説明

燃料電池システム、ラジエータ、冷媒充填方法

【課題】燃料電池システムの初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制する。
【解決手段】燃料電池スタック30を冷却する冷却系機器40は、ラジエータ50と、冷媒を循環させる供給流路41及び排出流路45と、ラジエータ50と供給流路41に介装された三方弁42とを接続するバイパス流路46と、バイパス流路46に介装されたイオン交換器47とを備えている。バイパス流路46は、冷却系機器40を循環する冷媒を、ラジエータ50で熱交換を行わない経路でバイパスする。イオン交換器47は、燃料電池スタック30よりも低い位置に設けられている。ラジエータ50とイオン交換器47との間のバイパス流路46aは、下り勾配で形成されている。ラジエータ50のバイパス用開口部56は、供給用開口部54及び排出用開口部55よりも低い位置に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の冷却技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池により発電を行う燃料電池システムでは、通常、燃料電池の運転温度を制御する冷却装置が設けられる。冷却装置としては、図15に示すように、燃料電池とラジエータとの間に冷媒、例えば、水を循環させるタイプのものが一般的である。こうした冷却装置においては、冷媒を循環させるための配管は、燃料電池と電気的に十分に絶縁されているので、燃料電池とグランドとの間の絶縁抵抗は、図15に示すように、その間に相当する冷媒経路である区間S1,S2の冷媒の抵抗値で確保される。こうしたことから、冷却装置では、冷媒の導電率を、燃料電池とグランドとの距離に応じた所定値以下に常に抑制する必要がある。燃料電池とグランドとの距離が短くなれば、所定値は小さくなる。そこで、ラジエータのコアや配管などから冷媒に溶出したイオンを必要に応じて除去する技術が開発されている(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術は、冷却装置に冷媒を充填した後に行われる燃料電池システムの運転の中で、冷媒に溶出したイオンを除去するものである。ラジエータは、冷却水と接触する表面積が大きいため、他の配管等と比べて、イオンの溶出への影響が大きく、また、イオンの溶出は、大半が初期溶出である。したがって、特許文献1の技術では、燃料電池システムの配置の制約などから、燃料電池とグランドとの距離を長く確保できない場合には、燃料電池システムの初期使用時(初めて運転する時)において、冷媒の導電率を所定値以下にできないおそれがあった。このような場合、燃料電池システムの製造段階において、ラジエータの洗浄工程を設け、ラジエータの初期使用時におけるイオンの溶出を抑制する必要があった。かかる洗浄工程は、長時間を要するものであり、洗浄時間を短縮できる、または、洗浄工程を省略できる技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−311087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題の少なくとも一部を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、燃料電池システムの初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]燃料電池と、該燃料電池を液体状の冷媒により冷却する冷却系とを備えた燃料電池システムであって、前記冷却系は、前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、該冷媒を前記冷却系の系外から注入するための注入口とを備えたラジエータと、前記コアを流通した冷媒を前記ラジエータから前記燃料電池に導く供給流路と、前記冷媒を前記燃料電池から前記ラジエータに導く排出流路と、前記冷媒の流通経路上に設けられ、前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器とを備え、前記ラジエータ、前記供給流路、前記排出流路、前記イオン交換器及び前記燃料電池を、前記注入口から注入され前記冷却系に充填される前記冷媒の少なくとも一部が、前記コア、前記イオン交換器の順に流通してから、前記冷却系に充填される位置関係に配置した燃料電池システム。
【0008】
かかる構成の燃料電池システムは、ラジエータの注入口から注入される冷媒の少なくとも一部が、コア、イオン交換器の順に流通してから、冷却系に充填される位置関係で、冷却系の構成機器等が配置されている。したがって、冷却系への冷媒の充填時において、コアから冷媒にイオンを初期溶出させ、その溶出したイオンをイオン交換器で除去することができ、燃料電池システムの初期使用時の冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。しかも、燃料電池システムの製造工程において必ず必要となる冷媒の充填工程によって冷媒の導電率の上昇を抑制することができるので、効率的である。
【0009】
[適用例2]前記ラジエータから前記イオン交換器に至る経路の少なくとも1つと、前記イオン交換器とは、前記燃料電池よりも重力方向において低い位置に配置された適用例1記載の燃料電池システム。
[適用例3]前記ラジエータから前記イオン交換器に至る経路の少なくとも1つは、下り勾配で形成された適用例1または適用例2記載の燃料電池システム。
【0010】
適用例2、適用例3の燃料電池システムは、注入口から注入され、コアを流通した冷媒を、燃料電池側よりもイオン交換器側に導きやすくなるので、冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。
【0011】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれか記載の燃料電池システムであって、更に、前記供給流路に接続され、前記燃料電池側から前記ラジエータ側に流通する冷媒を、前記コアをバイパスした経路で該供給流路に導くコアバイパス流路を備え、前記イオン交換器は、前記コアバイパス流路上に設けられた燃料電池システム。
【0012】
かかる構成の燃料電池システムにおいて、冷媒の流通経路は、コアと燃料電池との間を循環する経路と、イオン交換器と燃料電池との間を循環する経路とで構成される。つまり、冷媒は、コア及びイオン交換器の両方を流通することがないので、冷媒流通における圧損を抑制することができる。また、冷媒中のイオン濃度に応じて冷媒の流通経路を切り替える構成とすれば、イオン交換器を長寿命化することができる。また、燃料電池システムの運転温度に応じて冷媒の流通経路を切り替える構成とすれば、イオン交換器の耐熱性の範囲内で、冷媒中のイオン除去を行うことができる。
【0013】
