説明

燃料電池の製造方法

【課題】燃料電池を構成する電池セル積層体に付与する反力のバラツキの抑制と迅速な反力生成とを図る。
【解決手段】シャフト案内治具40で、エンドプレート14とその上の電池セル積層体12を取り囲み、シャフト案内治具40で案内させながらテンションシャフト16を押圧降下する。テンションシャフト16の下端には、テンションシャフト16の外郭形状と同一の外郭形状を有する押圧切り刃30が装着されているので、テンションシャフト16の押圧降下に伴い、緩衝部材13には、テンションシャフト16の外郭形状に倣った形状の凹条13Rがセル積層方向に沿って形成される。テンションシャフト16は、この形成された凹条13Rに隙なく密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸素含有ガスの供給を受けて発電する電池セルを積層して備える燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜と膜両面に接合した触媒電極とを含む膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を含む電池セルを積層し、電池セルそれぞれに、そのアノードには燃料ガスとしての水素ガスを、カソードには酸素含有ガスとしての空気を供給する。電池セルは同一の外郭形状とされ、その積層に当たっては、各電池セルが積層方向に沿ってセル端面が揃っていることが望ましいものの、セル積層のバラツキなどが起き得るため、必ずしも積層方向に沿ってセル端面が揃っているわけではない。こうした積層方向のバラツキに対処するための手法が種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−203670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献では、電池セルの積層体における外周側面を覆った緩衝部材の外表面にテンションプレートを押し当てることで、電池セルの積層方向と交差した方向からの衝撃に対してテンションプレートから反力を得て、燃料電池の耐衝撃性や耐振動性を高めることが提案されている。緩衝部材は、積層バラツキが起きた電池セルの積層体の外周側面に形成されることから、テンションプレートの押し付け前にあっては、積層バラツキの影響を受けて凹凸の外表面となる。そして、この凹凸の外表面は、テンションプレートの押し当てによりプレート表面に倣うものの、凹凸の程度によってはテンションプレートのプレート面に隙間が生じることが有り得る。このため、上記した衝撃に対してテンションプレートから反力を得る場合に、上記した隙間が存在する箇所では、隙間を埋めるまで電池セル積層体自身にズレが起きないと反力は得られないため、反力を得るまでのタイムロスが生じたり、積層方向において反力がばらつくことが危惧される。
【0005】
本発明は、上記した課題を踏まえ、燃料電池を構成する電池セル積層体に付与する反力のバラツキの抑制と迅速な反力生成とを図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用:燃料電池の製造方法]
燃料電池の製造方法であって、
燃料ガスと酸素含有ガスの供給を受けて発電する電池セルを、弾性と絶縁性を有する緩衝部材で前記電池セルの周縁を覆った上で積層して電池セル積層体を形成し、
該電池セル積層体を、対向するエンドプレートの間に挟持し、
前記エンドプレートにて挟持された前記電池セル積層体に積層方向の締結力を及ぼして前記電池セル積層体を拘束する拘束シャフトを、前記エンドプレートに固定し、
前記拘束シャフトの固定に際しては、前記拘束シャフトの外郭形状に倣った凹条を前記緩衝部材に前記積層方向に沿って形成した上で、前記凹条に前記拘束シャフトを密着させる
ことを要旨とする。
【0008】
上記手順を有する燃料電池の製造方法では、その製造された燃料電池において、前記エンドプレートに固定された拘束シャフトにて、前記エンドプレートにて挟持された前記電池セル積層体に積層方向の締結力を及ぼして前記電池セル積層体を拘束する。このように電池セル積層体を拘束する拘束シャフトは、電池セル積層体の外周側面に存在する緩衝部材に前記拘束シャフトの外郭形状に倣いつつ前記積層方向に沿って形成された凹条に密着している。つまり、拘束シャフトの固定前の状態において緩衝部材の外表面に凹凸があろうとも、緩衝部材の凹条は、この凹凸のある緩衝部材に拘束シャフトの外郭形状に倣って形成されたものであることから、拘束シャフトは緩衝部材の凹条に隙なく密着する。この結果、上記手順を有する燃料電池の製造方法によれば、電池セル積層体の積層方向と交差した方向からの衝撃に対する反力を緩衝部材の凹条に隙なく密着した拘束部材から積層方向において速やかに得ることができると共に積層方向に沿った反力のバラツキの抑制が可能な燃料電池を、容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例としての燃料電池10を概略的に示す説明図である。
