性を持たせる場合を例に説明したが、ガス拡散体には、疎水性を持たせることも可能である。
【0031】
アノード側及びカソード側の各触媒層には、疎水性を持たせるとよい。また、これらの触媒層は、触媒を担持させたカーボン粒子により構成することで、第2の直径φ2と略同等又はこれよりも小さな孔径の多孔体として形成するとよい。触媒層の撥水性を高め、ガス拡散層からの排水性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の構成
【図2】同上実施形態に係るカソードガス拡散層の外観
【図3】同上カソードガス拡散層の拡大断面
【図4】同上カソードガス拡散層の具体的な構成例
【図5】同上カソードガス拡散層の他の具体的な構成例
【図6】本発明の第2の実施形態に係るカソードガス拡散層の構成
【図7】本発明の第3の実施形態に係るカソードガス拡散層の構成
【図8】本発明に係る燃料電池により得られる効果の一例
【符号の説明】
【0033】
1…燃料電池、101…電解質膜、102a…アノードガス拡散層(ガス拡散体)、102c…カソードガス拡散層(ガス拡散体)、103…セパレータ、104…シール材、C…単位セル、h1…ガス拡散孔、h2…排水孔、h3…連通路、ga…溝、sf1…「第1の表面」としてのカソードガス拡散層の表面、pa…アノードガス通路、pc…カソードガス通路、cl…触媒層、iw…「第1の内面」としてのカソードガス拡散層の内壁、tb…貫通孔、gb…溝、cf…カーボン繊維、P1,P2,P3…粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面と、
前記第1の表面とは反対側の第2の表面と、
前記第1の表面及び前記第2の表面により定められる厚さの方向にこの媒体を貫通する、比較的に大きな第1の直径のガス拡散孔を形成する第1の内面と、
前記厚さの方向にこの媒体を貫通する、前記第1の直径よりも小さな第2の直径の排水孔を形成する第2の内面と、を含んで構成される燃料電池のガス拡散体。
【請求項2】
前記第1の直径は、数マイクロメートルから数百マイクロメートルのオーダである請求項1に記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項3】
前記第2の直径は、数ナノメートルから数百ナノメートルのオーダである請求項1又は2に記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項4】
前記ガス拡散孔と前記排水孔とを連通させる、前記ガス拡散孔よりも小径、かつ前記排水孔と略同径又はこれよりも大径の連通孔を形成する第3の内面を更に含んで構成される請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項5】
前記第1の表面に前記第2の直径よりも小さな等価水力直径の孔又は溝が形成された請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項6】
前記第1の表面の孔又は溝が電極上における燃料ガス又は酸化剤ガスの流れの方向に延伸させて形成された請求項5に記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項7】
前記第1の直径に相当する直径の第1の粒子と、前記第2の直径に相当する直径の第2の粒子とを前記厚さの方向とは垂直な方向に交互に分布させるとともに、これらの粒子を前記厚さの方向に積み重ねて形成された請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項8】
前記第1の直径に相当する孔径の多孔体の内壁上に、前記第2の直径に相当する直径の粒子を付着させて形成された請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項9】
前記第2の直径に相当する直径の複数の粒子を略球状に固めて形成した、前記第1の直径に相当する直径の球状体を積み重ねて形成された請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項10】
繊維を前記厚さの方向に織り重ねて形成され、前記厚さの方向に対して垂直な各段の配列において、隣り合う繊維の間隔を、前記第1の直径に相当する間隔と、前記第2の直径に相当する間隔とで交互に異ならせた請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項11】
前記第2の直径に相当する太さの複数の繊維を束ねて形成した繊維材を、前記厚さの方向に対して垂直な方向に、前記第1の直径に相当する隙間を設けて配列するとともに、前記厚さの方向に織り重ねて形成された請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項12】
前記第1の直径に相当する直径の貫通孔を形成する内壁に、前記厚さの方向に延伸させて、前記第2の直径に相当する等価水力直径の溝が形成された請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項13】
親水性素材により形成された請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池のガス拡散体。
【請求項14】
電解質膜と、
この電解質膜上に形成された触媒層と、
この触媒層に燃料ガス又は酸化剤ガスを拡散させて供給するためのガス拡散層を形成する、請求項1〜13のいずれかに記載のガス拡散体と、を含んで構成される燃料電池。
【請求項15】
前記触媒層が疎水性素材により形成された請求項14に記載の燃料電池。
【請求項16】
前記触媒層が多孔質であり、かつその孔径が前記第2の直径と略同等又はこれよりも小さい請求項15に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−323975(P2007−323975A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153300(P2006−153300)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】