[適用例5]前記コアバイパス流路のうちの、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から、前記イオン交換器に至る経路と、該イオン交換器とは、前記燃料電池よりも重力方向において低い位置に配置された適用例4記載の燃料電池システム。
[適用例6]前記コアバイパス流路は、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から、前記イオン交換器に至る経路が、下り勾配で形成された適用例4または適用例5記載の燃料電池システム。
【0014】
適用例5、適用例6の燃料電池システムは、注入口から注入され、コアを流通した冷媒を、コアバイパス流路を介してイオン交換器側に導きやすくなるので、冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。
【0015】
[適用例7]適用例4ないし適用例6のいずれか記載の燃料電池システムであって、前記ラジエータは、前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクとを備え、前記第1のタンクは、前記注入口と、前記供給流路に接続する開口部である供給用開口部とを備え、前記第2のタンクは、前記排出流路に接続する開口部である排出用開口部と、前記コアバイパス流路に接続する開口部であるバイパス用開口部とを備え、前記供給用開口部と前記排出用開口部とは、重力方向において、前記注入口と前記バイパス用開口部との間に配置された燃料電池システム。
【0016】
かかる構成の燃料電池システムは、第1のタンクの注入口から注入された冷媒を、コアを流通して、第2のタンクのバイパス用開口部に導くことが可能である。しかも、供給用開口部と排出用開口部とは、重力方向において、注入口とバイパス用開口部との間に配置されるので、つまり、バイパス用開口部が供給用開口部及び排出用開口部よりも下部に配置されるので、冷媒をバイパス用開口部を介してコアバイパス流路に導きやすく、その先に配置されたイオン交換器にも導きやすくなる。
【0017】
[適用例8]適用例4ないし適用例6のいずれか記載の燃料電池システムであって、前記ラジエータは、前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクとを備え、前記第1のタンクは、前記注入口と、前記供給流路に接続する開口部である供給用開口部とを備え、前記第2のタンクは、前記排出流路に接続する開口部である排出用開口部を備え、前記排出用開口部は、前記供給用開口部よりも重力方向において低い位置に設けられ、前記コアバイパス流路は、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部が前記排出流路に接続された燃料電池システム。
【0018】
かかる構成の燃料電池システムは、第1のタンクの注入口から注入された冷媒を、コアを流通して、第2のタンクの排出用開口部に導くことが可能である。しかも、排出用開口部は、供給用開口部よりも重力方向において低い位置に設けられているので、冷媒を、排出用開口部を介して排出流路に導きやすく、排出流路に接続されたコアバイパス流路及びその先に配置されたイオン交換器にも導きやすくなる。
【0019】
[適用例9]適用例7または適用例8記載の燃料電池システムであって、更に、前記供給流路と前記コアバイパス流路との接続点に設けられ、前記コアと前記イオン交換器とを流れる前記冷媒の流量を調節する三方弁を備え、前記三方弁は、前記コアバイパス流路と、前記供給流路のうちの該三方弁よりも前記ラジエータ側の流路とを連通可能とする燃料電池システム。
【0020】
かかる構成の燃料電池システムは、三方弁を、コアバイパス流路と、供給流路のうちの三方弁よりもラジエータ側の流路とを連通させた状態として、冷媒を注入すれば、ベルヌーイ効果及びエゼクタ効果によって、供給用流路側から第1のタンク側へ空気が引き込まれるので、注入された冷媒が供給用開口部を介して供給流路側に流入しにくくなる。したがって、注入した冷媒を、コア、第2のタンク及びバイパス用開口部を介して、コアバイパス流路及びその先のイオン交換器に導きやすくすることができる。しかも、供給用流路から空気が引き込まれることから、イオン交換器に導かれた冷媒が、イオン交換器から三方弁を介してラジエータ側へ至る経路に導かれやすくなる。したがって、イオン交換器を流通する冷媒の量を増加させることができる。
【0021】
[適用例10]前記注入口は、該注入口の内側に、該注入口から注入される冷媒の流れ方向に交わる方向の流れ幅を狭める方向に突出した突起部を備えた適用例9記載の燃料電池システム。
【0022】
かかる構成の燃料電池システムは、突起部により、注入する冷媒の流れ幅を狭めることができるので、注入した冷媒の流速を高めることができる。その結果、ベルヌーイ効果及びエゼクタ効果によって、適用例9の効果を高めることができる。
【0023】
[適用例11]適用例4ないし適用例10のいずれか記載の燃料電池システムであって、前記排出流路は、前記コアバイパス流路における該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部と、前記燃料電池との間に、非電気的に動作する構造によって、前記ラジエータ側から前記燃料電池側に向かう方向への前記冷媒の流通を防ぎ、または、該冷媒の流通を遮断する逆流防止部を備えた燃料電池システム。
【0024】
かかる構成の燃料電池システムにおいて、逆流防止部は、非電気的に動作する構造により、ラジエータ側から燃料電池側への冷媒の流通を防ぎ、または、冷媒の流通を遮断することができるので、冷却系への冷媒の充填作業時においても、動作することができる。したがって、冷媒充填作業時において、冷媒が、コアバイパス流路を経由しない経路、つまりイオン交換器を経由しない経路で排出用流路から燃料電池に流入することを防止する。したがって、コアを流通し、さらにイオン交換器を流通して充填される冷媒の量を増加させることができる。
【0025】
[適用例12]前記イオン交換器は、前記コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から該イオン交換器までの経路上の距離が、該接続点から該イオン交換器までの経路上の距離よりも短くなる位置に設けられた適用例4ないし適用例11のいずれか記載の燃料電池システム。
【0026】
かかる構成の燃料電池システムは、コアバイパス流路と供給流路との接続点と反対側の端部からイオン交換器までの経路上の距離が短くなるので、コアを流通した冷媒をイオン交換器により導きやすくすることができる。
【0027】
[適用例13]適用例1ないし適用例3のいずれか記載の燃料電池システムであって、前記イオン交換器は、前記排出流路上に設けられ、更に、前記排出流路に並列的に接続され、前記燃料電池側から前記ラジエータ側に流通する冷媒を、前記イオン交換器をバイパスした経路で該ラジエータに導くラジエータバイパス流路を備えた燃料電池システム。
【0028】