【図2】燃料電池10の製造手順を用いる製造治具と共に示す説明図である。
【図3】緩衝部材13を介在させたテンションシャフト16と電池セル12Sとの関係を示す説明図である。
【図4】テンションシャフト16と緩衝部材13との間の隙間13sのあるなしに応じた反力の発生推移を示す説明図である。
【図5】変形例の製造手順を用いる製造治具と共に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての燃料電池10を概略的に示す説明図である。
【0011】
図示するように、燃料電池10は、電池セル積層体12を対向するエンドプレート14の間に挟持して備える。電池セル積層体12は、セパレーターを含む電池セル12Sを、弾性と絶縁性を有する緩衝部材13で電池セル周縁を覆った上で積層して構成される。電池セル12Sは、電解質膜の両側にアノードとカソードの両電極を接合させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を含んで構成され、アノードへの水素ガス(燃料ガス)供給とカソードへの空気(酸素含有ガス)供給を受けて発電する。緩衝部材13は、積層前のそれぞれの電池セル12Sのセル周縁に、或いは電池セル12Sを積層済みの電池セル積層体12のセル周縁に、弾性と絶縁性を有する材料、例えば、ゴムや、発泡樹脂の塗布や吹きつけ等の適宜な手法で形成されている。本実施例では、後述のテンションシャフト16と干渉する干渉箇所において緩衝部材13への切り刃押し当てを行う都合上、この干渉箇所では、緩衝部材13は余剰の肉厚で形成されている。
【0012】
この他、燃料電池10は、対向するエンドプレート14の間にテンションシャフト16を配設し、当該シャフトを、その端面がエンドプレートに当接した状態で座金17を介在させてボルト18にて固定する。テンションシャフト16の全長は無付加の電池セル積層体12の高さより短くされている。よって、テンションシャフト16の上記した固定により、燃料電池10、詳しくは電池セル積層体12には積層方向に沿って締結力Pが作用するので、電池セル積層体12の積層状態は維持される。本実施例では、テンションシャフト16を、矩形形状のエンドプレート14の各コーナー箇所に少なくとも配設することとした。なお、テンションシャフト16を、プレートコーナーに加え、エンドプレート14の長辺の中央箇所にも設けるようにできる。
【0013】
テンションシャフト16が配設されたプレートコーナーでは、当該コーナーにおいても緩衝部材13がセル周縁に形成されているので、緩衝部材13はテンションシャフト16と干渉する。本実施例の燃料電池10は、この干渉箇所において、緩衝部材13に凹条13Rを備える。この凹条13Rは、テンションシャフト16の外郭形状に倣って緩衝部材13にセル積層方向に沿って形成され、テンションシャフト16は、この凹条13Rに隙なく密着して、エンドプレート14に既述したように固定される。
【0014】
また、燃料電池10は、電池セル積層体12を構成するそれぞれの電池セル12Sに水素ガスを供給する水素ガス供給系と空気を供給する空気供給系を備えるが、本発明の要旨と直接関係しないので、その説明は省略する。
【0015】
次に、上記した構成を有する燃料電池10の製造手順について説明する。図2は燃料電池10の製造手順を用いる製造治具と共に示す説明図である。
【0016】
燃料電池10の製造に当たっては、まず、対向するシャフト案内治具40の下端側にエンドプレート14を配置し、当該プレートに電池セル積層体12をセットする。電池セル積層体12は、それぞれの電池セル12Sを許容範囲の積層ズレを起こしたままで積層し、電池セル周縁には緩衝部材13を備える。この状態では、まだ凹条13Rは形成されていない。シャフト案内治具40は、エンドプレート14の端面に接触した上で、エンドプレート14と電池セル積層体12とを取り囲み、テンションシャフト16の配設位置であるエンドプレート14の各コーナーにて、テンションシャフト16の上下動を鉛直方向に案内する。また、このシャフト案内治具40は、後述の押圧切り刃30による緩衝部材13の切断屑を取り除く屑排除部42を備える。
