説明

燃料電池の製造方法

【課題】本発明は、燃料電池の製造方法に関し、垂直配向CNTを用いた電極層と電解質膜とを接合した膜電極接合体の製品ばらつきを低減可能な燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(4)転写工程においては、先ず、電解質膜の表面と、CNT層のCNT成長端面とを対向させ、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度以上、かつアイオノマに用いた高分子電解質のガラス転移温度未満の温度に加温しながらこれらの間に高圧を印加して熱圧着する(ステップ130)。次いで、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却させる(ステップ140)。このような熱圧着条件とすれば、アイオノマを軟化させずにCNTの強度を上げることができるので、圧力印加によるCNTの収縮や傾斜を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の製造方法に関し、より詳細には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を含む電極層を備える燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、電極層に含まれる高分子電解質に、電解質膜を形成する高分子電解質よりもガラス転移温度の高いものを用い、これらの高分子電解質のガラス転移温度の中間の温度で、電極層と電解質膜とを接合する燃料電池の製造方法が開示されている。具体的には、先ず、触媒を担持させたカーボン微粒子と、高分子電解質(アイオノマ)の溶液とを混合してインクを調整し、このインクを乾燥させる。これにより、カーボン微粒子間に空隙が形成された電極層を作製できる。そして、作製した電極層と電解質膜とを、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度以上、上記アイオノマのガラス転移温度未満の温度で接合する。このような温度条件で接合することで、接合時にアイオノマが軟化することを抑制できる。従って、電極層作製時に形成させた微粒子間の空隙を確保しつつ、電極層と電解質膜とを密着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−110768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極層において、上記のようなカーボン微粒子の代わりに、CNTを用いた燃料電池が知られている。更には、このCNTを電解質膜の面方向に対して垂直に配向させた燃料電池も知られている。このような垂直配向CNTを用いた電極層は、隣り合うCNT間に、CNTのチューブ長さ方向に沿って空隙が形成された構造をとる。そのため、電極層に高い空孔率を付与することができる。しかしながら、空隙率が高いことは即ちカーボン密度が低いことを意味する。故に、垂直配向CNTを用いた電極層は、電解質膜との接合時に剥離し易いという難点がある。
【0005】
そこで、電極層に垂直配向CNTを用いる場合には、カーボン微粒子を用いる場合に比べて高い圧力を印加すると共に、アイオノマや電解質膜の高分子電解質を軟化させながら接合させる方法が採られている。こうすることで、電極層と電解質膜とを強固に密着させることができる。しかしながら、このような接合方法を採用した場合、垂直配向CNTが面に垂直な方向に対して傾斜する、いわゆる倒れが起こるケースがあり、故に、接合体の製品ばらつきが生じるという問題があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものである。即ち、垂直配向CNTを用いた電極層と電解質膜とを接合した膜電極接合体の製品ばらつきを低減可能な燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池の製造方法であって、
基材の面方向に対して垂直に配向させた複数のカーボンナノチューブを準備するカーボンナノチューブ準備工程と、
前記カーボンナノチューブに電極用触媒を担持させる触媒担持工程と、
前記電極用触媒を担持させたカーボンナノチューブの表面に固体高分子電解質からなるアイオノマを設けて電極層を形成させる電極層形成工程と、
前記アイオノマを形成する固体高分子電解質よりもガラス転移温度の低い固体高分子電解質からなる電解質膜と、前記電極層とを対向させて、前記電解質膜を形成する固体高分子電解質のガラス転移温度以上前記アイオノマを形成する固体高分子電解質のガラス転移温度未満の温度条件下、これらの間に5MPaよりも高い圧力を印加することで、前記電解質膜と前記電極層とを接合する膜電極層接合工程と、