かかる構成の燃料電池システムにおいて、冷媒の循環経路は、イオン交換器を流通する経路と、イオン交換器をバイパスする経路とで構成される。したがって、冷媒中のイオン濃度に応じて冷媒の循環経路を切り替える構成とすれば、イオン交換器を長寿命化することができる。また、イオン交換が不要な際には、イオン交換器に相当する圧損をなくすことができる。また、燃料電池システムの運転温度に応じて冷媒の流通経路を切り替える構成とすれば、イオン交換器の耐熱性の範囲内で、冷媒中のイオン除去を行うことができる。
【0029】
また、本発明は、燃料電池システムとしての構成のほか、適用例14のラジエータ、適用例15の冷媒充填方法としても実現することができる。
[適用例14]燃料電池を液体状の冷媒により冷却するラジエータであって、前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクとを備え、前記第1のタンクは、前記冷媒を前記ラジエータに注入するための注入口と、前記コアを流通した冷媒を前記燃料電池に導く供給流路に接続する開口部である供給用開口部とを備え、前記第2のタンクは、前記冷媒を前記燃料電池から前記ラジエータに導く排出流路に接続する開口部である排出用開口部と、前記コアをバイパスした経路で、前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器を介して前記供給流路に接続され、前記燃料電池側から流通する冷媒を再度、該燃料電池に導くバイパス流路に接続する開口部であるバイパス用開口部を備え、前記供給用開口部と前記排出用開口部とは、重力方向において、前記注入口と前記バイパス用開口部との間に配置されたラジエータ。
【0030】
[適用例15]燃料電池と、該燃料電池を液体状の冷媒により冷却する冷却系とを備えた燃料電池システムにおいて、前記冷却系に前記冷媒を充填する冷媒充填方法であって、前記冷却系は、前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、該冷媒を前記冷却系の系外から注入する注入口とを備えたラジエータと、前記燃料電池と前記ラジエータとの間で、前記冷媒を循環させる冷媒流路と、前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器とを備え、前記注入口から前記冷媒を注入し、前記注入した冷媒の少なくとも一部を、前記コア、前記イオン交換器の順に流通させてから、前記冷媒を前記冷却系に充填する冷媒充填方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池システム20の構成を示すブロック図である。
【図2】ラジエータ50の構成を説明するための斜視図である。
【図3】燃料電池スタック30及び冷却系機器40を構成する機器の重力方向における位置関係を示す説明図である。
【図4】バイパス流路46におけるイオン交換器47の位置関係を示す説明図である。
【図5】三方弁42の初期状態の開閉状態を例示する説明図である。
【図6】図2に示したラジエータ50のA−A断面の一部を示す断面図である。
【図7】ラジエータ50への冷媒の充填時の冷媒の水面レベルWLを示す説明図である。
【図8】本発明の第2実施例としての燃料電池システム120の構成を示すブロック図である。
【図9】第2実施例としてのラジエータ150の構成を説明するための斜視図である。
【図10】第2実施例としての燃料電池スタック30及び冷却系機器40を構成する機器の重力方向における位置関係を示す説明図である。
【図11】第3実施例としての燃料電池システム220の構成を示すブロック図である。
【図12】第4実施例としての燃料電池システム320の構成を示すブロック図である。
【図13】変形例としてのラジエータ450の構成を示す説明図である。
【図14】図11に示したラジエータ450のB−B断面の一部を示す断面図である。
【図15】従来例としての燃料電池冷却システムの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池システム20の概略構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム20の構成を示すブロック図である。本実施例の燃料電池システム20は、車両に動力源として搭載するものであり、図示するように、燃料電池スタック30と、冷却系機器40と、燃料ガス系機器70と、酸化ガス系機器80と、制御ユニット90とを備えている。ただし、燃料電池システム20の用途は特に限定するものではなく、種々の移動体に搭載するものや、工場や家屋での電源として固定設置されるものであってもよい。
【0033】
燃料電池スタック30は、本実施例においては、固体高分子型の燃料電池であり、発電体としての単セルを複数積層し、その積層方向の両脇に、出力端子を備える集電板(ターミナル)、絶縁板(インシュレータ)、エンドプレートを順次配置することによって形成される。ただし、燃料電池の形式は、固体高分子型に限らず、リン酸型燃料電池など種々の形式とすることができる。
【0034】
冷却系機器40は、燃料電池スタック30との間で冷媒を循環させ、燃料電池スタック30の運転温度を調節する。本実施例においては、冷媒として水を用いたが、冷媒は液体状のものであればよく、例えば、エチレングリコールなどを添加した不凍液などであってもよい。図1に示すように、冷却系機器40は、ラジエータ50、供給流路41、三方弁42、冷媒循環ポンプ44、排出流路45を備えている。ラジエータ50は、冷媒と空気との間で熱交換して、冷媒の温度を低下させる。供給流路41は、ラジエータ50と燃料電池スタック30との間を接続しており、その間には、三方弁42と冷媒循環ポンプ44とが介装されている。排出流路45は、燃料電池スタック30とラジエータ50との間を接続している。
【0035】
冷媒循環ポンプ44を駆動させると、ラジエータ50で熱交換された冷媒が供給流路41を流通し、三方弁42及び冷媒循環ポンプ44を介して、燃料電池スタック30に供給される。燃料電池スタック30に供給された冷媒は、燃料電池スタック30の内部に形成された冷媒供給マニホールド31、冷媒流路32、冷媒排出マニホールド33を流通し、燃料電池スタック30の熱を吸収して、排出流路45に排出される。
【0036】
また、冷却系機器40は、バイパス流路46とイオン交換器47とを備えている。バイパス流路46は、ラジエータ50と三方弁42との間を接続しており、その間にはイオン交換器47が介装されている。ラジエータ50とバイパス流路46とは、排出流路45によって燃料電池スタック30からラジエータ50に導かれる冷媒を、ラジエータ50で熱交換を行わないで三方弁42に導くことができる経路で接続されている(詳細は後述)。イオン交換器47は、ラジエータ50や供給流路41,排出流路45等の配管などから冷媒中に溶出した不純物イオンを除去して、冷媒の導電率を所定以下に抑制するために設けられる。
【0037】