【0017】
次に、下端面に押圧切り刃30を装着済みのテンションシャフト16を、シャフト案内治具40にて案内されるよう、電池セル積層体12の上方側にてシャフト案内治具40にセットする。押圧切り刃30は、先端に切り刃部位32を備え、テンションシャフト16の雌ネジ16sに座金33を介在させてボルト34にて固定され、切り刃部位32は、テンションシャフト16の外郭形状と同一の外郭形状を有するので、テンションシャフト16の外郭形状に倣った形状で被切削物、本実施例では緩衝部材13を押圧切断する。この押圧切断の間においては、電池セル積層体12における電池セル12Sの積層状態が変化しないよう、電池セル積層体12は図示しない治具にて積層体上面から押圧されている。
【0018】
テンションシャフト16のセット後には、そのテンションシャフト16を図中矢印に示すように電池セル積層体12の積層方向に沿って押圧降下させる。この押圧降下は、シャフト案内治具40によるテンションシャフト16の案内により、鉛直方向になされる。これにより、テンションシャフト16の下端の押圧切り刃30は、その有する切り刃部位32にて、テンションシャフト16の外郭形状に倣った形状で電池セル積層体12の積層方向に沿った凹条13Rを、緩衝部材13に、詳しくはテンションシャフト16の配設箇所における緩衝部材13に形成する。テンションシャフト16の押圧降下は、切り刃部位32の切り刃先端がエンドプレート14に達するまで継続されるので、テンションシャフト16の外郭形状に倣った形状の凹条13Rは、電池セル積層体12の一端側から他端側までセル積層方向に沿って形成される。なお、この凹条13Rの形成過程に切り出される切断屑は、屑排除部42に逃げるので、セル積層方向に亘る凹条13Rの形成に支障はない。
【0019】
テンションシャフト16を最下端まで押圧降下させた後は、一旦、テンションシャフト16を引き抜く。次いで、テンションシャフト16から押圧切り刃30を取り外し、テンションシャフト16のみを、再度、シャフト案内治具40の案内を受けて押圧降下させる。テンションシャフト16の引き抜きを行った状態では、テンションシャフト16の配設箇所における緩衝部材13に、既に凹条13Rが形成済みである。よって、シャフト案内治具40にて案内しつつテンションシャフト16のみをその下端がエンドプレート14に当接するまで降下させれば、テンションシャフト16は、緩衝部材13の凹条13Rに隙なく密着した上で、一方のエンドプレート14にセットされる。よって、テンションシャフト16をセットした後に、図2における上方側に他方のエンドプレート14を配設し、ボルト18にてテンションシャフト16をエンドプレート14に固定すれば、燃料電池10を得ることができる。
【0020】
こうして得られた燃料電池10では、次のような利点がある。図3は緩衝部材13を介在させたテンションシャフト16と電池セル12Sとの関係を示す説明図、図4はテンションシャフト16と緩衝部材13との間の隙間13sのあるなしに応じた反力の発生推移を示す説明図である。
【0021】
本実施例の上記製造手順で製造した燃料電池10においては、エンドプレート14の間に固定したテンションシャフト16にて、エンドプレート14にて挟持された電池セル積層体12に積層方向の締結力を及ぼしてその電池セル積層体12を拘束する。このように電池セル積層体12を拘束するテンションシャフト16は、電池セル積層体12の外周側面に存在する緩衝部材13にテンションシャフト16の外郭形状に倣いつつ電池セル積層体12の積層方向に沿って形成された凹条13Rに密着している。つまり、テンションシャフト16の固定前の状態において緩衝部材13の外表面に凹凸があろうとも、緩衝部材13の凹条13Rは、この凹凸のある緩衝部材13にテンションシャフト16の外郭形状に倣うよう押圧切り刃30にて形成されたものであることから、テンションシャフト16は緩衝部材13の凹条13Rに隙なく密着する。
【0022】