前記膜電極接合工程後に、前記基材層を除去する基材層除去工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記電極層形成工程において、前記アイオノマを形成する固体高分子電解質は、前記基材層に成長させたカーボンナノチューブに対して重量比が1.6〜3.5となるように設けられることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記基材層に成長させたカーボンナノチューブのチューブ長さ方向の形状が直線でないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、アイオノマでCNTの表面を被覆した電極層を形成させて、このアイオノマを形成する固体高分子電解質よりもガラス転移温度の低い固体高分子電解質からなる電解質膜と、この電極層とを接合する際に、電解質膜を形成する固体高分子電解質のガラス転移温度以上、アイオノマを形成する固体高分子電解質のガラス転移温度未満の温度条件下、電解質膜と電極層の間に5MPaよりも高い圧力を印加することができる。このような圧力条件で接合すれば、電極層と電解質膜とを強固に密着させることができる。加えて、上記の温度条件を付与することで、軟化していないアイオノマでCNTを補強できるので、5MPaよりも高い圧力を印加した場合であっても、CNTの収縮や傾斜を抑制できる。従って、得られる膜電極接合体の製品ばらつきを良好に抑制できる。
【0011】
第2の発明によれば、アイオノマを形成する固体高分子電解質の重量比を、基材層に成長させたCNTに対して1.6〜3.5となるように設けることができる。従って、アイオノマによるCNT補強が良好な範囲で電解質膜と電極層とを接合できる。
【0012】
第3の発明によれば、基材層に成長させたCNTのチューブ長さ方向の形状が直線でないことで、隣り合うCNTにおいて接点が形成されることになる。接点が形成されることで、高分子電解質の分子鎖が絡まり易い構造となる。従って、軟化していないアイオノマによる補強に加え、CNT同士で支え合うことでCNTの強度が更に向上するので、CNTの収縮や傾斜を良好に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態により製造される燃料電池10の断面構成の模式図である。
【図2】図1のMEA18近傍の断面構成の模式図である。
【図3】燃料電池10の製造方法の各工程を説明するための図である。
【図4】実施の形態の(4)転写工程における熱圧着条件を説明するための図である。
【図5】実施の形態の(4)転写工程及び従来工程の熱圧着条件でそれぞれ作製して得られたCNT基板−CNT層−電解質膜接合体のSEM写真である。
【図6】実施の形態の(4)転写工程及び従来工程の熱圧着条件でそれぞれ作製して得られたMEAのI−V特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[燃料電池の構成]
以下、図1〜図6を参照して、本発明の実施の形態について説明する。先ず、図1を参照して、本実施の形態により製造される燃料電池の構成を説明する。図1は、本実施の形態により製造される燃料電池10の断面構成の模式図である。
【0015】
図1に示すように、燃料電池10は、電解質膜12を備えている。電解質膜12は、例えばガラス転移温度が100〜120℃の高分子電解質から構成されている。電解質膜12の両側には、これを挟むようにアノード電極14、カソード電極16が設けられている。アノード電極14、カソード電極16の詳細な構成については後述する。電解質膜12と、これを挟む一対のアノード電極14、カソード電極16とにより、膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)18が構成される。
【0016】
アノード電極14の外側には、ガス拡散層(以下、「GDL」ともいう。)20が設けられている。GDL20は、カーボンペーパー、カーボンクロス、金属多孔体といった多孔質材から構成され、セパレータ22側から供給されたガスをアノード電極14に均一に拡散させる機能を有する。同様に、カソード電極16の外側には、GDL24が設けられている。GDL24は、セパレータ26側から供給されたガスをカソード電極16に均一に拡散させる機能を有する。本図においては、上記のように構成されたMEA18、GDL20,24、セパレータ22,26を1組のみ示したが、実際の燃料電池は、MEA18、GDL20,24がセパレータ22,26を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0017】
次に、図2を参照して、MEA18近傍の詳細な構成を説明する。図2は、図1のMEA18近傍の断面構成の模式図である。図2に示すように、電解質膜12の表面には、垂直配向CNT28が複数設けられている。垂直配向CNT28のそれぞれは、一本のらせん形状のCNTから形成され、そのらせん形状の外周の少なくとも1点で隣り合うCNTと接し、互いに支え合いながら電解質膜12の面方向に対して実質上垂直に配向されている。ここで、電解質膜12の面方向に対して実質上垂直とは、電解質膜12の面方向と、垂直配向CNT28の両端の中心部を結ぶ直線の方向とのなす角度が90°±10°であることを意味する。これは、製造時の条件等によって、必ずしも90°とならない場合を含むものである。垂直配向CNT28は、このように配向されることで、全体として一つの層を構成している。