かかる冷却系機器40において、三方弁42は、通常、冷媒が供給流路41のみを流通するように、逆に言えば、供給流路41とバイパス流路46との間が閉じられるように制御される。供給流路41とバイパス流路46との間が開かれ、冷却系機器40を循環する冷媒の全部または一部がイオン交換器47を介して循環するのは、主に、燃料電池システム20の発電運転の立ち上げ時や立ち下げ時である。このような制御としているのは、一般的にイオン交換器47は耐熱性が低いため、燃料電池スタック30の温度が所定値以下に低い場合にのみ、イオン交換器47に冷媒を流通させるためである。
【0038】
ただし、耐熱性が高いイオン交換器47を用いることができれば、予め定められた期間の経過ごとや、冷却系機器40の経路内に設けた導電率計で検出された冷媒の導電率が予め定められた閾値よりも高くなったときなどに、イオン交換器47に冷媒を流通させてもよい。冷媒の循環経路を上述のような構成にすることにより、冷媒がコア60及びイオン交換器47の両方を流通することがないので、冷媒流通における圧損を抑制することができる。また、限られた期間にのみ、冷媒をイオン交換器47に流通させるので、イオン交換器47を長寿命化することができる。
【0039】
燃料ガス系機器70は、水素タンク、水素遮断弁、インジェクタ、水素流路等を備えており(図示せず)、水素タンクに貯留された燃料ガスとしての水素を燃料電池スタック30に供給する。なお、燃料電池スタック30の電気化学反応に供された排ガスは、循環利用してもよいし、連続的または間欠的に系外に排出してもよい。酸化ガス系機器80は、コンプレッサ、空気流路等を備えており(図示せず)、コンプレッサによって外部から取り込んだ空気を酸化ガスとして燃料電池スタック30に供給し、燃料電池スタック30の電気化学反応に供した後、系外に排出する。
【0040】
上述の各構成機器は、制御ユニット90により制御される。制御ユニット90は、内部にCPU、RAM、ROM等を備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することで、出力要求91と燃料電池システム20の各種センサ、例えば、温度センサや電圧センサなどからの信号を受けて、水素遮断弁、インジェクタ、コンプレッサ、冷媒循環ポンプ44等の各種アクチュエータに駆動信号を出力し、燃料電池システム20の運転全般を制御する。
【0041】
A−2.冷却系機器40の詳細構成:
上述した燃料電池システム20を構成する冷却系機器40の詳細構成について説明する。図2は、ラジエータ50の構成を説明するための斜視図である。図示するように、ラジエータ50は、コア60と、重力方向と交わる方向においてコア60の両脇に配置された第1のタンク51及び第2のタンク52とを備えている。
【0042】
第1のタンク51は、系外から冷却系機器40に冷媒を充填するための開口部である注入口53と、供給流路41と接続するための開口部である供給用開口部54とを備えている。本実施例の注入口53は、第1のタンク51の重力方向と反対方向(Z方向)の端面(上面)に突出して設けられており、その突出部の内部にZ方向に沿って貫通孔が形成されている。通常は、注入口53の開口部は、脱着可能なキャップにより封止されている。注入口53がこのような位置に設けられているのは、注入口53からの冷媒の注入作業の便を考慮したものであり、必ずしも、注入口53を第1のタンク51の上面に配置しなくてもよい。例えば、第1のタンク51の側面であって、供給用開口部54よりも重力方向において高い位置に開口部がZ方向となるように設けてもよいし、配置上の制約がなければ、注入口53は、供給用開口部54よりも低い位置に設けてもよい。本実施例の供給用開口部54は、第1のタンク51の側面がY方向に円筒状に突出し、その内部にY方向に沿って貫通孔が形成されている。かかる円筒形状が供給流路41と嵌合することで、供給用開口部54と供給流路41とが接続される。
【0043】
第2のタンクは、排出流路45と接続するための排出用開口部55と、バイパス流路46と接続するためのバイパス用開口部56とを備えている。本実施例の排出用開口部55及びバイパス用開口部56は、第2のタンク52の側面がY方向に円筒状に突出し、その内部にY方向に沿って貫通孔が形成されている。かかる円筒形状が排出流路45、バイパス流路46と勘合することで、排出用開口部55と排出流路45、バイパス用開口部56とバイパス流路46とがそれぞれ接続される。バイパス用開口部56は、重力方向において排出用開口部55よりも低い位置に設けられている。また、供給用開口部54及び排出用開口部55は、重力方向において、注入口53とバイパス用開口部56との間に設けられている。つまり、重力方向において、バイパス用開口部56は、供給用開口部54及び排出用開口部55よりも低い位置に設けられている。
【0044】
コア60は、冷媒と空気との間で熱交換を行う部位である。具体的には、コア60は、チューブ61と放熱フィン62とを備えている。チューブ61は、第1のタンク51と第2のタンク52とを結ぶ方向(X方向)に沿った略長方形の断面形状を有しており、重力方向に沿って複数設けられている。各々のチューブ61の−X方向の端部は、第1のタンク51と接続され、X方向の端部は、第2のタンク52と接続されている。隣り合うチューブ61の間には、略波上の放熱フィン62が接合されている。チューブ61と放熱フィン62との間には、Y方向に貫通する複数の隙間63が形成されている。
【0045】
かかる構成のラジエータ50において、燃料電池スタック30で熱を吸収し、排出流路45及び排出用開口部55を介して第2のタンク52に流入した冷媒は、チューブ61を−X方向に流通する。ここで、隙間63には、外気、例えば、燃料電池システム20を搭載する車両の車速風や冷却ファンの駆動により生じた冷却風がY方向に流れる。このとき、冷媒は、チューブ61及び放熱フィン62を介して、隙間63を流れる外気と熱交換を行い、冷却される。このようにして冷却された冷媒は、第1のタンク51に導かれ、供給用開口部54及び供給流路41を介して、燃料電池スタック30に流入し、再度、燃料電池スタック30から熱を吸収する。
【0046】
図3は、燃料電池スタック30及び冷却系機器40を構成する機器の重力方向における位置関係を示す説明図である。図3においては、冷媒循環ポンプ44は、図示を省略している。冷却系機器40では、図示するとおり、重力方向において、イオン交換器47が燃料電池スタック30よりも低い位置に配置されている。また、バイパス流路46のうちの、ラジエータ50とイオン交換器47とを接続する経路をバイパス流路46a、イオン交換器47と三方弁42とを接続する経路をバイパス流路46bと呼ぶこととすると、バイパス流路46aは、燃料電池スタック30よりも低い位置に配置されており、さらに、下り勾配で形成されている。また、バイパス流路46aは、重力方向において、排出流路45よりも低い位置に配置されている。なお、図中の矢印は、冷却系機器40の動作時の冷媒の流れを示している。
【0047】
図4は、バイパス流路46におけるイオン交換器47の位置関係を示す説明図である。図示するように、バイパス流路46の経路上において、イオン交換器47は、ラジエータ50のバイパス用開口部56とイオン交換器47との距離(バイパス流路46aの距離)が、イオン交換器47と三方弁42との距離(バイパス流路46bの距離)よりも短くなる位置に配置されている。