仮に、緩衝部材13をテンションシャフト16と電池セル12Sの間にただ単に介在させただけとすると、図3に示すように、テンションシャフト16と電池セル12Sとの間に隙間13sが残る場合がある。このように隙間13sがある場合と、本実施例の燃料電池10のように凹条13Rに隙なくテンションシャフト16を密着させた場合とにおいて、電池セル積層体12の積層方向と交差する方向から衝撃が加わったとする。電池セル積層体12には、この衝撃に応じた衝撃慣性力Gが生じ、両端が固定された梁のように電池セル積層体12の剪断方向のズレが起きる。テンションシャフト16と緩衝部材13との間に隙間13sがある場合には、電池セル12Sのズレ量(変位量)が隙間13sに達するまでは、緩衝部材13を介した電池セル12Sのテンションシャフト16との接触が起きない。よって、図4に示すように、テンションシャフト16から得られる反力は、衝撃が加わってから時間差を持って得られることになる。しかも、図3に示す隙間13sが、紙面手前方向から紙面奥側に掛けての方向(セル積層方向)においてその大きさに差があると、セル積層方向において電池セル12Sのズレ量(変位量)が隙間13sに達するまでの時間に差が生じるので、反力のバラツキが起きる。
【0023】
これに対して、本実施例の燃料電池10では、緩衝部材13の凹条13Rに隙なくテンションシャフト16をセル積層方向に亘って密着させているので、衝撃が加わってから速やかにテンションシャフト16から反力を得ることができると共に、セル積層方向に沿った反力のバラツキを抑制できる。このため、燃料電池10の耐衝撃性や耐振動性をより高めることができる。そして、本実施例の上記した製造手順を有する製造方法によれば、テンションシャフト16からの反力を速やか且つ積層方向に沿って均等に得ることで高い耐衝撃性や耐振動性を有する燃料電池10を、容易に製造できる。
【0024】
本実施例は、次のように変形することができる。図5は変形例の製造手順を用いる製造治具と共に示す説明図である。図示するように、この変形例では、シャフト案内治具40に案内されて鉛直方向に押圧降下されるテンションシャフト16に電圧源50から電圧を印加し、そのテンションシャフト16を発熱させる。この場合、発熱はテンションシャフト16の下端側で起きればよい。そして、この発熱したテンションシャフト16そのものにて、テンションシャフト16の外郭形状に倣った凹条13Rをセル積層方向に沿って緩衝部材13に形成(溶融形成)する。テンションシャフト16の発熱温度は、緩衝部材13の形成に用いた材料に応じて定めればよく、その用いた緩衝部材材料の溶融を起こす温度まででテンションシャフト16を発熱させればよい。この変形例の製造方法によっても、テンションシャフト16からの反力を速やか且つ積層方向に沿って均等に得ることで高い耐衝撃性や耐振動性を有する燃料電池10を、容易に製造できる。
【0025】
本発明は上記した実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の態様で実施可能である。例えば、対向するエンドプレート14に対してそのプレート端面にて固定されるテンションプレートを用い、このテンションプレートから反力を得るものにも適用できる。この場合には、テンションプレートの外郭形状たるプレート平面に倣うよう緩衝部材13を平面化させた上で、緩衝部材13の平面にテンションプレートのプレート平面をセル積層方向に沿って密着させればよい。
【符号の説明】
【0026】
10…燃料電池
12…電池セル積層体
12S…電池セル
13…緩衝部材
13R…凹条
13s…隙間
14…エンドプレート
16…テンションシャフト
16s…雌ネジ
17…座金
18…ボルト
30…押圧切り刃
32…切り刃部位
33…座金
34…ボルト
40…シャフト案内治具
42…屑排除部
50…電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の製造方法であって、
燃料ガスと酸素含有ガスの供給を受けて発電する電池セルを、弾性と絶縁性を有する緩衝部材で前記電池セルの周縁を覆った上で積層して電池セル積層体を形成し、
該電池セル積層体を、対向するエンドプレートの間に挟持し、
前記エンドプレートにて挟持された前記電池セル積層体に積層方向の締結力を及ぼして前記電池セル積層体を拘束する拘束シャフトを、前記エンドプレートに固定し、
前記拘束シャフトの固定に際しては、前記拘束シャフトの外郭形状に倣った凹条を前記緩衝部材に前記積層方向に沿って形成した上で、前記凹条に前記拘束シャフトを密着させる
燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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