【0018】
また、図2に示すように、垂直配向CNT28の外表面には、電極用触媒30が設けられている。電極用触媒30には白金を用いるが、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等の粒子を使用してもよい。
【0019】
また、図2に示すように、垂直配向CNT28の外表面には、垂直配向CNT28や電極用触媒30を覆うようにアイオノマ32が設けられている。アイオノマ32は、電解質膜12に用いる高分子電解質よりもガラス転移温度の高い高分子電解質から構成される。アイオノマ32に用いる高分子電解質としては、電解質膜12に用いる高分子電解質のガラス転移温度よりも20℃〜80℃(より好ましくは30℃〜50℃)高いものを選択することが好ましい。ガラス転移温度が上記範囲の高分子電解質をアイオノマ32に用いることで、後に示すように、発電特性の良好なMEAを得ることができる。また、アイオノマ32で被覆された垂直配向CNT28と、それと隣り合う垂直配向CNT28との間には、チューブ長さ方向に沿った微細な空隙34が形成されている。このような空隙34が形成されていることで、電気化学反応に必要なガスの流路や、電気化学反応により生じた水の排水路として利用できる。
【0020】
[燃料電池の製造方法]
次に、図3を参照して、上述した構成の燃料電池10の製造方法の各工程を説明する。燃料電池10は、(1)CNT準備工程、(2)触媒担持工程、(3)アイオノマ塗布工程、(4)転写(MEA化)工程を経ることで製造できる。以下、これらの各工程について、詳細を説明する。
【0021】
(1)CNT準備工程
本工程は、CNT基板の面方向に対して実質上垂直に配向させたCNTを準備する工程である(ステップ100)。本工程は、シリコン等のCNT基板上に種触媒層(成長用触媒層)を担持して、高温雰囲気下、炭素源ガスを供給して垂直配向CNTを成長させる工程であり、例えば特開2005−097015号公報、特開2007−257886号公報に記載された方法を用いることができる。なお、CNT基板の面方向に対して実質上垂直とは、CNT基板の面方向と、CNTの両端の中心部を結ぶ直線の方向とのなす角度が90°±10°であることを意味する。
【0022】
(2)触媒担持工程
本工程は、成長させたCNTに電極用触媒を担持させる工程である(ステップ110)。電極用触媒の担持方法としては、具体的に、図2の電極用触媒30として例示した金属の塩溶液をCNT表面に塗布した後、水素雰囲気中で200℃以上に加熱して還元する方法が挙げられる。金属塩溶液は、水溶液でも有機溶媒溶液でもよい。金属塩溶液のCNT表面への塗布は、例えば、金属塩溶液中にCNTを浸漬する方法、CNTの表面に金属塩溶液を滴下する方法や、CNTの表面に金属塩溶液を噴霧(スプレー)する方法が挙げられる。
【0023】
電極用触媒に白金を用いる場合、金属塩溶液は、エタノールやイソプロパノール等のアルコール中に塩化白金酸や白金硝酸溶液(例えば、ジニトロジアミン白金硝酸溶液など)等を適量溶解させた白金塩溶液を用いることができる。CNT表面に白金を均一に担持できるという点から、特に、アルコール中にジニトロジアミン白金硝酸溶液を溶解させた白金塩溶液を用いることが好ましい。
【0024】
(3)アイオノマ塗布工程
本工程は、電極用触媒を担持させたCNTの表面にアイオノマを塗布する工程である(ステップ120)。アイオノマは、(i)アイオノマ溶液にCNTを浸漬した後、減圧脱気することでアイオノマ溶液を均一に含浸させ、(ii)その後、真空乾燥して溶媒を除去することにより行われる。(i),(ii)を繰り返し実施することで、CNTの表面に所望量のアイオノマを設けることができる。所望量のアイオノマを設けることで、隣り合うCNT間に空隙が形成されたCNT層(電極層)を作製できる。
【0025】
アイオノマは、上記方法に限定されず、アイオノマを分散又は溶解した溶液をスプレー、ダイコーター、ディスペンサー、スクリーン印刷等によりCNT表面に塗布してもよい。また、アイオノマは、上記のように重合体の状態で塗布してもよいが、アイオノマの前駆体(モノマー)の状態で塗布してもよい。この場合、アイオノマの前駆体と各種重合開始剤等の添加物とを含む重合組成物をCNTの表面に塗布し、紫外線などの放射線の照射又は加熱により重合させる。これにより、上記方法同様にCNTの表面に所望量のアイオノマを設けることができる。
【0026】
アイオノマの塗布に際しては、CNTを構成するカーボンに対する重量比(以下、「I/C」ともいう。)が1.6〜3.5となるようにアイオノマの量を調整することが好ましい。後述するように、アイオノマはCNTの補強材として使用されるので、その機能を十分に発揮させるためにはI/Cが1.6以上であることが好ましい。一方、I/Cが3.5以上であると、隣り合うCNT間に形成させた空隙がアイオノマによって目詰まりし、ガス拡散性や排水性が低下する原因となるので好ましくない。なお、I/Cは、上記(2)CNT成長工程前後のカーボン重量を基準に設定することができる。