【0048】
図5は、三方弁42の初期状態における開閉状態を例示している。ここでの初期状態とは、冷却系機器40を製造段階において組み立てた後、未だ冷却系機器40を運転していない状態をいう。図5では、三方弁42として、ボール型を採用した場合の例を示しているが、三方弁42の形式は特に限定するものではなく、例えば、ダイヤフラム式などを採用してもよい。図示するように、三方弁42の初期状態は、イオン交換器47に連通するバイパス流路46bと、ラジエータ50に連通する側の供給流路41との開閉状態が開になっている。図中では、バイパス流路46bと、燃料電池スタック30側に連通する供給流路41との開閉状態は開になっているが、当該開閉状態は、開閉のいずれかを問わない。
【0049】
図6は、図2に示したラジエータ50のA−A断面の一部を示している。図中では、冷却系機器40の製造・組み立て段階において、冷却系機器40に冷媒を充填するための冷媒充填装置59を注入口53に接続した様子を示している。図示するように、注入口53の内側には、注入口53の側面に沿って第1のタンク51の内側に向かう方向に突出した突起部57が形成されている。本実施例では、突起部57は、注入口53から第1のタンク51の方向(−Z方向)に向かうほど、突起部57の内側の開口面積が小さくなるように、テーパ形状に形成されている。ただし、突起部57は、このようなテーパ形状を有していなくてもよく、冷媒充填装置59によって、注入口53から注入される冷媒の流れ幅(流れ方向に交わる方向の幅)を狭める方向に突出した形状であればよい。テーパ形状としているのは、より効果的に冷媒の流れ幅を狭めるためである。図中では、注入口53から注入された冷媒REの流れ幅が突起部57によって狭められている様子を示している。なお、突起部57は、図示するように、注入口53の−Z方向側の開口部に設ける構成に限らず、注入口53の内径に設けてもよい。
【0050】
A−3.効果:
上述した燃料電池システム20の効果について説明する。以下に説明する本実施例の効果は、上述した燃料電池システム20の構成に起因して、燃料電池システム20の製造・組み立て段階における、冷却系機器40への冷媒の充填時に得られる効果である。冷媒の充填は、冷却系機器40の冷媒の経路内を減圧してから行ってもよいし、減圧を行わないで、冷媒を加圧して注入してもよい。図7は、ラジエータ50の注入口53から冷媒を注入し、冷却系機器40に冷媒を充填している際の、ラジエータ50における冷媒の水面レベルWLを示している。図中のX,Y,Z方向は、図2に示した方向に対応している。
【0051】
注入口53から冷媒の注入を開始すると、第1のタンク51に冷媒が溜まり始める。そして、注入した冷媒が、次第にコア60のチューブ61を流通して、第2のタンク52に溜まり始める。ここで、ラジエータ50は、重力方向において、注入口53とバイパス用開口部56との間に、供給用開口部54及び排出用開口部55を備えているので、換言すれば、バイパス用開口部56は、供給用開口部54及び排出用開口部55よりも低い位置に設けられているので、注入口53から注入された冷媒は、供給用開口部54や排出用開口部55に流入するよりも、コア60を流通してバイパス用開口部56へ流入しやすくなる。このため、冷媒注入時の水面レベルWLは、図示するように、第1のタンク51側の水面が、第2のタンク52側の水面よりも高くなっている。このように、注入口53から注入した冷媒は、コア60を流通した後、バイパス用開口部56に流入しやすくなるので、コア60を流通した冷媒が、バイパス用開口部56、バイパス流路46を介してイオン交換器47に流通しやすくなる。したがって、燃料電池システム20の運転動作を初めて開始する前に(冷媒の充填時に)、コア60にから冷媒中にイオンを初期溶出させ、その溶出したイオンをイオン交換器47で除去することができる。その結果、燃料電池システム20の初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。しかも、燃料電池システム20の製造工程において必ず必要となる冷媒の充填工程によって冷媒の導電率の上昇を抑制することができるので、効率的である。なお、バイパス用開口部56の位置が、重力方向において低いほど望ましいことは勿論である。
【0052】
また、燃料電池システム20は、図3に示したように、バイパス用開口部56とイオン交換器47との間のバイパス流路46aが下り勾配となっているので、コア60を流通した冷媒を、バイパス流路46aを介してイオン交換器47により導きやすくなる。また、重力方向において、イオン交換器47が燃料電池スタック30よりも低い位置に配置されているので、注入された冷媒を、燃料電池スタック30側よりもイオン交換器47側に導きやすくなる。その結果、コア60を流通してイオン交換器47に導かれる冷媒の量を増加させることができる。
【0053】
また、燃料電池システム20は、図4に示したように、バイパス流路46の経路上において、イオン交換器47は、ラジエータ50のバイパス用開口部56とイオン交換器47との距離が、イオン交換器47と三方弁42との距離よりも短くなる位置に配置されている。したがって、コア60を流通した冷媒をイオン交換器47により導きやすくすることができる。
【0054】
また、燃料電池システム20では、図5に示したように、三方弁42は、初期状態において、イオン交換器47に連通するバイパス流路46bと、ラジエータ50に連通する側の供給流路41との開閉状態が開になっている。かかる状態で注入口53から冷媒を注入すれば、経路内を真空にしてから冷媒を注入する場合を除き、図6の矢印方向に示すように、ベルヌーイ効果及びエゼクタ効果によって、供給流路41側から供給用開口部54を介して第1のタンク51の−Z方向に空気が引き込まれるので、注入された冷媒が供給用開口部54から供給流路41側に流入しにくくなる。したがって、冷媒をイオン交換器47により導きやすくすることができる。しかも、供給流路41から空気が引き込まれることから、イオン交換器47に導かれた冷媒は、イオン交換器47から三方弁42を介してラジエータ50側へ至る経路に導かれやすくなる。したがって、コア60を流通してイオン交換器47に導かれる冷媒の量を増加させることができる。
【0055】
さらに、燃料電池システム20では、図6に示したように、注入口53の内部に、注入口53から注入される冷媒の流れ幅を狭める方向に突出した突起部57を備えている。したがって、注入された冷媒の流れ幅を狭めて、第1のタンク51に流入する冷媒の流速を高めることができる。この結果、ベルヌーイ効果及びエゼクタ効果によって、冷媒をイオン交換器47にさらに導きやすくすることができる。
【0056】