【0027】
(4)転写工程
本工程は、CNT層を電解質膜の両面に転写する工程である(ステップ130〜150)。本工程では、先ず、電解質膜の表面と、CNT層のCNT成長端面とを対向させ、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度以上、かつアイオノマに用いた高分子電解質のガラス転移温度未満の温度に加温しながらこれらの間に高圧を印加して熱圧着(ホットプレス)する(ステップ130)。次いで、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却させる(ステップ140)。これにより、電解質膜の面方向に対してCNTが実質上垂直に配向されたCNT基板−CNT層−電解質膜接合体が作製できる。
【0028】
ここで、上記ステップ130〜140で、上記の熱圧着条件としたことについて、図4を用いて説明する。図4(A)は本工程の熱圧着条件を示したものであり、図4(B)は、これに対応する従来の工程の熱圧着条件を示したものである。
【0029】
従来工程の熱圧着条件は、高い圧力を印加しながら、電解質膜に用いた高分子電解質及びアイオノマに用いた高分子電解質のガラス転移温度以上に加温するものである。このような熱圧着条件とするのは、成長させたCNTの層内構造によるものである。即ち、CNT層において、隣り合うCNT同士の間には、チューブ長さ方向に沿って空隙が形成されている。そのため、CNT層は、一般的なカーボン粒子を用いた場合に比べて高い空隙率を達成できる一方で、カーボン密度が低くなるので電解質膜に密着させにくくなる。従って、CNT層を電解質膜に密着させるためには、一般的なカーボン粒子を用いる場合よりも高い圧力(5MPa〜15MPa)を印加して、CNTを電解質膜に食い込ませる必要がある。加えて、この密着性を十分に担保するためには、電解質膜及びアイオノマに用いた高分子電解質のガラス転移点温度以上に加温する必要がある。
【0030】
しかしながら、このような高圧を印加する熱圧着条件とすると、図4(B)に示すように、CNTが収縮してCNT層厚が大きく減少する。また、収縮さらには傾斜した場合には、CNT層厚にバラつきが生じ、CNTとGDLとの接触不良箇所ができるので抵抗が増大する。
【0031】
この点、本工程の熱圧着条件は、高い圧力を印加しながら、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度以上、かつアイオノマに用いた高分子電解質のガラス転移温度未満の温度に加温するものである。このような熱圧着条件とすれば、アイオノマを軟化させずにCNTの強度を上げることができるので、圧力印加によるCNTの収縮や傾斜を抑制することができる。図4(A)に示すように、食い込み部分のCNTは半溶融状態の電解質膜と接合するが、他の大部分のCNTは緩やかに収縮するだけである。そして、加温を停止し、電解質膜に用いた高分子電解質のガラス転移温度以下に冷却すれば、この高分子電解質が固化するので構造が固定される。このように、本工程の熱圧着条件によれば、CNT層厚のばらつきや、CNTとGDLとの接触不良を軽減できるので、抵抗の増大を抑制できる。
【0032】
本工程では、続いて、CNT基板とCNT層−電解質膜接合体とを分離する(ステップ150)。具体的には、CNT基板側を酸またはアルカリ溶液中に浸して、CNT基板上に形成された種触媒層または種触媒を溶解して分離除去する。酸、アルカリ溶液は、種触媒層または種触媒に用いた材料の化学的性質に応じて適宜選択できる。なお、CNT基板とCNT層−電解質膜接合体とを引き剥がすことで分離してもよい。以上の工程により、電解質膜の面方向に対して実質上垂直にらせん形状のCNTが配向したMEAを作製できる。このようにして作製したMEAを、上述したGDL、セパレータで挟持することにより燃料電池10が製造できる。
【0033】
図5は、本工程及び従来工程の条件でそれぞれ転写した場合に得られたCNT基板−CNT層−電解質膜接合体のSEM写真である。図5(A)が本工程の熱圧着条件(即ち図4(A)の熱圧着条件)に、図5(B)が従来工程の熱圧着条件(即ち図4(B)の熱圧着条件)に、それぞれ対応している。
【0034】
図5(A)に示すように、本工程の熱圧着条件とした場合、CNTの配向方向が熱圧着前後でほぼ変化していないことが分かる。これは、アイオノマがCNTの補強材として機能するため、圧縮前後でCNT層の構造を保つことができたためである。一方、図5(B)に示すように、従来工程の熱圧着条件とした場合、CNTが傾斜した状態でCNT層の構造が固定されてしまっている。そのため、CNT層厚がばらつくといった上述の問題が生じる可能性が高い。
【0035】