このように、ラジエータ50、供給流路41、排出流路45、イオン交換器47及び燃料電池スタック30を、注入口53からから注入され、冷却系機器40に充填される冷媒の少なくとも一部が、コア60を流通した後に、イオン交換器47を流通して、冷却系機器40に充填される位置関係で配置することにより、燃料電池システム20の運転動作を初めて開始する前に(冷媒の充填時に)、コア60から冷媒中にイオンを初期溶出させ、その溶出したイオンをイオン交換器47で除去することができる。その結果、燃料電池システム20の初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することができるのである。上述した実施形態は、燃料電池スタック30とラジエータ50との距離が短い場合、例えば、燃料電池スタック30とラジエータ50とをエンジンルーム(車両前方のボンネット下部に設けられた空間)に搭載する場合には、冷媒の絶縁抵抗を十分に確保できない場合があるので、特に有効である。
【0057】
コア60、イオン交換器47の順の経路で充填される冷媒の量は、冷媒の全体量の一部でよいが、効果的に冷媒の導電率の上昇を抑制するためには、全体量の20〜30%以上とすることが望ましい。燃料電池システム20の初期運転時の冷媒の導電率の上昇を抑制できれば、その後冷媒中に溶出するイオンは、燃料電池システム20の起動時に、イオン交換器47を介して冷媒を循環させる運転を行うことにより、所定値以下に除去することができる。
【0058】
B.第2実施例
本発明の第2実施例としての燃料電池システム120について説明する。燃料電池システム120の概略構成を図8に示す。第2実施例としての燃料電池システム120は、ラジエータの構成と、ラジエータ、排出流路及びバイパス流路の接続関係とが第1実施例と異なる。以下の説明においては、第1実施例と異なる点についてのみ説明し、第1実施例と同様の構成については、第1実施例と同一の符号を図中に付して、説明を省略する。図8に示すように、燃料電池システム120においては、ラジエータ150は、供給流路41と排出流路145とに接続され、バイパス流路146とは接続関係を有していない。バイパス流路146は、排出流路145の途中で分岐し、イオン交換器47を介して三方弁42に接続される。
【0059】
ラジエータ150の構成を図9に示す。図示するように、第2のタンク152は、上述した燃料電池システム120における接続関係に起因して、排出用開口部155のみを備えている。つまり、第1実施例(図2)に示した供給用開口部54を備えていない。ここで、排出用開口部155は、供給用開口部54よりも重力方向において低い位置に設けられている。
【0060】
燃料電池システム120における、燃料電池スタック30及び冷却系機器40を構成する機器の重力方向における位置関係を図10に示す。バイパス流路146のうちの、排出流路145との分岐点とイオン交換器47とを接続する経路をバイパス流路146a、イオン交換器47と三方弁42とを接続する経路をバイパス流路146bと呼ぶこととすると、図示するように、バイパス流路146aは、下り勾配で形成されている。
【0061】
かかる構成の燃料電池システム120は、排出用開口部155が供給用開口部54よりも重力方向において低い位置にあるので、注入口53から注入され、第1のタンク51に溜まり始めた冷媒は、供給用開口部54に流入するよりも、コア60を流通して排出用開口部155に流入しやすくなる。ここで、排出用開口部155は、排出流路145と連通しているが、排出流路145は、燃料電池スタック30に至る経路の途中で分岐してバイパス流路146と接続される。したがって、注入され、コア60を流通した冷媒をイオン交換器47に導きやすくなり、燃料電池システム20の運転動作を初めて開始する前に(冷媒の充填時に)、コア60にから冷媒中にイオンを初期溶出させ、その溶出したイオンをイオン交換器47で除去することができる。その結果、燃料電池システム20の初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。
【0062】
また、排出流路145から分岐するバイパス流路146aは、下り勾配で形成されているので、注入口53から注入され、コア60を流通して排出用開口部155へ流入した冷媒を、燃料電池スタック30よりもイオン交換器47に導くやすくなる。なお、説明は省略するが、第1実施例と同様の構成については、第1実施例と同様の効果を奏することは勿論である。
【0063】
C.第3実施例:
本発明の第3実施例としての燃料電池システム220について説明する。燃料電池システム220の概略構成を図11に示す。第3実施例としての燃料電池システム220は、ラジエータ、排出流路及びバイパス流路の接続関係とが第1実施例と異なる。以下の説明においては、第1実施例と異なる点についてのみ説明し、第1実施例と同様の構成については、第1実施例と同一の符号を図中に付して、説明を省略する。図11に示すように、燃料電池システム220においては、燃料電池スタック30に接続された排出流路245は、三方弁248を介して、排出流路245aと排出流路245bとに分岐している。排出流路245aは、その経路上にイオン交換器247を備えており、ラジエータ50のバイパス用開口部56(図2参照)に接続される。排出流路245bは、ラジエータ50の排出用開口部55(図2参照)に接続される。
【0064】
かかる燃料電池システム220は、通常、イオン交換器247をバイパスした排出流路245bによって、冷媒を循環させるが、燃料電池システム220の立ち上げ運転時などには、イオン交換器247を介した排出流路245aによって、冷媒を循環させる。なお、排出流路245bは必須ではなく、イオン交換器247の耐熱性を確保できる場合や、圧損を抑制できる場合などでは、省略してもよい。
【0065】
図示は省略するが、ラジエータ50とイオン交換器247との間の排出流路245aと、イオン交換器247とは、燃料電池スタック30よりも重力方向において低い位置に配置されている。また、ラジエータ50とイオン交換器247との間の排出流路245aは、下り勾配で形成されている。かかる構成の燃料電池システム220は、第1実施例と同様に、注入し、コア60を流通した冷媒をバイパス用開口部56に導きやすく、また、上述した排出流路245a、イオン交換器247、燃料電池スタック30の位置関係などにより、当該冷媒をイオン交換器247に導きやすい。したがって、燃料電池システム220の初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。
【0066】
D.第4実施例:
本発明の第4実施例としての燃料電池システム320について説明する。燃料電池システム320の概略構成を図12に示す。第4実施例としての燃料電池システム320は、ラジエータ、排出流路及びバイパス流路の接続関係とが第2実施例と異なる。以下の説明においては、第2実施例と異なる点についてのみ説明し、第2実施例と同様の構成については、第2実施例と同一の符号を図中に付して、説明を省略する。図12に示すように、燃料電池システム320においては、燃料電池スタック30に接続された排出流路345は、三方弁348を介して、排出流路345aと排出流路345bとに分岐している。排出流路345bは、三方弁349を介して、ラジエータ150の排出用開口部155(図9参照)に接続される。排出流路345aは、その経路上にイオン交換器347を備えており、三方弁349に接続される。