図6は、本工程及び従来工程の条件でそれぞれ転写して得られたMEAのI−V特性図を示したものである。図6に(A)として示したものが本工程の熱圧着条件で作製したMEAのI−V特性図である。このMEAは、具体的に、アイオノマ(ガラス転移温度150℃以上の高分子電解質)を塗布したCNT層と、電解質膜(ガラス転移温度100〜120℃の高分子電解質)とを対向配置し、140℃の温度条件下、10MPaの圧力を印加して作製したものを使用した。一方、図6に(B)として示したものが従来工程の熱圧着条件で作製したMEAのI−V特性図である。このMEAは、電解質膜と同一の高分子電解質をアイオノマに用いて作製したものを使用した。図6に示すように、本工程の熱圧着条件で作製したMEAは、低電流域から高電流域まで、従来工程の熱圧着条件で作製したMEAよりも高い電圧値を示すことが分かる。即ち、本工程の熱圧着条件で作製したMEAは、電池特性が大幅に向上しているといえる。
【0036】
下表1は、図4(A)で説明した熱圧着条件及びI/Cを変えた場合における発電特性(セル抵抗)の評価結果を示したものである。この発電特性試験には、ガラス転移温度150℃以上の高分子電解質を塗布したCNT層と、ガラス転移温度100〜120℃の高分子電解質からなる電解質膜とを使用した。また、発電特性の評価は、転写温度140℃、転写圧10MPa、I/C2.0の場合を基準とした。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、転写圧力を変えた場合は、転写圧力が低くなるとセル抵抗が大きくなる。特に、3.1MPaで転写した場合には、CNT層と電解質膜との密着性が不十分となるためセル抵抗が大きくなることが分かる。また、転写温度を180℃に変えた場合は、電解質膜が黄変してしまう。この理由として、転写温度が高すぎると、高分子電解質の一部に分解等が起こることが考えられた。また、I/Cを変えた場合、I/C1.6では上記基準の場合同様のセル抵抗を示したが、I/C1.0ではCNT層の潰れが大きくなった。このことから、塗布するアイオノマの量が少なくなると、CNT層を十分に補強できなくなることが分かる。
【0039】
以上、本実施の形態の燃料電池の製造方法によれば、転写時にアイオノマを軟化させずにCNTの強度を上げることができる。そのため、上記(4)転写工程において、高圧印加によるCNTの収縮や傾斜を抑制できる。従って、得られるMEAの構造ばらつきを良好に抑制できる。
【0040】
なお、本実施の形態においては、垂直配向CNT28はらせん形状であるとしたが、例えば波型形状であってもよい。即ち、CNT層を側面から見た場合に、あるCNTとその隣接するCNTとの間に少なくとも1点の接点が存在し、これらのCNTが支え合いながら電解質膜の面方向に対して実質上垂直に配向された構造となっていれば、垂直配向CNT28の形状は特に限定されない。
【符号の説明】
【0041】
10 燃料電池
12 電解質膜
14 アノード電極
16 カソード電極
18 MEA
20,24 GDL
22,26 セパレータ
28 垂直配向CNT
30 電極用触媒
32 アイオノマ
34 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の面方向に対して垂直に配向させた複数のカーボンナノチューブを準備するカーボンナノチューブ準備工程と、
前記カーボンナノチューブに電極用触媒を担持させる触媒担持工程と、
前記電極用触媒を担持させたカーボンナノチューブの表面に固体高分子電解質からなるアイオノマを設けて電極層を形成させる電極層形成工程と、
前記アイオノマを形成する固体高分子電解質よりもガラス転移温度の低い固体高分子電解質からなる電解質膜と、前記電極層とを対向させて、前記電解質膜を形成する固体高分子電解質のガラス転移温度以上前記アイオノマを形成する固体高分子電解質のガラス転移温度未満の温度条件下、これらの間に5MPaよりも高い圧力を印加することで、前記電解質膜と前記電極層とを接合する膜電極層接合工程と、
前記膜電極接合工程後に、前記基材層を除去する基材層除去工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項2】
前記電極層形成工程において、前記アイオノマを形成する固体高分子電解質は、前記基材層に成長させたカーボンナノチューブに対して重量比が1.6〜3.5となるように設けられることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項3】
前記基材層に成長させたカーボンナノチューブのチューブ長さ方向の形状が直線でないことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−89378(P2012−89378A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235600(P2010−235600)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】