【0067】
かかる燃料電池システム320は、通常、イオン交換器347をバイパスした排出流路345bによって、冷媒を循環させるが、燃料電池システム220の立ち上げ運転時などには、イオン交換器347を介した排出流路345aによって、冷媒を循環させる。なお、排出流路345bは必須ではなく、イオン交換器347の耐熱性を確保できる場合や、圧損を抑制できる場合などでは、省略してもよい。
【0068】
図示は省略するが、三方弁349とイオン交換器347との間の排出流路345aと、イオン交換器347とは、燃料電池スタック30よりも重力方向において低い位置に配置されている。また、ラジエータ150とイオン交換器347との間の排出流路345aは、下り勾配で形成されている。かかる構成の燃料電池システム320は、第2実施例と同様に、注入し、コア60を流通した冷媒を排出用開口部155に導きやすく、また、上述した排出流路345a、イオン交換器347、燃料電池スタック30の位置関係などにより、当該冷媒をイオン交換器347に導きやすい。したがって、燃料電池システム320の初期使用時における冷媒の導電率の上昇を抑制することができる。
【0069】
E.変形例:
上述の実施例の変形例について説明する。
E−1.変形例1:
上述の実施形態においては、燃料電池システム20を構成するラジエータ50は、重力方向と交わる方向に冷媒が流れる、いわゆるサイドフロー方式の構成について示したが、このような構成に限られるものではない。例えば、ラジエータは、重力方向に冷媒が流れる、いわゆるダウンフロー方式としてもよい。
【0070】
ダウンフロー方式としてのラジエータの具体例をラジエータ450として図13に示す。図示するように、ラジエータ450は、コア460と、重力方向においてコア460の両脇に配置された第1のタンク451及び第2のタンク452とを備えている。第1のタンク451は、その上面に注入口453を備え、その側面に供給用開口部454を備えている。第2のタンク452は、その側面に排出用開口部455とバイパス用開口部456とを備えている。コア460は、第1のタンク451と第2のタンク452とを接続する複数のチューブ461と、隣り合うチューブ461間に配置された放熱フィン462とを備えている。
【0071】
これらの構成については、第1実施例と同様であるため、詳しい説明は省略するが、注入口453、供給用開口部454、排出用開口部455及びバイパス用開口部456の位置関係は、第1実施例と同様となっている。このような構成とすれば、ラジエータ内の冷媒の流れ方向に限らず、第1実施例と同様の効果を奏する。第2ないし第4実施例においても、同様に、ダウンフロー方式を採用できることは勿論である。
【0072】
また、図13に示したラジエータ450のB−B断面を図14に示す。このようにダウンフロー方式のラジエータ450においても、注入口453の内側に突起部457を設ければ、上述の実施形態と同様に、注入された冷媒の流れ幅を狭めて、コア460に流入する冷媒の流速を高めることができ、冷媒をイオン交換器47にさらに導きやすくすることができる。
【0073】
E−2.変形例2:
第1実施例の構成に加えて、非電気的に動作する構造によって、冷媒がラジエータ50側から燃料電池スタック30側へ流れることを防止する、または、冷媒の流通自体を遮断する手段を排出流路45に設けてもよい。かかる手段としては、例えば、逆止弁やピンチなどを用いることができる。冷媒がラジエータ50側から燃料電池スタック30側へ流れない方向に、排出流路45に逆止弁を介装すれば、注入口53から注入された冷媒が、排出流路145から燃料電池スタック30に流入しないので、コア60を流通した後、イオン交換器47を流通して、冷却系機器40に充填される冷媒の量を増加させることができる。
【0074】
また、排出流路45にピンチを介装し、冷媒の充填作業時に当該ピンチを閉めれば、同様の効果が得られる。なお、非電気的に動作する構造を採用するのは、燃料電池システム20を組み立てて、初めて運転を開始する前に、冷媒を冷却系機器40に充填するためである。第2実施例の構成に加えて、排出流路145とバイパス流路146との分岐点と、燃料電池スタック30との間の排出流路145に逆止弁等を介装する場合、第3実施例の構成に加えて、排出流路245bに逆止弁等を介装する場合、第4実施例の構成に加えて、三方弁348と三方弁349との間の排出流路345bに逆止弁等を介装する場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における本発明の構成要素のうち、独立クレームに記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。また、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、燃料電池システムとしての構成の他、ラジエータ、冷媒の注入方法としても実現することができる。
【符号の説明】
【0076】
20,120,220,320…燃料電池システム
30…燃料電池スタック
31…冷媒供給マニホールド
32…冷媒流路
33…冷媒排出マニホールド
40…冷却系機器
41…供給流路
42,248,348,349…三方弁
44…冷媒循環ポンプ
45,145,245,245a,245b,345,345a,345b…排出流路
46,46a,46b,146,146a,146b…バイパス流路
47,247,347…イオン交換器
50,150,450…ラジエータ
51,451…第1のタンク
52,152,452…第2のタンク
53,453…注入口
54,454…供給用開口部
55,155,455…排出用開口部
56,456…バイパス用開口部
57,457…突起部
59…冷媒充填装置
60,460…コア
61,461…チューブ
62,462…放熱フィン
63…隙間
70…燃料ガス系機器
80…酸化ガス系機器
90…制御ユニット
91…出力要求
RE…冷媒
WL…水面レベル
S1,S2…区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、該燃料電池を液体状の冷媒により冷却する冷却系とを備えた燃料電池システムであって、
前記冷却系は、
前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、該冷媒を前記冷却系の系外から注入するための注入口とを備えたラジエータと、
前記コアを流通した冷媒を前記ラジエータから前記燃料電池に導く供給流路と、
前記冷媒を前記燃料電池から前記ラジエータに導く排出流路と、
前記冷媒の流通経路上に設けられ、前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器と
を備え、
前記ラジエータ、前記供給流路、前記排出流路、前記イオン交換器及び前記燃料電池を、前記注入口から注入され前記冷却系に充填される前記冷媒の少なくとも一部が、前記コア、前記イオン交換器の順に流通してから、前記冷却系に充填される位置関係に配置した
燃料電池システム。
【請求項2】
前記ラジエータから前記イオン交換器に至る経路の少なくとも1つと、前記イオン交換器とは、前記燃料電池よりも重力方向において低い位置に配置された請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記ラジエータから前記イオン交換器に至る経路の少なくとも1つは、下り勾配で形成された請求項1または請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の燃料電池システムであって、
更に、前記供給流路に接続され、前記燃料電池側から前記ラジエータ側に流通する冷媒を、前記コアをバイパスした経路で該供給流路に導くコアバイパス流路を備え、
前記イオン交換器は、前記コアバイパス流路上に設けられた
燃料電池システム。
【請求項5】
前記コアバイパス流路のうちの、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から、前記イオン交換器に至る経路と、該イオン交換器とは、前記燃料電池よりも重力方向において低い位置に配置された請求項4記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記コアバイパス流路は、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から、前記イオン交換器に至る経路が、下り勾配で形成された請求項4または請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか記載の燃料電池システムであって、
前記ラジエータは、前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクとを備え、
前記第1のタンクは、前記注入口と、前記供給流路に接続する開口部である供給用開口部とを備え、
前記第2のタンクは、前記排出流路に接続する開口部である排出用開口部と、前記コアバイパス流路に接続する開口部であるバイパス用開口部とを備え、
前記供給用開口部と前記排出用開口部とは、重力方向において、前記注入口と前記バイパス用開口部との間に配置された
燃料電池システム。
【請求項8】
請求項4ないし請求項6のいずれか記載の燃料電池システムであって、
前記ラジエータは、前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクとを備え、
前記第1のタンクは、前記注入口と、前記供給流路に接続する開口部である供給用開口部とを備え、
前記第2のタンクは、前記排出流路に接続する開口部である排出用開口部を備え、
前記排出用開口部は、前記供給用開口部よりも重力方向において低い位置に設けられ、
前記コアバイパス流路は、該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部が前記排出流路に接続された
燃料電池システム。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載の燃料電池システムであって、
更に、前記供給流路と前記コアバイパス流路との接続点に設けられ、前記コアと前記イオン交換器とを流れる前記冷媒の流量を調節する三方弁を備え、
前記三方弁は、前記コアバイパス流路と、前記供給流路のうちの該三方弁よりも前記ラジエータ側の流路とを連通可能とする
燃料電池システム。
【請求項10】
前記注入口は、該注入口の内側に、該注入口から注入される冷媒の流れ方向に交わる方向の流れ幅を狭める方向に突出した突起部を備えた請求項9記載の燃料電池システム。
【請求項11】
請求項4ないし請求項10のいずれか記載の燃料電池システムであって、
前記排出流路は、前記コアバイパス流路における該コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部と、前記燃料電池との間に、非電気的に動作する構造によって、前記ラジエータ側から前記燃料電池側に向かう方向への前記冷媒の流通を防ぎ、または、該冷媒の流通を遮断する逆流防止部を備えた
燃料電池システム。
【請求項12】
前記イオン交換器は、前記コアバイパス流路と前記供給流路との接続点と反対側の端部から該イオン交換器までの経路上の距離が、該接続点から該イオン交換器までの経路上の距離よりも短くなる位置に設けられた請求項4ないし請求項11のいずれか記載の燃料電池システム。
【請求項13】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の燃料電池システムであって、
前記イオン交換器は、前記排出流路上に設けられ、
更に、前記排出流路に並列的に接続され、前記燃料電池側から前記ラジエータ側に流通する冷媒を、前記イオン交換器をバイパスした経路で該ラジエータに導くイオン交換バイパス流路を備えた
燃料電池システム。
【請求項14】
燃料電池を液体状の冷媒により冷却するラジエータであって、
前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、
前記コアの両脇に配置された、第1のタンクと第2のタンクと
を備え、
前記第1のタンクは、
前記冷媒を前記ラジエータに注入するための注入口と、
前記コアを流通した冷媒を前記燃料電池に導く供給流路に接続する開口部である供給用開口部と
を備え、
前記第2のタンクは、
前記冷媒を前記燃料電池から前記ラジエータに導く排出流路に接続する開口部である排出用開口部と、
前記コアをバイパスした経路で、前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器を介して前記供給流路に接続され、前記燃料電池側から流通する冷媒を再度、該供給流路に導くバイパス流路に接続する開口部であるバイパス用開口部と
を備え、
前記供給用開口部と前記排出用開口部とは、重力方向において、前記注入口と前記バイパス用開口部との間に配置された
ラジエータ。
【請求項15】
燃料電池と、該燃料電池を液体状の冷媒により冷却する冷却系とを備えた燃料電池システムにおいて、前記冷却系に前記冷媒を充填する冷媒充填方法であって、
前記冷却系は、
前記冷媒と熱交換を行って該冷媒を冷却するコアと、該冷媒を前記冷却系の系外から注入する注入口とを備えたラジエータと、
前記燃料電池と前記ラジエータとの間で、前記冷媒を循環させる冷媒流路と、
前記冷媒に含まれるイオンを除去するイオン交換器と
を備え、
前記注入口から前記冷媒を注入し、
前記注入した冷媒の少なくとも一部を、前記コア、前記イオン交換器の順に流通させてから、前記冷媒を前記冷却系に充填する
冷媒充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−100595(P2011−100595A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253697(P2009−253697)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】